第三話:新たなる力の目覚め!
1、
日向咲と美翔舞は、大空の樹の前に座っていた。巨大な樹は、彼女達の出会いを与えた切っ掛けでもあり、彼女達の憩いの場でもあった。ここから見える景色が大好きだった。だが、今の彼女達にとって、ここから見える景色は、深い悲しみを味合わせるだけであった。何故なら、此処から見える景色は、一面の砂漠なのだから・・・
「こんな事って・・・昨日まで楽しいクリスマスだったのに」
「うん、たった一日でこんな風になっちゃう何て・・・私も咲と同じ、信じられないし、信じたくない!」
咲と舞はこの時中学三年、ダークフォールとの激しい戦いも終わり、普通の中学生として暮らしてきた。中学三年の咲と舞に取って、この時期は高校受験という大事な時でもある。クリスマスという一時の安らぎを得た後は、舞、そして、霧生満、霧生薫と一緒に、猛勉強に明け暮れる計画だった。
だが、それも一日にして、非現実的な世界へと叩き落とされた。咲達の住むこの街も、なぎさ達と同じように砂漠化し、人々は結晶化していた。そう、二人にとって大切な家族さえ・・・
ただ一匹、無事だった飼い猫コロネを抱き、ポロポロ咲は泣き続ける。
無事だったコロネを抱いて、変わり果てた我が家、ベーカリーPANPAKAパンの前で、呆然とした咲だったが、大空の樹の前に行けば、きっと舞達に会えると信じ、此処で無事だった舞と会った。出会えた喜びも半減、二人は此処で絶望的な景色を眺め泣いた。
「咲~!舞~!」
突然名前を呼ばれ、驚いた二人が下を見ると、満と薫が手を振りながら登ってきた。
「満!」
「薫さん!」
二人の無事な姿を見て、涙を手で拭き、咲と舞は心底喜んだ。
「此処に来れば会えると思った!」
「咲、みのりちゃんは!?」
薫の問いかけに、咲は無言で首を振るのを見て、満と薫は瞬時に理解する。
「私達は、ここに来る前に街を調べてきた!」
「街の至る所に、巨大な足跡が残っていたわ!」
満と薫の話は大体こうだった・・・
二人も目が覚めた時、周りが砂漠化していて驚いた。冷静な彼女達は、どうして一昼夜でこのような姿になったのか、その原因を調べる為街を探索した。街の中は完全に砂漠化し、人々は結晶化していた。二人は、結晶化している人々を注意深く調べると、生体反応はあるように感じ、おそらく結晶の中で、仮死状態にあるのではないかと推測した。更に詳しく街を観察すると、巨大な足跡がそこら中にある事が分った。
「じゃあ、その巨大な何かがこんな風に・・・」
咲の問いかけに満は頷き、
「おそらく・・・私達が調べた限りでは、まだ此処までしか分らない」
四人は改めて眼下の砂漠化した景色を眺めた。
(許せない、この素晴らしい街を、海を、人々を・・・)
咲の心に、沸々と怒りが沸き上がる。その時、大空の樹が発光したかと思うと、中から大事な仲間、フラッピ、チョッピ、ムープ、フープが姿を現わす!思わず咲達四人はそれぞれ仲が良かった妖精達の名を呼ぶ!それに気付き、妖精達も嬉しそうにしていた。
「咲!舞!満に薫も・・・緑の郷に来ていきなり咲達に出会えるとはラッキーラピ!」
「咲、舞、緑の郷に危機が迫ってるから、力になって欲しいとフィーリア王女が言ってたチョピ・・・」
妖精達は眼下の景色を見て、見る見る表情が曇ってくる。
「ムープ達、間に合わなかったムプ・・・」
「フープ達、役に立てなかったププ・・・」
満と薫の周りで漂っていたムープとフープが、悲しそうに言うのを、
「ううん、そんな事ない!みんなが来てくれただけでも、私達元気を貰えたよ!ね、舞!!」
「うん、ありがとう!でも、フィーリア王女は他に何か言ってなかった?」
舞がフラッピとチョッピを見て聞くと、
「う~ん、詳しくはフィーリア王女にも分らなかったみたいラピ・・・ただ、必ずプリキュアの力が必要になるから、咲と舞の力になってくれって頼まれて・・・」
「それでチョッピ達は、緑の郷に来たチョピ」
その時、巨大な地響きが、眼下から近づいてくるのを一同は感じ、目を懲らしてよく見て見ると、そこにはデザートデビルが、まるで獲物を見付けたかのように、大空の樹に近づいて来ようとしていた。
「な、何なのあれ?あれが満と薫が言ってた、足跡の正体じゃ!?」
「た、多分そうよ!まさか、大空の樹も砂漠にしようとしているんじゃ!?」
「そんな事絶対にさせない!舞、変身よ!!」
「うん!」
フラッピとチョッピが、クリスタルコミューンに変化する。それを受け取った咲と舞が、先端のクリスタルを回し、手と手を繋いで同時に叫ぶ!
「「デュアル・スピリチュアル・パワー!!」」
二人の身体を光が包み込み、咲と舞をプリキュアへと変えていく!
「花開け、大地に!」
「羽ばたけ、空に!」
二人の姿が完全にプリキュアへと変化する。
「輝く金の花!キュアブルーム!!」
「きらめく銀の翼!キュアイーグレット!!」
「「ふたりはプリキュア!!」」
「聖なる泉を汚す者よ!」
「アコギな真似は、お止めなさい!」
ブルームとイーグレットは、満と薫にムープとフープ、コロネの事を頼み、一瞬足下に力を溜めると、一気にデザートデビルに向かい飛翔する。咲のペットコロネは、飛び立つ二人を心配そうに見つめるのだった。
上空から飛んでくる二人のプリキュアに対し、デザートデビルは、両肩の蛇を徘徊させ、プリキュアを威嚇する。二人のプリキュアは、華麗に攻撃をかいくぐり、デザートデビルの懐に飛び込み攻撃する。
「タァァァ!!」
「ハァァァァ!!」
ブルームが連続でパンチを浴びせれば、イーグレットは蹴りを主体に攻め込むが、二人の攻撃にも、全くデザートデビルは怯まない。逆に二人は、デザートデビルの攻撃を受け吹き飛ばされる。何とか空中で体制を立て直し着地するも、受けたダメージはかなりのようでよろめく・・・
「こんな所で・・・負けない!負けられない!!」
「ええ、これ以上好きにはさせない!」
ブルームとイーグレットが見つめ合い頷く、互いに手を握り叫ぶ!
「大地の精霊よ!」
「大空の精霊よ!」
二人の身体に、精霊の力が集結する。
「今、プリキュアと共に!」
「奇跡の力を解き放て!!」
「「プリキュア!ツイン・ストリーム・・・」」
「「スプラァァシュ!!!」」
強烈な精霊の力が解き放たれて、デザートデビル目掛け炸裂する。だが、デザートデビルは両手をクロスさせ耐えると、二人の攻撃を両手で弾き飛ばし打ち消すと、物凄い咆哮を上げた。
「そんな、私達の攻撃を・・・」
「掻き消す何て!?」
驚嘆の表情を見せるブルームとイーグレットを尻目に、デザートデビルが凄まじい攻撃を繰り出す。二人はバリアを張り、必死に堪える。だが、徐々にバリアに亀裂が走った。
それを大空の樹から見つめて居た満と薫は、
「このままじゃ、ブルームとイーグレットが・・・」
「私達に力があれば・・・」
ゴーヤーンとの決戦後、精霊の力を受けて甦った二人には、嘗てのような闇の力は残っていなかった。今の彼女達は、プリキュアの勝利を信じ、見ているしか出来ないと思われた・・・
だが・・・
「プリキュアが危ないムプ・・・」
「満、薫、プリキュアを助けてププ」
「変身するムプ!!」
「月の力!!」
「風の力!!」
「我らに力を!!!」
ムープとフープが、それぞれクリスタルコミューンに変化する。驚いた満と薫が思わず呟く、
「あ、あなた達・・・」
「その姿は!?・・」
ムープとフープも、自分達を可愛がってくれる満と薫の役に立ちたいと、常日頃考えていた。ゴーヤーンとの最終決戦時に、自分達にもフラッピやチョッピ達と同じような力が使えると悟る。フィーリア王女の助けもあり、ムープとフープは、それぞれブライト、ウィンディの守護妖精へと覚醒したのだった。
満の手にムープが、薫の手にフープが握られる。
「私達もプリキュアに!?」
「咲と舞を救えるなら・・・喜んで私はプリキュアになる!」
満と薫が頷きあい、先端のクリスタルを回し、手を握りあい叫ぶ
「「デュアル・スピリチュアル・パワー!!」」
先程の咲と舞のように、二人の身体を光が覆い、満と薫をプリキュアへと変えていく、満の髪は更にボリュームを増し、両肩辺りで左右に跳ね、薫の髪は、ポニーテイルのように束ねられた。
「未来を照らし!」
「勇気を運べ!」
二人の姿が完全にプリキュアへと変化する。
「天空に満ちる月!キュアブライト!!」
「大地に薫る風!キュアウィンディ!!」
「「ふたりはプリキュア!!!」」
「聖なる泉を汚す者よ!」
「アコギな真似は、お止めなさい!」
ブライトとウィンディが見つめ合い、頷きあうと、
「コロネ、私達はブルームとイーグレットを助けに行くわ!」
「此処で大人しく待っていて!必ず二人を助けるから!!」
コロネは低い声でニャと声を出すと、ブライトとウィンディは、足下に精霊の力を蓄えると、苦戦しているブルームとイーグレットの側に一気に飛翔した!!
2、
デザートデビルに苦戦していたブルームとイーグレットの側に、ブライトとなった満と、ウィンディとなった薫が駆けつけた。
「満、その姿!?」
「薫さん、あなた達・・・プリキュアになったのね!」
ブルームとイーグレットの問いに、二人は頷き、四人は笑みを浮かべた。
「よっしゃぁ、私達四人の力、見せつけてやろう!!」
ブルームの合図と共に、四人のプリキュアが四方に散る。戸惑うデザートデビルは、蛇を使って四人を威嚇しようとするも、
「風よ!!」
ウィンディから放たれた強烈な突風が、蛇を切り刻み、デザートデビルは苦悶する。
「光よ!」
ブライトから目映い閃光弾が照射され、デザートデビルがよろめく、その隙を逃さず、ブルームとイーグレットが懐に飛び込み、怒濤の連続攻撃を繰り出すと、さしもの巨大なデザートデビルも転倒する。四人が見つめ合い、大きく頷きあうと、ブルームとイーグレット、ブライトとウィンディがそれぞれ手を繋ぎ、
「「精霊の光よ!命の輝きよ!」」
イーグレットとウィンディが同時に叫び、
「「希望へ導け!二つの心!」」
それに応えるように、ブルームとブライトが同時に叫ぶ!
「「プリキュア!スパイラル・ハート・・・」」
「「プリキュア!スパイラル・スター・・・」」
精霊の力を凝縮させた、四人のプリキュアが同時に放つ!
「「「「スプラ~~ッシュ!!!」」」」
四人のプリキュアから放たれた、強烈な同時攻撃を前にしては、デザートデビルは為す術もなく消滅した。
「四人揃えば楽勝ナリ!」
「もう、ブルームたら調子に乗るんだから・・・ウフフ」
ニッコリ笑みを浮かべながらのブルームの言葉に、イーグレットも思わず微笑むが、
「まだ油断するなラピ・・・邪悪な気配は、まだ漂ってるラピ」
フラッピの言葉を受け、四人に再び緊張が走る。四人のプリキュアが戦っていた反対側に遠巻きながら新たなるデザートデビルのシルエットが見える。
「全く、まだ居るの?もういい加減にして欲しいよ・・・行こう、みんな!!」
四人のプリキュアが、足下に力を溜め飛翔し、新たなるデザートデビルの側に近寄ろうとした時、デザートデビルの身体が消滅した。思わず立ち止まった四人は、状況が掴めず呆然とする。それを見たフラッピは目を輝かしながら、
「もしかすると、フィーリア王女の言ってた・・・ブルーム、みんな、あいつが居た側に行くラピ!」
「フラッピ、何か知ってるの?どういう事!?」
「行けば分かるラピ!」
ブルームは膨れ面をしながらも、他の三人と共に、デザートデビルの居た場所に到達すると、そこには三人のシルエットが見えた。向こうの三人もこっちに気づいたようで、手を振っているのが四人にも分った。ブルーム達が地上に降りると、そこに居たのは、キュアブラック、キュアホワイト、シャイニールミナスの三人であった。
(何だろう、初めて会うのに、何か懐かしい感じがする・・・)
ブルームの思いは、他のプリキュア達も同じ風に思えていた。
(この娘達、何か私やホワイトに似てるなぁ・・・)
ブラックは思わずクスリと微笑むと、
「初めまして!私はキュアブラック!」
「私はキュアホワイト!」
「私はシャイニールミナスです!」
ブラック、ホワイト、ルミナスが四人に自己紹介をする。慌ててブルーム達も自己紹介をして、二組のプリキュアは互いの交流をした。打ち解けた四人は変身を解き、素顔の自己紹介も始めた。
ほのかは、クイーンが言っていた通り、自分達以外にもプリキュアが居た事に驚きつつも、
「やっぱりあなた達もプリキュアだったのね?クイーンが言った通りだわ!!」
「クイーン・・・ですか?」
聞き慣れない言葉を聞き、咲が思わずほのかの言葉を繰り返した。メップルも頷き、
「そうメポ!メップル達の光の園を治める女王メポ!この世界には、何か憎しみの力が蔓延してるそうメポ」
「それを打ち消すには、プリキュアの力が不可欠ミポ・・・力を貸して欲しいミポ」
ミップル、メップルの話を聞いていたフラッピとチョッピも会話に加わる。
「君達は光の園の住人だったラピ・・・噂には聞いてたラピ」
「チョッピ達は、泉の郷の住人チョピ」
妖精達も打ち解けたようで、なぎさも一安心して本題に入った。
「で、咲さん達にお願いがあるんだけど、プリキュアとして、私達と一緒にあいつらと戦ってくれないかしら?私達と同じように、この世界を守ってるプリキュア達が、他にも居ると思うの!クイーンは言ってた・・・この世界にはプリキュアの力を必要としている人達が居るって・・・このまま砂漠化したままの状況を嘆いているより、私達の出来る事をしようと思うの・・・協力してくれないかしら?」
なぎさの話を聞いていた四人は、顔を見合わせ頷き、
「私達で出来る事なら喜んで!早くこの状況を何とかしないと、落ち落ち受験勉強も出来ませんからね!本当は、しない方が良いんだけど・・・アハハ!」
「もう、咲ったら・・・それで、なぎささん達は何処に行くんですか?」
舞の問いかけに、なぎさはエッといった表情になり、ドギマギしているのを見て、ほのかが代りに答える。
「なぎさったらもう忘れたの!?私達が戦った巨大な敵が、徐々にある一点に集結しそう何ですって、そこに行けば、地上を砂漠化した敵の目的が分るかも知れない。それに、そこに行けば、私達が出会えたように、新たなるプリキュア達とも出会えるんじゃないかと思うの」
「あっ、そうそう、流石ほのか!ね、ひかり」
いきなり話を振られたひかりは、ただ笑うしかなかった。ひかりは満と薫が気になっていた。何か自分と同じ境遇をした二人に、二人と会話をしてそれは確信に変わった。
「私と同じように、あなた方も咲さんや舞さんと出会って変われたのですね」
満と薫が頷く、咲と舞が愛するこの世界を救いたい!それは、満と薫の心からの思いだった。突然、咲が大声を出す、
「アッ!いっけない、コロネを忘れてた・・・怒ってるかなぁ、コロネ?」
「さ、さあ、大丈夫じゃないかしら?」
苦笑を浮かべながら、舞は大丈夫じゃないかと言うと、コロネと言う言葉に直ぐに反応したなぎさは、
「コロネ?私もチョココロネ大好き何だよね!」
「フフフ、なぎさは、チョコレートなら何だって好きでしょう!」
今にも涎を垂らしそうななぎさの表情を見て、苦笑混じりにほのかが突っ込みを入れる。咲も笑いながら、
「いやぁ、コロネは家で飼ってる猫の名前何ですけど・・・でも、家パン屋何ですよ!平和になったら、皆さんにも食べに来て欲しいなぁ・・・」
七人の少女達の笑い声が、辺りに響いていた。デザートデビルとの決戦を前に、少女達は一時の安らぎを得た・・・
砂漠の王デューンは、違和感を覚えていた。キュアフラワーの後を継いだ四人のプリキュア達は、今この惑星城に乗り込んで来ている。だが、地上に送り込んだデザートデビルの数が、減ったように感じたからであった。
(どういうことだ!?まあいい、まだまだこちらには沢山居るのだからな!)
デューンは、ブロッサム、マリン、サンシャイン、ムーンライト、四人のプリキュアが暮らす希望が花市に向けて、新たに数匹のデザートデビルを射出する。
「プリキュア共よ、貴様達が私の前に現われる時、それは絶望に変わるのだ!フフフ、ハハハハハ」
デューンの嘲笑が、辺りに木霊していた・・・
第三話:新たなる力の目覚め!
完