1、黒と白の稲妻
アフロディテに追いついたメフィストとプリキュア達だったが、アフロディテは不敵な笑みを浮かべ続けていた。
「今、ブロッサム達がハートキャッチオーケストラを放ったわ!」
「あの黄色い魔物も、彼女達に倒されたって事よ!」
「さあ、観念してアフロディテ様から離れなさい!!」
メロディが、リズムが、ビートが、アフロディテに憑依する何者かに解放するよう訴えるも、
(まさか、テンペストーゾまで倒されるとはな・・・だが!)
「クククク、馬鹿め、それで勝ったつもりか?このハウリングが何の手段も用いず、こんな所までただ逃げたとでも思ったか?お前達は人質を取られているも同然なのだぞ!!」
まるで、ハウリングと名乗った者の意思に通じたように、茨の群れがメイジャーランドの市民が石化する広場へと進軍を開始する。
「クククク、良いのかメフィスト?貴様の大事な民を見殺しにしても?」
「おのれぇぇ!!」
口惜しそうに拳を振るわすメフィストに、メロディ達は自分達が向かうと告げるも、
「その必要は無いロプ!あれを見るロプ!!」
「エッ?シロップ!?どうして此処に居るニャ?」
上空から飛来したシロップが一同に話し掛けると、加音町に居る筈のシロップがメイジャーランドに居る事に首を捻るハミィに、シロップは、ドリームからの救援要請を受けてムーンライトを連れて来た事を語った。そのシロップの背にはココ、ナッツ、タルト、シフォンが乗っていた・・・
「何だと・・・どういう事だ?茨が次々枯れ果てていくとは!?」
アフロディテに憑依するハウリングが驚きの声を上げるも、
「簡単な事よ・・・私達プリキュアが、あなたの企みを阻止しているだけよ!!」
「「「「ムーンライト!!」」」」
上空から舞い降りたムーンライトが、アフロディテの背後に降り立ち声を掛けると、メロディ達が顔を綻ばせるのに頷くムーンライト、遅れてブロッサム、マリン、サンシャインが降り立つ、更に茨を排除しながら徐々に姿を現わす14の影・・・
「ブルーム、イーグレット、ブライト、ウィンディ」
「ドリーム!みんな、無事で、無事で良かった!!」
メロディ、リズムの言葉にニコリと微笑み頷くブルーム達とドリーム達、
「約束通り来たわよ!ビート!!ちょっと遅くなっちゃったけどね」
「パッション!ピーチ!ベリー!パイン!もう、心配したわよ!!」
パッションの言葉に少し涙ぐみながらも安堵するビート、それを見て微笑み掛けるピーチ、ベリー、パイン、パッション、
「メイジャーランドの人達に手出しはさせない!!」
ドリームの言葉を表すように、アフロディテに潜むハウリングに対し一同が身構えると、
「フフフフ・・・・ハァハハハハハ!大人数でご苦労な事だな・・・だが、お前達は勘違いしているようだな?メイジャーランドだけが、我らの目的だとでも思ったのか?これは陽動だ!!今頃、我が配下最強のトランクィッロが、我らの宿敵、音吉の居る加音町に、ゴーレムの大部隊を向かわせた頃だろう・・・邪魔な奴の企みを討ち滅ぼしアフロディテ、音吉、共に死に絶えるのだ!!」
「そんなぁ・・・お爺ちゃん!!」
ハウリングの言葉に動揺するミューズとメフィスト、愛する母を、そして祖父を救わなきゃとミューズが飛び出そうとするのを、ルミナスとムーンライトが制止する。
「加音町は大丈夫です!あの街には・・・ブラックとホワイトが居ます!!」
「ルミナスの言う通りよ!ミューズ、仲間を・・・ブラックとホワイトを信じなさい!あの二人なら・・・必ず約束を守ってくれるわ!!加音町は大丈夫!!私達は、今出来る事をしましょう!!」
(ブラック、ホワイト、加音町は任せたわよ!!)
ムーンライトはブラック、ホワイトに加音町を託し、ハウリングとの決戦に備えるのだった・・・
「ねえ、ホワイト!メイジャーランドは大丈夫かなぁ?」
「ムーンライトも向かったし、大丈夫よ!」
調べの館の前で待機するブラックとホワイト、音吉はオルガンの完成は急務と館の中で作業を続けていた。その時、加音町に地響きが起こり、メップルとミップルが騒ぎ始める。
「ブラック、嫌な感じがするメポ」
「邪悪な感じが一杯現われたミポ」
ブラックとホワイトが辺りを見回しフッと上空を見上げると、二人は思わず変顔になりながら叫ぶ
「な、何、あの変なの?色とりどりのモアイ像が降ってくる何て・・・ありえなぁ~い」
「モ、モアイ像かどうかは別として・・・あれはやっぱり敵!?」
動揺するブラックとホワイトの下に、中から音吉が慌てて飛び出してくると、
「二人共、用心せい・・・あれはゴーレムの大群・・・これはきっとノイズの手の者の仕業じゃ!」
音吉の言葉に頷いたブラックとホワイトが顔を見合わせると、
「やっぱり、音吉さんが言ってた通りだったね」
「ええ、響さんとの約束は守らなきゃね・・・」
「「加音町は・・・私達が守って見せる!!」」
ゴーレムの群れに突っ込むブラックとホワイト、それに気付いたゴーレム達が合体し、巨大な姿に変化すると、二人も少し驚いた表情を浮かべ、
「ウワァ、合体しちゃったよ・・・でも、その方が戦い易いかもね?」
「そうね・・・」
目で合図しあったブラックとホワイトは、勢いよく大きくジャンプした。ジャンプした二人に対し、ゴーレムはパンチを繰り出すも、ホワイトが高速回転しながらパンチを捌き、蹌踉めいたゴーレムの顔面に、ブラックが地団駄を踏むようにキックの雨霰を浴びせると、堪らずゴーレムは尻餅を付く。地上に降り立った二人が手を握り合うと、
「ブラック、サンダー!」
「ホワイトサンダー!」
「プリキュアの、美しき魂が!」
「邪悪な心を打ち砕く!」
「「プリキュア!マーブルスクリュー!」」
ブラックが右手に、ホワイトが左手に力を込めて一旦引いた手を前に突き出すと、
「「マックス~~!!」」
ギュッと握り合った手と手・・・
二人の絆の強さを現わすように、巨大なゴーレムを一蹴する二人だったが、更なる新手の、色取り取りのゴーレムが再び降ってくると、二人は目を点にしながら、
「また出た!全く、パズルゲ-ムかぁぁ・・・ホワイト!」
「うん、これじゃ切りがないものね・・・」
再び手を繋ぎ合う二人が目を閉じると、
「私達の目の前に、希望を!」
「私達の手の中に、希望の力を!」
ホワイト、ブラックの言葉を聞き入れたように、まるで生命の息吹を感じさせるような金色の光が、ブラックとホワイトの下に集まってくる。ブラックの右手に、ホワイトの左手に、スパークルブレスが装着される。漲ってくる力を現わすように、腕を回しながら構えたブラックとホワイトの姿に、音吉は思わず呻き声を上げた。
「な、何という凄まじい力じゃ?あの二人・・・まさかこれ程までの力を持って居るとは思わんかったわい」
髭を触りながらも、二人の姿を頼もしげに見つめる音吉だった。
「パズルゲームの通りなら、同じ色を重ねれば消えるんだけどねぇ?」
「ウフフフ、そう上手くはいかないようねぇ?」
雄叫びを上げたブラックとホワイトが、全速力で降ってくるゴーレムの群れ目掛け駆け出すと、スパークルブレスが回転し、大きくジャンプした二人を、黒と白の稲妻が覆った・・・
「ダァァァァァ!!」
「ヤァァァァァ!!」
稲妻を纏った二人の蹴りが、ゴーレムの群れを駆逐していった・・・
2、黒き薔薇の帰還
ゴーレムの大群を一蹴し、地上に着地したブラックとホワイトは、フゥと大きく息を吐くと、互いを見つめ合い微笑んだ。その時・・・
「あのゴーレムの集団を倒したのか?しかも、たった二人で・・・信じられん?」
上空から飛来する人影が、調べの館前に降り立つと、ブラックとホワイトが身構える。
「我が名はトランクィッロ!マイナーランドの戦士也!!貴様らに敬意を表し、名を聞かせて貰おうか?」
赤い髪に、巨大な尻尾、身体を茶色の鱗に覆われた魔神、トランクィッロが姿を現わすと、不気味な妖気を漂わせる。何処かワニを連想させる容姿に、ブラックは薄気味悪そうな表情を浮かべるも、
「光の使者・キュアブラック!」
「光の使者・キュアホワイト!」
「ふたりはプリキュア!!」
「闇の力のしもべ達よ!」
「とっととお家に帰りなさい!!」
ブラックとホワイトが、トランクィッロ相手に名乗りを上げた!
トランクィッロはギロリと二人を見回し、四つん這いになると、素早い動きでブラックとホワイトに向かってきた。二人はジャンプして躱すも、尻尾が切り離され、二人の足を捕らえると、ブラックとホワイトを地面に叩き付けた。
「キャアァァ!コノォォォ!!」
力を込めるブラックとホワイトが、何とか尻尾を外し蹴り飛ばすと、尻尾は生きているかのようにトランクィッロに再び装着された。
「我が尻尾の攻撃に耐えるとはな・・・これならどうだ!エクサ・フリージング!!」
トランクィッロの口から、冷気が吐き出される。ブラックとホワイト、二人の足下が凍り付いていく。
「気をつけて、あいつの技は氷雪系のようだわ!下手に攻撃を受ければ、致命傷になりかねない!!」
ホワイトの声を聞いて、ブラックは分かったと応えると、二人は様子を伺うように距離を置いた。それを見たトランクィッロの口元がニヤリとし、調べの館の前に居た音吉目掛け突進すると、
「掛かりやがった!俺の目的は・・・音吉、貴様とオルガンの破壊だ!!」
トランクィッロは、調べの館事音吉を葬ろうとするかのように、両手に気を溜めると、
「死ねぇぇ、音吉!エクサ・ブリザード!!」
先程のエクサ・フリージングとは、比べものに成らない程強力な吹雪が、音吉目掛け発射された。音吉は身構え、死を覚悟した。だが、音吉の前にブラックとホワイトが割って入り、二人の身体は、エクサ・ブリザードの直撃を受け、徐々に氷に覆われていった。
「お前達、わしなどの為に・・・何故じゃ!?」
「や、約束・・・した・・・もの」
「守る・・・って・・・」
寒さで上手く口も回らないブラックとホワイトだったが、響達との約束は守ると、身を挺して音吉と調べの館を守った・・・
完全に凍り付き、固まるブラックとホワイトの姿に音吉は呆然とし、トランクィッロは嘲笑を浮かべた。
「クククク、馬鹿め!音吉の死ぬ時間が少し延びただけの事・・・これで貴様らを倒す手間が省けた!最早俺の邪魔をする者は居ない!音吉よ、お前が愛したこの街の最後を見ろ!!」
トランクィッロが、尻尾を地面に叩き付けると、再び上空よりゴーレムの群れが降ってくる。拳を振るわす音吉と、高笑いを続けるトランクィッロだったが、その時、空間に亀裂が走った・・・
「おのれ、まだ戦力を残して居ったのか・・・アコ、みんな、スマン!」
最早この街を、オルガンを、守る手段は無いと、音吉の心を深い哀しみが覆う・・・
だが・・・
(これは、何だ!?こんな空間・・・俺は知らんぞ?何が現われるというのだ?)
呆然と空間の亀裂を見つめるトランクィッロの視線に、亀裂の中から五つの影が映った。五つの影は加音町に降り立つと、辺りをキョロキョロし、
「変ねぇ!?プリキュア達の姿が見えないけど?」
「マスターの話しでは、この街に闇の気配が漂っていると言う事だったわね?」
「うん、プリキュア達も戦って居るような事を言ってたよね?」
「見て、ダークドリーム!あれ、ブラックとホワイトじゃない?」
「そんな!?ブラックとホワイトが凍り漬けに?」
現われた黒き衣装を身に纏った五人の少女達、ダークプリキュア5!
ダークアクア、ダークミント、ダークレモネード、ダークルージュ、そして、ダークドリーム、再び発生した闇の気配を感じ、ダーククイーンの命を受け、闇の気配のするこの街に現われた少女達は、上空から降ってくるゴーレムの群れに気付くと、
「成る程、あれね・・・みんな、行くよ!!」
「ブラックとホワイトはいいの?」
「あの二人なら大丈夫!自分達の力で何とかする筈だわ!!」
ダークドリームの言葉を受け、ダークアクアは心配そうにブラックとホワイトを見て、助けないのかダークドリームに問い掛けるも、ダークドリームは二人なら自力で必ず打ち破ると信じていると告げる。他の四人がチラリと二人を見ると、凍り漬けにされた二人の氷に亀裂が走った。
「待て!貴様ら何者だ!?」
「私達は・・・闇に生まれ、光の暖かさに触れ生まれ変わった戦士!ダークプリキュア5!!」
「ダークプリキュア5だと!?・・・良いだろうこの俺が相手をしてやる!!」
だが、ダークプリキュア5はトランクィッロを無視し、口元に笑みを浮かべると、ゴーレムを迎撃に向かった。
「な、何だと!?貴様ら、この俺を無視するとは・・・ならば望み通りこの街と・・・」
「勘違いしないで!私達が相手をするまでも無く、あなたの相手なら目の前に居るわ!!ブラックとホワイトが、その程度の攻撃でやられるものですか!彼女達を甘く見ない事ね?」
無視されたトランクィッロが激高し、再び加音町事攻撃しようとするも、ダークドリームは、ブラック達を信じ、ゴーレムを迎撃に向かった。
「あの五人は一体!?味方・・・のようじゃが?」
音吉は、ダークプリキュア5の事を知らない・・・
だが、ゴーレムの群れと戦い始めた五人の少女達を、頼もしげに見つめるのだった・・・
ピシピシっと氷に罅が入ると、バリンと言う音と共に、ブラックとホワイトが氷を内側から壊し解放される。
「ウゥゥ・・・さぶいぃぃ!寒くて死ぬかと思っちゃった・・・」
ブラックは寒そうに身体を縮込めながら、その場で足を動かし身体を温める。ホワイトは両手で身体をまさぐり暖めていると、音吉は目を輝かせ、無事な二人を見て喜ぶと、
「おお!お前達、無事じゃったか!あの五人もお前さん方の仲間なのか?」
音吉が指さす先に視線を移すと、ブラックとホワイトの表情が輝いた!
「ダークプリキュア5!?あなた達・・・帰って来たんだね!!」
「また会えるなんて・・・しかも、良いタイミングで来てくれたわ!!」
微笑みながら再会を喜ぶブラックとホワイト、ダークプリキュア5もニッコリ微笑むと、ダークドリームは表情を引き締め仲間の四人を見ると、
「再会の挨拶は後にしましょう!そっちは任せたわよ!!みんな、一気に決めるわよ!!」
「「「「YES!!」」」」
「我らがマスター!ダーククイーン・・・私達に力をお貸し下さい!!」
目を瞑り精神を集中するダークプリキュア5の心に、気高き声が聞こえてくる。
(親愛なるダークプリキュア5!例え離れていようと、あなた方の声は私に聞こえています!!さあ、あなた方に力を授けましょう・・・)
ダークプリキュア5の頭上が輝くと、五人の手にフルーレが装着される。五人は軽くフルーレを振ると、
「5つの闇に!」
「「「「希望を乗せて!」」」」
「「「「「プリキュア!ダーク・ローズ・エクスプロージョン!!」」」」」
五人から放たれた黒い薔薇が合わさり、巨大な黒薔薇が、ゴーレムの群れを次々飲み込み闇に返した・・・
トランクィッロは呆然とした・・・
あの大部隊をたった7人で壊滅され、そして自身の最強の技、エクサ・ブリザードをまともに食らった筈が、再び立ち塞がるブラックとホワイトの姿が信じられなかった。
「何故だ!?何故俺の技を食らいながら・・・おのれぇぇ!もう一度食らえ!!エクサ・・・」
「遅い!!」
技を出そうとしたトランクィッロの懐に入り込んだブラックが、怒濤のパンチを繰り出す、
「ダダダダダダダダダダ!!」
ブラックのパンチの連打を食らい、無様に押されるトランクィッロだったが、辛うじて距離を取る。怒りで全身を振るわせるトランクィッロは、
「もう、もう許さねぇぇぇ!!この街事、凍り漬けぇ!!エクサ・ブリザード!!!」
「そんな事・・・させるもんかぁぁ!行くよ、ホワイト!!」
「うん!!」
ギュッと手を握り合うブラックとホワイトが叫ぶ、
「ブラック、サンダー!」
「ホワイトサンダー!」
「プリキュアの、美しき魂が!」
「邪悪な心を打ち砕く!」
「「プリキュア!マーブルスクリュー!」」
ブラックが右手に、ホワイトが左手に力を込めて一旦引いた手を前に突き出すと、
「「マックス~~!!」」
二人の必殺技、マーブルスクリューと、トランクィッロのエクサ・ブリザードが真っ向からぶつかり合う・・・
互いに渾身の力を込める両者だったが、ブラックとホワイトが押され始めるも、
「加音町はぁぁ・・・」
「私達が・・・」
「「守って見せるぅぅぅ!!」」
「「スパークゥゥゥゥ!!!」」
握り合った手と手に更なる力がこもると、スパークルブレスが激しく回転し、稲光がマーブルスクリューと交わると、オーロラを纏い一気にトランクィッロを飲み込んだ。
「バカなぁぁぁぁ!?ハウリング様ぁぁぁぁ!!!」
ブラックとホワイトは、トランクィッロを闇に返し、ダークプリキュア5一人一人と手を握り合い、再会を喜び合うのだった・・・
3、意外な結末
(これは・・・加音町に居る筈のトランクィッロの気配が・・・消えた!?)
アフロディテの表情が険しく歪む、愛する妻のそんな姿を娘のアコには見せたくは無いとばかり、隙を付いたメフィストが単身突っ込むと、一同の目の前でアフロディテに口付けをする。
「エェェ!?こ、こんな場面でぇぇぇ?」
思わず顔を赤くして激しく動揺するメロディ・・・
両手で顔を覆いながらも、バッチリすき間から見るパインとリズム・・・
あごが外れるかと思うほど口を開け驚くブルームとルージュ、そしてベリー・・・
恥ずかしそうに視線を逸らすイーグレットとルミナス・・・
何が起こったのかと呆然として途方に暮れるブライト、ウィンディ、ローズ、パッション、ビート・・・
「凄ぉぉい!!」
興奮気味に身を乗り出すドリーム、レモネード、ピーチ、ブロッサム、マリン、サンシャイン・・・
小説のネタになりそうなのか、熱心に観察するミントと、それを見て呆れるアクア・・・
「ねぇ、パパは何してるの?私も見たい!!」
「ミューズ・・・もうちょっと我慢なさい!!」
慌ててミューズの両目を隠すも、呆然とするムーンライト・・・
「成る程、メフィストは考えましたねぇ・・・愛の力ならばあるいは・・・」
「エッ!?クレッシェンドトーン・・・何時起きたの?」
何時目覚めたのか、ヒーリングチェストの中で眠りに付いていた筈のクレッシェンドトーンが目覚め、メフィストの行為を見ている事にメロディは驚くも、視線は再びメフィストとアフロディテへと向けられた。
「私達夫婦の絆は・・・貴様などに断じて負けん!アフロディテ・・・お前が好きだぁぁ!!必ず、必ず救ってやるからなぁぁ!!」
アフロディテの両目から、再び止め処なく涙が溢れ出すと、
「グゥゥゥ・・・何だ、この不快な感じは・・・これは堪らん!!」
まるで愛の力を不快に感じるように、闇がアフロディテの身体から離れ上空へと舞い上がった。
「これは・・・奴め、アフロディテから離れたのか?アフロディテ、しっかりしろ!アフロディテ!!」
メフィストの呼び掛けにより、アフロディテが目を開ける・・・
そこには愛する夫、メフィストが心配そうに覗き込んでいた。アフロディテは頬を赤らめるも、周りでプリキュア達が興味深げに見ているのに気付くと、益々真っ赤になり、
「な、何も子供達の前で・・・バカ」
恥ずかしそうに俯くアフロディテに、メフィストは満面の笑顔を浮かべ何度も頷いた。
「おのれ、メフィスト!おのれ、プリキュア共!ゆるさん・・・ゆるさんぞぉぉ!!」
上空の闇に不気味な顔が浮かび上がると、一同が上空の闇を険しい表情で見つめる。
「それはこっちのセリフだ!アフロディテを、アコを、三銃士を、そして、メイジャーランドの民を・・・この私が成敗してくれる!!」
メフィストが上空高くジャンプし、ハウリングに怒りの鉄拳を振るうも、闇を突き抜けメフィストはそのまま叫び声を上げ地上に落下する。
「あなたぁぁ!!」
慌ててアフロディテが錠盤の橋を作り、メフィストが地上に落下するのを防ぐ、
「よくもパパを・・・プリキュア!スパークリング・シャワー!!」
ミューズの光のシャワーが、ハウリングに炸裂するも、ハウリングにさしたるダメージは与えられない。
「その程度の力で俺様を倒せると思っているのか?」
ハウリングがミューズの攻撃を嘲笑するのを受け、
「一人が駄目なら、二人!二人が駄目なら・・・行くよ!みんな!!」
ドリームの指示を受け、ハウリング目掛け攻撃を開始する一同、
ウィンディの突風が、ブライトの光の光球が、ハウリング目掛け飛ぶ・・・
ルージュ、アクアのファイヤーストライクとサファイアアローが・・・
ブロッサム、マリン、ムーンライトのフォルテウェイブとサンシャインのフォルテバーストが・・・
ピーチ、ベリー、パインのトリプルフレッシュとパッションのハピネスハリケーンが・・・
ブルーム、イーグレットのスパイラルハートスプラッシュが・・・
そして、ドリームのシューティングスターがハウリング目掛け飛ぶ・・・
「ミューズ、一緒に戦おう!」
「うん」
「「「「出でよ、全ての音の源よ!」」」」
フェアリートーン達の力を受け、クレッシェンドトーンを召喚した一同は、
「「「「届けましょう、希望のシンフォニー!!プリキュア!スイートセッション・アンサンブル・クレッシェンド!!!!」」」」
両腕をクロスした四人が、クレッシェンドトーンの金色の光の炎と一体化し、ハウリング目掛け突撃した・・・
「グゥゥオォォォォ!!おのれ、おのれぇ、プリキュア共・・・この俺様を・・・この俺様を、本当に怒らせたなぁぁ!!!」
闇はグルグル高速に回転すると、実体化しだした・・・
どこか狼を連想させる金色の髪をした紫色の魔獣・・・
「プリキュア達のあれだけの攻撃を受けて、あいつはまだ動けるのか?」
「ええ、しかも、実体化した事で、今までのダメージが消えています・・・逆にプリキュア達の疲労は・・・」
メフィストが、アフロディテが、激しく呼吸するプリキュア達を不安そうに見つめた。
「ゼタ・ファイヤー!!」
猛烈な炎がプリキュア達を襲った・・・
それは、シャープが放ったメガ・ファイヤーなど、比べものに成らない威力を持っていた・・・
咄嗟にミント、サンシャイン、ビートが、エメラルドソーサー、サンシャインイージス、ビートバリアを張るも、呆気なく破られプリキュア達は大ダメージを受ける。
「ゼタ・サンダー!!」
ナチュラルが放った、ギガ・サンダーの数倍の威力を誇る、紫色の雷が一同を襲うも、ルミナスが力を解放し、強烈なバリアーを張りハウリングの攻撃を押し返した・・・
「こ、これ以上・・・みんなを傷付けさせない!!」
「ありがとう、ルミナス!みんな、まだ行けるよね?」
苦しいながらも笑みを浮かべ一同に問い掛けるドリームに、他のプリキュア達がもちろんと答える。その時、ミューズは何かを発見し、顔色を変え駆け出した。
「ミューズ、どうしたの?」
「あそこに、あそこに、何かが居るの!あれは・・・鳥!?」
メロディの問い掛けに、ミューズは鳥らしき者を見掛け走り出した。ミューズは、パタパタ跳ね回るシロップぐらいの大きさの鳥を見付け、保護をすると、その鳥は翼を少し怪我しているようであった。ミューズは鳥を抱え一同の下に戻って来ると、それを見たハウリングの顔色が変わった。
(あれは、まさか!?・・・そうか!!)
ハウリングは何かに気付き頷くと、
「プリキュア共、決着は暫し預けてやる!次に会う時こそ・・・貴様らの最期だ!!」
ハウリングはそう言い残すと、メイジャーランドより撤退した・・・
プリキュア達は、呆然とハウリングが消えた場所を見つめた・・・
「奴め、どういうつもりだ?」
「ええ、あの者にはまだ与力があった筈なのに・・・」
「だが、石化せずに居たメイジャーランドの民が居たのは不幸中の幸いだな」
「そうね・・・」
メフィストとアフロディテは、ミューズが抱いている鳥を見つめた・・・
「はい、怪我は大した事無いわ!少し安静にすれば直ぐに飛べるようになるわ!」
「ありがとう、パイン!良かったねぇ、ピーちゃん!!」
「ピィィ!」
パインが応急処置をし、ミューズが安心した顔で鳥をあやすと、鳥は嬉しそうにミューズの周りを歩き続けていた。
「へえ、何かこの鳥・・・シロップに似てない?」
「本当、もしかして兄弟だったりして?」
「何処がロプ!シロップはこんなに不細工じゃないロプ!!」
ブルームとピーチの言葉を聞き、シロップはムッとしてそっぽを向くと、一同から笑い声が漏れた・・・
「我々はメイジャーランドに残る!石にされた民を、このまま置き去りには出きんからな!!」
「ハミィ!セイレーン!そして、プリキュアのみなさん、アコをお願いします!!」
「パパ、ママ・・・行ってきます!必ず残りの音符を手に入れて、ハウリングから音符を取返すから・・・」
ピーちゃんと名付けた鳥を抱いたアコが、固く決意を二人に語ると、二人も頷き返した。メフィストとアフロディテが、共同で錠盤の橋を作り上げ、一同が加音町へと戻って行く姿に、アフロディテとメフィストは手を振り続け見送った。
(バスドラ、バリトン、ファルセット・・・ゴメンね!もう少し待ってて!必ず、必ず救うから!!)
エレンは心の中で三人に詫び、一同は後ろ髪惹かれる思いながらメイジャーランドを後にした・・・
第三十四話:ハウリング
完