プリキュアオールスターズif   作:鳳凰009

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第八十八話:あゆみの涙とエコーの決意

1、困惑する少女達

 

 妖精学校に遅れてやって来たあゆみだったが、何故かなぎさ達やココ達は、あゆみの事を覚えて居なかった。みんなに意地悪されていると思い込んだあゆみは、居たたまれなくなって、泣きながら妖精学校を後にした。あゆみが去った後でも、その場で呆然としているなぎさ達を見て、妖精学校の生徒達は動揺していた・・・

 

「今の人は・・・プリキュアじゃ無いパフ?」

 

「みんな、知らない見たいシャル!」

 

「それより・・・何かこの教室の中、変な感じがするぜ?」

 

 パフやシャルル達もヒソヒソ声で会話していると、ぐらさんは、教室内を見渡しながらポツリと呟いた。ユメタは、プリキュア教科書を改めて開いていると、とある空白のページを見て小首を傾げた。

 

(アレェ!?このページには、確かプリキュアが載ってたような?)

 

 ユメタは、ジィィと空白のページを凝視した・・・

 

 遅れてやって来たあゆみの事を覚えて居ないなぎさ達に、魔王とピーちゃん、メップルは困惑していた。あゆみと喧嘩でもしたのだろうか?確かめようとなぎさ達の側に近付いた魔王とピーちゃん、騒ぎに気付いたミップルも、妖精姿になってメップルの隣に現われた。

 

「みゆき、あゆみと喧嘩でもしたカゲ?」

 

「なぎさ、あゆみを追いかけなくて良いメポ?」

 

「エッ!?魔王、あゆみちゃんって人知ってるの?」

 

「メップル!あんた、あの子の事知ってるの?」

 

 目を見開いて驚いた表情を見せるみゆきとなぎさに、思わず顔を見合わせた魔王とメップルだったが、見る見る二人の表情は険しくなり、

 

「何寝ぼけた事言ってるカゲ?」

 

「なぎさ、どうかしてるメポ?」

 

「そんな事言われてもさ、私達本当にあの子の事・・・でも、不思議何だよねぇ?全く知らないかって言われると、何処かで会った気はするんだよねぇ・・・」

 

 なぎさは困惑気味にメップルと魔王に語った・・・

 

 知らない子に突然声を掛けられたものの、自分達の事を知って居る少女に、なぎさ達は困惑し、泣きながら去っていた少女を見て呆然とする・・・

 

 見ず知らずの少女だったら、あの子は何を言っているんだろう?そう思う筈だった・・・

 

 だが、なぎさ達はそうは思えなかった。あの子は自分達の事を知っているのに、自分達はあの子の事を知らない、でも、全く知らないかといえば、そうでは無く、何か頭の中がモヤモヤしていた。

 

「アァ!メップルやミップル、ピーちゃんや魔王は知ってるのに、何で私達はあの子の事覚えて無いの?」

 

 髪を掻きむしりながら、何とか思い出そうとするなぎさだったが、あゆみの事を思い出す事は無かった。ミップルは、不安げな様子でほのかを見つめると、

 

「ほのか、あゆみが可哀想ミポ!」

 

「そう言われても・・・確かにこのままじゃ不味いとは思うけど・・・」

 

 呼び戻しに向かったとしても、あゆみの事を思い出せない自分達が迎えに行けば、逆にあゆみに不快な思いをさせるのでは無いかと思うと、直ぐに行動に出られなかった。そんななぎさ達一同の煮え切らない態度に、魔王は目を吊り上げると、

 

「もう良いカゲ!お前達、見損なったカゲ!!ピー助、あゆみを迎えに行くカゲ!!」

 

「ギャァァス!!」

 

「なぎさのワカランチン!もう良いメポ!!魔王、メップルとミップルもあゆみを迎えに行くメポ!!」

 

「一緒に連れて行って欲しいミポ!」

 

「分かったカゲ!」

 

 魔王とピーちゃん、メップルとミップルは、あゆみを迎えに行こうと行動しようとした時、突然ユメタが叫び、

 

「ま、魔王さん!この教科書おかしいよ!?」

 

「ユメタ、どういう事カゲ?」

 

「あのね・・・このページ、ジィィと見てると、微かに動いてるの!」

 

「エェェ!?」

 

 ユメタの声を聞き、生徒達は一斉にプリキュア教科書を開いた。ユメタが指摘をしたページは真っ白だったが、確かにジィィと凝視すると、何か違和感を覚えた。気付いたシフォンも、プリキュア教科書を見つめると、

 

「キュアキュア・・・プリプー!」

 

 シフォンが耳を動かすと、教科書のページを覆っていた何かが一斉に動き出し、宙に逃げ去った。そして、空白だったページに、キュアエコーの事が現われた。教科書を見て居たユメタは驚き、慌てて一同に話し掛けると、

 

「みんな、見て!さっきの人が言ってた、キュアエコーが載ってるよ!!」

 

 なぎさ達も、ココ達も、そしてアン王女も、プリキュア教科書を見て見ると、確かにあゆみが言っていたように、キュアエコーの事が載ってあった。見る見る一同の顔は青ざめ、困惑の表情を浮かべたなぎさは、

 

「じゃあ、あゆみちゃんって子が言ってた事は、全部本当だったんだぁ?」

 

「でもおかしいよ!何で私達やココ達は、あゆみちゃんの事覚えて無いの?」

 

 のぞみの言葉にほのかも同意し、

 

「ええ、ミップルとメップル、ピーちゃんや魔王は覚えて居るのに、私達は覚えて居ない・・・何かがおかしいわ!?」

 

「本当・・・ねえ、フラッピは・・・アレェ!?」

 

「咲、どうしたの?」

 

「フラッピが・・・居ない!?」

 

 咲は、フラッピにも聞いてみようと、ポケットをゴソゴソ漁るも、コミューン姿で寝ている筈のフラッピが居なかった。咲の言葉を受け、舞もポシェットを調べて見ると、チョッピの姿も無かった。ハッとしたひかりは、直ぐにポルンとルルンの身を案じ、

 

「まさか・・・・・ポルンやルルンの姿もありません!」

 

「ええ、私達もそう・・・」

 

「一体何処に!?」

 

 ひかり、満と薫も表情を青ざめ、ポルンやルルン、ムープとフープが居なくなっている事を知らせた。ざわつく室内、ゆりはハッとすると、

 

「みんな、変身アイテムは持ってる?」

 

「エッ!?此処に・・・・アレェ!?な、無い?」

 

「私達のリンクルンも無くなってるよ!」

 

「ココロパフュームもありません!」

 

「私達のキュアモジューレも無いよ!」

 

「嘘ぉぉ!?私達のスマイルパクトも・・・無い無い・・・無いぃぃぃ!?」

 

「ダビィの姿が見当たりません!」

 

 ゆりに忠告され、のぞみ達、ラブ達、つぼみ達、響達、みゆき達、そして真琴が大慌てで身体をまさぐって捜すも、変身アイテムは消え失せて居た。

 

「ひょっとして、さっきの子が・・・」

 

 そう言いかけて響は言葉を止めた・・・

 

(そう言えば、前に私、今思ったような勘違いをした事があったような?)

 

 響は、あゆみが自分達の変身アイテムを持って行ったのでは無いか?そう一瞬思ったが、何処かでそんな勘違いをした自分の事を思いだした。そんな勘違いに気付いたのか、ピーちゃんが一同に知らせるように騒ぎ出し、

 

「ピーちゃん、何か知ってるの?」

 

 アコがピーちゃんに話し掛けると、ピーちゃんは一同に知らせようとジェスチャー混じりに言葉を発し、

 

「ギャァ、ギャァ、ギャァァァス!」

 

「何!?さっきのグレルとエンエンって妖精達が・・・みゆき達の変身アイテムを奪ったカゲかぁ?」

 

「エェェ!?」

 

 ピーちゃんの言葉を通訳した魔王によって、状況を理解した一同、妖精学校の生徒達は、クラスメートであるグレルとエンエンの悪事を知り、ヒソヒソ話を始めた。アロマは目を吊り上げて怒り出し、

 

「全く、何て事をするロマ!」

 

「全くだぜ!グレルは兎も角、エンエンまでやるとは・・・驚きだぜ!?」

 

「きっと、グレルに無理矢理手伝わされたシャル!」

 

 アロマの言葉に、ぐらさんも、シャルルも同意するも、アン王女は、美希から借りた伊達眼鏡の位置を直すと、シャルルを窘めるように小声で話し掛け、

 

「シャルル、クラスの仲間を、そんな風に言うものではありませんよ?」

 

「シャル!?でも・・・」

 

「何か事情があるのかも知れません!二人から真相を聞き出した方が良いでしょう」

 

「それは俺達がするカゲ!ピー助、メップル、ミップル、あゆみを連れ戻すついでに、あの二人から変身アイテムを取り戻すカゲ!」

 

 魔王はアン王女の言葉に頷き、ピーちゃん、メップルとミップルを誘い、魔王が大きく息を吸い込むと、少し魔王の身体が大きくなり、メップルとミップルを背中に乗せた。

 

「行ってくるカゲェ!」

 

「ピィィィ!」

 

 魔王とピーちゃん、そしてメップルとミップルは、教室の窓から飛び出した。ほのかはなぎさを見つめると、

 

「私達も行きましょう!ミップルとメップルまで奪われてしまったら、私達、本当にお手上げだもの!!」

 

「そうだね・・・」

 

「私も行きます!あゆみちゃんに、さっきの事謝りたい!まだ、あゆみちゃんの事を思い出せないけど・・・それでも、謝りたい!!」

 

 訴えるようなみゆきの熱意を感じ、なぎさとほのかが頷いた時、妖精学校は、大きな地震が起きたかのように激しく揺れ、一同は地面に倒れ込みながら激しく動揺した・・・

 

 

2、クラーケン

 

 泣きながら外に飛び出したあゆみは、無我夢中で走り続けた・・・

 

 階段を下り、森の中を走り続けたあゆみは、大きな池の畔に辿り着き、その場で地面に崩れ落ちるかのように膝を付き、嗚咽した・・・

 

「みんな、酷いよ・・・・ウッウッウ」

 

 顔をクシャクシャにしながら泣き続けるあゆみ、追いついたエンエンとグレルだったが、そんなあゆみの姿を見ると、自分達がこのような事態を引き起こした責任を痛感した。エンエンの目に涙が溜まる。エンエンの心に罪悪感が沸き上がり、被っていたフードを両手で持ち、グッと下に引っ張ったエンエンは、

 

「ウ、ウ、ウワァァァァン!ゴメンなさい!ゴメンなさい!ゴメンなさい!!」

 

「エッ!?」

 

 突然背後から泣き声が聞こえ、あゆみが目を擦りながら背後を振り返った。エンエンは、あゆみの顔をまともに見られないのか、頭に被っていたフードで自分の顔を隠すように、泣きながらあゆみに謝り続けた。あゆみは呆然とすると、

 

「ど、どうしてあなたが泣くの?」

 

「僕達の・・・僕達のせいなの・・・」

 

「エッ!?どういう事?」

 

「そ、それは・・・」

 

 あゆみは表情を曇らせ、エンエンをジィと見つめると、エンエンは涙目のままグレルを見つめた。ドキリとしたグレルだったが、エンエンを睨み、

 

「何だよ、その目は!ハッキリ言えば良いだろう!!言えよ、俺の所為だって!!」

 

「ウッ・・・ウワァァァァン!」

 

「泣き虫!泣くなよ・・・泣く・・・」

 

 感極まり、グレルの目にも涙が溜まった。あゆみはジィと見ながら頭の中で推理し、考えを纏めると、二人を険しい表情で見つめ、

 

「ま、まさか、みんながおかしくなったのは・・・」

 

「「ゴメンなさい!ゴメンなさい!!」」

 

「お喋りな奴らめ!」

 

 あゆみはもっとハッキリした事を知りたくて、エンエンとグレルを問い詰めようとしたその時、あゆみの背後から不気味な声が掛かり、思わずあゆみは恐る恐る背後を振り向いた。そこには不気味な闇が広がり、声はその闇の中から聞こえていた。それを見たエンエンとグレルの表情が青ざめた。闇から伸びた手が、エンエンとグレルの口を塞ぐと、二人の口にガムテープのような物が貼られ、二人が苦しそうに唸った。

 

「クククク、少し黙るが良い!」

 

「エンエン!グレル!あなたは・・・誰!?どうして二人にこんな酷い事を?」

 

 あゆみは気丈に闇の中の人物、ソドムに声を掛けた。ソドムは声のトーンを抑えながら、

 

「俺か!?俺はソドム・・・お前の味方だ!」

 

「味方!?どういう事?」

 

「俺は全て見ていた!そこの二人は、プリキュア達に頼まれ、お前を引き留める為の時間を稼ぐ囮役・・・あいつらは酷い奴らだ!!お前があの場に居ないのを良い事に、元々プリキュア教科書に載っていたお前のページを破り、あたかもお前の存在など知らないように仕組んだ!!」

 

 ソドムの言葉を聞いていたあゆみの顔は、見る見る表情を強張らせ、エンエンとグレルは必死に首を横に振り、違うとあゆみに伝えようと試みるも、あゆみはソドムに気を取られ、そんな二人に気付かなかった。

 

「みんなが!?嘘よ!そんな事無い!!みんなは私の大切な仲間達・・・みんなが、プリキュアのみんなが、そんな酷い事する訳無い!!!」

 

「そのお前が大切に思っている仲間達が、お前に何をした?」

 

「それは・・・・・」

 

 ソドムに看破され、あゆみは思わず言葉に詰まった・・・

 

 ソドムの言葉を否定したくても、現にプリキュアの仲間達は、自分の存在を否定したのだから・・・

 

「そうだ!あんな意地悪な奴らは放っておけばいい!!お前の力を必要としている者達の為に使うべきだ!!!」

 

「私の力を必要としている者・・・そんな人が居るの?」

 

「ああ、居る!俺と共に来い!!力を貸してくれ・・・坂上あゆみ!!いや、キュアエコー!!!」

 

「「ウゥゥゥゥゥウ!!」」

 

 エンエンとグレルは激しく首を振り、ソドムの言っている事はデタラメだから、話を聞いちゃ駄目だと伝えようと試みるも、あゆみは以前のグレル同様、ソドムの術中に嵌りかけていた・・・

 

 プリキュアの仲間達は、自分の存在を否定した・・・

 

 その心の隙間を付いたソドムの甘言に、あゆみは引き込まれようとしていた。そんなあゆみを、正気に戻す声が上空から聞こえてきた。

 

「あゆみぃぃ!迎えに来たカゲェェ!!」

 

「ピギャァァ!!」

 

「あゆみ、メップル達と一緒に帰るメポ!」

 

「あゆみの事は、ミップル達がちゃんと覚えてるミポ!だから泣かないでミポ!!」

 

「魔王、ピーちゃん、メップルにミップルも・・・私の事、覚えて居るの?」

 

 魔王達は、自分の事をちゃんと知っていてくれる。ただそれだけの事なのに、あゆみの両目からポロポロ涙が零れる。悲しい涙では泣く、嬉し涙が・・・

 

 そんなあゆみを見た魔王達は、あゆみを安心させるように笑みを浮かべながら、

 

「何当たり前の事言ってるカゲ?」

 

「ピギャァァ!」

 

「ピー助も、ちゃんと覚えてるって言ってるカゲ!」

 

「ちゃんとあゆみの事も、プリキュア教科書に載ってたメポ!だから、安心して良いメポ!!」

 

「エッ!?でも、さっきは・・・」

 

「あゆみのページの上に、妙な生き物が張り付いて、エコーのページを隠してたミポ!」

 

「だからなぎさ達も、あゆみの言ってた事が正しいと気付いたメポ」

 

「みゆき達からあゆみの記憶が消えたのも、きっと何か理由があるカゲ・・・ン!?アァァ、お前達は?」

 

 エンエンとグレルに気付き、魔王が二人を見て目を吊り上げた時、妖精学校の方から大きな物音が聞こえた。

 

(チッ!余計な奴らが・・・まあ良い、クラーケンが動き出したようだ!ククク)

 

 ソドムは軽く舌打ちするも、クラーケンが動き出したと知り、不気味に口元に笑みを浮かべた。

 

 

 

 妖精学校は、巨大な魔物に襲われていた・・・

 

 ソドムが魔界より召喚した、30メートル以上はありそうな巨大なイカに似た白い悪魔、巨大なる魔獣クラーケンは、妖精学校の上に覆い被さり、妖精学校に巻き付いた。ミシミシ不気味な音を立てる校舎に、生徒達が怯えるのを、なぎさ達やココ達、アン王女も、そんな生徒達に声を掛け励ました。触手は不気味にウネウネ動き、妖精学校校内へと進軍しようと試みる。一同は慌てて教室の窓を閉め、なぎさは変顔浮かべながら、

 

「何て都合の悪い時に現われるのよぉ!」

 

「不味いわね・・・現状では、私達誰もプリキュアに変身出来ない!」

 

 ゆりは険しい表情でポツリと呟いた。変身アイテムはエンエンとグレルに奪われ、メップルとミップルはあゆみを迎えに行っていて、なぎさとほのかもプリキュアにはなれなかった・・・

 

 

 不気味な咆哮が妖精学校の方から聞こえ、一同が背後を見つめると、森の頭上に蠢く白い物体が見えた。

 

「な、何!?あれは一体?」

 

 巨大な何かが妖精学校の側に居る・・・

 

 あゆみや魔王達に緊張が走った!

 

「何だかヤバイ気配を感じるカゲ・・・あゆみ、みゆき達はそこに居るエンエンとグレルに変身アイテムを奪われて、プリキュアになる事が出来ないカゲ!」

 

「エッ!?エンエンとグレルが?それでさっき、私に謝って・・・」

 

「なぎさとほのかも、メップルとミップルが此処に居るから、プリキュアにはなれないメポ」

 

「あゆみ、みんなを助けて欲しいミポ」

 

「みんなが!?・・・・・・」

 

 一瞬顔色を変え、スィンクパクトを手に持ったあゆみだったが、思わずみんなからのさっきの仕打ちを受けた事が脳裏に浮かび、変身するのを躊躇(ためら)った。

 

 魔王は小首を傾げると、闇の中のソドムがククククと笑い声を上げ、

 

「そうだ、あゆみ!あんな薄情な奴らは放っておけば良い!!さあ、俺と一緒に行こう!!!」

 

 ソドムがあゆみに不気味な手を伸ばすと、魔王とピーちゃんがソドムとあゆみの間に割って入り、

 

「お前は誰カゲ!?お前からは、邪悪な匂いがプンプン漂ってるカゲ!」

 

「ギャァァス!」

 

(何だ!?この黒い奴、何処かで会った事があるような・・・)

 

 魔王を見たソドムは、違和感を覚えて居た。魔王から発せられる気配を感じると、苛ついてくるのが自分でも分かった。

 

 エンエンとグレルは、一同に真相を話そうと懸命に口に付いたテープを取ろうとしていた。メップルとミップルは、そんな二人の側に近寄り、口に付いたガムテープのようなものを取るのを手伝うと、二人の口に貼られていたテープが何とか取れ、二人の口元は赤くなっていた。

 

「お前達、みんなから奪った変身アイテムを返すメポ!」

 

「ポルン、ルルン、起きてミポ!」

 

 だが、ミップルが呼び掛けても、ポルン達からの返答は無かった。エンエンは首を振り、

 

「違うの!僕達、そこの闇の中に居る人に言われて・・・」

 

「プリキュア達の変身アイテムは、あいつに渡しちゃったんだ!」

 

「「「「エェェ!?」」」」

 

「それに、キュアエコーの事を他のプリキュア達が忘れちゃったのも、そいつに指示された箱を教室で開けてから何だ!」

 

「「本当にゴメンなさい!!」」

 

 エンエンとグレルは、心から反省しているように、あゆみや魔王達に泣きながら謝った。ソドムは、全て露見したことで本性を現わし、エンエンとグレルから渡された変身アイテムが入ったカバンを一同に見せ、

 

「クククク、全くお喋りな奴らだ・・・まあいい、奴らの変身アイテムは・・・この通り俺の手の中にある!後は貴様を連れ帰れば、それで全て片が付く!もっとも、他のプリキュアの奴らは邪魔なだけ、クラーケンによって始末されるがなぁ!!!」

 

「何ですって!?」

 

「クククク、もう一つ教えてやろう!貴様の仲間達が、何故貴様の記憶を失ったか分かるか?奴らの脳には、記憶を喰らう空魚が居るからだ!空魚は生物の記憶を好んでいてなぁ・・・それを利用し、あの教室に居た者共の記憶から、貴様の記憶を空魚に喰らわせた!更に、貴様の事が書かれていたページに、空魚を潜り込ませてそのページを見えなくしてやった!貴様の顔を見た他のプリキュア達の表情は傑作だったぞ・・・クククク!!」

 

「そんなぁ・・・じゃあ、じゃあ、みんながおかしくなったのは・・・全てあなたの所為だったの?許せない・・・許せない!」

 

 あゆみはキッと闇の中のソドムを睨み付けた!

 

「プリキュア!スィンクチャージ!!」

 

 あゆみがスィンクパクトにリボンデコルをセットし、白い光のパフを塗っていくと、塗られた箇所に白い衣装が身に着けられていく・・・

 

 髪は茶色からクリーム色へと変化し、両脇をリボンで止めている三つ編みの髪が、足下まで伸び、胸とお腹辺りに大きなリボンを付けていた。

 

「思いよ、届け!キュアエコー!!」

 

 変身を終えたエコーの勇姿を、エンエンとグレルは目を輝かせながら見つめていた・・・

 

 

3、悪い事をしたと思っているのなら

 

 変身を終え身構えたエコーが、険しい表情で闇の中に居るソドムを見つめる。

 

「みんなから奪った、変身アイテムを返して!」

 

「返す!?バカめ!これは我らの悲願を達成させる為に使えるやも知れん物・・・誰が返すか!!」

 

「だったら・・・ハァァァ!」

 

 エコーは闇に向かい攻撃を開始した!

 

 エコーのパンチが、キックが、闇に浴びせられるも、ソドムは不気味に笑い、

 

「クククク、今の俺は闇と同化している・・・その俺に、物理攻撃など効くと思っているのか?」

 

「クッ!」

 

 一先ず距離を取ったエコーが、どうソドムと戦うか思案していると、魔王とピーちゃんがエコーの側に近付き、

 

「俺達も手を貸すカゲ!」

 

「ギャァァス!」

 

「フン!目障りな奴らだ・・・一撃で終わらせてやる!何が起こったか分からぬ内になぁ・・・」

 

 ソドムの目が不気味に輝いた時、妖精学校周辺は沈黙した・・・

 

 時を止めたソドムによって、エコーも、魔王も、メップルとミップルも、エンエンとグレルも動きを止めた。ソドムは不気味な笑い声を響かせ、

 

「クククク、さあ黒いの、貴様から消えろ!!」

 

 ソドムが魔王に止めをさそうと、闇から両手を出した瞬間、ピーちゃんの目が逆に妖しく輝いた。

 

「ギャァァァス!!」

 

 油断していたソドムは、体当たりしたピーちゃんの攻撃でバランスを崩し、

 

「な、何だと!?貴様、動けるのか?・・・し、しまった!?」

 

 バランスを崩した事で、ソドムの腕から変身アイテムが入ったエンエンとグレルのカバンが地上に転がった。それを合図にしたように、再び沈黙していた時が動き出し、

 

「ギャァァァァァァス!」

 

 ピーちゃんの発した言葉を受け、魔王はハッとした表情を浮かべると、

 

「何!?変身アイテムが?」

 

「あれは、僕達のカバン・・・グレル!」

 

「オオ!!」

 

 気付いたエンエンとグレルが、自分達のカバンを取り戻そうと必死に駈け出し、気付いたソドムが、カバンを奪い返そうと鱗に覆われた不気味な両腕をグングン伸ばす、

 

「二人の邪魔はさせない!」

 

 エコーはソドムの両腕を両脇で押さえ込み、ソドムの動きを封じた。その隙を付き、エンエンとグレルはカバンを取り戻した。ソドムは忌々しげに、

 

「クッ!邪魔をするな!」

 

「エンエン、グレル、本当に悪い事をしたと思って居るのなら・・・それを持って、みんなに返しに行って!!」

 

「ぼ、僕達が!?でも、みんな・・・」

 

「こんな事した俺達を、許してくれる筈無いぜ」

 

「本当に心から悪い事をしたと思って居るのなら、みんななら必ずあなた達を許し、受け入れてくれる・・・」

 

 エコーの檄を受け、顔を見合わせたエンエンとグレルは大きく頷き、クラーケンに襲われている妖精学校目掛けて駈け出した。

 

「ミップル、メップル達も行くメポ!」

 

「はいミポ!」

 

 メップルとミップルも、エンエンとグレルの後を追うように駈け出した。それを見届けたエコーが、闇の中に居るソドムをキッと睨むも、魔王はエコーに話し掛け、

 

「あゆみ、お前がコイツを許せない気持ちは分かるカゲ・・・でも、今はみゆき達を助けてやって欲しいカゲ!こいつは、俺とピー助で相手をするカゲ!!」

 

「ギャァァァス!」

 

 魔王の言葉に、ピーちゃんも同意したかのように返事を返した。ソドムの事は許せない、でも、今は大切な仲間達を救うのが先決だとエコーは判断すると、魔王とピーちゃんにコクリと頷き、

 

「魔王、ピーちゃん・・・分かった!此処をお願い!!」

 

「待て!貴様は・・・」

 

「お前の相手は俺達カゲ!」

 

「ギャァァァス!」

 

「チッ、妖精風情が・・・良い気になるなよ!」

 

 魔王とピーちゃん、そしてソドムから凄まじい気がぶつかり合った。

 

(待ってて、みんな!今行くから!!)

 

 この場を魔王とピーちゃんに託し、エコーは踵を返すと、妖精学校目指して駈け出した・・・

 

 

          第八十八話:あゆみの涙とエコーの決意

                   完

 




 思ったより早く書き終わりましたので投稿致します!

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