プリキュアオールスターズif   作:鳳凰009

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第七十四話:みゆきとニコ

1、絵本の主人公達

 

 みゆきは、暗い闇の中を一人彷徨っていた・・・

 

 まだ意識が朦朧(もうろう)としている中、必死に辺りを見渡すも何も見えない!

 

(私、一体!?・・・エッ!?私、何で裸なの?)

 

 自分の体を見たみゆきは、何も服を身に着けて居らず、発育途中の健康的な裸体姿である事に困惑した。何で自分は裸になってるのか、頬を染め動揺していたみゆきは、遠くの方で微かな光を見付けた。その光に導かれるように進んで行くと、みゆきは見覚えある風景を見た。裸で居る事を忘れたかのように・・・

 

(この場所・・・間違いない!お婆ちゃんのお家だ!!でも、どうして!?)

 

 みゆきは、何故祖母タエの家に居るのか小首を傾げていたが、そんな部屋の中に、3、4歳の女の子が、嬉しそうに本を抱えて入ってきた。みゆきは、入ってきた女の子を見ると目を見開いて驚き、

 

「この子は・・・私!小さい頃の私だ!!・・・・・って事は、私、死んじゃったのかなぁ?」

 

 みゆきも、絵本や童話ばかり読んでいる訳でも無く、最近はあかねややよいに薦められ、漫画やアニメを、れいかに薦められ、普通の小説も読むようにはなっていた。だが、まだ圧倒的に好きな絵本を読む方が多いのだが・・・

 

(人は死ぬ間際、走馬燈(そうまとう)のように昔の事を思い出すとか、あかねちゃんに脅かされたっけ・・・)

 

 自分は死んでしまったから、裸のままで居るのだろうか?

 

 みゆきにフッと寂しさが沸き上がった・・・

 

 大好きな両親や祖母、学校の友達や佐々木先生、そして、大切なプリキュアの仲間達、キャンディやポップの妖精達共、もう会う事は出来ないのかと思うと涙が零れて来た。そんなみゆきとは対照的に、絵本を読んでいる幼いみゆきは、楽しそうに声を出して絵本を読んでいた。

 

「ニコちゃんは言いました。喧嘩何か止めて、みんなで楽しく遊びましょう。仲良くなるには・・・笑顔が一番!熊さんも、狼さんも、喧嘩を止めると笑顔で手を握りました!!」

 

(そう言えば、言い合いをしていた響さんと奏さんの事を、世界絵本博覧会で注意してた女の子達も居たなぁ・・・ン!?今小さい私は、ニコちゃんって・・・アッ!?)

 

 みゆきはハッとしたように、幼い自分の背後に回り込むと、そっと後ろから絵本を覗き見た。その絵本に描かれていたニコという女の子は、間違いなくニコその人であった。みゆきの記憶がどんどん甦ってくる。

 

(そうだ・・・小さい頃引っ込み思案だった私は、中々お友達が作れず、いつも一人で遊んでた。そんな私に、笑顔の大切さを教えてくれたのは・・・ニコちゃんだったんだ!!)

 

 母育代が身体を壊し入院していた一ヶ月の間、みゆきは祖母タエの家で暮らしていた。引っ込み思案だったみゆきは、タエの家から出ようとせず、何時も家の中で過ごしていた。見かねたタエは、みゆきに昔話を聞かせたり、絵本を買ってきて、読み聞かせて上げると、みゆきは目を輝かしてタエの話を聞いていた。母育代からも絵本を読んで貰っていたが、そこは年の功、タエの語り口は幼いみゆきの心を刺激し、みゆきは絵本が大好きになり、絵本の内容の真似をして、外に出掛けるようにもなっていった・・・

 

 そんなみゆきの思いを表すように、幼いみゆきは絵本に書いて有る通り、鏡に向かって笑顔を向けてみる。そんな幼いみゆきを見て、

 

(そう・・・そして、私は何度も笑顔の練習をしていて、偶々(たまたま)お婆ちゃんの家の近所の子にその姿を見られた事が切っ掛けで、初めてお友達が出来た!それも、ニコちゃんのお陰!!)

 

 どんどん幼き日の記憶が、みゆきの脳裏に甦って来る・・・

 

 絵本のニコの言う通り、笑顔で話し掛けた時、みゆきの周りには沢山の友人達が出来ていった。

 

「みんな笑顔でウルトラハッピー!!」

 

 みゆきの口癖にもなったこの言葉は、ニコがもたらしてくれたものだった・・・

 

(思い出した!お婆ちゃんと一緒に、公民館で要らない絵本を貰ったのが・・・ニコちゃんの絵本!私は、ニコちゃんの絵本を読むのが楽しみだった・・・でも、途中でページが破れてたんだ!!ニコちゃんを可哀想に思った私は、絵本の続きを書こうと・・・)

 

 前にのぞみの家で、のぞみの家族と話して居た時、小さい時に絵本を書いてみようと思ったのは、ニコの本であったと思い出したみゆき、その顔は悔恨(かいこん)を浮かべていた・・・

 

 何故忘れていたんだろう?

 

 みゆきの心の中に、ニコへの罪悪感(ざいあくかん)が生まれていた。

 

(出来るなら、ニコちゃんに会って謝りたい・・・私に笑顔の大切さを教えてくれたニコちゃんに、ちゃんとお礼を伝えたい!でも・・・)

 

 今の自分は、もうみんなと会う事は出来ないのでは無いか?そんなみゆきの不安通り、再びみゆきの身体は闇の中へと消えて行った・・・・・

 

 

 

「みゆきぃぃ!お願い、目を開けて・・・みゆきぃぃぃ!!」

 

 みゆきの下に辿(たど)り着いたニコは、みゆきを抱き抱え、必死に声を掛けみゆきを揺さぶるも、みゆきは目を覚まさなかった。

 

(ニコ・・・お前!?)

 

 魔王は、みゆきの名を叫びながら涙するニコの姿を、呆然と見続けていた・・・

 

 みゆきの名を叫び続けるプリキュア達、だが、みゆきからの反応が返ってくる事は無かった・・・

 

「嘘・・・や!嘘や嘘や嘘や・・・嘘やぁぁぁぁ!!」

 

 ボロボロ大泣きしながら、サニーがみゆき目掛け這いずる。

 

「みゆきちゃん、お願い・・・返事してぇぇ」

 

 涙と共に出る鼻水を啜りながら、ピースもまた必死にみゆき目掛け這いずる。

 

「嘘だよ・・・嫌だよ・・・みゆきちゃん・・・みゆきちゃぁぁぁん!!」

 

 蹌踉(よろ)めきながらも、何とか立ち上がったマーチの目からも大粒の涙が零れた。

 

「こんな・・・こんな事・・・信じられません!!みゆきさん!みゆきさぁぁん!お願い、目を、目を開けてぇぇぇ!!」

 

 ビューティもまた涙を流しながら、必死にみゆきの名を叫び続けるも、みゆきから返事が返って来る事は無かった・・・

 

「そんなぁ・・・みゆきちゃん、みゆきちゃぁぁん!・・・アンデとルセンの時のように、私の目の前でみゆきちゃんが、みゆきちゃんがぁ・・・・・イヤァァァァァ!!」

 

 エコーはその場に膝から崩れ落ち、顔を覆って泣きじゃくった・・・

 

 

 

「ククク、僕の偽物などになるから・・・惨(みじ)めな最期だったねぇ?僕の手で止めを刺せなかったのは残念だったけどさ!」

 

「「黙れ!!」」

 

 みゆきを見て嘲笑(あざわら)っていたピーターパンを、凄まじい形相でブライトとウィンディが睨み付けた。二人は鬼気迫る表情で、ピーターパン目掛け一歩一歩歩を進めると、

 

「絵本の世界に混乱を招かないように、私達は遠慮していた・・・けれど、大切な仲間を嘲笑ったお前は・・・・・許さない!!」

 

「もう、遠慮はしない!例え、絵本の内容が変わる事になったとしても・・・」

 

「「お前は、私達が倒す!!」」

 

「おお、怖い怖い・・・」

 

 戯けるピーターパンに対し、二人が今にも襲いかかろうとするのを、背後からブルームとイーグレットが、二人の肩を掴み止めた。ブライトとウィンディは、険しい表情で振り返るや、二人に食って掛かりそうな表情を浮かべると、

 

「ブルーム!イーグレット!どうして止めるの?」

 

「あなた達は・・・みゆきを嘲笑ったこいつを、何とも思わないの?」

 

 顔を見合わせたブルームとイーグレット、悲しげな表情を浮かべたその瞳には、うっすら涙すら滲(にじ)んでいた・・・

 

 二人も、みゆきをあんな目に合わせた魔王に、嘲笑ったピーターパンに、怒りを覚えない筈は無かった。二人はブライトとウィンディを諭すように、

 

「私達だって、許せる訳無い!でもね、こんな事みゆきちゃんは・・・きっと望んでないよ!!」

 

「彼女が大好きな、この絵本の世界を元に戻す事・・・それこそ今、私達がするべき事何じゃないかしら!?」

 

 二人の言葉を受け、ブライトとウィンディは返す言葉が浮かばなかった。みゆきなら確かにそう思うかも知れないと・・・だが、まだ二人は承服しかねる顔を浮かべていると、ピーターパンは口元に笑みを浮かべながら、

 

「おやおや、随分甘い事を言うんだねぇ・・・絵本の世界を元に戻す?これこそが、僕達の望む絵本の世界なのさ!!」

 

「本当にそうかしら?あれを見てごらんなさい!!」

 

 イーグレットが海賊船を指さすと、海賊船から身を乗り出すようにしてみゆきの名を叫ぶ、キャンディ達妖精の面々に混ざり、ネバーランドの子供達も泣きながら何かを叫んでいた。その声がピーターパンにも聞こえてくる・・・

 

「ピーターパーン!その子を助けて上げてぇぇぇ!!」

 

「ウッ!?・・・・・・」

 

 必死に叫ぶ子供達の声が、ピーターパンの心に次第に大きな声となって響いていった・・・

 

 

 

 生死を彷徨(さまよ)うみゆきの側に、直ぐにでも駆け付けたい・・・

 

 ドリーム達の思いは一つ・・・

 

 だが、それには目の前のシンデレラをどうにかする事が先決だった。鋭利に尖ったガラスの靴を上手く使い、フィギアスケートの選手のように華麗に舞うシンデレラは、ご満悦な表情を浮かべながら、

 

「どうかしら!?この華麗な舞いは?私の王子様に手を出そうとした醜い者共には、到底真似など出来ないわよねぇ?」

 

 そんなシンデレラを、プリキュア5も、ローズも、哀れみの視線で見つめた。

 

「ええ、今のあなたの真似など出来ないし・・・したくも無い!」

 

「今のあなたは・・・私達が知っているシンデレラでは無いもの!」

 

「そうです!今のあなたは・・・」

 

「「「心が汚れたシンデレラですもの!!」」」

 

「な、何ですってぇぇ!?」

 

 そう言いながら、アクアが、ミントが、レモネードが、シンデレラを指差すと、自分の心が汚れていると、名指しされたシンデレラは不愉快そうな顔を浮かべ、

 

「この私が、心が汚れたシンデレラですってぇ!?取り消しなさい!!」

 

「取り消す!?・・・あなた、今の自分の顔を良く見てみたら?」

 

「今のあんたの顔は・・・あんたを虐めていた意地悪な継母(ままはは)や、意地悪な姉達と・・・何の変わりも無い!!」

 

「な、何を!?」

 

 ローズとルージュも、そんなシンデレラに険しい視線を向けながら、今のシンデレラは、自分の事を虐めていた継母達と、何の変わりも無いとシンデレラに伝える。動揺するシンデレラを諭すように、悲しげな表情のドリームは、

 

「シンデレラ・・・良く思いだして!私達や、みゆきちゃんが憧れていた・・・絵本の主人公、シンデレラの心を取り戻してぇぇ!!」

 

「・・・・・・・・」

 

(今の私が・・・お姉様達やお母様と同じですって?)

 

 ドリーム達の声を受け、シンデレラの心の中で、葛藤(かっとう)が生まれようとしていた・・・

 

 

 

 釣り竿をビュンビュン振り、釣り糸を巧(たく)みに操り攻撃する浦島太郎、素早い動きでピーチ達を攪乱(かくらん)する人魚姫の攻撃に、苦戦していたピーチ達四人であったが、みゆきの現状を目の当たりにし、その表情が一気に変わっていた。ピーチは、二人の攻撃をわざと受けると、二人の手を力一杯掴み、動きを封じた。動揺する二人に対し、パッション、ベリー、パインは、

 

「もう止めて!あなたは、虐められていた亀を助ける程の正義感の持ち主・・・そんなあなたなら、魔王の呪縛(じゅばく)何か、はね除けられる筈よ!!」

 

「あたし達は、あなた達と戦う為に、この絵本の世界に来たんじゃないの!!」

 

「人魚姫さん、浦島太郎さん、お願い!子供達が憧れた絵本の主人公に戻ってぇぇ!!」

 

 パッションが、ベリーが、パインが、浦島太郎と人魚姫の説得を試みる。尚も暴れようとする二人に、悲しい視線を向けたピーチは、

 

「あなた達は、遭難した王子様を、子供達に虐められていた亀を、身を持って助ける事が出来る優しい人・・・だから、王子様も、乙姫様も、あなた達の事を大切に思ってた。物語的には、悲しい結末なのかも知れない・・・でもね、私達はあなた達のお話を読んで、色んな事を学ぶ事が出来たの!!」

 

「「・・・・・・」」

 

「私が子供の頃の事だから、記憶の彼方に忘れていた事だったけど・・・あそこに居る絵本が大好きなみゆきちゃんが、私達にあなた達との思い出を呼び覚ましてくれた!お願い!!みゆきちゃんの気持ちを・・・無駄にするような事はしないで!!!」

 

 ピーチの魂からの叫びを聞き、人魚姫と浦島太郎の二人は、ニコに介抱されるみゆきをジッと見つめた。お互い顔を見合わせた二人は、心の奥底にあった疑問が沸々(ふつふつ)沸き上がってくる。

 

 何故自分達は、みゆきと言う少女達と戦うのだろうか?と・・・

 

 

 

 桃太郎の剣捌(さば)きを巧みに躱すムーンライト、ニコに介抱され横たわるみゆきの事も気掛かりであったが、気を抜けば桃太郎の繰り出す刀を受け、致命傷に成りかねない現状に憂慮していた。

 

「ブロッサム、マリン、サンシャイン、私が囮(おとり)になるから、みゆきの下に行ってあげて!」

 

「そうしたいのは山々何だけどさぁ・・・この猿すばしっこくて!」

 

「そこを退いて!!」

 

 険しい表情を浮かべたマリンとサンシャインが、足止めする猿、犬、雉を、少しイライラしたように手で追い払おうとすると、三匹は呼吸を計ったように飛び退いた。だが、三匹の表情は、何処か憂(うれ)いを帯びていた。それに気付いたサンシャインは小首を傾げ、

 

(三匹は、ひょっとしたら・・・)

 

 サンシャインが思案していたその時、俯(うつむ)いたブロッサムは、思いっ切り顔を上げると、

 

「いい加減にして下さい!それでも、悪い鬼さんから困っている人々を守って来た人達のする事ですか?私、堪忍袋の緒が・・・・・切れましたぁぁ!!」

 

「いや、犬、猿、雉は人じゃないと思うけど?」

 

「マリン!少し黙ってて下さい!!」

 

「はい・・・」

 

 ブロッサムの気迫が、犬、猿、雉、そして、マリンを萎縮(いしゅく)させる。桃太郎は、ムーンライトから距離を取り、犬、猿、雉を怒鳴りつけるも、ブロッサムは桃太郎を指さすと、

 

「今のあなたは・・・子供達のヒーロー何かじゃありません!今のあなたを見たら、きびだんごを作ってくれたお婆さんも、心配しながら送り出してくれたお爺さんも、きっと、きっと悲しみます!!」

 

「な、何だと!?」

 

「犬も、猿も、雉も、きびだんごを分けてくれたあなたを慕い、共に鬼退治に出た仲間の筈です!そんな仲間に、酷い事言わないで下さい!!」

 

 そう言ったブロッサムの視線が、ニコに介抱されるみゆきへと向けられると、桃太郎の視線も釣られるようにみゆきを見た。

 

(そう言えば、あいつもこいつらの仲間だったな・・・)

 

「ご託を並べてくれたわりに、自分達の仲間があんな目に遭って居るのに、随分薄情じゃないか?」

 

「みゆきは・・・こんな事で決して死んだりしない!私達は、それを信じてる!!」

 

「犬、猿、雉も、きっと何時ものあなたに戻ってくれると信じて居るから、悪い事をしていると思っても、あなたの為になると信じて、私達と戦って居ると思う!!」

 

「何!?」

 

 ムーンライトが、サンシャインが、哀れみの視線を向けながら桃太郎を諭す。ブロッサムはマリンを促し、二人でタクトを取り出すと、

 

「あなたの心に巣くう闇を、私達が払って見せます!マリン、行きますよ!!」

 

「やるっしゅ!」

 

「花よ、輝け!プリキュア!ピンクフォルテウェ~イブ!!」

 

「花よ、煌け!プリキュア!ブルーフォルテウェ~イブ!!」

 

 二人から放たれたフォルテウェーブが、桃太郎目掛け飛ぶと、犬、猿、雉が桃太郎を庇うように前に飛び出した。桃太郎は目を見開き、

 

「お、お前達・・・」

 

 桃太郎の目から涙が零れた・・・

 

 自分は何をしていたのだろうかと・・・

 

 桃太郎は逆らう事を止め、犬、猿、雉を抱きしめながら、フォルテウェーブの光に身を預けた・・・

 

 

 

 ランプの魔神が繰り出す魔法の数々に、メロディ達は苦戦していた・・・

 

「どうだ、ランプの魔神の力は?」

 

 高笑いを浮かべるアラジンを、メロディ達四人はキッと睨み付ける。こんな所でモタモタしてられない、みゆきの下に駆けつけたいと・・・

 

「アラジンだけなら、何とでもなるのに・・・」

 

「あのランプの魔神を何とかしなきゃ」

 

「ええ、でもあの魔法はやっかいね・・・」

 

 四人は、次々繰り出される魔神からの魔法攻撃の数々に防戦一方だった。ミューズは少し考え込むと、小学校の図書室で読んだアラジンの話を思い浮かべた・・・

 

 ミューズは、アラジンにはもう一人、指輪の魔神が登場した事を思い出した・・・

 

「メロディ、リズム、ビート、私に考えがあるの!ランプの魔神を、アラジンから遠ざけるように戦って!!」

 

「何か考えがあるのね?分った!」

 

 ミューズの提案を受け入れたメロディ、リズム、ビートは、魔神をアラジンから遠ざけるような戦い方を始めた。アラジンは苛々したように、

 

「魔神、そんな奴らさっさとやっつけろ!!」

 

 手を振り回すアラジンの隙を見付けたミューズは、アラジンに飛び掛かると、指輪を擦って見た。すると、指輪から黙々(もくもく)煙が現われると、ランプの魔神より一回り小さい、指輪からもう一体の魔神が姿を現わした。

 

「お呼びでございますか!?ご主人様?」

 

「おお、そうだった!俺には指輪の魔神も・・・」

 

「呼び出したのは私よ!」

 

「畏まりましたご主人様・・・何かご用でも?」

 

「な、何ぃぃ!?」

 

 指輪の魔神を呼び出したのが、ミューズだと知った魔神は、ミューズに畏まり、何なり願い事を言うように伝えると、アラジンは激しい動揺を見せた。

 

「あなたに、ランプの魔神をどうにかしてもらいたいの・・・出来る?」

 

「少々難題ですが、動きを封じるぐらいならば・・・では!!」

 

 指輪の魔神は、そう言うとランプの魔神の下へと飛び去った。ランプの魔神に追い回されたメロディ達三人は、障害物競走のように、ランプの魔神が繰り出す罠を駆け抜けて行く。

 

「ミュ、ミューズ、まだなのぉぉ?」

 

「私・・・もう駄目ぇぇ」

 

「リズム、しっかり・・・って、ギャァァァァ!オバケェェェ!!」

 

 リズムを励ましていたビートだったが、魑魅魍魎(ちみもうりょう)にまで追い回され、絶叫しながら逃げ回った。もう限界が近付いたのか、リズムがヘロヘロになったその時、指輪の魔神が背後から忍び寄り、ランプの魔神の動きを止めた。

 

「お前は!?何をする?」

 

「私のご主人様の命令だ!少しの間おとなしくしていて貰うぞ!!」

 

「「「た、助かったぁぁぁ」」」

 

 ミューズの機転で、何とか危機を脱したメロディ、リズム、ビートの三人も、ミューズに合流するようにアラジンの前にやってくると、

 

「ま、待て!俺に何かしたら魔神が黙ってないぞ!!おい、魔神!!!」

 

「も、申し訳ありません!こ奴に動きを封じられていて、魔法を使う事が出来ません!!」

 

「な、何だとぉぉ!?」

 

 頼りの魔神が動きを封じられ、アラジンに焦りが生じる。ミューズはアラジンを指さすと、

 

「観念する事ね!お話の通り、心を入れ替える良い機会よ!!」

 

「何を!?」

 

「音吉さんの本で読んだわ!あなたは、最初こそどうしようもない生活を送っていた。でも、心を入れ替えたあなたは、やがては国を治め、人民に慕われる程の人格者となった・・・今の絵本の世界をよく見てぇ!!」

 

「これがあなたの望む世界なの?」

 

「違うよね?あなたなら・・・私達の言葉を分ってくれる!!」

 

 ミューズの言葉に続くように、ビートが、リズムが、そしてメロディが、アラジンに訴えるように言葉を続けていった。

 

「俺が望む世界!?・・・・・・」

 

 アラジンは、改めて闇に包まれた絵本の世界を見渡した・・・

 

 アラジンの心の中に、絵本の世界に住む住民達の、嘆きの声が聞こえてくるかのようだった・・・

 

 

 

「ダダダダダダダダダダ!!」

 

「ドラララララララララ!!」

 

 孫悟空と激しい肉弾戦を繰り広げるブラック、こんな所で足止めをされている間にも、みゆきの身がどうなっているのか心配だった・・・

 

「いい加減にして!私はみゆきの側に行きたいの・・・あんた達に構ってる暇は無いの!!」

 

「そんな事、俺様の知った事か!」

 

 猪八戒、沙悟浄の攻撃を回転しながら捌き、二人を投げ飛ばしたホワイト、三蔵法師は不甲斐ない二人に檄を飛ばし、

 

「八戒!悟浄!お前達、悟空を見習いなさい!!そんな小娘に何を手間取っているんです!!!」

 

 そんな指示を出す三蔵法師を見たホワイトの顔付きが変わった・・・

 

「あなたねぇ・・・それでも尊い経本を取りに、天竺に向かおうとする徳の高いお坊様の言葉ですか?」

 

「お黙りなさい!この私に説教などと・・・身の程を知りなさい!!」

 

「身の程を知るのは・・・あなたの方よ!!」

 

 普段、感情剥き出しで怒る事など、滅多に無いホワイトだったが、世界絵本博覧会で、この絵本の世界で、自分が演じた三蔵法師のこのような暴挙を許せなかった・・・

 

「あなたには、この世界の人々の嘆きが、私達の悲しみが分らないの?そんな事も理解出来ないあなたに・・・説法を行う資格など無いわ!!」

 

(おのれぇ、小娘の分際でぇ・・・だが、この世界の人々の嘆き!?小娘達の悲しみ?)

 

 ホワイトの説教を、忌々しそうにしていた三蔵法師ではあったが、心の中でホワイトの言葉が繰り返されると、改めてこの闇に覆われた空を見上げた・・・

 

 

 

「ドスコイ!ドスコイ!ドスコイ!」

 

 サニー達を狙う金太郎の攻撃を、ルミナスは必死にバリアを張って耐え続けて居た。張り手の連打を浴びせるものの、ルミナスの強固(きょうこ)なバリアは、その攻撃を完全に防ぎ続ける。金太郎は忌々しそうに四股を踏み直すと、

 

「張り手が駄目なら・・・体当たりだ!!」

 

 金太郎は両頬を叩き気合いを込めると、ショルダータックルのように、肩から激しくルミナス目掛けぶつかってきた。その衝撃でルミナスの身体が少しずつ後ろへと押されるものの、何とか耐え凌(しの)ぎ続ける。

 

「止めて!何故あなたは私達を目の敵にするの?」

 

「ハァ!?それはお前達が、魔王様の敵だからに決ってるだろう!!」

 

「違う!それはあなたの意思何かじゃない!!だって、あなたは・・・動物達とも仲良く、困っている者が居たら放っておけない人格者ですもの・・・」

 

「だから、魔王様に・・・ウッ!?」

 

 言い返そうとした金太郎は思わず言葉が詰まった。ニコに介抱されるみゆきを改めて見たルミナスの瞳からは、大粒の涙が零れて居たのだから・・・

 

 金太郎は釣られるように、ニコとニコに介抱されるみゆきを見つめると、心の中に疑問が沸き上がってきた。

 

(ニコを悲しませたみゆきを倒せ!魔王様はそう言った!だが、俺が見る限り・・・ニコは、みゆきを失う事の方が悲しいのでは!?)

 

 金太郎は攻撃を止め、呆然とニコとみゆきを見つめ続けた・・・

 

 

 

 みゆきを介抱して泣きじゃくるニコを、呆然として見て居た魔王は、ハッと我に返るや、絵本の主人公達に対し、

 

「お前達、何をしている!早くそいつらを・・・・・!?」

 

 言いかけた魔王は、思わず言葉を飲み込んだ・・・

 

 刀を納めた桃太郎は、犬、猿、雉を伴い、他の仲間達の下へと歩き出した。桃太郎の顔からは悪意が消え去っており、ブロッサムとマリンの放ったフォルテウェーブによって、魔王の呪縛から解き放たれた事の現れだった。桃太郎は、戸惑うピーターパンを、シンデレラを、人魚姫と浦島太郎を、アラジンを、金太郎を、次々と誘うように訪れると、その都度主人公達から黒いオーラが抜け出していった・・・

 

 プリキュア達は、その光景を見て安堵するも、皆みゆきの事が心配で、心から喜ぶ事は出来なかった・・・

 

(我が呪縛を解き放ったのか!?)

 

 魔王は、絵本の主人公達から抜け出した影を元に戻すと、一同を攻撃するでもなく、再びニコを見つめた・・・

 

 

 

 三蔵法師は、いまだに戦い続ける孫悟空を諫めるように、御経を唱えると、悟空の頭の輪っか、緊箍児(きんこじ)が縮み始め、悟空は頭を抑えながら地べたを転がり周り、

 

「イテェェェェェ!お、お師匠様ぁぁ、どうしてぇ!?」

 

「悟空!もうよい!もうよいのです!!・・・・・娘さん、あなたの言う通りだ!人々を救う為に旅立った私達が・・・逆にこの世界の人々を悲しませる事に手を貸していたとは・・・恥ずかしい!!!」

 

 そう言う三蔵法師から黒いオーラが抜け出すと、三蔵法師は深々とホワイトに頭を下げた。ホワイトの表情が見る見る明るくなると、

 

「ううん、私の方こそ、生意気な事を言ってゴメンなさい!」

 

 そう言うと、ホワイトも三蔵法師に対して深々と頭を下げた。三蔵法師は手を振って遮り、

 

「いえいえ、あなたのお言葉・・・深くこの三蔵の胸に届きましたぞ!悟空、八戒、悟浄、お前達になら、本当に懲らしめるべき存在が誰なのか・・・分るはずです!!」

 

「本当に懲らしめる相手!?」

 

 悟空は首を捻りながら考え込むと、ブラックを指差し、

 

「猿顔が被るこいつ?」

 

「違ぁぁぁう!私は猿顔じゃなぁぁい!!」

 

 そういうと、不満そうに拳骨で孫悟空の頭を小突くと、ホワイトの目が点になる。

 

「ブラック!もう・・・せっかく話が纏まり掛けてるのに・・・」

 

「だってぇぇ、私の事猿顔だってぇぇ・・・」

 

 ホワイトに注意されたブラックは、頬を膨らまして不満そうな表情で孫悟空を指さすと、孫悟空はブラックを見てアカンベェと舌を出した。何時ものブラックなら、孫悟空と変顔合戦を始める所であっただろうが、やはりみゆきの安否を気に掛け、孫悟空の挑発に乗る事は無かった。三蔵法師はそんな悟空を見て溜息を付くと、再び御経を唱え出した。悟空の頭の輪っか、緊箍児が再び縮み始め、悟空が頭を抑えてのたうち回る。

 

「お、お師匠様!勘弁してぇぇ・・・もうしません!ホラ、この通り仲直りもします!!」

 

 孫悟空は、ブラックの肩に右手を廻し、三蔵法師に向かって、ブラックと和解した事をアピールする。牛魔王は少し意地悪げな視線を悟空に向けると、

 

「気をつけな!悟空は悪知恵が働くからなぁ!!」

 

「うるさいぞ!牛魔王!!」

 

 悟空の事が信じられないブラックは、ジト目で悟空を見つめると、

 

「どうも信じられない・・・ホワイト、レインボーセラピーで確実に・・・」

 

「別に良いけど・・・」

 

 少し戸惑いながら、ホワイトはブラックの申し出を受けると、ブラックとホワイトが孫悟空、沙悟浄、猪八戒の前に立つや、

 

「ブラック・パルサー!」

 

「ホワイトパルサー!」

 

「闇の呪縛に囚われし者たちよ!」

 

 ホワイトが叫び・・・

 

「今、その鎖を断ち切らん!」

 

 ブラックが応える・・・

 

「「プリキュア!レインボー・セラピー!!」」

 

 ブラック、ホワイトから発せられた、半球形の虹のオーラが広がり、悟空、八戒、悟浄を飲み込んで行った。元々、魔王に操られた訳ではない猪八戒だったが、煩悩(ぼんのう)を浄化されたかのように、目をキラキラさせるのだった・・・

 

 

 桃太郎達絵本の主人公達一行が、泣きながらみゆきの名を叫び続けるニコ、そして、何の反応も示さないみゆきの下へとやってくると、プリキュア達や牛魔王達も続くようにみゆきの側に現われ、心配そうに見つめた。

 

 少し遅れて、ブラックとホワイトはサニーを、ムーンライトとブロッサムはビューティを、ブルームとドリームはピースを、メロディとリズムがマーチを、ピーチとパッションがエコーを支えながらやって来ると、ニコはハッとした表情で一同を見回した。

 

 自分の為を思い、魔王はこの絵本の世界を滅茶苦茶にしてしまった。その責任は、自分にあるとニコはニコなりに考えて居た。

 

 ニコは首を垂れて、小さな声でゴメンなさいと呟いた・・・

 

 怒鳴られるかも知れない・・・

 

 殴られるかも知れない・・・

 

 でも、自分が起こしたこの騒動の責任は、きちんと果たしたいとニコは思った。

 

「反省しているなら・・・もう良いさ!」

 

「そうだな・・・現にお前らだって、魔王に操られて散々迷惑掛けたんだからな」

 

「ええ、私達だって、彼女達に酷い事をしてきたんだし」

 

「それより・・・みゆきちゃんは大丈夫なの?」

 

 桃太郎が、牛魔王が、シンデレラが、ニコに優しく微笑み、ドリームはみゆきを見ながら心配そうに声を掛けた。ニコは想像外の四人の言葉を聞き呆然とするも、ドリームに聞かれた事を、無言で首を横に振り答えた。プリキュア達から響(どよ)めきが起こり、次々にみゆきに声を掛けるも、みゆきは何の反応も見せる事は無かった。桃太郎はプリキュア達を見つめると、

 

「プリキュアと言ったな・・・此処は俺達に任せて貰えるか?」

 

「何か方法があるの!?・・・お願い!!」

 

 桃太郎の申し出を受け、ピーチは桃太郎の申し出を承諾した。横たわるみゆきを囲むように、桃太郎、金太郎、シンデレラ、アラジン、人魚姫、浦島太郎、孫悟空、そして、みゆきが憧れているピーターパンが円を描くように並び立つと、人魚姫は、不老不死になると言われる自分の血を飲ませようと、みゆきの前でしゃがみ込んだ。だが、みゆきの身体には、魔王によって貫かれた七カ所の傷が何処にも無かった・・・

 

「見て!この子・・・何処にも傷が無いわ!?」

 

「あれだけ魔王に刺されたのに、血も全く出ず、傷跡が・・・何も無いとは!?」

 

 人魚姫の言葉を受け、一同もじっくりみゆきの身体を観察するも、何処からも血が流れてはいなかった。浦島太郎は小首を傾げ、傷跡が無い事を不思議に思っていると、そんな疑問に答えるかのように、魔王が語り始めた。

 

「当たり前だ!俺は・・・影!!俺がみゆきに放った攻撃は・・・みゆきの精神を肉体と切り離しただけだ!!」

 

「どういう・・・事!?」

 

「じゃあ、じゃあ、みゆきは・・・生きてるの!?」

 

 マーチが、ニコが、思わず魔王を見つめた。みゆきは生きているのではないか?一同の表情がパッと明るくなった。アクアは直ぐに行動に移り、みゆきの胸に右耳を当てると、アクアの耳に、みゆきの命の鼓動がドクンドクンと伝わってくる。

 

「よ、良かった・・・みんな、みゆきの心臓は動いてるわ!」

 

「本当!?」

 

 アクアの報告を受け、プリキュア達から歓声が上がった。だが、アクアの表情が曇って居る事にムーンライトが気付くと、

 

「アクア、表情が冴えないけど!?」

 

「ええ、確かに心臓は動いています!ですが、魔王が言っている通りだとすれば・・・みゆきは二度と目を覚まさない可能性も・・・」

 

「何ですって!?」

 

 更なるアクアの言葉に、プリキュア達から響めきが沸き起る。不安そうにみゆきを見つめるニコを見た魔王は、

 

「ニコ・・・お前はみゆきが憎いのではないのか?約束を守らなかったみゆきに、復讐したかったのでは無いのか?」

 

「魔王・・・違う、違うの!私は・・・みゆきが大好き!でも、みゆきは私の事を忘れていた・・・だから、少し意地悪しようと・・・魔王、私がちゃんとあなたに伝えなかったから・・・ゴメンなさい!!」

 

「グゥゥゥゥゥ・・・だが、俺は、俺は、ニコを悲しませたみゆきを・・・許さない!ニコ、お前にはこの魔王が居る!!みゆきなど、この絵本の世界など・・・不要だぁぁぁ!!!」

 

 再び魔王の邪悪な力が周囲に漂い始めると、プリキュア達が、絵本の主人公達が、険しい表情を浮かべる。

 

 このままでは、本当に絵本の世界が崩壊してしまう・・・

 

 海賊船からこの状況を見て居たキャンディは、居ても経っても居られなくなり、

 

「キャンディも・・・キャンディも、みゆきの側に居たいクル・・・みゆきは、みゆきは、キャンディの大事な、大事な・・・友達クルゥゥゥゥ!!」

 

 みゆきを思い泣き叫ぶキャンディの身体から、凄まじい衝撃が巻き起こり、キャンディを押さえていた金と銀のえりかが吹き飛ばされる。

 

「キャ、キャンディちゃん、落ち着いて!」

 

「キャンディにこれ程の力があるとは!?」

 

 戸惑う金と銀のえりかに反し、ポップは、キャンディから発せられた赤い光が、鳳凰(ほうおう)のようなシルエットを浮かべるのを見ると、

 

「キャンディ・・・そなたのその力!?」

 

 呆然としていたポップだったが、キャンディの頭上にロイヤルクロックが光輝きながら現われた。ポップは目を見開き驚くと、

 

「キャンディ、そなたロイヤルクロックを持って来てたのでござるか?」

 

「キャンディ・・・知らないクル!みゆきのお家に置いてきた筈クル!?」

 

 戸惑う二人だったが、どこからともなく、ロイヤルクイーンの声がキャンディとポップ、ウルルン、オニニン、マジョリンのメルヘンランドの妖精達に聞こえてきた・・・

 

「キャンディ・・・あなたはみゆきの力になりたいと思ったのですね!今のあなたには、まだロイヤルクロックの力を使いこなす事は出来ないでしょう・・・ですが、プリキュア達の、妖精達の、この世界の人々の力を借りる事が出来るのなら・・・」

 

「みゆきは・・・助かるクル?」

 

「それは私にも分りません・・・」

 

「だが、それしか方法が無いのなら・・・キャンディ、ロイヤルクロックをみゆき殿の下に!!」

 

「分かったクル!!」

 

 ポップは鷲に変化すると、キャンディ、ウルルン、オニニン、マジョリンを背に乗せ、みゆきの下へと飛び立った。

 

 駆け付けたキャンディとポップを見て、ビューティが今の状況をキャンディ達に手短に説明した。キャンディは、みゆきの腕にロイヤルクロックを抱かせると、

 

「ロイヤルクイーン様は言ってたクル・・・プリキュアの、妖精のみんなの、絵本の世界のみんなの力を借りる事が出来たなら・・・みゆきを助けられるかも知れないって、言ってたクル!!」

 

 ロイヤルクロックの力を借りれば、みゆきを助ける事が出来るかも知れない・・・

 

 キャンディの言葉を受け、プリキュア達は一筋の光明(こうみょう)を見いだした気がした。その為にも、暴走し始めた魔王を止めなければならない。一同はキッと表情を引き締めると、

 

「キャンディ、ポップ、ウルルン、オニニン、マジョリン、ニコ・・・みゆきを頼むわ!」

 

「私達で、魔王を止めてみる!」

 

「エコー・・・あなたの力で、キャンディ達をサポートしてあげて下さい!」

 

「みゆきちゃんを・・・任せたよ!」

 

 サニー、ピース、ビューティ、マーチが、キャンディやポップ達、エコー、そしてニコに声を掛けるのと同時に、プリキュア達は魔王に対して身構えた。エコーは頷くと、

 

「うん、私に手伝える事があるなら・・・みゆきちゃんの事は私達に任せて!!」

 

「みんな、みゆきちゃんの為にも、絵本の世界を・・・守るよ!!」

 

 ドリームの合図と共に、プリキュア達が魔王に対して攻撃を開始した・・・

 

 

 咆哮(ほうこう)する魔王に向かっていたプリキュア達、ブルーム達、ドリーム達、ピーチ達、ブロッサム達、メロディ達、サニー達が、魔王から距離を取り、技のコラボレーションを見せれば、一同の間隙をぬって、ブラック、ホワイト、ムーンライト、ローズが、魔王に対し激しい肉弾戦を試みる。そんな姿を見た桃太郎達は、彼女達の思いに応えるべく、みゆきを助ける方法をもう一度言葉に発した。

 

「この世界の人々の力を・・・か」

 

「なら、この世界のみんなにも協力して貰わなきゃね!」

 

「だが、どうする!?みんなに協力を頼むにしても・・・」

 

「私達が散り散りに説得に向かっていたら、みゆきを救う事は出来ないかも知れないわ!」

 

 桃太郎、シンデレラ、金太郎、人魚姫が、さてどうするか思案するも、孫悟空とピーターパン、アラジンが空を飛んで一同に知らせる案を提案するも、それでもやはり時間が掛かってしまう事に気付き、思案していると、

 

「その役目・・・私に任せて貰えませんか?」

 

「何か方法があるのかい?」

 

「あるなら、こちらの方こそ頼む!」

 

 絵本の世界の住人達に協力を仰ぐ、その事を伝えるだけならば、自分にも出来るのではないかと思ったエコーが、一同に話し掛けると、ピーターパンと桃太郎が、エコーの提案を受け入れた。エコーは頷くと、両手を組んで祈るようなポーズを取り、目を瞑った。精神を集中させるエコーの脳裏に、絵本の世界の人々の姿が浮かび上がってくる。

 

「分りました・・・・・皆さん、私の声が聞こえますか?今、この世界は崩壊の危機に瀕しています。みんなの力を貸して下さい!!」

 

 エコーの声が絵本の世界中に響き渡ると、住人達は皆不思議そうに辺りを見回した・・・

 

 

「聞こえるか、子分共!この美猴王(びこうおう)事、孫悟空様も頼むんだ!!さっさと協力しやがれ!!!」

 

 悟空の声を聞き、水簾洞(すいれんどう)の猿達が騒ぎ始める・・・

 

「狼のみんなぁ!この世界を、みゆきを救う為に、力を貸してウル!!」

 

 ウルルンの声が、絵本の世界の狼達に響き渡った・・・

 

「青鬼様!鬼のみんなぁ、みんなの力を貸して欲しいオニ!!」

 

 オニニンの声を聞き、巨大な青鬼は空を見上げると、まるで了解したとばかり、棍棒を高々と掲げると、鬼達が一斉に棍棒を空に掲げた・・・

 

「魔法使いのみんなぁ!マジョリン達に力を貸して欲しいマジョ!!みんなでこの世界を守るマジョ!!!」

 

 みんなでこの絵本の世界を守る・・・

 

 オズの大魔法使いを筆頭に、恩讐(おんしゅう)を越え、グリンダとミス・ガルチの二人も杖を天空に掲げた。オズの魔法使い達に刺激されたように、世界中の魔女達が杖を上空に掲げた・・・

 

「みんな、聞こえるかい?僕だ、ピーターパンだよ!みんなの力を借りたいんだ・・・みゆきという少女を、絵本の世界を守る力を、みんなに貸して欲しいんだ!!みんな、手を空に挙げて!!」

 

 ピーターパンの声が聞こえた時、ネバーランドに居たティンカー・ベルが、海賊船の中に居た子供達が、一斉に手を空に挙げた。

 

「何だ!?ピーターパンだとぉ?」

 

 逃げ出して居たフック船長だったが、魔王が取り憑かせていた影は既に抜けており、正気を取り戻していた。

 

「しかし、何で俺様はこんな所に居るんだぁ?確か、ピーターパンと戦ってたような気はするんだが・・・」

 

 空を見上げたフック船長、ピーターパンが言うように、確かにこの世界の異変は感じていた。

 

「チッ、仕方ねぇ・・・おい、子分共!今回は特別だ、ピーターパンに協力してやれ!!」

 

「「「「「へい!!」」」」」

 

 フック船長と手下達が両手を空に掲げた・・・

 

 

 

「もっとだ!この世界に住む人々よ、僕達に力を貸してくれ!!この絵本の世界を大好きな少女、みゆきを救う力を!この世界の為に戦ってくれている少女達に、力を貸してくれぇぇ!!」

 

 桃太郎の叫びが絵本の世界に響き渡った時、一寸法師が、白雪姫が、龍の子太郎が、かぐや姫が、色々な作品の主人公達が、絵本の世界を、みゆきを救うべく、心を一つにしたその時、みゆきの手に握らされていたロイヤルクロックは光輝きだした。

 

「これは一体!?」

 

「これがみゆき殿を救える力なのでござろうか?」

 

 エコーとポップが、光輝きだしたロイヤルクロックを見て驚愕すると、絵本の主人公達も次々と同意しだし、

 

「きっとそうだわ!ニコ、償う気持ちがあるのなら・・・あなたがみゆきの精神を連れ戻していらっしゃい!!」

 

「俺達がこの箱に力を込める!」

 

「頼んだよ!」

 

 シンデレラが、桃太郎が、ピーターパンが、一同がニコに微笑みを向けると、ロイヤルクロックに手を翳した。ニコは硬い表情で頷き、みゆきの左胸に顔を乗せると、みゆきとニコ、二人の心が重なったかのように、ニコの精神はみゆきの精神世界へと導かれた・・・

 

 

 

2、二人の思い

 

 ニコは闇の中をゆっくり下降していく・・・

 

 ニコの体も、みゆきのように何も身に付けていない幼い裸身を晒していた。だがニコは、そんな容姿を気にも止めず下降して行くと、次々とニコの前で、みゆきの幼き日の思い出が、走馬燈(そうまとう)のように流れていった・・・

 

 ある場面を見た時、ニコは下降するのを止め、その場面を食い入るように見続けた。

 

「ニコちゃん、みゆきがお話の続きを書いて上げるねぇ!ウ~ン・・・」

 

 幼いみゆきはうつ伏せになり、両足をバタバタさせながら続きを考え、紙に書いては丸め、上手く考えつかないのか、少し飽きたようにゴロゴロ床を転がり回った。

 

(みゆき・・・ちゃんと約束守ろうとしてくれてたんだ・・・)

 

 ニコは、みゆきは口だけで、絵本の続きなど考えもしなかったんだろうと思って居たのだが、みゆきは、ちゃんとニコのお話の続きを考えようとしてくれていた・・・

 

 ニコにとっては、それだけで満足な事だった・・・

 

 再び下降しだしたニコは、みゆきの名前を大声で叫び続ける。

 

「みゆきぃぃ!みゆきぃぃ!何処ぉぉ!?みゆきぃぃ!!」

 

 そんなニコの声は、闇の中を落ちて行くみゆきにも聞こえていた。

 

(誰かが私を呼んでる・・・誰!?)

 

 あかね達でも無い、なぎさ達でも無い、だんだん声がハッキリ聞こえてくると、みゆきの意識が活性化されていった。自分が会いたがった人物、ニコの声だったのだから・・・

 

「その声・・・ニコちゃん!ニコちゃんでしょう!!」

 

 みゆきからの返事が聞こえ、更に下降して行くと、ニコはみゆきの姿を見て、思わずホッと安堵の表情を浮かべた。共に裸での再会だったが、二人にとって、容姿などどうでも良かった・・・

 

 みゆきと再会出来た事を喜びホッと安堵したニコは、

 

「みゆき!良かった・・・」

 

「ニコちゃん!でも、どうしてニコちゃんが此処に居るの?此処は・・・何処?」

 

「私にも良く分からないけど・・・魔王は、みゆきの肉体と精神を分離させたって言ってたから、多分みゆきの心の中!?」

 

「魔王が!?・・・・・」

 

 みゆきは、此処が自分の精神世界の中だと知り、何故自分が裸で居るのかうっすら理解した。ニコの言葉によって、自分がこのような目に遭って居るのは、魔王が引き起こした事だと悟る。だがみゆきの心の中で、魔王に対する怒りも、憎しみも湧いてくる事は無かった。逆に魔王に感謝の心さへ持って居た。みゆきはニコの顔をマジマジ見つめると、

 

「ニコちゃん!私、今までニコちゃんの事を忘れていた・・・私に笑顔の大切さを教えてくれたニコちゃんの事を・・・本当にゴメンなさい!!」

 

 みゆきが深々と頭を下げると、ニコは首を振り、

 

「ううん、みゆきは悪くないよ!みゆきはちゃんと約束を守ろうとしてくれてたんだもん・・・」

 

「でも、結局続きは書けなかったし・・・」

 

「良いの!その気持ちだけで・・・それより、早くみんなの所に戻ろう!魔王を止めなきゃ!!」

 

「魔王がどうかしたの?」

 

 みゆきの問い掛けに、ニコは簡単に状況を説明すると、みゆきも頷き、

 

「うん、魔王の所に行かなきゃ!私・・・魔王に話したい事があるの!!」

 

 みゆきとニコは頷き合い、闇の中を上昇して行くも、先程とは違い、みゆきの幼い思いでなどが現われる事は無かった。目指す方向を失った二人は、何処に向かえば良いのか途方に暮れた・・・

 

 

「みんな、ニコの様子が変だぞ?」

 

 ニコがうなされるような状態になり、時折痙攣(けいれん)さへし始めた。桃太郎の声を聞き、一同は顔色を変え、ニコとみゆきに声を掛けるも、みゆきは無表情のままで、ニコは更に苦しさを増しているようだった。

 

「まさか・・・ニコは、みゆきの精神に同化し始めたんじゃ!?」

 

「不味いぞ!早く引き戻さないと、二人揃ってこのまま二度と目を覚まさないんじゃねぇか?」

 

 牛魔王が焦りの表情を浮かべ一同を促すと、孫悟空も状況を知り、このままでは二人揃って二度と目を覚まさないかも知れないと告げた。エコーは顔面蒼白になり、

 

「そんな!?・・・みゆきちゃぁぁん!」

 

 みゆきに縋り付き必死に声を掛けるも、みゆきもニコも目覚めない。だが、ピーターパンだけは冷静だった・・・

 

「いや、二人は必ず助かるよ!みんな、此処がどこだか忘れて無いかい?此処は絵本の世界!絵本の主人公である僕達が揃ってるんだ、僕達が気持ちを一つに合わせれば・・・二人は必ず助けられるよ!!」

 

 そう言うと、ピーターパンはロイヤルクロックに手を翳した。それに釣られるように、桃太郎が、金太郎が、シンデレラが、人魚姫が、浦島太郎が、アラジンが、孫悟空が、そして、牛魔王、金角、銀角、エコー、ポップ、ウルルン、オニニン、マジョリンが、ピーターパンの手に次々と手を重ねていった。

 

「みんなの気持ちを合わせるクルゥゥゥ!!」

 

 最後にキャンディが手を置き、キャンディの合図と共に、一同の心が一つになった時、ロイヤルクロックは再び光輝いた!!

 

 

 

「ニコちゃん、見て!あの光・・・」

 

「うん、きっとそうだよ!みんなが私達に、道標を照らしてくれたのね!!」

 

 みゆきとニコの表情が輝くと、二人は光目掛け上昇して行った・・・

 

              第七十四話:みゆきとニコ

                    完

 


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