第三十話:その名はビート!(後編)
ハミィを猫質に取り、メロディとリズムを追い詰めるトリオ・ザ・マイナーであったが、バスドラは、助けに現われたベリーをビートだと思い込むも、何処か違和感を感じていた・・・
「おい、バリトン!ファルセット!セイレーンがプリキュアになった姿って・・・あんな感じだったか?」
何やら三文芝居を見せられているようなバスドラは、首を捻りながらバリトン、ファルセットに問いかけると、聞かれた二人も、改めてベリーをジィと見て微妙な表情で首を傾げた。まだセイレーンがプリキュアになってから日が浅く、二人もそこまでハッキリとは覚えては居なかった。
「さあ!?あんな感じだったような、違うような?」
「ですよねぇ・・・でも、どっちでも良いじゃないですか?こっちが優勢なのは変わらないんですから!!」
バリトンとファルセットの言葉を聞き、バスドラは、確かに今は自分達の方が優位に立っているのを思い出し、
「それもそうだな・・・やい、セイレーン!俺様に逆らうとどうなるか教えてやる。お前が抵抗すれば、この人・・・いや、猫質がどうなるか分かって居るな?ネガトーン、中々現われなかった見せしめに、そいつもそっちの二人と同じ目に合わせてやれ!!」
網に捕らえたハミィを振り回し、ネガトーンに指示を出したバスドラだったが、腰のリボンを靡かせながら、疾風のようにビートが現われ、バスドラの頭を踏みつけると、思わず手を放したバスドラから、ハミィを見事に救出する。ビートは網からハミィを救い出すと、ニッコリ笑みを浮かべた。救われたハミィは、嬉しそうにビートの顔を見ると、
「セイレーン!・・・アッ、今はキュアビートだったニャ!ありがとニャ!!」
「ううん、私の方こそ巻き添えにしてゴメンね・・・ハミィ!!それに、助けに来たのは、私だけじゃないのよ?」
ビートはそう言うとハミィにウインクし、ビートの言葉にエッと嬉しそうな表情になるハミィであった。
「な、何ぃ!?何故此処にセイレーンが?じゃあ、あいつは一体!?」
「残念だったわね!ベリーは囮よ!!」
「何だとぉぉぉ!?」
向こうに居る筈のビートが現われ、驚愕するバスドラに、ピーチの声が追い打ちを掛ける。ピーチ達、ブルーム達、ドリーム達、ブロッサム達、次々に姿を現わすプリキュア達が、トリオ・ザ・マイナーとネガトーンを包囲する。キョロキョロ周りを見渡した三人の顔から、脂汗が滴り落ちた。プリキュア達の人数に圧倒されるトリオ・ザ・マイナーだった・・・
「お、おのれ、何て数だ!?」
「だから、私をリーダーにすれば良かったのに・・・」
「何だとぉぉ!?リーダーは俺様だ!!」
「二人共、今はそんな事してる場合じゃないですよぉぉぉ!」
不利な状況になり、仲間割れをし始めるバスドラとバリトン、ファルセットは包囲しているプリキュア達を見て及び腰だった。
「皆さん、プリキュアが来てくれました!」
「こちらに避難して下さい!!」
「慌てなくても大丈夫ですよ!!」
ゆり、なぎさ、ほのかが、少し回復した人々を誘導して避難させる。それに気付いたバスドラが、慌ててネガトーンに指示を出し攻撃するも、なぎさ達の護衛に来ていたルミナスが立ち塞がり、バリアでネガトーンの攻撃を完全に防いだ。思わず口を開けて放心するバスドラとネガトーン、動揺したネガトーンの隙を、ウィンディは見逃さず、
「風よ!吹き荒れよ!!」
ウィンディがお返しとばかりに、強烈な突風をネガトーンに浴びせて、トリオ・ザ・マイナーの側に、ネガトーンを吹き飛ばすと、三人は思わず上空から落ちてくるネガトーンを見て仰け反り、何とかネガトーンの下敷きになるのを免れた。
「ミューズ、どうやら加勢は必要無いみたいドド」
プリキュアが優勢になったのを、民家の屋根から見ていた覆面の戦士キュアミューズは、踵を返すと、マントを翻しながら、無言のまま何処かへ消え去って行った・・・
加勢に来てくれた他のプリキュア達の勇姿に、自然と顔が綻ぶメロディとリズム、側に駆け寄ったベリーに、メロディはニコッと笑みを浮かべると、
「ベリー!みんなも、ありがとう!よくも散々私達をいたぶってくれたわね!!」
「タップリお返しさせてもらうわよ!!」
「ここからは、あたしも参加するわよ!」
ベリー、そしてメロディとリズムも加わり、プリキュアフルボッコタイムが開始された・・・
先陣を切ったのはキュアビート、ハミィを猫質に取った恨みとばかり、
「バスドラ、よくもハミィを・・・タァァ!!」
ビートの俊敏で鮮やかな攻撃が、バスドラに降り注ぐ、パンチの連打を受け、前のめりになったバスドラを、回し蹴りで吹き飛ばしたビートは、直ぐにネガトーンに向き直ると、助走を付けてジャンプし、空中からパンチの連打を食らわした。ジャンプしたメロディとリズムが、上空からスイートハーモニーキックで追い打ちを浴びせ、再びビートの連続攻撃の連携に為す術もなくなり、ネガトーンの動きが弱まった。
それを見たビートが勝負に出た!
「弾き鳴らせ、愛の魂!ラブギターロッド!」
ビートがアイテムであるラブギターロッドを取り出すと、
「おいで、ソリー!」
フェアリートーンの内ソリーを呼ぶと、ラブギターロッドに装着される。
「チェンジ!ソウルロッド!」
そして、ラブギターロッドからソウルロッドへと変化する。
「駆け巡れ、トーンのリング!プリキュア!ハートフルビート・ロック!!」
トーンのリングをセットし、ソウルロッドのトリガーを引くと、ソウルロッドから勢いよくネガトーン向けて射出されたトーンのリングが、ネガトーンを捕らえた。
「フィナーレ!!」
ビートの合図と共に爆発が起こり、ネガトーンは浄化され、音符と風鈴の姿に戻った。更に振り向いたビートが、険しい顔でトリオ・ザ・マイナーを睨み付けると、三人は思わずドキッとした表情を浮かべる。リーダーとしては、二人に無様な姿は見せられないと感じたバスドラは、
「な、何だセイレーン!?俺様に向かってその生意気な顔は?」
「あんたはデカイ顔でしょうが!行くよ、ブロッサム、サンシャイン!」
「「「プリキュア、トリプルインパクト!!」」」
マリンの合図と共に、バスドラ目掛け三人の合体技が炸裂すると、バスドラは目が飛び出るかと思うほどの衝撃を受け、巨体が宙に浮いて吹き飛び、フレッシュ組がバリトンを、プリキュア5とローズがファルセットを攻撃する。
「ちょ、ちょっと待て!リーダーはあいつだぁ!!」
「そ、そうです!僕達は、リーダーのバスドラの命令を聞いただけで・・・」
「アァ!?狡いぞ、お前らぁぁ?」
二人はフルボッコにされながらも、リーダーはあいつですとバスドラを指さした。呆れながらもSS組がバスドラに追い打ち攻撃を掛けると、追い詰められた三人は、益々言い合いを始め、責任を擦り付けあい、プリキュア達はそんな三人を見て思わず唖然とする。
プリキュア達に隙が出来たのを見た三人は、
「此処は何時ものように・・・」
「この状況じゃしょうがない・・・」
「お前達・・・」
「「「オ・ボ・エ・テ・イ・ロ・ヨォォ!!!」」」
ハモらせながら、この場から逃げ出すトリオ・ザ・マイナーに、益々呆然とするプリキュア達であった・・・
「みんな、お疲れ様!」
「美希、中々良い作戦だったわよ!」
なぎさ達が戻って来て一同を称え、作戦の立案者美希を、ほのかとなぎさが褒め称える。
「まあ、あたし、完璧ですから!」
腰に手を当て、得意気にする美希に、エレンは些(いささ)か不満気な視線を向けると、
「でも私、あんな変な笑い方しないからね!」
美希を見て少し膨れっ面になるエレンを見て、一同から笑みがこぼれる。笑い声が収まると、響と奏が一同に謝り始めた。
「みんな、私達から会いたいって言ったのに・・・ゴメンね!」
「本当にすいませんでした・・・」
「ううん、この状況じゃ仕方ないわ!」
「それに、こうして無事エレンさんにも会えたんだし!!」
謝る響と奏を制止して、ほのかと祈里がフォローすると一同も同意する。
「じゃあ、遅くなったけど、これからナッツハウスで、エレンの歓迎会を始めましょう!!」
「賛成!!!!」
なぎさの提案に賛成する一同だった・・・
せつなのアカルンの力で、再びナッツハウスに戻った一同は、料理作りに、デザート作りに、盛り上がった。一方妖精達は、テラスに出て料理の出来上がりを待っていた。話の中心には、セイレーンと仲直りする事が出来たハミィが居た。
「ハミィ、セイレーンと仲直り出来て良かったミポ」
「セイレーンも、すっかりなぎさ達と打ち解けたようで安心メポ」
ミップルとメップルも、仲直りしたハミィとセイレーンの関係を、自分の事のように喜んでいた。ハミィも嬉しそうに、心配してくれて居た妖精達に感謝するのだった。
「みんな、ありがとニャ!でも、ハミィとセイレーンは昔から仲良しだったニャ!!これで、ハミィの夢がまた一歩近づいたニャ!!」
「夢・・・ラピ?」
「ぜひ、聞かせて欲しいココ!」
フラッピとチョッピに聞かれたハミィが目を瞑ると、
「バロムとの戦いの時、ハミィはセイレーンと一緒に歌えて、凄く、凄く嬉しかったニャ!今度はセイレーンと一緒に、幸せのメロディを歌って、みんなを幸せにするのが、ハミィの夢ニャ!!」
ハミィはその日の場面を思い描いて、満面の笑みを浮かべた。そんなハミィを見た妖精達の顔も、自然と笑顔が溢れていた。
「ハミィ!みんな!奏達が、デザート出来たからおいでだって!みんなにも色々心配掛けてゴメンね!」
妖精達を呼びに来たエレンは、心配してくれていた妖精達にも謝った。そんなエレンに、妖精達は皆優しい言葉を掛けるのだった。
和やかな食事会も終わり、片付けも大方終わらせ一段落すると、なぎさはラブを手招きし、
「ラブ、頼んでいた物、出来たかな?」
「まっかせて下さい!お父さんの会社が、精魂込めて作りましたから!!」
なぎさに言われたラブが、紙袋から何か取り出すと、一同の目が点になる。ラブが取り出したのは、黒髪のかつらだったのだから・・・
「か、かつら!?」
「なぎさ・・・かつら何て何に使うの?」
ほのかは思わず目を点にし、なぎさが何を考えているか分からず、思わずゆりが問いかけると、
「フフフ、付け髭もあるよ!さて、今年は電力不足でこの夏の暑さも大変な状況ですが、こんな時こそ・・・心の底から冷たくなろうよって言う事で・・・ジャ~ン!!」
かつらと付けヒゲを付けたなぎさの姿に一同が笑いだす、なぎさも口元に笑みを浮かべながら、
「いや、笑うんじゃなくて、怖がって貰わなきゃ・・・はい、皆さん稲川なぎさです!!」
「アハハハ!何それぇぇ!!」
ホラー話で有名な、稲川淳二のマネで怪談を話だすなぎさを見て、えりかがお腹を抱えて笑いだすも、なぎさの行動を見たりんが慌てて遮ると、
「ま、またそれですかぁぁぁ!?この間、ダークプリキュア5の壮行会でもやったじゃないですかぁ?」
ビビリ顔のりんがなぎさに抗議するも、なぎさは口元にニヤリと笑みを浮かべ、怪談を続けた・・・
なぎさは、ひかりも世話になっている、藤田アカネから大量に怪談を仕入れたようで、ノリノリで怪談を続けた。こまちも加わり、二人は楽しそうに怪談話を一同に聞かせ続けた・・・
「ハ、ハミィ、怖そうにしてるわね!?しょうがない、私が抱っこしてあげるわ」
怪談話を聞かされる度に、顔色が悪くなっていくエレンは、怪談よりデザートを食べまくっていたハミィを、震える手で抱き上げると、引き攣りながら怪談を聞いていた。時にはハミィの両手を使って自分の耳を塞ぐ行為に、
「セイレーン・・・顔色が悪いニャ!そう言えば、セイレーンは怖い話や・・・・・」
「ワァァァ!やかましいわ!やかましいわ!やかましいわ!こ、怖く何てないわよ!」
ハミィの言葉を、大声で引き攣りながら否定するエレンを見たりんは、涙目になりながら、仲間が居たと引き攣った笑みを浮かべると、エレンもそんなリンを見ると、仲間が居たと、引き攣った笑みを浮かべ返し、思わず二人はホッと安堵するのだった・・・
そんなりんとエレンを見て、なぎさは不気味な笑みを浮かべると、突然真顔でエレンを指差し、
「あれぇ!?エレンの後ろに、白い服を着た女の人が・・・」
「「ギャァァァ!!」」
エレンとりんが絶叫し、その声に、咲と舞、のぞみ、うらら、かれん、ラブと美希、つぼみとえりかも驚き騒ぎ始める。エレンは、ハミィを潰れそうなくらい抱きしめ震え出すと、それを見たほのかは、表情を曇らせながらなぎさを肘で突っつき
「なぎさ、質悪いよ!ゴメンなさいね、エレンさん!」
「ゴメンゴメン!そこまで怖がるとは・・・」
「覚えてなさいよぉぉ!!」
ほのかが暴露して、なぎさが言った事が嘘だと分かったエレンは、涙目になりながら、なぎさを見つめて抗議するのだった。
そうは言っても、エレンにも、なぎさが自分を仲間の輪に入りやすくする為、こんな行動をしているだろう事は分っていた。改めて仲間達を見渡したエレンは、
「みんなと初めて会った時は、こんな風になるなんて想像出来なかった・・・でも私は、またハミィと一緒に居れて、響と奏に会えて、そして、プリキュアになれて・・・本当に良かった!みんなとこうして仲良く慣れたから・・・みんな、今日はありがとう!これからもよろしくね!!」
「こちらこそ!!!」
エレンの挨拶に、盛大な歓声で答える23人の少女達だった・・・
24人の少女達は、新しき仲間を加え、思い思い語らい続けて居た・・・
時間を忘れながら・・・
第五章:新たなる戦士
完結