プリキュアオールスターズif   作:鳳凰009

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第十六話:不協和音

                  第十六話:不協和音

 

1、それぞれの再会

 

 5月1日朝、日向咲と美翔舞は、咲の家、ベーカリーPANPAKAパンのテラスで、浮かない表情で語り合っていた。二人が浮かない表情を浮かべているのには理由があった。大切な友達である、霧生満、霧生薫と、昨日から連絡が付かなかったのだから・・・

 

「満と薫、どうしたんだろうね?29日は四人で遊びに行ったのに、昨日から連絡取れなくなっちゃうなんてさ・・・」

 

 咲の不安そうな言葉に、舞も頷き、

 

「ええ、今日は4人で、のぞみさん達の街に内緒で出掛けて、ビックリさせましょうって話だったものね・・・二人共、どうしちゃったんだろう?」

 

 そう言うと、二人は思わず沈黙し、何時も満と薫が座っていた席を見つめ、溜息を付いた。フラッピとチョッピも心配しているようで、不安げな表情を浮かべていた。

 

「咲、舞、何だか嫌な予感がするラピ!」

 

「ムープとフープの気配も感じないチョピ・・・」

 

 咲と舞の妖精であるフラッピとチョッピも、ムープとフープの気配が感じない事に激しく動揺する。フラッピとチョッピは顔を見合わせると、意を決したように咲と舞に話し始めた・・・

 

「咲、舞、今まで黙ってたけど、フラッピ達が緑の郷に戻って来たのには、訳があったラピ!」

 

「実はフィーリア王女が、新たなる闇の目覚めが近づいているのを感じて、チョッピ達はまた緑の郷に戻って来たチョピ」

 

 フラッピ達の話を聞き、見る見る表情が曇る咲と舞、新たなる闇の目覚め、それは満と薫、ムープ、フープが居なくなった事に関係するのだろうか?咲の心に益々不安が浮かんでくる。

 

「じゃあ、満と薫に連絡が取れないのも・・・その闇と関係があるっていうの?」

 

「それはまだ分らないラピ!でも、可能性は・・・」

 

 咲の問いかけに答えたフラッピの言葉を聞き、一同は沈黙する。例え関係があったとしても、今の咲達にはどうする事も出来なかった・・・

 

 情報が欲しい、満達に繋がる情報が・・・

 

 少し考えて居た咲は、何かを思い浮かべ、舞に話し掛ける。

 

「ねえ、舞・・・のぞみちゃん達の所に行ってみない?もしかしたら、闇について、何か手掛かりになる事があるかも知れないし・・・」

 

「そうね、ここでただ心配しているよりも、その方が何か手掛かりが掴めるかも知れないものね・・・行きましょう!のぞみさん達の所に!!」

 

 舞も咲の提案に同意するが、チョッピが先にキュアドリーム事、夢原のぞみ達に連絡してからの方がいいと進言し、咲と舞もそれに同意し、咲はのぞみの家に電話を掛けた。

 

「のぞみちゃん?あっ、ゴメン!まだ寝てた見たいね・・・アハハ」

 

 のぞみが寝ぼけながら電話に出た事で、咲は苦笑しながらのぞみに謝る。のぞみの母、夢原恵美は、既に自分の店に出掛けた後だったようで、のぞみは咲からの電話が来るまで、熟睡していたようだった。

 

「今からのぞみちゃん達の所に行こうと思ってるんだけど、良いかな?相談したい事もあるし・・・うん、舞と一緒、ううん、満と薫は・・・その事で相談したい事があるんだ!うん、じゃあ、悪いけど、りんちゃんや、かれんさん達にも知らせておいてくれるかな?うん、寝てた所ゴメンね!じゃあ、後で!」

 

 電話を切った咲は、舞の方に向き、のぞみからOKを貰った事を伝える。舞もホッと安堵すると、

 

「じゃあ、行きましょう!咲!!」

 

 咲と舞がPANPAKAパンの入り口に来た時、店の中から、母日向沙織のありがとうございましたと言う声が聞こえたかと思うと、咲の店で買ったパンの袋を持った、パーカーを着た大男と、派手な衣装を着た女の二人組と遭遇する。一瞬沈黙が流れた後、二人のカップルは、しまったと言う表情を浮かべるとそそくさと逃げ去った。

 

「ま、舞・・・今の、キントレスキーと、ハナミズターレに似てなかった?」

 

 咲の言葉が聞こえたのか、何処か不機嫌そうな表情を浮かべ、派手な衣装を着た女が戻って来ると、

 

「あんた、わざと間違えてるでしょう!!キィィ、毎度毎度、腹立つわぁ!!!」

 

 派手な衣装の女はかなりご立腹のようで、今にも咲に抗議しようとする姿に、大男が慌てて戻って来て、派手な女にパンの袋を渡すと、お姫様抱っこして言う、

 

「おい、ハニー!今は我らの存在を知られる訳にはいかんぞ?此処は撤退だ!!」

 

「誰がハニーよ、誰が・・・あんた、いい加減に覚えなさいよ!あたくしの名前は・・・」

 

 咲に名乗ろうとした女は、大男に口を塞がれ、そのまま二人は消え去った・・・

 

 呆然としていた咲と舞だが、

 

「やっぱり今の、キントレスキーとハナミズターレだよね!?」

 

「そうね・・・でも確か、ミズ・シタターレって言う名前だったと思うわ!でも、あの二人が何で此処に・・・」

 

 咲と舞は、顔を見合わせ不安げな表情になる。何故嘗て倒した筈のキントレスキー、ミズ・シタターレが此処に居たのか?あの二人の復活は、満と薫が居なくなった事に関係するのだろうか?

 

 咲と舞は、満、薫、ムープ、フープの無事を祈りつつ、のぞみ達の住む街へと出掛けて行った・・・

 

 

 

 花咲つぼみ、来海えりか、明堂院いつきの三人は、つぼみの祖母、花咲薫子が所長を務める植物園の中で、今後の行動に付いて話し合っていた。

 

「昨日のゆりさんからの電話によれば、オリヴィエはもうとっくに日本に着いている筈何ですが・・・オリヴィエから何も連絡が無いのを見ると、何か遭ったんでしょうか?」

 

 つぼみが心配そうに、えりか、いつきに話し掛ける。つぼみにとって、オリヴィエは弟とも呼べる大切な存在であった。いつきも心配そうな表情で、

 

「そうだね、昨日みんなで、あれだけ探し回っても見つからなかった所を見ると、その可能性も否定出来ないね!現にゆりさんは、パリで、サラマンダーとオリヴィエを狙う何者かと抗戦したそうだし・・・」

 

 いつきもつぼみの言葉に同意し、オリヴィエの安否を気に掛けるも、えりかは、確かにそうかも知れないが、ただ道に迷って居るだけかも知れないと思うと、

 

「でもさ、迷ってるだけかも知れないじゃん・・・全く、サラマンダーの奴も、前もってあたしらに知らせとけば良いのにさ!」

 

「そうですけど・・・私、オリヴィエが心配で、心配で・・・」

 

 えりかの言葉を聞いても、つぼみの不安は消え去らず、ウズウズしたつぼみは、

 

「私、もう一度探してみます!」

 

 つぼみがもう一度探しに出掛けようとした時、側でボーと座っていた薫子の妖精コッペが、不意に丘の方を見つめた。そこは21人のプリキュア達と一緒に、元に戻ったこの希望ヶ花市を見つめた丘だった。

 

「コッペ様、何?あそこにオリヴィエが居るの!?」

 

「ほ、本当ですか、コッペ様?」

 

 えりかといつきが驚いたように丘の方を凝視する。コッペは相変わらずの無表情だったが、三人は頷き合い、念のため丘を目指して駈けだした。その後を慌てて追う三人の妖精、シプレ、コフレ、ポプリであった。

 

 その丘の上では、ゼェゼェ肩で息をする人間姿のセイレーンと、丘の上から暢気そうに眼下の希望ヶ花市を見下ろすハミィ、見晴らしの良い景色に心を奪われているオリヴィエが居た。

 

(この街につぼみ達が・・・待ってて!つぼみ達を連れて必ず助けに戻るから!!)

 

 オリヴィエは、心の中で自分を助ける為に石にされた、メロディとリズムの事を思い浮かべ、必ずつぼみ達を連れて戻ると心に秘めるのだった。そんな二人を不満げに見つめる少女、人間姿のセイレーンはムッとすると、

 

「あ、あんた達ねぇ、少しはあたしにお礼言ったらどうなのよ?誰のお陰で無事着いたと思ってんの!!」

 

「感謝してるニャ!」

 

 心が込もっているとはとても思えないハミィの言葉を聞くと、セイレーンは少しイライラした様子で、

 

「あっ、何よ、その軽い言葉?あんたねぇ、このあたしが、ここを見付けるまでに、どれだけ苦労をした事か・・・こら、ハミィ!ちゃんと人の話を聞け~~!!」

 

 マイペースなハミィと居ると、どうもペースを乱されるセイレーンであった。

 

 セイレーンの言うように、希望ヶ花市に無事辿り着けたのは、セイレーンのお手柄であった。猫のハミィが人に道を聞く訳にも、本屋で地図を、ネットカフェで調べる訳にもいかず、かといって人見知りなオリヴィエが、自ら人と接触を持つ事も無く、全て人間姿のセイレーンが調べ上げ、時には先を急ぐ為に、ハミィと怪我をしているオリヴィエを抱え走り続けた結果、無事にこの街に到着したのだから・・・

 

「もう着いたんだから、あたしは後の事は知らないからね!ああ、くたびれたわ・・・ン?」

 

 セイレーンは、丘に登ってくる三人の少女に気付き見つめる。ハミィとオリヴィエも気付き、三人の少女を振り向くと、見る見るオリヴィエの表情が明るくなって来る。

 

「つぼみ~!みんな~~!!」

 

 つぼみ達の顔を見るや、オリヴィエの表情が晴れやかになり、ハミィとセイレーンは、ようやく目的の人物と会えたのかとホッとする。

 

 つぼみ達と無事再会し、はにかみながらも笑顔で手を振り続けるオリヴィエ、

 

「見て、つぼみ!コッペ様の言う通り、オリヴィエが居た!!ありゃ!?見かけない娘が一緒だね?」

 

 えりかが後ろのセイレーンに気付き、首を捻った。セイレーンもセイレーンで、つぼみ達を見ると、首を捻りながら、

 

(この娘達がプリキュア?あんまり強そうに見えないけどね・・・)

 

 いつきは兎も角、つぼみとえりかを見てそう思うセイレーンであった。

 

「オリヴィエ、無事で何より・・・って、足に怪我してるじゃないですか!?」

 

 オロオロしたつぼみは、心配そうにオリヴィエの怪我の具合を見ると、

 

「え、あっうん・・・こんな怪我、大した事ないよ!それよりつぼみ達に頼みが・・・」

 

 オリヴィエの言葉が終わる前に、マイペースなハミィが、不意に隣で気さくにつぼみ達三人に声を掛ける。

 

「ハミィニャ!オリヴィエを連れてきたニャ!!」

 

 胸を叩き得意気にするハミィに、セイレーンがムッとしながら、

 

「連れてきたのはあたしだ~~!!」

 

 と思わず声を出すのを見たつぼみ達は、顔を見合わせ驚くと、

 

「い、今・・・その猫喋りましたよね!?」

 

「うん、猫が喋ったね」

 

 思わず顔を見合わせて呟くつぼみとえりか、ハミィはそんな事にお構いなしで自己紹介を始める。

 

「ハミィはメイジャーランドの妖精ニャ!こっちのセイレーンもそうニャ!!二人でオリヴィエを連れて来たニャ!!」

 

「だから、連れてきたのはあたし!ハァ、疲れた!」

 

 人間時の姿で居たセイレーンは、疲れたのか本体の黒猫姿に変化する。思わず変顔になったえりか、つぼみ、いつきは呆然としながら、

 

「ね、猫になった?」

 

「な、なりましたね・・・」

 

「この子達も、コッペ様や、ココやナッツ達と同じように、人型になれるのかな?」

 

 つぼみ達三人が、顔を見合わせてハミィとセイレーンを凝視する。セイレーンは、何見てるのっといった表情で三人を見返すと、つぼみは慌てて両手を振り、

 

「あっ、オリヴィエを連れて来て頂き、ありがとうございます!私は花咲つぼみと言います!」

 

「あたしは来海えりか!」

 

「僕は、明堂院いつきだよ!よろしくね!!」

 

「シプレですぅ!」

 

「コフレですっ!」

 

「ポプリでしゅ!・・・猫ちゃん、遊ぶでしゅ!!」

 

 一同がハミィとセイレーンに挨拶を交わすと、シプレ達とハミィはすっかり仲良くなって、手を取りながらはしゃぎ回っていた。

 

 暢気そうなハミィを見て、思わず溜息をつくセイレーンだったが、つぼみ達を見つめると、

 

「ねぇ、あたし疲れたから、何処かで休ませてくんない?」

 

「あっ、ハイ!じゃあ、ここから近い私のお婆ちゃんの植物園にでも行きましょう!オリヴィエも疲れたでしょう?心配してたんですよ!!」

 

 つぼみは、オリヴィエも疲れているだろうと心配するも、オリヴィエは先程話しそびれた事が気がかりだったようで、

 

「うん、色々あって・・・つぼみ、さっきの続きだけど、僕を助ける為に石にされたプリキュア達を助けて!!」

 

 オリヴィエの言葉を聞き、サッと顔色を変えるつぼみ達三人、

 

「オリヴィエを助ける為に・・・た、大変です!」

 

 大慌てでパニくるつぼみの脳裏に、プリキュア達の顔がフラッシュバックされていく、一体誰が石にされたんだろうと、悲しげな表情に変わるつぼみだった。ハミィも会話に加わると、目をウルウルさせながら、

 

「そうニャ、大変何だニャ!メロディとリズムを、助けて欲しいのにゃ・・・」

 

 ハミィの言葉を聞き、三人は思わず顔を見合わせると、首を捻るつぼみ達三人、メロディとリズム、自分達が知っているプリキュアに、そんな名前の戦士は居なかった・・・

 

「メロディ?リズム?そんなプリキュア居たの!?」

 

 えりかがハミィに聞くと、ハミィが二人のプリキュアの誕生した経緯を簡単に説明する。何となくではあるが、大体の状況を理解したつぼみ達の内、えりかは何故か嬉しそうだった。自分達が一番新参だったのが、後輩が出来たのだから・・・

 

「あたし達にも、後輩のプリキュアが出来た何てさ・・・あたし達も、遂に先輩って呼ばれる日が来ちゃったかな?」

 

「えりか、喜んでる場合じゃないと思うけどな!」

 

 いつきに注意され、思わず口を尖らせるえりかであった。つぼみはハミィを抱っこし、オリヴィエに優しく微笑み掛けると、

 

「大丈夫です!私達プリキュアが、必ずその二人を救って見せます!!」

 

 微笑みの中に、凛々しさが感じられ、思わず頼もしさを感じるハミィであった。セイレーンは不服そうに、

 

「それはいいから、誰かあたしを抱いてってよ~~!!」

 

 自分だけ蚊帳の外にされそうなセイレーンが、思わず泣き言を言い、ちょうどいい高さのえりかの頭の上に乗っかり、丸くなって一休みするセイレーンであった・・・

 

 

 

 水無月かれんは、のぞみからの連絡を聞き、集合場所であるナッツハウスの鍵を持って、先にナッツハウスに向かっていた。途中で秋元こまちと合流し、二人はナッツハウスに向かった。

 

「咲達、何か相談事があるって言っていたそうだけど、どうしたのかしら?」

 

「そうね、のぞみさんの話では、満さんと薫さんの事で話があるそうだけど・・・」

 

 かれんとこまちは、妙な胸騒ぎを覚えるのであった。最近は、他のプリキュア達と会う事も無かったが、かれんとこまちに取っても、プリキュアの絆で結ばれた仲間の相談には、出来る限り力になりたいと思っていた。

 

 しばらくしてナッツハウスに到着した二人は、店の前で倒れているミルクを見付け仰天する。思わず二人はミルクに駆け寄ると、

 

「ミ、ミルク、一体どうしたの!?・・・大変、怪我をしているわ!こまち、とにかく中にミルクを運びましょう!!」

 

「ええ、ミルクさん、しっかりして!!」

 

 かれんとこまちが、ミルクをナッツハウスの中に運ぶと、ベッドで寝かせて看病し続ける間に、他のメンバーである春日野うららが、寝ぼけ眼ののぞみを連れた夏木りんが到着するも、皆ミルクの状態を見て驚き、心配そうに見守った。

 

 りんが、うなされるミルクを心配そうに見て呟く、

 

「ココ達は一緒じゃない見たいね・・・ミルクの身に、何があったんだろう?」

 

「取り敢えず応急処置はしたわ!幸い怪我は大した事無さそうだけど、何か精神的に弱っていそうだわ・・・」

 

 かれんは、ミルクが肉体的より、精神的ダメージの方が強い事を皆に報告する。一同は、心配そうにミルクの事を見守った・・・

 

 少し経ってミルクが気付くと、ミルクは、自分を心配そうに見つめる一同の顔を見ると、涙が浮かび上がってくる。ミルクは涙を堪えると、

 

「かれん・・・みんな!良かった、みんなに会えたミル・・・みんな、パルミエ王国が襲われて、ココ様やナッツ様、それにシロップが浚われたミル!!」

 

 ミルクの言葉を聞き青ざめるのぞみ達五人、のぞみは思わずミルクに問いかける。

 

「ココやナッツが!?・・・一体誰に?」

 

「襲ってきたのは、のぞみ達が倒した筈の、ナイトメアとエターナルの奴らミル!そして、ココ様達を浚ったのは・・・裏切り者のせつな、満、薫ミル」

 

 ミルクの言葉を聞き、呆然とする一同、共にプリキュアとして戦った、せつな、満、薫が裏切ったと聞き、誰しもが信じられなかった・・・

 

「それは本当なの!?ミルクを疑う訳では無いけど、まさか・・・信じられないわ?」

 

 かれんには、あの三人が裏切ったとはとても信じられなかった。出会った期間は短いが、共にこの世界の為に戦った間柄である。それはのぞみ達も同じであった・・・

 

「ミルクだって信じたくないミル・・・でも、ミルクの目の前でせつな達がココ様達を・・・」

 

 そう言うと、ココとナッツを守れなかった事を、ミルクが悔やみ顔を俯く、かれんは少し笑みを浮かべながらミルクの身体を撫で、ミルクの気持ちを落ち着かせた。

 

 ミルクが落ち着いたのを見て、こまちは一同に自分の推察を話し出した。

 

「もし、ミルクさんの言葉が本当だとしても、きっと満さん、薫さん、せつなさんは・・・何者かに操られていると考えて良いわね!」

 

「あたしもこまちさんの説に賛成だね!のぞみ、咲や舞はこっちに向かってるんでしょう?念の為、ラブ達にも知らせた方が良いんじゃない?」

 

「そうだね・・・私、ラブちゃんに電話してくる!」

 

 りんに言われ、のぞみはラブに電話する為、部屋を出て行った。残った一同に沈黙の時が訪れる・・・

 

 

 四つ葉町、受験も終わり無事高校生となった桃園ラブは、このゴールデンウィークに行われるダンスコンテストに、蒼乃美希、山吹祈里と、ダンスユニットクローバーとして、久しぶりにエントリーしていた。今日もこれからダンスのレッスンに出掛けようとしていたラブは、携帯電話に着信があり、電話に出ると、それはのぞみからだった。

 

 のぞみから電話が掛かってきた事に、ラブは嬉しそうだった・・・

 

「あっ、のぞみちゃん、久しぶり~~!元気してた?みんなも元気かな!?こっちは、美希たんもブッキーも相変わらずだよ!・・・エッ、何?」

 

 最初は嬉しそうに話していたラブの顔色が、会話をする内に見る見る曇ってくる。険しい顔付きになったラブは、

 

「嘘・・・嘘だよ!どうして、せつなが・・・信じられないよ!エッ?操られて・・・そんな、じゃあ、のぞみちゃんも同じ風に思ってるの?・・・うん、分った!みんなとこれからナッツハウスに行くよ!!じゃあ!!!」

 

 ピッと携帯を切るラブだったが、直ぐに携帯電話が鳴った。着信者を見ず、慌てて携帯に出たラブは、電話の相手が美希と分かり、思わず先程のぞみから聞かされた話を愚痴ろうとするも、先に美希に用件を言われてしまう。

 

「エッ、ウエスターや、サウラーが!?うん、分った!今から美希たんの家に行くから!じゃあ!」

 

 携帯を切ると、ラブは大慌てで家を飛び出して行くのを、母あゆみは、首を捻りながら不思議そうな表情を浮かべていた。

 

(せつなが、甦ったノーザ達に浚われた?じゃあ、のぞみちゃんが言ってた事は本当だっていうの?・・・せつな・・・私、信じられないよ!)

 

 複雑な表情で美希の家に急ぐラブであった・・・

 

 美希の家の前で祈里と合流したラブは、美希の家に上がると、美希と、美希の母、蒼乃レミに看病されているウエスター、サウラーと再会する。二人は共に両肩を痛めたようで、両肩と胸に包帯を巻かれて、痛々しさが目に見えた。ラブは表情を曇らせながら、

 

「二人共・・・酷い怪我、ノーザ達の仕業なのね?」

 

「ええ、そうみたい!あたしも二人を見付けた時は驚いたわ・・・まさか、ノーザやクラインが復活して、しかもせつなを浚う何て・・・」

 

「せつなちゃん・・・無事だと良いけど!」

 

 美希と祈里の言葉を聞いたラブは、さっきのぞみから聞いた事を皆に話すべきか悩んでいたが、レミが席を外したのを契機に、一同に話し始める。

 

「みんな、聞いて!さっき、のぞみちゃんから電話があったの・・・その内容は、ココ達のパルミエ王国が襲われて、くるみが負傷し、しかも、ココ、ナッツ、シロップが浚われたらしいの!しかも、浚ったのは・・・せつな、満ちゃん、薫ちゃんだって言うの!!」

 

 ラブの言葉を聞き、一同に衝撃が走る。俄(にわか)には信じられる話では無かった・・・

 

「嘘でしょう?何でせつな達がココ達を浚う必要があるのよ!?ありえないわ!!」

 

 美希は少しヒステリー気味に否定するのに、ラブも頷き、

 

「うん、私もそう思う・・・でも、くるみの目の前で起こった事らしくて・・・のぞみちゃんの話では、せつな達は、誰かに操られているんじゃないかって事だけど・・・」

 

 ラブの話を聞いた一同の脳裏に、ノーザが真っ先に思いつく、ノーザならばあり得ない話ではないと・・・思わず沈黙し、皆が沈痛な面持ちになる。ウエスターは悔しそうな表情を浮かべ、拳を握ると、

 

「クッ、あの時イースを助ける事が出来れば、プリキュア達にもこんな苦しみを与えずに済んだものを・・・」

 

 ウエスターが心の底から悔しがるのを、サウラーがフォローし、

 

「あの状況では仕方あるまい・・・イースのお陰で、僕達はこうして無事だったのだからな!せめて、プリキュア達に伝えられただけでも、不幸中の幸いと思うべきだろう」

 

 そうは言いながらも、サウラーもウエスター同様、目の前でみすみすせつなを浚われた事を悔やんでいるのは明かであった。二人のそんな姿を、悲しげに見つめたラブ達だったが、

 

「美希たん、ブッキー、咲ちゃんと舞ちゃんも、ナッツハウスに向かってるそうだから、私達も合流してみよう!ミルクからもっと詳しい事聞きたいしね!」

 

「そうね、ここであれこれ考えてもしょうがないわね・・・行きましょう!!」

 

「うん、私も良いよ!」

 

 三人は頷き、一緒に行こうとするウエスターとサウラーを宥め、ラブ達はレミに二人の事を頼むと、ナッツハウスへと向かった・・・

 

 

2、口論

 

 5月1日、昼過ぎに咲と舞はナッツハウスに到着した。

 

 出迎えたのぞみ達の表情が冴えないのを見て、咲と舞は顔を見合わせ不思議そうにする。

 

「のぞみちゃん、何かあったの?何か浮かない顔してるけど?」

 

「私達で良ければ話してみて、私と咲に出来る事があるなら、力になるから!」

 

 相談に来た筈だったが、逆にのぞみ達の力になろうとする咲と舞の言葉を聞いたのぞみは、りん、うららと顔を見合わせ頷き合うと、意を決し、満と薫の事を話し始めた。

 

「二人共・・・驚かないで聞いて欲しいの!さっき、ミルクがナッツハウスの前で倒れて居たの・・・ミルクによれば、パルミエ王国が襲われて、ココ、ナッツ、シロップが浚われたそうなの!しかも、浚ったのが・・・満ちゃん、薫ちゃん、せつなちゃんだって言うの!!」

 

 のぞみの言葉を聞いた咲と舞に衝撃が走る。一昨日まで一緒に遊んでいた満と薫が、よりによって、大切な仲間のココ達を浚う何て信じられなかったし、信じたくは無かった・・・

 

「嘘・・・でしょう!?どうして満や薫、せつなが、何でパルミエ王国を襲わなきゃいけないのよ?」

 

 少し癇癪を起こしながら、咲がのぞみ達に食って掛かるのを舞が諭す。咲も言い過ぎたかと思い言葉を止めるも、その表情は険しかった。咲の気持ちはのぞみにも理解出来、なるべく刺激しないように再び話し始める。

 

「私達も、ミルクに聞いただけだから・・・私達だって信じられないよ!でも、ミルクの目の前で起こった事らしいし・・・こまちさんは、仮に本当だとしたら、三人は操られているんじゃないかって事だけど・・・」

 

 三人が操られているという言葉を聞き、咲と舞は顔を見合わせハッとし、今朝の事を思い出す。倒した筈のキントレスキー、ミズ・シタターレと出会った事を・・・

 

「ここに来る前、私達は家の前で、嘗て私達が倒した筈の敵を見掛けたの!29日には私達満と薫と一緒だったし、その時は変わった様子も無かったのを見ると・・・」

 

 咲の話の途中で、フラッピとチョッピが妖精姿になって皆の前に出て来る。会話を聞いていたフラッピとチョッピは、咲と舞に話した事を、のぞみ達にも知らせた方が良いと判断したようで、

 

「みんなに話があるラピ!」

 

「出来れば、かれんやこまち、ミルクも呼んで欲しいチョピ」

 

「あっ、うん・・・でも、ちょっと待って!ラブちゃん達も、ナッツハウスに来てくれる事になってるから!みんな一緒の方が良いでしょう?場合によっては、なぎささん・・・は居ないか、ほのかさん達や、つぼみちゃん達にも知らせるから!!」

 

 のぞみ達は、雪城ほのか、月影ゆりが日本を離れている事を知らなかった。この時点でもし、九条ひかりに電話をして今回の一件を報告していれば、この後に起こる最悪の事態を防げたかも知れなかったのだが・・・

 

 のぞみの言葉に頷くフラッピとチョッピ、

 

「多分、なぎさ達には、光の園のメップル達が一緒に居るから、なぎさ達には知らせてくれると思うラピ!」

 

「つぼみ達には、後で知らせて欲しいチョピ」

 

 一同の心にモヤモヤ感を残しながら、時間は過ぎて行く・・・

 

 ラブ達三人は、14時過ぎにナッツハウスに到着した。

 

 久しぶりの再会ながら、皆に笑顔は見られなかった。のぞみは、ラブ達が着いた事をかれんに報告すると、ミルクも大分落ち着いたのか、美々野くるみの姿になって、かれん、こまちと共に一同の前に現われた。りんが立ち上がり、心配そうにくるみに声を掛ける。

 

「くるみ、大丈夫なの?」

 

「ええ、かれんやこまちが看病してくれたお陰でね!それより、私達に話があるんでしょう?」

 

 くるみがフラッピ、チョッピに向かい声を掛けると、フラッピとチョッピが頷き、テーブルの上にチョコンと乗ると、一同の顔を見つめていき、

 

「みんなに闇について話すラピ、光の園のメップル達も、同じ理由で緑の郷に来てる見たいだけど・・・闇の根源の復活が近づいているラピ」

 

「闇の根源!?」

 

 聞き慣れない言葉に、一同が思わず聞き返すと、

 

「そうチョピ、嘗てゴーヤーンも言ってたように、この宇宙は元々闇だったチョピ!その闇の名は、カオスと言ったそうチョピ」

 

 フラッピとチョッピが語る、闇の根源カオス!

 

 カオスこそは、あらゆる生命の大本とも言える存在で、闇の分身を数々作り出したその中には、ジャアクキング、ゴーヤーンが居た・・・

 

 だがカオスは、闇の分身を作っただけではなく、闇の中で大爆発を起こし、ビッグバーンを起こした!

 

 その時、光が生まれた・・・

 

 光の園のクイーンは、その時誕生した!!

 

 カオスはビッグバーンを起こした後、長い沈黙に付き、その間、無法地帯と化した闇の中で、闇の分身達は争い続け、様々な勢力が生まれた。

 

 クイーンはその争いを嘆き、せっかく芽吹いた光の命を消さぬよう、クイーンもまた、光に満ち溢れた世界を作り、沢山の生命を誕生させた。

 

 その中には、フラッピ達の故郷、泉の郷のフィーリア王女や、様々な妖精達も居た。だが、闇はそんな光の発展を認めず、何度も戦いを仕掛けて来た。

 

 クイーンは、非力な妖精達を守る戦士を、それぞれの妖精達に授けた・・・

 

 伝説の戦士、プリキュア!!

 

 

 フラッピとチョッピの話を聞いていた一同は、プリキュアの名前を聞き驚愕した。

 

 何故、それぞれの妖精の国にプリキュアの伝説があるのか?

 

 フラッピ達もそれは知らなかった・・・

 

 フィーリア王女は、闇の根源の復活が近い事を悟り、嘗てクイーンに聞かされた理由を、フラッピ達にも教えたのだった。

 

 それぞれの妖精の国を守護する戦士、プリキュア!!

 

 みんなが今まで出会わなかったのも、それぞれ違う国の守護プリキュアだったからだと伝える。

 

 そして、砂漠の使徒の攻撃で、この世界は壊滅的被害を受け、プリキュア達は、それぞれの妖精国では無く、ただ純真に自分の住むこの世界を守りたいという思いが、垣根を越えて、プリキュア同士の絆で結びつけたと語る。

 

 二人の妖精、フラッピ、チョッピの話を聞いていた一同、咲、のぞみ、ラブは、所々で話に付いていけなくなり、それぞれ、舞、かれん、美希に時折注意されていた。

 

 くるみも大人しく話を聞いていたのだが、プリキュアの絆と言う言葉にピクリと反応すると、微妙な表情になり、思わずポツリと呟いてしまう。

 

「プリキュアの絆・・・それも、あの裏切り者達の所為で・・・」

 

 くるみの言葉に敏感に反応し、咄嗟に咲とラブが顔色を変える。キッと睨むように二人はくるみを見ると、

 

「裏切り者って・・・まさか、満や薫、せつな達の事じゃないでしょうね!?ちょっとくるみ!今の言葉取り消してよ!!」

 

「そうよ、せつな達を裏切り者呼ばわりする何て・・・許せない!!」

 

「裏切り者を、裏切り者と言って何が悪いのよ?」

 

 咲、ラブ、くるみが言い合いを始め、険悪な雰囲気が一同に流れ出す。のぞみ、うらら、祈里はどうしたものかとハラハラし、舞、かれん、りん、美希が三人を止めようとするも、三人の感情に益々火を付けてしまうだけであった。

 

 激しく言い合いを始める三人、その時、ナッツハウスに電話が鳴り響く、こまちが電話に出ると、相手はつぼみからであった。久しぶりに聞くつぼみの声ではあったが・・・

 

「まあ、つぼみさん!お久しぶり、こまちです。よく此処の電話番号が分りましたね?エッ?かれんの・・・そう、坂本さんに聞いたのね!それで、うん・・・エッ!?そう、分ったわ!場所は?・・・加音町?確か、音楽で有名な街だったわよね?多分、かれんが知っていると思うわ!幸い、こっちにはみんなの他に、くるみさん、咲さん達、ラブさん達も一緒だから、みんなで応援に行くわ!!加音町で会いましょう!!つぼみさん、無理はなさらないでね?」

 

 受話器を置いたこまちが、みんなの所に戻り、つぼみからの電話の内容を伝えると、さすがに口論をしていた三人も押し黙る。

 

 自分達以外にも、また新たなるプリキュアが生まれ、そして今、そのプリキュア達は石にされている現状を聞き、口論などしている場合では無い事は重々分かった。

 

 だがラブは、まだ悔しかったのか、更にくるみに食って掛かろうとするのを見て、美希がラブの右頬に平手打ちをする。静まりかえる室内、ラブは殴られた頬を手で撫でながら、呆然として美希を見つめると、

 

「美希・・・どうして?」

 

「ラブ、いい加減にしなさい!今は喧嘩をしている時じゃないの・・・闇の復活、それに、私達と同じプリキュアを助けに行かなきゃならないの!!」

 

 美希は、ラブの両肩を掴みながら、ラブに、今自分達がするべき事を理解させようとする。ラブにもそれは分かっては居たが、大切な仲間であるせつなを、くるみに裏切り者呼ばわりされた事を、否定せずには居られなかった。

 

「そうだけど・・・でも、でも、私悔しいよ・・・せつなを・・・美希たんは悔しくないの?」

 

「悔しいわよ!せつなは、ラブだけじゃない!あたしや、ブッキーにとっても、大切な仲間よ!!でも、今は耐えなさい!!プリキュアとしてやるべき事をしましょう・・・そして、あたし達で必ずせつな達を助けましょう!!!」

 

 美希も悔しさを耐えている事が分かり、ラブは唇を噛みしめ頷く、それを見てかれんが後を引き取り、

 

「はい、喧嘩はそこまで!今私達は、プリキュアとして、新たな仲間を助けに行かなきゃならないんだから・・・幸い加音町なら、私も何度か行った事もあるから、私が案内するわ!!」

 

 つぼみ達への加勢で、加音町に出掛けようとした一同の前に、思わぬ人物が現われた・・・

 

 

3、不信と信頼

 

 つぼみは、ナッツハウスへの電話を終えた後、ほのかの家に電話をするも、ほのかの祖母、雪城さなえから、ほのかは海外に出掛けていて留守だと聞く。ひかりに電話をして見るも、一歩違いで、ひかりは夕方からの店の再開準備で出掛けてしまった所だった。

 

「どうしましょう?咲さん達、のぞみさん達、ラブさん達は来てくれると言ってくれましたが、ゆりさんやなぎささん、ほのかさん、ひかりさんが居ないと、少し心細いですねぇ?」

 

「な~に、あたし達だけでも十分じゃん!これだけのプリキュアが揃えば、無敵だってぇの!!」

 

 つぼみの不安とは対照的に、自信満々のえりかであった。えりかの姿を見て、つぼみも元気を取り戻し、

 

「それもそうですね!お婆ちゃん、ゆりさんがもし戻って来たら、私達、加音町に仲間を助けに向かったと伝えて下さい!オリヴィエをお願いしますね!!オリヴィエ、ちゃんと大人しくしてるんですよ!!」

 

「分った!その代り、あの人達を必ず助けて上げてね!!」

 

 つぼみ達を心から信頼し、手を振り続けるオリヴィエは、メロディ、リズムの事を頼むのであった。

 

「みんなも一緒だから、僕達だけでも何とかなると思いますが、よろしくお伝え下さい!」

 

「じゃあ、お婆ちゃん、コッペ様、ちょっくら行ってくるね!オリヴィエ、メロディとリズムは、あたし達が必ず助けるから、大人しく待ってなよ!!」

 

「みんな、気をつけるのよ!」

 

 つぼみ達三人は、薫子、コッペ、オリヴィエに見送られ、ハミィ、セイレーンを伴い、加音町に向かい出掛けて行った。

 

「何であたしまで、戻らなきゃいけないの・・・トホホ」

 

「また一緒に戻れるニャ!」

 

 暫くゆっくり出来ると思っていたセイレーンは、道案内の為に、ハミィと共につぼみ達と一緒に戻る事になった。

 

 

 

 ナッツハウスに人間姿のココが現われ、一同の姿を見付け安堵したのか、そのまま意識を失った。ソファに横にさせ看病するかれん、ココが無事に戻って来た事に安堵する一同、特にくるみは心から嬉しそうな表情を浮かべ、

 

「ココ様、ご無事で何よりです・・」

 

 くるみは涙を流し、ココの無事な姿を見て安心するも、ナッツとシロップが一緒に居ない事に、一抹の不安を覚える。そんなくるみを見かねたのか、

 

「もしかしたら、ナッツやシロップもこの辺に居るかも知れないから、私見てきますね!」

 

 うららが外に出るが、うららは直ぐに戻って来て騒ぎ始める。

 

「た、大変です!外に・・・満さん、薫さん、せつなさんが居ます!!」

 

「何ですって!?」

 

 驚愕する一同が、ココの看病で残った、かれんとこまちを除いて外に飛び出してくると、そこには、うららの言う通り、腕組みしてこちらを見ている、せつな、満、薫の三人の姿があった。三人の表情は、仲間達との再会を喜ぶでも無く、無表情であった。

 

「お前達、さっき此処に逃げてきた男を渡して貰おうか!」

 

 せつなが、無表情で皆に忠告すると、満は左手を、薫が右手を前に出し皆を威嚇する。ラブ達、咲達は、信じられないといった表情で三人を見つめる。くるみは三人を忌々しげに見ると、

 

「この裏切り者!!ココ様は絶対に渡さないから!!!」

 

 くるみがミルキーパレットを取り出すのを、のぞみが首を振りながら止める。のぞみの行為を見て、思わず感謝するラブは、

 

「ありがとう、のぞみちゃん!もう少し、もう少し待って!必ずせつなを元に戻すから!!」

 

 咲、舞、ラブ、美希、祈里が、みんなより前に出てせつな達にゆっくり近づいて行くと、

 

「満!」

 

「薫さん!!一体何があったの?」

 

「せつな、どうしちゃったの!?私だよ・・・ラブだよ!!」

 

「せつな、美希よ!しっかりしなさい!!」

 

「せつなちゃん!!」

 

 咲、舞、ラブ、美希、祈里が必死に呼びかけるも、三人は無表情さを崩さなかった。のぞみに止められたくるみは不満気に、

 

「のぞみ、どういうつもりよ?あいつらがココ様達を浚った事実は変わらないのよ?腕づくでも、ナッツ様やシロップの居場所を吐かせてやりたいのに・・・」

 

「くるみ、今は咲ちゃんや、ラブちゃん達に任せよう!!」

 

「任せるって・・・じゃあ、失敗したらどうするのよ?その間にも、ナッツ様達がどんな目に遭っているのか分らないのよ!」

 

 くるみはイライラしてるように、語気を荒げながら言葉を発する。のぞみは何かを決心したような表情で、満、薫、せつなを見つめると、

 

「その時は・・・力ずくでも三人を止めるよ!!」

 

「のぞみ、あんた・・・」

 

 のぞみの発言を聞き、りんは、のぞみは自分一人が悪者になる手段を取るのでは無いかと心配するのだった。

 

 咲達、ラブ達は、元の彼女達に戻そうと必死に、満、薫、せつなに呼びかける。だが、三人は無表情さを崩さなかった。そこに、かれん、こまちに付き添われ、ココが姿を現わす。

 

 この瞬間、満、薫、せつな、ココの四人が、目配せした事に気付いた者は誰も居なかった・・・

 

「おまえ達、何をやってるんだ!もうそいつらは、昔のお前達の仲間じゃないんだぞ!!」

 

 手を掴んでいたかれんとこまちの手を振り解き、ココが叫び始める。何時もと違うココの様子に戸惑うのぞみ達とくるみだった。

 

「ココ様!?」

 

「僕達のパルミエ王国を襲い、ナッツやシロップを僕の目の前で殺した奴らを、今更説得してどうしようというんだ!!!」

 

 ナッツやシロップが、せつな達に殺されたと聞き、一同に衝撃が走る。呆然としながらも、咲と舞は満と薫を、ラブ、美希、祈里は、せつなを信じ、再び説得しようと声を掛け続ける。

 

「満、薫・・・嘘、嘘だよね?そんな事してないよね!?」

 

「満さん、薫さん、違うと言って!!!」

 

 涙を流し、満、薫の言葉から違うと出てくるのを期待し続ける咲と舞、ラブは拳を握りしめると、

 

「せつな~~!何とか言ってよ!!お願いだよ・・・このままじゃ、このままじゃ」

 

「ラブ・・・せつな、ラブの気持ちが分らないの!?あたし達は、せつなを信じてる!!」

 

「うん、せつなちゃんが・・・そんな事する筈無いもの、私、信じてる!!」

 

 ラブ、美希、祈里も、涙を流しながら必死に諦めず、せつなに叫び続ける。そんな咲達、ラブ達を見たココは、苛立たしさを募らせると、

 

「クッ、のぞみ、お前達もあいつらと同じ考えなのか?」

 

「コ、ココ、落ち着いて!」

 

 険しい表情を浮かべるココを、必死に宥めようとするのぞみ、ココはもう頼まないといった表情で、のぞみからソッポを向くと、くるみに視線を向ける。

 

「くるみ、お前は違うよな?お前はパルミエ王国の人間だ!さあ、くるみ、ナッツ達の敵を討ってくれ!ローズに変身して・・・あいつらを殺せ!!」

 

「コ、ココ様・・・」

 

 殺気すら滲ませたココの言葉に、くるみとのぞみは戸惑いながら、思わず顔を見つめ合い困惑するのだった。

 

 その時、不意に笑い声が辺りに響き渡る、満、薫、せつなからであった。

 

「そう、その男の言う通りよ!」

 

「私達が、妖精達を倒した・・・と言ったら」

 

「どうするのかしら?」

 

 少女達を挑発するように言うと、三人が三方に散る。

 

「咲、舞、今は満達を止めるのが先ラピ」

 

「変身するチョピ」

 

「そんな、満と薫と戦えって言うの?」

 

「嫌・・・そんなの嫌よ!!」

 

 否定する咲と舞に、フラッピとチョッピが叱咤激励する。プリキュアとは、戦うだけの戦士では無いと、光の力で闇の力を打ち負かして、三人を元に戻せるかも知れないと・・・

 

 満や薫を元に戻せるかも知れないなら、涙を拭い、頷く二人を見て、二人の変身アイテムであるクリスタル・コミューンに変化するフラッピとチョッピ、決意した咲と舞が、クリスタルを回し、手を取り合い叫ぶ、

 

「「デュアル・スピリチュアル・パワー!!」」

 

 咲と舞がプリキュアへと姿を変えていく・・・

 

「花開け、大地に!」

 

「羽ばたけ、空に!」

 

「輝く金の花!キュアブルーム!!」

 

「きらめく銀の翼!キュアイーグレット!!」

 

「「ふたりはプリキュア!!」」

 

 咲と舞がプリキュアに変身した事に、他の少女達から動揺が起こる。

 

「咲ちゃん、舞ちゃん・・・」

 

 プリキュアに変身した咲と舞の姿を見て、のぞみは二人の心を思うと、胸が締め付けられるような気持ちになるのだった。

 

(ククク、良いぞ、それで良い!!)

 

 その様子を、次元の狭間から覗いている二つの影に、皆が気付く事は無かった・・・

 

 満と薫は、のぞみ達目掛け衝撃派を放つも、ブルームとイーグレットがのぞみ達の前に現われ、バリアーを張り阻止する。満と薫は、まるで二人を誘い込むように、ナッツハウスから少し離れた場所に移動すると、ブルームとイーグレットが、満と薫を追いかける。最早説得は失敗したと判断したくるみは、

 

「もう、我慢出来ない!私はあいつらと戦うわよ!!ナッツ様とシロップの敵を取るわ!!!」

 

 くるみがせつな達を攻撃しようとするのに気付き、必死にのぞみ達に頼み込むラブだった。

 

「お願い、もう少し、もう少しだけ待って・・・お願い!!」

 

「もう・・・無理だよ・・・」

 

「エッ!?」

 

 覚悟を決めたのぞみの目に、強い意志が宿る。のぞみから強い意志を感じたラブに、激しい動揺が走る。

 

「くるみも、みんなも、手を出さないで!プリキュア!メタモルフォーゼ!!」

 

「「「のぞみ!?」」」

 

「「のぞみさん!?」」

 

 止められたくるみ、りん、かれんやこまち、うららも、プリキュアへと変身したのぞみを見て驚愕する。

 

「そうだ、のぞみ!ナッツ達の敵を取ってくれ!!あいつらを八つ裂きにしろ!!」

 

「ココ、何て事を!?」

 

「コ、ココ様!?」

 

 かれんとくるみも、親友のナッツ達を殺された憎しみは理解出来るが、ココがこんな言葉を言うのが信じられなかった。

 

「大いなる、希望の力!キュアドリーム!!」

 

「あっ・・・ああ」

 

 のぞみがキュアドリームに変身し、せつなを見つめる険しい視線を見て、ラブはどうしたらいいのか困惑するも、意を決し、険しい表情になると、

 

「美希たん、ブッキー・・・せつなを、お願い!何とか押さえておいて」

 

 何かを決めたラブの表情を見た美希は不安気に、

 

「ラブ・・・一体何を?まさか!?・・・」

 

 美希の脳裏に、最悪な出来事が過ぎる・・・

 

 それを現わすように、ラブは変身アイテムであるリンクルンを手に握りしめると、

 

「私は・・・せつなを信じる!!!チェインジ・プリキュア!ビートアップ!!」

 

「ラブ、駄目ぇぇ!」

 

「ラブちゃん・・・せつなちゃん、お願い正気に戻って!!!」

 

 美希と祈里が、何とかせつなに抱きつき動きを止める。何故かせつなは何の抵抗も示さず、無表情のままであった。

 

「ピンクのハートは愛あるしるし!もぎたてフレッシュ、キュアピーチ!!」

 

 変身を終えたピーチが、ドリームの前に降り立つと、ドリームとピーチ、見つめ合う二人・・・

 

 今、最悪な出来事が始ろうとしていた・・・

 

                  第十六話:不協和音

                      完

 


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