無事に志望校に合格したなぎさ、ほのか、ゆりは、励ましの手紙をくれた後輩達へのお礼に、横浜中華街に後輩達を招待する・・・
一方、おとぎ話の住人達が暮らすメルヘンランドで、更なる事件が起きようとしていた!!
第七章スタートです!
ですが、八章にそろそろ追いついてしまうので、七章からは週一か隔週投稿に致します!
楽しみにしている方が居るのなら、ゴメンなさい!!
第三十九話:甦る魔
プロローグ
ノイズとの戦いから約三ヶ月が経った・・・
訪れた平和・・・
美墨なぎさは、T学芸大学教育学部に何とか合格、後輩プリキュア達との交流を通じ、なぎさは、自分の得意分野を次の世代に教えてみたいと考え、体育教師を目指し、新たなる目標へと突き進む・・・
雪城ほのかは、名門T大学理学部に合格、ほのか憧れのブリキストン教授のような研究者を目指し、新たなる目標へと突き進む・・・
月影ゆりは、名門T大学農学部に合格、亡き父、そして、尊敬する薫子と同じ植物の研究者を目指し、新たなる目標へと突き進む・・・
無事に合格した三人は、合格祝いを兼ねTAKO CAFEで久しぶりの息抜きをしていた・・・
「なぎさ、無事に合格できて良かったね!」
「本当、試験が終わった後、送られてきたメールに、私の人生は終わった!何て送られてきたから心配したわよ・・・」
ほのかとゆりがその時を思い出したのかクスリと笑い合う、なぎさはテレ笑いしながら頭を掻き、
「いやぁ、二人が合格するのは当然と言えば当然だけど、私何か、自分で言うのも何だけどさぁ・・・奇跡だよねぇ!!何せあの時は、勉強所じゃ無かったし・・・二人には感謝してます!!」
12月中旬からクリスマスに掛けては、ノイズ、ハウリングとの決戦に備え、三人は勉強所では無かった。日頃から予習復習をしているほのか、ゆりと違い、なぎさが合格出来たのは、正に奇跡かも知れなかった・・・
「それに・・・あの子達からの応援メッセージも励みになったよね・・・」
なぎさは大事そうにカバンから沢山の手紙を出すと、ひかり、咲達、のぞみ達、ラブ達、つぼみ達、響達、そして、異世界に居るせつな、くるみ、エレンからも、三人はシロップを通じて励ましのメッセージを貰っていた・・・
「本当ねぇ・・・私もこの手紙には何度も励まされたわ!!」
「ええ、私もよ・・・」
自分と同じ考えを持っているほのかとゆりを見て、なぎさはたこ焼きを頬張りながら何度も頷き、
「でしょう!だからさぁ・・・今度は、あの子達を私達で持てなして上げない?」
「そうね・・・みんなに直接お礼も言いたいよね!!」
「つぼみ、えりか、いつきには、時々植物園で会っているとはいえ、こういう事はキチンとしておきたいわね・・・」
ほのかもゆりも同意してくれて、なぎさは満面の笑みを浮かべると、
「本当は、TAKO CAFEでとも考えたんだけどさぁ、美希がたこ苦手でしょう?で、お父さんが横浜中華街で美味しいお店が何件かあるって言ってたんだけど、みんなを招待して食べに行かない?」
「中華街!?美味しいとは思うけど・・・お店にもよるんでしょうけど、高いんじゃないの?」
「さすがに、みんなの分も私達三人でとなると・・・」
店屋にも寄るだろうが、中華街と聞き、ほのかとゆりは美味しいだろうが値段もその分張るのではないか?そう不安そうに口に出すと、意外にもなぎさは涼しげな表情を浮かべ、
「大丈夫、大丈夫、ここのお店、美味しい中華まん屋だから!」
なぎさの言葉に目が点になるほのかと、眼鏡を曇らすゆり、
「な、なぎさ、態々中華街までみんなを招待して・・・中華まんって言うのはどうかと思うけど?」
「みんなの落胆した顔が目に浮かぶようだわ・・・」
「エッ!?そうかなぁ?」
「なぎさらしいメポ!相変わらずのドケチ振りメポ!!」
「誰がドケチよ!誰が!!」
聞いていたメップルは、なぎさらしいケチ振りだと溜息を付いてなぎさと言い合いになる。ほのかもゆりも、そんな二人を見てクスリと笑い、ひかりは、受験から解放された三人を、ワゴン車の中から見て微笑みを向けた・・・
だが、この時の彼女達には、大学入学前に再びプリキュアになって、横浜の街を守る為に戦う事になるとは思いもよらなかった・・・
第三十九話:甦る魔!
1、解かれた封印
メルヘンランド・・・
なぎさ達が受験に追われていた頃、女王ロイヤルクイーンが治める絵本の国は、悪の皇帝ピエーロ率いるバッドエンド王国の強襲を受けた。
巨大なる巨人から逃げ惑う住民達、ロイヤルクイーンは、自ら先頭に立ち、バッドエンド王国に立ち向かった!
だが・・・
ロイヤルクイーンとピエーロの戦いは痛み分けに終わり、ピエーロは封印され、バッドエンド王国は撤退したものの、ロイヤルクイーンもまた、力の源キュアデコルをバッドエンド王国に奪われ、その力を封じられた。
眠りに付く女王ロイヤルクイーン・・・
混乱極まるメルヘンランド・・・
メルヘンランドの住民達は、眠りに付いた女王を嘆き悲しみ、滅多に外に出ようとはしなかった。
ごく一部を除いて・・・
そんなある日、メルヘンランドで更なる事件は起こった・・・
近付く事を禁じられ、禁断の森とされている封印の森・・・
家に籠もりっきりな毎日など耐えられないとばかり、悪戯好きな狐に似た妖精アンデは、羊に似た妖精キャンディ、山羊に似た妖精ルセンを連れ、この日もメルヘンランドを駆け回っていた。
「キャンディ、ルセン、此処が禁断の森と言われてる封印の森デデ!」
「アンデ・・・お兄ちゃんが、此処には絶対近寄っちゃ駄目だって言ってたクル・・・もう帰るクル!!」
「キャンディの言う通りセセ・・・」
キャンディとルセンは、今にも泣きそうな顔をすると、アンデにもう帰ろうと訴えるも、アンデは、キャンディとルセンを意気地無しだとあざ笑い、自分はこんな所怖く何か無いと大見得を張る。
「おいでぇ~!おいでぇ~!」
その時、森の中から微かに聞こえてくる優しげな女の声、アンデは不思議そうに首を捻り、キャンディとルセンは思わず互いを見つめ驚いた。怖がるキャンディとルセンを尻目に、アンデは、声に導かれるように森の中を突き進んで行き、慌ててアンデを止めようと、ルセンもその後を追った・・・
「アンデ!ルセン!!森の中に行っちゃ駄目クル~!!アンデ?ルセン?・・・」
何度アンデとルセン、二人の名を呼んでも、森の中からは返答がなかった・・・
「キャンディ、悪くないクル・・・ウワァァァン!お兄ちゃぁぁぁぁぁん!!」
怖くなったキャンディは、思わず後退り、泣きながらその場を走り去った・・・
一方、森の中へと歩を進めたアンデと、追いついたルセンの二人は、噂に聞いていた禁断の森の姿に驚愕していた・・・
それは、青々と生い茂る沢山の木々、鳥の囀(さえず)り、これの何処が禁断の森と呼ばれるのか、アンデとルセンには分からなかった。
更に歩を進める二人は、小さな小川をヒョイとジャンプして向こう側に渡る。
だがその瞬間、さっきまでの景色は一変した・・・
木々は枯れ果て、生命の息吹が感じられない不気味な景色がそこにはあった・・・
二人の表情は見る見る引き攣り、互いに見つめ合うと、帰ろうかと頷き合い、二人が背後を振り向くと、小川は消え去り、辺りは薄気味悪い闇が広がり始めた・・・
「な、何だよ、これはぁぁ!一体何デデ?」
「アンデ・・・怖いセセ」
不安そうにルセンはアンデの背にピッタリ寄り添う、不安が心を蝕んでいく・・・
そんな二人に再びさっきの女の声が響いてくる。
おいでぇ、おいでぇと・・・
戻る手段を見付けられず、アンデは意を決すと、声が聞こえてくる奥へと再び歩を進めた。ルセンは離れまいとその後を追った・・・
どれくらい歩いたのか、二人は朽ち果てた祠を見付けた。祠は厳重に茨の鎖で縛られていて、声はどうやらこの中から聞こえてくるようだった・・・
「何だよ、この祠は?こんな場所あったんだぁ・・・随分古そうデデ」
「アンデ、この鎖・・・簡単に外せそうセセ」
祠の周りを興味深げに調べるアンデに、ルセンは、鎖は簡単に外せそうだけどどうするか問う、アンデもどうするか考えて居ると、再び声が聞こえてくる。
「フフフ、あたしの声が聞こえる何て・・・大分封印の効力も切れているようだねぇ?ねぇ、その鎖を解いてくれない?そうすれば・・・あなた達の望む願いを、一つだけ叶えて上げるよ!」
「エッ、ボク達の願いを・・・何でも叶えてくれるって?」
「ええ、そうよ!私達を此処から出してくれるならねぇ・・・さあ、早く出しておくれ!出せ!!出せぇぇぇ!!!」
最初は優しげに声を掛けていた封印されていた何者かは、どんどん焦れてきたのか、二人に命令口調で此処から出せと声を荒げる。
アンデとルセンはブルブル震え出すも、何かに取り憑かれたように、祠を覆う茨の戒めを解いた・・・
ギィィィィとゆっくりと不気味に扉が開いていくと、光を掻き消すように、上空にドス黒い光が巻き起こった・・・
「何事でござる?」
宮殿に居たライオンの容姿のようなキャンディの兄ポップは、メルヘンランドを覆うように、悪しき気配が漂う事に驚愕する。まさか、バッドエンド王国が再び攻撃を仕掛けてきたのか?ポップに動揺が走る・・・
だが、悪しき気配が漂う場所、それは封印の森からだった・・・
「これは一大事でござる・・・」
ポップは大慌てで宮殿内を駆け回り続け、宮殿を守護する警備隊一同に注意を促すと、封印の森の様子を見に行こうとする。その時・・・
「お兄ちゃぁぁぁん!!」
出掛けようとしたポップは、泣きながら駆け寄って来たキャンディの体当たりをモロに食らい、その場に後頭部から倒れ込んだ・・・
「グゥオオ・・・キャ、キャンディ!?何事でござる?」
「お兄ちゃぁぁぁん!アンデとルセンが・・・消えちゃったクル!!」
何時バッドエンド王国が再び攻撃してくるか分からず、宮殿には近付かないように妹キャンディに注意をしていたポップだったが、キャンディの尋常でない様子に表情を引き締めると、
「キャンディ、何があったでござる?詳しく拙者に話してみるでござる!」
優しくキャンディに話し掛けるポップ、キャンディは伏し目がちに、怒らないか聞くと、ポップは怒らないから安心して話すように伝えた。
キャンディはホッと安堵したのか、素直に話し始めた・・・
アンデとルセンと遊んでいて、封印の森の近くまで来た時、声が聞こえて、アンデとルセンが、封印の森に入ったきり出て来ない事を告げた。
「やはり、封印の森が原因でござったか!確か、あそこには・・・」
キャンディの話を聞いていたポップは、昔ロイヤルクイーンに聞いた話を思い出すのだった・・・
昔、昔、メルヘンランドに邪悪なる三人の魔人が現われた事があった。魔人は、メルヘンランドの妖精達を、悪しき存在に変え蹂躙したという。
ロイヤルクイーンは悲しみ、魔と対峙するも、三人の魔人、そして、三人が繰り出した巨大な魔物に苦戦する・・・
その時、光の園のクイーンの命を受け、二人の伝説の戦士が駆けつけ、ロイヤルクイーンと共に、魔物にされた住民達を元に戻し、巨大な魔物を追い返し、三人の魔人を森の中に封じ、メルヘンランドに光の園の加護を授けたという・・・
その二人の名は・・・プリキュア!
伝説の戦士!プリキュア!!
以来、光の園の加護を受けたメルヘンランドは、ロイヤルクイーンの力と重なり合い、五つの光に導かれた新たなるプリキュアの加護を受けたという・・・
「伝説の戦士・・・プリキュア!もし、あの時プリキュア達が居てくれたなら、ロイヤルクイーン様もキュアデコルを奪われ、その力を封じられる事も無かったでござろう・・・」
「キャンディ・・・よく分からないクル」
「キャンディに話すには、まだちと早かったでござるかな?・・・キャンディ、拙者はこれより封印の森を調べて参る!かつてロイヤルクイーン様が、プリキュアと共に悪しき魔を封印した地、封印の森!!そこで何かが起こったとすれば・・・キャンディは此処で待っているでござるぞ!!」
ポップは、キャンディを宮殿内に待たすと、封印の森へと向かった・・・
その封印の森では、禍々しい一冊の本の中から、アンデとルセンの前に三人の人影が現われた・・・
皆褐色の肌をしており、一人は坊主頭で、ヒョロっとした2メートルはありそうな大男、もう一人は、紫色のボンテージ風の衣装を着、黒いマントを羽織ったスタイルの良い赤い短髪の女、もう一人は、見た目小学生のような身長ながら、白髪塗れで顔は老人のような男・・・
三人は解放された祠の前で、背伸びをしたり、大欠伸(おおあくび)をしたりしていた。アンデとルセンは呆然と三人を見つめていた。その足下に落ちていた絵本のタイトルは・・・絵本の中の悪魔!!
アンデとルセンは、タイトルを見ただけで全身に悪寒が走るのだった・・・
「フフフフ、ご苦労様!一応、あんた達にはお礼を言わなきゃねぇ・・・あたしの名前はサディス」
「俺の名は・・・ベガ!」
「我が名は・・・ディクレだ!!」
女はサディスと名乗り、大男はベガ、老人はディクレと名乗りを上げる。三人はアンデとルセンを見て不気味に微笑むと、サディスがニュッと顔をアンデとルセンに近づけるや、二人の額に五芒星のマークを貼り付け、二人の額のマークに手を翳すと、目を瞑り何かを念じた・・・
その時間およそ一分、サディスが再び目を開くと、背後を振り向き、
「ねえ、ロイヤルクイーンの奴、バッドエンド王国のピエーロとかいう奴に、力を封印されてるんだってさ!折角、あたしらを封印してくれたご挨拶にでも伺おうと思ってたのにねぇ・・・プリキュアの奴らも此処には居ないようだし、どうする?」
アンデとルセンの記憶を読み取ったかのように、サディスはメルヘンランドの現状を知ると、背後の二人に知らせた。サディスの言葉を聞き、二人は意外そうな表情を浮かべると、ベガは上空を見上げニヤリと笑み、
「ほう、ロイヤルクイーンは力を封じられているというのか?では、嘗ての続きを・・・この国を滅ぼすとするか・・・」
嬉々として、今にもメルヘンランドを滅ぼしかねないベガを見て、サディスはやれやれといった表情を浮かべると、
「それも良いけどさ、もう少し楽しまない?折角久しぶりに自由に動けるんだしさ!!」
サディスは、滅ぼすのは何時でも出来ると考えて居た。せっかく手に入れた自由をもっと堪能したいと思った。そんなサディスの考えに気付いたのか、ディクレはサディスの言葉に頷くと、
「良かろう・・・では、一先ず魔界に戻るとしよう!!何時以来だろうか・・・我らが生まれし地、魔界に戻るのは・・・」
ディクレは目を閉じ、魔界での日々を思い描いていた・・・
(やれやれ、年寄りはこれだから困るねぇ!でも、ただこのまま戻るのも癪だし・・・それに、あたしたちの事が王の側近連中の耳に入れば・・・)
サディスがさてどうしたものかと思案していると、アンデとルセンの存在を思い出し、
「ああ、忘れてた!あんた達にお礼をしなきゃねぇ・・・ウフフ!良い事思い付いちゃった!!」
サディスは胸の谷間に右手を入れまさぐり、ミミズのようなウネウネ動く物体を取り出し、震えるアンデの額の五芒星に物体を当てると、物体は吸い込まれるようにアンデの体内に入り込み、アンデはビクビク痙攣すると、その容姿は無残にも黄色いナマコのように変えられた。ルセンは悲鳴を上げ、アンデの名を叫ぶも、アンデは答えない・・・
「う~ん!クライナーを使うのも久しぶりだわぁ・・・さあ、あんたもクライナーになって貰うわよ・・・」
「イヤァ!!!!」
悲鳴を上げながら逃げ惑うルセンの反応に刺激され、サディスは舌をペロリと舐めながらルセンを追い詰め、アンデ同様、ルセンも白いナマコのようなクライナーに変えられてしまった・・・
「これがあたしからのお礼さ!お前達にクライナーの力を授けてやる・・・さあ、お前達!この時代にも必ずプリキュアが居る筈だ・・・必ず見つけ出し、あたし達に知らせるんだよ!!行け!!!」
サディスの命を受け、クライナーと化したアンデとルセンは、その姿を地中へと消した・・・
クライナーとは、吸収した物体を糧に、姿を次々変えていく人工生命体で、嘗て三人の魔人がメルヘンランドを襲った時、妖精達を次々クライナーへと変えた。クライナーと化した妖精達は、ある者は自然を食い荒らし巨大化し、ある者達は、合体して巨大化していった。
力を付ける度に凶暴さが増すクライナー・・・
ロイヤルクイーンは、元はメルヘンランドの民を攻撃することも出来ず劣勢になった時、光と共に伝説の戦士プリキュアが現われ、クライナーを浄化し、メルヘンランドを救った事があった。
今、そのクライナーが復活し、メルヘンランドの妖精アンデとルセンを、悪しき存在に変えてしまった・・・
「お前も物好きよなぁ・・・では、サディス、ベガ、魔界に戻るぞ!!」
「ディクレ・・・封印されていたあたし達が、何の手土産も持たずに魔界へ戻れば・・・」
「そうだな・・・光の堕天使である王は、我々をどう扱うか・・・」
「案ずるな!私は魔界を統べる十二の魔神達の何人かと交流がある!!彼らを頼り、現在の魔界の状況を知っておくのも悪くは無い!!」
三人が空間に五芒星を描くと、空間に亀裂が生じ、禍々しい空気を流れ出す不気味な姿が見えてくる。嘗てのドツクゾーンに何処か似ていた・・・
三人は宙に浮かぶと、魔界へとその姿を消した・・・
「禍々しい気が消えたとは・・・妙でござるな!?」
鷲の姿に変化し、封印の森へと向かっていたポップは、禍々しい気が消えた事に戸惑うも、急ぎ封印の森へと向かった・・・
封印の森に着いたポップは、荒れ果てた祠を見付ける。辺りを伺うも人の気配は無く、生命の息吹を感じず沈黙する場所だった・・・
「アンデ!ルセン!何処でござるかぁぁ?」
大声を出してアンデとルセン、二人の名を呼ぶポップだが、二人から返事は帰って来なかった。
「二人の身に一体何が!?バッドエンド王国の襲撃で、三人の民が行方不明になって間もないのに、今度はアンデとルセンまで、無事で居てくれれば良いでござるが・・・」
ポップは空を見上げ、何事も起こらなければ良いのだがと険しい顔を浮かべていた・・・
「何か嫌な予感がするでござる!バッドエンド王国に加え、封印されていた何者かも復活したようでござるし・・・伝説の戦士、プリキュアの力を借りる時が来たのかも知れぬでござる・・・」
ポップは何かを思案するように、再び宮殿へと戻っていた・・・
2、横浜中華街
三月に入り、なぎさ、ほのか、ゆりは、高校を卒業した・・・
三人はこの日、仲間達を中華街に招待する為、TAKO CAFEで待ち合わせをして居た。
制服から卒業した三人は、一段と大人びて見えていた・・・
なぎさは、黒のシャツの上に表面は黒地で、腕の部分が透けて、裏は薄いグリーンのショール風カーディガンを纏い、下はボトム風のショートスカートを履いていた。
ほのかは、フロントにフリルが付いた水色のワンピースを着て、その上に白いロングカーディガンを羽織っていた
ゆりは、長い髪に少しエアパーマを掛けて居て、薄いブルーのロングカーディガンに、下はジーンズを履いていた。
大学生活間近もあってか、三人は何時もと印象が変わって、大人びた雰囲気を醸し出していた。
ひかりが支度を終えるまでの間、三人は雑談に興じていた・・・
「でさぁ、折角だし三人で卒業旅行とか行かない?」
徐に発言したなぎさの言葉に驚くほのかとゆりだったが、その顔からは、嫌がっているようには見えなかった。
「そうねぇ・・・でも、今から予約取れるかなぁ?」
「場所も決めなきゃ行けないし・・・」
「そう何だよねぇ・・・今から海外は無理としても、国内なら行けないかなぁ?」
国内ならば、ツアーじゃなくても、個人旅行で良いかも知れないとほのかとゆりも頷き、三人は卒業旅行の企画を練り始めた。
そんな三人だったが、何時しか話題はプリキュアの事になっていた。
三人の胸中に色々な思い出が甦ってくる・・・
「私とほのかは、ドツクゾーンと・・・」
「私は、薫子さんの後を継いで、コロンと共に、再び活動し始めた砂漠の使徒と戦った・・・」
「一度は退けたものの、ジャアクキングは再び分身をこの世界へと放った!そこで私達はひかりさんと出会い、ドツクゾーンとの戦いに決着を付けた!!」
中学時代に、それぞれ三人はキュアブラック、キュアホワイト、キュアムーンライトとして、ドツクゾーン、砂漠の使徒と戦い、そして、高校になって沢山のプリキュアの仲間達と出会い、この世界を救う為に戦った日々を思い浮かべる。
「戦いの最中、私の前にダークプリキュアが現われ、幾度となくぶつかり合った私は、コロンを失い、心の花を枯らせ、ダークプリキュアに敗れプリキュアの力を失った・・・そして、つぼみ、えりか、いつきが私の後を継いで、砂漠の使徒と戦ってくれた!彼女達の思いが、私を再びプリキュアとして導いてくれた!!そして、デューンとの決着を付けに、惑星城に乗り込んだ時、なぎさとほのかを始めとする、沢山の仲間達が居る事を知った・・・」
ゆりが、なぎさとほのかを見て微笑むと、二人も微笑み返し、
「私達も驚いたよ!あんなにプリキュアが居る何てさ・・・」
「ええ、そして私達は絆を深め、バロムやノイズと戦った」
「ノイズがピーちゃんとして戻って来た時は、嬉しかったなぁ・・・」
「そうね・・・プリキュアをやっていて良かったと思えたわ!!」
青春時代を振り返るように、懐かしげに語り合う三人だったが、ひかりが支度を終え側にやって来ると、
「なぎささん、ほのかさん、ゆりさん、お待たせしました!!」
「アッ、もうこんな時間だ・・・じゃあ、そろそろ待ち合わせ場所に行こうか!!」
なぎさが慌てて時計を見ると、そろそろ出掛ける時間になっていた。ゆりもほのかも身支度を整えながら、
「せつな、くるみ、エレンが来られないのは残念だったわね・・・」
「ええ、エレンさんはメイジャーランドに戻ってまだ日が浅いし、くるみさん、せつなさんは都合が悪いみたいだし・・・でも、頻繁にこちらの危機を救いに来てくれてるし、きっとまた遊ぶに来てくれるわ!彼女達がまたこちらに来た時にでも招待しましょう!」
くるみ、せつな、エレンは、今回の申し出を断っていた・・・
三人も本心では来たがっていたのだが、御馳走になる為だけにこちらの世界に来るのは憚られていた・・・
ひかりも加え、四人はアカネに声を掛けると、待ち合わせ場所である横浜へと出掛けるのだった・・・
京浜東北・根岸線の駅である石川町・・・
横浜中華街から程近い駅を集合場所と決め、18人の少女達が集合していた・・・
中華街で食事が出来ると聞き、朝から何も食べずにグゥグゥお腹を鳴らし楽しみにするのは、咲、のぞみ、りん、うらら、ラブ、えりか、響の七人、七人は楽しみすぎて、今にも涎を垂らしそうな表情を浮かべ、満、薫、かれん、美希、つぼみ、いつき、奏、アコに呆れられていた。舞、こまち、祈里は、そんな七人を見て苦笑を浮かべるのだった・・・
「あなた達、折角中華街でお食事するんだから・・・あまり恥ずかしい真似はしないでよね!」
何時もの衣装と違い、上は薄い紫色のシルク綿のブラウスと、下は黒、白、紫色のドット柄をした薄いスカートをなびかせ、モデルらしさを醸し出す美希が、一緒に居るのを恥ずかし気に注意する。
「エェェ!美希たん・・・折角のお食事会何だからさぁ」
「そうだよ、美希姉ぇ!」
「ウ~~・・・だってぇぇ、お腹ペコペコ何だもん・・・」
ラブ、えりか、のぞみに恨めしげにジッと見つめられ、思わず美希は仰け反り溜息を付いた。
「ハイハイ・・・全く!あっ、電車が来たわ!!」
銀色の車体に、青いラインが入った電車がホームに入ってくる。駅に止まり、続々人が降りてくる中に、見慣れた四人の姿を見付け、一同はニコリとしながら手を降ると、降りてきた四人も微笑みを向けて一同に駆け寄った。
「みんな、お待たせ!良く集まってくれたわね!!」
「なぎささん、ほのかさん、ゆりさん・・・」
「大学合格、おめでとうございまぁぁす!!!」
ひかりも加わり、一同がニコリと拍手しながら、おめでとうございますと声を掛けると、三人は照れながら一同に感謝するのだった・・・
「みんな、ありがとう!!」
「あなた達からの手紙・・・とても励みに成ったわ!!」
「今日はみんなに感謝を込めて、ささやかなお礼を私達三人からみんなに送るね!!」
ほのか、ゆり、なぎさが、一同を穏やかな目で見つめた・・・
「イヤァ!受験から解放されるって・・・清々しいねぇ!!」
「ハハ・・・その代り、今度は私とこまちが受験生ですけど・・・」
受験から解放されたなぎさが、思わず爽快そうに本音を漏らすと、今度は自分とこまちの番だとかれんが引き攣った笑みを浮かべ、困惑したなぎさが、ほのかとゆりに縋るような目を向けると、ほのかとゆりがかれんに近付き、
「大丈夫!かれんさんとこまちさんなら、きっと合格出来るわ!かれんさんの成績なら、私とゆりの通う事になるT大でも大丈夫だと思うわ!!」
「T、T大!?無理、無理無理、絶対無理です!!」
「あら、私もかれんならT大の医学部を十分狙えると思うわよ!!」
「もう、ほのかさん、ゆりさん、からかわないで下さい!私は、地元の国立医科大でも受験しようと思ってるんですから!!」
「う~ん、からかってるつもりは無いんだけど・・・」
「無理強いはしないけど、頭には入れておいて!」
ほのかとゆりにT大を十分狙えると言われ、かれんが益々動揺すると、なぎさはポンとかれんの肩を叩き、
「もう、ほのかもゆりも、かれん、困ってるじゃない!でも私も、かれんやこまちなら志望校に合格出来ると思うよ!!何かあったら私達も相談に乗るからさ!!」
三人はかれんとこまちなら大丈夫、何かあったら協力するからと励ました。
「じゃ、じゃあ、行こうか!」
なぎさは話を誤魔化すかのように、まだ動揺が残るかれんの背を押しながらみんなに合図し、一同は石川町を後にした・・・
(カンジル・・・ボクヲ・・・スクッテクレル・・・チカラ・・・)
(アンデ・・・ダメ、イマノワタシタチハ・・・)
アンデとルセンは、サディスの命に従わず、いまだにメイジャーランドに残って居た・・・
女王ロイヤルクイーンの力の加護か、二人は醜い姿に変えられたものの、何とか自らの意識を保つ事が出来た。メルヘンランドに伝わるという伝説の秘宝、ミラクルジュエルの力ならば、元に戻れる事も出来るかもと考えた二人だったが、この姿のまま、メルヘンランドを彷徨(さまよ)う事も出来ず、二人は途方に暮れた・・・
その内の黄色いクライナーは、光の力の気配を感じるや、大慌てでメルヘンランドを飛び出して行った・・・
(アンデ・・・メルヘンランドヲデテハ、ワタシタチハ・・・キットショウキヲタモテナイ)
白いクライナーはモゾモゾ地上に現われるも、キューンともの悲しげな奇声を発した・・・
この事を、ポップもキャンディも知る事は無かった・・・
日曜の午後という事もあって、横浜中華街は平日以上の賑わいを見せていた。沢山の観光客が中華街を散策していた・・・
駅から中華街入り口の一つである善隣門を潜り、中華街へと入った一同、三国志で有名な、関羽雲長を祭っている関帝廟通り方面へと歩みを進めていた・・・
ほのかが、三国志の関羽に付いてうんちくを述べるも、腹ぺこ軍団にはほのかのうんちくより、美味しい匂いの方が勝っていた・・・
「う~、あれも美味しそう・・・あっ、こっちも・・・」
「もう、響!食べ物ばかり見てないで、ちゃんと歩きなさいよ!!」
左右から流れてくる美味しい食べ物の匂いに釣られ、響は鼻でクンクン美味しそうな匂いを嗅いで、出てくる涎を慌ててすすり上げる姿に、奏は呆れながら注意する。ピーちゃんを抱いたアコも奏に同意し、
「本当、全くお子様何だから・・・ねっ、ピーちゃん!」
「ピィィ!!」
アコに話し掛けられ、ピーちゃんも響の姿を見て呆れたような視線で見つめて居たが、フと視線を上空に向けると、ピィ?と小首を捻った。
「どうしたの、ピーちゃん?」
「ピィィ・・・ピ?」
ピーちゃんが何と言ってるのか気になったアコは、祈里を呼ぶと、
「ねえ、ピーちゃんが何か感じてるみたいなの!ピーちゃんが何て言ってるのか・・・聞いて見てくれない?」
「ピーちゃんが!?・・・分かった!ちょっと聞いて見るね!!」
一同も気付き、祈里とアコを他の人達から見えないようにガードすると、祈里はキルンを呼び出し、ピーちゃんに話し掛け始める。他の一同も興味深げに祈里からの回答を待っていた。
「うん、それで!うん・・・エッ!?うん、分かった!ピーちゃん、忠告ありがとう!!」
ピーちゃんとの会話を終えた祈里は、アコ、そして一同を真顔で見つめると、
「ピーちゃんの話によれば、空の彼方から、嘗ての自分と同じように、悲しみの心に満ちた何かが近づいて居る気がするって言ってるの!!念の為、用心してだって・・・」
祈里の話を聞いた一同は顔色を変える・・・
この約三ヶ月、何事も無く過ごしてきた平和・・・
その平和も脆くも崩れようとしているのか?
だが、そんな不安を打ち消す音が、グゥゥゥと辺りに響き渡った・・・
「そ、それは兎も角・・・なぎささぁん、ほのかさぁん、ゆりさぁん・・・そろそろ限界だよぉぉぉ!!」
のぞみがその場に座り込み、お腹減ったよぉと訴えると、咲、りん、うらら、ラブ、えりか、響の腹ぺこ軍団ものぞみに同意し、哀願するようになぎさ達を見つめた・・・
「アハハハ!もう少しだから・・・このお店は、中華街に何件か出店してる系列の一つなの!」
「それは凄く楽しみですぅぅ!!」
なぎさの話を聞いて、目を輝かせるつぼみ、うららもいろいろ想像して居るようで、
「美味しいカレーもあると良いなぁぁ!!」
「うらら・・・中華街に来てまでカレーは無いでしょう?カレーは・・・」
「エへへへ・・・そうですねぇ」
りんにダメ出しされ、照れ笑いを浮かべるうらら、こまちも少し考えながら、
「羊羹が入った料理は・・・」
「無い無い・・・絶対に無いですから!」
最早ツッコミも面倒とばかり、りんが右手を振りながらこまちにダメ出しをすると、こまちは苦笑を浮かべる。
「アハハハ!こまちさんらしいねぇ・・・私はやっぱり中華といえばラーメンだなぁ・・・」
「チャーハンも捨てがたいかも!?」
咲はラーメンを、ラブはチャーハンを想像し、互いを見つめて嬉しそうに語り合う、かれんはそんな一同の言葉に首を傾げ、
「そう!?中華と言えば・・・フカヒレじゃないかしら?他には、燕の巣や鮑(あわび)を使った料理の数々など・・・」
かれんの言葉を聞き、なぎさ、ほのか、ゆりの顔色が変わる・・・
「イヤイヤ、フカヒレや鮑も間違いじゃないですけど・・・私達じゃ中華料理といえば、普通ラーメンやチャーハンなど思い浮かぶものですよ!」
「チャーシューメン頼むだけでも、リッチな気分になるよねぇ?」
「それはそれで貧乏くさい気もするけど・・・」
「何はともあれ、楽しみだよねぇ!」
かれんの言葉に反応し、りん、のぞみ、ラブ、咲が苦笑混じりに言葉を漏らすと、なぎさ、ほのか、ゆりはホッと安堵したような表情を浮かべ、かれんはそんなものかしらと小首を傾げた。
他の一同からも、どんな中華料理が出て来るのかなぁと聞こえてくると、一同がとても楽しみにしているのが感じられ、思わずお互いに顔を見合わせたほのかとゆりは、俯きながら溜息を付くと、どんどん寡黙になっていった・・・
そんな二人を見て、ひかり、満と薫は、思わず不思議そうに小首を傾げるのだった・・・
「みんなぁ、お待たせ!此処が私が言ってた・・・どうしたの?」
なぎさが一同に案内したお店を見て、一同は呆然と佇んだ・・・
行列も出来て居て、美味しいだろうとは理解出来るものの、明らかに彼女達の想像とは掛け離れていた・・・
「ひょ、ひょっとして、あたし達を中華街に招待したのって・・・」
目が点になった美希が、なぎさ、ほのか、ゆりを見つめながら店を指さすと、なぎさは満面の笑みを浮かべながら大きく頷き、ほのかとゆりは、俯きながらコクリと小さく頷いた。
(ゲッ!?ま、まさか、中華まんだった何て・・・こんな格好してこなければ良かったわ)
見る見る引き攣った笑みを浮かべる美希、咲とラブも呆気に取られ、えりかと響はうっすら涙目になっていた・・・
「あれぇ!?何か反応がイマイチなような?」
頭に右手を乗せ、反応の鈍い仲間達を見て戸惑うなぎさ、喜んで貰える・・・そう思い込んでいたなぎさとは対照的に、無言でなぎさを見つめるほのかとゆりは、だから言ったじゃないと言いた気な視線を浴びせた。
「当たり前メポ!こんな場所に招待されたら、誰だって期待するメポ!」
「ウゥゥ・・・」
ほのかとゆりにも冷たい視線を浴び、メップルにもダメ出しされたなぎさが顔色を変える中、
「エッ!?そんな事無いよ!どれも美味しそうだよぉぉ・・・ブタまん、豚角煮まん、ウワァ、幸福ブタまんだってぇ、何か良い事ありそう!!」
ガッカリする一同を余所に、大喜びののぞみが店頭で商品の物色に専念する。のぞみに喜ばれ、見る見る表情を綻ばせるなぎさは、
「でしょう!流石のぞみ!!好きな物頼んで良いからねぇ!!」
「うん!!どれにしようかなぁ・・・」
上機嫌になったなぎさがのぞみに好きな物頼んで良いよと言うと、のぞみは嬉しそうにどれにしようか悩み始める。腹ぺこ軍団も背に腹は代えられず、のぞみ同様店頭に陣取り、どれにしようか悩み始める。
「うん、決めた!すいませぇぇん!!取り敢えず、幸福ブタまん五個と、楊貴妃まん二個、後、すき焼きまん三個下さぁぁい!!」
「エッ!?」
嬉しそうに店員に注文するのぞみ、最初はニコニコしていたなぎさも、のぞみが注文した個数を聞き、思わず驚く、
「あっ、のぞみさん狡いです・・・すいません!カレーまん8個下さい!!」
「うらら、だから違うのも頼みなさいったら・・・すいません、私は、ブタまん二個と・・・あっ、かれんさん、フカヒレまんもありますよ!!フカヒレまん二個と、楊貴妃まん三個とあんまん一つ下さい!!」
「エッ!?」
うららとりんものぞみ同様多数注文し始めると、それに続いたように、咲、ラブ、えりか、響の腹ぺこ軍団が次々に中華まんの注文を始める。ただ、えりかは、その容姿もあってか、他の腹ぺこ軍団の半分の個数を注文に止まっていたが・・・
なぎさの顔は、困惑の度合いを増して行くのだった・・・
「羊羹まんはあるかしらぁ?」
「う~ん、私は聞いた事無いけど?」
「僕も無いなぁ・・・」
こまちが真剣な表情で商品を見て羊羹まんがあるか物色する。話し掛けられた祈里といつきも聞いた事が無く小首を傾げる。かれんは溜息を付くと、
「こまち・・・いい加減羊羹から離れなさい!」
かれんに注意されたこまちは、両頬を膨らまし、少し不満気にすると、慌てたつぼみがこまちを宥めるように、
「こまちさん・・・あんまんじゃ駄目何ですか?」
「羊羹の歯応えが良かったんだけど・・・」
「こだわりがあるんですねぇ?」
つぼみがあんまんじゃ駄目なのかこまちに聞くと、真剣な表情のこまちが、羊羹の歯応えが良いと答え、こまちのこだわり具合に、舞が苦笑する。
「みんな、子供みたい!ねぇ、ピーちゃん」
「ピィィィ」
「みんなも・・・アコに言われると堪えるわね・・・」
アコが一同を見て呆れていると、奏が苦笑を浮かべた。そんな一同を少し離れて見つめるひかり、満、薫は、
「みなさん、やけに真剣に選んでますね?」
「ええ・・・理解出来ないわね」
「私達は別にどれでも良いんだけど・・・それより、なぎさの表情が見る見る青ざめてるけど、大丈夫かしら?」
三人の視線が顔色を変えるなぎさへと注がれた・・・
次々と一同の前に現われる中華まんの数々を見て、見る見るなぎさの顔が引き攣ってくる。
「中華料理だと遠慮して一杯注文できないから、私は中華まんで良かったぁ・・・うわぁ、美味しそう!!よ~し、まだまだ食べ尽くすぞぉぉ・・・決定!!!」
のぞみの言葉を合図にしたように、ムシャムシャ食べ始める腹ぺこ軍団、会計するなぎさは、口を尖らせて変顔になると、
「コラァ~!決定じゃなぁぁい!!一人一個・・・もしくは二個までで計算して来たのにぃぃ・・・こんなのありえなぁぁい!!!」
なぎさの悲鳴が店先に響き渡った・・・
「どうやらのぞみさん達の方が、なぎさより一枚上手だったようね?」
「ええ、最も私達も人事では無いけれど・・・せめて、帰りの電車賃は残る程度にはして貰わなきゃね?」
「そうね・・・ウフフ」
腹ぺこ軍団に翻弄されるなぎさを見つめ、思わずクスリとするほのかとゆりだったが、溜息を付いた美希に気付くと、
「みんな、ごめんなさいね!期待してたのに・・・」
「この埋め合わせは、必ずするから・・・今日は許して頂戴!」
かれん達や美希達を見つめると、ほのかとゆりが申し訳無さそうに謝るも、残った一同も、たまにはみんなで、ピクニック気分で外で食べるのも良いかもと二人をフォローした。
逆に後輩達に励まされたようで、ほのかとゆりは顔を見合わせ、苦笑を浮かべるのだった・・・
少女達はまだ気付かなかった・・・
新たなる厄が、直ぐ側まで近付いて居る事に・・・
第三十九話:甦る魔
完