プリキュアオールスターズif   作:鳳凰009

133 / 136
第百三十三話:十二の魔宮(中編)

1、魔王ルーシェス

 

 魔王は癒しの大樹の上で、ようやく自分の事を知って居る人物と出会う事が出来た。その人物は、魔界の王ルーシェスと名乗り、魔王は改めてルーシェスを見た。魔王が見た限り、ルーシェスは少年のような風貌をしていて、とてもこの魔界の王には見えなかった。

 

「お前が魔界の王!?とてもそうは見えないカゲ・・・」

 

「だろうね、自分でもそう思うよ」

 

 ルーシェスは、魔王の失礼な言葉にも、微笑み交じりに頷いた。何時もの魔王ならば、このようなタイプはあまり好きにはなれなかったが、どこかルーシェスには親近感が沸いていた。

 

「お前、もしかして怪物に変身したりするカゲ?」

 

「いや、僕は常にこの姿だよ・・・もっとも、今の僕は肉体を失った残留思念だけどね」

 

「残留思念!?」

 

 魔王は、ルーシェスの身体が透けている事には気付いていたが、肉体を失った残留思念というルーシェスの言葉には驚いた。残留思念とは、超常現象や精神世界、スピリチュアリティなどで使われている用語で、一説には強く何かを思った時に、その場所に思考や感情などが残る事と言われていて、俗にいう幽霊なども含まれていた。魔王も人間界で暮らす内に、色々な事を学び、残留思念の事も知って居た。

 

「残留思念って事は・・・つまり、お前は死んでいるという事カゲ?」

 

「そうとも言えるし、違うとも言えるかなぁ・・・君という存在は実在しているしね」

 

「俺がお前と何の関係あるカゲ?」

 

 ルーシェスのどこか哲学的な言葉に、魔王は思わず意味が分からず困惑した。ルーシェスは口元を緩め、

 

「そうだね、君にも分かるように説明しないとね。これから話す事は、君とも関りがあるプリキュア達にも関係する事何だ」

 

 ルーシェスはそう言うと、魔王に昔話を始めた・・・

 

「そもそも、僕がこの魔界にやって来たのは、この魔界を支配していた三顔の悪鬼、悪魔王ゼガンと、バハムート達竜族が戦っていた頃の話何だ。後にそれは、魔界大戦と呼ばれる戦いの真っ只中だったんだけど、僕は、この魔界を監視する為に訪れたんだ。だけど、ゼガンに怯える魔界の民達や、それを助けてゼガンに立ち向かって殺されそうなアモンを哀れに思い、僕はゼガンとの戦いに参戦して堕天し、この魔界で暮らす事を決めたんだ」

 

 ルーシェスは、光の天使である身を捨て、悪魔王ゼガンと対峙した。ゼガンを屠る力を持ちながら、ルーシェスはゼガンを殺す事はせず、その力を三つに分け、ゼガンの本体を封印した事を魔王に話した。魔王は不思議そうに、

 

「お前、そのゼガンって奴を何で倒さなかったカゲ?」

 

「確かに、僕はゼガンを殺す事も出来たよ・・・だけどゼガンの体内には、この魔界を消滅させられる規模のコアが埋め込まれてあったんだ。何故ゼガンの体内に、そんな危険な物があったのかは、僕にも分からないけどね。そして僕は、ゼガンの肉体を地獄に封じ、地獄門の上に居城を建てたんだ。僕は、地獄門が簡単には開かぬように、光と闇の二重の結界で封印し、更に星空界の中心で全宇宙の均衡を保つ、スターパレスに居る十二星座、十三人のプリンセス達を参考にして、この魔界に十二宮と、それを守護する戦士達を配置したんだ」

 

「星空界!?みゆきとやよいが喜びそうな・・・・・」

 

「最も、巨蟹宮に戦士は居なかったけどね」

 

「何でその宮には、門番を置かなかったカゲ?」

 

「元々は居たんだよ・・・でも、巨蟹宮の守護を命じた者は、奇妙な死に方をしてね。僕は薄々、カインとアベルが何か裏で手を回していると思っていたよ。三つに分けた筈の彼らの一人が、行方不明だったからね。僕も密かに探ってはいたけど、遂にその存在は分からなかったんだ。だから僕は、巨蟹宮に戦士を配置する事を止め、四神と呼ばれるシーレイン、アモン、そしてカインとアベルに管理させる事にしたんだ」

 

 魔王には、ルーシェスが警戒しているカインとアベルに、何故そんな権限を与えて居るのか理解出来なかった。

 

「お前、何でそいつらを好きにさせておくカゲ?」

 

「一つは、カインとアベルを僕の手元に置き、彼らを監視する意味、もう一つは、僕は彼らが改心してくれれば幸いと思ったから何だけど、それは僕の浅はかな考えだったようだね」

 

 ルーシェスは、自虐の意味も込めてか、少し笑みを浮かべたが、魔王にはその笑みが寂しそうに見えた。

 

「けど、お前の話はよく分からないカゲ!?お前は何で残留思念に何かなったカゲ?」

 

 魔王は、ルーシェスの話についていけず、ポカンとした表情を浮かべた。ただ分かった事は、悪魔王ゼガンという存在が危険であり、その分身であるカインとアベルもまた、危険な者達だとは魔王にも理解出来た。

 

「そうだね・・・ちょっと話が逸れてしまったね。僕がこの姿になったのは・・・」

 

 ルーシェスも、話が少し遠回りしたのに気づき、苦笑しながら本題に入った。

 

 ルーシェスが魔界の王として君臨してから、永い年月が経ったある日の事、それは起こった・・・

 

 人間界において、プリキュア達が闇の救世主を名乗るバロムと戦った頃、バロムによって強制的に目覚めさせられたカオスは暴走し、全てを深淵の闇へと飲み込もうとしていた。無論、この魔界も例外では無かったが、ルーシェスは一早くカオスの暴走に気付き、自らを触媒にして魔界に結界を張り、カオスの侵攻を防いだ。だがその代償は大きく、ルーシェスは自らの肉体を闇に蝕まれた。

 

「僕は、まだ死ねないと思ったんだ。かつてこの魔界を支配していたゼガンの分身、カインとアベルが居たからね。僕が死んだと分かれば、彼らは僕が封印した真の肉体を取り戻そうと、必ず野心を露にする事は分かっていたからね。そこで僕は、僕の影から肉体を作ろうと考えたんだ」

 

 ルーシェスの話を聞き、魔王の脳裏にある疑問が湧き上がった。自分の存在に関するある疑問が・・・

 

「も、もしかして、お前の影から生まれたって言うのは・・・」

 

「そう・・・君の事だよ!」

 

 ルーシェスは魔王を指差し、魔王は呆然とルーシェスを見つめた・・・

 

 

2、白羊宮・・・心優しき魔獣を救え

 

 カインの策略により、再び十二の魔宮の一つ、白羊宮の前へとやって来たピーチ、ベリー、パイン、パッションの四人は、白羊宮の中に入った。白羊宮の内部は、至る所壁が壊れていて、四人の耳には、獣のような声がずっと聞こえて居た。

 

「何かこの奥から嫌な感じがする・・・」

 

「エエ、用心しましょう」

 

 ピーチとベリーは互いの目を見て頷き合い、更に歩を進めた。パインは思わず立ち止まり、パッションはそんなパインを訝った。

 

「パイン、どうしたの?」

 

「ウン・・・あのねぇ、この声・・・とても哀しそう」

 

「「「エッ!?」」」

 

 パインの思わぬ発言に、ピーチ、ベリー、パッションは思わず驚いた表情を浮かべた。この声の主が、哀しそうとはどういう意味なのか分からず、パインからの次の言葉を待った。パインは、三人の顔を交互に見ると、

 

「この声の主は、何かを訴えたいんだと思うの・・・私にこの声の主と話をする時間をくれないかなぁ?」

 

 パインは、ちょっとおねだりする様な視線を仲間達に向けた。ピーチ、ベリー、パッションは思わず見つめ合い互い頷き合うと、

 

「パインがそう言うなら・・・ねぇ、ベリー、パッション」

 

「エエ、戦わないで済むのなら、その方があたし達も助かるし」

 

「でもパイン、気を付けてよ?」

 

「ウン!ピーチ、ベリー、パッション・・・ありがとう」

 

 パインは三人が許可してくれた事で、心の底から嬉しく、天使のような微笑みを浮かべた。四人はシフォンとタルト共に、哀しそうな獣の声が響く、室内へと通じる扉を開けて中に入った。一同の視界に、 全身をモコモコした白い毛皮で覆われ、顔が何所にあるかも分からない異形な魔物が映った。その者の名は、白羊宮を守護する顔無しのオロンであったが、パイン達が知る由も無かった。パインは一歩前に出ると、キルンを呼び出してオロンに話し掛けてみた。

 

「こんにちは!私達はプリキュアって言うの・・・私の名前はキュアパイン!あなたは?」

 

「ブゥオォォォォ!」

 

 パインは話し掛けるも、オロンは不気味な咆哮を上げてその場で暴れ、思わずピーチ、ベリー、パッションが身構えた。パインは慌てて三人を制止し、

 

「待って!大丈夫だよ・・・大丈夫」

 

 パインはオロンに対し、そう優しく話し掛けながら近付いていった。タルトは心配そうに、

 

「パインはん・・・大丈夫かいなぁ?」

 

「パインなら・・・大丈夫」

 

 タルトに聞かれたピーチは、パインを見守りながらそう呟いた。動物が大好きで、常に慈愛の眼差しで見つめるパインなら、絶対に大丈夫だという気持ちがピーチにはあった。オロンに優しく手を触れたパインに、オロンは最初こそビクリとして暴れようとするも、パインはそんなオロンを落ち着かせるように、オロンを優しく撫で、自分の顔をオロンの毛むくじゃらの身体に密着させた。

 

「大丈夫・・・大丈夫だよ」

 

 パインは目を瞑りながら、優しくオロンの白い毛むくじゃらの身体を撫で続けると、次第にオロンの興奮は治まってきた。まるでパインの優しい心が、自分の中で湧き上がって来る破壊の衝動を、パインが癒してくれるかのように・・・

 

「ブゥゥゥゥン」

 

「そう、オロンさんって言うのね?私はキュアパイン!こっちの三人は、私の大切な仲間の、ピーチ、ベリー、パッション、それに、こっちがシフォンちゃん、こっちがタルトちゃん」

 

 オロンは、パインに甘えるかのように声を発し、パインは、オロンが自分に心を開いてくれた事が嬉しくなり、仲間達の事もオロンに紹介した。ピーチ、ベリー、パッションには、オロンのそんな声の意味は分からなかったが、オロンはチラリと一同を見ると、再び何かをパインに訴えた。

 

「ブゥォブゥォォォォ!ブゥゥゥン」

 

 パインは、キルンを通じてオロンの声を聞くと、表情が見る見る曇って行った。カインに怪しげな技を掛けられてから、オロンの心の中で、全てを破壊したい衝動が沸き起こる事、オロンはそんな事はしたくないのに、まるで自分の身体じゃないかのように、暴れてしまう事をパインに伝えた。

 

「何て酷い事を・・・大丈夫だよ、私達があなたを・・・」

 

 パインがそうオロンに話し掛けた時、オロンの心にカインの心の声が聞こえて来た。

 

(どうした、オロン!?プリキュアは、敵だ!奴らに光の技を使わせ・・・殺せ!!)

 

「ブゥゥゥン・・・グゥゥォォォォォ!!」

 

 オロンは激しく身体を揺すり抵抗しようとするも、再び心に湧き上がって来る破壊の衝動を感じ、パインを突き飛ばした。だが、突き飛ばされたパインには、オロンの声がハッキリと聞こえていた。オロンは確かに、パイン達を攻撃するくらいなら、いっそこのまま殺して欲しいと・・・そんなオロンの心情を知ったパインは、見る見る涙目になると、

 

「そんなの駄目ぇぇぇ!ピーチ、ベリー、パッション、お願い力を貸して!オロンさんを助けたいの!!」

 

 パインの必死な顔を見て、三人は即座に頷き、パインの申し出を承知した。咆哮するオロンに、ピーチ、ベリー、パッションが飛びつき、暴れるオロンを必死に押さえつけた。

 

「「「パイン!」」」

 

「ウン!」

 

 ピーチ達の合図に、パインは返事を返すとパインフルートを取り出し、オロンの前へと歩き出した。

 

「オロンさん、今あなたの心に巣くう闇を追い払うからね・・・悪いの、悪いの、飛んでいけ!プリキュア!ヒーリングプレアー・・・フレ~~ッシュ!!」

 

 パインが、オロンの至近距離から放ったヒーリングプレアーが、オロンの身体を優しく包み込んだ。オロンの心の中に潜む破壊の衝動が、見る見る消えていくようにオロンには感じられ、オロンは心地良い気持ちのまま意識を失った。数分後、意識を取り戻したオロンは、慌てて毛むくじゃらの身体を動かすと、白い体毛の中から、梟のような顔を出した。

 

「ブゥオ!?」

 

「もう大丈夫だよ」

 

 オロンの視線の先には、しゃがみ込みオロンの顔を見て、天使のような微笑みを浮かべるパインと、その背後で笑顔を浮かべながら立つピーチ、ベリー、パッション、シフォンとタルトの姿があった。オロンは一同に飛び付き、嬉しさを表現するかのように、四人の顔に頬擦りを始めた。

 

「フフフ、オロン嬉しそうだね?」

 

「エエ、助ける事が出来て何よりだわ」

 

「これもパインのお陰ね」

 

 ピーチ、ベリー、パッションは、今回の立役者であるパインを褒め称え、タルトとシフォンも同意したように頷いた。パインは恥ずかしそうに、

 

「ウウン、みんなが協力してくれたから・・・キャッ!オロンさん、くすぐった~い」

 

 オロンに顔を舐められ、パインは苦笑しながらオロンの身体を摩り続けた。この宮だけは、十二の魔宮とは思えない和やかさを醸し出していた。

 

 

3、金牛宮・・・ミノタウロスの謎

 

 用心しながら金牛宮の扉へと歩くメロディ、リズム、ビート、ミューズ、ハミィとピーちゃん、そしてキャミー達、扉の前には、三メートルはありそうな巨体の牛神の石像が祭られていた。

 

「これが、この宮の魔神って事かなぁ?」

 

「多分ね・・・ギリシア神話に出て来るミノタウロスのイメージにそっくりだし」

 

 メロディに聞かれたリズムがそう答えると、一同の視線が石像に向けられた。仁王立ちをしたその猛々しい姿は、これから戦うであろうミノタウロスの強さが伝わって来るかのようだった。

 

「此処が、ミノタウロス様が守護する金牛宮ニャ・・・キャミーも中に入るのは初めてニャ」

 

 ビートも思い出したようにリズムに話し掛け、

 

「音吉さんの本で読んだけど、そのギリシア神話に出て来るミノタウロスって、迷宮の奥深くに閉じ込められて居たんでしょう?」

 

「ギリシア神話ではそう書かれているわね」

 

 ビートの問いに、リズムは小さく頷きながら同意した。リズムやビートが読んだギリシア神話によれば、クレータ島のミーノース王は、後に生贄を捧げる約束をポセイドーンと交わし、美しい雄牛を得た。その牛は白とも一説には黄金だったとも言われていた。雄牛の美しさの虜になったミーノース王は、ポセイドーンとの約束を違え、別の雄牛を生け贄として捧げてしまい、白い雄牛をあろうことか我が物にしてしまった。約束を破られ激怒したポセイドーンは、ミーノース王の后であるパーシパエーに呪いをかけた。それは后が、白い雄牛に性的な欲望を持つ事だった。悩んだ后は、名工と誉れ高いダイダロスに密かに命じて、雌牛の模型を作らせた。彼女は何と、自ら模型の中へと入って雄牛に接近し、目論見通り欲情した雄牛と性交渉を遂げた。その結果、神の天罰か、過ちの代償か、后は何と牛の頭をした子供であるミーノータウロスを産む事となった。ミーノータウロスは、成長するにしたがい、荒ぶる雄牛のように乱暴になり、次第に手におえなくなっていった。ミーノース王は、名工ダイダロスに命じて迷宮を建造し、そこにミーノータウロスを閉じ込めた。ギリシア神話の内容は凡そこんな話だった・・・

 

 ミューズは改めて金牛宮を凝視しながら、

 

「じゃあ、この宮も迷宮になってるって事かなぁ?キャミー、何か知ってる?」

 

「さぁ!?キャミーは聞いた事ニャいのニャ・・・でも、この魔界のどこかの島には、迷宮があったって話は聞いた事あるニャ」

 

 キャミーの話を聞き、一同は改めて金牛宮を見つめた。再び歩き始めた一同、ビートは、ミノタウロス像の横を通る瞬間、もの凄いプレッシャーを感じた。ビートは思わず立ち止まり、少し怯えた表情でチラリとミノタウロス像を流し見たその時、ミノタウロス像の目が光った気がして、ビートは思わず悲鳴を上げた。

 

「キャァァァ!」

 

「「「ビート!?」」」

 

「い、今、この石像の目が光ったような・・・それに、この石像から物凄いプレッシャーを感じたの」

 

「「「エッ!?」」」

 

 ビートの怯えた表情を見て、顔色を険しくしたメロディ、リズム、ミューズも、ミノタウロス像の前に来るとミノタウロス像を確認した。三人が念入りに調べてみるも、特にミノタウロス像に異常は見当たらなかった。

 

「ただの石像のようだけど?」

 

「本当に目が光ったの?」

 

「気のせいじゃないの?」

 

 メロディ、リズム、ミューズに改めて問われると、ビートも自分の勘違いだった気がしてきた。ビートはばつが悪そうに、

 

「そう言われると・・・私の気のせいかも知れないかも」

 

「アハハハハ、ビートったら、ハミィとピーちゃん連れて、一人で魔界に乗り込んだ割に、相変わらず怖がり何だからぁ」

 

「やっかましいわぁぁ!」

 

 メロディにからかわれ、ビートは目を吊り上げながら怒り、一同から笑い声が響いた。

 

(けどあの石像から、確かにもの凄いプレッシャーを感じたんだけどなぁ・・・)

 

 ビートは、今一度ミノタウロス像を振り返って首を捻った。一同は用心しながら金牛宮の重い扉を開いた。見た限りでは、中は迷宮ではなく、一直線に奥に続いているようで、一同はホッと安堵した。ゆっくり歩を進める一同は、奥の扉の中から威圧感を感じて、思わず歩みを止めた。メロディは険しい表情で、

 

「凄い・・・ここまで威圧感を感じる」

 

「ウン・・・用心しましょう」

 

「扉を開けた途端攻撃されかねないね」

 

 メロディ、リズム、ミューズは、顔色変えながら再びゆっくり奥の扉目掛け歩き出すも、ビートは再び首を捻り、

 

(確かに、奥の扉からプレッシャーを感じるけど、さっきの石像の横を通った時の方が・・・)

 

「セイレーン、どうしたニャ?」

 

「まだ震えてるのかニャ?」

 

 ハミィとキャミーに声を掛けられ、ハッと我に返ったビートは、

 

「だ、大丈夫よ、震えは・・・って、最初から震えて何か無いわよぉ!」

 

 ビートは思わずキャミーに大声で反論し、先を歩くメロディ、リズム、ミューズが背後を振り返って、鼻の前に人差し指を出して静かにするように合図を送り、ビートは慌てて両手で口を塞いだ。奥の扉の前に到着すると、メロディが右側の、リズムが左側の扉に手を掛け、正面にビートとミューズが立って、中からの攻撃に備えた。メロディとリズムは、一同とアイコンタクトすると、最後に二人は目で合図をし、

 

「「せぇぇの!」」

 

 メロディとリズムは、掛け声と共に奥の扉を開いた。ギィィィと軋みながら開かれる扉、金牛宮の室内は、まるで闘技場のようになっていて、観客席もあるようだった。その中央には、巨大な銀の斧を右手で持つ、まさに牛神と呼べるような、黒く猛々しい姿をしたミノタウロスが居た。

 

「来たか!本来ならば観客達の前で、貴様達を処刑する様を見せつけ、俺様の強さを見せる所だが・・・」

 

 自信満々に四人を見下すミノタウロスが、ギロリと一度を睨み付け、一同はプレッシャーを受けた。だがメロディは怯まず、

 

「そうやすやすやられますかって言うの・・・ハミィ、ピーちゃん、キャミー、私達から離れてて」

 

メロディは、ハミィ、ピーちゃん、キャミーを観客席に避難させた。

 

 

 ビートは、目の前に居るミノタウロスが発するプレッシャーに、違和感を覚えていた。さっきのミノタウロス像から感じたプレッシャーとは、明らかに違っていた。

 

(どういう事!?さっきは勘違いかも知れないと思ったけど、やっぱり・・・)

 

 ビートの脳裏に、ミノタウロスに対しある疑念が浮かび上がった。ビートは周囲を警戒するように見渡し、再びミノタウロスを睨むと、

 

「あなた、本当にこの宮の魔神なの?ひょっとして・・・ミノタウロスの偽物じゃないの?本物は、別の場所で私達を監視してるんじゃないの?」

 

「「「エッ!?」」」

 

 ビートが、矢継ぎ早にミノタウロスにした問い掛けをし、思わずメロディ、リズム、ミューズが、驚きながらミノタウロスを凝視した。

 

「何だとぉ!?」

 

 ミノタウロスは、ビートの問いを聞くや、見る見る全身がワナワナ震えだした。それは、怒りのあまり震えているようで、思わずビートはその迫力の前に一歩後退った。

 

「この俺が・・・この俺が、偽物だとぉぉぉぉ!?黙れぇぇ!!この俺が、俺こそが、ミノタウロスだぁぁぁ!!ウゥゥゥオォォォォォ!!!」

 

 ミノタウロスは、右手に持った巨大な銀の斧を地面に叩きつけ、怒りの咆哮を上げた。ミノタウロスの怒りに呼応したかのように金牛宮が震えた。そして、その震えに呼応したかのように、金牛宮の入り口に聳え立つミノタウロス像に亀裂が走った・・・

 

 メロディは、少し狼狽えながらビートに話し掛け、

 

「ちょ、ちょっとビート、戦う前から相手を怒らせてどうするのよ?」

 

「ゴ、ゴメン・・・でも、さっきの石像から感じたプレッシャーの方が凄かったから、本物は他に居るんじゃないかと思って・・・」

 

「でも、さっきビートは勘違いかもしれないって・・・」

 

「ウン・・・でも、この場所に来てハッキリ確信したわ。あれは、勘違い何かじゃないって」

 

 ビートは険しい表情でハッキリと言い切った。思わずメロディ、リズム、ミューズは、顔を見合わせて困惑の表情を浮かべた。それは、ミノタウロスがもう一人居るかも知れない事を意味して居た。リズムは、今一度ビートに確認するかのように問い掛け、

 

「じゃあ、もう一人ミノタウロスが居るって事?」

 

「エエ、もう一人居ると思う」

 

「そんな!?」

 

「事実だとすれば・・・ちょっと厄介ね」

 

 メロディとミューズは、唸り声を上げ続けるミノタウロスを見て思わず呟いた。ミノタウロスは、持っている銀の斧を激しく振り回すと、前方に小型の竜巻のような物体が浮かび上がった。

 

「この俺様を偽物呼ばわりした報い・・・貴様らに味合わせてやるぅぅ!」

 

 ミノタウロスが力を込めて銀の斧を振ると、小型の竜巻が勢いよく放たれるも、その攻撃はメロディ達とは見当違いの方向へと向かった。メロディは少し呆気にとられ、

 

「何処狙ってるのよ!?どうやらビートの言うように、このミノタウロスは偽物のようだね。さっき私達が戦ったベレルの偽物のように・・・」

 

「違うわ!あれは私達を狙ったんじゃない!!」

 

「ハミィ、ピーちゃん、キャミー、逃げてぇぇ!」

 

 メロディがそう仲間達に話し掛けるも、メロディの考えを即座にリズムが否定し、ミューズは妖精達に逃げるように叫んだ。気付いたビートは、即座に妖精達の前に移動して、ラブギターロッドを取り出しバリアを張った。ビートはバリアを破られながらも、何とか攻撃を相殺する事が出来た。ビートは険しい表情でミノタウロスを睨み付け、

 

「何て奴・・・ハミィ達を狙う何て・・・」

 

「「「「絶対に、許さない!!」」」」

 

 四人の険しい視線がミノタウロスを射るも、ミノタウロスはプリキュア達を狙わず、妖精達を集中して攻撃を繰り出した。

 

「「止めなさぁい!」」

 

 メロディとリズムは、咄嗟にミノタウロス目掛け駆け出し、ミノタウロスにパンチとキックで攻撃をし、ビートとミューズがミノタウロスからの攻撃から妖精達を守り、戦力が分散されていった。

 

「邪魔だ!」

 

「「キャッ」」

 

 ミノタウロスに右腕で払われ、メロディとリズムが吹き飛ばされ、ミノタウロスは尚も執拗に妖精達目掛け攻撃を繰り出した。ビートはミノタウロスを嫌悪の表情で睨み付け、

 

「何て奴・・・何故私達と戦わないで、ハミィ達を狙うの?」

 

「フン・・・貴様らなど何時でも殺せるが、この俺様を偽物扱いした屈辱を、貴様らにも味合わせてやる。自らの仲間を守れない己の無力さを嘆くがいい!」

 

 ミノタウロスはそう言うと、尚も執拗に妖精達を狙い攻撃してきた。ビートとミューズは、妖精達を庇い続け、メロディとリズムは、何度も吹き飛ばされながらも、ミノタウロスに向かっていた。

 

「邪魔だぁ!グレート・ハリケーン!!」

 

 ミノタウロスは、銀の斧を大きく振り回して巨大な竜巻を発生させると、妖精達目掛け放った。ビートは咄嗟にバリアを張るも、呆気なく破られ、ビートとミューズは巨大な竜巻に飲み込まれながらも、何とか妖精達を逃がした。

 

「「キャァァァァ」」

 

「「ビート!ミューズ!」」

 

 ビートとミューズは、悲鳴を上げながら竜巻に飲まれ上昇し、メロディとリズムが二人の身を案じて心配そうに名を呼んだ。二人はその勢いのまま天井に叩き付けられ、そのまま地上に落下するのを、メロディがビートを、リズムがミューズを辛うじて受け止めた。だが、ミノタウロスはその隙を逃さず、妖精達目掛け再びグレート・ハリケーンを放った。

 

「「「「ハミィ!ピーちゃん!キャミー!」」」」

 

「クククク、自らの仲間を守れぬ、己の無力さに嘆くが良い!ハハハハハ」

 

 四人が険しい表情で妖精達の名を叫び、ミノタウロスの嘲笑が金牛宮に響き渡った・・・

 

 ピーちゃんは、ハミィとキャミーの前に出て、グレート・ハリケーンを自ら受け止めようとしたその時、妖精達の前に巨大な何かが現れ、グレート・ハリケーンを両手で受け止め消滅させた。

 

「「「「エッ!?」」」」

 

 メロディ達は、妖精達の前に現れた人物を見て、思わず呆然とした。何故ならそこには、もう一人ミノタウロスが立って居たのだから・・・

 

「あ・・・兄者!?」

 

「愚か者め!」

 

 攻撃を放ったミノタウロスは、もう一人のミノタウロスを見て呆然としながら兄と呟き、新たに現れたミノタウロスは、そんなミノタウロスを愚か者と一喝した。メロディ達は、思わず両者を見比べながら困惑した。

 

「エッ!?どうなってるの?」

 

「二人居るとはビートに聞いていたけど・・・」

 

「どうしてもう一人のミノタウロスは、ハミィ達を助けてくれたの?」

 

「もう一人は・・・私達の味方って事?」

 

 メロディ、リズム、ビート、ミューズは、新たに現れたミノタウロスの真意が分からず呆然としていると、二人のミノタウロスが会話を始めた。

 

「兄者・・・どうやって元に!?」

 

「馬鹿め!メデューサの石化など、その気になれば何時でも解除出来た」

 

「じゃ、じゃあ、なぜ今まで!?」

 

「お前の今までの苦難を思えばこそ・・・カインとアベルに唆(そそのか)され、迷宮から出たお前を哀れに思い、貴様らの企てを知りながら、この身をメデューサによって石にさせ、ルーシェス様に悪いと思いながら、お前にこの宮の門番を譲った。お前ならば、カインとアベルの甘言など直ぐに払拭し、立派にルーシェス様に仕えるミノタウロスとして覚醒し、この金牛宮を任せられると思ってなぁ・・・」

 

「兄者・・・だ、だが、俺はちゃんと・・・」

 

「しているか?貴様はバルバスと同じだ!長き迷宮で過ごした憂さ晴らしを、弱者に対してしているに過ぎぬ。魔王城を守護すべき金牛宮を、くだらぬ道下の舞台に変えおって・・・」

 

 兄ミノタウロスはそう言うと、室内を見回し観客席まで作った行為を嘆いた。弟ミノタウロスは激しく動揺しながら、

 

「じゃ、じゃあ・・・兄者は俺を殺しに来たのか?」

 

「違う!」

 

「では、俺と共にプリキュアを!?」

 

 弟ミノタウロスの話に、思わずメロディ達四人の表情が険しさを増した。二人のミノタウロスを相手にしては、勝てるかどうか思わず不安な心が芽生えて来た。だが、兄ミノタウロスはギロリと弟を睨み付けると、

 

「一人では戦えぬか?」

 

「バ、バカな!?俺はミノタウロス・・・こんな小娘共など、兄者の力を借りる間でもない。俺一人で倒して見せる!」

 

 弟ミノタウロスがそう叫ぶと、兄ミノタウロスは小さく頷き、

 

「ならば、妖精達など狙わず、堂々とプリキュアという者共と戦うが良い!この俺が直に見届けてやる・・・お前達、俺の隣に座ってろ!」

 

「「ハ、ハイニャ!」」

 

 そう言うと兄ミノタウロスは観客席に移動して座り、妖精達にも隣に座れと命じた。ハミィとキャミーは、ロボットのようにぎこちない動きで、驚愕しながらも言われるまま隣に座った。ピーちゃんは、そんな兄ミノタウロスの真意を探ろうとするかのように、ジィと観察すると、ハミィの隣に降り立った。ビートは、そんな兄ミノタウロスを見ると、

 

(あの人・・・ひょっとしてハミィ達を庇って・・・)

 

「ビート、行くよ!」

 

「エッ!?エエ、分かってる」

 

 メロディに話し掛けられたビートは、ハッと我に返り三人の下に移動した。再び対峙するスイートプリキュアの四人とミノタウロス、兄ミノタウロスは、腕組みしながらそんな弟を複雑な表情で見つめていた。

 

(あの者達からは、どこかルーシェス様に似たものを感じる・・・プリキュア達との戦いで、弟が戦士とは何かを悟れば良いのだが・・・)

 

 兄ミノタウロスが見つめる中、再びメロディ達とミノタウロスの戦いが始まった。今度は妖精達に見向きもせず、四人を鋭い視線で睨み付けた。

 

「行くぞ、プリキュアァ!ウゥゥオォォォォ!!」

 

「リズム、ビート、ミューズ、行くよ!」

 

「「「エエ!」」」

 

 ミノタウロスが吠え、メロディの合図の下、四人が一斉にミノタウロス目掛け駆け出し、戦いが始まった。

 

 先ず最初に仕掛けたのは、メロディとリズムだった。二人は抜群のコンビネーションで宙に飛び、スイートハーモ二ーキックをミノタウロスに放った。ミノタウロスは、二人の攻撃を銀の斧で完全に防ぎ、銀の斧を振ってメロディとリズムを吹き飛ばす。ミューズはその間隙を縫い、モジューレにシリーを装着すると、

 

「シ、の音符のシャイニングメロディ!プリキュア!シャイニングサークル!!」

 

 ミューズは、まるで分身の術を使ったかのように、四人の幻影を出すと、五芒星のようなサークルを描き、ミノタウロスの動きを封じに掛かった。だがミノタウロスは、銀の斧を地面に激しく叩きつけると、その衝撃によってミューズの幻影が消滅させられ、ミューズはその威力の前に吹き飛ばされた。ビートは、ミューズと入れ替わるかのように宙に飛び、ラブギターロッドを弾いて、光の音符を複数出現させると、

 

「これはどう?ビートソニック!」

 

 ビートはラブギターロッドを弾き、光の音符を矢の形に変えてミノタウロス目掛け発射した。

 

「ヌゥゥゥゥゥ!」

 

 ミノタウロスは銀の斧を盾代わりにして、ビートソニックの猛攻を耐えきり、お返しとばかりグレート・ハリケーンをビート目掛け放ち、ビートは咄嗟にラブギターロッドを弾き、正面に向けて大きな円状のビートバリアを張って、辛うじてグレート・ハリケーンの直撃を免れた。ミノタウロスは、口元をニヤリとさせると、

 

「ほう、耐えたか・・・やるな、プリキュア!」

 

「あなたもね!あなたをさっき偽物と呼んだ事は謝るわ・・・でも、私達は負けない!!」

 

 そうミノタウロスに話すビートの下に、メロディ、リズム、ミューズが集うと、メロディはミラクルベルティエを、リズムはファンタスティックベルティエを、ビートはラブギターロッドを、ミューズはシリーをセットしたモジューレを手に取った。

 

「「翔けめぐれ、トーンのリング!プリキュア!ミュージックロンド!!」」

 

 メロディはオレンジ色の、リズムは黄色のミュージックロンドを同時に、ミノタウロス目掛け放った。

 

「チェンジ!ソウルロッド!駆け巡れ、トーンのリング!プリキュア!ハートフルビート・ロック!!」

 

 ビートは、ラブギターロッドをソウルロッドに変形させると、緑色のトーンのリングをセットしたソウルロッドのトリガーを引き、ソウルロッドから勢いよくミノタウロス向けて射出した。

 

「シの音符のシャイニングメロディ!プリキュア!スパークリングシャワー!!」

 

 ミューズは、モジューレの力で大量の音符型の泡を生み出し、それらをミノタウロス目掛け発射した。メロディとリズムのミュージックロンドが、ビートのハートフルビートロックがミノタウロスを捉え、三重のリングがミノタウロスの動きを制限し、ミューズのスパークリングシャワーが、止めとばかりミノタウロスに命中する。だが・・・

 

「ウォォォォォォ!!」

 

 ミノタウロスは大きく息を吸い込んで吠えると、両腕に力を込め拘束して居た三重のリングを消し去り、スパークリングシャワーを耐えきった。

 

「フハハハハ!良いぞ、プリキュアァァ!こんなに燃えて来たのは何時以来か・・・こんどは俺の番だな」

 

 ミノタウロスはそう言うと、手に持っていた銀の斧を投げ捨て、銀の斧は見る見る只の石の斧に変化して地面に突き刺さった。ミノタウロスが武器を捨てた事で、メロディ達が動揺するも、兄ミノタウロスは満足そうに頷き、

 

(やはり、プリキュア達との戦いで、戦士としての誇りに目覚めたか・・・見せて貰うぞ、お前の真の力を)

 

「ハァァァァァァァァ!」

 

 ミノタウロスは、そんな兄の気持ちに応えるかのように、両手に力を込め始めると、金牛宮が震えた。ミノタウロスの両手から、時折火花が飛び散り、メロディ達の顔から冷や汗が流れ落ちて行く。

 

「喰らえ!グレェェト・・・バ~ン!!」

 

 ミノタウロスが両手を一気に前に突き出すと、凄まじい拳圧がメロディ達を襲った。

 

「「「「キャァァァァァ!!!!」」」」

 

 四人は為すすべなくその風圧に吹き飛ばされ、壁に激しく激突して減り込み、力なく地面に崩れ落ちた。

 

「ビート!メロディ!リズム!ミューズ!」

 

 心配顔のハミィが思わず立ち上がって四人に駆け寄ろうとするのを、兄ミノタウロスがハミィの身体を右手で掴み引き戻した。ハミィはジタバタ暴れ、

 

「離すニャァァ!」

 

「落ち着け!まだ勝負は付いて居らん」

 

「ニャ!?」

 

 ハミィは兄ミノタウロスの言葉にハッとなり、改めてメロディ達を見ると、四人はヨロヨロしながらも、その目には闘志を宿したまま立ち上がった。

 

「ここで決めなきゃ・・・女がすたる」

 

 メロディが・・・

 

「私の気合のレシピは・・・まだまだこれからよ」

 

 リズムが・・・

 

「エエ、私達の実力・・・見せて上げましょう」

 

 ビートが・・・

 

「ウン・・・このままじゃ終われない」

 

 ミューズが・・・

 

「「「「絶対に、負けない!出でよ、全ての音の源よ!!」」」」

 

 四人のハーモ二ーが一つになり、今クレッシェンドトーンを召喚した四人を見て、ハミィとピーちゃんが目を輝かせ、キャミーと兄ミノタウロスが驚愕の表情を浮かべた。

 

「何だ、あれは!?」

 

「あれは、全ての音の源、クレッシェンドトーンニャ!」

 

 ハミィは、キャミーと兄ミノタウロスに簡潔な説明を始めた。

 

「クレッシェンドトーン?」

 

「すべての音の源、クレッシェンドトーンだと!?」

 

 キャミーと兄ミノタウロスは、驚きながらもメロディ達に視線が釘付けにされて居た。ミノタウロスは右口角を上げると、再び両手に力を込めた。

 

「来い、プリキュア!俺のグレートバーンが優るか、貴様らの技が優るか・・・勝負だ!」

 

 メロディ達は、ミノタウロスの叫びに応えるかのように宙に飛び上がり、

 

「「「「届けましょう、希望のシンフォニー!」」」」

 

 四人は、両腕をクロスしたまま、クレッシェンドトーンの金色の光の炎と一体化した。

 

「「「「プリキュア!スイートセッション・アンサンブル・クレッシェンド!!」」」」

 

「グレェェト・・・バ~ン!!」

 

「オォォォォ!?」

 

 スイートプリキュアのスイートセッションアンサンブルクレッシェンドと、ミノタウロスのグレートバーン、互いの渾身の力を込めた技と技が激突し、兄ミノタウロスは思わず立ち上がって身を乗り出した。

 

「「「「ハァァァァァァ!!!!」」」」

 

 メロディ達四人の叫びと共に、スピードを上げたスイートセッションアンサンブルクレッシェンドが、勢いを増しグレートバーンの拳圧を物ともせず、ミノタウロス目掛け突撃した。ミノタウロスを包み込む黄金の輝きが、ミノタウロスの心を満たして行った・・・

 

(俺の・・・負けだな・・・だが・・・清々しい!こんな気分は・・・初めてだ)

 

「「「「フィナーレ!!!」」」」」」」」

 

 四人の掛け声と共に、ミノタウロスの身体が光に包まれ地面にゆっくり倒れ、兄ミノタウロスは、巨体を揺らしながら弟ミノタウロスに駆け寄った。

 

「見事だったぞ!」

 

「兄者・・・ハハハ、負けた!俺は、金牛宮の門番失格だな」

 

「何を言う、今のお前の戦い、この金牛宮を治めるミノタウロスとして何ら恥じる事は無いぞ!お前こそが・・・この金牛宮の主、ミノタウロスだ!!」

 

「あ、兄者・・・」

 

 兄と弟、兄弟の絆を見たリズムは、思わず弟の奏太の事を思い出し、メロディ、ビート、ミューズは目を細めて見守った。だが・・・

 

「フン、役立たずが・・・だが、金牛宮の封印は解けた。プリキュア共々、死ね!エクス・プロ~ジョン!!」

 

 突然カインの声が金牛宮に響き渡り、まるで金牛宮の上で大爆発があったかのような衝撃が起き、金牛宮の天井が崩れ落ちて来た。二人のミノタウロスは険しい表情で宙を睨み素早く立ち上がった。

 

「「クッ!」」

 

「「「「キャァァァァ!」」」」

 

「「ニャァァァ!?」」

 

 力を使い果たし、動きが鈍っていたメロディ達の頭上に、観客席に居たハミィ達の頭上に、金牛宮の崩壊した天井が降り注いで来た。咄嗟に腕で頭をガードするも、何故か瓦礫が一同に命中する事は無かった。恐る恐る目を開けたメロディ達四人とハミィとキャミーだったが、ハミィ達の前には、崩壊した天井を右腕で払い除けた兄ミノタウロスが、メロディ達の前には、自分達を庇う様に巨大な瓦礫を弟ミノタウロスが受け止めた。だが、弟ミノタウロスは先程の戦いの傷口が悪化し、大量の紫色の血を流して苦悶の表情を浮かべて居た。

 

「「「「ミノタウロス!」」」」

 

「ぶ、無事か!?・・・」

 

「ど、どうして、私達を・・・」

 

 メロディは、敵である筈の自分達を庇い、重傷を負ったミノタウロスを心配そうに見つめながら問いかけると、弟ミノタウロスは必死に笑みを浮かべ、

 

「お前達は・・・正々堂々と俺に勝ったんだ。俺も、お前達と戦い、兄者が俺に求めて居た事が、今更ながら分かる事が出来た。お前達のお陰だ・・・ウッ」

 

「「「「ミノタウロス!!」」」」

 

 弟ミノタウロスは、声を振り絞ってメロディ達に感謝の言葉を述べて居たが、ついに力尽き瓦礫の下に沈んだ。メロディ達は、目に涙をためながら必死に瓦礫を退かすも、ミノタウロスは静かに横たわりその生涯を終えた・・・

 

「・・・弟よ・・・眠れ・・・ミノタウロスの名はお前と共にある。帰ろう、我らが生まれ育った地に・・・」

 

 兄ミノタウロスは、弟の屍を前にし、昔の事を思い出して居た・・・

 

 ミノタウロスは、双子としてこの世に生を受けた。ルーシェス光臨前の魔界は、力こそが正義、それはこの兄弟においても例外では無かった。当時の魔界の王ゼガンは、力を持つ者を優遇しては居たが、徒党を組まれる事を恐れた。ミノタウロス兄弟は、生まれながら潜在的な力を秘めて居た。当時ゼガンの腹心だった巨人族の魔将軍ザンコックは、自分の地位を危うくさせそうなミノタウロス兄弟を危険視した。ザンコックはゼガンに進言し、ミノタウロス兄弟がゼガンに反旗を翻させないよう、弟ミノタウロスを迷宮に幽閉した。

 

(お前を人質に取られては、あの時の俺には、ゼガンの言い成りになるしかなかった・・・)

 

 兄ミノタウロスは、ザンコックからゼガンの為に尽くせば、何れ弟を解放する約束を条件に、ゼガンの配下として戦った。ルーシェスが参戦した事で、魔界大戦は終息した。弟の身を案じた兄ミノタウロスだったが、迷宮は先の魔界大戦において崩壊し、中に入る事も困難だった。弟の身を案じながらも、ミノタウロスの力は魔界中に広まって居て、ルーシェスにその力を見込まれた兄ミノタウロスは、金牛宮の戦士として仕えた。

 

(死んだと思って居たお前が、カインとアベルと共に現れた時は、俺も驚いたものだ・・・)

 

 弟ミノタウロスは、魔界大戦後も生き延びて居て、金牛宮に居る兄と入れ替われば、お前はミノタウロスとして自由を得られるとカインとアベルに唆され、あらゆる生物を石化させるという魔物メデューサを利用し、金牛宮の兄ミノタウロスの下を訪れた。

 

(お前がカインとアベルと共に現れた事で、俺はすべてを悟った。幽閉されていたお前の今までの事を思えば、この金牛宮をお前に任せてもとな・・・)

 

 ミノタウロスは、弟の屍を抱え込んで立ち上がった。

 

「ミノタウロス・・・私達を庇ってくれてありがとう!」

 

「あなたの事、忘れない」

 

「最初は卑怯な奴って思ったわ・・・でも、あなたは立派な戦士」

 

「助けてくれてありがとう」

 

 メロディ、リズム、ビート、ミューズの四人は、弟ミノタウロスの亡きがらに、深々と頭を下げながら手向けの言葉を送った。兄ミノタウロスは、四人を穏やかな表情で見つめながら、

 

「プリキュアよ、お前達のお陰で弟は戦士としてその生涯を終える事が出来た。俺は、弟と共に生まれ育った地に戻ろうと思う。だがその前に・・・カイン!貴様は、貴様だけは・・・」

 

「私達も・・・」

 

「「「「絶対に、許さない!!」」」」

 

 金牛宮に居る戦士達は、カインに対し憤りを露にして居た・・・

 

 

4、獅子宮・・・この荒ぶる獅子に鉄拳を!

 

 獅子宮に突入したのは、ムーンライトを先頭にした、ブロッサム、マリン、サンシャインのハートキャッチプリキュアの四人、四人は、獅子宮の通路に描かれた獅子の壁画に見向きもせず、奥の扉へと走り続けた。奥の扉は全開に開いていて、思わずムーンライトは口元に笑みを浮かべると、

 

「どうやら、向こうもやる気満々のようよ」

 

「ハイ。凄い殺気ですね」

 

 ムーンライトの言葉に、サンシャインも小さく頷いて同意した。ブロッサムはちょっと緊張した表情を浮かべ、

 

「私・・・ちょっと緊張してきました」

 

「ブロッサム、気合い出して行くよ!」

 

 マリンは、そんなブロッサムの背中を押し励ますと、ブロッサムはマリンに笑み返し、

 

「「オォォ!」」

 

「「フフフ」」

 

 ブロッサムとマリンの二人は、右腕を上にあげて気合を込め、思わずムーンライトとサンシャインが笑みを浮かべた。

 

 獅子宮の守護者バルバスは、全身を禍々しい鎧で包み込み、目を瞑り腕組みをしていたが、駆け寄って来る足音を聞き、口角を上げると、

 

「来たか、プリキュア!魔法界での借り・・・・・何だ、貴様らは!?」

 

 バルバスは目を見開いたものの、目の前に現れたのはブラックとホワイトではなく、ハートキャッチプリキュアの四人だった事で、バルバスは四人を睨みながら、吐き捨てるように問いかけた。マリンは口を尖らせると不満そうに、

 

「今あんたが言ったでしょうが、プリキュアよ、プ・リ・キュ・ア!」

 

 マリンは変顔浮かべながら、バルバスに自分達がプリキュアだと名乗るも、バルバスは不機嫌そうにイライラしだした。バルバスにとってのプリキュアとは、自分を追い込んだ二人組、ブラックとホワイトの事しか頭の中にはなかった。

 

「テメェらじゃねぇぇぇ!黒と白のプリキュアはどうしたぁぁぁ!?やつらを連れて来い!!」

 

「成程・・・あなたが魔法界で、ブラックとホワイトに追い返された魔界の魔神という訳ね」

 

 ムーンライトは、バルバスを挑発するかのように話すと、バルバスは唸り出し、

 

「グゥルルルルルルゥ・・・黙れ!カインからの撤退指示が無ければ、俺があいつらに勝っていた!!」

 

「それはどうかしら!?ブラックとホワイトの手を煩わせないわ。あなたの相手は・・・私達よ!」

 

 サンシャインはそう言うと身構え、ムーンライト、ブロッサム、マリンも身構えた。バルバスは、ジロリと四人を睨み付け、

 

「だったら・・・テメェら四人の首を撥ねて、獅子宮の門前に晒し、黒と白のプリキュアを誘き出す餌にしてやるよ!」

 

 バルバスは両腕をクロスさせると、十本の爪を鋭く伸ばして四人を威嚇した。マリンは少しドヤ顔を浮かべながら、

 

「そう易々やられますかって言うの」

 

「ハイ!行きますよぉ・・・」

 

 ブロッサムの言葉を合図にしたように、ムーンライトを先頭に、サンシャイン、ブロッサム、マリンの順にバルバスに対し攻撃を開始した。ムーンライトの怒涛の攻撃が、サンシャインのパンチが容赦なくバルバスに浴びせられるも、バルバスは余裕の表情を浮かべていた。

 

「何だぁ!?そんな攻撃じゃ、俺様の鎧に傷一つ付けられないぜ?」

 

 バルバスはそう言うと、ムーンライトとサンシャインに衝撃波を浴びせるも、二人は腕をクロスさせて衝撃を和らげ、数メートル後方に身体をもって行かれるだけで堪えた。そんな二人と入れ替わるように、ブロッサムとマリンがバルバスに挑んで行った。

 

「マリン、行きますよ・・・ブロッサムゥゥ・・・シャワー!」

 

「合点承知の助!マリィィン・・・シュート!!」

 

 ブロッサムの手から、無数の桜の花びらが花吹雪のような舞いが、マリンの手から無数の水の塊が、バルバス目掛け飛んで行くも、バルバスが両腕をクロスすると、

 

「甘いぜ!シャドウナイツ・・・ウェーブ!!」

 

 バルバスがクロスした両腕を勢いよく開くと、真空波がブロッサムとマリンの攻撃を掻き消した。バルバスはニヤリと笑むと、

 

「そんなもんか、プリキュア!?やはりテメェらじゃ、俺の相手をするには力不足だなぁ・・・今から黒と白のプリキュアを連れて来い!」

 

「余計なお世話よ!あなたのその慢心・・・私達がへし折ってあげるわ。サンシャイン!」

 

「ハイ!」

 

 ムーンライトは、ムーンタクトを取り出しサンシャインに合図を送ると、サンシャインは大きく頷き、シャイニータンバリンを取り出した。

 

「「プリキュア!フローラルパワー・・・フォルテッシモォォ!!」」

 

 ムーンライトとサンシャイン、二人が前方にフォルテッシモ記号を描くと、ムーンライトは赤紫色のエネルギーを身に纏い、サンシャインは金色のエネルギーを身に纏って上昇した。それを見たマリンは、ブロッサムを見ると、

 

「あたし達も行くよ!」

 

「ハイ!」

 

「「集まれ、二つの花の力よ!プリキュア!フローラルパワー・・・フォルテッシモォォ!!」」

 

 ブロッサムとマリンの二人が手を繋ぎながら、前方にフォルテッシモ記号のような形をした、ピンクとブルーのエネルギーを描くと、二人はそのエネルギーを身に纏い上昇した。

 

「何ぃぃぃ!?」

 

 四人のハートキャッチプリキュアが、二組に分かれて時間差でバルバス目掛け、右側からムーンライトとサンシャインが、左側からブロッサムとマリンが、フォルテッシモで突撃した。これにはバルバスも反応出来ず、時間差のフォルテッシモがバルバスを貫き、爆発と共にバルバスの鎧が粉々に吹き飛んだ。

 

「バ、バカな!?この漆黒の鎧を破壊しただと?」

 

「どんなもんよ!あたし達がちょいと本気を出せば、これくらい、軽い軽い」

 

 マリンがドヤ顔を浮かべバルバスを挑発するも、バルバスは鎧を破壊され最初こそ驚いていたものの、口元に笑みを浮かべた。バルバスは、兜を脱ぎ捨てると、茶色いたてがみを靡かせながら、首を前後左右に動かして体を解した。

 

「クククク、鎧というハンデが無くなったぐらいで、随分図に乗りやがって・・・こっちもちょいと本気を出してやろう」

 

 バルバスがそう言ったかと思うと、突然四人の視界からバルバスの姿が忽然と消えた。

 

「「「エッ!?」」」

 

(速い!?)

 

 ブロッサム、マリン、サンシャインは、突然姿を消したバルバスに激しく動揺し、辛うじて目でバルバスの動きを見たムーンライトも、バルバスの残像を残すだけの素早いスピードを目の当たりにして、険しい表情を浮かべた。

 

「そらそらそら!どこを見てやがる?」

 

 バルバスの姿を目で追えず、足音だけが聞こえる中で、バルバスは容赦なく、ブロッサム、マリン、サンシャインに攻撃を仕掛けた。三人の身体には次々に傷が付けられ、

 

「「「キャァァァァ!」」」

 

「クッ・・・三人共、油断しないで!」

 

 ムーンライトは、悲鳴を上げる三人を庇う様に三人の前に出るも、バルバスの動きを捉える事は出来ず、思わず焦りが生じた。

 

「ブロッサム、頑張るですぅ!」

 

「マリン、何やってるですかぁ!」

 

「サンシャイン!」

 

 シプレ、コフレ、ポプリが、それぞれパートナーに声を掛けると、バルバスは今気づいたかのように三人の妖精を見て口元をニヤリとさせた。

 

「ククク、テメェらの弱さを身に持って思い知らせてやるよ。仲間が無残に切り刻まれる姿をなぁ?」

 

 バルバスはそう言うと、攻撃目標を三人の妖精に切り替えた。ブロッサム、マリン、サンシャインは顔色を変え、

 

「な、何を!?」

 

「コフレ、シプレ、ポプリ、逃げてぇぇぇ!」

 

「クッ、ポプリ達を狙う何て」

 

 バルバスは、容赦なく三人の妖精目掛け攻撃を放つも、ポプリは咄嗟にバリアを張ってシプレとコフレを守った。バルバスは軽く舌打ちすると、

 

「チッ、小賢しい!シャドウナイツ・・・クロウ!!」

 

 バルバスが両腕を前に突き出すと、バルバスの両手の爪が伸び、ポプリが張ったバリアを突き破り粉砕した。妖精達は、辛うじて宙に浮いて逃げ延びると、バルバスは狂気の笑みを浮かべながら、妖精達目掛け両腕を振り続け、衝撃波を浴びせ続けた。

 

「ヒャハハハハ!死ね、死ね、死ねぇ!!」

 

 バルバスの衝撃波を妖精達が辛うじて躱すも、衝撃波が獅子宮の天井を破壊し、屋根が崩れ落ちてくる。それにも構わず、バルバスは容赦なく妖精達目掛け攻撃を執拗に続け、ムーンライトが飛び蹴りでバルバスに突っ込み、何とか攻撃を止めさせた。ムーンライトは、この宮の門番である筈のバルバスが、守護宮を自ら破壊する行為に表情を曇らせた。

 

「自分が守護すべき場所を・・・」

 

「ケッ、そんな事俺様が知るか!黒と白のプリキュアと戦えねぇなら、その妖精共をいたぶるのは、ちょっとした憂さ晴らしになるぜ」

 

 バルバスは、オマケとばかりもう一度妖精達目掛け衝撃波を放った。何とか躱したものの、シプレ、コフレ、ポプリは、その衝撃で地上に落下し、それぞれのパートナーが身体で受け止めた。追撃しようとするバルバスを、再びムーンライトが割って入って防いだ。ムーンライトは三人をチラリと見ると、紫色のマントを出現させながら、

 

「ブロッサム、マリン、サンシャイン、シフレ、コフレ、ポプリを・・・」

 

「「「ハイ!」」」

 

 ムーンライトの言葉を最後まで聞かずとも、三人にはムーンライトの真意が伝わっていた。妖精達を真っ先に狙うバルバスから、妖精達を匿う最善の方法は、妖精達にマントに変化してもらい、自分達が身に纏う事だという事だった。三人は妖精達に話し掛け、妖精達は無言で頷き、マントになってプリキュア達と一緒になった。バルバスは鼻で笑い、

 

「フン、それで匿ったつもりか?そのマントを・・・切り刻んでやる!」

 

「そうはさせません!シプレ達を狙うだ何て・・・私、堪忍袋の緒が・・・切れましたぁぁぁ!!」

 

 ブロッサムは、妖精達を執拗に狙うバルバスに対し堪忍袋が切れた。マリンとサンシャインもブロッサムに同意したかのように、

 

「全くだよ、海より広いあたしの心も、こころが我慢の限界だよ!」

 

「あなたのその心の闇、私の光で照らしてみせる!」

 

 三人は、ブロッサム、マリン、サンシャインは、互いにアイコンタクトをすると、サンシャインが真っ先にバルバスに仕掛けた。

 

「サンフラワー!イージス!!」

 

 サンシャインは、ひまわりの花のような、巨大シールドを前方に出現させると、バルバス目掛け押し付けようとする。バルバスはニヤリと笑むと、

 

「甘ぇな!脇が・・・ガラ空きだぜ!」

 

 バルバスは、瞬時にサンフラワーイージスの弱点、発動中は前方以外が無防備になるという事を見抜き、サンシャインの脇に回り込んだ。だが、それを待ち構えたかのように、ブロッサムとマリンが居た。

 

「甘いのは・・・」

 

「あんたの方だよ!」

 

「「ダブルプリキュア・・・パァァンチ!」」

 

「グゥゥゥ!?」

 

 ブロッサムとマリンは、バルバスに対して同時にパンチを繰り出し、油断して居たバルバスを吹き飛ばした。バルバスは直ぐに受け身を取って立て直すも、直ぐにムーンライトが動き、

 

「プリキュア!シルバーインパクト!!」

 

 ムーンライトは、銀色のエネルギーを拳に込めると、バルバスに対して掌底を叩きつけた。思わずバルバスは吹き飛び片膝を付いた。

 

「や、野郎・・・」

 

「相手の動きが止まったわ。ブロッサム、マリン、サンシャイン、一気に決めるわよ」

 

「「「ハイ!!」」」

 

 ムーンライトの合図に三人が大きく頷くと、四人は、スーパープリキュアの種をハートキャッチミラージュにセットした。

 

「鏡よ鏡、プリキュアに力を!世界に輝く一面の花・・・ハートキャッチプリキュア!スーパーシルエット!!」

 

 四人は、背中にハートの形をした光る帯のような物を身に着けた姿は、どこか天女をイメージさせた。バルバスは思わず驚き、

 

「な、何だ!?変身しやがったのか?だが、そんなコケ脅し、俺様には通じねぇよ!」

 

 四人目掛け駆け出したバルバスだったが、自ら破壊した獅子宮の瓦礫に遮られ、自慢のスピードが制限されていた。

 

「「「「花よ、咲き誇れ!」」」」

 

 四人がハートキャッチミラージュを上空に掲げると、ハートキャッチミラージュが崩壊した獅子宮の上空に浮かんで行った。そして、その輝きと共に、ハートキャッチミラージュから純白の衣を纏った巨大な女神が現われた。バルバスは、その巨大さに思わず上を仰ぎ見て驚愕し、

 

「な、何てデカさだ!?あれは一体?」

 

 ムーンライト、サンシャイン、マリン、ブロッサムの掛け声と共に、巨大な女神像はバルバス目掛け愛の拳を振り下ろした。

 

「ウッ!?ウォォォォォォォォォ?」

 

 巨大なる愛の女神の鉄拳を受け、バルバスの身体が宙に浮かび上がっていく。

 

「「「「ハァァァァァァ!!」」」」

 

 それに合わせるかのように、ブロッサム、マリン、サンシャイン、ムーンライトが、タクトとタンバリンを回転させた。荒ぶっていたバルバスだったが、次第にバルバスの表情が朗らかになっていった。

 

「ポワワワワァァン!」

 

 バルバスは、悦を浮かべたような表情で、その荒ぶる魂を浄化され、穏やかな表情で倒れ込んだ。マリンは思わずガッツポーズを取り、

 

「シャァァ!」

 

 

「フゥゥ、何とか勝てましたね」

 

「エエ、自らの力に過信しなければ、私達も危なかったわね」

 

 ブロッサムは汗を拭いながら、隣に居るサンシャインに話し掛けると、サンシャインも同意しながら、半壊した獅子宮の様子に眉をしかめた。ムーンライトは、尚も用心を怠らず、倒れたバルバスを険しい表情で見つめて居ると、バルバスがピクリと動いた。

 

「三人共、まだ油断しないで!」

 

「「「エッ!?」」」

 

 ゆっくり起き上がったバルバスは、チラリと四人を見ると、内股走りで駆け寄って来た。

 

「アラァ、何か色々酷い事してゴメンなさいねぇ」

 

「「「「エッ!?」」」」

 

「あたし、あなた達の愛の鉄拳を受けて・・・愛に目覚めたワァァ!」

 

 身体をクネクネ動かしながら、四人の攻撃で愛に目覚めたと語るバルバスの姿は・・・オカマっぽかった。四人は、その不気味な姿に只呆然と立ち尽くした。

 

「あなた達なら、あたし奥の扉を抜けて行くの・・・認めちゃうわぁ」

 

 バルバスはそう言うと四人にウインクし、ブロッサム、マリン、サンシャイン、ムーンライトは、思わずその不気味さに精神的ダメージを受けた。サンシャインは呆気に取られながら、

 

「き、牙を抜かれた獅子・・・って事かなぁ?」

 

「牙と言いますか、玉を抜かれて去勢された獅子と言いましょうか」

 

 ブロッサムが変顔浮かべながら呟くと、マリンはどこかで聞いた事があるようで、首を傾げながらブロッサムに問いかけ、

 

「去勢!?って、聞いた事あるけど何だっけ?」

 

 ムーンライトは、ばつが悪そうな表情になると、軽く咳払いをして三人の注意を引いた。

 

「さあ、三人共、行くわよ」

 

「アッ!?ま、待ってください」

 

「ねえ、サンシャインは知ってる?」

 

「後でブロッサムに聞いて・・・」

 

 ムーンライトは、この場から一刻も早く出たいかのように、足早で奥の扉に歩き出し、ブロッサム、マリン、サンシャインも慌ててムーンライトの後を追った。

 

「お達者でぇぇぇ!」

 

 バルバスは、そんな四人に投げキッスしながら見送り、四人は思わず背筋にゾッと鳥肌が立った・・・

 

          第百三十三話:十二の魔宮(中編)

                 完

 




 大変遅くなりましたが、第百三十三話投稿致しました。本来は十二の魔宮編終わらせる筈でしたが、金牛宮が思ったより長くなったので中編としました。スマイル組の双児宮、巨蟹宮、地獄門は後編に回します。

 そう言えば、スター☆トゥインクルプリキュアが始まってから初めての投稿だったのを今更ながら知りました。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。