プリキュアオールスターズif   作:鳳凰009

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第九十一話:バッドエンドプリキュアとプリキュア達(後編)

1、バッドエンドマーチVSカオルちゃん!?

 

 クローバータウンストリート・・・

 

 ラブ、祈里、せつなは、あゆみを招待し、カオルちゃんのドーナツ屋で、この前のお詫びを兼ねて、ドーナツを御馳走していた・・・

 

「あゆみちゃん、本当にあの時はゴメン!」

 

「美希ちゃんも気にしてたけど、今日はモデルの仕事が入っていて来られないから、改めてお詫びするって言ってたわ」

 

「さあ、遠慮しないで食べて!」

 

「そんな、気にしなくて良いのに・・・でも、折角何で頂きます!」

 

 あゆみはパクリとドーナツを頬張ると、美味しさで口元が自然と微笑んだ。あゆみは辺りを見渡すと、美希の他に、タルトとシフォンの姿も見当たらない事に気付き、

 

「タルトやシフォンも居ないんですか?」

 

「うん、一度戻って来たけど、二人共また妖精学校に行ってるよ!」

 

「そうそう、グレルとエンエンの二人も、勉強を頑張ってるって、タルトが言ってたわ」

 

「特にグレルさんは、依然と見違えたそうよ」

 

「そうですか、エンエンとグレルが・・・」

 

 ラブ、せつな、祈里から、エンエンとグレルの近況を聞いたあゆみは、思わず目を細めた。和やかに談笑する一同だったが、あゆみは、ずっと気になっていた事を、ラブ達に聞いてみようと思うと、

 

「あのぅ・・・みんなは妖精学校で私の事を覚えて居なかったのに、どうして魔王やピーちゃん、メップルとミップルは覚えて居てくれたんでしょうか?みゆきちゃん達に聞いてみたんですけど、みゆきちゃん達もよく分からないって言ってたから・・・」

 

「私達も気になって魔王に聞いて見たんだけど、魔王自身も分からないって言ってたよ」

 

「ほのかさんとゆりさんは、これは仮説だけど、魔王とピーちゃんは、嘗て強大な闇の力を以前持って居たから、あの魚さん達は近づけなかったんじゃないか?て事だけど・・・」

 

 あゆみの疑問に、ラブと祈里がほのかとゆりに聞いた事を教えると、あゆみは少し納得したものの、更に小首を傾げ、

 

「そう何ですか・・・でも、メップルとミップルは違いますよねぇ?」

 

 あゆみの更なる疑問に、今度は苦笑混じりにせつなが話し始め、

 

「メップルとミップルは・・・あゆみが来るまで、コミューン姿で寝てたからじゃないかって、なぎささんが言ってたわ」

 

「メップルが妖精姿になって直ぐに、魔王とピーちゃんがメップルとミップルの側に居たよね」

 

 少し疑問が解け、あゆみが笑みを浮かべたその時、一同の周囲を一瞬強風が吹き荒れ、一同の髪を激しく揺らした。

 

「何、今の!?凄い風だったねぇ?」

 

「本当!あゆみさん、大丈夫?」

 

 ラブは髪の毛を直しながら一同に語り掛け、祈里も同意しながらあゆみの身を案じた。あゆみはコクリと頷きながら、

 

「はい!私は・・・エッ!?」

 

 大丈夫ですと答えようとして、あゆみは思わず言葉に詰まった。あゆみの隣に居たせつなの表情も、見る見る険しくなり、二人の異変に気付いたラブと祈里も、ハッとして後ろを振り返ると、そこには腕組みしながら立って居るバッドエンドマーチの姿があった。

 

「「「「バッドエンドプリキュア!」」」」

 

「よぉ!挨拶に来てやったよ!!」

 

 口元をニヤリとさせたバッドエンドマーチが、右手をパチリと鳴らすと、再び周囲に強風が巻き起こった。一同は立ち上がると、あゆみを庇うようにラブ、祈里、せつなが、一歩前に出てリンクルンを手に持った。

 

「慌てるな!今日のあたしの相手は・・・キュアパッション、お前だ!!」

 

「私!?望む所よ!」

 

「せつな!」

 

「せつなちゃん!」

 

「せつなさん!」

 

 バッドエンドマーチが、パッションとの戦いを望んでいると知り、ラブと祈里、そしてあゆみは、心配そうにせつなに声を掛けた。せつなは不安そうな表情を浮かべる三人を見つめると、

 

「ラブ!ブッキー!大丈夫、ここは私に任せて!二人はあゆみをお願い!!」

 

 リンクルンを手に持ったせつなが、更に一歩前に出てバッドエンドマーチと睨み合った。

 

「チェインジ・プリキュア!ビートアップ!!真っ赤なハートは幸せの証!熟れたてフレッシュ、キュアパッション!!」

 

 せつなはパッションに変身し、再び睨み合うパッションとバッドエンドマーチだったが、

 

「フフフ、あたしが此処に来たのは、バッドエンドピースに頼まれてな!あんたの頭を叩いて来てだってさ!!」

 

「バッドエンドピース!?・・・ああ、あの子?」

 

 パッションは、困惑気味にバッドエンドピースの事を思いだした。七色ヶ丘中学校で、バッドエンドプリキュアとの対抗戦の中で、ブライトとウィンディと一緒に、バッドエンドピースの頭を叩いた事を・・・

 

 パッションは、苦笑混じりにバッドエンドマーチに話し掛け、

 

「へぇ、仲間思いなのね?」

 

「まさか!?あたしの本当の目的は・・・美味しいドーナツを食べる事さ!!」

 

「「「「エッ!?」」」」

 

 四人は思わず、一斉に後方にあるカオルちゃんのドーナツ屋を見た。バッドエンドマーチはニヤリとすると、

 

「あるんだろう?キュアパッション、お前をボコリ、美味しいドーナツを頂く!」

 

「そう簡単に出来るかしら?」

 

 パッションも口元に笑みを浮かべると、今正に両者が激突しようとしたその時、

 

「待て待て待て待て!全く、おじさんのドーナツは元気過ぎで困っちゃうよ・・・グハッ」

 

 パッションとバッドエンドマーチの間に、先程の強風で転がったドーナツを追いかけて来たカオルちゃんが割って入り、思わずパッションは、慌てて攻撃しようとするのを止めた。

 

「カオルちゃん!危ないからこっちに!!」

 

 ラブがカオルに声を掛け手招きするも、カオルは、拾ったドーナツの穴からバッドエンドマーチを覗くと、

 

「お嬢ちゃん、見掛けない顔だねぇ!?良かったら、ドーナツ食べて見る?」

 

「い、良いのぉぉ!?」

 

 カオルの思わぬ行動に、呆然としたバッドエンドマーチだったが、ドーナツを食べて見るかと薦められ、バッドエンドマーチの目がキラキラ輝いた。バッドエンドマーチは、まるで疾風のようにパッションやラブ達の横を駆け抜けた。

 

(速い!?)

 

 バッドエンドマーチが、カオルの店の前に移動すると、その速さに思わずパッションも唸り、ラブ、祈里、あゆみも、呆然としながら背後を振り返った。パッションに近付いたカオルは、

 

「戦うだけが全てじゃないでしょう?ただ買う事も時には必要・・・グハッ!」

 

「エッ!?」

 

 カオルの言葉の意味が分からず、パッションは呆然とするも、カオルはそのままバッドエンドマーチが待つ店へと戻った。出てくる涎を啜りながら、バッドエンドマーチは色々なドーナツの種類を見て目を輝かせ、

 

「オッ!?これも美味そう、あれも・・・アァァ、迷っちゃうなぁ?」

 

 そう言うと、クルリと振り返ったバッドエンドマーチは、ラブ達に話し掛け、

 

「なぁ、どれが美味しい?」

 

「エッ!?そりゃあ、どれも絶品だよ!」

 

「最初は、シンプルなノーマルタイプを食べて見たら?」

 

 困惑しながらも、ラブと祈里が答えると、バッドエンドマーチは腕組みしながらコクコク頷き、

 

「ノーマルタイプかぁ・・・そうだよなぁ、最初はそれが良いかなぁ?」

 

 腕組みしながらどのドーナツを選ぶか迷って居るバッドエンドマーチ、一人取り残されたパッションは、

 

(私がプリキュアに変身した意味って・・・一体!?)

 

 まるで戦いに来た事を忘れて、熱心にドーナツを見つめるバッドエンドマーチに、パッションは困惑した。呆然としているパッションを尻目に、バッドエンドマーチはどれにするか決めたようで、

 

「決めた!じゃあ、あんたが手に持ってるドーナツを・・・」

 

 カオルは了解したとばかり親指でバッドエンドマーチに合図を送り、グハッ!と笑みを浮かべた。

 

「はい、お嬢ちゃん!」

 

「ウワァァ!ありがとう!!」

 

(こうしてると、バッドエンドマーチって、なおちゃんソックリだわ)

 

 初めて直に持ったドーナツを見て、目をキラキラ輝かせて居るバッドエンドマーチの表情は、なおに似て居た。あゆみはなおを思い出し、思わずクスリと笑った。何時ものクールさも影を潜め、ドーナツを見て喜ぶ様は、年頃の中学生達と何ら変わらなかった。幸せそうに、満面の笑みを浮かべたバッドエンドマーチは、

 

「じゃあ、いただきま~~す!」

 

 バッドエンドマーチは、口を大きく開け、パクリとドーナツを食べた。何度も噛む内に口内にドーナツの甘みが広がり、

 

「う、美味い!これが・・・ドーナツ!!」

 

 もう一口、二口と食べると、そのまま一気にドーナツを平らげた。目をウルウルさせたバッドエンドマーチは、

 

「あんた、厳つい顔してるけど・・・良い腕してるよね?すっごく美味しかったよ!」

 

「いやぁ、おじさんダンディだし・・・グハッ!」

 

 再びドーナツを手に持ちながら、何時ものカオル節を発した。途方に暮れていたパッションは、

 

「あなた、私と戦いに来たんじゃなかったの?」

 

「エッ!?いやぁ、それは次いでで、本当の目当てはドーナツ食べる事だしさ!ねぇねぇ、みんなにお土産買って帰りたいから、お薦めのドーナツ10個ぐらい売ってよ!!」

 

「こんな美人に頼まれちゃ、おじさん張り切っちゃおうかな!」

 

 カオルが袋を取りだし、ドーナツを選んでいる間、バッドエンドマーチはパッションの方をクルリと向き、

 

「待たせたな!時間が無いんで、手っ取り早く済ませてやるよ!!」

 

「それはこちらの台詞!散々待たせてくれた分、利子を付けて返して・・・」

 

 再び二人が戦いそうな雰囲気を醸し出し、カオルのサングラスがキラリと輝くと、

 

「はいはい、お土産出来たよ!お嬢ちゃん、戦い何かより、おじさんがドーナツをドーナツて作ってるか・・・興味無い?」

 

「あるある!」

 

 まるでパッションに興味を無くしたかのように、カオルの発した言葉に興味を持ったバッドエンドマーチは、カオルの前に移動した。

 

「カオルちゃん!?もう・・・」

 

 戦おうとしていたパッションは、またしてもカオルに邪魔されて、少し膨れっ面を浮かべた。そんなパッションとカオルを見比べて、ラブ、祈里、あゆみは苦笑を浮かべた。

 

 カオルが披露するドーナツ製造方法を見て、感心したように呻くバッドエンドマーチは、

 

「その球体をあの機械に入れると・・・オォォォ!?本当にドーナツになった!!」

 

 ベルトコンベヤーから、次々転がるように出てくる大量のドーナツを見て、バッドエンドマーチは心の底から感心したように目をキラキラ輝かせた。そんなバッドエンドマーチを見たカオルは、徐にデジカメを取り出すと、

 

「じゃあ記念に、お嬢ちゃんを一枚撮って上げよう!」

 

「エェ!?あんまり写真って・・・」

 

 カメラを向けられ、少し動揺するバッドエンドマーチだったが、

 

「良いから、良いから、もうちょっと下がって!そうそう、そこで左手で拳を握って・・・じゃあ、撮るよ・・・ドーナツ!!」

 

 パシャリとシャッターを押し、ワゴン車に一先ず戻ったカオルは、数分して戻って来ると、

 

「ハイ、おまたせぇ!ドーナツに写真のお土産を付けといたから・・・グハッ!!」

 

「ありがとう・・・って、これは!?アハハハハ!あんた、面白いね?」

 

 カオルから、お土産用のドーナツと写真を受け取ったバッドエンドマーチは、思わず写真を見て笑い出した。気になったラブ、祈里、あゆみが、バッドエンドマーチに近づき、背後から覗いてみると、写真にはバッドエンドマーチとパッションが写っていたのだが、遠近法を上手く利用して、まるでバッドエンドマーチが、パッションの頭を叩いているようなポーズで写っていた。思わず目を点にした三人は、そのまま背後を振り向きパッションを見つめた。

 

「何、ラブ?」

 

 気になったパッションが、バッドエンドマーチに近付き写真を見ると、思わずパッションは目を点にし、

 

「な、何よ、この写真は!?」

 

 思わず動揺するパッションを見て、バッドエンドマーチは再び笑い出し、

 

「アハハハハ、何だかバカバカしくなってきた!お土産も買ったし、今日は帰るよ!!おじさん、ありがとね!!」

 

「また何時でもおいで・・・グハッ」

 

 カオルに手で合図を送り、バッドエンドマーチは帰って行った。パッションは慌ててバッドエンドマーチを呼び止め、

 

「アッ、待ちなさい!まだ勝負が・・・・・行っちゃったわ」

 

 自分は何の為に変身したのか、呆然とするパッションだったが、このままプリキュアで居る意味も無くなり、せつなの姿へと戻った。

 

「もう!カオルちゃんったら・・・」

 

 少し不機嫌そうにするせつなの耳に、聞き慣れた声が聞こえて来た。せつなが声の方を振り向くと、

 

「よう、兄弟!ドーナツを・・・ン!?イース達も居たのか?」

 

「ウエスター!?」

 

 現われたのはせつなの盟友ウエスターで、ドーナツが大好きなウエスターは、暇を見付けては、四つ葉町にあるカオルの店に買いに来ていた。

 

「どうした、イース!?何かイライラしているようだが・・・・・ああ、あの日か?」

 

 ウエスターの言葉を聞いた瞬間、せつなの目付きが変わり、ウエスターの顔面目掛けせつなの右ストレートが炸裂し、せつなの右拳がウエスターの顔面にめり込んだ。ウエスターは痛そうに顔を摩りながら、

 

「グゥゥゥ・・・イ、イース、いきなり何だ!?」

 

「誰があの日よ!?大体、何しに来たのよ?」

 

 ウエスターを見て居たせつなの表情が、どんどんイース時代の頃のように険しさを増していき、思わずウエスターはラブ達の方に逃げ、

 

「お、おい、イースの奴はどうしたんだ?」

 

「今のせつなに、変な事言わない方が良いよ!」

 

「かなり不機嫌みたいだから・・・」

 

「最悪なタイミングで来ちゃいましたね?」

 

 苦笑気味にラブ、祈里、あゆみがウエスターに助言を与えると、

 

「エェェ!?俺、関係無いだろう?」

 

「ウエスタ~~~~!!」

 

「ま、待て、イース!話せば・・・・・ギャァァァァ!!」

 

「待ちなさい!!」

 

 逃げるウエスターを追い回すせつな、ラブ、祈里、あゆみは、同じような表情で追いかけっこを続ける二人を見つめ、

 

「せつな・・・完全に八つ当たりだね?」

 

「そうみたい・・・」

 

「ですね?」

 

「あらあら、ドーナツてるんだろうね?・・・グハッ!」

 

 カオルに鬱憤を晴らす事は出来ず、せつなは、半ば八つ当たりでやって来たウエスターを追い回し続け、ラブ達は苦笑を浮かべながらその姿を見つめて居た・・・

 

 

 

2、バッドエンドビューティVSキュアサンシャイン

 

 希望ヶ花・・・

 

 バッドエンドビューティは、キュアムーンライトと戦うべく希望ヶ花へとやって来た。宙に浮かびながら、眼下に見える私立明堂学園を見て口元に笑みを浮かべると、百科事典のような分厚い本を取り出し中身を開くと、

 

「では、キュアムーンライトを誘き出すとしましょう・・・世界よ!最悪の結末、バッドエンドに染まれ!白紙の未来を、黒く塗りつぶしなさい!!」

 

 バッドエンドビューティは、黒い絵の具を本に叩き付けると、明堂学園周辺の空が紺色に染まり、辺りに冷気が漂った。バッドエンドビューティの下へ、明堂学園関係者達から発せられたバッドエナジーが集まり、ピエーロ完全復活の目盛りが上がった。

 

「さあ、出て来なさい!キュアムーンライト!!」

 

 バッドエンドビューティは知らなかった・・・

 

 すでにゆりが、明堂学園高等部を卒業していた事を・・・

 

 

 ネガティブな言葉を発する明堂学園関係者達の側を、制服のスカートを靡かせながら、三つの人影が駆け抜けて行く。その姿は、えりか、つぼみ、いつきの三人と、シプレ、コフレ、ポプリの妖精達だった。

 

「つぼみ、いつき、これって!?」

 

「はい、あの時と同じですね・・・と言う事は!」

 

「うん、バッドエンド王国の誰かが、僕達の学校に現われたと考えられるね!」

 

 校庭に出た三人は、宙に浮かびながら、こちらに鋭い視線を送るバッドエンドビューティを見付けた。バッドエンドビューティは、ゆっくり三人の前に降りてくると、

 

「あなた達か・・・キュアムーンライトは何所?」

 

「ハァ!?ゆりさんが此処に居る筈無いっしょ?」

 

「ゆりさんは、三月で学園を卒業しています」

 

「ゆりさんに何の用!?それより、みんなを元に戻して!」

 

 えりか、つぼみ、いつきに、ゆりは春に学園を卒業して居て、この学園に居ない事を聞き、バッドエンドビューティは拍子抜けした表情を浮かべ、

 

「そう・・・キュアムーンライトと戦おうと、わざわざ出向いて来たけれど、飛んだ無駄足だったようね?」

 

「だったら、ゆりさんの代わりに、あたしらが相手になってあげるよ!つぼみ、いつき、行くよ!」

 

 えりかの言葉に頷いた二人、三人がココロパフュ-ムを手に取ると、シプレ、コフレ、ポプリからプリキュアの種が発せられた。

 

「「「プリキュア!オープンマイハート!!」」」

 

「大地に咲く一輪の花・キュアブロッサム!」

 

「海風に揺れる一輪の花・キュアマリン!」

 

「陽の光浴びる一輪の花・キュアサンシャイン!」

 

「「「ハートキャッチプリキュア!!」」」

 

 プリキュアに変身した三人であったが、バッドエンドビューティは興味無さそうな表情で、

 

「キュアサンシャインは兎も角、美しさの足りないお笑いコンビと戦うつもりは無いわ!」

 

「だ、誰がお笑いコンビよ!?」

 

「マ、マリンは兎も角、何故私まで!?」

 

「何一人だけ否定してるのよぉぉ!」

 

「マリンのせいで、私までお笑い扱いじゃないですかぁぁ!」

 

 バッドエンドビューティにお笑いコンビ呼ばわりされ、マリンとブロッサムが言い合っていると、シプレとコフレは頭を抱えた。バッドエンドビューティは、ハァと溜息を付きながら首を振ると、

 

「醜い・・・あなた達には、アカンベェの相手がお似合いだわ!出てきなさい!アカンベェ!!」

 

 バッドエンドビューティが、黒玉を持った右手を高々と上げると、校庭に落ちてあったサッカーボールをアカンベェへと変えた。瞬時に言い争いを止めたブロッサムとマリンは、上空高くジャンプすると、

 

「ヤァァァァ!」

 

「タァァァァ!」

 

 アカンベェ目掛け、雄叫びを上げながら空中からダブルキックを放った。アカンベェは、両手足を引っ込ませると、大きなボール状態になり、キックしてきたブロッサムとマリンを乗せたまま、高速で転がり始めた。

 

「ワワワワワァァ!?」

 

「キャァァ!な、何なんですかぁ!?」

 

 二人は変顔浮かべながら、まるで玉乗りをしているように、アカンベェの上で懸命にバランスを取りながら走り出す。サンシャインは二人を心配そうに見つめ、

 

「ブロッサム!マリン!」

 

「フフフ、お笑いコンビにはお似合いの舞台のようね!では、キュアムーンライトの代わりに・・・キュアサンシャイン、あなたを倒すとしましょう」

 

「そう簡単にやらせないわ!あなたのその心の闇、私の光で照らしてみせる!!」

 

 キッと鋭い視線をぶつけ合うサンシャインとバッドエンドビューティ、互いの呼吸を探り合うと、ほぼ同時に二人が突進し、バッドエンドビューティの左右からのパンチを、サンシャインはすんでの所で見切り躱し続ける。

 

(私の攻撃を見切ったの!?)

 

(中々鋭い突きね!油断したらかなりのダメージを受けそう・・・だったら!!)

 

 サンシャインは、バッドエンドビューティの力を探るように、サンシャインフラッシュを放った。光の飛沫がバッドエンドビューティ目掛け飛んで行くも、バッドエンドビューティは悠然と構え、

 

「その程度の攻撃・・・避けるまでも無い!」

 

 バッドエンドビューティの周囲に、冷気が漂ったかと思うと、光の飛沫を氷の結晶に変え、結晶は地上へとハラハラ落ちていった。

 

「では、こちらの番・・・バッドエンド!ブリザード!!」

 

 バッドエンドビューティの周囲に、黒い氷の紋章のような模様が浮かび上がると、一層辺りに冷気が漂い始め、サンシャインの顔から冷汗が滴り落ちる。バッドエンドビューティの合図と共に、バッドエンドブリザードがサンシャイン目掛け襲い掛かった。

 

「クッ!?サンフラワー・・・イージス!」

 

 サンシャインは、ひまわりの花のような形をした、強力な巨大シールド、サンフラワーイージスを前方に展開させ、バッドエンドブリザードの攻撃を耐え凌ぐ。

 

「ヤァァァァァァ!!」

 

 サンシャインの気合いと共に、バッドエンドブリザードを、バッドエンドビューティまで押し戻した。

 

「私のバッドエンドブリザードを!?美しい・・・今の戦い方は美しいわ!でも、大分体力を消耗したようね?」

 

「ハァハァハァ・・・まだよ!」

 

 更にサンシャインは、サンフラワーイージスに力を込めた掌底を浴びせると、

 

「これは!?キャァァァァ!」

 

 サンシャインは、サンフラワーイージスインパクトを、バッドエンドビューティ目掛け放った。その威力に、バッドエンドビューティは後方に吹き飛ばされたものの、空中で体勢を立て直し、再び地上に着地した。バッドエンドビューティはサンシャインを見つめると、

 

(キュアサンシャイン、これ程とは思わなかった・・・)

 

 サンシャインへの評価を改めたバッドエンドビューティ、再び睨み合うサンシャインとバッドエンドビューティだったが、その間を、悲鳴を上げながら、アカンベェに乗ったブロッサムとマリンが通り過ぎて行く。チラリとバッドエンドビューティを見たマリンとブロッサムだったが、バッドエンドビューティは両手を開いて首を左右に振り、二人に呆れた表情を浮かべていた。マリンは変顔浮かべながら悔しがり、

 

「海より広いあたしの心も、ここらが我慢の限界よ!ブロッサム、あいつに良い所見せるよ!」

 

「はい!見返して上げましょう!!」

 

 コクリと頷き合った二人は、タイミングを合わせて宙に飛ぶと、

 

「ブロッサムゥゥ・シャワー!!」

 

「マリィィン・シュ~~ト!!」

 

 二人の攻撃が合わさり、アカンベェに命中して動きを鈍らせた。地上に着地した二人は、ブロッサムタクトとマリンタクトを取り出すと、

 

「「集まれ、二つの花の力よ!・・・・・ハァァ!!」」

 

 二人はタクトを回転させ、更にタクトを振ってフォルテッシモ記号のような形をしたエネルギーを生み出すと、

 

「「プリキュア!フローラルパワー・フォルテッシモ!!」」

 

 ブロッサムとマリンが、ピンクと青の光に包まれ上昇すると、一気にアカンベェ目掛け急降下を始めた。フォルテッシモがアカンベェをハート形に貫き、再び姿を現わしたブロッサムとマリンは、

 

「「ハートキャッチ!ハァァァァァ!!」」

 

 タクトをクルクル回転させ、二人はアカンベェを浄化した。二人もサンシャインに合流し、三人がバッドエンドビューティを見つめると、バッドエンドビューティは一瞬険しい表情を浮かべるも、直ぐに口元に笑みを浮かべ、

 

「流石はプリキュアと言った所かしら?」

 

「見た!?あたし達の実力!」

 

 マリンがドヤ顔を浮かべるも、ブロッサムが肘でマリンを突っつき、

 

「そういう事をするから、お笑いコンビ何て言われるんですよ!」

 

「フフ・・・さあ、アカンベェはブロッサムとマリンに浄化されたわ!」

 

 そんな二人のやり取りを見て居たサンシャインは、朗らかな表情を浮かべたものの、直ぐにバッドエンドビューティに話し掛けるも、

 

「そのようね・・・出直すとしましょう!キュアサンシャイン・・・その名を覚えて置くわ!また会いましょう!!」

 

「ちょっと待ったぁぁぁ!あたし達の名前も覚えて帰ってよ!!」

 

「そうね・・・キュアブロッサム!キュアマリン!あなた達、お笑いコンビの名も覚えておきましょう!!」

 

 そう言い残し、バッドエンドビューティは撤退し、バッドエンド空間は解除された。

 

「な、名前を覚えてくれたのは良いんですが・・・何でお笑いコンビのまま何ですかぁぁぁ?」

 

「アハハハ、まあまあ名前は覚えられたんだし・・・」

 

「「良く無い!!」」

 

 今もってバッドエンドビューティには、お笑いコンビ扱いされるブロッサムとマリンであった・・・

 

 

 

3、バッドエンドピースVSキュアブライト&キュアウィンディ

 

 夕凪町・・・

 

 バッドエンドピースは、七色ヶ丘で頭を叩かれた恨みとばかり、満と薫に復讐するべく、咲達が住む夕凪町を訪れ、バッドエナジーを集めようとしていた・・・

 

「エへへへ、この間の恨み晴らしちゃうもんねぇ!」

 

 とは言うものの、好奇心旺盛なバッドエンドピースは、ルンルン気分で辺りを散策し、奇抜な格好を見た人々は、ヒソヒソ話をするものの、皆見て見ぬ振りをしていた。そんなバッドエンドピースは、海岸で一人大声を出しながら何かをやっている少年に出会った。年の頃は16、17才ぐらい、学校帰りなのか制服を着ていて、少し気になったバッドエンドピースが近づくと、

 

「オッ!?お客さんかぁ?こりゃあ張り切らなきゃ・・・嬉しすぎて靴が地面にくっついた!」

 

「・・・・・・・」

 

「緊張しすぎて・・・腸が超痛い!」

 

「・・・・・・・」

 

「お嬢さん、どっかこの辺に・・・内科は無いか?」

 

「・・・・・・・」

 

 ダジャレを言いまくっていたのは、咲の幼なじみである星野健太、高校になってもお笑いを目指す心は変わらず、時間を見付けては、ギャグに磨きを掛けていた。健太のギャグを聞いていたバッドエンドピースは、見る見る寒気がし始め、この辺にバッドエンドビューティが居るのだろうかと、思わず辺りをキョロキョロ見渡して捜した。

 

「何かイライラしてきたなぁ・・・世界よ、最悪な結末に変わっちゃって!白紙の未来を黒く塗りつぶしちゃおう!!」

 

 バッドエンドピースは、健太のダジャレを聞いている事に飽き、バッドエンド空間を発生させると、空が不気味に黄色く変化し、その周りを落書きで描いたようなイラストが覆っていた。

 

「俺のネタ何か聞くより、寝た方がマシだ・・・」

 

 健太はそのまま地面に崩れ落ち、バッドエナジーがバッドエンドピースに集まり、ピエーロ完全復活の目盛りが上がった。

 

 

「咲、あれって!?」

 

「うん・・・バッドエンド王国かも?」

 

 顔を見合わせた咲と舞は、急ぎバッドエンド空間が発生した海岸へと駈け出した。海岸に駆け付けた二人は、バッドエンドピースの仕業だと悟り、表情を強張らせた。

 

「あれは・・・健太!?ちょっと、健太に何したのよ?」

 

「元に戻しなさい!」

 

 咲と舞に注意されたバッドエンドピースは、見る見る不機嫌そうな顔を浮かべ、

 

「何であなた達なのよぉぉ!私は、キュアブライトとキュアウィンディに用があるの!!」

 

「ブライトとウィンディに!?何を企んでるか知らないけど・・・舞!」

 

「分かったわ!」

 

 咲の合図に舞も頷き返し、二人がコミューンを手に持つと、健太の周囲に雷が落ちた。咲と舞は見る見る青ざめ、

 

「健太!ちょっと、止めて!!」

 

「止めて欲しかったら・・・ブライトとウィンディを此処に連れて来てよ!そうしたら、その子を返して上げる。連れて来なかったら・・・ビカビカってしちゃうからね!!」

 

「卑怯よ!」

 

 思わず舞がバッドエンドピースに抗議するも、バッドエンドピースは舞を見ながら舌を出し、

 

「ベェェェ!卑怯も秘境もありません・・・ってあの人の変なダジャレ聞いてたら移っちゃった・・・いいから、早く連れて来てよ!!」

 

 再び健太の周囲に雷が落ち、悔しそうな表情を浮かべる咲に、舞は小声で話し掛け、

 

「咲、このままじゃ本当に、あの子何するか分からないわ!ここはあの子の言う通りに、満さんと薫さんを連れて来るしか無いわ」

 

「アァァ、もう、腹立つなぁぁ・・・満も薫も、家のお店手伝ってくれてるのにぃぃ」

 

「早くしてよね!私、待つの嫌いだから・・・そうだ!ねえねえ、そこのまん丸顔!!」

 

「ま、まん丸顔!?それってあたしの事?」

 

「そうそう、あなたは此処に残って、私が暇つぶしになる事やってよ!」

 

「な、何ですってぇぇ!?」

 

「あっそう、嫌なら良いんだ・・・それぇ!」

 

 目を瞑ったバッドエンドピースは、健太の周辺に無差別に雷を落とし始め、咲は必死にバッドエンドピースに声を掛け、

 

「わ、分かったから止めて!舞、お願い!!」

 

「分かったわ!直ぐに満さんと薫さんに知らせるから!!」

 

 舞はこの場を駆け出し、咲の店でアルバイトをする満と、咲の妹みのりの面倒を見ている薫の居るPANPAKAパンへと駈け出した。

 

 咲は無理矢理寝ていたフラッピを起こすと、小声でフラッピに話し掛け、

 

「フラッピ、協力してよ!舞が満と薫を連れて戻って来るまで、何とか時間稼がないと、健太が・・・」

 

「そういう事なら協力するラピ・・・でも、何をすれば良いラピ?」

 

「そう言われると困るけど・・・ねぇ、あたしは何をすれば良いのよ?」

 

 咲も何をすれば良いか分からず、バッドエンドピースに聞くと、バッドエンドピースはちょっと小首を傾げて考え、

 

「う~ん・・・どうしようかなぁ?私、漫画が読みたい!!面白い漫画描いてよ!!!」

 

「エッ!?」

 

 バッドエンドピースに、漫画を描くようにリクエストされた咲は、変顔浮かべながら困惑した。何故なら、咲は舞いとは違い、絵を描くのが苦手だったのだから・・・

 

「咲、描くだけ描いてみるラピ」

 

「エェェ!?あたし、苦手何だよねぇ・・・」

 

 困惑しながらも、咲は落ちていた細い枝を拾うと、砂浜に何かを描きだした。

 

「ワ~イ、始まった!」

 

 バッドエンドピースは本当に嬉しいのか、咲に近付いて描いている画を見て見るも、何の漫画なのか理解出来ず困惑した。

 

「エェと・・・その化け物が主役なの?」

 

「これはあなたのつもり何だけど・・・」

 

「・・・・・じゃあ、この溶けて消えそうな妖怪は?」

 

「それは妖怪じゃなくて舞!」

 

「・・・・・・・」

 

「知っていたけど・・・酷いラピ」

 

「私があの子だったら、こんな絵見せられたら絶対に怒る・・・」

 

「舞はそんな事で絶対に怒らないわよ!」

 

 画を見ていたフラッピとバッドエンドピースは、呆れたように呟いた。咲の描いた画を、改めてジックリ見たバッドエンドピースは、あまりの酷さにお腹を抱えて笑い出し、

 

「ウケルゥゥ!この画が人だ何て・・・キャハハハ」

 

「ウゥゥ、何!?この屈辱感・・・」

 

「まあ事実だし、しょうがないラピ」

 

「うるさい!」

 

 フラッピにもバカにされ、咲が不機嫌そうに頬を膨らませた時、上空から二つの人影が舞い降りてきた。

 

「咲、話は舞から聞いたわ!」

 

「後は私達に任せて!」

 

「ブライト!ウィンディ!」

 

 咲は目を輝かせた・・・

 

 もっと時間が掛かるだろうと思っていた咲だったが、満と薫は、舞から話を聞くや、直ぐにブライトとウィンディに変身し、ブライトが舞を抱きながら足下に力を溜め、一気に海岸まで飛翔して駆け付けた。ブライトが舞を下ろすと、舞は嬉しそうに咲に話し掛け、

 

「満さんと薫さんに話したら、急を要するみたいだからって、直ぐにプリキュアになってくれて、一緒に連れて来て貰ったの!」

 

「ホッとしたチョピ」

 

「舞も、チョッピもありがとう!」

 

「どう致しまして!」

 

 互いにに笑みを浮かべあった咲と舞、そんな二人を見てチョッピも目を細めた。バッドエンドピースは、ブライトとウィンディを見るや不気味に笑み、

 

「フッフッフ、ようやく現われたわね!何もしていない可憐な私の頭を、あなた達は無理矢理叩いた!その恨み・・・今こそ晴らして上げるわ!!」

 

 逆恨みしたバッドエンドピースは、二人を見て目に炎を点すと、思わず顔を見合わせたブライトとウィンディは、呆れたように溜息を付き、

 

「何もしていないって・・・あなた、ソードを騙して攻撃してたじゃない!」

 

「バカだとは思ってたけど、記憶力も無いのかしら?」

 

「バカじゃないもん!もう、信じらんなぁい・・・そこの二人、プリキュアに変身して、ブライトとウィンディを懲らしめてやって!!」

 

 突然バッドエンドピースに話を振られ、動揺した咲と舞は、即座に険しい表情で首を左右に振ると、

 

「ふざけないで!あんた、何言ってるの?」

 

「私達が、あなたの言う事を聞く筈無いじゃない!」

 

 即座に否定する咲と舞に、バッドエンドピースはゲスい表情を浮かべると、

 

「ヘェ、私に逆らうんだ?あの子、ビリビリ痺れちゃっても良いのかなぁ?」

 

「健太を使って脅迫する何て・・・卑怯よ!」

 

「恥を知りなさい!!」

 

「エェ!?そんなの知らなぁい・・・さあ、やるの?やらないの?」

 

 バッドエンドピースに脅迫され、咲と舞の表情が苦悶に歪む、ブライトとウィンディは、顔を見合わせてアイコンタクトすると、

 

「咲、舞、言う通りにしましょう!」

 

「さあ、二人共プリキュアに変身して!」

 

 ブライトとウィンディは、そう言うとゆっくり場所を移動し、バッドエンドピースの視線を惹きつけた。咲は二人の考えが読めず困惑しながら、

 

「ブライト!?ウィンディ!?」

 

「咲!・・・・・・・・」

 

 二人の作戦に気付いた舞は、小声で咲に話し掛けると、咲も満面の笑みを浮かべ、

 

「分かった!プリキュアになるよ!!」

 

「そうそう、それで良いの!あの二人を懲らしめてやって!!」

 

 バッドエンドピースはコクコク満足気に頷き、咲と舞はアイコンタクトすると、

 

「「デュアル・スピリチュアル・パワーッ!!」」

 

「輝く金の花!キュアブルーム!!」

 

「きらめく銀の翼!キュアイーグレット!!」

 

「「ふたりはプリキュア!!」」

 

 咲と舞が、ブルームとイーグレットに変身し、バッドエンドピースは、ブライトとウィンディを見てゲスい笑みを浮かべた。その背後で、ブルームとイーグレットは、バッドエンドピースに気付かれないように、抜き足差し足で健太の居る方に移動した。

 

「さあ、やっちゃえ!ブルーム、イーグレット、ブライトとウィンディの頭を、ポカポカ叩いて来てぇぇ!!」

 

 バッドエンドピースは、ブライトとウィンディを指差し、ブルームとイーグレットに攻撃開始を告げた。だが二人は無反応で、不思議そうにバッドエンドピースが振り返ると、ブルームとイーグレットは健太を無事に保護し、少し離れた場所へと移動していた。

 

「アァァ!?狡いぃぃ!!」

 

「全く・・・此処まで上手く行くとは私も思わなかったわ!」

 

「バカに付ける薬が無いっていうのは、本当のようね!」

 

「ムゥゥゥ、バカにしてぇぇぇ!良いもん、私一人で・・・・・勝てるかなぁ?」

 

「私達に聞いてどうするのよ?」

 

「何だかこの子と戦うのがバカらしくなってくるわね・・・」

 

 いざ戦おうと思ったものの、少し自信が揺らいだバッドエンドピースは、思わず敵であるブライトとウィンディに問い掛け、二人を益々呆れさせた。

 

(ウゥゥゥゥ・・・そうだ!一先ず帰って、ハッピーに助っ人を頼もう!!サニーやマーチは来てくれないだろうし、ビューティには怒られそうだもんね・・・決めた!!)

 

 バッドエンドピースが急に薄ら笑いを始め、ブライトとウィンディは真意が読めず少し警戒すると、バッドエンドピースは、突然手をポンと叩き、

 

「ほ、本当は、あなた達何か私一人でも楽勝だけど・・・急用を思い出したぁぁぁ!」

 

 そう言い残すと、慌てて撤退し、バッドエンド空間が解除された。

 

「「エッ!?」」

 

 思わず呆然とするブライトとウィンディ、健太の側に居たイーグレットも驚いたように、

 

「あの子・・・帰ったの?」

 

「に、逃げた!?待ちなさい!健太にした事謝らせてやろうと思ったのにぃぃ!!もしも健太に怪我でもさせてたら、あの子絶対許さないんだから!!」

 

「ブルーム、それは多分大丈夫よ!」

 

「エッ!?でも、あの子健太に攻撃をしようと・・・」

 

「本気で攻撃を当てようとしてたら、何時でもあの子なら狙えた。ブルームとイーグレットなら、きっと健太を見捨てられないと分かって居てやってたと思う」

 

「強がっては居るけど、あの子、根は悪い子じゃ無いと思うわ・・・」

 

「「バカだけど!!」」

 

 そう言うと、顔を見合わせたブライトとウィンディは、クスリと笑い合った・・・

 

 

4、ダークドラゴン

 

 魔界・・・

 

 嵐が吹き荒れ、雷が鳴り響く不気味な空に、二つの影が対峙していた・・・

 

 一人は銀髪の魔神アベル!もう一つの影は、巨大なる黒き竜、ダークドラゴン!!

 

 竜と言えば固い鱗を持つ事は、東西共通の容姿だが、東洋では、巨大な爬虫類のような容姿をし、短い手足を持ち、空を自在に飛び回る姿を連想する。西洋では、巨大な爬虫類系なのは一緒だが、ドラゴンは二足歩行をし、背中に生えた翼で空を飛ぶイメージが強い。アベルが対峙するダークドラゴンは、西洋ドラゴンの容姿をしており、その威風堂々とする振る舞いは、王者の風格を醸し出していた・・・

 

「消えろ!我は誰の下にも従わん!!」

 

「フフフ、ソドムがあのような容姿になっては、貴様の力を借りるしかないのでなぁ・・・無理矢理でも従わせるぞ!闇の竜よ!!」

 

 竜の咆哮が、アベルの雷が相殺され、辺りの地形が吹き飛び、弱き魔が逃げ惑った。

 

「闇の竜よ、老いたな!嘗て、我らと魔界の覇権を争った力は消え失せたか・・・ならば、貴様の力を借りるまでもない・・・消えろ!!」

 

「黙れ、アベル!老いたりといえど、真の姿になっていない貴様なぞに遅れは取らん!!」

 

 ダークドラゴンは大きく息を吸い込むと、黒き鱗から粒子が舞い散った。アベルは険しい表情でダークドラゴンを見つめると、

 

(ダークブレスか・・・老いぼれめ、まだそんな力が!?だが、妙だな?)

 

 ダークドラゴンは、溜め込んだ力を一気に吐き出すと、黒い閃光がアベル向かって放たれた。アベルも迎え撃つように両手を組むと、

 

「ダ~~クネス・・・フレイム!!」

 

 アベルの両手から、ダークドラゴン目掛け放たれた黒き炎が放たれた。空間で燻(くすぶ)る両者の技と技、爆発と共に空間に歪みが発生した。その時・・・

 

「キャァァァァァ」

 

「何だ!?女の声?」

 

「逃げ遅れた者か!?」

 

 突如女の悲鳴が二人に聞こえ、アベルとダークドラゴンは困惑した。ダークドラゴンは、落下してきた女を、咄嗟に巨大な手を出して受け止めると、

 

「ありがとう・・・アレッ!?此処は何所!?バッドエンド王国じゃないの?」

 

「バッドエンド王国!?違う!此処は魔物達が暮らす世界・・・魔界だ!」

 

「魔界!?・・・・・アレッ!?あなたもしかして?」

 

 落下してきたのは、巻き込まれたバッドエンドピースだった。バッドエンド王国に戻ろうと次元の狭間に入った時、タイミング悪く二人の戦いで発生した時空震の影響に巻き込まれ、魔界へと吸い込まれた。バッドエンドピースは、周りをキョロキョロするも、助けてくれたダークドラゴンを見ると目を輝かせ、

 

「ウワァァ!あなた、竜でしょう?私、初めて見たぁぁ!私はバッドエンドピースだよ!!」

 

「貴様・・・我を見て恐ろしくはないのか?」

 

「可愛い!」

 

「か、可愛いだとぉぉぉ!?」

 

 思わずダークドラゴンは困惑した・・・

 

 自分の容姿を見て、恐れおののく者は幾らでも見てきたが、可愛いなどと言われた事は一度も無かった。そんな二人のやり取りを見て居たアベルは笑い出し、

 

「アハハハハ!闇の竜も形無しだなぁ?それより・・・女、何所から迷い込んだ?貴様のその姿・・・まさか!?お前プリキュアか?」

 

「誰よ、あなたは!?確かに私はプリキュアだけど・・・」

 

 バッドエンドピースは、アベルの事を胡散臭そうな目で見つめるも、プリキュアである事は認めた。アベルの目がキラリと輝くと、

 

「フ、フハハハハ!まさか、自らオメオメ魔界に現われるとは手間が省けた!俺と来い!!」

 

「ベェェェ!あなた、竜ちゃんの敵でしょう?それに偉そうだから・・・嫌だよぉぉ!!」

 

「りゅ、竜ちゃん!?」

 

 バッドエンドピースは、アベルに舌を出し、竜ちゃんと呼ばれたダークドラゴンは思わず困惑顔を浮かべた。共に行く事を拒んだバッドエンドピースに、アベルは口元に笑みを浮かべ、

 

「そうか、ならば無理矢理にでも連れて行くのみ!」

 

「ベェェだ!バッドエンド・・・サンダー!!」

 

 バッドエンドピースは、ダークドラゴンの手から飛び出すと、挨拶代わりのバッドエンドサンダーをアベルに放った。アベルは、右手人差し指を突き出しながら高々と腕を上げると、バッドエンドサンダーを右手の人差し指に吸収していった。

 

「そ、そんな!?私のバッドエンドサンダーが?」

 

「ククク、俺も貴様と同じ用に、雷の技を使うんでな、俺には雷に対しての耐性があるんだよ!今度はこちらの番!!」

 

 アベルは、右手人差し指に魔界に鳴り響く雷を吸収し出すと、体内から発光しだし、

 

「さあ、魔界の雷を受けて見よ!」

 

 アベルが右手人差し指に吸収した雷を、バッドエンドピース目掛け放つと、黒き閃光が一気にバッドエンドピースの身体を包み込み、

 

「キャァァァァァァァ」

 

 悲鳴を上げながら感電するバッドエンドピースは、そのまま地上に落下し、地面に転がった拍子に服はボロボロになり、身体は擦り傷だらけになった。

 

「グゥゥゥゥゥ」

 

 それを見たダークドラゴンが思わず唸り、尚もアベルがバッドエンドピースに攻撃しようとするのを目の前にし、

 

「アベル!その娘は関係無いだろう!?今は我と貴様との戦いの最中だ!!」

 

「最早老いぼれに用は無い!闇の竜よ、分かったぞ・・・既に貴様の命が尽き掛けて居る事がな!!」

 

「・・・・・・・・・・」

 

「さっきのダークブレスを放った時、貴様の身体は、魔界の粒子を吸収する事に身体が耐えきれず、体外に散乱していた・・・それは、貴様の肉体の限界を現わしているのも同然!再びダークブレスを放てば、貴様の身体は耐えきれず消滅する事がな!!」

 

(気付いて居ったか・・・)

 

 アベルに図星を指され、思わずダークドラゴンが沈黙する。アベルがゆっくり下降し、ヨロヨロ立ち上がったバッドエンドピースを見つめると、

 

「さあ、俺と来い!これ以上痛い目にあいたくないだろう?」

 

「ベェェェだ!私は自由で居たいの!!あんたの言う通りに何か・・・キャァァァァ」

 

 バッドエンドピースが拒否すると、口元に笑みを浮かべたアベルは、容赦無くバッドエンドピースを蹴り飛ばした。反撃のバッドエンドサンダーを放つも、アベルには効果が無かった・・・

 

「動けないように、その両手足・・・燃やし尽くしてやる!」

 

(みんなに会えずに、私、此処で死んじゃうのかなぁ?)

 

 バッドエンドピースの脳裏に、四人のバッドエンドプリキュア、ハッピー、サニー、マーチ、ビューティの姿が目に浮かんだ。アベルが両手を組み、ダークネスフレイムの体勢に入ったその時・・・

 

(自由か・・・あの娘、我と似ている!)

 

 死が間際に迫っているダークドラゴンに取って、バッドエンドピースとの出会いは、不思議な感情を産み出した。元々竜族は仲間意識が強く、魔界の中でも、一匹の竜に手を出せば、竜族全員を敵にすると思えと伝えられる程に絆が深かった。だが、ダークドラゴンだけは孤独を好み、強者を求め魔界を彷徨った。

 

(竜王バハムート、今なら、嘗て貴様が言った事が理解出来る!どうせ消えゆく命なら・・・未来ある者へ!)

 

「グゥゥオォォォォォ!!」

 

「何だ!?」

 

「竜・・・ちゃん!?」

 

 ダークドラゴンの物凄い咆哮に、アベルとバッドエンドピースも思わず視線を向けると、ダークブレスがアベル目掛け放たれた!

 

「バカな!?奴は死ぬ気か?チィィィ!!」

 

 その場に居たはずのアベルの姿は消え失せ、数キロ離れた場所に瞬時に姿を現わした。ダークドラゴンは、更にアベル目掛け翼を羽ばたかせ急降下すると、その風圧でアベルの髪が激しく靡き、思わずアベルが顔を腕で守ると、その一瞬の隙を見逃さず、ダークドラゴンはバッドエンドピースの下に飛び、彼女を抱き抱えると、

 

「竜ちゃん・・・助けてくれたんだ?エへへへ、ありがとう!」

 

「迷い人よ、お前を元の世界に送ろう!」

 

「私は、バッドエンドピース!あなたは?」

 

「我はダークドラゴン!本当の名は・・・忘れた!!」

 

 ダークドラゴンは、再び大きな翼を広げると、魔界の空高く飛び去った・・・

 

「チッ、逃げたか・・・まあ良い、プリキュアが魔界に来た事実は、何ら変わらんのだからなぁ・・・フハハハハ!」

 

 アベルの笑い声が、飛び去っていくダークドラゴンを見ながら響き渡った・・・

 

 

 

 バッドエンド王国・・・

 

 お土産をちゃんと持って来たバッドエンドハッピー、サニー、マーチは、お土産を持って帰って来なかったバッドエンドビューティを、不満気に問い詰めていた。

 

「何や、ビューティだけお土産無しかいな?」

 

「エェ!?私達、ちゃんとビューティの分も買って来たのにぃぃ!」

 

「ただ食いは感心しないねぇ・・・」

 

「し、仕方ないでしょう・・・て言うか、私達、バッドエナジーを集めに行ったんじゃなくって?」

 

「それはそれ、これはこれ・・・ねぇ?」

 

「「そうそう!」」

 

 バッドエンドハッピーに問われ、サニーとマーチはウンウン頷き同意した。益々困惑したバッドエンドビューティは、

 

「仕方が無いわねぇ、今から何か買いに・・・・・何!?この声は一体?」

 

 何かを買いに行くと告げようとしたバッドエンドビューティだったが、外から物凄い咆哮が聞こえ、四人の表情が一瞬で険しくなった。

 

「外からだよ!行ってみよう!!」

 

 バッドエンドハッピーの言葉に頷き、四人は慌てて外へと駈け出した。ピエーロのコアが祭られている祭壇に居るジョーカーにも、咆哮は聞こえたものの、

 

「やれやれ、また彼女達が何かしているようですねぇ!?まあ、順調にバッドエナジーを集めてくれていますから、大目にみて差し上げますか・・・ピエーロ様、もう暫くお待ち下さい!!」

 

 ジョーカーは、ニヤリとしながらその身をトランプと共に消した・・・

 

 慌てて外に飛び出してきた四人は、思わず立ち止まると、目の前に立ちはだかる巨大な黒き竜を見て驚愕した。敵なのか、味方なのか、判断付かない四人は、険しい表情を浮かべるも、

 

「案ずるな、我はお前達と戦うつもりは無い!お前達の仲間を、送り届けに来ただけだ!!」

 

 そう言うと、ダークドラゴンは、両手で優しくバッドエンドプリキュア達の前へ、バッドエンドピースを下ろした。

 

「「「「ピース!!」」」」

 

 目の色変えた四人が、ボロボロの姿で横たわるバッドエンドピースに声を掛けるも、ピースは眠って居るようだったが、時折魘されていた。

 

「誰!?ピースをこんな目に遭わせたのは?」

 

「ピースは、ブライトとウィンディの所に行く言うとったな?」

 

「なら・・・あいつらか!」

 

「キュアブルーム!キュアイーグレット!キュアブライト!キュアウィンディ!ピースに手を出した事・・・私達が後悔させて上げるわ!!」

 

 バッドエンドハッピーが、サニーが、マーチが、ビューティが、表情を険しくした四人の背後からバッドエナジーが湧き上がり、今まさにバッドエンドピースの敵討ちに行こうとするのを、静観していたダークドラゴンが四人を制止し、

 

「勘違いするな!その娘をそのような惨い姿にしたのは・・・魔界の魔神アベルだ!!」

 

「魔界の魔神アベル!?」

 

「何でや!?何でピースが、こないな目に遭わされるんや?」

 

「あたし達、魔界に何て行った事無いし」

 

「些か合点がいかないわね?」

 

 ダークドラゴンから、バッドエンドピースをこのような惨い姿にしたのは、魔界の魔神アベルだと聞き、バッドエンドハッピー、サニー、マーチ、ビューティの四人は困惑した。魔界の者との接点など、自分達には無い筈だった。

 

「この者は、我とアベルの戦いの影響で、魔界に迷い込んだのかも知れん・・・」

 

 ダークドラゴンが、穏やかな表情でバッドエンドピースを見つめていると、

 

「ウッ、ウゥゥゥン・・・ファァァァア!良く寝たぁぁ・・・アレ!?私・・・」

 

 寝ぼけ眼で起き上がったバッドエンドピースは、仲間達を見付けるや、目に涙を浮かべて抱き付き、

 

「ウェェン!もう、もうみんなに会えないかと思ったぁぁ!!」

 

「よしよし、もう大丈夫だから!」

 

 バッドエンドハッピーが優しくピースの髪を撫で、バッドエンドサニー、マーチ、ビューティも、ホッと安堵した表情を浮かべ、

 

「ピース、そこに居る竜に感謝しぃや」

 

「ピースの事を、魔界から連れて来てくれたみたいだからさ」

 

「私達からも礼を言わせて貰うわ!」

 

「うん!竜ちゃん・・・」

 

「「「「「ありがとう!!」」」」」

 

 そう言うと、バッドエンドプリキュアの五人は、ダークドラゴンに対して素直に頭を下げた。魔界に居た時には、感じた事の無い思いが、バッドエンドプリキュアと触れ合う事で、ダークドラゴンに沸き上がり、ダークドラゴンも目を細めた。何かに気付いたバッドエンドビューティは、仲間を促すと、

 

「み、見て!ダークドラゴンの身体が!?」

 

「「「「エッ!?」」」」

 

 良く見てみれば、ダークドラゴンの身体が、ゆっくり、ゆっくり消え始めて居た。バッドエンドピースは、ダークドラゴンにしがみつくと、

 

「りゅ、竜ちゃん、どうしたの?」

 

「我の寿命が・・・尽きる時が来たようだ!!」

 

「「「「エェェ!?」」」」

 

「そんなぁぁ!?」

 

 ダークドラゴンの告白は、バッドエンドプリキュアの五人に激しい衝撃を与えた。出会ったのはほんの僅かだが、何処か互いに親しみを覚えて居た。

 

「バッドエンドピースと言ったな?お前と触れ合った短時間で、我は大いなる事を学んだ気がする・・・感謝するぞ!」

 

「感謝って・・・私がする事だよぉぉ!」

 

 ダークドラゴンにしがみつき泣きじゃくるピースを、ダークドラゴンは、愁いを帯びた表情で見つめると、

 

「泣くな!我が肉体は潰えても、我が魂はお前達と共にある!バッドエンドピース、そして、心優しきその仲間達よ、我の魂は、お前達と共にある事を忘れるな!!」

 

 そう言い残し、ダークドラゴンの身体は光の粒子へと変わり、バッドエンド王国上空に消え失せた。バッドエンドプリキュアの五人は、名残惜しそうに、消え去った光の粒子の痕跡を目で追い続けた・・・

 

 

       第九十一話:バッドエンドプリキュアとプリキュア達(後編)

                    完

 




 遅くなりましたが、第九十一話投稿致します!
 二冊のプリキュア小説読みました!
 まさか、数年以上経って無印とハトの小説読めるとは思いませんでした・・・
 次は5とフレッシュのようでこれも楽しみにしております

 それと、知っている方もいらっしゃるでしょうが、splash☆starでチョッピを演じられた松来未祐さんがお亡くなりになりました・・・かなり凹みました!
 ご冥福をお祈り致します!!

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