第十二章、ようやくスタートですのでお付き合いください。
第百二十九話:魔界の予言者再び
1、プリキュアとモグロス
プリキュア達は、カインの野望を阻む為、ソード、ダ-クプリキュア5、ブルーに四つ葉町の事を任せ、魔界へとやって来た。ブラックは周囲を見渡し、
「ここが・・・魔界」
空を見上げれば日の光が見られない曇天、だが、周囲を見渡せば、五階建てのビル位の大きさはある木々が密集する中から、獣のような咆哮が聞こえてきた。ビートのように、魔界の者であるニクスとリリスが一緒だったならば兎も角、全員初めて訪れた魔界では、何処に向かえば分からず一同は困惑した。ピーチに抱っこされた魔王は、キョロキョロ周囲を見渡すと、
「何だか、見覚えある気がするカゲ・・・」
「エッ!?魔王、あんた魔界に来た事あるの?」
魔王が魔界を、見覚えある気がする場所と聞き、ブラックは思わず魔王に魔界に来た事があるか聞いた。魔王は考えてはみたものの、魔界に関する確かな記憶は無かった。魔王は困惑の表情を浮かべながら、
「どうもそこの所がよく覚えて無いカゲェ」
「結局、あんたも初めて来たのと変わらない訳ね。それじゃあ、こう広いと迂闊に動けないよねぇ?」
「エエ、下手に動いて魔物を刺激するのも、あまり得策とは言えないかもね」
ブラックに聞かれたホワイトも同意した。この見知らぬ土地をあてもなく歩き続け、魔物を刺激するのも得策とは思えなかった。ピーチは不安そうな表情を浮かべ、
「でも、あの時カインが言ってた事が気になって・・・後五時間後に、またエーテルダークネスが発射されたらと思うと・・・」
「そうね・・・でもビートの話じゃ、シーレイン達がエーテルダークネスの発生装置を破壊してくれたって連絡があったんでしょう?・・・私は、ビートが言って居た事が事実だと思う」
ピーチの不安な気持ちも理解出来るホワイトは、ちょっとピーチを励ます意味も込め、ビートが言っていた、エーテルダークネスの発生装置を破壊したという言葉を信じると語ると、ピーチも小さく頷いた。マリンは両手を首に回して組み、
「じゃあ、やっぱあたし達を魔界に来させようとしたカインの罠って事かなぁ?」
「そうだとしても、カインも私達がこれ程の人数で来るとは、思っては居ない筈よ」
「エエ、カインは態々魔界に来られるのは五人までだと言って居たわね」
カインの裏をかいたパッションの言葉に、ブライトも同意した。メロディは、ビートの名が出た事で、この魔界に居るビートの事を気に掛けて居た。
(ビート、今何処に居るんだろう!?)
「オーホッホッホッホ」
「だ、誰!?」
ビートの事を考えて居たメロディの直ぐ後ろで、突然笑い声が響き渡り、メロディは変顔浮かべながら動揺し、慌てて背後を振り返った。そこには、小太りで何所か愛嬌がある顔の、福の神を連想させるような面持ちで、全身を黒い帽子と黒いスーツで覆った、何所か底知れぬ不気味さを漂わせた男が立って居た。男はプリキュア達に深々とお辞儀をすると、プリキュア達に自己紹介を始めた。
「初めまして、プリキュアのみなさん。わたしくし、魔界で予言者の様な事をしているモグロスと申します。以後お見知りおきを・・・オーホッホッホッホ」
『魔界の予言者!?』
一同は、モグロスが魔界の予言者を名乗った事で警戒感を持った・・・
なぜ自分達がこの場に居る事が分かったのか?
モグロスが、自分達の前に現れた理由は何なのか?
モグロスはひょっとして、カインの仲間ではないのか?
そんな一同の心の内を見抜いたかのように、モグロスは両腕を顔まで上げると、手を左右に振り、
「とんでもございません。わたくし、あなた方のお仲間のビートさんともお会いしましたけど、わたくしが皆さんをこうしてお尋ねしたのは、あなた方に興味を持って居るからで、やましい気持ちなど、これっぽっちもございません」
モグロスはそう言うとニヤリと笑んだ。その表情は、どこか一同を小馬鹿にしているようだった。
「私達に興味って・・・何か引っ掛かるなぁ?」
ドリームは困惑顔で、モグロスを警戒するような視線を向けると、モグロスは笑い出し、
「オ~ホッホッホッホ、何せ貴女方プリキュアの皆さんは、この魔界において前代未聞の事をなさるお方達ですから」
『私達が前代未聞の事をする!?』
「おっと、今の話は聞かなかった事にして下さい・・・オ~ホッホッホッホ!」
プリキュア達は、何処か自分達を小馬鹿にしているようなモグロスを、用心するように益々警戒した。だが、メロディ達にしてみれば、モグロスがビートに会ったと聞けば、ビートの事を聞かずには居られなかった。
「ねぇ、ビートに会ったの!?ビートはまだ塔に居るの?」
「知って居るなら、ビートの事を詳しく教えて、私達、魔界の事何て良く分からないし・・・」
ビートを心配して居るメロディとリズムが、矢継ぎ早にモグロスにビートの消息を訪ねると、モグロスはそんな二人を見て何度も頷いた。
「そうでしょう、そうでしょう、お仲間の事を気に掛けるのは当然の事ですものねぇ・・・教えて差し上げてもよろしいですよ」
「「「本当!?」」」
モグロスがビートの近況を教えても良いと言った事で、ミューズも思わず身を乗り出し、メロディ、リズム、ミューズが同時にモグロスに真意を訪ねた。モグロスは大きく頷き、
「ハイ!ただし・・・あなたが抱いて居る魔王さんを、わたくしに引き渡して欲しいのです」
モグロスはそう言うと、ピーチが抱っこしている魔王を指さした。思わず一同の視線が魔王に向けられ、魔王も困惑の表情を浮かべた。
『魔王を!?』
「カゲェ?」
モグロスからの提案で、魔王を引き渡して欲しいと聞き、プリキュア達の顔付きが瞬時に険しくなり、先程以上の警戒心でモグロスを見た。モグロスは、再び両腕を顔の前まで上げ、両手を左右に振りながら、ジェスチャー交じりにプリキュア達に話し掛けた。
「いえいえ、勘違いなさらないで下さい。わたくし、何もやましい考えなど持って居りませんから」
モグロスがそう否定しても、プリキュア達のモグロスに対しての疑惑は拭えなかった。ブラックはモグロスを指さし、
「あんた、一体何を企んでるの?」
「そうだよ、勘違いってあなたは言うけど、敵か味方か分からないあなたに、魔王を渡す筈ないじゃない」
ピーチもブラックに同意し、魔王を庇う様に豊満な胸に魔王を押し付け、魔王はデレデレした表情を浮かべた。モグロスは小首を傾げ、
「そうですかぁ!?それは困りましたなぁ・・・魔王さんの記憶に関する事何ですけどねぇ?」
モグロスの言葉を聞き、ピーチの胸の感触を堪能して居た魔王だが、ハッとした表情を浮かべると、もがく様にピーチの手から離れてフワフワ浮かび上がり、モグロスの正面に移動した。
「お前・・・ひょっとして俺の事を知ってるカゲ?」
モグロスが、自分の記憶の手掛かりを知って居る様な口ぶりに、魔王は思わずモグロスに尋ねずに居られなかった。モグロスは小さく頷き、
「正確に申し上げれば、あなたと会うのは今が初めてですが、あなたの正体を知る人物から、あなたをお連れするように頼まれたと思って頂いて結構です」
モグロスはそう言うと、大きな口を開いて不気味な笑みを浮かべた。プリキュア達は、そんなモグロスの表情を見て、まだモグロスを警戒して居た。魔王を利用して、何かを企んで居るのではないかという気もしないでは無かった。マリンは何かを閃き、右手を上げてモグロスの前に移動すると、
「ハイハイ!あんた、予言者何でしょう?本当かどうか、試しにあたしの数分後の未来を占ってみてよ。それによっては、あんたの言う事信じて上げても良いよ」
マリンは、モグロスにからかい半分でそう話し掛けた。どうせ、自分達プリキュアに近付く為の嘘に決まっていると思って居た。だが、モグロスはマリンをジィと見つめると、何かを閃いた様な顔付きになり、
「よろしいですよ。では、あなたを予言致しましょう!あなたは30秒後・・・・・インチャックに足元から身体を丸飲みされます」
「ハァ!?」
モグロスは、右手でマリンを指差して予言を伝えると、プリキュア達はシンと静まり返った。マリンは右手を右耳に当てて、モグロスを小馬鹿にした表情を浮かべ、今度は左手を額に乗せ、周囲をキョロキョロ見渡すも、周囲に魔物の姿など見られなかった。マリンは思わず両手でお腹を押さえて笑い出し、
「アハハハハ!何よ、何にも居ないじゃん!あんた本当に予言・・・・・」
マリンがそう言い掛けた瞬間、マリンの真下の地面が盛り上がり、地面から巨大なイソギンチャクのような魔物が現れ、マリンを足元から丸飲みした。モグロスの予言通りの展開になり、プリキュア達は顔色を変え、
『マリン!?』
「マリン!大丈夫ですかぁ?」
「待ってて、今助けるから」
プリキュア達は顔色を変え、ブロッサムとベリーが慌ててマリンを救おうと、マリンを飲み込んだイソギンチャクに似た魔物、インチャックに駆け寄った。モグロスは、そんなベリーとブロッサムを見て、何かを思い出したかのようにポンと手を叩き、
「そうそう、言い忘れてましたが・・・あなた方二人も、インチャックに丸飲みされます」
「「エッ!?」」
モグロスに予言され、呆然と振り返ったベリーとブロッサムの足元の地面も盛り上がり、二匹のインチャックが現れ、ベリーとブロッサムをマリン同様足元から丸飲みした。
『ベリー!ブロッサム!』
プリキュア達は、慌ててマリン、ベリー、ブロッサムを丸飲みした三匹のインチャックを浄化し、三人を助け出した。三人の身体は、インチャックに丸飲みにされた影響か生臭かった。三人は目が虚ろになりながらしゃがみ込み、同じような仕草で頭を抱え始めると、
「「「魔界怖い、魔界怖い、魔界怖い、魔界怖い・・・・・」」」
ベリー、ブロッサム、マリンの三人は、呪文のように魔界怖いと呟き続けた。プリキュア達は、呆然と三人を見ていたが、変顔浮かべたブラックは、モグロスを指さし、
「ちょっとあんた!そう言う事はもっと早く言ってよねぇ!!お陰でベリーやブロッサムまで飲み込まれたじゃないよ」
「またまた言いそびれてましたが、この場所はインチャックの巣ですので・・・」
『エッ!?』
モグロスの言葉に、プリキュア達は思わず驚きの表情を見せると、モグロスの言葉が終わる前に、今度は、レモネード、メロディ、ピース、マーチの足元が盛り上がり、四匹のインチャックが地面から現れ、四人を足元から丸飲みした。
「ゲッ!?またかぁぁぁ?」
変顔したブラックを筆頭に、一同は四人を丸飲みしたインチャックを慌てて浄化し、四人を助け出した。
「「「「「「「魔界怖い、魔界怖い、魔界怖い、魔界怖い、魔界怖い・・・・・」」」」」」」
助けられた四人は、マリン達の側で同じような表情と行動を取り、七人は魔界怖いと呪文のように呟き出した。困惑するプリキュア達と妖精達だったが、足元の地面が盛り上がり、インチャックの大群が地面から顔を出した。まるでモグラ叩きのゲームの様に、顔を出しては引っ込み、直ぐに違う場所に現れるインチャックの群れに、
『キャァァァァ!』
プリキュア達は、地面から現れるインチャックの群れを前に、悲鳴を上げながら逃げ回り、慌ててインチャックに丸飲みされた七人に近付き、ムーンライトがブロッサムを背負い、マリンをサンシャインとアクアが、ベリーをピーチとパインが、レモネードをドリームとルージュが、メロディをリズムとブルームが、ピースをハッピーとエコーが、マーチをビューティとサニーが、肩と足を掴み、一同は悲鳴を上げながらインチャックから逃げ回った。
「こっちに来ないでぇぇぇ!」
「ウフフフ、ちょっと楽しいかも!?」
「楽しくないわよぉぉぉ!」
『キャァァァ!』
半泣きしたエコーが、少し楽しそうなミントが、そんなミントを呆れながらローズが、そして悲鳴を上げたプリキュア達と妖精達が、必死に逃げ回り続けた。ただ一人、インチャックが全く近寄らないモグロスは、プリキュア達が逃げ惑う姿を他人事の様に見物し、その場で飲み物をゴクゴク美味しそうに飲みながら寛いでいた。飲み物を飲み終えたモグロスは、
「おやおや、みなさん大変そうですねぇ?」
「やかましい~~!大体、何であんたは魔物に全く襲われないのよぉぉぉ?」
ブラックはインチャックから逃げ回りながら、他人事の様に寛ぐモグロスを見て、目を吊り上げ、指さしながら文句を言うと、モグロスは何かの小瓶をスーツから取り出した。
「わたくし先程足元の周囲の地面に、インチャックが嫌うこの薬品を地面に撒いて置きましたので、わたくしの側にはインチャックは寄って来ないんですよぉ・・・オ~ホッホッホッホ」
『早く言ってぇぇ!』
一同は、愉快そうに笑うモグロスを見て、思わず同時に同じような仕草でモグロスに抗議した・・・
2、魔界シンドローム
何とかモグロスの側に逃げ延びた一同は、疲れ切った表情で荒い呼吸をしていた。ブラックは息を整えながら、恨めしそうにモグロスを指差し、
「ハァ、ハァ、ハァ・・・あんた、さっきから私達をからかって楽しんでない?」
ブラックにジト目で睨まれたモグロスは、両腕を前に突き出して両手を左右に振り、
「とんでもございません。わたくしは、みなさんのお役に立てればと、こうしてやって来ただけでございます」
「とてもそうは見えないんですけどぉ?」
『ウン』
「それは困りましたねぇ・・・」
ブラックが再びジト目でモグロスを見ると、他のプリキュア達と妖精達も同時に頷いた。一同は、ますますモグロスの事を胡散臭そうに感じて居た。モグロスは一同の顔を見渡すと、まだ頭を抱えて魔界怖いと呟き続けるベリー達を見た。
「それはそうと、その方々は、どうやらインチャックに飲み込まれた影響で、魔界シンドロームに掛かったようですなぁ」
『魔界シンドローム!?』
プリキュア達は、モグロスが発した魔界シンドロームという、聞いた事が無い言葉に思わずオウム返しで呟いた。モグロスは頷き、
「ハイ、まああなた方にも分かるように簡単に申し上げれば、魔界恐怖症に掛かったとでも言えば、みなさんにも分かりやすいでしょうか?見たところ症状も軽そうですし、魔界から出れば時期に治りますけど、魔界に居る間は、このままでしょうなぁ」
『エッ!?・・・・』
モグロスの話を聞き、一同は思わず驚きの声を発し、直ぐに沈黙した。これからカイン達との戦いが控えている中で、七人のプリキュアが戦線を離脱するのは、一同に取ってかなりの痛手だった。更には、彼女達を庇いながらでは、この大人数でさえ不利に成りかねなかった。ブラックは困惑顔で仲間達を見つめ、
「どうする?」
「ベリー達を、このまま此処に置いていく訳にも行かないし・・・」
「かといって、この場でカインの所に向かうメンバーと、彼女達の側に残るメンバーを分散させるのも・・・」
ピーチとホワイトも、困惑顔でどうしたものかと悩んだ。魔界の事を詳しく知らない現状で、人数を二手に分けるのは得策とも思えなかった。そんなプリキュア達が思案する様を、ニヤケ顔で見ていたモグロスは突然笑い出し、
「オ~ホッホッホッホ!あなた方とお近づきになったのも何かの縁ですし、わたくしがお知恵をお貸し致しましょう。この魔界には、癒しの泉と呼ばれる、癒しの大樹から恵みの水を与えられし聖地があるのです」
『癒しの泉と癒しの大樹!?』
プリキュア達は思わずハッとした。その言葉には聞き覚えがあった。和解したニクスとリリスが言っていた事を、一同はハッキリと覚えていた。ブラックはホワイトに話し掛け、
「癒しの泉と癒しの大樹って、ニクスとリリスが話してたよねぇ?」
「エエ、彼女達はそう言ってたわね」
「確か、傷付いた魔物を癒すとか言って居たわ」
ホワイトとアクアも頷き、モグロスが話したのは、ニクスとリリスが言って居た場所で間違いないであろうと一同に語った。モグロスは何度も頷き、
「ほほう、ご存知でしたか・・・癒しの泉は、傷付いた心の傷をも治すと言われておりますよ」
「本当!?じゃあ、そこに連れて行けばベリー達は治るって事?」
ブルームに聞かれたモグロスは、再びコクリと頷いた。
「ハイ!癒しの泉に頭から浸かれば、彼女達の症状は治癒される事でしょう」
「その癒しの泉は何処にあるのかしら?」
「場所を知って居るなら私達に教えて」
ミントとイーグレットに聞かれたモグロスは、プリキュア達の顔を見渡し、
「癒しの大樹をご存知なあなた方ならお分かりでしょうが、あそこに、他の樹木より一際大きな大樹があるのがお分かりになりますか?あれこそが癒しの大樹でございます」
モグロスが指さした方向に、プリキュア達の視線が、一際大きな大樹へと向けられた。モグロスが言う様に、他の樹木からは何処か不気味さが感じられたが、青々と生い茂る癒しの大樹からは、見ているだけで力を与えられるかのような気さへして来た。
「確かに、あの大樹を見ていると、魔界に来ている事を忘れる様な、とても穏やかな気持ちになりますね」
ビューティは穏やかな表情で、癒しの大樹を見た感想を述べた。ブルーの話によれば、この魔界にもマザーラパーパあり、癒しの大樹がそうだと聞いたのを思い出して居た。確かにあの場所に行って、癒しの泉にベリー達を頭から浸からせれば、ベリー達七人は魔界シンドロームから解放され、元に戻るかも知れなかった。胡散臭いモグロスの話ではあるが、遠回りになってもモグロスの言う通り、癒しの泉を経由する事が最善策ではないかと思えた。ドリームは、ベリー達七人を見ると、
「なら、行くしかないね」
「エエ、みんな、癒しの泉に行きましょう」
『ウン』
ムーンライトの言葉に一同も同意し、プリキュア達は癒しの泉へと立ち寄る事を決めた。一同が出発準備をしていると、モグロスがプリキュア達を呼び止めた。
「お待ちください!魔王さんの件をお忘れなく・・・魔王さん、折角記憶の手掛かりが得られる機会を、あなたは棒になさるおつもりですか?」
「ウッ!?」
モグロスの話を聞き、魔王は思わず言葉に詰まった。自分の記憶を知りたがっている魔王に取って、モグロスの話は興味を惹かれていた。魔王を見守って居るプリキュア達だったが、魔王の記憶に関する事ならば、自分達が口を挟むよりも、魔王自身が自分で決めるべきだと思え、魔王の言葉を待った。魔王は唸りながら考え、悩みに悩んだ末、モグロスを信じて、一緒に自分の事を知って居る人物に、会いに行くべきであろうと結論を出した。魔王は、目付きを鋭くしてモグロスを睨み、
「嘘だったら・・・分かってるカゲなぁ?」
「怖い、怖い・・・大丈夫ですよ、わたくし、魔界の中でも正直者で通って居ますし、魔王さんを騙そうだ何て、これっぽっちも思って居ませんから・・・オ~ホッホッホッホ」
(その笑い声が、あんたの信用を落としてるんだけど・・・)
ブラックは、モグロスの不快な笑い声を聞き、思わず心の中で突っ込みを入れた。魔王は、プリキュア達に話し掛けると、
「ちょっと、この胡散臭い奴と行って来るカゲ」
「これは手厳しいですなぁ・・・オ~ホッホッホッホ」
モグロスは再び笑いだし、ブラックは嫌そうに変顔浮かべるも、魔王を心配して声を掛けた。
「分かった・・・けど魔王、魔界で私達と離れ離れになって、また私達と合流出来るの?」
ブラックに聞かれた魔王は、思わず笑みを浮かべると、
「カゲカゲカゲ、お前達の気配は分かるカゲ」
「そう・・・じゃあ私達は、ベリー達を癒しの泉に連れて行ってから、カインの所に向かうよ。きっとビートとも合流出来るだろうし」
「分かったカゲ」
ブラックの言葉に魔王が頷いた。リズムはビートの件を思い出し、モグロスに訴えるように話し掛けると、
「メロディ達の事で危うく忘れる所だったわ・・・ねぇ、魔王はあなたと一緒に行くんだから、ビートが今何処に居るか教えて?」
「ハイハイ、そうでしたねぇ・・・ビートさんは、ベレルさんとも合流し、魔王城と呼ばれる塔の前に居る筈ですよ」
リズムの問いかけに、モグロスは素直にビートが今居るであろう場所を教えた。一同は、モグロスが発した魔王城と言う言葉に敏感に反応した。
『魔王城・・・』
「そう固くならなくても大丈夫ですよ、何せ魔王城には今、主が居りませんから・・・オ~ホッホッホッホ」
モグロスは、何処まで真相を知って居るのか、愉快そうに笑い続けた。ビートの居場所も判明し、プリキュア達はそろそろ癒しの泉を目指して出発しようと話した。ハッピーは、魔王に近付くと、暫しの別れを惜しむようにハグし、
「魔王、気を付けてね?」
「オウ!みゆきも、お前達もなぁ、美希達の事頼んだカゲェ」
「分かってる。じゃあ、私達先に行くね」
魔王は目を細めながら、プリキュア達と暫しの別れの挨拶をし、ブラックも魔王の言葉に頷き、プリキュア達は癒しの泉目指して歩き出そうとした。
3、モグロスの予言
モグロスは、歩き出そうとしたプリキュア達を慌てて呼び止めた。
「お待ちください!」
「何!?まだ何か私達に用があるの?」
モグロスにまた声を掛けられ、ブラックは、またかといった表情でモグロスに問うた。ブラックはどうもモグロスが苦手だった。丁寧な喋り方ではあるが、何処か人を小馬鹿にしているように受け取れた。だが珍しくモグロスは、ブラックとホワイトの顔を真顔で凝視した。
「キュアブラックさん、キュアホワイトさん」
「「エッ!?私達に何か用?」」
モグロスに呼び止められたブラックとホワイトは、思わず変顔浮かべハモリながら問い返した。モグロスは、ジィィと二人の顔を見つめながら、徐に自分の顔を近づけると、ブラックとホワイトは、反射的に嫌そうに仰け反った。二人は戸惑いながら、
「「な、何!?」」
「キュアブラックさん、キュアホワイトさん、あなた方二人は、近い内にある選択をしなければなりません」
「「エッ!?」」
モグロスが突然、自分達二人に予言染みた事を話し始め、ブラックとホワイトは困惑した。
「あなた方二人は・・・この世界を滅ぼすか、それとも存続させるのか、その選択をあなた方二人は・・・選ばなければならないのです!」
モグロスは二人を順番に指さして、意味深な発言をした。そんなモグロスの発言を聞いたブラックとホワイトは、返す言葉も無く思わず沈黙した。他のプリキュア達も、モグロスの言葉を呆気に取られて聞いて居たが、ブルームとサニーは思わず笑いだし、
「アハハハ、あんた何言ってるのよ?」
「ホンマやぁ、何大げさな事ゆっとんねん?」
「ウンウン、本当だよねぇ」
ドリームも苦笑しながら何度も頷き、モグロスの大仰な話に苦笑した。他のプリキュア達も思わず失笑していたものの、当のブラックとホワイトの二人だけは真顔だった。
((私達が・・・この世界を滅ぼす!?))
ブラックとホワイトの脳裏に、時の狭間での記憶が再び思い返されて居た。ブラックとホワイトは、時の狭間での記憶を断片的にしか覚えては居なかったが、時折頭の中に忘れていた記憶が蘇ったかのように、二人はハッキリ時の狭間での記憶を思い出す事があった。モグロスが言って居たように、時の狭間でブラックとホワイトは、プリキュア達が敗北した世界を見た時、あろう事かその世界を終焉に導く、自分達二人の姿を見ていたのだから・・・
(あれは、闇の神ブラックと光の神ホワイトじゃなかったの!?あれは・・・私とホワイトだって言うの?)
(私とブラックに、そんな力があるとは思えないわ!でも・・・)
モグロスの話を聞き、困惑するブラックとホワイト、二人にもあの出来事が何だったのか、未だに良く分からなかった。モグロスは、困惑するブラックとホワイトの顔を見て、帽子を深く被り直すと笑い出した。
「オ~ホッホッホッホ!まあまあ、ブラックさん、ホワイトさん、そう固くならず、お気楽になさって下さい。あなた方がしたい通りにすれば良いだけですから・・・オ~ホッホッホッホ」
そんなモグロスの笑い声も、今のブラックとホワイトの耳には届かなかった。二人は時の狭間での記憶を、何度も頭の中で思い描いていた。ルージュはモグロスを睨み、
「あんたが、ブラックとホワイトに変な事言うからでしょう?」
「オ~ホッホッホッホ、それは失礼いたしました。さあ魔王さん、そろそろ出掛けましょうかねぇ?」
ルージュがモグロスに突っ込みを入れ、モグロスは愉快そうに笑い、魔王にそろそろ出掛けようと話し掛けた。魔王は頷くと、一同に話し掛けた。
「じゃあ、行って来るカゲ」
「魔王、気を付けて!」
「ちゃんと戻って来てよ」
ピーチとハッピーは、心配顔で魔王に声を掛けるも、魔王は元気そうに大きな声で明るく振舞い、
「オオ!お前達もなぁ!!」
魔王は宙返りを何度かしながら、モグロスと共に去って行った。二人を見送ったプリキュア達も、そろそろ癒しの泉に出発しようと話し合うも、ブラックとホワイトの心は、此処にあらずといった感じだった。ルミナスは心配顔で、
「ブラック、ホワイト、大丈夫ですか?」
「ブラック、ホワイト、私達もそろそろ出発しましょう」
ルミナスとムーンライトに話し掛けられた二人は、ハッと我に返り、二人は先程のモグロスの話を、全く気にして居ないように明るく一同に話し掛けた。
「じゃ、じゃあ、癒しの泉に向かってぇ・・・レッツゴー!」
「み、みんな、行きましょう!」
ブラックとホワイトは、動揺して居る事を胡麻化すように、ブラックは率先してブロッサムを背負い、ホワイトはマリンを背負った。ミューズはそんな二人を見て小首を傾げ、
「ねぇ、何かあの二人変じゃない?」
「シッ!あのモグロスに変な事言われて、二人も戸惑って居るのよ。私達に遠慮して、誤魔化して居るようだし、気付かない振りをしてあげましょう」
アクアはミューズの背を軽く押し、このまま気付かない振りをしてあげようとブラックとホワイトを労わった。ピーチとパッションはベリーを、ローズとミントがレモネードを、ブライトとウィンディがメロディを、ブルームとイーグレットがピースを、ルミナスとムーンライトがマーチを、それぞれ両肩と両足を掴んで抱え、一行はモグロスに教わった癒しの泉へと歩き出した。
一方の魔王・・・
むさ苦しいモグロスとの二人旅の道中で、些かご機嫌斜めではあったが、自分の記憶を得られる為ならば、そう思って珍しく我慢をしていた。モグロスは、そんな魔王を見て口元に笑みを浮かべると、
「そうそう、プリキュアのみなさんといえば、目的地の癒しの泉に入ったら、きっと開放的になるでしょうなぁ」
「それはどういう意味カゲ?」
モグロスが発した言葉の意味が分からず、魔王は不思議そうに問い返した。モグロスは口をニヤリとさせると、
「実は、癒しの泉と呼ばれては居ますが、要は人間界で言う所の温泉のようなもの何ですよ・・・癒しの大樹から流れ落ちる水と、地下深くに煮えたぎる灼熱の地層が、絶妙な融合を遂げた場所、それが癒しの泉なのです。」
「だから、どういう意味・・・」
魔王が更にモグロスに聞こうとするのをモグロスは遮り、小声で魔王に話し掛けると、
「此処だけの話、つまり温泉に入るのに、プリキュアさん達があの衣装のまま入って居たら・・・衣装が邪魔になるとお思いになりませんかぁ?皆さんもきっと開放的になって、ピチピチのお肌丸出しで入って居るんじゃないかと思いましてねぇ・・・オ~ホッホッホッホ」
モグロスは、自分に付いて来た魔王をからかう様に魔王に告げると、魔王はソワソワして背後を何度も振り返った。魔王の心の中で、自分の記憶とプリキュア達の裸体姿が葛藤し、呆気なく自分の記憶は片隅に追いやられ、プリキュア達が癒しの泉に浸かりながら、ウインクして魔王を手招きする姿が、頭の中一杯に描かれ、魔王はデレデレした表情になった。
「やっぱり・・・みゆき達と行くカゲぇェェ」
魔王は、元来た道を戻ろうとするも、モグロスは魔王の身体を右手で掴んで引き留めた。魔王は不服そうに、
「やっぱりこんなむさ苦しい奴と、二人で行く何て嫌カゲェェェ」
「オ~ホッホッホッホ!おやおや、魔王さん、ホームシックに掛かってしまいましたかぁ?仕方ありませんねぇ・・・今回は魔王さんの為に、特別にキレイどころを用意致しましょう」
「ほ、本当カゲ!?」
「ええ。魔界にもキレイな魔族はいらっしゃるんですよ」
魔王は、魔界のキレイどころと聞けば、加音町であったニクスとリリスの姿を思い出して居た。確かにニクスとリリスは、人間界の基準で言ってもかなりの美人だった。
「ニクスやリリスみたいな感じカゲ?」
「ほほぅ、ニクスさんとリリスさんをご存知でしたかぁ?確かにあの二人にシーレインさんを加えた三人は、魔界の中でもトップレベルの美しさですからなぁ・・・他には、凍える雪山の雪女さんとか、鬼族の娘達も中々キレイ所が揃って居ますなぁ。でも・・・これからご紹介するのは、そんな皆様方に優るとも劣らない美女でございます」
モグロスの話を聞いた魔王は、思わずニヤケ顔になった。モグロスが紹介するキレイどころの美女は、そんな美女達に優るとも劣らないと言うのだから、魔王の期待は高まるばかりだった。魔王は周囲をキョロキョロしていると、モグロスは笑い声を上げ、
「オ~ホッホッホッホ!魔王さん、恥ずかしがり屋さんですので、私が魔王さんの背中を叩くまで、決して振り返ってはいけませんよぉ?」
「分かったカゲ!俺は優しいから、言われた通りにするカゲ」
魔王は、モグロスからの合図を今か今かと待ち侘びた。
(ニクスやリリスより美人カゲかなぁ!?みゆきママン達みたいな熟女系も良いカゲなぁ・・・みゆき達みたいな美少女系も捨て難いカゲ)
魔王は、心の中で絶世の美女を勝手に想像し、デレデレした表情を浮かべた。そんな魔王の背中を叩くモグロスの合図があった。魔王は期待に胸を膨らませて、満面の笑みで背後を振り返ると、
「魔王ちゃん、お待たせぇ!オ~ホッホッホッホ!!」
振り返った魔王が見たおぞましき姿・・・
モグロスは、何処から取り出したのか、黒髪で三つ編みのオサゲのカツラを被り、頬と口に分厚い紅色の化粧をして魔王にウインクした。魔王は、その気色の悪さを目にして放心し、そのまま気を失って地上に墜落し、目をグルグル回して居た。
「おやおや、折角魔王さんのリクエストにお応えして差し上げたんですがねぇ・・・オ~ホッホッホッホ!」
モグロスは、地面で気を失って、目をグルグル回す魔王を右手で掴み、笑い声を響かせながら、何処かへと去って行った。
第百二十九話:魔界の予言者再び
完