プリキュアオールスターズif   作:鳳凰009

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第百三十二話:十二の魔宮(前編)

 1、宝瓶宮・・・ブラックとホワイトを消せ

 

 プリキュア達は、キャミーと七匹の大蛇達、そして、竜王バハムート率いる竜族の協力を得て、十二の魔宮上空へと辿り着く事が出来た。竜王バハムートは、竜族の者達に目配せし、

 

「プリキュア達は皆無事魔宮に到達し、我らの役目は果たした。一同、大儀だった!」

 

 竜王バハムートの労いを受け、深紅の身体をしたファイヤードラゴン、青い身体をしたアイスドラゴン、黄色い身体をしたサンダードラゴン、紫の身体をしたポイズンドラゴン、緑の身体をしたストームドラゴン、茶の身体をしたストーンドラゴンの六体は咆哮を上げた。バハムートは、プリキュア達に声を掛けると、

 

「プリキュア達よ、借りは返した・・・だが用心しろ、ゼガンの亡霊のカインの事、何を企んで居るか分からんぞ?」

 

 バハムートの忠告を聞いたプリキュア達は、皆その忠告を受け入れたように小さく頷いた。ドリームは、一同を代表するかのようにバハムートに頭を下げると、

 

「ウン・・・私達に協力してくれてありがとう」

 

「パイン、みんな、元気でねぇ!」

 

 バハムートの折れた角にしがみ付いて居るダークドラゴンは、名残惜しそうにパインに視線を送り、プリキュア達に声を掛けた。パインは右手を振りながら、

 

「ダークドラゴンちゃんも、バハムートさんもお元気で」

 

「では、さらばだ!」

 

 バハムートは踵を返し、それに従う様に六体のドラゴンも後に続き、竜族達は十二の魔宮を離れて行った。その後ろ姿を、プリキュア達は皆感謝の心で見送った・・・

 

 竜族も去り、巨大な黒き塔を守護するように、眼下に散らばる古代ギリシャの建造物を思わせる、十二の魔宮を見たホワイトは、ある事に気付いて眉根を顰めた。

 

「ねぇキャミィ、上空から見る限り、魔宮の数は十一に見えるんだけど・・・」

 

「そんなバカニャァ!?」

 

 ホワイトに聞かれたキャミーは、苦笑気味に眼下を見渡すも、ホワイトの言う様に、魔宮の数は何度数えても十一しかなかった。キャミーは何度も目を擦るも、十二ある筈の魔宮は十一だけだった。キャミーは顎が外れるかと思う程口を開け放心した。

 

「ニャ、ニャンで十一しかないのニャ?」

 

「私達に聞かれても困るけど・・・」

 

 キャミーは困惑顔でメロディに問いかけるも、問われたメロディに分かる筈も無く、メロディもまた困惑した。リズムは真顔で、

 

「どうやら、バハムートの忠告通り、カインが何か企んで居るのかも?」

 

 ムーンライトは、少し険しい表情を浮かべながら、眼下に見える十二の魔宮の位置を確認した。リズムの言うように、カインは何か魔宮に仕掛けを施したのではないか?そんな考えが浮かぶと、ムーンライトは一同に声を掛けた。

 

「みんな!リズムの言う通り、カインが何か十二の魔宮に仕掛けをした可能性もあるわ。カインが双児宮に居るかどうか分からない現状では、全ての宮に行く必要があるかも知れないわ。此処で別れましょう」

 

 ムーンライトの案に一同が頷き、必ず再会する事を誓い合い、大蛇達は別の宮の前へと移動を始め、それぞれ違う魔宮の前へと下降を始めた。

 

 黒の大蛇は、ブラック、ホワイト、ルミナスを乗せ、宝瓶宮の前に降りた。

 

 赤の大蛇は、ブルーム、イーグレット、ブライト、ウィンディを乗せ、磨羯宮の前に降りた。

 

 紫の大蛇は、プリキュア5とローズ、ココとナッツを乗せ、人馬宮の前に降りた。

 

 黄の大蛇は、ピーチ、ベリー、パイン、パッション、シフォンとタルトを乗せ、処女宮の前に降りた。

 

 青の大蛇は、ムーンライト、ブロッサム、マリン、サンシャイン、シフレ、コフレ、ポプリを乗せ、天秤宮の前に降りた。

 

 茶の大蛇は、メロディ、リズム、ミューズ、キャミー、フェアリートーン達を乗せ、天蠍宮の前に降りた。

 

 緑の大蛇は、スマイルプリキュアの六人と、キャンディ、グレル、エンエンを乗せ、双魚宮の前に降りた。

 

 一同は、ここまで送ってくれた大蛇達に礼を言い、大蛇達は、ここで待っているから気を付けてとでも言いたげに、魔宮へと駆けて行ったプリキュア達の後姿を見送った。

 

 

 巨蟹宮・・・

 

 瞑想していたカインは、プリキュア達が十二の魔宮の前に到着した事を察知し、目を見開くと口元に笑みを浮かべた。

 

「来たか、プリキュア!さあ、先ずどいつらから利用するとするか・・・」

 

 カインは、どのプリキュア達から、魔王ルーシェスが施した光の封印を、どう解除させる事に利用するか思案して居ると、背後の祭壇に祭られていたカインに似た藍色の髪をした生首、ソドムがカッと目を見開いた。

 

「カイン、俺をこの姿にした黒と白のプリキュア・・・奴らは危険だ!此処から排除した方がいい」

 

 ソドムは、妖精学校で戦ったブラックとホワイトに、脅威を感じていた。自分達の野望に立ち塞がる、最大の障壁になりかねないと思っていた。カインは、ソドムを見つめ小さく頷くと、

 

「そうだったな・・・奴ら二人と行動を共にする黄色いプリキュアからは、他のプリキュア達以上の光の力を感じる。あの者が居れば、確かに黒と白のプリキュアは不要だな」

 

 カインは再び目を閉じると、宝瓶宮全体に負のエネルギーが満ち溢れた・・・

 

 そうとは知らないブラック、ホワイト、ルミナスは、嘗てバルガンとシャックスが治めていた宝瓶宮へと辿り着いた。だが三人にとっては、此処がどの宮なのか分かる筈も無かった。ブラックが右側の、ホワイトが左側の扉を開き、宝瓶宮の扉が久方ぶりに開かれたが、中からは思わず身震いするような冷気を感じた。ブラックは、隣に居るホワイトに話し掛け、

 

「何だかこの中、肌寒いよねぇ?」

 

「エエ・・・行ってみましょう」

 

 警戒しながらゆっくり中へと進むブラックとホワイトだったが、ルミナスは妙な感覚を感じていた。

 

(何だろう!?人の気配は感じないのに、何か嫌な感じがする・・・)

 

 ルミナスは警戒しながらも、先に入ったブラックとホワイトを追って、中へと入って行った。薄暗い不気味な通路を進んでいく三人、少し歩くと、メップル、ミップルが騒ぎ始めた。

 

「ブラック、何だか嫌な感じがするメポ」

 

「用心してミポ」

 

「二人共、脅かさないでよねぇ?」

 

「でも・・・確かに何か嫌な雰囲気ね」

 

 ブラックとホワイトは、メップルとミップルの忠告を聞き、より用心深く室内を歩いていると、大きな扉が見えて来て、二人は思わず足取りを緩めた。ルミナスも追いつき、三人は目配せすると、大きな扉をブラックとホワイトが両側から開いた。不気味に軋む音と共に、室内に目を凝らすも中は薄暗かった。だが、三人は思わず生唾をゴクリと飲み込んだ。室内には、二つの人影が見えたのだから・・・

 

「誰!?」

 

「あなた達がこの宮の門番なの?」

 

 ブラックとホワイトは、険しい表情を浮かべながら、室内に居る何者かに声を掛けるも、二つの人影は無言のまま、ゆっくり、ゆっくり三人に近付いて来た。二つの人影が識別出来る距離に近付いて来た時、思わずブラック、ホワイト、ルミナスの表情が凍り付いた。そこには、自分達プリキュアオールスターズと戦い、闇に帰った筈のバルガンとシャックスが、不気味に笑みを浮かべながら近づいて来たのだから・・・

 

「あ、あんた達は!?何であんた達が此処に?」

 

 ブラックは、二人をキッと睨みながら問うも、バルガンとシャックスは何も答えず、ただ不気味に笑み続けるだけだった。身構えるブラックとホワイト、だがルミナスは、間近で目の前の二人を見ると、

 

(やっぱり何かおかしい!?目の前に居るのに・・・生命の鼓動をまるで感じない?)

 

 ルミナスは、目の前に居るバルガンとシャックスに違和感を覚えていた。ルミナスは直ぐにブラックとホワイトに話し掛け、

 

「ブラック、ホワイト、あの二人の様子が何か変です。先ずあの二人の動きを止めて、様子を見てみましょう」

 

「「分かった」」

 

 ルミナスの提案に、ブラックとホワイトは頷いて同意すると、ルミナスは上を見上げ、

 

「光の意思よ、私に勇気を!希望と力を!」

 

 ルミナスの叫びと共に、ハーティエルバトンがルミナスの手に現れた。ルミナスはバトンをクルクル回転させると、弓状に変化させた。弓状に変化させたハーティエルバトンを、宙に放つと同時に腰を低く落とすと、バトンはルミナスの前方にゆっくり戻り、1回転しながら光を纏った。

 

「ルミナス!ハーティエル・アンクション!!」

 

 ルミナスは、前方のバルガンとシャックスに対し、ハーティエルアンクションを放つと、光は一瞬の内に二人を貫き、バトンがその背後でゆっくり回転し、バルガンとシャックスは、虹色の光によって動きを封じられた。巨蟹宮のカインはカッと目を見開くと、

 

「何だ、これは!?・・・クククク、凄い光の力だ。宝瓶宮に施されていた光の封印が解けた」

 

 カインは、宝瓶宮奥のドアの横に輝いていた光の結界が解けた事を感じ、思わず口元に笑みを浮かべた。

 

「あのプリキュアさえ居れば・・・さあ、邪魔な二人には時空の狭間に消えて貰おう・・・・デッドエンド・ホール!」

 

 カインが両目を金色に輝かせ、両手を上空に上げて指を動かした。それと時を同じくして、宝瓶宮のバルガンとシャックスの二人は、黒きオーラが全身から漂い、その不気味な笑みを止める事は無かった。それに気づいたルミナスは、困惑の表情でバルガンとシャックスを凝視し、

 

(な、何!?あの二人から感じる嫌な感じは?)

 

「何笑ってるのよぉ!」

 

「ブラック!」

 

 痺れを切らしたブラックは、バルガンに向かって行くと、瞬時にホワイトはブラックを援護するように、シャックスに向かって行った。

 

「ブラックゥ!ホワイトォ!ダメェェェ!!」

 

「「ヤァァァァァァ!」」

 

 ルミナスが絶叫するも、ブラックとホワイトは、バルガンとシャックスに攻撃を仕掛けた。ブラックとホワイトが二人に触れたその時、ハーティエルアンクションの効果が切れたと同時に、バルガンとシャックスの身体が、まるで異空間と繋がり、小型のブラックホールになったかのように、ブラックとホワイトをその体内に取り込もうとしていた。

 

「な、何なの!?」

 

「身体が吸い込まれ・・・」

 

 苦悶の表情を見せるブラックとホワイトの耳に、異空間から赤ちゃんの泣き声が聞こえた気がした。二人はハッとし、

 

「「赤ちゃんの泣き声!?・・・キャァァァァァ!!」」

 

「ブラック!?ホワイト!?」

 

 ルミナスは、突然金色の光に包まれたブラックとホワイトを見て、思わず驚愕の表情で叫ぶも、ブラックとホワイトには、ルミナスの叫びに応える余裕は無かった。ブラックは右手を、ホワイトは左手を、必死に互いの手に伸ばすも、二人の身体はバルガンとシャックスの体内に吸収され、バルガンとシャックスの身体は縮小して消え去った。呆然としていたルミナスはハッと我に返り、

 

「ブラックゥゥ!ホワイトォォ!!」

 

 それはまさにアッという間の出来事だった。ルミナスは為すすべなく、膝から崩れ落ちた。その時、ルミナスの脳裏に何者からかのテレパシーが届いた。

 

「ククク、仲間が心配か?」

 

「その声は・・・カイン!?ブラックとホワイトを返して!」

 

「仲間と会いたければ、その奥の扉を進め!貴様を特別に招待してやろう・・・このカインが居る巨蟹宮になぁ」

 

「ふざけないで!」

 

「ククク、こうして居る間にも、時の狭間に飛ばされた奴らは、二度と戻っては来られなくなるぞ?それでも俺は構わんがなぁ・・・ハァハハハハ」

 

 カインの一方的な要求に、ルミナスは表情を一層険しくした。

 

 ルミナスは気付かなかったが、先程放ったハーティエルアンクションの効果で、ルーシェスが施した宝瓶宮の光の封印が解けた事を・・・

 

 ポルンとルルンは、泣きそうな表情で怖いとルミナスに訴え、ルミナスは二人を安心させるように優しくあやした。

 

(どうしよう!?他のみんなと合流してから・・・でも、もしカインの言う通りだとしたら、ブラックとホワイトが・・・)

 

 ルミナスは、困惑の表情で奥の扉を凝視した・・・

 

 

 2、天秤宮、天蠍宮、処女宮、双魚宮・・・幻覚を打ち破れ!

 

 巨蟹宮・・・

 

 邪魔者であるブラックとホワイトを、時空の狭間に飛ばしたカインは、判断に迷うルミナスを一先ず放置して再び瞑想すると、カインの脳裏に天秤宮、天蠍宮、処女宮、双魚宮の光景が浮かんで来た。

 

(ククク、もはや一々小細工するのも面倒だ。纏めて利用させてもらうぞ)

 

 天秤宮には、ムーンライト、ブロッサム、マリン、サンシャイン、シプレ、コフレ、ポプリが、処女宮には、ピーチ、ベリー、パイン、パッション、シフォンとタルトが、双魚宮には、ハッピー、サニー、ピース、マーチ、ビューティ、エコー、キャンディ、グレルとエンエンが、そして天蠍宮には、メロディ、リズム、ミューズが、キャミーと共にやって来た。カインが両手を頭上に掲げると、天秤宮、天蠍宮、処女宮、双魚宮に、負のエネルギーが満ち溢れた・・・

 

 

 魔王城・・・

 

 シーレイン、ベレル、ニクス、リリスと共に、魔王城の最上階に居たキュアビートは、プリキュアの仲間達が、十二の魔宮に到達した事を知ってソワソワしていた。シーレインはクスリと笑み、

 

「ビート、お仲間の事が気になるようね?」

 

「そ、そういう訳じゃ・・・」

 

 ビートは、シーレインに図星を差されて動揺し、それを見たリリスとニクスは顔を見合わせてクスリと笑み、

 

「別に隠さなくてもいいじゃない」

 

「エエ、私達はまだ此処で調べたい事もあるし、ビートはお仲間の所に行ってあげて」

 

「で、でも・・・」

 

 尚も困惑の表情をビートは浮かべた。自分も何か手助けする事があるのではないかと思うと、自分に協力してくれたシーレイン、ニクス、リリス、ベレルの役に立ちたいと考えて居た。

 

「フッ、拙者達の事を案ずるでは無い。お主は我らが認めた者、我が天蠍宮、シーレイン殿の天秤宮、ニクスの双魚宮、リリスの処女宮の四つの宮ならば、そなたは自由に出入り出来る」

 

「仲間達の力になっておあげなさい」

 

 ベレルとシーレインからの再度の言葉を受け、ビートは力強く頷き、ハミィとピーちゃんに目配せすると、

 

「ハミィ、ピーちゃん、行こう!みんなの所へ!!」

 

 ビートは、仲間達と合流する為、ハミィとピーちゃんを伴い、登って来た魔王城を駆け下りて行った。

 

 

 天秤宮に着いたムーンライト、ブロッサム、マリン、サンシャイン、妖精達は中に入り奥へと進んだ。奥の扉を開いたムーンライトは、ブロッサム、マリン、サンシャインに止まるように合図するかのように、左手を横に広げた。

 

「ムーンライト、どうかしたんですか?」

 

 少し緊張した面持ちのブロッサムが声を掛けると、ムーンライトは険しい表情のまま奥を凝視しつづけ、

 

「奥に・・・誰か居るわ」

 

「「「エッ!?」」」

 

 ムーンライトの忠告に、ブロッサム、マリン、サンシャインは驚きの声を発し、思わず室内を凝視した。ムーンライトは、警戒しながらゆっくり歩き出すも、中に居る人物を見た時、思わず安堵した表情を見せた。何故なら、中にはムーンライトが見知った顔、天秤宮を守護するシーレインの顔があった。

 

「シーレイン、良かった。無事だったようね」

 

 ムーンライトの言葉を受け、ブロッサム、マリン、サンシャインも、ムーンライトの横から顔を出し、奥を見つめるとそこには確かにシーレインの姿があった・、

 

「エッ!?シーレインさんだったんですか?良かったぁ」

 

「何だ、緊張して損した」

 

「と言う事は、此処は天秤宮って事かなぁ?」

 

 ブロッサム、マリン、サンシャインも安堵の表情を浮かべたが、突然シーレインの表情が一変し、憎悪の表情で四人に対して襲い掛かって来た。四人は四方に散って攻撃を躱すも、激しく動揺して居た。

 

「シーレイン、止めなさい!」

 

「シーレインさん、止めて下さい。私達、加音町でお友達になったじゃないですか?」

 

 ムーンライトとブロッサムが、動揺しながらもシーレインに声を掛けるも、シーレインは憎悪の表情を崩さず、四人を攻撃し続けた。

 

 そしてそれは、他の宮でも起こっていた・・・

 

 

「リリス!?どうして?」

 

「あたし達が分からないの?」

 

「止めて、リリスさん」

 

「クッ・・・明らかに私達に敵意を向けて居るわ」

 

 処女宮のピーチ、ベリー、パイン、パッションの前にはリリスが・・・

 

「エッ!?エッ?な、何で!?ニクス、止めてぇ!」

 

「何や!?何でニクスがウチらに攻撃して来るんや?」

 

「私達の事、忘れちゃったのかなぁ?」

 

「そんな!?ニクス!あたし達だよ!!」

 

「私達よ、プリキュアよ!ニクスゥゥ!!」

 

「ひょっとしたら・・・・ニクスは操られて居るのかも知れませんね」

 

「「「「「エェェ!?」」」」」

 

 双魚宮のハッピー、サニー、ピース、マーチ、エコー、ビューティの前にはニクスが・・・・

 

「ベレル、どうして!?」

 

「キャァァ!止めて、ベレル!!」

 

「私達が分からないの?」

 

 そして、天蠍宮のメロディ、リズム、ミューズの前にはベレルが・・・・

 

 魔王城に居る筈のシーレイン、リリス、ニクス、ベレルの四人は、それぞれプリキュア達に攻撃を仕掛けて来た。プリキュア達は、自分達に協力してくれた四人が、自分達に攻撃を仕掛けて来た事に戸惑い困惑した。

 

 

 仲間達の下に向かって走り出したビートは、黒き塔から外に出ると徐に立ち止まった。ビートは、精神を集中させるかのように両目を瞑り、プリキュア合宿で培ったハーモ二ーパワーを探った。

 

「セイレーン、どうしたニャ?」

 

 ハミィは、急に立ち止まったビートを不思議そうに見ながら話し掛けると、ビートはハミィの問いに応えようとするかのように両目を開いた。

 

「間違いない、メロディ達はあっちの宮に居るわ。ハミィ、ピーちゃん、私に追いて来て」

 

「合点ニャ」

 

「ピィ!」

 

 ハミィとピーちゃんはビートに頷き返し、三人はメロディ達が居るであろう天蠍宮目掛け再び駆け出した。

 

 

「ベレル様ぁぁぁ!一体どうしちゃったニャ?」

 

 メロディ達と行動をするベレルの使い魔キャミーは、メロディ、リズム、ミューズを攻撃するベレルの行為に困惑した。細身の剣を抜いたベレルの容赦ない攻撃が、メロディ、リズム、ミューズに向けられ、戸惑いながら四人は攻撃を避け続けた。

 

「ベレル、もう止めて!」

 

「私達、あなたと戦いに来た訳じゃ無いわ!」

 

 メロディとリズムがベレルに声を掛けて説得するも、ベレルは聞く耳持たぬと言いたげに、攻撃の手を休める事は無かった。強張った表情を浮かべたミューズは、

 

「こうなったら、戦うしかないわ!」

 

 ミューズの進言を聞いても、メロディはベレルと戦う事を避けようとするかのように、再度ベレルに説得を試みた。

 

「クッ・・・ベレル、どうしちゃったの?私達プリキュアの事が分からないの?」

 

 メロディの問い掛けに対し、何の感情も見せないベレルを見たリズムは、ある疑念をメロディとミューズに告げた。

 

「メロディ、ミューズ、ベレルはもしかしたら・・・操られているのかも!?」

 

「「エッ!?」」

 

「そんニャ!?」

 

 リズムの言葉に、メロディとミューズ、使い魔のキャミーは、困惑しながらベレルを凝視した。その一瞬の油断をベレルは逃さず、メロディの懐に入り込んだ。反応が遅れたメロディ目掛け、ベレルの一刀が下段から繰り出されようとしたその時、

 

「ハァァァァァ」

 

 突如ベレルの背後の奥の扉から雄叫びが響くや、光の音符を右手で掴んだビートが、素早い動きで流れるように近づき、ベレルを蹴り飛ばした。

 

「大丈夫、メロディ?」

 

「「「ビート!」」」

 

 音符から降りたビートは、メロディを見て声を掛けると、メロディ、リズム、ミューズの目が輝いた。

 

「ビート!もう、心配させないで」

 

「無事で良かったわ」

 

「怪我も無いようね?」

 

「エエ、おかげ様でね。心配させてゴメン」

 

 ビートは、自分の事を心配してくれていた三人に、少し申し訳なさそうな表情で三人に頷き、直ぐにベレルを険しい表情で見つめた。

 

「何処の誰かは知らないけど、ベレルに化けてメロディ達を襲う何て・・・絶対許さない!」

 

 ビートはそう言うと、ラブギターロッドを取り出した。メロディ、リズム、ミューズは、ビートが言った目の前に居るベレルが、偽物だという言葉に驚いた。メロディとリズムは、ビートに確認するように、

 

「エッ!?あのベレルは偽物なの?」

 

「本当、ビート?」

 

「エエ、さっき本物のベレルと別れたばかりの私が言うんだから、間違いないわ。ベレルは、シーレイン、ニクス、リリスと一緒に、まだ魔王城に居るわ」

 

 状況を理解したミューズは小さく頷き、

 

「どうりで・・・私達を攻撃してくるからおかしいとは思ってた」

 

「エエ、それに、もし本物のベレルだったら、今の私の不意打ち何て、難なく躱していたわ」

 

 ビートの話を聞いたキャミーはホッとしたように、

 

「よ、良かったニャァ」

 

 そんなキャミーに、遅れて奥の扉からやって来たハミィとピーちゃんが近づいた。メロディ達も二人に気付き、

 

「ハミィ、ピーちゃん、二人共無事で良かった」

 

「ビートと一緒に、私達が知らない間に魔界に行っちゃうんだもの」

 

「もう、心配したんだからね?」

 

 メロディ、リズム、ミューズがハミィとピーちゃんに声を掛けると、

 

「ゴメンニャ」

 

「ピィ」

 

 ハミィはその場でペコリとメロディ達三人に頭を下げ、ピーちゃんはミューズの肩に止まると、ミューズは目を細めてピーちゃんの頭を撫でた。ハミィはキャミーに話し掛け、

 

「キャミー、また会えたニャ」

 

「ハミィ、また会えるとは思って無かったニャ」

 

「再会の挨拶は後、メロディ、リズム、ミューズ、カインが何を企んで居るか分からない。他のみんなに早く合流する為にも、一気に行くわよ」

 

「「「OK!」」」

 

 ビートの合図に頷いた三人は、ハミィが手に持つ宝石箱に似たような形のヒーリングチェストに視線を向けると、

 

「「「「出でよ、全ての音の源よ!!」」」」

 

 四人の声に導かれるかのように、ヒーリングチェストの中から、フェアリートーン達に似た巨大なクレッシェンドトーンが姿を現した。

 

「「「「届けましょう、希望のシンフォニー!」」」」

 

 両腕をクロスしたまま、クレッシェンドトーンの金色の光の炎と一体化した四人は、ベレルに化けた何者か目掛け突撃した。

 

「「「「プリキュア!スイートセッション・アンサンブル・クレッシェンド!!」」」」

 

「「「「フィナーレ!!!」」」」

 

「ギャァァァァァ!」

 

 四人の合体技を受けたベレルに化けた何者かの身体が朽ち、腐った死体のような魔物が浄化され消えて行った。メロディは、浄化された魔物が消えた場所を凝視しながら、

 

「あいつがベレルに化けてたんだね」

 

「そうね・・・見て!奥の扉の脇の光が消えて行くわ」

 

 奥の扉の異変に気付いたリズムは、他の一同に異変を知らせるかのように、奥の扉を指差した。巨蟹宮のカインは目を見開くと、

 

「フッ、もう一人のプリキュアが合流したか・・・貴様達にはまだ利用価値がありそうだな、さあ奥の扉を抜けるが良いさ。その先には・・・ククククク」

 

 カインは、含み笑いを浮かべると、再び目を閉じて天秤宮、双魚宮、処女宮に精神を集中させた。

 

 

 処女宮のピーチ達もまた、襲い掛かって来るリリスに困惑していた。必死にリリスに呼びかけるピーチとパインだったが、リリスは何も答えず笑み交じりに攻撃してくるだけだった。そんなリリスを見たベリーとパッションは、リリスに違和感を覚えた。ベリーは困惑気味に三人に話し掛け、

 

「ねぇ・・・あれって本当にリリスなのかしら?」

 

「エッ!?どう見てもリリスにしか見えないけど?」

 

「ウン・・・私にも」

 

 ピーチとパインが改めてリリスを見るも、以前加音町で見たリリスと何の変りもないように思えた。だが、パッションはベリーに同意し、

 

「ベリーも気付いた?以前戦ったリリスは、エロチックアイのような精神的な攻撃を繰り出し、肉弾戦などほとんどしなかったわ。でも、今目の前に居るリリスは・・・ひょっとしたら、以前ノーザに見せられた幻覚の様に、このリリスはカインが私達を欺こうとして、幻覚を見せて居るんじゃないかしら?」

 

「「「幻覚!?」」」

 

 パッションの言葉に、ピーチ、ベリー、パインの三人が思わずオウム返しに聞き、パッションは小さく頷いた。ピーチは、右拳を力強く握りしめると、

 

「ベリーやパッションの言う通りだとすると・・・」

 

 ピーチは、リリスと戦った時の事を思い出して居た。確かにリリスは、幻惑系の攻撃を得意として事を思い出すと、

 

「ベリー、パイン、パッション、本物のリリスなら、私達が技を仕掛けるのを幻惑で阻止しようとする筈・・・試してみよう」

 

「「「OK」」」

 

 ピーチはピーチロッドを、ベリーはべリーソードを、パインはパインフルートを、パッションはパッションハープを取り出すと四方に散った。四人が散った事で動揺したリリスは、キョロキョロ四方を見渡し戸惑って居た。ピーチは三人に合図を送り、

 

「ベリー、パイン、パッション・・・行くよ!」

 

「「「悪いの、悪いの、飛んでいけ!」」」

 

「プリキュア!ラブサンシャイン・・・」

 

「プリキュア!エスポワールシャワー・・・」

 

「プリキュア!ヒーリングプレアー・・・」

 

「「「フレ~~ッシュ!!」」」

 

「吹き荒れよ!幸せの嵐!プリキュア!ハピネス・ハリケーン!!」

 

 ピーチ、ベリー、パイン、パッション、四人の四方からの同時攻撃を、リリスはただオロオロするだけで直撃を受けた。ピーチ達は、そんなリリスの反応を見ていると、リリスの風貌は崩れ、角の生えた魔物の姿を露にして浄化された。ピーチは、今のリリスが偽物だった事で、少しホッと安堵した表情で、

 

「ベリーとパッションの言う通りだったね」

 

「エエ、リリスにしてはおかしいと思ったわ」

 

「ウン、良かった」

 

 ベリーとパインも安堵した表情を浮かべていたが、パッションは奥の扉の横の灯りが消えた事に気付き、

 

「見て!奥の扉から灯りが消えたわ」

 

 奥の扉を指差したパッションに釣られ、ピーチ、ベリー、パインも奥の扉を凝視した。ピーチはパッションに話し掛け、

 

「本当だ・・・と言う事は、あの奥の扉を抜けられるって事かな?」

 

「エエ、行ってみましょう」

 

 四人は頷き合い、用心しながら奥の扉へと歩み始め、シフォンとタルトもその後を追った。

 

 巨蟹宮のカインは目を開くと、

 

「どうやら、もう一組も・・・こいつらも更に利用させて貰おう」

 

 カインは口元をニヤリとさせると、再び目を閉じて瞑想を始めた。

 

 

 双魚宮でニクスに襲われ、戸惑って居たスマイルプリキュア達六人、痺れを切らしたサニーとマーチは、

 

「このままじゃアカン・・・」

 

「ウン、ニクスと戦うしかないよ」

 

 二人の進言に、ハッピーとピースは困惑した。せっかく和解したニクスと戦う事は忍びなかった。

 

「待って!せっかく仲良くなれたのに・・・」

 

「ウン・・・私も出来るなら戦いたくないかも」

 

「・・・そうですね。操られて居るのかどうか、まだ確かめていませんからね」

 

 ビューティも、ハッピーとピースに賛同した。エコーは目を閉じ、両手を組んでニクスの心に話し掛けてみるも、ニクスがエコーの心の声に答える事は無かった。

 

「駄目、反応が無い・・・ちょっと荒療治だけど、私のハートフルエコーなら、もしかしたら・・・」

 

 エコーは、妖精学校でなぎさ達一同に寄生し、エコーの記憶を蝕んだ空魚を、ハートフルエコーで浄化した事を思い出し、もしかしたらニクスを救えるのではないかと思い付いた。ビューティもその事を思い出したのか、

 

「それは試してみる価値はありそうですね」

 

「ウン!エコー、お願い」

 

 ハッピーも、このままニクスと戦うよりは、エコーの提案を受け入れ、サニー、ピース、マーチも同意した。エコーは頷き返すと、尚攻撃して来ようとするニクスを見つめ、

 

「世界に響け!みんなの想い!!プリキュア!ハートフル・エコ~~!!」

 

 エコーの叫びと共に、光輝く胸のブローチから発射された光が、ニクス目掛け放たれた。その眩い輝きは、巨蟹宮に居たカインにも異変を与えていた。カインは、ハートフルエコーの光の力に思わず驚愕した。

 

「な、何だ!?この光の力は?」

 

 髪の色以外カインそっくりの生首のソドムは、エコーのハートフルエコーに気付くや、カッと目を見開いた。

 

「この力は!?カイン、こいつだ!俺が妖精学校で魔界に連れ込もうとした・・・確か、キュアエコーと言ったか?あの時は、もうプリキュアにはなれないと抜かして居たが、どうやらハッタリだったようだな」

 

「そうか、こいつがお前の言ってたキュアエコーか?この俺にまで影響を与えるとは・・・チッ、他の宮にまで影響を与えたか」

 

 カインは、自分にまで影響を与えたエコーの力に、改めて驚かされた事で精神が乱れた。それは、カインが天秤宮、双魚宮に及ぼしていた幻覚が今、途絶えた事を意味していた。

 

 天秤宮では・・・

 

「エェェェ!?ど、どうなっているんですか?」

 

「シーレインが消えて、いきなりガリガリのお婆ちゃんが現れた!?」

 

「じゃあ私達は、さっきからこの魔物と戦って居たの?」

 

「どうやらそのようね。シーレインに見せかけて、私達を動揺させようという、カインの魂胆だったという所ね」

 

 ブロッサム、マリン、サンシャイン、ムーンライトは、カインの術中に嵌っていた事を理解した。幻覚が解除された事で、四人の鋭い視線を受けた老婆の姿をした魔物は狼狽えた。ブロッサム、マリン、サンシャインは一歩前に出ると、ブロッサムは後ろを振り返って、ムーンライトに話し掛けた。

 

「ムーンライト、ここは私達にお任せください。マリン、サンシャイン、行きますよ」

 

「ほんじゃまぁ、チョチョイのチョイと・・・」

 

「マリン、油断しちゃ駄目だよ」

 

 ブロッサム、マリン、サンシャインのそんなやり取りを見たムーンライトは、右の口角を少し上げて小さく頷いた。ムーンライトの許可が下りた事で、ブロッサムとマリンはタクトを、サンシャインはタンバリンを取り出すと、

 

「花よ、輝け!プリキュア!ピンクフォルテウェ~イブ!!」

 

「花よ、煌け!プリキュア!ブルーフォルテウェ~イブ!!」

 

「花よ、舞い踊れ!プリキュア!ゴールドフォルテバースト!!」

 

 ブロッサムとマリンのフォルテウェーブと、サンシャインのフォルテバーストが老婆の魔物を捉えると、

 

「「「ハァァァァァァ!!!」」」

 

 三人はタクトとタンバリンを回転させると、老婆の魔物が幸せそうな表情で宙に浮かび上がり浄化された。ムーンライトは、奥の扉の横で輝いていた灯りが消えた事に気付き、

 

「三人共、奥の扉の横の灯りが消えたわ。どうやら、この奥に行けそうね」

 

 ムーンライトの話に、ブロッサム、マリン、サンシャインも奥の扉を凝視した。

 

 双魚宮でも、エコーのハートフルエコーを受けたニクスの姿は消え、半魚人の姿を露にした魔物は浄化された。ビューティは、奥の扉の横の灯りが消えた事に気付き、

 

「灯りが消えた!?どうやら、エコーの技を受けた事が関係しているようですね」

 

「じゃあ、奥の扉を進めるのかなぁ?」

 

「だと思いますよ」

 

 ハッピーに聞かれたビューティは、小さく頷いた。サニーとマーチは、両拳を握って気合を込め、ピースは少し緊張した表情を浮かべた。エコーはハッピーに進言し、

 

「行こう、ハッピー」

 

「ウン!みんな!!」

 

 ハッピーの合図に頷いた五人と妖精達は、奥の扉を開いて奥へと入った。メロディ達も、ムーンライト達も、ピーチ達も、同じように奥の扉を進んで行った。

 

 だが・・・

 

「エッ!?ど、どうなってるの?」

 

 メロディが・・・

 

「これは!?またカインの幻覚とでもいうの?」

 

 ムーンライトが・・・

 

「な、何で魔宮を抜けた先に!?」

 

 ピーチが・・・

 

「魔宮は抜けた筈なのに・・・何で目の前にまた魔宮が現れるのぉ!?」

 

 ハッピーが・・・

 

 メロディ達は金牛宮に、ピーチ達は白羊宮に、ムーンライト達は獅子宮に、そしてハッピー達は双児宮に、四チームの目の前には、再び魔宮の入り口が現れていた。

 

「ククク、さあ、お前達にはもう一度魔宮で戦って貰うぞ。人馬宮、磨羯宮に向かったプリキュアと共に、精々利用させてもらうぞ。最も、アモンと戦うプリキュア共は、アモンの力の前では、何の役にも立たんかも知れんが、代わりは幾らでも居るのだからなぁ・・・ククク、アァハハハハ」

 

 自らの野望を叶える為、プリキュアを利用しようとするカインの嘲笑が、巨蟹宮内に鳴り響いた。

 

 

 3、人馬宮・・・戦士の誇りを取り戻せ

 

 プリキュア5とローズ、そしてココとナッツは、人馬宮の中を走り巨大な扉の前に辿り着いた。ルージュが左の扉に、ローズが右の扉に立つと、二人はタイミングを合わせて扉を開いた。不気味な音が響く中、一同が室内に踏み入るも、中は静まり返っていた。一同は周囲を見渡しながら室内を歩き始めたその時、レモネードが踏んだ床が沈み、何かの機械音が響いた。

 

「す、すいません・・・何か踏んじゃいましたぁ」

 

『エッ!?』

 

 レモネードからの報告を聞き、一同がレモネードを見たその時、人馬宮の天井から数十本の矢が、時間差で降り注いで来た。

 

『エェェェ!?』

 

 思わず変顔浮かべた一同、ドリームはココを抱き上げ、ミントはナッツを抱き上げ、一同は四方に散って矢を躱し続けたものの、次第に動きを制限されて行った。ドリームは顔色を変え、

 

「このままじゃ・・・躱しきれない」

 

「クッ・・・プリキュア!サファイアアロー!!」

 

 アクアは仲間達を救うべく、天井から落ちてくる矢に向けて、必死にサファイアアローの連射を放った。だが、全て破壊する事は出来ず、ドリーム達の周囲を矢が囲み、ドリーム、ルージュ、レモネード、ミント、ローズは、身体の動きを制限された。ローズは少しイライラしたように、

 

「こんなものぉ!」

 

 ローズは、矢を破壊しようと肘撃ちで矢に触れたその時、ローズの身体に電流が走った。

 

「キャァァァァァ!」

 

『ローズ!』

 

「だ、大丈夫・・・でも、この矢には何か細工がしてあって、触れると電流が流れる仕組みのようね」

 

 プリキュア5、そしてココとナッツがローズの身を案じて叫ぶも、ローズは苦悶の表情を浮かべながらも、冷静に一同に知らせた。アクアは一同を見回し、

 

「待ってて、何とかこの矢を破壊するから」

 

 ただ一人身動きできるアクアは、仲間達を救おうと試案を始めた。その姿を、奥の暗闇から凝視する二つの瞳があった。

 

「・・・・・グゥゥゥ」

 

 凝視して居たのは、この宮を守護するケンタウロスのアロン、アクアが弓使いと知るや、己が持つ弓と矢を持ち、ゆっくり一同の前に姿を現した。アクアは、アロンを見ると険しい表情を浮かべ、

 

「あなたがこの宮の門番ね?よくもみんなをこんな目に!」

 

 だが、アクアの問い掛けにも、アロンの表情は強張って居た。アロンの心に、カインの言葉が浮かんでくる。お前はもう操り人形だと言う言葉が・・・

 

(ち・が・う・私は・・・)

 

 アロンは心の中で葛藤しながら、手に持った弓をアクアに見せるかのようにゆっくり上げた。アクアは困惑し、

 

「どういう事!?何か私に知らせたいの?」

 

 アクアには、アロンがアクアに何を訴えたいのか分からなかった。それでもアロンの真意を探ろうと、アクアはアロンの表情から読み取ろうとした。アロンは弓を軽く叩き、振り絞るように声を発した。

 

「た・戦え・・・私と・・・弓・・・」

 

「エッ!?・・・もしかして私とあなたで、弓で勝負をしろという事?」

 

 アクアの問いに、アロンは大きく頷いた。

 

(私一人で、十二の魔神と呼ばれる者と・・・)

 

 アクアは、バルガン、ベレル、ニクスとリリスの実力を思い出し、四人の力を目の当たりにした事があるアクアは、思わず動揺した。アクア一人で、十二の魔神の一人と戦う厳しさを考えたその時、

 

『アクアァァ!』

 

 心配そうにアクアに声を掛けるドリーム達仲間達を見た時、アクアはハッと我に返った。まるで仲間達の声に勇気づけられたかのように・・・

 

(いえ、今みんなを救えるのは私だけだもの・・・絶対に負けられないわ!)

 

 アクアは不安な心を払拭し、キッとアロンを睨み付けた。

 

「勝負は受けるわ!その代わり、私の大切な仲間達に、危害を加えないと約束して」

 

 アクアの申し出を、アロンは聞き入れたとばかり大きく頷いた。アクアは、アロンに確認するかのように話し掛けた。

 

「勝負方法は!?」

 

 アロンは、背中に背負った靫(ゆぎ)と呼ばれ、矢を入れて携行した武具のような物から、矢を一本取り出した。アクアは、アロンからの勝負方法が、弓対決を求められていると悟った。

 

「私は、今弓と矢を持って居ないわ。私の技、サファイアアローを使っても良いのかしら?」

 

 アクアの問いに、アロンは大きく頷いた。アロンは、周囲の矢を破壊するも、ドリーム達五人の周囲の矢は残し、五人は未だ身動き出来ず、心配そうにアクアを見守った。アクアはサファイアアローの体勢に入り、両者の対決が始まった・・・

 

 先制攻撃を仕掛けたのはアクアで、三本のサファイアアローを放つも、アロンは難なくサファイアアローを矢で射抜いて消滅させた。ルージュは今の状況を見て、

 

「あいつ・・・強いよ。的確にアクアの攻撃に合わせていた」

 

「はい・・・アクア、大丈夫でしょうか!?」

 

 レモネードも不安そうに仲間達に話し掛けた。ミントは、そんなレモネードの不安を和らげるかのように、

 

「大丈夫よ、私達はアクアを信じましょう」

 

「そうだね・・・」

 

「エエ、アクアならきっと大丈夫」

 

 ミントの言葉に、ドリームとローズも同意し、レモネードも小さく頷いた。

 

(流石にやるわね・・・)

 

 アクアは、迂闊な攻撃を仕掛けては、アロンに隙を突かれると警戒したが、アロンはそんなアクアを嘲笑うかのように駆け出した。アクアの周囲を、円を描くように駆けまわるアロンの姿が、次第に目で追えなくなっていった。

 

(は、速い!?)

 

 どこからアロンが矢を射るのか読めず、アクアの顔から冷や汗が垂れてくる。

 

「何て速さ!?動きが見えない」

 

 ルージュも、アロンの速さに思わず驚きの声を上げた。アクアは、牽制の意味も込めてサファイアアローを一矢放つも、アロンの残像を通り過ぎて行っただけだった。

 

(ど、どうすれば!?)

 

 動揺するアクアに対し、アロンは的確に矢を放ち、アクアは抜群の運動神経で何とか躱すも、矢はアクアの身体をかすり、徐々にアクアを追い詰めて行った。

 

「キャァ!」

 

『アクアァァ!』

 

 アクアは、矢を躱した拍子に体勢を崩し、仲間達がアクアを心配して声を掛けた。アクアは心の中で自分自身を鼓舞し、

 

(負けられない・・・)

 

 仲間達への思いが、アクアの集中力を高めた。アクアは、アロンからの蹄の音に、ある一定のリズムがある事に気付いた。アクアは目を瞑り、そのリズムのタイミングを取り、サファイアアローの体勢に入った。

 

(今だ!)

 

 アクアは目を見開き、宙に飛び上がるとサファイアアローを放った。サファイアアローは、見事にアロンの足下をかすめ、アロンの体勢が崩れた。

 

「グゥゥゥゥゥ!?」

 

 完全に動きが止まったアロンに対し、アクアは再びジャンプすると、

 

「今よ!プリキュア!サファイア・・・!?」

 

 アクアは、このチャンスを逃さないよう、再びサファイアアローを放とうとするも、何故かアクアの動きが止まった。

 

(何故・・・矢を放たない!?)

 

 アロンはアクアの行動を訝りながらも、体勢を崩しながらアクア目掛け矢を射った。矢はアクアのサファイアアローを消滅させ、アクアはそのまま地面に倒れ込んだ。

 

「キャァァァァ!」

 

『アクアァァァ!』

 

 ドリーム達がアクアの身を心配し叫ぶと、アクアは仲間達に無事だと知らせるように、

 

「クッ・・・だ、大丈夫よ。でも・・・」

 

 アクアは、サファイアアローを消滅させられた。アロンはアクアに矢を向け、何時でもアクアに止めを刺せる態勢を取っていた。アクアは、アロンとの勝負に敗れた事を悟り言葉が途切れ、仲間達の期待に応える事が出来ず思わず俯いた。

 

(何故あのプリキュアは・・・矢を放たなかったのだ!?)

 

 アロンはアクアの行動に疑問を持ち、何気なく背後を振り返った時、アクアが矢を放たなかった真相に気付いた。アロンの背後には、レモネードの姿があった事から、アクアは、アロンがサファイアアローを躱す事態を考え、矢を放つのを躊躇った事を悟った。アロンは、矢の構えを解くと、

 

(そういう・・・事か。敵ながら、仲間を思うその心は・・・正に戦士!だが私は、奴の仲間を利用し・・・私は、戦士失格だ・・・グゥゥゥゥ)

 

 アロンは、頭を抱えて苦しみ呻き出した。アクアはハッとし、思わずアロンの方を見た。医者を目指して居るアクアとしては、例え今まで戦った敵とはいえ、相手の異変を目の当たりにしては、放って置く事は出来なかった。アクアは立ち上がり、アロンに駆け寄ると、

 

「ど、どうしたの!?何処か具合でも悪いの?」

 

「グゥゥゥゥ・・・ウォォォォォォォォ!」

 

 アロンは、心の中のどす黒い感情を吐き出すかのように雄叫びを上げると、心の中のモヤモヤが晴れて行くのを感じた。アロンは、心配そうにアロンを見つめるアクアを、穏やかな表情で見つめた。

 

「い、今の勝負は・・・私の・・・負けだ」

 

「エッ!?」

 

 アロンの敗北宣言に、虚を突かれたアクアも、ドリーム達も驚くも、尚もアロンは話を続け、

 

「わ、私は・・・カインの術に逆らえず・・・卑怯にもお前の仲間達を人質同然にして、お前に勝負を挑んだ。あの時、私に勝利するチャンスだったお前が、思わず攻撃を躊躇したのは、私の背後に居た仲間を思いやっての事であろう?」

 

「そ、それは・・・」

 

 アクアは、思わず言葉に詰まった。確かにアロンの言う通り、あの時アロンの背後にはレモネードが居た。もしもアロンがサファイアアローを躱したらと考えると、勝負と仲間への危険度を考えた時、アクアは勝負よりも仲間の身の安全を優先したが、それを口にするのは言い訳に思えた。アロンは頷き、そんなアクアの心情を改めて理解した。

 

「お前のその心・・・まさに戦士!」

 

 アロンは、ドリーム、ルージュ、レモネード、ミント、ローズの周囲の矢を破壊すると、解放された一同が身体を動かし、互いの無事な姿を見て安堵した。アロンは五人に近付くと、

 

「カインに操られ、心の中に命じられるまま、お前達を利用した事、何と詫びればよいか・・・申し訳ない」

 

 アロンはそう言うと五人に頭を下げた。ドリーム達は、穏やかな表情で顔を見合わせると、

 

「ウウン、気にしてないよ。悪いのはあなたを操ったカインだし・・・ねぇ、みんな?」

 

「「「「ウン」」」」

 

 ドリーム達五人はそう言うと、アロンに笑みを浮かべた。アロンは、アクア、ドリーム、ルージュ、レモネード、ミント、ローズ、そしてココとナッツ、順番に一人づつ顔を見つめると、

 

「改めて詫びを言わせて貰おう。私の名前は、アロン!人馬宮を守る十二の魔宮の戦士だ。奥の扉を見てくれ・・・先程の戦いの後、扉の横の光が消えた。普段は消えた事など無いのだが・・・カインは、お前達プリキュアの力を、何かに利用しようと考えているから、くれぐれも用心してくれ。何かあれば、及ばずながら私も今回の借りを返す為に、お前達の力になろう」

 

 アロンはそう言うと、アクアに右手を差し出しだした。アクアも笑みを浮かべながら、右手を出してアロンと握手を交わすと、

 

「エエ、あなたの言葉、感謝するわ」

 

 アクアとアロンは、互いに頷き合うと右手を解いた。アロンは奥の扉を凝視し、

 

「では、奥の扉を進むが良い。きっとお前達の仲間なら、他の宮を出て居るだろう」

 

「ウン、行こうみんな!」

 

 ドリームの声に他の一同が頷き返し、プリキュア5とローズは、奥の扉目指して歩き出した。

 

 

 4、磨羯宮・・・光と闇の精霊

 

 磨羯宮へと突入したブルーム、イーグレット、ブライト、ウィンディは、巨大な扉を開き中へと入った。だが・・・

 

「「「「キャァァァァァァァ!!」」」」

 

 室内に入った四人は、獣の咆哮を聞いた瞬間、真横の壁に激しく叩きつけられ悲鳴を上げた。一体何が起こったのか、四人は軽く頭を振りながら室内を見わたすと、中央に仁王立ちする魔物から、物凄いプレッシャーが浴びせられた。その魔物は、頭部の左右から二本の大きな角を生やし、下半身は茶色い毛に覆われた屈強な体軀をして居た。十二の魔神と言われる者の中でも、四神の一人に数えられる古の魔獣・・・アモン!

 

「クッ・・・あ、あんたがこの宮の!?その姿・・・もしかして、アモン!?」

 

 険しい表情をしたブルームは、目の前で仁王立ちするアモンを見た。嘗てシーレインから聞いた話では、アモンは厳つい風貌ながら、弱者を庇う義に熱い人物で、シーレインが心を許す同志と聞いていた。だが、今目の前に居るアモンは、戦いに荒れ狂う魔獣のようであった。イーグレットは、説得するかのようにアモンに話し掛け、

 

「あなたがアモンなら・・・聞いて!私達はプリキュアと言って、シーレインとは友・・・」

 

 だがアモンは、イーグレットの言葉が終わる前に、その場で腕を振り、衝撃波を繰り出して再び攻撃を仕掛けて来た。ウィンディは、イーグレットの身体を抱きながら、横っ飛びでアモンからの攻撃を躱した。

 

「あ、ありがとう、ウィンディ」

 

「エエ・・・どうやら問答無用ってみたいなようね」

 

 ウィンディとイーグレットが、態勢を整えるのをフォローするように、二人の前にブルームとブライトが立つと、

 

「ブルーム、あれがアモンなら、シーレインから聞いた話とは、大分違うのが少し気に掛かる」

 

「ウン、あたしも気になってた」

 

「あれでは、まるで感情をぶつけてくる獣のよう・・・来るわよ」

 

 ブライトは話を中断し、仲間達に注意を促しながら身構えた。ブルームと、態勢を整えたイーグレットとウィンディも身構え、アモンからの攻撃に備えた。アモンは突進し、四人目掛けて太い丸太のような右腕を振って攻撃した。四人は咄嗟に両腕を出してアモンの右腕を受け止めたものの、アモンは構わず右腕を振り切った。四人はその威力に後ろに押されるも持ち堪えた。

 

「このままじゃ・・・」

 

「エエ、私達の身が持たないわ」

 

「やるしかないようね」

 

「こっちも本気で行くわよ」

 

 ブルーム、イーグレット、ブライト、ウィンディの目付きも変わり、四人もアモンに対し攻撃を開始したものの、アモンは、まるで掛かって来いとばかり腕組みした。ブルームは拳を握ると、

 

「バカにしてるの!?ハァァァァァ!」

 

 ブルームの渾身の右パンチがアモンのボディに炸裂するも、アモンは動じなかった。更にアモンの頭上からイーグレットとウィンディが同時に踵落としを、ブライトが勢いを付けアモンの腿に蹴りを放つも、アモンはびくともしなかった。ブルームは険しい表情を浮かべ、

 

「何て頑丈なの!?」

 

「ウォォォォォォ!」

 

「「「「キャァァァァァ!」」」」

 

 アモンがその場で咆哮した瞬間、四人は何かに体当たりされたかのように吹き飛ばされた。何とか態勢を立て直して着地すると、四人が見つめ合い、ブルームとイーグレット、ブライトとウィンディがそれぞれ手を繋いだ。

 

「「精霊の光よ!命の輝きよ!」」

 

 イーグレットとウィンディが同時に叫び、

 

「「希望へ導け!二つの心!」」

 

 それに応えるように、ブルームとブライトが同時に叫ぶ。

 

「「プリキュア!スパイラル・ハート・・・」」

 

「「プリキュア!スパイラル・スター・・・」」

 

「「「「スプラ~~ッシュ!!!」」」」

 

  精霊の力を凝縮させた、四人のプリキュアが同時に放った合体技が、アモン目掛け炸裂した。

 

「ウォォォォォォ!」

 

 アモンの眼光が金色に輝き、アモンは両腕を一旦後ろに引くと、四人の技に合わせるかのように、一気に前に突き出した。アモンの両腕が四人の技に接触すると、アモンは更なる雄叫びを上げた。

 

「グゥゥオォォォォォォ!!」

 

 アモンは咆哮と共に、前に突き出した両腕を左右に開くと、あろう事か四人の必殺技は、アモンの目の前で掻き消された。

 

「そ、そんな!?」

 

「嘘!?」

 

「わ、私達のスパイラルスターとスパイラルハートを!?」

 

「掻き消したの!?」

 

 ブルームが、イーグレットが、ブライトが、ウィンディが、目の前の光景を信じられず、呆然とした表情を浮かべた。アモンは、呆然として隙が出来た四人に、失望したかのように咆哮すると、四人目掛け突進し、両腕を水平にしながら、右腕にブルームとイーグレットの首を、左腕にブライトとウィンディの首を捉え、そのまま勢いよく壁際まで運び、四人の身体を激しく壁に激突させた。

 

「「「「キャァァァァァ!!」」」」

 

「ウォォォォォォォ!」

 

 アモンは咆哮し、四人に対してまるで地獄の炎のような火炎を口から浴びせた。激しい爆発音で宙に吹き飛ばされ、四人はその勢いのまま地面に叩きつけられた。

 

「ブルーム、しっかりするラピ!」

 

 フラッピのそんな励ましも、ブルームの耳には届かず、ブルームの意識は次第に遠のいていった。

 

(あいつ・・・強い・・・歯が・・・立たない)

 

 そんなブルームの脳裏に、ダークフォールの戦士達やアクダイカーン、そして、真の黒幕ゴーヤーンと戦った時の記憶が流れた。

 

(負け・・・られない・・・あの時のように・・・・)

 

 ブルームは発奮し、何とか身体を動かそうとするも、手の指先を動かす事がやっとだった。それは他の三人も同じで、花鳥風月の四人は、アモンの前に敗れ去ろうとしていた。アモンは、そんな四人に止めを刺そうとするかのように、ゆっくり近づき始めたその時だった。花鳥風月四人の耳に、何かの声が聞こえて来た。

 

(アモン、止めて!)

 

(アモンは、本当は優しい人・・・)

 

(お願い、アモンを助けて!)

 

 花鳥風月の四人にはそう聞こえていた。最初は幻聴かとも思ったが、確かに自分達に話し掛けているようだった。

 

(フラッピ!?)

 

(チョッピなの!?)

 

(ムープ!?)

 

(フープ!?)

 

 最初はフラッピ、チョッピ、ムープ、フープ、自分達のパートナーの声だと思ったが、意識が段々戻って来ると、それがフラッピ達とは違う何かの声だと認識出来た。ブルームは、声に問うように話し掛け、

 

「あなた達は・・・誰!?」

 

(私達は、この魔界に住む精霊)

 

(アモンは、私達を何時も助けてくれたの)

 

(でも、アモンは最近急に変わってしまって・・・)

 

(お願い、アモンを助けて!!)

 

 嘗てのプリキュア合宿での成果か、四人には魔界に住む精霊の助けを求める声が聞こえた。魔界に住む精霊達の助けを求める声が、花鳥風月四人の気力を、再び奮い立たせた。何とか起き上がろうとする四人の姿に、思わずアモンの歩みが止まった。アモンのあれだけの攻撃を受けて立ち上がれる者など、この魔界においてもそうそう居るものでは無かった。

 

「負け・・・られない・・・あたし達は、こんな所で」

 

「負け・・・られない・・・みんなと再び会う為にも」

 

「負け・・・られない・・・私達に協力してくれたキャミーや大蛇達」

 

「負け・・・られない・・・バハムート達が力を貸してくれた事を、無駄にしない為にも」

 

「「「「魔界の精霊達の為にもぉぉぉ!!」」」」

 

「ヌゥゥゥゥ!?」

 

 花鳥風月の四人は、ヨロヨロしながらも、再び立ち上がった。その瞳の闘志は先程以上に燃え上り、思わずアモンが唸った。

 

『私達の力も使ってぇ!』

 

 魔界に住む精霊達が、花鳥風月に今新たなる力を与えた!

 

「す、凄い力を感じるラピィ」

 

「こんな感じ、初めてチョピ」

 

「チョッピ、ムープ、フープ、力を解放するラピ」

 

 フラッピの合図と共に、フラッピ、チョッピ、ムープ、フープの光の精霊達が、体内に宿った精霊の力を解放しようとしていた。

 

「月の力」

 

「風の力」

 

「大地の力」

 

「大空の力」

 

 フラッピの言葉を合図に、体内に宿る力を解放した時、ブルーム、イーグレット、ブライト、ウィンディが、目を瞑って手を繋ぎ合い、四人の身体を凄まじい光が覆うと、四人の背に黄金の天使の羽が付き、四人の衣装は光輝き続けていた。

 

「凄い力を感じる」

 

「エエ、私達に新たな力が・・・」

 

「協力してくれた魔界の精霊達の為にも」

 

「私達は負けられない」

 

「「「「アモンを必ず救う!」」」」

 

「ヌゥゥゥゥゥ!?」

 

 驚愕するアモンの前で、スプラッシュブルーム、スプラッシュイーグレット、スプラッシュブライト、スプラッシュウィンディとして覚醒し、光と闇の精霊の力を解放した花鳥風月の四人から、目映い光が弾け続けた。まるで体内に漲る精霊の力が、体内に収まりきらないかのように・・・

 

 スプラッシュブルーム、スプラッシュイーグレット、スプラッシュブライト、スプラッシュウィンディと化した四人は、ゆっくり目を見開くと、アモンは咆哮して四人を先程同様、両腕を水平にしながら、右腕にブルームとイーグレットの首を、左腕にブライトとウィンディの首を捉えようとするも、四人はその攻撃を左手で受け止め、アモンに対し悲し気な視線を向けた。

 

「「「「ヤァァァ!」」」」

 

 四人は気合いと共に、残った右腕でアモンの身体に右パンチを浴びせると、アモンの巨体が吹き飛んだ。

 

「ウォォォォォ!?」

 

 アモンは壁に激突する寸前で何とか態勢を整えるも、さっきまで瀕死だった四人が、まるで別人のように変わった事に驚きを隠せなかった。アモンは激高し、雄叫びを上げて尚も四人に突進してくると、四人は向かって左からブライト、ブルーム、イーグレット、ウィンディの順に並び、扇形の陣形を取って左手を重ね合った。

 

「光と闇の精霊よ!」

 

 イーグレットが・・・

 

「奇跡の力を!」

 

 ウィンディが・・・

 

「今、プリキュアと共に!」

 

 ブライトが・・・

 

「解き放て!」

 

 ブルームが・・・

 

「「「「プリキュア!スターライトォォォ・・・スプラァァァッシュ!!」」」」

 

 四人が右手を前に突き出すと、星の輝きのような弾ける光が膨れ上がり、やがて弾けながら、突進してくるアモンの身体を飲み込んだ。アモンの巨体はその勢いのまま、まるで天ノ川を流れていくかのように、激しく壁に激突した。

 

「ウォォォォォォ!?」

 

 スターライトスプラッシュの光の中で、アモンの心の中に植え付けられた負の感情が、星の輝きで照らされ、弾ける様に消えて行った・・・

 

(俺は・・・俺は、今までどうして居たのだ!?双児宮でアベルと戦い・・・俺は・・・そ、そうだ!俺は、シーレインに・・・)

 

 アモンの意識が活性化されていくと、カインに操られ、シーレインの処刑に賛成した時の悔恨が思い返されていた。

 

(俺は・・・俺は・・・)

 

 アモンの巨体が、壁から力なく崩れ落ち、実体化した魔界の精霊達が、そんなアモンを心配してアモンの側に近付いて行った。アモンは、そんな精霊達を穏やかな目で見つめながら、

 

「俺は、お前達をも威嚇し続けて居たのだな・・・済まぬ」

 

『アモン!』

 

 アモンが元に戻ったと知り、魔界の精霊達は嬉しそうにアモンに纏わりついた。そんな様子を、ブルーム、イーグレット、ブライト、ウィンディの四人も、目を細めて見守り、四人のスプラッシュフォームは解除され、何時もの姿に戻った。アモンはゆっくり起き上がり、四人に近付いて来た。

 

「お前達が・・・プリキュアか?」

 

「ウン!あたしはキュアブルーム」

 

「私はキュアイーグレットよ」

 

「キュアブライト」

 

「キュアウィンディだ」

 

 四人はアモンに対し、簡潔に自己紹介をすると、アモンは頷き、

 

「俺はアモン!この磨羯宮を守護するものだ。お前達の力・・・見事だった!そして、俺をカインの呪縛から解き放ってくれた事・・・礼を言う」

 

「ウウン、魔界の精霊達があたし達に力を貸してくれたから、あたし達はあなたを元に戻せたんだよ」

 

 ブルームはそう言うとニンマリ微笑み、イーグレット、ブライト、ウィンディも笑みを浮かべた。

 

(不思議な奴らだ・・・今まで自分達の事を殺そうとして居た俺に、そんな顔をみせるとはわなぁ)

 

 アモンはそう言うと、自分でも自然と顔が綻んだ。だが、元々厳つい顔のアモンの笑みは、ブルーム達には少し不気味に見えるのだった。

 

「さあ、門を抜けるが良い!カインとアベルが、何を企んで居るかは俺にも分からんが、お前達を利用しているのは確かなようだ。お前達が魔宮を抜ければ、何か動きがあるかも知れん」

 

「分かった!イーグレット、ブライト、ウィンディ、行こう」

 

「「「エエ」」」

 

 四人は、アモンに別れを告げ、磨羯宮を後にしようとして居た・・・

 

 

 巨蟹宮・・・

 

「バカな!?あのアモンを倒しただと?」

 

 カインは目を見開くと、思わずブルーム達がアモンに勝利した事が信じられなかった。ソドムはゆっくり目を開くと、

 

「不思議ではあるまい・・・今までの奴らの戦いを見ればなぁ」

 

「ムゥゥ・・・まあいい、磨羯宮に施されていた光の封印は解けたのだからな。だが、プリキュア・・・此処までとは・・・」

 

 カインは、ただ利用するべき存在と見ていたプリキュア達だったが、自らの予想を超える力を示すプリキュア達に、一層警戒感を深めた・・・

 

 

 5、魔王を待つ者

 

 魔王はモグロスに連れられ、魔王の正体を知る人物に会うべく、魔界を歩き続けたものの、中々その人物は現れなかった。雪山、火山群を抜けると、再び大きな森に出て歩き続けた。

 

「おい、何時になったら着くカゲ?」

 

「オォホホホ、もう直ぐですよ」

 

「その言葉は何度も聞いてるカゲェ!」

 

 魔王は、何処か小馬鹿にするようなモグロスにイライラしながらも、自分の事を知って居ると言う者に会う為グッと我慢をしていた。自分が何者なのか?という疑問がようやく分かると思えば、これぐらいの事は耐えねばとは思った。森を抜け、拓いた場所に出ると、モグロスは足を止めた。

 

「着きましたよ、魔王さん・・・此処が癒しの大樹!この大樹の上にこそ、あなたが来るのを待ち侘びている方がいらっしゃいます」

 

「癒しの大樹!?・・・・・何か聞いた事がある気がするカゲ?」

 

 魔王は、癒しの大樹という言葉を聞くと、プリキュア達と別れる前の出来事を思い出して居た。プリキュア達は、魔界シンドロームに掛かったベリー達を治癒する目的で、癒しの大樹の側の癒しの泉に向かった事を思い出した。見る見る魔王の目付きが鋭くなり、

 

「お前ぇぇ!俺を騙したカゲェェ!!」

 

「おやおや、何の事でしょうか?」

 

 惚けるモグロスを見て、益々魔王は目を吊り上げ、

 

「惚けるなぁぁ!みゆき達が向かったのは、癒しの泉カゲ・・・つまり、この大樹の側カゲェェ!!」

 

「まあ、反対側ですけどね」

 

「うるさいカゲ!よくも俺を騙したカゲなぁぁぁ!!」

 

 激高する魔王を落ち着かせるように、モグロスは両腕を前に突き出して軽く手を振った。魔王の怒りが、そんな事で収まる筈も無かったが、モグロスは、まだ文句を言おうと言う魔王を制し、

 

「まあまあ、魔王さん落ち着いて下さい。あなたを遠回りさせてまで、この魔界を案内した事には理由があるのです。それは魔王さん、あなたはこの魔界の王に・・・なる資格があるからなのですよ」

 

「俺が!?魔界の王?・・・興味無いカゲ」

 

 モグロスに、魔界の王になれる資格を持つと言われた魔王だったが、魔王は心底そんな事に興味は無かった。絵本の世界のニコや、プリキュア達と共に過ごした日々の方が、魔王には楽しかったし大事だった。モグロスは、そんな魔王を見てニヤニヤしながら、

 

「まあそれは、あなたを待つ方と出会ってからお決めになればよろしいでしょう・・・では魔王さん、プリキュアの皆さんは、どうやら十二の魔宮に無事到着したようですし、名残惜しいですが、わたくしとは此処でお別れです」

 

「待つカゲ!まだ話は終わって・・・」

 

 魔王が慌てて話を続けようとするも、珍しく真顔のモグロスを見て押し黙った。モグロスは、十二の魔宮の方角に視線を向けると、

 

「もう直ぐ地獄門が開くでしょう。この魔界のみならず、人間界をもその視野に捕らえたある者達が、真の力を取り戻し、人間界に災いもたらし時、五人のプリキュア達の身に・・・・・いや、止めておきましょう」

 

 モグロスは話を途中で中断し、帽子を深く被り直した。魔王は、モグロスの言葉を聞いて思わず驚いた表情を浮かべると、モグロスに思わず問いかけた。

 

「おい!今気になる言い方したカゲなぁ?五人のプリキュア達って・・・みゆき達か?のぞみ達か?それとも、闇の五人組の事カゲ?」

 

 魔王はモグロスの言葉が気になった・・・

 

 みゆき達やのぞみ達、ダークプリキュア5の事なのか、それともプリキュア達の中の五人の身に何かが起こるのか、気になって仕方なかった。モグロスは涼しい顔で背後を向き、モゾモゾ身体を動かして振り向くと、モグロスの手に大きなハンマーが握られていた。魔王の顔から汗が流れ、脳裏に嫌な予感が漂った。

 

「おい!それは一体何の為に取り出したカゲ?」

 

「さぁ、お行きなさい!あなたを待つ者の場所にぃぃぃ!!」

 

 モグロスはそう言うと、ハンマーを後方に大きく振り、勢いを付けて一気にアッパースイングで、魔王の身体を思いっきり上空に打ち上げた。

 

「カゲェェェェェェ!覚えてろぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 魔王は涙目浮かべ、捨て台詞を穿きながら上空高く消え去った。モグロスはハンマーを下ろし、額に右手を付けて上空を見上げると、

 

「オ~ホッホッホッホ!飛びましたねぇ・・・さて、私も魔王城に向かいますか・・・オ~ホッホッホッホ」

 

 モグロスは、笑い声を響かせながらその場を去って行った・・・

 

 

「イテテテテ・・・あいつ、次に会ったら絶対許さないカゲェ!」

 

 癒しの大樹の上は、蔦が入り組み、曇が周囲を包み込んで居た。癒しの大樹の上に到着した魔王は、モグロスの行為に怒っていると、

 

「フフフ、ようやく会えたね」

 

「カゲ!?」

 

 魔王に何者かの声が聞こえて来た。何処か優しそうな声でもあり、哀しそうな声にも聞こえた。魔王は思わず振り返ると、そこにはゆっくり魔王に近付いて来る、黒髪の少年の姿があった。背中からは、片側五枚ずつ計十枚の黒い翼を持つ少年の姿を・・・

 

「お前が・・・!?」

 

 そう少年に話し掛けようとした魔王は、思わず言葉を失った。何故なら、その少年の姿は透けて居たのだから・・・

 

「お前は、一体誰カゲ!?」

 

 気を取り直した魔王は、少年に声を掛けると、少年は微笑を浮かべながら自己紹介を始めた。

 

「僕の名前は・・・ルーシェス!この世界の者達は、僕の事をこう呼んで居るよ・・・魔王ルーシェスとね」

 

「カゲェェェ!?」

 

 魔王は、自分の記憶の事を知って居る人物が、この魔界の王ルーシェスだと聞き、驚きを隠せなかった・・・

 

             第百三十二話:十二の魔宮(前編)

                     完

 




 大変間が空きましたが、第百三十二話投稿致しました。
 今回と次回は、十二の魔宮での戦いが中心になっております。

HUG・・・
 しばらく休んでいる間に、最終回になっちゃいましたが、本編にブラックとホワイトが出て来るわ、オールスターズ見られるわ、主人公の出産シーンやるわと凄い冒険した作品でしたし、育児メインの作品という事で、HUGのラストは子供抱いたはな達で〆るとは思ってましたが、出産シーンからのコンボは恐れ入りました。
HUGプリ関係者の皆さん、一年間お疲れ様でした。HUGプリ、個人的には大好きな作品でした。次作のスタプリも楽しみにしております。

 ifの構想では続編で終了させるつもりだったのに、はな主役にした第三部の構想まで浮かんでしまいました。今作を第一部、第二部を真琴中心にした次世代、第三部をHUGとプリアラ中心にした話にして、スタプリも顔出し出来ればなぁ・・・と絵空事も浮かべて、個人的に楽しんでます。
まあ、第一部さっさと終わらせろって感じ何ですけど、後十数話で第一部は完結する予定です。第二部をどうするかは、また完結した後にお知らせ出来ればと考えております。

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