プリキュアオールスターズif   作:鳳凰009

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第七十二話:魔王の影

1、集いし少女達

 

 白雪姫や王妃が住む城・・・

 

 白い外見からは優雅さが漂うものの、何処か陰気な雰囲気が漂い、不気味さも感じられた。城の側には立派な街並みが広がっていたものの、外壁から外に出れば、小高い丘があり、その側には木々が生い茂っていた。その側には小さな小川も流れていた。数キロ先には大きな森が、後方には山々が聳える。交通に利便がありそうな城だった・・・

 

 その周辺に、ポップが送った手紙に導かれ、続々集結する少女達が居た・・・

 

 最初に到着していたのはラブ、せつな、ムープ、フープ、ポプリ、それから少し経って、かれん、美希、奏、あゆみ、そして、あゆみに抱かれたタルトがやって来た。ラブとせつなは嬉しそうに駆け寄り、

 

「美希たん!かれんさん!奏ちゃん!あゆみちゃん!」

 

「タルト!・・・何か元気無いわね?」

 

 あゆみに抱かれ、疲れ切った表情をしているタルトを見て、せつなは不思議そうに小首を傾げると、あゆみは、せつなを見て苦笑を浮かべた。

 

「ラブ!せつな!・・・ってラブ・・・随分大胆な格好してるわね?」

 

「その格好で此処まで来たの?」

 

 上下白い貝殻ビキニ姿のラブを見て、目を点にしながらラブに問い掛ける美希とかれん、奏とあゆみは、ラブのスタイルの良さを羨ましげな視線を浴びせると、ラブは少し照れながら、

 

「いやぁ、気付いたらこんな格好だったもんで・・・せつなに服を分けて貰おうとしたんだけど・・・」

 

「冗談じゃ無いわ!私だって、この服あげちゃったら・・・下着だけ何だから」

 

「美希たん、ブルンに頼んで、服を出してくれないかなぁ?」

 

「ゴメン!あたし、リンクルンを無くしちゃったみたいで・・・」

 

「エッ!?美希たんも?」

 

「妙ね!?・・・私とラブも、絵本の世界に来てリンクルンを無くしてるの!」

 

「本当なの?私も、奏、あゆみも、変身アイテムを無くしてるの!何か裏がありそうねぇ・・・」

 

 ラブ達、かれん達も変身アイテムをお互いに無くしていると知り、かれんは、これは何者かが仕組んだ可能性が高い事を一同に知らせた。ひょっとすると、他の仲間達も変身アイテムを無くしているのでは無いかと、かれんは推測する。みな真顔で事の重大さに気付き困惑するも、ラブは自分の容姿の方が気になるようで、

 

「それも気になるけど・・・私は、この格好を真っ先に何とかしたいかなぁ!美希たん、その衣装なら、上着一枚ぐらい・・・私にくれない?」

 

「別に構わないけど・・・今以上に変な格好になるわよ?」

 

 美希は、モデルをしているだけあって、今のラブの格好に、自分達の上着を着せても、下半身はそのままの状態で、今の上下貝殻ビキニ姿より変な格好になる事をラブに助言する。ラブは大いに悩み、ウ~ンと考え込んで居ると、

 

「かれんさん!ラブちゃん達も!ヤッホ~!!」

 

「奏!あゆみちゃんも・・・良かった!再会出来て!!」

 

 仲間の姿を見付けたのぞみと響は、かれん達に駆け寄り声を掛けると、かれん、奏も嬉しそうに一同との再会を喜んだ。

 

「のぞみ!こまち!りん!満に薫・・・」

 

「響!エレン!なお!無事で何よりだわ!!」

 

「いやぁ・・・無事と言えば無事ですけど」

 

「死ぬかと思ったわよね・・・」

 

 見知った顔を見て安堵したなおとエレンが、苦笑混じりにポツリと呟き、奏は怪訝な表情を浮かべると、

 

「死ぬって・・・何かあったの?」

 

「まあ、色々怖い目にね!怖い目と言えば・・・タルトに何かあったの!?奏を見て怯えてるけど?」

 

 チラリとあゆみに抱かれているタルトを見たエレンは、時折奏を見ては、怯えたような視線を向けるタルトを見て小首を傾げた。奏は少しムッとしながら、

 

「失礼ねぇ!私を見てだけじゃ無いわよ!!そもそも、タルトがいけないのよ!私達、シンデレラの世界に迷い込んでたんだけど、私やかれんさん、美希さんを見て、タルトったら、意地悪な役にピッタリだって笑ったのよ!酷いでしょう?」

 

「それで、かれんや美希と一緒に、タルトにお仕置きした・・・って事?」

 

「どうりで・・・タルト、元気が無いと思ったわ!」

 

 奏の説明を聞き、エレンはぐったりしているタルトを見て、どんなお仕置きしたのかしらと苦笑し、せつなは納得がいったようで、タルトを見ながら何度も頷いた。

 

「あゆみ、ありがとう!」

 

「いえ・・・ほら、タルト!せつなさんが迎えに来てくれたよ!!」

 

 せつなは、あゆみからタルトを抱き上げ、苦笑しながらタルトの頭を撫で優しく声を掛けると、タルトはオイオイ泣きながら反省した。タルトも、本心で美希、かれん、奏の事を意地悪だと思って居る訳では無く、三人の優しさも十分承知しては居たが、元来お調子者のタルト、あの場のノリでついうっかり美希、かれん、奏をからかったのが後の祭りだった・・・

 

「ベリーはん、アクアはん、リズムはん、わいのせいで、三人には嫌な思いさせて・・・スンマセンでした!この通りや!勘弁してやぁ!!」

 

 せつなの腕の中から飛び降りると、タルトはその場で土下座し、三人に改めて謝罪した。三人は、もう気にしてないからとタルトを許し微笑むと、タルトはようやくホッと安堵の表情を浮かべた。

 

 響も苦笑を浮かべながら、

 

「それはタルトが悪いね・・・かれんさんや美希さんは意地悪じゃないし、奏も、口五月蠅いだけだもんねぇ?」

 

「響・・・フォローになってないんですけど?」

 

「エッ!?アハハハ!」

 

 膨れっ面した奏に見つめられ、響は思わず笑って誤魔化した。

 

 

 ムープとフープは、満と薫を見付けるや、涙目になりながら二人に飛びつき、満と薫も、嬉しそうに互いのパートナーを抱きしめた。

 

「ムープ!フープ!」

 

「会えて良かった・・・ラブ達と一緒だったのね?」

 

「「ラブ、せつな、ムープとフープを守ってくれてありがとう!」」

 

「どう致しまして!ムープ、フープ、再会出来て良かったね!!」

 

 満と薫に感謝されたラブとせつなも、嬉しそうにしているムープとフープを見て、自分の事のように喜んだ。いつきに会えず、ションボリしているポプリに気付いたせつなは、

 

「ポプリ、大丈夫!直ぐにいつきに会えるわ!!」

 

「本当でしゅか?」

 

「エエ!それまで、私達と一緒に居ましょう!!」

 

「ハイでしゅ!!」

 

 ポプリは嬉しそうに返事をし、立ち直ったタルトが、ポプリの面倒を見てくれて、せつなはホッと安堵するのだった。満と薫は、改めてマジマジラブの容姿を見ると、

 

「それはそうと・・・ラブ、その格好は何?」

 

「変な趣味にでも目覚めたの?」

 

「こんな格好が趣味って・・・どんな趣味よぉぉ!?私、人魚姫の話に迷い込んだようで、気付いたらこんな格好してただけなの!!」

 

 満と薫に突っ込まれ、ラブは頬を膨らませていると、山道の方角から聞き覚えのある大きな声が聞こえてきた。

 

「満!薫!みんなぁぁ!!」

 

 満面の笑みを浮かべながら手を振って近付いて来る咲、舞、くるみ、シプレ、コフレ、満と薫は咲の格好を見てキョトンとした表情を浮かべ、

 

「咲!舞!くるみ!・・・咲、あなたのその格好は!?」

 

「舞やくるみの格好は兎も角・・・」

 

「満!薫!のぞみ達も、ラブ達も、良かった!みんなと会えて!!アハハハ!どうやら私、かちかち山のお話に迷い込んだらしく、この世界では狸と思われてるらしくて・・・」

 

「それでそんな格好してるのね・・・」

 

((でも・・・違和感を覚えないのは何故かしら!?))

 

 咲の説明を聞いた満と薫、二人は咲の狸のような着ぐるみ姿を見て、違和感を覚えなかった・・・

 

 ポプリは、シプレとコフレを見付けると目を輝かせ近寄り、シプレとコフレも、ポプリと無事に再会出来た事を喜び合った。

 

 徐々に増えていく仲間達・・・

 

 一同は無事に再会出来た事を喜び合っていると、せつなの表情が突然強張り、

 

「な、何かしら!?みんな、見て!上空から猛スピードで雲と・・・龍が飛んでくるわ!!」

 

「エェェェ!?蜘蛛?」

 

「なお、大丈夫よ!虫の蜘蛛じゃないから!!」

 

「ほ、本当!?良かった!」

 

 せつなが発した、雲と言う言葉に敏感に反応したなおは、隠れるようにエレンの背後に移動し、一同を苦笑させる。

 

「あれは・・・なぎささん、ほのかさん、ゆりさんだわ!龍に乗ってるのは・・・ブッキーとひかり、やよいとれいかみたい!」

 

 目が良いせつなが、真っ先になぎさ達に気付き、一同に教えた。一同は上空から近付いて来るなぎさ達に手を振ると、なぎさ達も気付き、

 

「みんなぁぁ!無事で何より!!」

 

「ラブちゃん、美希ちゃん、せつなちゃん、みんなと再会出来るって、私信じてた!」

 

「なお!皆さんもご無事で何よりです!!」

 

 なぎさ、祈里、れいかが仲間との再会を心の底から喜んだ。祈里は、送ってくれた玉龍の顔を撫でながら、

 

「送ってくれてありがとう!玉龍さんが、三蔵法師さん達と再会出来るって、私信じてる!!」

 

「ありがとうございました!お気をつけて!!」

 

「うん!龍さん、ありがとう!!」

 

「道中気をつけて下さい!!」

 

 祈里、ひかり、やよい、れいかが次々感謝の言葉を述べ、玉龍はそれに応えるように一鳴きすると、再び上空に舞い上がり、三蔵法師一行を探しに向かった・・・

 

「何あれ!?龍って事は・・・龍の子太郎!?」

 

「いいえ、あれは西遊記に出てくる白馬の本当の姿!玉龍よ!!」

 

「私達、玉龍には色々お世話になったわね!」

 

 龍を間近で見た一同は驚き、のぞみは、小さい頃読んだ事がある、龍の子太郎に出てくる太郎の母龍なのか聞いてみると、ゆりとほのかは、西遊記に出てくる白馬の方だとのぞみに教えた。

 

「ひかりぃぃ!なぎさぁぁ!ほのかぁぁ!」

 

「咲!舞!何処ほっつき歩いてたラピ?」

 

 なぎさ達、咲達と再会出来たポルンとルルン、フラッピとチョッピは大いに喜び、特にポルンとルルンはひかりに抱き付きはしゃいでいた。咲は、嬉しそうになぎさに近付くと、

 

「良かった!私と同じ尻尾仲間が居て!!」

 

「私達さぁ、この世界でも西遊記の格好にさせられて・・・咲も尻尾があるという事は?」

 

「私はかちかち山の狸みたいで・・・」

 

 共に尻尾を見せ合い苦笑しあうなぎさと咲だった・・・

 

「ブッキー・・・その格好、桃太郎なの?」

 

「うん、そうみたい!ラブちゃんのその格好・・・」

 

「アハハハ!私は人魚姫に・・・」

 

「あたしはシンデレラの意地悪な姉に・・・」

 

「私は浦島太郎に・・・」

 

「「「なっちゃったようで」」」

 

 四人揃ったものの、互いの衣装を見て苦笑するラブ達、なおは、やよい、れいかと再会出来た事を喜び、

 

「れいか!やよいちゃん!二人共、無事で良かった!!れいかはどこかのお姫様で、やよいちゃんは・・・アハハ、金太郎だね!」

 

「もう、なおちゃん!笑わないでよ・・・あかねちゃんには、お腹抱えて笑われたし・・・」

 

 膨れっ面したやよいは、あかねに大笑いされた時を思い出し、なおは、やよいがあかねに会ったような言葉を発した事に驚いたようで、

 

「エッ!?あかねに会ったの?あゆみちゃんも居るし、後はみゆきちゃんとあかねだけだと思って・・・ヒィィィ!!」

 

 れいか達と再会し、喜んで居たなおだったが、首筋を何かがモゾモゾ這い回り、顔面蒼白になると、

 

「む、虫ぃぃ!?だ、誰か取ってぇぇぇ!!」

 

「ちゃうちゃう、虫や無い!ウチや!あかねやでぇ!!」

 

「エッ!?あかね?」

 

 直ぐ側であかねの声が聞こえ、なおは恐る恐る首筋に手を当てると、ピョンとなおの腕にあかねが飛び乗り、それを見たなおは目を点にして驚き、

 

「あ、あかね!?何で小人に?」

 

「ウチ、一寸法師になったさかい、こんな小さくなったんやぁ!」

 

「エッ!?あかねが一寸法師なの?」

 

「見たいやなぁ・・・シシシシ」

 

 小さい姿にも慣れたのか、あかねは今の自分の姿を少し楽しんでいるように見受けられた。それとは逆に、アコは早く元の姿に戻りたいようで、

 

「ねぇ、もう良いでしょう?打ち出の小槌で元の姿に戻してよ!」

 

「エェ!?アコのその姿・・・」

 

 驚愕する響、奏、エレン、アコは眼鏡を直しながら、自分は親指姫になった事を三人に伝えた。あかねもアコの言葉に頷き、

 

「せやなぁ・・・れいか!頼むわ!!」

 

「そうですね・・・では、参ります!!」

 

 打ち出の小槌を手に持って身構えたれいかが、「大きくなぁれぇ!!」と気合いを込めながら小槌を振ると、あかね、アコの姿が、徐々に大きくなり元の姿へと戻り、思わず見て居た一同からオオ!と歓声が沸き上がった。

 

「ねぇねぇ、打ち出の小槌って、服も出せないかなぁ?」

 

 ラブは、目を輝かせながられいかに聞いてみると、れいかは少し考え、

 

「確かに、打ち出の小槌は、宝物を出した事もありましたね!」

 

「ええ、服ぐらいなら簡単に出せるんじゃないかしら?」

 

 こまちもれいかの推測に同意すると、ラブは益々目を輝かせ、

 

「本当!?お願い、何でもいいから服を出してみて!!」

 

「分かりました!やってみましょう・・・服よぉ、出ろぉぉ!!」

 

 再び打ち出の小槌を手に取り、身構えたれいかが、打ち出の小槌を振ると、胸元に道と大きく黒字で書かれた、白いTシャツが現われ、再び一同が響めいた。

 

「ヤッタ~!服が出た!!」

 

「でも、その文字・・・何か意味があるのかしら?」

 

 服が出た事で大喜びのラブ、美希は、道という文字が気になったようで小首を傾げると、なおとあかねが苦笑を浮かべながら、

 

「多分、打ち出の小槌を振った、れいかの影響が強く出たんじゃないかと・・・」

 

「道やしな」

 

「ハイハイ!次は私にやらせて!!」

 

 やよいは、れいかから打ち出の小槌を受け取ると、一同の脳裏に嫌な予感が漂い始めた・・・

 

「服よぉぉぉ!出ろぉぉぉ!!」

 

 ポーズを取り、思いっ切りジャンプしながら打ち出の小槌を振ったやよい、案の定現われたのは、何かの特撮ヒーローのようなピンク色の衣装、

 

「また分かりやすいボケをかますわねぇ・・・」

 

 最早突っ込むのも面倒とばかり、呆れ顔のりんが、やよいが出した衣装を見て呟く、衣装を手に取り、ニコニコしながらラブに渡そうとするやよいに、ラブは困惑する。せつなは肘でラブを突っつき、

 

「折角やよいが出してくれたから・・・着てみれば?」

 

「マジっすか!?流石にこれは・・・」

 

 貝殻ビキニ姿も恥ずかしいが、この格好も十分恥ずかしいと思ったラブ、やよいはポンと手を叩くと、再び打ち出の小槌を振り、小槌からラブの為に出したヒーロー衣装に似た、赤、青、黄の衣装が現われた。

 

「これで、一人じゃないです!!」

 

 ニコニコしながらどうぞと美希、祈里、せつなにも衣装を差し出すやよいに、

 

「そういう問題じゃないと思うわ・・・」

 

「あたし達にも・・・着ろって事!?」

 

「桃太郎の格好も恥ずかしいけど・・・そっちはもっと嫌かも」

 

 何やら自分達もラブのとばっちりを受けそうで、せつな、美希、祈里も困惑の表情を浮かべた。

 

「美希たん、ブッキー、せつなが着てくれるなら・・・着ても良いかなぁ!?」

 

「「絶対・・・嫌!!」」

 

「私も・・・パス!やよいさん、折角出してくれたのにゴメンねぇ」

 

 美希、祈里、せつなが一緒に着てくれるなら、その衣装でも我慢出来ると思ったラブであったが、三人は即座に却下した。やよいは残念そうにしていたが、ポンと手を叩き、

 

「じゃあ、こっちなら・・・服よぉぉ!出ろぉぉ!!」

 

 次にやよいが出した衣装は、悪の女幹部が着るような、胸を強調し、臍回りが大胆に出ている黒いボンテージ衣装だった。一同は、やよいの暴走を呆然と見つめていた・・・

 

「ハハ・・・誰か突っ込んで上げて!」

 

「呆れてものが言えないよね」

 

 突っ込む事も拒否したりんが、誰かに突っ込みを頼み、アコは呆れたように呟いた。ラブと美希は、せつなを見つめると、

 

「せつなが、イース時代に着てた・・・」

 

「そういえば、私達が加音町のハロウィンパーティーで・・・」

 

「違う!絶対違うわ!!」

 

 ここまで露出の多い服装じゃ無かったとせつなが首を振る。あかねは溜息を付くと、

 

「やよい!エエ加減にせんかい!!」

 

「エェ!?だってぇ、ラブさんが服を欲しがってたし・・・じゃあ、私達で着る?」

 

 そう言うと、やよいは黄、あかねには赤、れいかには青、そして、なおには何故かピンクのヒーロースーツを手渡した。やよいはあゆみを見つめると、

 

「あゆみちゃんも一緒に・・・」

 

「アハハハ・・・わ、私は良いわ!」

 

 引き攣った笑みを浮かべながら、あゆみはさり気なく拒否をした。

 

「ウチも、こんなん要らんわ!」

 

「あたしも・・・遠慮するよ!」

 

「私も・・・今回は辞退させて頂きますね」

 

「エェ!?じゃあ、私だけでも・・・」

 

(ハァァ・・・みゆきちゃんが居たら、一緒に着てくれたのになぁ・・・)

 

 あかね、なお、れいかもやよいに服を返し、やよいは、みゆきが居てくれたら、一緒に着てくれた筈なのにと心の中で残念に思いつつ、自分のシンボルカラーである黄色い衣装を手に取った。その間に、ラブは美希に頼み込み、打ち出の小槌で何時も着ているような服を出して貰い、ホッと安堵するのだった・・・

 

 一人嬉しそうに着替え始めるやよいを、冷めた視線で見つめる一同だったが、

 

「美希お姉様!またお会い出来て光栄ですわ!!」

 

「お、お姉様!?」

 

 名前を呼ばれた美希は、そんな呼び方で自分を呼ぶ人物が思い浮かばず、チラリと声のした方を見ると、そこには、まるでお姫様のように礼儀正しく美希にお辞儀をし、ニッコリ微笑むえりかの姿があった。美希は目を点にしながら困惑し、

 

「えりか・・・よねぇ!?無事で何よりだけど・・・何、お姉様って?」

 

「美希姉上!」

 

「・・・・・!?」

 

 背後から再び名前を呼ばれた美希が振り返った瞬間、美希の目は再び点になった・・・

 

 何故なら、振り向いた美希の視線の先には、もう一人えりかが居たのだから・・・

 

 美希は、自分の目がおかしくなったのかと、ゴシゴシ目を擦ってみるも、やはりえりかは二人だった。更に背後から声が掛かり、

 

「美希姉ぇ!その二人はあたしの偽物で・・・」

 

 慌てたようにさらにもう一人のえりかが現われ、美希は、三人のえりかを見つめ呆然とする。金のえりかと銀のえりかは、偽物と呼ばれた事に憤慨し、

 

「まあ、偽物だ何て失礼ですわ!!」

 

「いかにも・・・このような下品な輩に言われたく無い!!」

 

「誰が下品よ!誰が!!」

 

 言い争う三人のえりか・・・

 

「何・・・これは!?」

 

「えりかが・・・三人!?」

 

 美希が、せつなが、そして、一同が呆気に取られる・・・

 

 一同が呆然として三人のえりかを見つめていると、苦笑しながらつぼみ、いつき、うららが現われ、

 

「皆さん!合流出来て何よりです!!」

 

「いちゅきぃぃぃ!!」

 

「ポプリ!アハハハ、無事で良かった!!」

 

「皆さん、もう着いていらしたんですねぇ!」

 

 三人のえりかを見ても平然としているつぼみ、いつき、うらら・・・

 

 一体これはどういう事なのか?・・・矢継ぎ早に三人に説明を求める声が飛んだ。三人に近付いたシプレとコフレ、えりかのパートナーであるコフレは心底驚愕し、

 

「つ、つぼみ・・・えりかは一体、どうして三人になってるですっ?」

 

「まあ、何と申しましょうか・・・」

 

「僕達は、金の斧と銀の斧の世界に迷い込んだみたいで・・・」

 

「女神様が住む湖に、えりかちゃんがうっかり落っこちて・・・」

 

「「「色々あって、三人に増えちゃったんです」」」

 

 そう言うと、言い争う三人のえりかを見て苦笑するつぼみ、いつき、うらら、美希は困惑し、

 

「ちょっと待って!ももかさんや、えりかのご両親に、何て説明すれば良いのよ?」

 

「ももかなら・・・最初こそ驚くかも知れないけど、えりかが驚かそうと思って、そっくりな子でも連れて来たんだろうと、大笑いしそうでもあるわね」

 

「大丈夫!元の世界に戻れば、この世界のえりかさん達は消えると思うわ!」

 

「ええ、私達が絵本の世界で戦った時もそうだったし」

 

 驚きながら三人のえりかを見たゆりは、親友であるももかなら、最初こそ驚くものの、こんな場面を見たら、笑いだすかもしれないと美希に語る。こまちとかれんは、そう心配しなくても、元の世界に戻れば消える筈だと美希に伝えた。満と薫は、三人のえりかをジッと見つめると、

 

「えりかが三人になる何て・・・世も末ね!」

 

「えりかが三人も居たら・・・世界が滅ぶかも知れないわね?」

 

 そう言うと、顔を見合わせ思わずクスリとする満と薫、元祖えりかは目に炎を点し、

 

「ちょっとぉぉ!ドサクサに紛れて何て事言うのよ!!」

 

「満、薫、それは言い過ぎよ!」

 

 そう言ってえりかに助け船を出したのはせつな、えりかは腕組みしながらウンウン頷き、

 

「せつなさん!・・・でしょう?でしょう?もっと二人に言ってやって!!」

 

「せめてえりかが十人は居ないと・・・世界は滅びないわ!!」

 

「だよねぇ・・・・・って、違うでしょうがぁぁぁ!!」

 

「せつな・・・フォローになってないわよ」

 

 えりかがムッキィィと変顔浮かべながら怒り出し、困惑気味の美希が、せつなを見て呆れたように呟く、そんなえりかを、つぼみが苦笑しながら宥める。りんも苦笑しながら、

 

「満、薫、せつな、あんた達、突っ込み難いボケは止めて!あんた達が言うと・・・本気で言ってるのかと思うから」

 

「でも、驚いたよねぇ・・・えりかちゃんが三人になってる何て」

 

「本当、本当、所で・・・三人のえりかの額に、金、銀、元祖って文字があるけど、これは何!?」

 

 のぞみも三人のえりかを見て驚愕し、なぎさものぞみの言葉に同意する。なぎさは、三人のえりかの額に書かれている文字に付いて、うらら、つぼみ、いつきに聞いてみると、顔を見合わせ、笑みを浮かべた三人は、

 

「容姿だけでは判断しにくいので、分かりやすいように、金のえりかちゃんには金、銀のえりかちゃんには銀、本物のえりかちゃんには、元祖と書いてみました!!」

 

 少しドヤ顔で、分かりやすいでしょう?と一同に聞くうららに、一同は再び三人のえりかを見て苦笑した。

 

 そんな一同の下へ、鳥のように何かが羽ばたきながら近づいて来た。鳥は、瞬時にポップの姿に変わり、

 

「皆の衆!どうやら無事来てくれたようでホッとしたでござる!!」

 

「ポップ!!」

 

 目の前に現われたポップを見た一同は、招待状は何者かの罠では無く、確かにポップが出したものだと理解した。だが、何故ポップはプリキュアパーティーなどと題し、自分達をこの場所に集めたのか分からなかった・・・

 

 一同を代表するように、奏とほのかがポップに問い掛け、

 

「ねぇ、ポップ・・・このプリキュアパーティーの招待状って、どういう事なの!?」

 

「私達、ポップはメルヘンランドに居るとばかり思ってたんだけど・・・」

 

「それは、こちらの方が皆の衆に聞きたい事でござる!皆の衆・・・何故絵本の世界に!?これを見てみるでござる!!」

 

 ポップが取りだしたのは、数冊の絵本・・・

 

 ポップに渡され中身を見た一同は、絵本の中の物語に、自分達が関わっている事に驚きを隠せなかった・・・

 

 大暴れして、かぐや姫と親指姫、一寸法師と姫を浚った孫悟空一行と桃太郎、金太郎の話・・・

 

 偽乳の秘密がバレ、狸とうさぎと一緒に逃げ出した鶴の恩返し・・・

 

 お菓子の家を食い荒らしたチルチルミチルと共に、逃げ出したヘンデルとグレーテル・・・

 

 悪魔を欺き、財宝を盗み出した四人組・・・

 

 ペットを虐待するシンデレラ一家・・・

 

 竜宮城で浦島太郎を籠絡し、連れ去った露出狂の人魚姫・・・

 

 わざと湖に斧や仲間を放り込み、女神を騙した木こり・・・

 

 そして、牛魔王と金角、銀角を引き連れ、魔王城に乗り込んだピーターパン・・・

 

「ちょっと待って!確かに御殿で暴れはしたけど・・・私、ひかり達を浚って何か無いわよ!!」

 

「こんな話を子供達に読まれたら、私、もう外を歩けない・・・」

 

「失礼ねぇ!食い逃げ何かしてないもん!!」

 

「確かに、悪魔は欺いたけれど・・・私達、財宝何か奪って無いわ!!」

 

「な、何でよりによって、あたし達がタルトにお仕置きした時が載ってるのよ?」

 

「私、露出狂じゃ無いよ!って、絵本の中じゃ、私、ずっとこの姿なの?」

 

「私はちゃんと、金のえりかと銀のえりかは、女神様に遠慮しましたよ!」

 

 なぎさ、舞、のぞみ、こまち、美希、ラブ、つぼみ達は、変顔しながら、この絵本の内容は間違ってると告げる。ポップは困惑気味に、

 

「皆の衆、ご理解頂けたでござるか?それがし、絵本の世界に何か異変が起こったのではと案じ、こうしてやってきたのでござる・・・プリキュアパーティーとは仮の姿で、本当は、皆の衆を一堂に集める為の口実でござる!一体、何があったのでござる?」

 

 ポップに聞かれた一同、ゆりとほのかが一同を代表してポップに語り出し、

 

「私達の世界で行われていた、世界絵本博覧会にみんなで来ていたのだけれど、そこに、絵本の世界のキャラクター達が現われ、一騒動を起こしたの」

 

「何とか私達は、その騒動を治めたんだけど、その最中、シロップ、シフォン、ハミィ、フェアリートーン達、そしてキャンディが、絵本の中から現われた海賊船によって、絵本の世界の中へ浚われてしまったの!」

 

「何と!?キャンディ達が?・・・成る程、それで皆の衆は絵本の世界へ救出に来たという事でござるか・・・」

 

 腕組みしたポップは、プリキュア達がこの絵本の世界に来た事を理解した。何者かが裏で糸を引いている事も、朧気ながら理解した・・・

 

 ポップは一同の顔を見て居ると、えりかを見て思わず目を見開き、目をキラキラ輝かせると、

 

「な、何と!?えりか殿は・・・分身の術が使えるようになったのでござるか?」

 

「な訳あるかいぃ!金の斧の話の影響で、三人になっただけのようや!」

 

 ポップのボケに、あかねが思わず突っ込みを入れた。れいかは、今一度ピーターパンの内容を読み返すと、ピーターパンの姿がみゆきになっている事に気付き、

 

「皆さん、このピーターパンは・・・どうやらみゆきさんのようですねぇ?」

 

「そうだね・・・牛魔王と金角、銀角を引き連れ、魔王城に乗り込んだっていうのは気になるね・・・」

 

 なおもれいかの言葉に頷き、魔王城に乗り込んだらしいみゆきの身を案じた。ポップは大いに頷き、

 

「それでござる!実は、みゆき殿にも招待状は送ったのでござるが・・・みゆき殿の招待状だけは届かなかったのでござる!!」

 

 ポップの言葉を聞いた一同の表情が見る見る険しくなった。言い争っていた三人のえりかさえも・・・

 

「どういう事!?」

 

 顔色を変えたポップに、えりかが詳しい事を聞こうとするも、ポップは首を振り、

 

「拙者にも、詳しい事は分からないのでござるが、何かの結界の近くに、みゆき殿は居るのでは無かろうか?」

 

「結界・・・ひょっとして、私達が変身アイテムを無くした事と関係が!?」

 

 険しい表情を浮かべたかれんが、結界を作り出した者こそ、自分達の変身アイテムを奪ったのでは無いかと驚愕する。ポップは、一同がプリキュアに変身出来ないと知るや、

 

「な、何と!?皆の衆は現在、プリキュアに変身する事は・・・出来ないのでござるか?」

 

「私となぎさ、ひかりさん、咲さん、舞さん、満さん、薫さんは、ミップル達やフラッピ達と再会出来たから大丈夫!!」

 

 此処に居る一同が現在変身アイテムを無くし、プリキュアになる事が出来ないと知ったポップは驚くも、ほのかは、自分達と咲達は、メップル達、フラッピ達と合流出来た事で、プリキュアになれると伝えると、ポップはホッと安堵した。

 

「今、ウルルン、オニニン、マジョリンの三人が、みゆき殿を探しに向かっているのでござるが・・・魔王城とやらに向かっているとすると・・・みゆき殿やウルルン達の身が危険でござるな・・・それがし、みゆき殿達を探しに向かうでござる!!」

 

 ポップの言葉を聞き、顔を見合わせ頷き合ったなぎさとほのか、みゆき達の身に危険が迫っているのなら、プリキュアになれる自分達だけでも、みゆきの下に向かうべきだろうと判断した二人、なぎさはポップを呼び止め、

 

「待って、ポップ!私とほのかも行く!!ひかりは、咲達と一緒にみんなと待機してて!!」

 

「なぎささん、それなら私達も一緒に行った方が良いんじゃ?」

 

「ウ~ン・・・敵の狙いが、私達プリキュアに向けられているとも限らないわ!変身出来ないみんなだけ残しておくのは、得策じゃないと思う・・・なぎさの言う通り、咲さん達はここに残って居て!!」

 

「そういう事なら・・・こっちは私達に任せて下さい!」

 

 ほのかもなぎさの案に同意し、咲に待機するよう頼むと、咲も現状を理解した。複雑な表情を浮かべていたあかね、やよい、なお、れいか、あゆみは、顔を見合わせると頷き合い、

 

「なぎささん!ほのかさん!ウチらも一緒に連れてって欲しいんやけど・・・」

 

「私達・・・みゆきちゃんが心配だもん!」

 

「変身出来ないあたし達じゃ、足手纏いになるかも知れないけど・・・」

 

「私達も、一緒に行かせて下さい!!」

 

「みゆきちゃんの下へ・・・」

 

「「「「「お願いします!!」」」」」

 

 頭を下げてお願いするあかね、やよい、なお、れいか、あゆみの心意気を受け取ったなぎさとほのかは頷き、

 

「分かったわ!でも、私達だけじゃ、あなた達をサポート出来ないかも知れない・・・ひかりさん、やっぱり私達と一緒に行ってくれるかしら?」

 

「ひかりには、あかね達を守ってあげて欲しいんだけど・・・」

 

「はい!喜んで!!」

 

 こうして、なぎさ、ほのか、ひかり、あかね、やよい、なお、れいか、あゆみの八人は、みゆきが向かったであろう魔王城目指し、巨大な鷲に変化したポップの背に乗り、飛び去って行った・・・

 

「なぎささん、ほのかさん、ひかりちゃん・・・みゆきちゃんをお願い!私達も、必ず向かうから!!」

 

 きっと変身アイテムを取り戻し、必ずみゆきの下に向かう・・・

 

 のぞみは、飛び去ったポップを見送りながら誓いを立てた・・・

 

 

 

 

2、プリキュアVS絵本の主人公達

 

 キュアハッピーへと変身し、再びフック船長と戦うハッピー・・・

 

 プリキュアに変身した事で、ハッピーはフック船長のレイピアをものともせず、優勢に戦いを進めていた・・・

 

「こ、この野郎・・・ピーターパン以外にもこんな奴が居やがるとは・・・」

 

「大人しくみんなの変身アイテムを返してぇ!子供達を解放して!!」

 

「うるせぇぇ!!」

 

 次第に追い詰められていくフック船長に焦りの色が浮かぶ、

 

(どうするかぁ・・・一時撤退するにしても、俺様の船をこのままにも出来ねぇしなぁ・・・)

 

 どうするかと心の中で思案するフック船長、まさかピーターパンの偽物がこれ程強いとは想像していなかった。キャンディは、みゆきに読んで貰ったピーターパンの話を思い出すと、そっとフック船長の背後に回り込み、

 

「チクタク!チクタク!」

 

「・・・ま、まさか!?」

 

「チクタク!チクタク!」

 

 嘗て、ピーターパンとの戦いの最中、海に落下したフック船長は、右手をワニに食べられていた。時計をしていた右手を食べられた事で、時計の音、チクタクと聞くだけで、ワニが来たと勘違いし、取り乱す程であった。みゆきからお話を聞かされていたキャンディは、巧みにそれを利用し、フック船長を動揺させた。更に追い打ちを掛けるように、ヌゥと牛魔王が顔を出したのを見たフック船長は、

 

「ギャァァァァ!ワ、ワニだぁぁぁ!!」

 

 船長としての威厳も何処かへ吹き飛び、フック船長は慌てふためいて船から飛び降り、走って逃げ去って行った。牛魔王は小首を傾げながら、

 

「何だ、あいつは!?いきなり逃げ出して?」

 

「キャンディ!牛魔王!ありがとう!!」

 

 ハッピーは二人にウインクし、感謝の言葉を述べた。キャンディは嬉しそうにハッピーに抱き付き、牛魔王は不思議そうに小首を傾げた。

 

「牛の兄貴!こっちも粗方片付いたぜ!!」

 

「これこそが俺様の本来の実力よ!!」

 

 牛魔王に続き、金角、銀角も、フック船長の手下達を蹴散らし、ハッピーに合流した。捕らわれていた妖精達とも無事に再会し、ホッとしたハッピーであった。

 

「これでみんなの変身アイテムも取り戻せたね!」

 

 大切な仲間達の変身アイテムも、無事取り戻せる事が出来て、ハッピーの表情が和らいだ。早くみんなに届けて上げたいと思いつつも、ハッピーは、自分をピーターパンの偽物だと思い込み、警戒している子供達を見つめると、

 

「シロップ、お願いがあるの!フック船長に浚われた子供達を、ネバーランドまで送り届けて上げて欲しいんだけど・・・」

 

「それはお安いご用ロプ」

 

 シロップは、大きな鳥の姿に変化すると、子供達に乗り込むように伝えた。目の前でシロップが変化したのを見た子供達は、大いに驚き、そして喜び、シロップに集まった。ハッピーは、シロップが承諾してくれた事にホッと安堵しながら、不気味に聳え立つ魔王城を見つめると、

 

「後は、ニコちゃんを助けに行かなきゃ・・・」

 

 そう思った時、魔王城の巨大なドアが、ギィィィと不気味な音を上げながら開かれると、大勢の人影が姿を現わした。シロップに乗り込もうとした子供達も、何事かと興味深そうに海賊船から魔王城を見つめた。

 

「あれぇ!?何だろう?」

 

 ハッピーは小首を傾げながらジッと見ていると、ハッピーの目がキラキラ輝いた。中から現われたのは、ハッピーが大好きな絵本の主人公達だったのだから・・・

 

 孫悟空、玄奘三蔵、沙悟浄、桃太郎一行、金太郎、浦島太郎、一寸法師、かぐや姫、シンデレラ、人魚姫、アラジンなど・・・そして、ハッピー憧れのピーターパン!!

 

「どうしよう!こんなに間近で絵本のみんなと会える何て・・・夢みたい!!」

 

 憧れの絵本の主人公達を見て、ウキウキしているハッピーを諭すように、額から汗を垂らした牛魔王は、

 

「夢なら良かったんだろうがなぁ・・・よくあいつらを見て見ろ!!」

 

「エッ!?」

 

 牛魔王に忠告され、今一度ジッと一同を見つめたハッピーは、世界絵本博覧会を襲ったキャラクター達同様、絵本の主人公達の両肩にも、黒い翼が生えている事を確認し呆然とした・・・

 

「そんなぁ・・・」

 

「チッ・・・テメェらぁぁ!仮にも絵本の主人公が、簡単に操られてるんじゃねぇぞ!!」

 

 だが、牛魔王の発破も、絵本の主人公達の耳には届かなかった・・・

 

 不敵な笑みを浮かべながら近付いて来る絵本の主人公達、フック船長を逃亡させたのも束の間、再びハッピー達に危機が迫ろうとしていた。

 

「ワ~イ!本物のピーターパンが助けに来てくれたぞ!!」

 

「お前達、待つロプ!」

 

 ピーターパンが魔王に操られて居るとは知らない子供達は、喜び勇んでピーターパンに駆け寄ろうとするのを、ハッピーが必死に抱きしめ、

 

「待って!今のピーターパンは・・・みんなはシロップの背に乗ってネバーランドに戻って!!」

 

「アカンベェ~~!」

 

「偽物の言う事何か聞かないよ~だ!!」

 

 今のピーターパンの姿を、子供達に見せる事は避けたいとハッピーは思った・・・

 

 子供達の憧れのヒーローが、魔王の意のままに操られる姿を見せたく無かった・・・

 

 だが、子供達にそんな気持ちが伝わる事も無く、子供達は海賊船からピーターパンに声援を送り続けるのだった。

 

「さあ、お前達!ニコの笑顔を奪ったみゆきを・・・倒すカゲェェェ!!」

 

 絵本の主人公達の上空に、黒い球体が飛んでいるのに気付いたハッピー、球体が、ハッピーこそ、ニコの笑顔を奪った存在だと告げた事にショックを受けた。

 

「エッ!?私がニコちゃんの笑顔を奪った!?待って!どういう事?あなたは・・・誰!?」

 

「俺は、魔王!ニコの笑顔を奪ったお前に話す事は無いカゲェェ・・・さあ、みゆきを倒すカゲェェ!!」

 

「待って!魔王!!」

 

「オォォォ!!」

 

 ハッピーの問い掛けを打ち消すように、魔王の号令の下、絵本の主人公達がハッピーの居る海賊船目掛け押し寄せてくる。牛魔王、金角、銀角はハッピーを庇うように前に出ると、

 

「孫悟空共は俺達が引き受けた!行くぞ、金角、銀角!!」

 

「「オオ!!」」

 

 牛魔王、金角、銀角は、自分達が囮になるように、海賊船から飛び降りると、絵本の主人公達に向かって行った。ハッピーは後ろを振り返り、キャンディ、ハミィ、シフォン、シロップ、ピーちゃん、フェアリートーン達に笑みを浮かべながら、

 

「シロップ・・・子供達をお願い!それからキャンディ、他のプリキュアのみんなに、変身アイテムを届けて上げてくれないかなぁ?ついでに、みんなに伝言もお願い・・・ちょっとピンチ!助っ人お願いって!!」

 

 ハッピーは妖精達にウインクをすると、牛魔王達に続くように海賊船から飛び降りた。妖精達は、絵本の主人公達に向かって行ったハッピーの後ろ姿を呆然と見つめ、

 

「ま、不味いニャ・・・早く他のみんなにこれを届けるニャ!!」

 

「でも、どこに居るか分らないクル・・・」

 

「何を届けるって!?」

 

「「「「「!?」」」」」

 

 変身アイテムを囲むように、話し合っていた妖精達の背後から声が掛かり、妖精達はドキっとしながら背後を振り返ると、そこには、なぎさに蹴り飛ばされた猪八戒が、意地悪そうな視線を浮かべ立って居た。

 

「あいつに蹴り飛ばされ彷徨っている内に、妙な場所に着いたと思ったら・・・どうやら、お前ら兄貴の偽物の仲間だな?ちょうどいい!さっきの怨み、お前達で晴らしてやる!!」

 

 猪八戒は、釘鈀(ていは)を地面に叩き付け、なぎさに痛い目に遭わされた鬱憤を、妖精達、そして、ピーターパンに声援を送り続ける子供達で晴らそうと威嚇する。海賊船内の異変に気付いたハッピーが、慌てて戻ろうとするも、

 

「あらぁ!?何処に行こうというのかしら?その格好・・・あなたも私から王子様を奪おうという算段ね!!」

 

 鋭利に尖ったガラスの靴を穿いたシンデレラが、ドレス姿を靡かせ、ハッピーにキックの雨霰を繰り出した。

 

「止めてぇ!私、そんな事思ってないよ!!」

 

 シンデレラの攻撃を躱しながら、シンデレラを説得するハッピー、海賊船を気に掛けチラッと視線を外したその時、背後から更に金太郎が四股を踏み、張り手を繰り出してくる。ハッピーは両手をクロスして攻撃を受け止めるも、その威力に吹き飛ばされ、地面に倒れ込んだ。

 

「ドスコイ!そんな細腕じゃあ、俺の張り手を受け止められないぜ!!」

 

 勝ち誇ったように再び四股を踏む金太郎、ハッピーは少し頭を振りながら立ち上がるも、

 

(このままじゃ、妖精のみんなが、子供達が・・・)

 

 ハッピーに焦りの表情が浮かんだ・・・

 

             第七十二話:魔王の影

                  完

 


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