プリキュアオールスターズif   作:鳳凰009

35 / 136
第三十五話:奪われたキュアモジューレ

1、お帰り!

 

 加音町・・・

 

 調べの館の中で、一同の帰りを待ち侘びるなぎさとほのか、そして、ダークプリキュア5、彼女達7人の活躍で、加音町は事無き得た。音吉は、一同に暖かいコーヒーを持ってきて話しに加わった。加音町に来た時の普段着に戻ったなぎさとほのかは、暖かいお茶の差し入れを、

 嬉しそうに手に取ると、

 

「ありがとうございます!さっき凍り漬けにされたから・・・ハァ、暖まるぅぅ!!」

 

「本当ねぇ!でも何処かで身体の底から暖まりたいわねぇ?」

 

「だよねぇ!」

 

 音吉が差し入れてくれたコーヒーの温もりに、なぎさとほのかは心底嬉しそうだった。一口、二口と、コーヒーを啜るも、まだ寒そうにしながら会話するなぎさとほのかの姿に、音吉は髭を触りながら少し考えると、

 

「おお、それなら加音町のスーパー銭湯にでも行ってきたら良い!みんなが帰って来たら一緒に行ってきなさい・・・今日はハロウィンの日じゃし、営業はしておらんが、わしから電話をして頼んでみよう!貸し切りにでもして貰うかのぉ?」

 

 音吉はそう言い残し、奥に立ち去った。

 

 なぎさとほのかは顔を見合わせニコリとするも、ダークプリキュア5はキョトンとしていた。彼女達に取っては、銭湯など聞いた事も無かったのだから・・・

 

「そっかぁ、みんなはスーパー銭湯何か知らないよね?大きなお風呂があって、みんなで一緒に入れるんだぁ!何種類かのお風呂もあるんだよ!お店によって違うけどね・・・まあ、所謂(いわゆる)裸の付き合いって奴ね!!」

 

「ハァ・・・」

 

 なぎさの語るスーパー銭湯談義に、ダークドリームはイマイチ分からず首を捻った。他の四人も何の事か分からず、キョトンとするダークプリキュア5だった。ほのかはクスリと笑み、

 

「フフ、行ってみたら分かるわ!ねぇ、なぎさ?」

 

「うん!!早くあの子達帰って来ないかなぁ・・・」

 

 なぎさとほのかは、一同の帰りを待ち侘びた・・・

 

 

 

「加音町は無事見たいだね!」

 

「ええ、音楽も元通り鳴り響いているわ!!」

 

「なぎささんとほのかさんには感謝しないとね!」

 

 加音町に戻って来た一同は、再び音楽と仮装で賑わう加音町の姿に安堵する。響と奏は、なぎさとほのかが、約束通り加音町を守ってくれた事に感謝するのだった。

 

 エレンは、そんな二人とは対照的に落ち込んでいた・・・

 

 なぎさとほのかは、約束通り敵の手から加音町を守ってくれた。

 

 でも、自分達は・・・

 

 エレンは、二人にどんな顔をして会えばいいのだろうと表情を曇らせる。そんなエレンに気付いたハミィは、不安そうにエレンに話し掛けた。

 

「セイレーン、どうしたニャ?」

 

「エッ!?ううん・・・二人は約束を守ってくれたけど、私達は・・・」

 

 ハミィにまで心配させている・・・

 

 そう思っても、エレンの心は複雑だった。思わず心の声が言葉に出る。落ち込むエレンの肩を、せつなとゆりが叩き、

 

「そう落ち込まないで!アフロディテ様は救えたんだもの!!」

 

「ええ、落ち込んでいては、次の戦いに影響するわよ?」

 

 二人の言葉を受け、エレンは考え込む・・・

 

 確かに二人の言う通り、こんな気持ちで再びハウリングと戦っても、勝てる筈がない!エレンはコクリと頷き、二人に、そしてハミィに笑顔を見せた。

 

「ピィィィ!」

 

「どうしたの、ピーちゃん!?」

 

「きっとメイジャーランドから出たこと無いから珍しいんだよ!」

 

 アコに懐き、一緒に来たピーちゃんがピィピィ鳴きながら辺りを見回す姿に、アコは不思議そうにするも、響の言葉を聞き、そうかも知れないなぁとアコは頷く。

 

「ピーちゃん、後で加音町を案内してあげるからね!」

 

 アコは、新しい友達のピーちゃんに満面の笑顔を浮かべる。その姿を見る限り、アコの子供らしい一面が見れて、一同は心を和ませるのだった。

 

 姿が見当たらないなぎさとほのかに、途中まで一緒に居たゆりが、きっと調べの館の中に居るのだろうと伝えると、一同は調べの館へと歩き出した・・・

 

 調べの館の付近には、戦いの後の痕跡が所々に残っていた。

 

 一同は、死闘が行われたであろうその様子に眉根を曇らせる。響を先頭に調べの館へと入っていく一同、

 

「あっ、帰って来た!みんな、お疲れ様!!」

 

「お帰りなさい!みんなを待ち侘びて居た人達が、私達以外にも居るのよ!!」

 

 なぎさとほのかが満面の笑みを浮かべながら、ダークプリキュア5達が戻って来た事を伝えると、一同は微笑みを向け、のぞみ、りん、うらら、こまち、かれんは特に喜び、一同に駆け寄ると、ダークプリキュア5は、一同の仮装姿を見て驚くも、直ぐに満面の笑みを浮かべ微笑み返した。

 

 数ヶ月振りの再会・・・

 

 のぞみ達とダークプリキュア5にとっては、まるで数年振りにあったように、懐かしさが心の底から湧いてくる。そんなのぞみ達とダークドリーム達の再会を見守ったなぎさとほのかは、

 

「みんなからもお礼を言って上げてよ!彼女達が加勢に来てくれなかったら、私達・・・やばかったかも!?」

 

「ええ、加音町を守りきれなかったかも知れないわ!」

 

 なぎさとほのかの言葉を受けざわめく一同、これを契機にメイジャーランド、加音町で起こった出来事を語り合う一同だった・・・

 

 

「セイレーン!今は黒川エレンだったわね・・・やはりあなたもプリキュアになれたのね?」

 

「ええ、響や奏、ハミィのお陰よ!今ならあの時、あなたやせつなが言おうとした事が理解出来るわ!」

 

 ダークドリームの言葉に、嘗て自分を訪れた時に、ダークドリームとせつなが語った言葉を思い出し、エレンはあの時を振り返った。

 

「ねえ・・・あなた達、まだしばらくこっちに居られるの?」

 

「みんなの話を聞く限り、まだしばらくはこっちに居た方が良いかも知れないわね・・・」

 

 かれんの言葉を聞き、今の現状を見る限り、自分達も地球に居た方が良いだろうとダークアクアも頷いた。

 

 その時、なぎさが手を鳴らし一同の注目を浴びると、

 

「さっきも言ったように、私とほのかは凍り漬けにされてさぁ・・・音吉さんが気を利かせてくれて、スーパー銭湯を貸しきりにしてくれるように頼んでくれたから・・・みんなで行かない?」

 

 なぎさの言葉にざわめく一同、確かに戦闘の連続で埃まみれにもなっていた・・・

 

「そうね・・・私は異存ないけれど」

 

「うん、私も良いよ!みんなは!?」

 

 ゆりものぞみも賛成し、のぞみが一同に問い掛けると、一同も賛成をし、少女達はスーパー銭湯へと向かった・・・

 

 

「此処の銭湯は、加音町らしく、音楽を聞きながらお風呂に入って癒されるの!」

 

 響の説明を受け、興味深げに少女達が中に入ると、恰幅良い女店主は、なぎさとほのかを除く、仮装した一同に苦笑を浮かべながらも、既に音吉に聞いていたのか、快く一同を中に手招き、

 

「じゃあ、出るときは其処のロビーの電話で知らせておくれ!じゃあ、ごゆっくり!!」

 

 少女達を気遣ってか、女店主は奥へと引っ込んで行った。一同が興味深げにワイワイ話して居ると、アコは、キョロキョロしているピーちゃんを見るや、微笑みながら話し掛け、

 

「さあ、ピーちゃんも綺麗にしなきゃねぇ?」

 

「ピィ!?・・・」

 

 アコに話し掛けられ、首を傾げるピーちゃんは、アコに抱かれ女湯へと入っていった。

 

「どうしましょう・・・衣装がドアに引っ掛かって中に入れません!」

 

「横になって入れば良いでしょう?」

 

「そっかぁ!」

 

 ぬりかべの仮装のうららが、入り口で引っかかり藻搔くのを、後ろに居たくるみがすかさず突っ込みを入れる。うららは照れながら舌をペロリと出し、身体を横にして中に入った。脱衣所に入り、仮装した衣装を脱ぎ始めたのぞみ達、のぞみはとある事を思い出し、

 

「そう言えば、くるみってお風呂に入る時、どっちの姿で入るの?」

 

「そんな事決ってるでしょう!」

 

 のぞみの問いに、くるみはミルクの姿に戻ると、

 

「お風呂に入る時は、ミルクの姿ミル!その方が石鹸も、お湯も少なく済むミル」

 

「な、何か、貧乏くさいね・・・」

 

「うるさいミル!お世話役は、ちゃんと節約も心がけてるミル!!のぞみとは違うミル!!」

 

 どうせのぞみはお湯を無駄使いし、石鹸も一杯使っているんだろうと、ミルクはニヤリとしながらのぞみを見つめるも、中の広さを見て目を輝かせると、

 

「ま、まあ、たまにはこの姿で入るのも悪くないわね?」

 

 再びくるみの姿になると、大浴場を興味深げに見つめた。

 

 続けて入ってきたかれんは、キョロキョロ中を見回すと、

 

「家のお風呂と同じぐらいの広さねぇ・・・」

 

「エッ!?家と同じって・・・此処、スーパー銭湯よ?」

 

「僕の家も道場をやってるから、お風呂は広い方だと思うけど、此処まで大きくはないなぁ・・・」

 

「そうですねぇ・・・こんなに広いと・・・掃除も大変そうですねぇ」

 

「ゆりさん、いつきさん、つぼみさん、気にしないで下さい!かれんの家が特別なだけですから」

 

 自分の家と同じくらいな大きさに、かれんが思わず声を出すと、一同はキョトンとし、ゆりは思わず聞き間違いかと問い返すと、こまちが苦笑を浮かべながら気にしないで下さいとフォローする。

 

 

「此処が・・・お風呂?」

 

「そうだよ!驚いた?」

 

「私と薫も、最初にお風呂に入った時は驚いたから、あなた達の気持ちは分かるわ・・・ねえ、薫」

 

「そうだったわね・・・でも、気持ち良いものよ!さあ、あなた達も服を脱いで入りましょう!」

 

 不思議そうにキョロキョロ辺りを見回すダークプリキュア5に、咲、満、薫が声を掛ける。舞は少し恥ずかしそうにしながら、みんなから隠れるように服を脱ぎ始めると、気付いた咲に手を引っ張られ、頬を赤らめる。

 

 満や薫も、元々はダークフォールで生まれた戦士である。お風呂など知らなかったが、咲や舞との出会いを切掛けに、様々な事を学んでいた。

 

 ダークプリキュア5は、不思議そうにしながらも、誘われるまま衣装を脱ぎ始めた・・・

 

 

 

「こうしてみんなとお風呂に入るなんて・・・修学旅行の時を思い出すわ」

 

「本当ですね、私も最初は戸惑いましたけど、今では楽しい思い出です」

 

 ほのかの言葉にひかりも同意し、当時の事を思い浮かべる。ひかりは、なぎさとほのかの修学旅行にも途中で合流した事があったので、実質中学時代に二度体験しているのだが・・・

 

「アコ、宮殿のお風呂もこんな感じ何じゃないの?」

 

「そうよね、お城のお風呂何て、想像したら広くて豪華そうだものねぇ・・・黄金風呂や、生演奏を聴きながらお風呂に入ってたりして」

 

「それはそれで恥ずかしいでしょう・・・で、どうなの?」

 

「エッ!?う~ん、私は小さかったから広くは感じてたけど、此処まで大きくは無かったような?」

 

 響と奏に話し掛けられたアコが当時を思い浮かべる。アフロディテやメフィスト、時々祖父音吉に入れてもらったが、他のお風呂と比べた事は無く、アコは首を捻る。

 

「私達は、熱いの嫌いだし、大体水浴びで済ませてたよね」

 

「そうニャ、ハミィとセイレーンは、泉で水浴びしてたニャ!」

 

「そっかぁ、その頃エレンは猫の姿だったもんね」

 

「今でも熱いのは嫌いだけど、ぬるま湯なら大好きよ!ねぇ、ハミィ!!」

 

 エレンの言葉にハミィも頷き、二人は笑顔を浮かべながら見つめあった。

 

 

「ポルン、ルルン、あんまり走り回ると危ないミポ」

 

「ムープもフープも、おとなしくするチョピ」

 

「シフォン、前をよく見ないと、危ないわよ!」

 

 ポルン、ルルン、ムープ、フープ、シフォンは、楽しそうに脱衣所の中をはしゃぎ回っていて、ミップル、チョッピ、せつなに注意されるもお構いなしだった。

 

 前を見ていなかったルルンが柱にぶつかり泣きそうになるのを見付けた祈里が、ルルンに近づきしゃがみ込むと、

 

「大丈夫?・・・うん、何処も怪我は無いよ!」

 

 ニコニコしながらルルンの頭を優しく撫でると、ルルンも笑顔を取り戻し、再びポルンの後を追いかけ回し始める。

 

「あの子達、楽しそうね・・・」

 

「うん、こんなに大勢で入るのって、初めて何じゃないかしら?」

 

 せつなと祈里は、目を細めながら幼い妖精達を見守った・・・

 

 

 衣服を脱ぎ、裸になった少女達が、次々と脱衣所から女湯に入って行った・・・

 

 ちょっと遅れた妖精達、メップル、フラッピ、タルト、コフレが脱衣所に入ろうとすると、

 

「み、みんなぁ、待つココ!」

 

「そっちは女湯ナツ!」

 

「お前達、戻るロプ!」

 

 女湯に行こうとするメップル達を、ココ、ナッツ、シロップは慌てて呼び止めようとするも、メップル達は気にせず中に入ろうとすると、目の前になぎさ、りん、ラブ、美希、えりかが立ち塞がり、

 

「あんた達はあっち!」

 

「何でメポ?」

 

「あんた達は一応男でしょうが!!」

 

 なぎさに男湯を指さされ首を傾げる一同、りんにも、あんた達は一応男でしょうと言われると、メップルとフラッピは頬を膨らまして、

 

「狡いメポ!ポルンやムープだって男メポ!!」

 

「そうラピ、差別ラピ!!」

 

「あの子達はまだ小さいから良いの!」

 

「そうそう、つべこべ言わない!!」

 

 食い下がるメップルとフラッピに、美希とラブも駄目だしをする。タルトも不服そうに会話に加わり、

 

「じゃあ、ピーちゃんは何でエエンや?わいらだけ、差別やでぇ!」

 

「アコちゃんが自分できれいにして上げたいようだし、ピーちゃんは怪我もしてるし、特別・・・いいからさっさと行った行った!」

 

「そうそう、ほら、コフレ!あんたもだよ!!」

 

 なぎさとえりかは、ふて腐れるメップル、フラッピ、タルトそして、コフレを追い払い、一同は女湯に消えていった・・・

 

「えりか、酷いですっ!僕はえりかのパートナーなのにぃぃ!!」

 

 頬を一杯に広げふて腐れるメップル、フラッピ、タルト、コフレに、ココとナッツ、シロップが呆気に取られていると、

 

「何じゃ、そう落ち込むな!男は男同士、身体の洗いっこでもするかのう?」

 

 男湯から白い褌姿の音吉が現われ、妖精達は呆然とその場に固まり、女湯からは、楽しそうな少女達の声に混じり、ピーちゃんの悲鳴にも似た叫び声が響き渡った・・・

 

 

2、不気味な沈黙

 

 帰って来たダークプリキュア5は、ココとナッツにこっちに残るように頼まれたくるみと共に、ナッツハウスで生活する。

 

 せつなも、一旦ラビリンスに戻ったものの、エレンの事を気に掛け、調べの館の一室を借り、加音町に暫く住む事を決めた。

 

 11月に入り、音符探しを再び開始する響、奏、エレン、アコ、せつなと、ハミィ、フェアリートーンとピーちゃん、週末になると交代で、咲達、のぞみ達、くるみとダークドリーム達、ラブ達、つぼみ達が加音町へとやって来て手伝ってくれて、音符も日に日に集まってきていた。

 

 だが、ハウリングは不気味な沈黙を続け、襲って来ようとはしなかった・・・

 

「何でハウリングは襲って来ないんだろうね?」

 

「そうね・・・でもこの沈黙はかえって不気味よね」

 

「何かを企んでいる・・・そう考えて良さそうね!」

 

 響、奏、エレンは顔を見合わせ頷き合った・・・

 

 

 12月に入ってもハウリングは沈黙を続けていた・・・

 

 12月中旬、加音町はクリスマスコンサートの準備を始めていた。この日も学校の帰りに音符集めをする響、奏、エレン、アコは、先に探索していたせつな、ハミィとフェアリートーン達と合流し、音符探しを開始した。

 

 ピーちゃんはそんな一同をジッと見つめていた。

 

「ハミィ、私にはよく分からないけど・・・音符はまだまだ居るの?」

 

 大分捕まえたとご機嫌のハミィに聞いたせつなに、ハミィはもうすぐ全て集まる筈だと答える。

 

「でも、あと少しとなると・・・捜すのも大変じゃない?」

 

「せつなの言う通りね・・・まして音符の姿は、私とハミィ、アコ、フェアリートーン達メイジャーランドの人にしか見えないし・・・」

 

 エレンもせつなの言葉に同意し、数が減れば、それだけ捜すのも大変だと響と奏に伝える。

 

「う~ん・・・そうだ!前に音吉さんがオルガン弾いた時に、大量の音符が現われた事があったじゃない!」

 

「そういえばそんな事があったわね」

 

「でしょう!危険ではあるけど・・・音吉さんに頼んでみようよ!どうかな?」

 

 響の閃きを聞き、奏もその事を思い出した。響は一同に聞いて見ると、

 

「私はよく分からないし、それで良いけど・・・」

 

「私も良いわ!」

 

「当てもなく捜すよりはマシね」

 

 せつな、エレン、アコも同意し、奏も無言で頷くと、一同は揃ってオルガン完成間近の音吉に交渉を始めた・・・

 

「何じゃと、オルガンを?」

 

「ええ、お願いします!音吉さん!!」

 

 渋い表情を浮かべる音吉に、頭を下げる五人の少女達、音吉は髭を触りながら考え込むも、

 

「残り少ないとなると・・・奴が現われる可能性も高いぞ?」

 

 音吉の言葉に頷く少女達を見て、音吉は無言で頷くとオルガンの前の椅子に腰掛け弾き始めようとする。

 

「ピィィィ!!」

 

 ピーちゃんは逃げるようにその場を飛び去って行った・・・

 

 

 調べの館から鳴り響くオルガンの音が加音町に響き渡る・・・

 

 少女達は真剣な眼差しで辺りを見回す、そんな中せつなは、このまま自分だけが参加しているより、ラブ達にも協力して貰った方が良いのではないかと考えると、

 

「ねえ、私、念の為ラブ達を呼んでくるわ!もうラブも学校から帰ってる頃だと思うし・・・」

 

「確かに、その方が良いかも知れないわね!ハウリングが何時襲ってきてもおかしくないし・・・」

 

 せつなの言葉にエレンも同意すると、響、奏、アコも頷く。せつなは忙しなく電話を掛けると、ラブと何やら会話し、アカルンの力で消え去った。一人でも多くの仲間が来てくれるのは、響達に取っても有り難かった。ましてやせつなは、アカルンの力で自在に瞬間移動を仕える。

 

 四人の心に油断が生まれた・・・

 

「じゃあ、私達は音符を探しに行こう!!」

 

 四人とハミィは、再び音符を探しに街を探索するのだった・・・

 

 

「せつな、急用ってどうしたの?何か異変でも!?」

 

「本当、ラブちゃんに聞いて驚いたわ・・・何かあったの?」

 

「ええ、音符も後僅かになった事で、音吉さんのオルガンの力を借りて、残りの音符を一気に集めようと思うの!でも、あのハウリングが現われる可能性も高いから、出来ればラブ達にも力を貸して欲しいと思って・・・」

 

 せつなに急用があると電話で呼ばれたラブは、カオルちゃんのドーナツ屋でせつな、祈里と待ち合わせし、テーブル席でせつなの話しを聞いていた。ラブは、せつなの話しに何度も頷き、

 

「うん、分かった!そういう事なら私も協力するよ!!でも、美希たんは今日モデルの仕事が入ってるって言ってたし、なぎささん、ほのかさん、ゆりさんは、今大事な時期だし、ひかりちゃんはお店のお手伝い、満ちゃんや薫ちゃんも、咲ちゃんの家でお手伝いしてるし、うららちゃんもお仕事だろうし、他の人達も部活があるだろうし・・・くるみとダークプリキュア5ならナッツハウスに居ると思うけど、後暇そうな人と言えば・・・のぞみちゃん!!」

 

「ラブちゃん、そんな事言ったらのぞみちゃんに悪いよ!」

 

「エッ!?そうかなぁ・・・アハハハハ」

 

 ラブの脳裏に真っ先にのぞみが思い浮かぶ、祈里に注意されると、ラブは苦笑を浮かべながら、せつなに、くるみやダークプリキュア5、そしてのぞみも呼ぼうと伝え、三人は何処かへと消え去った・・・

 

 

 加音町を探し回る響、奏、エレン、アコ、そして、ハミィとフェアリートーン達は、何個かの音符達を見付け保護していた。ハミィは、フェアリートーン達の中に保護してある音符達を眺めご機嫌だった。

 

「後は、ハウリングから伝説の楽譜と音符を取り戻せば万々歳ニャ!」

 

 そんな一同の様子を木の上から眺めていたピーちゃんの両目が妖しく光と、響達の周りだけ時が止まったように静まりかえる。フェアリートーン達が保護していた音符が何かの力に吸い寄せられるように出てくると、音符達は羽ばたいて飛び去ったピーちゃんの後に、釣られるように飛び去っていった・・・

 

 

3、狙われたキュアモジューレ

 

「のぞみ、あんたも随分暇なのね?」

 

「エッ!?べ、別にそんな事ないもん!」

 

 りんは部活、かれんは生徒会の手伝い、こまちは図書館で勉強、うららは仕事、くるみやダークプリキュア5がナッツハウスで生活しだしてから、のぞみは昔のように、学校帰りにナッツハウスに顔を出すのが恒例となっていた。

 

「私は来てくれて大歓迎よ!」

 

「ダークドリーム、あなたもその内また来たの?と思うようになるわよ!」

 

「くるみと違うもん・・・ねぇ!」

 

 くるみには頬を膨らまして舌を出すも、ダークドリームに相槌を打つのぞみに、ダークドリームは苦笑を浮かべる。

 

 カランカランと玄関のドアのベルがなると、のぞみは階段を下りながら、

 

「すいません!今は営業してないんです・・・って、ラブちゃん、せつなちゃん、祈里ちゃん、どうしたの?」

 

「アハハハ、やっぱりのぞみちゃん来てたね!」

 

「本当に居るとは思わなかったわ!」

 

「二人共、のぞみちゃんに悪いよ!」

 

「エッ!?どういう事?もしかして・・・ラブちゃんやせつなちゃんも、くるみと同じ事考えてたでしょう?」

 

 口を尖らせて拗ね始めるのぞみに、ラブとせつなは顔を見合わせ苦笑し、祈里は申し訳なさそうな表情をするのだった。

 

「のぞみちゃん、そう拗ねないで!はい、ドーナツの差し入れ!のぞみちゃん、くるみやダークドリーム達も一緒?」

 

「やった~!うん、みんな居るよ!!さあ、上がって、上がって」

 

「ちょっとのぞみ、勝手に仕切らないでよね!全く・・・三人共いらっしゃい!何か用事?」

 

 二階から顔を出したくるみが三人に声を掛けると、階段を上がりながら、真顔になったせつなが音符の事を伝える。のぞみもくるみも、ダークプリキュア5達も、真剣にせつなの話しを聞くと、

 

「確かにそうね・・・せつな、私からの提案だけど・・・ひかりも呼んだ方が良いわ!」

 

「ひかりを?でも、ひかりはお店の手伝いがあるから無理強いは・・・」

 

「今はそんな場合じゃないでしょう?良く考えて!私達、メイジャーランドでハウリングと戦った時、ミント、サンシャイン、ビートが張ったバリアーさえも、あいつの攻撃の前には通用しなかった・・・でも、ルミナスのバリアーは奴の攻撃を防いだ!これは非常に重要な事よ!!」

 

 くるみからの提案を聞き、あの時の戦いを思い浮かべるのぞみ、ラブ、せつな、祈里、確かにハウリングとの戦いが起こった時を考えれば、ルミナスが居る、居ないでは大分違う事を理解する。

 

「分かった!せつな、ひかりちゃんにも協力して貰おう!じゃあ、私達これからTAKO CAFEに行ってくるから、のぞみちゃん達は此処で待機してて・・・行こう、ブッキー!せつな!」

 

「うん!」

 

「分かったわ!」

 

 せつなはラブと祈里と共に、ひかりを迎えに瞬間移動をして消え去った。くるみは腕を組みながら、

 

「正直、このタイミングでハウリングに現われて欲しくはないわね・・・もし戦うとなれば・・・かなりの苦戦をする事を覚悟した方が良いわね!」

 

「あなた達がそれ程警戒するなんて・・・それ程の相手なの?」

 

 くるみの言葉を受け、ダークミントがそれ程の相手なのか問うと、無言で頷くのぞみとくるみ、まだ会った事はないが、ダークプリキュア5にもハウリングの凄さが伝わってくる。

 

 だが、少女達のその瞳には、正義の闘志が燃えていた・・・

 

 

「アァ、ニャ!ウゥ、ニャ!」

 

 フェアリートーン達の中で保護している音符を覗き見たハミィは、激しく動揺していた。さっきまで有った音符達が、全て居なくなっていたのである。挙動不審な態度を取るハミィに、四人は顔を見合わせ首を捻り、エレンがハミィに問い掛ける。

 

「ど、どうしたの、ハミィ?」

 

「セイレ~~ン・・・音符が、音符が、消えちゃったニャァァァ!!」

 

「「「「エエッ!?」」」」

 

 まるでムンクの叫びのような表情で告白したハミィに、四人が思わずハモリながら驚く、さっきまでは確かに有った筈の音符は、やはり何処かに消え去っていた。

 

「そんなぁ・・・私達が気付かない間に居なくなったっていうの?」

 

「でも、それならフェアリートーン達が気付く筈よ!」

 

 響の言葉に奏が反応し、フェアリートーン達を見ると、フェアリートーン達も悄気返りながら、何時消えたのか分からないと答える。音符は一体何処に消えたのか?もう一度辺りを見回すも、見つかる事は無かった・・・

 

 

「これは・・・どうも11月からパイプオルガンの音がズレとる!直しても、直しても、日に日に音のズレが酷くなっておるような・・・」

 

 音吉は、オルガンの前で調整を行っていたのだが、直しても、直ぐに音がズレる事に表情を曇らせていた。これもハウリングのせいなのか?それとも・・・音吉の心に警戒心が沸き起る。

 

 その時、バサバサ羽を羽ばたかせながら、ピーちゃんがピアノの上に止まる。

 

「おお、ピーちゃんか、アコ達と一緒では無いのか?」

 

 微笑みながらピーちゃんに話し掛けた音吉に、ピーちゃんの目が妖しく輝くと、オルガンのパイプがミシミシ軋み始め、加音町一帯にオルガンから不快な音が響き渡った。

 

「こ、これは一体!?まさか、お前は・・・」

 

「ギャァァス!!」

 

 驚愕する音吉を、ピーちゃんはまるで嘲笑うように一鳴きした。そこにドアを勢いよく開けて、響、奏、エレン、アコ、ハミィとフェアリートーン達が駆けつける。

 

「音吉さん、今の音は一体!?」

 

「音吉、今調べの館から、一瞬邪悪な気配を感じましたが?」

 

 響、そしてヒーリングチェストから顔を出したクレッシェンドトーンが、音吉に問い掛ける。アコも慌てて音吉に話し掛けたのだが、

 

「お爺ちゃん・・・エッ!?ピーちゃん、何時戻って来たの?」

 

 ピーちゃんは四人の側にやって来ると、甘えるようにピーピー鳴いて辺りを歩き回る。思わず顔を綻ばせる四人に、音吉が叫ぶ、

 

「騙されるな!!ピーちゃんの正体は・・・ノイズじゃったんじゃ!!!」

 

「「「「エッ!?」」」」

 

 音吉の言葉を受け、ピーちゃんを瞬時に見つめる四人、目の前のピーちゃんは、縋るような目を四人に向けた。

 

 俄には信じられない話しだった・・・

 

 だが、音吉が嘘を言う筈がない・・・

 

 一同の心に、ピーちゃんへの疑惑が沸き起った・・・

 

「ギャァハハハハ!!」

 

 ピーちゃんはそれに気付いたのか、不気味な笑い声を響かせると、窓を割り外へと飛び出した。直ぐに後を追う四人の前に、遂に沈黙を破り奴が現われる・・・

 

 どこか狼を連想させる金色の髪をした紫色の魔獣・・・ハウリング!!

 

 ハウリングは伝説の楽譜を手に持ち、ノイズが奪った音符を楽譜に戻すと、

 

「ノイズ様、音符は全て集まりました!後は・・・」

 

 ギロリと四人を睨み付ける真っ赤な瞳、四人はキュアモジューレを手に持つと、

 

「せつなさんは間に合わなかったけど・・・私達だけで、行くよ!!」

 

「ええ、私達だけでも、ハウリングから取り戻しましょう!!」

 

 響、奏の言葉に無言で頷くエレンとアコ、それぞれパートナーを呼ぶと、

 

「「「「レッツプレイ!プリキュア!モジュレーション!!」」」」

 

 四人の身体を、リボンが全身を覆っていくように衣装を身に着けていく。

 

「爪弾くは、荒ぶる調べ!キュアメロディ!!」

 

「爪弾くは、たおやかな調べ!キュアリズム!!」

 

「爪弾くは、魂の調べ!キュアビート!!」

 

「爪弾くは、女神の調べ!キュアミューズ!!」

 

「「「「届け!四人の組曲!!スイートプリキュア!!!」」」」

 

 変身を終えた四人が、ノイズ、そしてハウリングに対しポーズを取った。

 

「何だ!?この俺様を相手に・・・たった四人で戦おうと言うのか?まあいい、俺様も貴様らに用があるからな・・・」

 

「どういう事?」

 

 ハウリングの言葉が引っ掛かり、思わずメロディが聞き返すと、

 

「な~に、これだけではまだ不幸のメロディを完成させる事は出来ない!あと四つ・・・貴様らの胸に輝くキュアモジューレ!その中にあるハートのト音記号・・・それさえ奪えば・・・不幸のメロディは完成する!!」

 

 ハウリングが話した内容を、メロディ達四人は知らなかった・・・

 

 アフロディテは、敵を欺くために、その事を黙っていたのだが、ハウリングに体内に入られた時、その秘め事は無残に敵に知れ渡ってしまっていた。

 

「あんた達に渡さなければ済む事よ!!」

 

 ハウリング目掛け一斉にジャンプした四人に対し、

 

「ゼタ・ファイヤー!!」

 

 大きく口を開けたハウリングから、猛烈な炎がプリキュア達を襲った・・・

 

 直撃は免れたものの吹き飛ばされる四人、ハウリングは、先ずリズムを左手に捕らえると咆哮する。顔を強張らせ何とか脱出を試みるも、リズムはハウリングの手から逃れる事が出来なかった。

 

「リズムゥゥ!!ハウリング!リズムを離してぇ・・・離しなさい!!!」

 

 立ち上がったメロディは、ハウリングの顔面目掛け突進する。ヨロヨロ立ち上がったビートとミューズは、その無謀ともいう行為に無茶だと叫ぶも、メロディの耳には届かない。

 

「せつなぁぁ!早く、早く戻って来てぇぇ!!」

 

 絶望的な展開に、思わず叫び、せつなを呼ぶビートだった・・・

 

「離せ、離してよ!リズムゥゥゥ!!」

 

「メロディィィィ!!」

 

 必死に手を伸ばし合う二人、ハウリングはそんな二人を嘲笑うように、メロディに強烈な右アッパーカットを浴びせ、上空に飛ばされ朦朧としたメロディを右手で掴むと、

 

「今日の所はこいつらで我慢しておこう!ノイズ様、マイナーランドに戻りましょう!!」

 

「ギャァァス!!」

 

 ノイズはハウリングの肩に留まると、上空の空間が歪む、

 

「待って!メロディを、リズムを返してぇぇ!!」

 

「そんなぁぁ」

 

「「ビートォォ!ミューズゥゥ!」」

 

「「メロディィィ!リズムゥゥ!」」

 

 互いに呼び合う名と名、だが無情にも、メロディとリズムは、ノイズ、ハウリングと共に空間の中に消え去った・・・

 

 その場に崩れ落ち、ビート、ミューズ、そして、ハミィとフェアリートーン達は泣き叫んだ・・・

 

 

「エッ、一緒に行ってくれるの?ありがとう、ひかり!」

 

 ひかりを訪れたせつな、ラブ、祈里の申し出を、ひかりは快く承諾した。せつなは嬉しそうな表情を浮かべひかりの手を握り感謝する。ひかりは首を振り、

 

「礼には及びません!こういう時ですし、アカネさんには、前もって頼んでありますから・・・それより、嫌な予感がします!急ぎましょう!!」

 

 ひかりの言葉を受け三人は頷くと、ナッツハウスに舞い戻った。

 

 

 マイナーランド・・・

 

 不気味さ漂うこの国に浚われたメロディとリズムは、キュアモジューレを奪われ、ハートのト音記号を奪われると、二人のキュアモジューレは、役目を終えたように石化していた。

 

 もう、変身する事は出来ない・・・

 

 響と奏の心を不安が迸る・・・

 

 響は、そんな心を払拭するようにハウリングに対し、

 

「ハウリング、私達をどうする気?もう、私達に用は無いでしょう!!加音町に帰して!!!」

 

「ああ、帰してやるさ・・・ただし、我がマイナーランドの戦士としてな!!」

 

 ハウリングの目が妖しく光と、響と奏の頭部を闇が覆った。

 

「な、何、これは、前が見えない!何も聞こえない!!奏、奏何処?」

 

「響ぃぃ!嫌・・・一人にしないでぇ!!」

 

 闇によって視界を遮られ、音を奪われた響と奏は、パニックを起こしていた。そんな二人を嘲笑うハウリング、

 

「さあ、北条響、南野奏、復讐の時は来たぞ!お前達を見捨てたキュアビート、キュアミューズ、奴らのキュアモジューレを奪い取るのだ!!」

 

「違う!二人は私達を見捨てたり何てしない!!」

 

「ビートも、ミューズも、私達の大切な仲間よ!!」

 

 響も、奏も、お互いを感じない状況下であっても、二人の心は一緒だった。だが、ハウリングの言葉が、悪のノイズが、二人の耳に呪文のように繰り返されていく・・・

 

「ビートも、ミューズも、お前達を・・・見捨てた!見捨てた!見捨てた!見捨てた!見捨てた・・・・・・」

 

 響と奏の瞳から、徐々に光が消え去ろうとしていた・・・

 

「ビートも、ミューズも、私達を・・・見捨てた」

 

「復讐の時は・・・来た!!」

 

「そうだ!それでいい!!」

 

 何かの暗示に掛かったように、二人がポツリと言葉を漏らす。ハウリングはニヤリとしながら響と奏を見つめていた・・・

 

 

 三人がひかりを連れて戻って来た事で、のぞみ達7人も加わり、せつなは再び加音町の調べの館へと戻って来た。だが・・・

 

「これは一体!?」

 

 11人の少女達の前では、膝を抱え泣きじゃくるエレンとアコ、ハミィとフェアリートーン達の姿があった。

 

「エレン、アコ、一体何があったの?」

 

 せつなは、泣きじゃくるエレンとアコに優しく話し掛けるも、せつなを見つめるエレンの目は険しかった。

 

「どうしてぇ!?どうしてもっと早く来てくれなかったのぉぉ?」

 

「ゴ、ゴメンなさい・・・エレン、落ち着いて!!」

 

「落ち着ける訳無いじゃない!響を・・・奏を・・・ハウリングに浚われて・・・落ち着ける訳・・・無い・・・」

 

 響と奏をハウリングに浚われたと聞き、のぞみ達の表情が一気に険しさを増した。悲し気な表情を浮かべたハミィは、

 

「セイレーン・・・せつなの所為じゃ無いニャ!」

 

 ハミィに窘められたエレンは、再び溢れる涙を拭いながら、

 

「分かってる、私にだって分かってる!目の前で二人を浚われた私が、一番悪いのは分かってる!でも・・・でも・・・」

 

 再び止め処なく涙が溢れ出すエレンの身体を、せつなは優しく抱きしめ謝ると、感極まったエレンは、せつなに縋り付き、ゴメンなさいと謝りながら泣き続けた。のぞみ達、ラブ達も、沈痛な面持ちでその様子を見守り続けた・・・

 

 ラブは、ギュッと拳を握りしめる・・・

 

 ラブは心の中で、嘗て目の前でシフォンを、ノーザに連れ浚われた事を思い出していた。

 

(二人の悔しい気持ちは・・・私にも分かるよ!!)

 

「エレン、アコちゃん、泣いてたって始まらない・・・行こう、マイナーランドに!響ちゃんと奏ちゃんを助けに!!」

 

 何かを決意したように、ラブが口を開くと、ハッする一同、

 

「待ってよ、ラブ!気持ちは分かるけど・・・」

 

 くるみにも、ラブが言いたい気持ちは理解出来た。以前、満と薫、せつなの偽物に、目の前でココとナッツ、シロップを浚われた事があったのだから・・・

 

 あの時の深い哀しみを思えば、今のエレンとアコの気持ちは当然理解出来た。だが、あの時と違い、敵の本拠地にこの少人数で乗り込めば、下手をすれば全滅する可能性も否定できなかった。

 

「くるみ、私もラブちゃんと同じ意見だよ!!」

 

「はい、敵も油断している筈です!其処を付けば、二人を助け出す事も・・・きっと出来る筈です!!」

 

 躊躇(ちゅうちょ)するくるみに、のぞみとひかりもラブの意見に同意する。ダークプリキュア5も頷くと、くるみはハァと溜息を付くも、直ぐに気持ちを切り替え、目を輝かせると、ラブの案に同意した。エレンとアコは、改めて一同の顔をマジマジと見つめると、

 

「みんな・・・一緒に行ってくれるの?」

 

「本当に良いの?」

 

「当たり前でしょう!行こう、エレン、アコ、響と奏を助けに!!」

 

「「うん」」

 

 せつなの言葉に、エレンとアコは涙を拭い頷いた。ラブは祈里を見ると、

 

「ブッキー!悪いけど、ブッキーは加音町に残って、他の人達にこの事を知らせておいてくれるかな?」

 

「エッ!?・・・うん、良いけど、私も行かなくて大丈夫?」

 

「今回は、ハウリングと戦う事が目的じゃなく、響ちゃんと奏ちゃんを救う事が目的だから・・・後をお願いね!」

 

「分かったわ!みんな、気を付けてね!!」

 

 ラブの言葉に同意し、祈里は他のメンバーに連絡を取る為加音町に残る。

 

「じゃあ、みんな!行くよ!!」

 

 のぞみの言葉に頷いた一同が変身アイテムを手に取ると、

 

「プリキュア!メタモルフォーゼ!!」

 

「スカイローズ!トランスレイト!!」

 

「「チェインジ・プリキュア!ビートアップ!!」」

 

「ルミナス!シャイニングストリーム!!」

 

「「レッツプレイ!プリキュア!モジュレーション!!」」

 

「みんな、響さんと奏さんを救出して無事に戻って来るって・・・私、信じてる!!」

 

 ドリーム、ローズ、ピーチ、パッション、ルミナス、ダークプリキュア5、そして、ビートとミューズの12人のプリキュアが、響と奏を救出する為、マイナーランドへと向かい、祈里は、そんな一同が無事に戻って来るように、心の底から思うのだった・・

 

 

4、悲痛な決意

 

「ちょっと、落ち着いてブッキー!一体どうしたの!?何があったの?」

 

「だから、響さんと奏さんが、ハウリングに浚われちゃって・・・ラブちゃんとせつなちゃん、のぞみちゃんとくるみさん、ひかりさん、ダークプリキュア5達が、浚われた響さんや奏さんを助けに・・・マイナーランドに乗り込んだの!!美希ちゃん、悪いけどこっちに来れないかなぁ?」

 

 電話の向こうで、祈里が激しく動揺しているのが分かった美希は、祈里に落ち着くように伝える。少し落ち着いた祈里の言葉を聞き、頭の中で整理を終えた美希の顔色が変わる。

 

「全く、ラブ達無茶しすぎよ!分かったわ!ブッキー、えりかにはあたしから連絡入れるから、ブッキーはなぎささん達、咲達、かれんさん達に連絡入れといて、あたしも調べの館に向かうわ!!」

 

「ゴメンね、美希ちゃん・・・お願い!!」

 

 美希が加音町に来てくれると聞き、祈里はホッと安堵すると、なぎさ達に連絡を試みた・・・

 

 

 マイナーランド・・・

 

 不気味な祭壇のような場所に現われた一同が、辺りをキョロキョロしていると、

 

「ほう、貴様らの方から現われるとは・・・正直驚いたぞ!」

 

 ノイズを肩に乗せながらゆっくり姿を現わすハウリング、ビートは険しい表情になると、

 

「ハウリング!響と奏を帰して!!」

 

 ビートがハウリングを指差し、響と奏を帰してと問い詰めるも、ハウリングは不気味に笑い、

 

「帰してやってもいいぞ?お前達のト音記号を渡せばな!!」

 

「ふざけないで!誰があんた何かに・・・」

 

 身構えるビートの呼吸に合わせるように、他のプリキュア達も身構えた。

 

「北条響、南野奏、態々向こうから来てくれたぞ!」

 

 ハウリングの言葉を受け、ゆっくり、ゆっくり、姿を現わした響と奏の姿を見て、一同はホッと安堵する。

 

「響、奏、良かった・・・無事で良かった!」

 

 目頭に涙を浮かべたビートだったが、二人の表情は険しかった。それどころか、ビートとミューズを見つめる視線には、憎悪すら浮かんでいた。

 

「ビート、ミューズ、お前達二人は・・・私達を見捨てた!!」

 

「「エッ!?」」

 

「自分達が助かりたい為に・・・私達を見捨てた!!」

 

「ふ、二人共、一体何を言ってるのよ!?」

 

「私達、そんな事思って無いよ!」

 

 怨みの籠もったような目で、ビートとミューズを見つめる響と奏に、ビートとミューズは顔を見合わせ驚愕する。ビートは慌てて首を振りながら、

 

「ち、違う!違うわ!!確かにあの時あなた達を救えなかったけど・・・見捨てた何て・・・酷い!!」

 

「現にお前達は、私達より自分のキュアモジューレを選んだじゃないか?」

 

「そう・・・それがあなた達の本心なのよ!」

 

 ビートの言い訳を、指を指しながら否定する響と奏、ビートとミューズは困惑しながら、必死に二人に弁明するも、響と奏には通じない。そんな四人の姿を、ハウリングとノイズは楽しそうに見つめていた。

 

「ビート、ミューズ、響さんと奏さんは・・・ハウリングに操られて居るようです!」

 

「響と奏が?そんなぁ・・・」

 

 ルミナスの言葉を受け、益々動揺するビートとミューズ、

 

「あれが・・・ハウリング?」

 

「ええ、そして、メイジャーランドの妖精だと思っていたピーちゃんこそが、ノイズ!!」

 

 初めて見たハウリングからの不気味な気配に、ダークプリキュア5達に緊張が走った。ミューズの言葉で、ピーちゃんこそがノイズという事も分かり、表情が険しくなる。

 

「二人を利用する何て、許せない!!ビート、そしてミューズは、響ちゃんと奏ちゃんをお願い!私達がハウリングを食い止める間に、何とか二人を元に戻して!!行くよ、みんな!!!」

 

 ドリームの言葉を受け、ハウリングに攻撃を開始する一同、ノイズは素早く羽ばたき、柱の上へと降り立った。

 

 ローズとピーチが格闘攻撃を仕掛けるも、ハウリングは二人の攻撃を余裕で捌き、シューティングスターで突撃したドリームの攻撃をも跳ね返した。ならばと、ダークレモネードのダークネスウィップでハウリングの両手を絡めるも、逆に上空高く振り回され地面に叩き付けられる。

 

「そんな攻撃、ビクともせん・・・食らえ、ゼタ・ファイヤー!!」

 

 大きく口を開けたハウリングから、猛烈な炎が吐き出されるも、前に出たルミナスが、バリアーを張り何とか堪える。

 

 ルミナスに攻撃を止められ、一瞬のハウリングの動揺を見逃さず、上空からダブルドリームがシューティングスターとダークネススターで突っ込み、ローズ、ピーチ、パッションがパンチを繰り出しハウリングを吹き飛ばした。

 

「チッ!俺様に逆らうか?貴様らが攻撃するなら・・・あの二人に殺し合いをさせても良いんだぞ?」

 

 ハウリングの言葉を表すように、響と奏が互いの喉元にナイフをあてる。

 

「卑怯よ!!」

 

「さあ、お前達も向こうでおとなしくしていてもらおうか?」

 

 ドリーム達は唇を噛みながら、ハウリングから距離を取った。

 

「「お前達のキュアモジューレを・・・私達に差し出せ!!」」

 

 響はビートの、奏はミューズのモジューレを奪おうと試みる。ビートもミューズも涙ながらに止めるように訴えるも、二人の耳には届かない・・・

 

 ビートは、ミューズに目で何か訴えると、ミューズも頷き、二人は変身を解き、エレンとアコの姿へと戻った。その行為には、響と奏も驚愕の表情を浮かべた。

 

「もう・・・止めよう!響や奏、ハミィが居てくれたから、今の私は居る。あなた達が苦しみから解放されるなら・・・キュアモジューレは、渡すわ!!」

 

「エレン、あなた何言って・・・ドリーム!?」

 

 ローズがエレンを止めようとするのを、ドリームが無言で制止し、成り行きを見守る。

 

「私も・・・響や奏、プリキュアのみんなが居てくれたから、パパもママも救えた!そして、私もありのままの自分を出せたんだよ!今度は二人を・・・私が救いたい!!」

 

「ハウリング、キュアモジューレは渡すわ!その代り、響と奏にこれ以上・・・もうこれ以上酷い事はしないで!!」

 

 そう言うと、エレンとアコは響と奏を抱きしめ、ゴメンねと謝り涙を流す。二人の涙が響と奏に溢れた時、響と奏の瞳からも、止め処なく涙が溢れ出していた・・・

 

 

「良いだろう!さあ、モジューレをこちらに投げろ!!」

 

 ハウリングの言葉に頷き、エレンとアコがモジューレを投げると、二人のモジューレからト音記号が現われハウリングの手に渡った。今、伝説の楽譜に不幸のメロディが完成する・・・

 

「フハハハハ、遂に、遂に、不幸のメロディが完成した!!」

 

「ギャァァス!!」

 

「最早このマイナーランドも無用の長物、不幸のメロディに相応しいステージで、全世界に響かせてくれる・・・その前に、もうお前らに用は無い!死ね!!」

 

 ハウリングからのエネルギー波が、響と奏に発せられる。エレンとアコは、二人を庇い吹き飛ばされる。目の前で飛ばされるエレンとアコの姿を見て、響と奏の瞳に光が完全に戻った!

 

「エレン!アコ!ゴメン・・・ゴメンね!」

 

「二人共、私達のせいで・・・」

 

「響、奏、良かった・・・元の二人に戻って!」

 

「本当にゴメン・・・」

 

「ううん、謝るのは私の方、響、奏、辛い思いをさせてゴメンね!」

 

 響が、奏が、エレンが、アコが、四人が抱き合いながら泣き崩れた・・・

 

 そんな四人を見たハウリングは、鼻で笑うと、

 

「止めだ!消えろ!!」

 

「させるもんですかぁぁ!!」

 

 四人を庇うように立ち塞がるドリーム、ピーチ、パッション、ローズ、ルミナス、ダークプリキュア5、自分達を助ける為に、ビートとミューズと共に、危険を承知で駆け付けてくれたドリーム達を見て、響と奏は、顔をクシャクシャにして泣きじゃくりながら、

 

「みんなぁ・・・」

 

「みんなにも迷惑掛けて・・・」

 

「「私達・・・取り返しの付かない事を・・・」」

 

 泣きじゃくる二人に、振り向いた一同は穏やかな表情で、無事で良かったと二人に話すと、

 

「みんな、響ちゃんと奏ちゃんは救えた・・・一旦引くよ!!」

 

 ピーチの言葉に一同が頷くと、パッションの力で加音町へと瞬間移動した。

 

「逃げたか・・・まあいい!最早、マイナーランドなど不要!!行きましょう、ノイズ様!あなたの復活に相応しい次なるステージへ!!」

 

「ギャァァァァァス!!」

 

 ハウリングの言葉に満足そうに一鳴きし、二人は何処かへと消え去った・・・

 

            第三十五話:奪われたキュアモジューレ

                    完

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。