第六話:憎しみの心
1、
青く美しい地球は今、地球全土を覆う砂漠化の影響で、黄土色へと変わってしまった。地球砂漠化の現況、砂漠の王デューンを倒す為、そして、つぼみの祖母、薫子を救う為、惑星城に乗り込んだ、キュアブロッサム、キュアマリン、キュアサンシャイン、キュアムーンライトは、それぞれの役目を果すべく個々に行動していた・・・
そして地上では、四つ葉町に集結したプリキュア達が動き始めていた・・・
地上と宇宙・・・
プリキュア達の戦いは続く・・・
ブロッサムは、無事に捕らわれていた祖母薫子の下に辿り着き、見張っていたスナッキー達の親玉、2人のボスナッキーを、薫子の妖精コッペと共に倒し、無事に薫子を救出した。
「お婆ちゃん!」
「つぼみ!!」
無事に孫と祖母は対面した・・・
それをモニターで見ていたデューンは、不適な笑みを見せると、
あるスイッチを押した。ブロッサム達の居る部屋に、突然モニターが現われると、そこに映っていたのは、惑星城の野外、石柱の上で互いに睨み合い、今、正に相対峙しようとしていたムーンライトとダークプリキュアが映って居た。
「ムーンライト!」
ブロッサムは、ムーンライトの援護に向かおうと走り出す。その後ろ姿に、戸惑った表情を浮かべた薫子が声を掛ける。振り向いたブロッサムは、薫子の表情が曇っている事に小首を傾げた。薫子は、
「つぼみ・・・ゆりちゃんとサバークを戦わせないで・・・お願い!」
ブロッサムには、何故薫子がそんな事を言うのか分らなかったが、祖母に無言で頷くと、急ぎムーンライトの下に向かった。
一方マリンは、パートナー妖精コフレと共に、砂漠の使徒幹部、クモジャキーと戦い、肉弾まみれる死闘の末に、遂にクモジャキーを浄化する。
サンシャインもパートナー妖精ポプリと共に、砂漠の使徒幹部、コブラージャと戦った。苦戦の果てに、サンシャインもまたコブラージャを浄化する。
合流したマリンとサンシャインだったが、強敵との戦いの代償は大きく、疲労が溜まっていた・・・
「楽勝!・・・と言いたいけど、参ったね・・・こりゃ!」
「そうだね、早くブロッサム達に合流したいけど・・・」
壁を背にして共に座り込み、しばし休息する二人だったが、此処は砂漠の使徒の本拠地である惑星城・・・
当然二人の行動は、敵側に筒抜けであった・・・
「キィキィキキキ!!!」
不敵な笑みを浮かべながら、スナッキーの大群が現われ、マリン、サンシャインを包囲しはじめた。
スナッキーとは、砂漠の使徒のいわば下級兵士で、非常に弱い敵ではあるが、中身が砂の為、砂さへ補充すれば、何度でも向かってくるタフさを備えていた。今の疲労している二人に取っては、最も出会いたくない相手であろう・・・
「ああ、こんな時にまた此奴らかぁ・・・全く、弱いくせにしつこいんだからさぁ!」
マリンがヨッコラセと立ち上がり首を回す、サンシャインは、そんなマリンを見てクスリと笑い、
「そうだね・・・スナッキーの諸君、出来れば道を空けてくれないかな?私達に勝てるとは思わないけど!?」
サンシャインが攻撃の構えを取り、スナッキーを威嚇すると、思わずたじろいだスナッキー達だが、顔を見合わせると、雄叫びを上げて一斉に二人に飛びかかってくる。マリンとサンシャインの攻撃を受け、呆気ないくらいにやられていくスナッキー達だったが、医者の格好をした二人のスナッキーに、砂を補充してもらい、穴が空いた箇所を、テープで止めては再び向かってくる。
その繰り返しだった・・・
変顔になったマリンは、しつこいスナッキー達に苛々したようで、
「ああ、もうイライラする!サンシャイン、一気に行くよ?」
「エッ!?あ、うん!!」
「マリ~ン!インパクト~~!!」
「サンシャイン!イージス・・・インパクト!!」
二人の技を喰らい吹き飛ぶスナッキー達だが、後から後から増強されていく。物量に物をいわせたスナッキー達が、徐々に二人を包囲して行った。勝ち誇ったようにニヤつくスナッキー達が、徐々に間合いを詰めていく。
形勢不利と見たマリンは、小声でサンシャインと妖精達に、作戦会議をしようと持ちかける。そして、スナッキー達が一斉に飛び掛かった時、マリンが叫ぶ。
「タ~ンマ!!!」
「タイムでしゅ~!」
続けて妖精達がタイムを要求する。思わずズッコけたスナッキー達だが、健気に言われた通り待ってやる。ヒソヒソ話でどうするか相談しあう一同は、マリンのアイデアで、取り敢えずスナッキーに化け、この場を乗り切る事に決めた。
「スナッキーの諸君!待たせたね!!」
サンシャインが構えるが、スナッキー達は手を後ろに回して寛いだり、大あくびをしたりしていた。サンシャインは思わずキョトンとすると、
「キキキィ!キィ、キキキ!!」
一人のスナッキーが、サンシャインを指さし、ジェスチャーを始める。サンシャインは、不思議そうに小首を傾げるも、
「エッ!?何?・・・待ってやったんだから・・・スカートを捲って・・・チラリと・・・見せるぐらいしろだってぇ!?・・・」
自分の言ってる事がサンシャインに通じて、満足そうにニヤニヤするスナッキー達に、思わず顔を真っ赤にして俯くサンシャイン、マリンが不機嫌そうに、
「ハァ!?バッカじゃないの?あたし達がそんなサービスする訳無いっしょ!!・・・ン?」
「キィィ!キキキィキ・・・キィキキキ!!」
今度はマリンを指さし、ジェスチャーを始めるスナッキー、
「ハァ?何言ってるんだか、わ~かり~ませ~ん!!」
マリンが右手を耳に当て戯けると、怒ったようなスナッキーが、マリンを指差し先程と同じ声を発する。しょうがないなぁとばかりに、マリンが渋々解読する。
「分ったわよ!・・・何々・・・お前のは・・・別に・・・見なくていいぃぃだとぉぉ~~~!!!」
言葉が通じたようで、再びニヤニヤするスナッキーだったが、マリンの顔付きが変わり、目に炎が点る。マリンの迫力の前に、思わず後ずさりするスナッキー達・・・
「もう完全にあったまきたぁぁ!!海より広いあたしの心も、ここらが我慢の限界よ!!!」
鼻息も荒く怒るマリンを、ここで戦っては、さっきの作戦が台無しになってしまうとばかりに、コフレが必死に宥めようとする。
「マ、マリン、落ち着くですっ!今立てた作戦が無駄になるですっ!」
マリンがコフレを睨むと、その迫力の前に、コフレは何でもないですっとスゴスゴ引き下がる。
マリンはサンシャインに合図を送ると、サンシャインも苦笑しながらも同意する。
「「プリキュア!大爆発!!!」」
二人の合体技が炸裂して、辺りに大爆発が起こる。変身を解除した二人と妖精達は、その隙に三人のスナッキーから衣装を剥ぎ取り、変装してその場を離れるのであった。
「別に、スナッキーの衣装を剥ぎ取らなくても・・・僕達、この場から逃げれたんじゃないかなぁ?」
爆風に巻き込まれ、気絶しているスナッキーの大群を見て、いつきが思わず本音を言うも、一同はブロッサム達に合流すべく、先を急いだ!
「ゆりちゃん・・・・・」
捕らわれていた部屋で、沈痛な表情を浮かべながら、ムーンライトとダークプリキュアの死闘を見ていた薫子の下に、三人のスナッキーが現われる。薫子は瞬時に顔色を変えると、
「スナッキー、また性懲りもなく現われたわね!」
薫子が身構えると、三人は手を振って違うとジェスチャーするが、先頭のスナッキーは、覆面を取ろうとするも髪に引っかかりもがいていた。そんな先頭のスナッキーの前に、薫子の妖精コッペが立ち塞がり、先頭のスナッキーは首をブルブル振った。
薫子は後ろの二人が覆面を取るのを見て、思わず声を出す。
「いつきちゃん!?コフレ、ポプリ!・・・じゃあ、先頭に居るのは・・・コッペ、攻撃しては・・・アッ!?」
薫子の言葉が終わる前に、コッペのパンチが、先頭に居たスナッキーに直撃して吹き飛ぶ!その反動で、覆面が取れた中から顔を見せたのは、お目々グルグル状態のえりかであった。いつきと妖精達は、アチャといった表情を浮かべ、顔色を変えた薫子が、えりかの下に駆け寄ろうとするも、えりかはヨロヨロ立ち上がり、
「コ・・コッペ様・・・ひ、酷いよぉ~!!」
「え、えりかちゃん・・・ご、ごめんなさい、私もコッペも、みんなをスナッキーだと思って・・・えりかちゃん、大丈夫?」
無表情ながらも、コッペも悪いと思ったのか、コッペがえりかを担ぎ、薫子の下に連れて来る。
「さっきはごめんなさい・・・二人共、無事で良かったわ!でも、大分疲れているみたいねぇ?」
薫子の言葉にえりかといつきも頷く、ここまで来るのに、クモジャキーとコブラージャを倒し、スナッキーの大群と戦って、さすがにヘトヘトだよとえりかが呟くと、薫子は頷きながらコッペの名を呼んだ。
名を呼ばれたコッペは、ココロポットを取り出した。今まで集めてきたこころの種が輝き、疲れて座り込んでいたえりか、いつき、コフレ、ポプリを癒し、一同の体力を回復させた。見る見る力が漲ってきた事で、一同が立ち上がると、
「おっしゃ~!復活ぅぅ!!」
元気にはしゃぐえりかを見て微笑む薫子、画面を見て真剣な表情になったいつきが、えりかを呼んだ。
「えりか、あの画面を見て、ムーンライトが、ダークプリキュアと戦ってるよ!」
二人が画面を見ると、ダークプリキュアの攻撃が直撃し、ムーンライトが後ろに飛ばされるも、ムーンライトは飛ばされながら、ダークプリキュアに連続してエネルギー波を浴びせる。最初の二発を弾いたダークプリキュアだったが、三発目がヒットし、思わずよろめく、ムーンライトはその隙を逃がさず、間合いを詰めてダークプリキュアにかかと落としをヒットさせようとした瞬間、サバークが現われ、ムーンライトにエネルギー弾をヒットさせ、ムーンライトが吹き飛ばされた。
サバークの登場は、薫子の脳裏に、嫌な思い出を甦らせた・・・
ムーンライトが、パートナー妖精コロンを失い、ダークプリキュアの前に敗れさったあの出来事が・・・
(つぼみ・・・急いで!!)
不安がる薫子だったが、その側には、頼れるもう二人のプリキュアが居た・・・
「あんにゃろ~・・・いつき、あたし達も応援に行こう!」
「うん!」
いつきも頷くと、二人はココロパフュームを手に持った。
「プリキュアの種、行くですっ!」
「プリキュアの種、行くでしゅ!」
二人の妖精から、えりかといつきにプリキュアの種が送られる。
「「プリキュア!オープンマイハート!!」」
えりかといつきが香水を掛け合うと、掛けられた箇所からどんどんプリキュアへと変化していく。髪も伸び色も変化し、えりかは水色に、いつきは黄色に変化し、ツインテール状態になる。変身を完了した二人が名乗りを上げる。
「海風に揺れる一輪の花、キュアマリン!」
「陽の光浴びる、一輪の花、キュアサンシャイン!」
「お婆ちゃん、ちょっくら行って来るね!」
「コッペ様、薫子さんをお願いします!」
変身を終えた二人は、薫子とコッペに手を上げて合図を送ると、ムーンライトの援護に向かった!!
2、
希望ヶ花市・・・
嘗て、砂漠の使徒によってデザトリアンにされ、プリキュアに助けられた人々は、結晶化を免れ、唯一砂漠化を免れている薫子が所長を務める植物園に避難していた・・・
その中の一人、番ケンジは、砂漠の彼方に、デザートデビル達が闊歩する絶望的な風景を、ぼんやり眺めていた。不意に名前を呼ばれたケンジが振り向くと、つぼみやえりか、いつきと同じファショッン部に所属している、志久ななみが立って居た。
「番君・・・私達、どうなっちゃうのかな?」
不安そうに問うななみを見て、ケンジはフッと笑むと、
「どうにもならんさ、俺達がプリキュアを信じている限り、世界は必ず救われるさ!!」
ケンジの言葉を聞き、何度も頷くななみであった。
だが、そんなケンジの言葉を嘲笑うように、デザートデビルが植物園に近づこうとしていた・・・
ムーンライトに合流したブロッサムだったが、ダークプリキュアとは、一対一で戦いたいとムーンライトに諭され、ブロッサムは、二人の戦いをサバークに邪魔させないよう、サバークに戦いを仕掛けた。
「史上最弱のプリキュアの貴様が、この私と戦おうなどと・・・身の程を知れ!!」
サバークは、連続エネルギー波をブロッサムに浴びせる。ブロッサムは躱しきれず、悲鳴を上げながら吹き飛ばされた。ダークプリキュアと戦いながらも、ブロッサムの事を気に掛けるムーンライトは、
「ブロッサム!」
ブロッサムの名を叫び、援護に向かおうとするムーンライトだが、ダークプリキュアに阻まれて、救助に向かう事は出来なかった。
再び睨み合う両雄・・・
「そこを退きなさい!」
「ならば、私を倒す事だな!!」
再び開始される、ムーンライトとダークプリキュアの宿命の対決!
そして、勝ち誇ったサバークは、ヨロヨロしながら立ち上がったブロッサムを、弱いと評し、史上最弱と罵った。ブロッサムは、サバークの言葉を否定する事は無かった・・・
確かに自分は弱い・・・
でも、えりかやいつき、ゆり達と共に、沢山の人達をプリキュアとして救って来た事で、沢山の事を学んで居た・・・
えりかやいつきも、そして、強いと思って居たゆりだって、みんな悩みを持っていた事を知った。ブロッサムの言葉を聞いていたシプレが、ブロッサムに微笑みかけると、マントに姿を変え、ブロッサムに巻き付く。空を飛び、サバークの攻撃をかいくぐったブロッサムが言葉を続ける。
「今の私には、大切な仲間が居て、愛する家族が居て、大好きな友達が居ます!私はこの世界が大好きです!!ちっぽけでも、史上最弱のプリキュアでも、どんなにあなたに罵られようとも、私達を信じてくれているみんなの心を・・・必ず守ってみせます!!その気持ちだけは・・・誰にも負けません!!!」
ブロッサムの言葉を聞いたムーンライトは、ブロッサムが自分と対等、いやそれ以上かも知れない程に成長した事を知り、思わずフッと口元に笑みを浮かべた。そんなムーンライトを、ダークプリキュアは忌々しげに見つめ、
「私と戦いながら・・・何を笑っている!?」
ダークプリキュアの強力な右パンチを、片手で受け止めたムーンライトが、ダークプリキュアに宣言する。
「決着を付けましょう!例え此処で私が倒れても、ブロッサムが居る!マリンが居る!サンシャインが居る!」
それは、ムーンライトの本心だった・・・
例えこの場で自分が敗れたとしても、今のブロッサム達三人ならば、砂漠の使徒に勝利出来るだろうと・・・
激昂したダークプリキュアは、
「戯れ言を・・・言うな~~!貴様を倒した後、そいつらも始末してやる!!」
「あなたに、それが出来るかしら?簡単には倒されない・・・それが私達、プリキュアの絆よ!!」
ムーンライトは、そう言うと表情を引き締め、勝負に出た!!
「集まれ!花のパワー!!」
「闇の力よ、集え!!」
ムーンライト、ダークプリキュア、共にムーンタクトとダークタクトを取り出す。
「プリキュア!フローラルパワー・フォルテッシモ!!」
「プリキュア!ダークパワー・フォルテッシモ!!」
ムーンライトが白銀の光を帯びれば、ダークプリキュアが赤黒い光を帯びる。変わり果てた地球を背景に交差する光と光・・・
一方のブロッサムとサバークの戦いも、佳境に入っていた・・・
サバークの一瞬の死角を付き、シプレが妖精姿に戻ると大の字になりながら落下してくる。
「妖精全部パンチ!ですぅ!!」
サバークの仮面に取り付きサバークの視覚を完全に塞ぐ、そのチャンスを逃すまいと、ブロッサムタクトを取り出したブロッサムが叫ぶ!
「花よ、輝け!プリキュア!ピンクフォルテウェ~イブ!!」
ブロッサムのフォルテウェーブが当たる寸前、サバークから離れるシプレ、ブロッサムとシプレのコンビネーションが見事に決り、サバークに直撃する。サバークが付けていた仮面は、フォルテウェーブの威力で、縦に真二つになり、サバークは両膝を付き、顔を覆って呻き声を上げた。
ブロッサムはシプレの協力の下、遂にサバークを戦闘不能に追い込んだ!
遅れて広場に到着したマリンとサンシャインは、サバークを倒したブロッサムに駆け寄った。二人の出現に表情が和らいだブロッサムは、
「マリン!サンシャイン!クモジャキーとコブラージャは?」
マリンが親指を立てて笑顔を見せ、サンシャインもニッコリ微笑み頷いた。ブロッサムの表情が見る見る綻び、
「二人共、無事で良かったです!」
「あったりまえじゃん!それよりブロッサム、やったじゃん!サバークを倒す何てさぁ!!」
「本当に・・・凄いやぁ!」
マリンとサンシャインに褒められ、少し照れるブロッサムだったが、
「いいえ、私一人の力じゃありません!シプレが、ムーンライトが、そして、マリンやサンシャインが居てくれたから、私はサバークに勝てたんです!!」
ブロッサムの言葉に、笑顔を浮かべるマリンとサンシャイン、ブロッサムも微笑み返した。そして三人の視線は、死闘を続けるムーンライトに注がれた。
互いの魂をぶつけ合うように、死闘を続けるムーンライトとダークプリキュア、
「勇気、愛、友情、優しさ、悲しみ、喜び・・・たくさんの気持ち、みんなの心、そして仲間との絆・・・命と心 に満ちあふれたこの世界を・・・私は守る!!!」
ムーンライトの魂の叫びに感応するように、フォルテッシモ同士でぶつかり合っていた二人の均衡が崩れる。
「な、何だ!?ムーンライトのこのパワーは?私が・・・押されているだと!?ウワァァ!!」
ムーンライトのフォルテッシモが、ダークプリキュアを貫き、着地したムーンライトが叫ぶ!
「ハ~~ト・・・キャッチ!!!」
ムーンライトの叫びと共に爆発が起こり、ダークプリキュアは、力なく地上に落下した。
ムーンライトとダークプリキュア、二人の因縁の対決は終焉を迎えた・・・
3、
「ムーンライト!!」
ムーンライトに微笑みながら駆け寄る三人に、ムーンライトは優しく微笑み返した。そんな中、顔を押さえて苦しんでいたサバークが顔を上げる。サバークの方に視線を向けた四人だったが、サバークの顔を見た瞬間、ムーンライトの表情がどんどん曇り、涙を浮かべた。
「そ、そんな!?お、お父さん!」
「「「エッ!?」」」
涙を浮かべながら、サバークに駆け寄るムーンライトに、ブロッサム、マリン、サンシャインは、訳が分からず呆然とする。
「エ~、訳わかんな~い・・・何でサバークがぁ!?」
「ど、どういう事なの?」
「そんな、サバークが、ゆりさんのお父さんだった何て・・・お婆ちゃんが私に、ムーンライトとサバークを戦わせないでって言ったのは、この事に気付いていたから?」
三人は複雑な心境で、月影父娘の再会を見守る事になってしまった・・・
「私は・・・一体何を・・・!?」
頭の中が混乱しているかのように、何故此処に居るのかも分らず、呆然とする月影博士に、ムーンライトが抱き付くと、
「お父さん、私です!ゆりです!!あなたの娘のゆりです!!」
涙ながらに、父月影博士に抱きつくムーンライトと、ムーンライトの言葉に反応する月影博士、それは、悲しき再会だった・・・
「ゆり、ゆりなのか!?す、すまない・・・私は、私はお前に合わす顔が・・・」
その時、戦闘不能状態だったダークプリキュアが、ゆっくり、ゆっくり、よろめきながらも立ち上がる。ムーンライトを見るその表情には、口惜しさが浮かんでいた。
「キュ、キュアムーンライト!サバーク博士から・・・私の父から離れろ!!」
ダークプリキュアの言葉に、ムーンライトは激しく動揺する。何故、ダークプリキュアが父と呼ぶのか、ムーンライトの頭の中が混乱する。月影博士に縋るような目を向けたムーンライトは、
「父!?お父さん、どういう事ですか!?何かの間違いですよね?」
「間違いだと・・・私を作り上げたのは、サバーク博士だ!その目的は、キュアフラワーの後を継いだ、キュアムーンライト・・・お前を倒す為だ!!」
口元に笑みを浮かべながら、ダークプリキュアは語った。ムーンライトは、ダークプリキュアの言葉に激しく頭を振った。
「う、嘘よ!そんな、そんなの・・・信じられない!!私とお母さんを置いて、こんな事になる何て・・・お父さん、嘘だと言って下さい!!」
「ゆり・・・すまん、本当にすまん・・・私は、お前を苦しめる為に、ダークプリキュアを作り上げてしまった!」
記憶が徐々に繋がってきた月影博士は、俯きながらもダークプリキュアの言葉を認めた・・・
ムーンライトの頭の中が混乱する・・・
それはそうであろう、親愛なるパートナー、コロンを倒したのはサバーク、宿敵であるダークプリキュアまで、自分を倒す為に父が作り上げたとは・・・
ブロッサム、マリン、サンシャインは、ムーンライトの、ゆりの心情を思うと、涙が溢れ出る。ダークプリキュアがもう一度叫ぶ・・・
「私の父から離れろ!」
ムーンライトは、頭を激しく振り嫌々をするも、月影博士は、一瞬悲しそうな瞳でムーンライトを見ると、
「ゆり・・・私にはもう、お前を抱きしめる資格が無い!私にはもう、お前の父として、春菜の夫である資格は・・・もう無い!!」
その言葉を聞き、戸惑ったムーンライトを残し、月影博士は、傷ついたダークプリキュアの下に歩を進める。歩きながら、月影博士は語り出す。
「私は、あらゆる心と命を見守る、こころの大樹の秘密を解き明かせば、皆が幸せになれると信じていた。そんな魔法のような物は無い、幸せとは、皆が頑張って少しずつ掴むものと言う花咲所長の助言さえ耳に入らない程に・・・研究に行き詰まっていた私に、砂漠の使徒がコンタクトを取ってきた。私は、藁をも掴む思いで、その誘いに乗ってしまった。デューンへの忠誠を誓う証として、私はその仮面を被り、砂漠の使徒サバークとなってしまった!」
よろよろとしながら、自らも月影博士に近づこうとするダークプリキュアを見て、月影博士は更に語る。
「ゆり・・・私は、お前を苦しめる為に、ダークプリキュアを作ってしまった。キュアムーンライトを倒す為に存在する、心の無い人形として・・・」
ダークプリキュアの側に付くと、ダークプリキュアを抱きしめる月影博士、それを見て、ムーンライトは唇を噛んだ。
「もういい・・・もういいんだ・・・ダークプリキュア!もう・・・いいんだ!ダーク、お前もゆりと同じだ!私の、私の大切な娘だ!!」
ダークプリキュアの頭を優しく撫でる月影博士に、ダークプリキュアは幸せそうな表情を浮かべていた。
「ゆり、ダークは、お前の細胞の一部と、こころの大樹を研究して生まれた・・・お前の妹だ!ダーク、ゆりは・・・ムーンライトは、お前のたった一人の姉だ!私は、姉妹同士で傷つけあいをさせてしまった愚かな父だ・・・ゆり、ダーク、すまない!!」
ダークプリキュアの目から涙が零れた・・・
感情の無い戦闘マシーンとして生まれた彼女は、密かに父である月影博士に、娘と呼ばれる日を信じて戦い続けた。常にムーンライトと比べられる事が嫌だった。ムーンライトさへ倒せば、父は自分に振り向いてくれる、そう思っていた。
だが、月影博士は、自らの過ちを悔いていた。自分をムーンライトと同様に、娘と呼んでくれた。ダークプリキュアの中で、今までのムーンライトへの蟠りが消えていった・・・
「お父さん・・・」
そう言って月影博士の頬に触れた。
心の中で、何度サバークをそう呼びたかった事か・・・
それが今、自分の口から自然と飛び出た事に、うっすら笑みも浮かんだ。今なら、ムーンライトを姉として受け入れられる気がして、思わずそんな自分がおかしくもあった。
その時、ダークプリキュアの身体を、徐々に光が包み始める・・・
ダークプリキュアは、ムーンライトの方に顔を向けると、今まで見せた事の無い穏やかな表情でニコリと微笑み、手に持っていた、ムーンライトのプリキュアの種の片割れを渡そうとする。一瞬戸惑ったムーンライトだが、意を決し、ダークプリキュアの下へと走り出す。だが無情にも、光はダークの身体を包み込み、ムーンライトのプリキュアの種の欠片は、地面に落ちコロコロと転がっていった。
「ありがとう・・・」
その場に居た一同の心に、深い悲しみを残し、ダークプリキュアは、散りゆく光と共に、完全に消滅した。
月影博士は、両膝を付き悲しみにくれた・・・
ムーンライトは、舞い上がる光の粒子を見送った・・・
その時、その場に相応しくない拍手が鳴り響く、拍手の鳴る城の塔に顔を向けた一同の視線に、砂漠の王デューンが、遂にその姿を現わした。
4、
「やれやれ、とんだお涙頂戴だったね!茶番はもう終わったのかな?」
デューンは塔から飛び降りると、目の前にあった月影博士が付けていたサバークの仮面を、踏みにじり粉々にした。
「デューン!!」
月影博士は、物凄い形相でデューンを睨み付けると、デューンは口笛を吹き戯(おど)けた。
「お~、怖い、怖い・・・そんな顔で見ないでくれるかな?大体、僕達の仲間になりたいと言ったのは、君の方だよ?フランスに渡り、研究を続けていた君は、研究に行き詰まった頃、我ら砂漠の使徒の存在を知った。こころの大樹の情報が欲しい君は、自ら僕らにコンタクトを取ったんじゃないか?もっとも、君には感謝しているよ!君の研究成果のお陰で、僕はこころの大樹の守りを破る事が出来たんだからね」
デューンの言葉を、拳を振るわせて聞いていた月影博士が、激高してデューンの名を叫びながら拳を振るう。だが、デューンは軽く攻撃をいなし、逆に月影博士のボディに強烈なパンチを浴びせる。月影博士がその威力に吹き飛び倒れ込む。
「お父さん!・・・デュ~~ン、よくもお父さんを!!」
ムーンライトの表情が一気に険しくなると、再びデューンは口笛を吹き戯ける。
「お~、怖い、怖い・・・親子揃って、そう僕を睨むのを止めてくれるかな?むしろ、親子の再会を果たせて上げた僕に、感謝して欲しいぐらいだよ!フフフ!」
そう戯けながらも、デューンの視線がゆっくりと、ムーンライトからブロッサム、マリン、サンシャインへと注がれる。
「さて、プリキュア共!僕の城を土足で荒らし回った報いを、受けて貰おうかな?君達は、この戦いで絶望を知る事になる・・・あの変わり果てた星のように、心の花を枯らすが良い!!」
ブロッサム、マリン、サンシャインの表情が一気に引き締まる!
真っ先にムーンライトが飛び出し、デューンに攻撃を開始した。それを見たマリン、サンシャインも攻撃に向かう。ブロッサムは、足下にあったダークプリキュアが落とした、ムーンライトのプリキュアの種の欠片を拾うと、遅れて戦いに参加する。
ムーンライトの怒濤の攻撃を、余裕で躱すデューン、加勢したマリン、サンシャインの攻撃をも余裕で捌く、遅れて参加してきたブロッサムだったが、攻撃はデューンにかする事もなく、逆にデューンの攻撃を受ける。
「「「キャアァァ!」」」
「クッ!ここまで強いとは・・・」
四人のプリキュア達から焦りが生じる・・・
嘗て、植物園で対峙した時のように、このままでは、為す術もなくまた敗れてしまう。
「どうした!?その程度がプリキュアの力か?四人纏めても、キュアフラワーの足下にも及ばんぞ!ハハハハ」
そんな四人の心情を知ったかのように、デューンは四人を挑発し、アイコンタクトした四人は、四方から同時に攻撃を仕掛けた!
だが、デューンに動きを止められる。
距離を取ったデューンは、空間に凝縮したエネルギーを溜め込むと、四人のプリキュアに向けて発射する。四人の目前で大爆発を起こし、四人のプリキュアは、変身解除の状態になり、変身途中の状態である光輝く白いワンピース姿になって、四人は倒れ込みもがく。
「どうした!?もう終わりか?・・・ならば、死ね!!」
デューンが、再び空間に凝縮したエネルギーを溜め込む、そのエネルギーは先程とは比べものにならなかった。
だが、今の四人にはどうする事も出来なかった・・・
「さらばだ、プリキュア共!!」
変身が解けたつぼみ達四人に、強大なエネルギー弾が飛んでくる。だが、四人の前に立ち塞がった者が居た。
月影博士である・・・
博士は、両手でデューンの繰り出した強大なエネルギー弾を止めると、自らの力を加えて相殺させようとした。
「ゆり・・・すまなかった!お母さんを・・・頼む!!」
何とか立ち上がり、父の下に駆け寄ろうとしたゆりの目の前で大爆発が起こり、月影博士は、ゆりの目の前で消滅した。
「イヤァァァァ・・・ア・・アァァ」
絶叫し、呆然と父が消滅した場所を見て、地面に崩れ落ちたゆりは、号泣して地に伏せた。
「あんにゃろう!!!」
「よくもゆりさんのお父さんを!!」
えりか、いつきの表情も強張り、デューンに対し、憎悪を向けた表情になる。肩を振るわして泣いていたゆりが、徐に顔を上げ、凄まじい形相でデューンを睨み付けると、
「デュ~~~~ン!!!」
ゆっくり立ち上がったゆりの心は、デューンへの憎悪で一杯だった!
三人を見たデューンは、不適な笑みを見せていた。ゆっくりデューンの下に向かおうとするゆりの腕を、涙を堪えたつぼみが止めた。ゆりは、そんなつぼみに振り向こうともせず、
「・・・離しなさい!!!」
「嫌です!自分の憎しみを晴らす為だけに・・・戦うのは止めて下さい!!」
ゆりを止めようとするつぼみの言葉を、えりかも、いつきも否定する。
「つぼみ、あんた何言ってんのさ?」
「じゃあつぼみは、あいつに僕達の星を滅茶滅茶にされて、憎くはないの?ゆりさんのお父さんが、僕たちを庇い、ゆりさんの目の前であいつに殺された事が、憎くはないの?」
「憎しみが力に変わるのなら・・・私はそれを受け入れる!!!」
三人に責められ、一瞬言葉に詰まったつぼみだったが、
「私だって憎いです!でも、でも、憎しみの心では、デューンにはきっと勝てません!私達は・・・」
「勝てないって何で決めつけるのさ?そんなのやってみなくちゃ分らないじゃん!」
つぼみの言葉を遮るように、えりかが否定すると、つぼみの目に涙が溜まる。それを見たえりかも、いつきも言い過ぎたかと思いながらも、表情は強張ったままだった。
「情けない事言わないで下さい!お願いです・・・憎しみのまま戦えば、きっと負けてしまいます。悲しみや憎しみは、誰かが歯を食いしばって断ち切らなくちゃ、ダメ何です!!私達が、今まで頑張ってプリキュアをしてきたのは、一体何の為何ですか?地上に残った人達が、私達に託したものは何だったんですか?」
大きく深呼吸して、つぼみが大声で叫ぶ!
「月影ゆり!来海えりか!明堂院いつき!あなた達が一体何なのか?何故ここに居るのか?何をするべきなのか?何の為に戦うのか?・・・自分で考えて下さい!!!」
つぼみに名前を呼ばれた三人は、ハッとした表情になり、つぼみの顔を見る。つぼみは、ゆりの手にプリキュアの種の欠片を手渡した後、三人を見つめる。
つぼみの言葉を聞いていたデューンに、苛立ちが募った!
(あの娘(むすめ)・・・何故憎しみに支配されない!?何故この状況で、此処まで冷静に仲間を諭せるのだ?・・・邪魔はさせんぞ!!!)
「プリキュア共、貴様らの戯れ言など聞く耳は持たん・・・キュアブロッサム!今お前は、地上に残った者が、お前達に託したものは何だったのかとほざいていたな・・・ならば、貴様らに託した者共の、哀れな最期を見せてやろう!!」
デューンが指を鳴らすと、巨大なスクリーンが表示される。そこは、四人の見知った場所、希望ヶ花市!薫子が所長を務める植物園が映って居た。そして、植物園を目指し、数十体にも及ぶデザートデビルが向かっていた。
四人に衝撃が走った!!
「デューン・・・何を!?」
つぼみが震える声で驚愕するのを見ると、デューンは口元に笑みを浮かべ、
「さあ、その映像を良く見ろ!!」
映像は更に拡大されて、逃げ惑う人物の表情まで映し出された。
「もも姉!?」
「お兄様!?」
「ハヤト君!?」
「番君、みんな!?」
えりかが叫んだもも姉とは、えりかの姉で、ゆりの親友でもある来海ももか、いつきが叫んだのは兄である明堂院さつき、ゆりが叫んだハヤトとは、同じ団地に住むゆりが弟のように可愛がっている少年である。
デザートデビルの攻撃を受け、逃げ惑う彼らの姿が映り、つぼみ達に驚愕が走った。
「さあ、良く見ろ!貴様らが大事に守ってきた者達の最期を!!デザートデビルよ、全てを破壊しろ!皆殺しにしろ!!フフフ、ハハハハハ!!!」
デューンの嘲笑が辺りに響き渡った・・・
第六話:憎しみの心
完