プリキュアオールスターズif   作:鳳凰009

68 / 136
第六十八話:少女達の冒険!(前編)

1、孫悟空とかぐや姫

 

 昔、昔、ある所に仲間にはぐれたお坊様が居りました・・・

 

 お坊様には、猿、河童の妖怪が付き従い、共にはぐれた仲間を求め、旅に出たのでした・・・

 

 

「って、何でまた孫悟空の格好してるのよぉ!?しかも、絵本博覧会の時よりリアルだし・・・」

 

 なぎさは、右手に如意金箍棒、通称如意棒を持ち、頭には緊箍児(きんこじ)と呼ばれる輪っかを付けていた。赤い上着とオレンジ色のズボンを穿き、ズボンからはニョキィっと尻尾が生え、足には長靴のような物を履いていた。

 

「さすがに、本当に尻尾が生えてないでしょうねぇ?」

 

 少し顔を赤らめながら、なぎさはお尻を撫でてみると、尻尾はズボンに付いているだけだと分かり、ホッと安堵する。

 

「なぎさの格好はマシよ!私何か、悪趣味な髑髏の首飾りをしてるし・・・」

 

 そうボヤいたゆりの衣装はと言えば、普段掛けて居る眼鏡はそのままながら、九つの髑髏のネックレスを首にさげ、右手に半月刃の杖、降妖宝杖を持ち、草色の上着とズボンを穿いていた。沙悟浄と言えば、日本人なら河童を連想するだろうが、本来、沙悟浄は中国では剃髪した僧侶である。さすがにゆりの髪はロングヘアーのままであったが、ゆりは複雑そうな表情を浮かべていた。

 

「西遊記のお話しに来ちゃったね」

 

 そう言うほのかは、西遊記の三蔵法師として有名な玄奘三蔵に扮し、徳の高いお坊様が着ているような、黄土色をした袈裟(けさ)を身に纏っていた。

 

 西遊記と違っているのは、玉龍と呼ばれる白馬と、猪八戒の姿が見当たらない事だろう・・・

 

 三人は、トボトボあても無く荒野を彷徨い、途中アラビア風の衣装の人々や、和服を着た人とすれ違い、ここが何処か聞いて見るも、歩いて居た人々も、自分達も何でこんな荒野を歩いて居るのか分からないと途方に暮れていた。

 

「私達・・・プリキュアの姿でやって来たのに、メップルとミップル、他のみんなとはぐれるし、ゆりはココロポットを無くすし、散々な目にあってるよねぇ?」

 

 プリキュアのままこの世界に来た筈が、プリキュアの仲間達、メップル、ミップル達ともはぐれ、気付いた時には三人共、西遊記の衣装を着て、絵本の世界に辿り着いていた・・・

 

「みんなは何処に飛ばされたんだろうね?」

 

「他の絵本の話に飛ばされたなら、捜すのは厄介かも知れないわねぇ・・・」

 

「さっきの人達の話を聞いても、絵本の世界は混乱しているのが分かるわね」

 

「そうだねぇ・・・アレェ!?」

 

 ほのかの言葉に、ゆりは牛魔王達の言葉を想いだし、他の絵本の話に飛ばされたのなら、捜すのは大変かも知れないと告げた。ほのかも頷き、やはり絵本の世界は混乱していて、捜すにしても確かに厄介な事になりそうだと語った。なぎさもそうかも知れないと、少し憂鬱な気持ちになった時、視線の先に、小さな町らしき物を見付けるや喜色ばみ、

 

「ほのか、ゆり、町があるよ!行ってみよう!!誰か居るかも知れない!!」

 

「待って、なぎさ!迂闊に近付くのは・・・なぎさは今孫悟空だし、觔斗雲に乗って、空から偵察した方が良いんじゃないかしら?」

 

「エッ!?出来るのかなぁ・・・觔斗雲!!」

 

 ほのかに指示されたなぎさは、半信半疑で觔斗雲を呼んでみると、觔斗雲は待ってましたとばかり、なぎさの足下に急降下して止まると、なぎさは恐る恐る足をチョンチョン乗せ、意を決し觔斗雲に飛び乗った。フカフカなベッドの上に居るような心地に、なぎさは楽しそうにピョンピョン跳び、

 

「ほのか、ゆりも乗ってみなよ!折角だからさ、三人で行こう!!」

 

 なぎさに誘われたほのかとゆりは、顔を見合わせると、こんな機会は二度と無いだろうし、乗ってみようかとなぎさの誘いを受け、二人も觔斗雲に乗ってみた。なぎさが先頭、ほのかが真ん中、ゆりが最後尾の順番で、ほのかはなぎさの肩に、ゆりはほのかの肩に手を乗せると、

 

「じゃあ、行くよ・・・行けぇ!觔斗雲!!」

 

 なぎさの指示の下、觔斗雲が大空に舞う!

 

 さすがに、三人乗った觔斗雲は窮屈ではあったが、三人は、觔斗雲から見る空からの眺めを堪能するのだった・・・

 

 

 

 

「何でこんな事になっちゃったんだろう?みんなとはぐれちゃったし、ポルンやルルンも何処に居るのか・・・」

 

 物悲しげに空を見上げるのはひかり、高貴な十二単に身を包んだひかりは、どうすれば良いのか分からず途方に暮れた。

 

「ひかり、そう落ち込むなメポ」

 

「そうミポ!きっとなぎさとほのかが迎えに来てくれるミポ」

 

 ひかりと共にこの場所に飛ばされたのはメップルとミップル、二人はなぎさとほのかが迎えに来てくれるから元気を出せとひかりを励ました。

 

「ありがとう・・・メップル!ミップル!あなた達が側に居てくれるだけでも心強いわ!!」

 

 そうは二人に告げたものの、本当になぎさ達と合流出来るだろうかと、ひかりの心に不安が過ぎる。

 

(なぎささん達と無事に合流出来れば良いんだけど・・・)

 

「かぐや姫・・・今日もお前に求婚を申し込んできたお方が居るぞ!驚くなかれ・・・なんと帝が、お前をお后にしたいと仰られてなぁ!だが、もう一人お后候補が居るらしく・・・」

 

 メップル、ミップルは慌ててコミューン姿になり、ひかりは袖の中にコミューン姿の二人を隠した。老翁はそんなひかりに気付かず、帝から求婚されている事をひかりに告げた。

 

「かぐや姫や、支度をしておくれ!これから帝様にお目通りし、ぜひお前をお后にして頂くようにお頼み申しに参るぞ!!」

 

「そんなぁ・・・困ります!」

 

 ひかりが飛ばされたのは、かぐや姫のお話・・・

 

 ひかりを見た者は、その美しさに触れ、わが妻にと求婚してくる公家の男が後を絶たなかった。ひかりは、何度も私はかぐや姫などではありませんと訴えるも、老翁に取って、ひかりはかぐや姫そのものであった・・・

 

(確か、かぐや姫のお話は・・・)

 

 ひかりは、ひかるに読んで聞かせた、かぐや姫のお話を必死に思い起こし、この状況を覆すヒントが無いか考えるのだった・・・

 

 

 

2、性悪狸と舞の不安

 

 山道を全速力で駆け下りる咲、何かに追われているのか、物凄い形相で駆け下りる。その背後から、鎌を持った老翁が追いかけていた。

 

「待てぇ!この性悪狸がぁぁ!!」

 

「だからぁ、私は狸じゃないってばぁぁぁ!!」

 

「化かそうたってそうはいかねぇぞ!婆さまの仇じゃぁぁ!!」

 

「人違いだよぉぉぉ!!」

 

 咲が送られたのは、かちかち山のお話・・・

 

 咲の格好はと言えば・・・

 

 確かに狸の着ぐるみのような格好をしていて、逃げるのに必死な咲には、自分がどんな絵本の世界に来ているのか分かる筈も無かった・・・

 

 変顔浮かべながら全速力で逃げ続ける咲だったが、草むらの中から泣き声が聞こえ、そっと覗いてみると、

 

「ひかりぃ、何処ポポォォ!なぎさぁ!ほのかぁ!メップルゥ!ミップルゥ!」

 

「みんな居ないルル?」

 

「嫌ポポ!嫌ポポ!」

 

 駄々を捏ねながら泣きわめくポルン、不安で一緒に泣くルルンを見付けた咲は、

 

「ポルン!ルルン!どうしたの!?ひかりとはぐれちゃったの?」

 

「咲ポポ!」

 

「咲ルル?」

 

 二人は見知った顔を見付けるや、嬉しそうに咲に抱きつき、咲も優しく微笑み返した。

 

「アア!この性悪狸、子供さ居やがったかぁ!?しかも二匹も?決めた!婆さまの仇で、今日は狸鍋じゃ!!」

 

「エェェ!?だから私は狸じゃないし、まだ嫁入り前の、純情咲ちゃんだってばぁぁ!!」

 

 再び追いついて来た老翁を見るや、ポルンとルルンを抱きながら、再び全速力で山道を駆け下りる咲、ポルンとルルンは、咲が鬼ごっこをしているように見えてハシャギ、

 

「鬼ごっこポポ!楽しいポポ!!」

 

「違ぁぁう!鬼ごっこじゃないの!!私達、あのお爺さんに捕まったら・・・食べられちゃうかもよ?」

 

「ポポ!?」

 

「ルル!?」

 

 徐々に涙目になったポルンとルルンは、食べられるのは嫌だと再び泣きじゃくり、咲を困惑させた。

 

 さすがに年のせいか、老翁はハァハァその場にへたり込み、近くに居たうさぎを見付けると、

 

「う、うさぎさん!お願いじゃ、この先にいる性悪狸を・・・婆さまの仇を、わしの代わりにとってくださらんか?」

 

「ミルゥ!?」

 

 老翁が、うさぎと思って声を掛けたのはミルクだった。飛ばされた拍子にミルキーパレットを何処かに飛ばされ、この近辺を探索していたミルクは、老翁の話を聞くと、

 

「それはお困りミル・・・分かったミル!ミルクがその性悪狸を懲らしめてやるミル!!」

 

「オオ!それはありがたい!!うさぎさん、ではお願い致しますじゃ!!」

 

 老翁はミルクに何度も頭を下げると、元来た道を戻って行った。それを見届けたミルクは、くるみの姿に変化すると、

 

「性悪狸・・・きっとここは、かちかち山のお話って所ね!」

 

 本来、このような物語に構っている余裕はくるみにも無いのだが、必死に縋り付く老翁の頼みを無碍(むげ)にする訳にも行かず、性悪狸を懲らしめようと、その正体が咲だとは知らず後を追った・・・

 

 

 

「困ったわぁ、咲やチョッピ達ともはぐれちゃったし・・・」

 

 一人トボトボ山道を歩いて居るのは舞、普段着こなさない和服に足袋という出で立ちに、少し困惑しながら歩いて居た舞は、草むらに足を踏み入れた途端、

 

「キャァァァ!」

 

 足に痛みが走った舞は、その場に倒れ込んだ。足下を見ると、それは動物を捕る為の罠のようで、足からは血が滲み始めていた。

 

「どうしよう?こんな山奥じゃ・・・」

 

 少し涙目になった舞だが、意を決し、精一杯の大声を張り上げた。

 

「すいませぇぇん!誰かいらっしゃいませんか?」

 

 そう叫んだものの、こんな山奥では、返事を返してくれる人も居ないのではと不安になった舞であったが、

 

「ハイですぅ!!」

 

「何処ですっ?」

 

 何処かで聞いた事がある声が聞こえてきて、舞の表情はパッと明るくなると、

 

「その声は、シプレとコフレね?私よ!美翔舞よ!!シプレ、コフレ、手を貸して欲しいの!!」

 

 舞の声が近くで聞こえ、顔を見合わせたシプレとコフレが辺りを捜すと、罠に掛かって身動き出来ずに居る舞を見付け、変顔を浮かべながら驚き、舞の側にやって来た。

 

「ど、どうしたですっ?」

 

「山道を歩いていたら、罠に足を挟まれてしまって・・・シプレ、コフレ、この近くに居るのはあなた達だけなの?つぼみさんやえりかさんは一緒じゃないの?」

 

「つぼみ達とははぐれたですぅ!」

 

「僕達も捜していた所ですっ!」

 

 シプレやコフレが居た事で、近くにつぼみやえりかも居るのではないかと思った舞であったが、その目論見は外れた。シプレとコフレは、罠から舞を助け出そうと懸命に罠を解除しようと試みるも、罠はびくともしなかった。途方に暮れた三人の側で、

 

「おい、そこに誰か居るだか?」

 

 人の声が聞こえ、シプレとコフレは大慌てで何処かに隠れようとして、舞の胸元に潜り込み、

 

「エェェ!?ふ、二人共、何もそんな所に隠れなくてもぉぉ?」

 

 頬を染め、少しくすぐったそうにしながら恥ずかしそうにする舞、その胸元は、服から零れ落ちそうに巨大に実っていた・・・

 

「おやぁ!?お前さん、そったら所で・・・って怪我してるじゃねぇだか!」

 

 翁は、舞の胸を見てその大きさに驚きながらも、目線を足に移し、罠を解除すると、素早く袖を破り、舞の足の傷に巻いてくれた。

 

「こったら所じゃ、ろくな手当も出来ねぇ・・・おらの家さ来い!婆さまも居るで、もう少しまともな手当も出来るからのぉ・・・さぁ、おらの肩に掴まるだぁ!!」

 

「ご親切に・・・ありがとうございます!!」

 

 舞は翁に深々とお辞儀をすると、舞の胸元からシプレとコフレの尻尾が飛び出そうになり、舞が慌てて胸元を隠した。翁は、大きすぎて胸が露わになりそうになったのかと誤解し、苦笑すると、

 

「いやぁ、胸さ大きいと・・・色々大変何だなぁ?」

 

「エッ!?いえ、これは・・・そのぉぉ」

 

 困惑しながら、舞は翁の肩を借り、翁の家へと向かった・・・

 

 

 

3、幸せの青い鳥!?

 

 森の中を彷徨う満と薫・・・

 

 二人は薄暗い森の中を、あてもなく歩き続けていた・・・

 

「薫、私達、咲達とはぐれたようね・・・」

 

「そうね、満・・・フープやムープともはぐれてしまったようだわ・・・」

 

 薄いブルーの服を着ているのは満、薄いピンクの服を着ているのは薫、どちらかと言えば、満は普段赤っぽい服を、薫が青い服を着ているのだが、この絵本の世界に飛ばされた二人は、逆の格好をしていた。

 

「どうする、薫・・・このままあてもなく歩き続ける?」

 

「浚われたみんなの事もあるし、このまま此処で時間を取られる訳には行かないけど・・・」

 

 困惑した満と薫の下に、ピヨピヨ白い鳥が、上空を飛んでいる姿が二人に見えた。

 

「見て、薫!ひょっとして・・・ピーちゃん!?」

 

「その可能性もあるわね・・・追いかけましょう!!」

 

 満と薫は、ピーちゃんらしき鳥を追いかけ駆け出した。白い鳥を追いかけていく内に、二人の視線の先に、小さな家が見えてきた。白い鳥は家の屋根に止まると消え失せた。二人は思わず立ち止まると顔を見合わせ、

 

「こんな山奥に家がある何て・・・変ね?」

 

「ええ、あんな鳥を使って、私達を誘き寄せる何て・・・見るからに妖しいわね」

 

 二人は、家から立ち上る美味しそうな匂いに釣られる事も無く、そのまま踵を返し立ち去ろうとすると、

 

「誰だい、私の家を食べて・・・無い!?」

 

 家のドアが開き、中から恰幅良い老婆が姿を現わし、自分の家を食べたのは誰だと告げようとするも、満と薫は既に視界から消え去ろうとしていた。

 

「アッ!ちょっとぉ、待ってぇぇぇ!!」

 

 困惑した老婆は、ヒィヒィ言いながら二人を追いかけると、

 

「ま、待っておくれぇぇ・・・あんた達、お菓子の家だよ!美味しそうだなぁとか思わないのかい?」

 

「別に・・・興味無いわ!」

 

「じゃあ、私達急いでいるから!」

 

 再び踵を返して立ち去ろうとする満と薫、老婆は二人にしがみつき、

 

「お願い、家を食べて良いから・・・家に寄って行っておくれよぉぉ!物語がいきなり終わっちゃうじゃないかぁぁ!!」

 

「「物語!?」」

 

 哀願する老婆を不思議そうに見つめた満と薫、二人が飛ばされたのは、ヘンゼルとグレーテルのお菓子の家のお話・・・だが

 

 お菓子の家から、満と薫が聞いた事がある声が聞こえてきた。

 

「ちょっとぉぉ!早く私達を此処から出してぇぇ!!」

 

「せっかく青い鳥を追って来たら・・・」

 

 声を聞いた満と薫は、顔を見合わせハッとし、

 

「薫、今の声・・・のぞみと響だわ!」

 

「ええ・・・二人共、あの家に居た何て」

 

 のぞみと響の声を聞き、ハッとした満と薫、最初に捕らえた二人組が、満と薫の知り合いだと知った老婆は、

 

「ヒィヒィヒィ!あの二人を捕らえていたのは正解だったようだねぇ・・・さあ、あの二人を助けたかったから、あんた達もお菓子の家にさっさと来るんだよ!!」

 

 さっきの気弱な老婆から一転、ずる賢そうな表情を浮かべた老婆は、のぞみと響を助けたかったら、お菓子の家に来いと満と薫に命じた。のぞみと響をこのままにしておく訳にも行かず、満と薫は、老婆に言われるままお菓子の家へとやって来た。

 

 先程は近づかなかったので分からなかったが、お菓子の家は、正面以外ほとんど無く、のぞみと響の声が、はっきり聞こえた訳が分かった気がする満と薫だった。老婆はそんな満と薫を見るとフンと鼻で笑い、

 

「全く、こんなに食い荒らされるとは思っても見なかったよ・・・お前さん達の仲間の胃袋は底なしかい?あたしが捕まえなきゃ、全部食い尽くされてただろうさ」

 

「ちょっとぉ!失礼な事言わないでぇぇ!!」

 

「お菓子の家が小さ過ぎただけでしょう!!」

 

 老婆の声が聞こえたのか、大きな鳥籠の中に捕らわれた、のぞみと響が頬を膨らませて抗議をするも、少し呆れ顔の満と薫は、

 

「のぞみ、響、あなた達・・・もう少し考えて行動して欲しいわね?」

 

「お陰で、とんだ足止めを受けてしまったわ・・・」

 

「その声・・・満ちゃん!薫ちゃん!」

 

「二人共、助けに来てくれたの?」

 

 満と薫が姿を現わし、のぞみと響の表情が輝いた。のぞみと響は、本来青い鳥の世界に飛ばされたのだが、混ざり合った世界は、ヘンゼルとグレーテル、青い鳥のお話をごちゃ混ぜにした世界だった・・・

 

 

 

4、悪魔の住む家

 

 薄暗い不気味な森を、身を寄せ合うように歩くのは、りん、エレン、なお・・・

 

 三人は、一人スタスタ先を歩くこまちの姿を、恨めしそうに見つめていた・・・

 

 四人が気付くと、欧州の古い庶民の服を着て森の中に迷い込んでいた・・・

 

 あてもなく彷徨う森の中で、何かの文字が書かれた紙を二枚見付けると、

 

「何だろうこれ!?」

 

「剥がれ掛かって・・・アァァ!?」

 

 りんとエレンがちょっと触れただけなのに、紙は呆気なく剥がれた。なおも興味深げに覗いて見るも、何が書かれてあるかまでは分からなかった。こまちに紙を手渡すと、

 

「これ・・・お札じゃないかしら!?」

 

「「「お、お札!?」」」

 

「ええ、何かを封印する為に貼り付けてあったとか?」

 

 少し声のトーンを落として、三人にそう語ったこまちの迫力に、りん、エレン、なおはビビリ、

 

「ちょ、ちょっとこまちさん、脅かさないで!!」

 

「早くこんな森抜けようよぉぉ!」

 

「何だか霧が出てきたよぉぉ」

 

 みんなと合流する為、歩き出した四人であったが、森は霧も出始め、どんどん薄暗さを増し、りん、エレン、なおの恐怖心は一層増していった・・・

 

 こまち一人は、そんな事にお構い無さそうに、再び森の中へと歩を進めていく。周りを見渡したりん、エレン、なおは、

 

「ちょっとぉぉ!こまちさん!!どんどん薄気味悪い森の中に・・・入ってる気がするんですけどぉぉ?」

 

「こまちぃぃ・・・もう戻ろう!」

 

「こまちさぁぁん!帰りましょうよ!!」

 

 りん、エレン、なおは、涙目になりながらそうこまちに訴えるも、

 

「もう少し進んでみましょう・・・あらぁ!?あそこに大きなお屋敷があるわ!行ってみましょう!!」

 

 まるで突然現われたかのように、霧が晴れた先に、大きな洋館が姿を現わした。見るからにオバケ屋敷のような出で立ちに、りん、エレン、なおは、思わず生唾をゴクリと飲み込み、

 

「こ、こ、こまちさん・・・何かあたし、入っちゃ行けない気がするんですけどぉ?」

 

「りんの言う通り!私の野生の勘が・・・そう告げてるわ!」

 

「あたしも・・・入っちゃ行けない病が・・・」

 

 りん、エレン、なお、三人は同じ表情で首をブルブル横に振り、洋館に行くのを頑なに拒んだ。こまちは小首を傾げ、困った表情を浮かべると、

 

「じゃあ、私が見てくるから、三人は此処で待ってて!」

 

 そう言い残し、こまちはまるで恐れを知らぬように、洋館の庭へと入っていた。大きな門の前で途方に暮れていたりん、エレン、なお、森の中からけたたましい動物の声が聞こえ、この場で待っている三人は、心細さが募ってくる。

 

「ね、ねぇ・・・あたし達も行こうか?」

 

「そ、そうね、私達で残るより・・・こまちが居てくれた方が心強いわね!」

 

「そうと決れば・・・」

 

「「「待ってぇぇぇぇ!!」」」

 

 三人は、視界から消えそうなこまちを、慌てて追いかけ洋館の庭へと入っていった。

 

 こまちは洋館のドアをノックすると、見るからに不気味そうな銀の鼻をした男が姿を現わし、思わずりん、エレン、なおはギョッとした表情を浮かべた。

 

「誰だ?」

 

「私達、道に迷ってしまって・・・よろしければ、この森を抜け出す道を教えて頂ければと・・・」

 

「ほう、それはお困りだねぇ・・・でも、この霧が晴れないと、この森を抜け出す事は難しいかも知れない・・・良かったら、霧が晴れるまで休んで行くと良い!」

 

 銀の鼻をした男は、気さくにこまち、りん、エレン、なおを受け入れ、洋館の中を案内して回った。どの部屋も豪華で、思わず四人から感嘆の声が飛び出す程だった。

 

 とある部屋の前に来ると、銀の鼻をした男は声を潜めるように、

 

「今まで案内したどの部屋を使っても良いよ!でも・・・この部屋だけは決して開けてはいけないよ!良いねぇ?」

 

 カッと目を見開き、まるで四人を威嚇するように、銀の鼻をした男は告げた。その表情に、りん、エレン、なおは、身を寄せ合い震え上がった。こまちは笑みを浮かべ、

 

「ご親切にありがとうございます!では、少しの間お世話になります!!」

 

「ああ、そうすると良い!そうそう、君達にプレゼントをしよう・・・」

 

 そう言うと、銀の鼻をした男は、こまちの髪にジャスミンの花を、りんの髪にバラを、エレンの髪にカーネーションを、なおの髪にパンジーを付けた。困惑しながらも花のプレゼントを受け取った四人、銀の鼻の男は笑みを浮かべると、

 

「では、私は麓の道までの霧が晴れたか見てきて上げよう!」

 

 そう言い残し、館を出ていた・・・

 

 とある部屋に集結した四人、りん、エレン、なおは、見た目は怖そうだけど、親切な人で良かったとホッと安堵する中、こまちだけは神妙な顔持ちで何かを思案するのだった。

 

「こまちさん、あたし達折角だから館の中を見てきますね!」

 

「こんな大きな館、見る機会なんてそうそう無いものね」

 

「まあ、かれんさんの別荘見た事あるあたしは、そんなに驚かないけど」

 

 緊張の糸が解れ、リラックスした一同が部屋から出て行った・・・

 

(何となく、これと似たような話を何処かで読んだような気が・・・)

 

 こまちは、子供の頃読んだ本の記憶を、懸命に呼び覚ましていた・・・

 

 どれくらい経ったのか、こまちの表情が凍り付き、何かを思い出すと、

 

「思い出した!銀の鼻をした男・・・それは悪魔!私達、銀の鼻のお話に迷い込んだんだわ!!」

 

 こまちが思い出したのは、銀の鼻の話・・・

 

 洗濯屋を営む母と、その母を助け家業を手伝う三人の娘達だったが、暮らしはちっとも豊かにはならなかった・・・

 

 一番上の娘は、いっその事、悪魔の家でも良いから、奉公に行こうかしらと、冗談とも本気とも取れる言葉を発した。母親は烈火の如く怒り、娘を窘めるも、それから数日後、娘の言葉を聞いていたかのように、銀の鼻をした紳士が訪ねてくる。

 

 紳士は、娘さんを私の家に奉公に出しませんか?と母親に持ちかけ、母親は、銀の鼻をしている男を見て、悪魔かも知れないと疑念を抱くも、一番上の娘は一笑に付し、銀の鼻の男の家に奉公に出るのだった。

 

 それが、悪魔の住処と気付かず・・・

 

 

 立ち上がったこまちは、りん、エレン、なおにその事を告げようと部屋を飛び出そうとしたその時・・・

 

 

 洋館の室内を見て回ったりん、エレン、なお、三人は、銀の鼻をした男が、決して中を見てはいけないと言っていた部屋の前に来ると、エレンは中の様子が気になるようで、りんとなおに同意を求めるように、

 

「見るなって言われると・・・ちょっと気にならない?」

 

「そりゃぁね・・・気にはなるわね」

 

「エレンさん、りんさん、勝手に見たら・・・」

 

「まあ、まあ、直ぐ閉めれば良いし!」

 

「そうそう」

 

 そう言ったエレンとりんが、二人掛かりで重いドアを開くと、部屋の中は真っ赤な炎が吹き出し、中では焼けただれた人が大勢苦しんで居た・・・

 

 まるで地獄の業火の中に居るように・・・

 

 中からは、熱い、苦しい、痛いと炎に苦しむ人々の声が聞こえ、三人はギョっとし、慌てて扉を閉めた。

 

「な、何!?今の?」

 

「おぞましい炎が、部屋中に充満してたわ!」

 

「人が苦しむ声が聞こえたよ!」

 

 引き攣った顔で互いの顔を見つめたりん、エレン、なお、明らかにこの部屋の中はおかしいと感づいたその時、

 

「お前達、その部屋の前で何を!?」

 

 銀の鼻の男は、三人の髪に付けた花が焦げているのに気づくと、

 

「見たなぁぁぁ!!」

 

「「「キャァァァァァァ!!」」」

 

 見る見る内に、銀の鼻をした男が恐ろしい形相となり、りん、エレン、なおの三人は、口から魂が抜け出るかのように絶叫した・・・

 

 

            第六十八話:少女達の冒険!(前編)

                   完

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。