プリキュアオールスターズif   作:鳳凰009

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第十三話:せつなの帰還

                 第十三話:せつなの帰還

 

 この日は、ラブ達の街、クローバータウンストリートに一同がやって来る日だった。

 

 ラブ達は、自分達の街が最後になる事で、朝早くから一同に楽しんで貰おうと、ラブの家に集まり、色々計画を練るのだった。

 

 シフォンとタルトは、スウィーツ王国に帰っていて、今回も当然来たがったのだが、頻繁に四つ葉町に行くタルトに疑念を持った、タルトの許嫁であるアズキーナに、四つ葉町に好きな人でも出来たのねと泣かれ、渋々断念したタルトだったが、今回参加出来ない事を残念がっていた・・・

 

「やっぱり、カオルちゃんのドーナツ屋さんは外せないよね?ミユキさんにもみんなを会わせたいけど・・・ミユキさん、今日は隣の県に仕事で出掛けちゃったしなぁ」

 

「そうねぇ・・・代りと言っては何だけど、あたし達のダンスを見て貰う何てどう?」

 

「エェ!?最近私達、ダンスの練習してないし、大丈夫かなぁ?」

 

 ラブ、美希、祈里が相談している最中も、せつなはどうも何かを考えている様子に、三人は顔を見合わせて表情が曇った。

 

「せつな、どうしたの?」

 

「エッ!?ううん何でもないの・・・」

 

 何かを思案しているせつなに気付いてはいたものの、せつななら、きっと自分から話してくれるだろうと信じて待つ三人だった。

 

「話は変わるけど、あたし、この日が来るのを待ち兼ねてたのよねぇ!なぎささんに・・・あの時の仕打ちを返せるこの時を!!」

 

「み、美希たん・・・まだあの時の事、根に持ってたの?」

 

 嘗てTAKO CAFEで、なぎさにたこ焼きを無理矢理食べさせられた事がある美希は、なぎさへのリベンジに燃えて居た。気合いが入る美希の姿に、ラブも祈里も、歓迎会何だけどなぁと苦笑を浮かべた。

 

「そこで・・・せつな、お願いがあるんだけど?」

 

「エッ!?何、美希?」

 

 突然名前を呼ばれて、驚いたせつなが美希に問うと、美希は少し口元に笑みを浮かべながら、

 

「悪いんだけど、ラビリンスに居るサウラーを呼んで貰えないかしら?」

 

「サウラーを?別に良いけど・・・どうして!?」

 

「それは・・・内緒!じゃあ、悪いけど頼むわね!!」

 

 美希の口元がニヤけるのを見て、ラブ、祈里、せつなは、思わず顔を見合わせて、美希が燃えている姿に目が点になった・・・

 

 

「しかし、イースの奴は中々戻ってこんなぁ?」

 

「まあ、息抜きは必要だ!幸いラビリンスの人々も、大分自由を取り戻したことで、笑顔が自然と溢れるようにはなったんだからな」

 

「ああ、最初はメビウスに支配されていた人々が、突然自由を手に入れた事で戸惑っていたからな・・・我らも苦労したものだ」

 

 ラビリンスに居るウエスター、サウラーが、およそ一年前の出来事を思い出し、当初の苦労を思い返していた。突然手に入れた自由に喜ぶ者、何をしたらよいか戸惑う者、そんな人々の先頭に立って引っ張ってきたのが、せつな、ウエスター、サウラーだった。

 

 当初は、彼らの行いに耳を貸さなかった人々も、次第に耳を傾け始め、ラビリンスも、ラブ達の街クローバータウンストリートのように、人々が自然と笑顔が出るまでになってきていた。

 

 そこに光を帯びて、せつなが、ラビリンスにある三人で打ち合わせに使っている部屋に帰って来た。

 

 突然せつなが戻って来た事で、驚いたウエスターは思いっきり仰け反った。

 

「イ、イース、ビックリさせるなぁ!!」

 

「フッ、帰ったのか・・・その割には表情が冴えないが?」

 

「エッ!?そ、そんな事無いわ!それより、サウラー!私と一緒に、クローバータウンストリートに行って貰えないかしら?」

 

 せつなの言葉を、意外そうな表情でサウラーが見つめた。戻って来て早々、せつなが意外な言葉を発した事に疑問を持った。

 

「僕に、君と一緒にクローバータウンに来いだって?一体何の用だい!?」

 

 せつなは、美希に頼まれた事をサウラーに伝える。その間、ウエスターは、自分も当然呼ばれているだろうと考え、自分を指差しせつなにアピールしていたが、せつなは無視していた。

 

「フム、プリキュアには借りがあるからな・・・分かった、行こう!!」

 

 サウラーはゆっくり立ち上がり、スイッチオーバーと唱えると、四つ葉町での仮の姿である南瞬の姿に変わる。

 

「イース、向こうの世界に行くなら、この姿の方が良いだろう?」

 

「ええ」

 

 サウラーがせつなの側に歩き出す。せつなは、サウラーが了承してくれた事にホッと安堵すると、

 

「ありがとう、サウラー!美希も喜ぶわ!!」

 

 そんな二人とは対照的に、蚊帳の外にされたウエスターは、不服そうな表情でせつなを見ると、

 

「ちょ~~と待った!イース!俺は、俺は、誰に呼ばれて居るんだ?」

 

「誰も呼んでないわよ・・・じゃあウエスター、留守を頼むわね!!」

 

 誰にも呼ばれていないとせつなに冷たく言われ、ショックを受けるウエスターに、せつなは留守番を頼むのだった。

 

 ウエスターを残し、サウラーと共にクローバータウンに戻ろうとしたせつなが、アカルンを呼び出し、今戻ろうとしたその時、

 

「スイッチオーバー!!待てぇ!俺も、俺も一緒に連れて行けぇぇぇ!!」

 

 四つ葉町での姿、西隼人になったウエスターが、雄叫びを上げて猛ダッシュしてきた事に驚くせつなとサウラー、無理矢理せつなに抱きついたウエスターは、偶然せつなの胸を触ってしまい、

 

「キャッ!ちょ、ウエスター・・・何処触ってるのよぉぉ!!!」

 

 顔を赤くしながら、ウエスターを引き離そうとするせつなだったが、ウエスターも加えた三人は、そのままクローバータウンストリートへと向かった・・・

 

 

 カオルちゃんのドーナツ屋で、飲み物を飲みながらせつなの帰りを待つラブ達三人、そこに体勢を崩しながら、三人が現われる。ラブ、美希、祈里は、思わず飲んでいたジュースをそのままに、目を点にしながら呆気に取られていた。

 

「もう、ウエスター!何のまねよ?呼ばれたのはサウラーだけ何だから、留守番してればいいでしょう!」

 

「イース・・・冷たい事言うなよ!俺達三人は、一心同体見たいなもんじゃないか?」

 

 ウエスターの言葉に、せつなも、サウラーも、冷めた目をしながら首を横に振り、ショックを受けたウエスターは、義兄弟であるカオルに慰められ、久しぶりに食べるカオルのドーナツを味わうのだった。

 

「せ、せつな・・・あれ、いいの?」

 

 カオルに慰められているウエスターを指差し、ラブは目を点にしながらせつなに言うものの、

 

「いいのよ!勝手に追いて来たんだし・・・美希、サウラーを連れて来たわよ!」

 

 せつなは、少し言い過ぎたかなとチラリとウエスターを見るものの、直ぐに美希に向き直り、サウラーを連れて来た事を報告する。呆気に取られていた美希は我に返り、

 

「あ、ありがとう、せつな・・・」

 

「君かい、僕に用があるのは?」

 

 サウラーは、美希が座っている側に椅子を持ってきて腰を下ろす。美希は口元に少し笑みを浮かべながら、

 

「ええ、サウラー・・・あなたにお願いがあるの!あなた、相手の心理を利用して攻撃するの、得意だったじゃない?そこで、ちょっとあたしに力を貸して欲しいの」

 

 美希はそんなつもりで言った訳では無かったが、何か嫌みを言われているように感じたサウラーは、微妙な表情を浮かべるも、

 

「ま、まあ、それは褒め言葉と受け取っておくよ・・・で、僕に力を借りたい事って何だい?」

 

 美希はサウラーの耳元で、暖めてきた作戦をサウラーに伝える。サウラーは興味深げに美希の言葉を聞いていると、

 

「ほう・・・中々面白そうだが、詰めが甘いね!」

 

「エッ・・・そうかなぁ!?」

 

「ああ、先ずはもっと相手の事を調べるべきだと思うが、君の標的の事を詳しく知っている子は居ないのかい!?」

 

 サウラーの忠告に、美希は腕を組んで考え込むと、頭の中に浮かぶのは、ほのか、ひかり、メップル、ミップル、ポルン、ルルンだった。

 

(確かにこのメンバーなら、なぎささんの事を詳しく知ってると思うけど・・・)

 

 美希が頭の中で整理を始めると、真っ先にポルンとルルンは頭から消え、ミップルもほのかの事なら知ってそうだがと消し、ほのかとひかりは聞けば教えてくれるだろうが、この事がバレたら、ひかりは兎も角、ほのかに怒られそうだと思い悩み始める。

 

(なぎささんの話によると・・・ほのかさん、怒らせると凄いらしいからなぁ・・・)

 

 美希の脳裏に最後まで残ったのはメップルだった。

 

「思い当たる人物が居たようだね」

 

「ええ、後はメップルが来てからね・・・あたし、完璧!!」

 

 自信満々で拳を握る美希、動じずコーヒーを飲むサウラーの二人を見て、呆れながら惚けるラブ、祈里、せつなであった・・・

 

 

「う~ん、前に来た時はシロップに連れて来て貰ったし、砂漠化してたからあれだけど・・・この前来た時とは、まったくイメージ違うよね」

 

 四つ葉町の駅でみんなと待ち合わせていたなぎさ、ほのか、ひかりは、咲達、のぞみ達、つぼみ達と合流し、改札を出た後、辺りをキョロキョロする。それもその筈で、前に来た時は、デザートデビルに苦戦するピーチ達を助けるのに必死で、辺りをゆっくり観察する余裕は彼女達には無かったのだから・・・

 

「えぇぇと、ラブ達は何処かなぁ!?あっ、居た!」

 

 咲が辺りをキョロキョロして探すと、手を振りながら駆け寄ってくるラブ達に気付く、ラブ達は一旦カオルちゃんのドーナツ屋にウエスターとサウラーを残し、一同を迎えに来たのだった。

 

「みんな、お待たせ!」

 

「ようこそ、四つ葉町クローバータウンストリートに!」

 

「楽しんでいってね!」

 

「精一杯持てなすわ!」

 

 ラブ、美希、祈里、せつなが笑顔を浮かべながら一同を歓迎する。

 

「四人共、今日はよろしくね!・・・って、あれぇ!?シフォンとタルトは?」

 

 なぎさの問いかけに、顔を見合わせたラブ達四人は苦笑を浮かべながら、

 

「それが、タルトにはスウィーツ王国に許嫁が居るんだけど、最近みんなに会う為に、何度も四つ葉町にタルトが来るのを不審がって、四つ葉町に好きな人でも居るんじゃないかって疑われたらしくてぇ・・・今回は誤解を解く為にも、泣く泣く欠席するって・・・みんなと集合する時間は教えておいたから、もしかしたら・・・」

 

 ラブが一同に、タルトとシフォンの報告をしていたその時、うららが持っていたかばんの中に居たシロップとメルポの内、メルポが騒ぎ始める。慌てたうららを庇うように、のぞみ達が周りの通行人から、うららと、騒いでいるメルポを見えないようにカバーする。

 

 メルポから一枚の手紙が飛び出し、ヒラヒラ舞い落ちてくるのをえりかがキャッチする。

 

 興味深げに手紙を見つめるえりかが裏を見ると、

 

「エェと、差出人はタルトからだよ!宛先は・・・プリキュアはんへ・・・だって!」

 

 えりかが目で開けたいと訴えると、一同は苦笑を浮かべながら許可をし、えりかは嬉しそうに封を開けて手紙を読み始める。

 

「ブラックはん、ホワイトはん、ルミナスはん、以下省略・・・って、ちゃんと書けぇぇぇ!!」

 

 髪を振り乱し、変顔になりながら手紙の内容に文句を言うえりかを、つぼみ、いつきが苦笑しながら、まあまあとえりかを宥め、咲達、のぞみ達は、私達省略されたんだと苦笑を浮かべる。これだけ人数居ればしょうがないと感じていたのか、えりか以外は苦笑を浮かべるのみだった。

 

 くるみの表情は引き攣っていたが・・・

 

 えりかから手紙を受け取ったほのかが、後を引き継ぎ読み始める。

 

「みんな、今回はクローバータウンストリートで、わいにとっても第2の故郷を、みんなに案内出来へんですんません!わいやシフォンの分まで、ピーチはん、ベリーはん、パインはん、パッションはんが案内すると思うわぁ・・・次にみんなで集まる時は必ず行くよって、今回は堪忍やでぇ!!タルト・・・ですって」

 

 読み終わったほのかが、手紙を封に戻していると、なぎさが必死に笑いを堪えている顔を目に止め、ほのかは不思議そうに首を捻る。

 

「なぎさ、どうかした?」

 

「えっ!?いやぁ、ほのかの関西弁が可笑しくってさ・・・こんな事二度とお目に掛かれないだろうし」

 

 笑いだすなぎさを見て、ほのかは頬を膨らますのだった。それを見ていた美希の瞳が輝く、

 

(こ、これはチャンスかも・・・今ならメップルに聞かなくても、さり気なくほのかさんに聞けば、なぎささんの弱みが分かるかも!?)

 

 さり気なくほのかに接近したつもりの美希だったが、その不可思議な態度は、他のメンバーからは不審がられていた。猫なで声でほのかに話し掛けてくる美希に、思わずほのかも仰け反りながら、苦笑を浮かべるのだった。

 

 美希の行動を不審に思ったなぎさは、ラブ、祈里、せつなの側に近寄ると、

 

「ねえ、美希・・・変じゃない?」

 

 思いっきりなぎさに図星を指摘され、戸惑ったラブは、祈里とせつなを見ると、

 

「アハハハ・・・えぇと、美希たん、今日の事張りきってたから、その所為かも・・・ね、ねぇ、ブッキー!せつな!」

 

「エッ!?エエッと、そう・・・だっけ?」

 

「そうね、態々サウラーを呼ぶくらい・・・な、何ラブ?」

 

 相槌をうってくれない祈里、美希の計画をばらしそうなせつなを呼び、今回は美希の手助けをしようよと小声で二人に言うラブ、そんな三人に、なぎさは疑惑の視線を向けるのだった・・・

 

 ラブ、美希、祈里、せつなの四人がクローバータウンストリートを案内する。店の人達が、次々にラブ達に気さくに話し掛ける姿を見て、一同は驚くのだった。

 

「す、凄いわねぇ・・・此処の人達とみんな顔見知りなの?」

 

「全員って訳じゃ無いけど、商店街の人とはみんな顔なじみだよ!ねぇ、美希たん、ブッキー」

 

 かれんの問いかけに、ラブは、美希、祈里と顔を見合わせて答えると、美希、祈里も笑顔で頷く、物心付いた時からこの街で過ごしてきた三人にとって、この街はとても大切な街だと一同は感じるのだった。

 

「私が暮らしたのは一年も満たないけど、この街の人達は私を暖かく迎えてくれたわ」

 

 当時を思い出したのか、憂いの表情を浮かべながらせつなが答える。かれんは、せつなの表情が曇ったのを見て、悪い事を聞いたかしらと眉根を曇らせた。

 

 公園に着いた一同を、ラブ達がダンスの練習に使っていた場所に案内する。

 

「此処が私達のダンスの練習場、此処でトリニティのミユキさんにダンスを教わってたんだぁ!」

 

 ラブは当時を思い出すように、目を瞑って懐かしがる。トリニティという言葉がラブの口から飛び出し、

 

「トリニティって・・・あのダンスユニットの?」

 

「ラブさん達、知り合い何ですか?私も出てる情報番組に、トリニティはゲストで出た事ありますよ!」

 

 咲、うららが、トリニティという言葉を聞き、思わず声に出すと、りんも頷き、

 

「ミユキさんって言ったら、トリニティのリーダーじゃない!そんな人にあんた達教わってたんだ?」

 

「ねぇねぇ、折角だからみんながダンスしているところ見て見たい!!」

 

 ミユキにラブ達四人がダンスを教わっていた事を知り、りんは驚愕し、えりかは、折角だからダンスを見せてとラブ達にリクエストすると、他の一同からも見たいと声が掛かる。

 

 顔を見合わせたラブ達四人は、苦笑しながらもステージに上がった。簡単な段取りを決めると、ラブ、美希、祈里、せつなが、一同の前でダンスを披露する。

 

 音楽が無いのは寂しいものの、ラブ達は、優勝した時の切れは無くなっていたが、一同を感心させる程のダンスを披露すると、一同から拍手が鳴り響いた。一同は、笑顔を浮かべながら次々と四人を褒め称えていった。

 

「上手いわね・・・流石はダンス大会優勝経験者ね」

 

「本当、素晴らしかったわ!」

 

 ゆり、ほのかも笑顔で四人のダンスを褒めていた。

 

「久しぶりだったんで、あたし達、完璧!!って訳にはいきませんでしたけどね」

 

「でも、思っていたよりは身体が付いて行けたよね」

 

「うん、ビックリしちゃった」

 

「そうね・・・」

 

 一同に褒められた事で美希、ラブ、祈里は照れながらも喜んでいたが、せつなは何処か寂しげに見えた・・・

 

 ラブ達は、ワゴン車の側に一同を案内すると、

 

「みんな、此処が私達のよく来る、美味しい、美味しい、カオルちゃんのドーナツ屋さんで~~す!!」

 

「いやぁ、こんなに可愛い娘達が食べに来てくれちゃうなんて、おじさん、張り切っちゃおうかな!!」

 

 ラブが、カオルを紹介するも、とても美味しいドーナツを作りそうに見えない風貌に、一同は苦笑を浮かべる。

 

「へぇ、薫と同じ名前じゃない!」

 

「そ、そうね・・・」

 

 満に指摘された薫は、微妙な表情でカオルちゃんを見つめていると、ラブも気付いたように、

 

「そういえば、同じ名前だったよね・・・カオルちゃん、この娘も薫って言うんだよ!」

 

「こんな可愛い子と同じ名前何て・・・おじさん、照れちゃうなぁ・・・グハッ!」

 

「・・・・・・」

 

 何とコメントしていいか解らず、薫は無言で呆然としていた・・・

 

 テーブルに座り、コーヒーを飲んでいるサウラーの側に美希が来ると、サウラーを紹介し始める。

 

「そして、こちらが南瞬さん・・・別名サウラー!!」

 

 サウラーは軽く一同に会釈すると、つぼみの目がサウラーを見てハートマークになり、ゆりは少し呆れたように、えりかといつきは顔を見合わせて苦笑を浮かべた。

 

「それで、あそこでドーナツを食べてるのが・・・食べてるのが・・・」

 

 ウエスターは店の前に居ると思っていたラブだったが、ウエスターは、少し離れたベンチに座り、仲間になりたそうにこちらをチラチラ見ていた。思わず目を点にしたラブは、小声でせつなにこっちに呼びなよと言うと、溜息を付いたせつなが、渋々ウエスターを見ると、右手を上げて手招きしながら、

 

「もう、ウエスター!みんなに紹介するから、こっちに来なさいよ!!」

 

「本当かぁぁぁ!!」

 

 ようやく仲間に入れて貰えると、大喜びのウエスターが猛ダッシュで一同に駆け寄って来た。そんなウエスターを見て、せつなは再び溜息を付くのだった。

 

「ひょっとして・・・あの人、せつなの彼氏?ちょっと変わってそうだけど、中々良い人そうじゃない?」

 

「ち、違うわよ・・・仲間ってだけよ」

 

 りんにウエスターを彼氏と間違えられ、激しく動揺するせつなだった。そんな事に気付く事もなく、ウエスターは満面の笑みを浮かべながら自己紹介を始めた。

 

「俺はウエスター!あっ、こっちの世界じゃ西隼人だ・・・よろしく!!で、イース、この娘達は?」

 

 ウエスターは、ニコニコしながら一同を見つめた。健康そうな笑顔を見たつぼみは、

 

「こちらの方もイケメンさんですぅ・・・」

 

 ウエスターを見たつぼみは、これまたときめいて、えりかはダメだコリャといったジェスチャーをして呆れていた。

 

 ラブ、美希、祈里、せつなが、一同を一人一人ウエスターとサウラーに紹介していった。最後にせつなが言葉を引き取り、

 

「みんな、プリキュアの仲間達よ!私達の掛け替えのない大切な仲間達!!」

 

 せつなは、一人一人笑顔を浮かべながら見つめていくと、一同もせつなに微笑み返した。ウエスターも何度も頷きながら、

 

「何だそうか、みんなプリキュアの仲間かぁ・・・エッ!?この娘達みんな・・・プリキュアだとぉぉぉぉ!!?」

 

 大声で驚くウエスターと、これまた動揺を隠せないサウラーが、驚愕した表情を浮かべる。大声でプリキュアだとバラされ、大慌てでパニクるなぎさ達だったが、ラブ達は落ち着きながら、

 

「あっ、大丈夫だよ!カオルちゃんは、私達がプリキュアだって知ってるし・・・さっき通ってきた商店街の人達も知ってるから」

 

 平然と言うラブに、なぎさ達、咲達、のぞみ達、つぼみ達一同は、口をポカンと開けて驚いていた。我に返った一同、なぎさは慌てながら、

 

「ちょ、ちょっと待って!この街の人達って、ラブ達がプリキュアだって知ってるの?ど、どうして!?」

 

 驚いたなぎさがラブ達四人に聞くと、ラブ達四人は顔を見合わせながら苦笑を浮かべると、

 

「うん、ラビリンスとの決戦の前に、どうしてもお父さんやお母さん達家族には、私達がプリキュアだって言っときたくて・・・本当はこんな事するのはいけない事だとは分かって居たんだけど、タルトも私達の意思を尊重してくれてOKしてくれたの」

 

 一同の家族や、大事な人達に正体を明かした時、誰しもが驚きの声を上げた。特にラブ、美希、祈里の家族は、家族会議を開いて娘達の今後を語り合っていた。刻一刻と迫るラビリンスの脅威に、ラブ達は家族に内緒で、さっきなぎさ達に説明していた、ダンスの練習場所から、ラビリンスに乗り込もうとしていたが、家族達、そして、商店街の人達が、ラブ達四人を気持ち良く送り出してくれたのだった。

 

「そんな事があったんだ・・・だからラブ達は、あの時家族に相談しに行ってたんだね」

 

 なぎさはほのかの顔を見ると、ひかりが現われる前の最初の決戦に向かう時を思い浮かべるのだった。

 

 まるで、仲間との思い出を胸に焼き付けるように過ごし、夕暮れの中で、強大なドツクゾーンとの最終決戦に向かう決意を、二人で誓いあったあの日を・・・

 

 誰からも見送られず、ほのかと二人で乗り込んだあの時を・・・

 

「羨ましいなぁ・・・」

 

「なぎさ・・・」

 

 愁いを帯びた表情になったなぎさに気付き、ほのかも心配そうに見つめると、

 

「私も家族には言いたかったなぁ・・・それなのにメップルときたら・・・駄目メポとか五月蠅くてさ・・・部屋でメップルと言い合いになる度に、独り言を言ってるって家族からも変人扱い・・・お陰でこの間何て、危うく精神科に連れて行かれそうになったわよ!」

 

「しょうがないメポ!決まり事何だメポ!!」

 

「あんたが部屋で大人しくしてくれてたら、こんな事になりませんよ~だ」

 

 変顔になりながらメップルと言い合いになる何時ものなぎさに、ほのかは目が点になっていた。

 

 メップルと言い合いを始めたなぎさを見て、美希の瞳が輝いた。

 

(キタ~~!!)

 

 口元に笑みを浮かべた美希は、メップルに近付くと、ヒョイっとメップルを抱き上げ、猫なで声でメップルに媚びを売り、少し離れたテーブルで、メップルにドーナツで接待を始めた。当初は不審がっていたメップルも、美希の媚びを受けて上機嫌になっていった。

 

「美希・・・何か悪いものでも食べたの?」

 

「エッ!?いやぁ、どうかなぁ・・・アハハハ」

 

 美希の不自然な様子に、呆気に取られたなぎさがラブに聞くも、ラブは唯々笑って誤魔化すのだった。

 

 

 一方、此処に居る全員の少女達がプリキュアだと知って、パニくり続けるウエスターは、

 

「いやいや、待て、待て!プリキュアってこんなに居るのか?聞いてないぞぉぉ!!」

 

 ウエスターが頭を抱えながら苦悶するも、せつなは溜息を付くと、

 

「別に今は敵対してる訳じゃないんだから、それほど驚く事でもないでしょう?」

 

 冷めた目をしながらウエスターに言うせつなに、サウラーもウエスターに加勢し、

 

「いや、ウエスターが驚くのも無理はない・・・僕だって、まさかプリキュアがこれ程居るとは思わなかった!」

 

 サウラーも驚愕の表情を浮かべ、ウエスターをフォローする。ウエスターは嬉しそうに、

 

「だよなぁ、ほ~ら見ろ、イース!」

 

(何かムカツクわねぇ・・・)

 

 自慢気にするウエスターを見て、少しイライラするせつなであった・・・

 

 

「へぇ、そう何だ・・・ありがとう、メップル」

 

(フフフ、遂に突き止めたわよ、なぎささんの弱点!!)

 

 メップルから仕入れたなぎさの四大弱点、勉強、母理恵、藤P先輩、だがこの三つは今どうにか出来る事では無かったが、残る一つの弱点狙いで美希が動き始める。

 

「ラブ、ブッキー、せつな」

 

 美希が不気味な笑みを浮かべながら、三人を手招きすると、思わず怯んだ三人は、小声で止めた方がいいか相談しあうも、もう少し様子を見ようと決め、美希の下に移動する。

 

「あたし、ちょっと用事が出来たから・・・待っててねぇ!」

 

 美希はカオルに何か耳打ちをした後、猛ダッシュで公園から出て行った。

 

「美希さん、どうかしたんですか?」

 

 心配したひかりが声を掛けるも、ラブ達三人は苦笑を浮かべながら、気にしないでとひかりに答えた。

 

 カオルが一同の前にやって来ると、今日は特別にみんなの好きな物ドーナツにしちゃうとリクエストを聞き始める。

 

「本当!私はチョコで!!」

 

「「私も!!」」

 

 大喜びでチョコをリクエストするなぎさと、ハモリながらリクエストするのぞみとくるみに、りんは少し呆れながら、

 

「それは何処でも販売してるでしょう!ほら此処のお店でも売ってるでしょうが」

 

 りんがワゴン車を指さすと、確かにカオルの店でもチョコドーナーツは販売していた。くるみは恥ずかしげに頬を染めると、のぞみのせいにしてその場を誤魔化そうとし、のぞみに抗議されるのだった。

 

 うららもニコニコ顔で何かをリクエストしようとし、こまちはポシェットの中をゴソゴソ漁ると、

 

「私はカレーが良いです!」

 

「じゃあ、私は羊羹を」

 

 うららはカレー味を、こまちは取り出した羊羹をリクエストすると、再びりんが突っ込みを入れ、カレーもあるし、羊羹はアンドーナツ見たいなものでしょうがと突っ込みを入れる。

 

 チラリとかれんの顔を見たりんは、かれんが何か言おうとする前に、

 

「かれんさん、前もって言っておきますけど、伊勢エビのドーナツ何て言わないでくださいよ?」

 

「エッ!?い、嫌ぁねぇ・・・そんなのリクエストする筈ないじゃない・・・オホホホホ」

 

 引き攣った笑みで否定するかれんを見て、咲は、舞と小声で、

 

「かれんさん、明らかにリクエストしようと思ってたよね?」

 

「そうね・・・ウフフ」

 

 満と薫は、同じ名前の好(よしみ)でカオルがサービスしてくれたドーナツを食べながら、

 

「人は見掛けによらないものね」

 

「そうね・・・こんなに美味しいドーナツを作れる何てね」

 

 二人は穏やかな表情でカオルの作ったドーナツを味わっていた。

 

 りんが妖精達を見ると、思わずココ達はドキッとした表情を浮かべる。

 

「ココ、ナッツ、シロップ、まさかとは思うけど・・・あんた達も、シュークリームや大福、ホットケーキ何て言わないでよね・・・恥ずかしいから」

 

 りんに、先に釘を刺された三人の妖精は、否定していたもののその表情は残念そうだった。

 

 ウエスターはカオルを呼ぶと、

 

「兄弟、俺のリクエストも聞いてくれるか?」

 

 カオルがOKしてくれた事で、ウエスターは大喜びで何かを買いに出掛けるのだった。

 

 それから暫くして、美希が鼻歌交じりに戻って来ると、カオルに何かの材料を渡し、サウラーの側の席に着く。サウラーはコーヒーを啜りながら美希を見ると

 

「どうやら、上手くいっているようだね」

 

「もちろん!あたし、完璧!!」

 

 嬉しそうにする美希に、ラブ、祈里、せつなは、目を点にしながら苦笑するしかなかった。

 

 ウエスターもビニール袋を持って帰って来ると、それを袋のままカオルに渡し、鼻歌交じりにつぼみ達の側の席に座り、嬉しそうに談笑する。

 

 美希達のテーブルに、カオルがドーナツを持ってやって来ると、サウラー、祈里には普通のドーナツを、ラブには赤い粒が入ったドーナツを、せつなには緑の粒が入ったドーナツを置いた。ラブとせつなは、顔を見合わせ首を捻ると、

 

「あれぇ!?カオルちゃん!私とせつなのドーナツだけ違うけど?」

 

 不思議そうにラブがカオルに問いかけると、

 

「ああ、それは美希ちゃんから二人にだって」

 

 美希からと聞き、首を傾げたラブとせつなだったが、一口ドーナツを食べて顔が青くなっていく、

 

「ど、どうしたの!?ラブちゃん、せつなちゃん?」

 

 慌てた祈里が二人に聞くと、渋い表情を浮かべたラブとせつなは、

 

「み、美希たんに計られた・・・私のは・・・にんじんだよぉぉ」

 

「わ、私のは、ピーマンが入っているわ」

 

 美希は舌をペロっと出すと、

 

「だってぇ、ラブとせつなには、あの時押さえつけられた借りがあるんですものぉ」

 

(美希ちゃん・・・結構根に持つタイプなのね?)

 

 祈里は苦笑を浮かべながらも、ラブとせつなを介抱するのだった。

 

 一方、ドーナツをガブッと食べたなぎさの表情が、見る見る変顔になっていくと、

 

「な、何これぇぇ!?タマネギが入ってるぅぅ!こんなの、ぶっちゃけぇ・・・ありえな~~い!!!」

 

 美希になぎさの苦手なものを暴露していたメップルは、恐る恐る逃げようとしていたが、なぎさに見つかり頭を抑えられ捕まえられる。

 

「メップルゥゥ・・・あんたの仕業かぁぁぁ!?」

 

 今にもメップルに被害が及びそうなのを見て、慌てて美希が立ち上がると、

 

「それはあたしからで~す!なぎささんに、この前のほんのお礼で~す!!」

 

 ペロっと舌を出す美希を見て、なぎさは目に炎を灯し、なぎさから解放されたメップルはホッと安堵するのだった。ほのかとひかりは、苦笑を浮かべながらなぎさを宥めると、この間のお返しじゃ仕方ないねとほのかに諭され、渋々なぎさは席に座り直し、チョコドーナツを食べて口直しをする。

 

(やった、胸のつかえがスッとしたわ・・・あたし、完璧!!)

 

 美希は嬉しそうに、目の前のドーナツを手に取り食べ始めていると、ウエスターがカオルを呼び、

 

「兄弟、これは俺がリクエストした、たこ焼きドーナツじゃないぞ?」

 

「あれぇ!?おじさん、誰かに間違えて出しちゃったかな?グハッ!」

 

 ウエスターとカオルの会話が耳に入り、思わず美希の動きが止まる。

 

(今、たこって・・・このドーナツ、何時もと食感が違うけど・・・まさか!?)

 

 その直後、美希の悲鳴が辺り一帯に響き渡った・・・

 

「やれやれ、これじゃ痛み分けだね?」

 

 サウラーは、コーヒーを飲みながら、ピクピク痙攣する美希を見て呟いた・・・

 

 

「さて、僕達はこれで帰らせて貰うとするか」

 

「そうだな、兄弟のドーナツも一杯買ったからな」

 

 サウラーとウエスターはそう言うと、せつなにラビリンスに送るように頼む。せつなは慌てたように、

 

「待って、ウエスター、サウラー・・・みんなに話があるから!」

 

 せつなはそう言ってみんなに声を掛けると、ウエスターとサウラーは顔を見合わせキョトンとするも、直ぐに頷き再び椅子に座った。

 

「ラブ、美希、ブッキー、短い間だったけど、またクローバータウンストリートで、ラブの家で過ごせて、とても楽しかった・・・みんなの街にも行けたし、今回此処が最後だって事で、前から決めていたの!ラビリンスに戻るいい機会だって」

 

 せつなの告白に、ラブ達三人は、せつなが最近、何かを考えている理由がようやく理解出来るのだった。

 

 せつなは前日の夜、ラブが寝た後、前もって桃園夫妻には話して居て、二人は、せつなの意思を尊重しながらも、また何時でも来るように笑顔を浮かべ、せつなは嬉し涙を浮かべていた。

 

「そっかぁ・・・せつなが決めた事だもん、尊重しなきゃね」

 

「せつな・・・さっきはゴメン!こんな事ならあたし・・・」

 

「せつなちゃん・・・また、何時でも遊びに来てね!私、せつなちゃんがまた来るって、信じてる!!」

 

「ありがとう、ラブ!ありがとう、ブッキー!美希、気にしないで!あれはあれで良い思い出だから」

 

 四人の目に涙が溜まる・・・

 

 それを見ていたなぎさ達一同の目にも涙が零れた。

 

 なぎさが、ほのかが、ひかりが、咲が、舞が、満が、薫が、のぞみが、うららが、こまちが、かれんが、くるみが、えりかが、いつきが、ゆりが、そして、妖精達が皆せつなに声を掛ける。

 

「つぼみ、こっちに来て!」

 

 りんはつぼみを呼ぶと、せつなの前に歩いて行き、

 

「せつな、前に言ったよね・・・私とつぼみで、ラビリンスで育てる花を選んであげるって・・・これは、私から」

 

「せつなさん、これは私からです!前に、皆さんが家のお店を手伝ってくれたのを見て選びました・・・受け取って下さい!!」

 

 りん、つぼみから、数十種類の花の種を受け取り、せつなは、涙混じりな笑顔を見せ、二人に感謝の言葉を述べた。

 

 せつなは心の底から嬉しそうだった・・・

 

「みんな、見送りまでしてくれてありがとう・・・何時かみんなを、ラビリンスに招待したいなぁ」

 

「うん、必ず招待してよ、せつな!それと・・・たまには会いに来てよね?」

 

 ラブの言葉に、満面の笑みを見せてせつなが頷く、

 

「みんな、元気でね!さよならは言わないわ・・・また、会いましょう!!!」

 

 せつな、ウエスター、サウラーは、せつなの呼び出したアカルンの力で、ラビリンスに帰って行った。

 

 ラブ達一同は、せつな達が消えていった場所を、今日の出来事を振り返るように眺めるのだった・・・

 

 

 

 時は過ぎる・・・

 

 少女達は知らなかった、闇が再び目覚めた事を・・・

 

 少女達は気付かなかった、闇が再び動き出した事を・・・

 

「我、目覚めたり、全ての光は闇に帰るべし・・・カオス様の目覚めは近い!我が名はバロム!闇の救世主なり!!」

 

 目覚めた新たなる闇が、暗躍しようとしていた・・・

 

                  第二章:深まる絆 

                     完結

 


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