プリキュアオールスターズif   作:鳳凰009

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第百二十七話:四つ葉町の危機

1、復活のシーレイン

 

 魔界・・・

 

 シーレインの事を気に掛け、キュアビートは、ハミィ、ピーちゃん、ソリー、ラリーと共に、ニクスとリリスに連れられ魔界へとやって来た。モグロスやベレルの手助けもあり、無事にシーレインと再会する事が出来たビートであったが、アモンに裏切られたと感じたシーレインの心は深く傷つき、心を閉ざしてしまった。そんなシーレインを救うべく、ビートはハミィの協力を仰ぎ、歌の力でシーレインの心に接触を試みて居た・・・

 

「まだ何も変化が見られないわね」

 

「エエ・・・」

 

 リリスに聞かれたニクスも、今はただ黙ってビートの力に賭ける以外は無かった。薄暗い室内に、何者かの気配を感じた二クスとリリスは、瞬時に表情を険しくすると、ゆっくり階段近くへと距離を詰めた。地下牢へと降りて来る何者かの気配を探る二人は、一段一段ゆっくり降りて来る足音に、ニ人の緊張がピークに達しようとしたその時、

 

「ハハハ、ニクス、リリス、それで気配を消したつもりか?安心せい」

 

「その声!?ベレル様!」

 

 ニクスとリリスは、聞き覚えのある声に思わず顔を見合わせ、ニクスは確認するように声を掛けた。ゆっくり地下牢に降りて来たベレルを見て、ニクスとリリスはホッと安堵した。ベレルは二人に近付きながら頷き、

 

「ウム、モグロスに貴公達と合流する方が得策だと諭されてなぁ・・・で、シーレイン殿の様子はどうだ?」

 

「「そ、それが・・・」」

 

 思わず神妙な顔で俯いたニクスとリリスを見て、ベレルにもシーレインの容態は思わしくない事は分かった。ベレルは薄暗い周囲を見渡すと、ニクスとリリスと共に、先にシーレインの下に向かったビートの姿が見当たらず、思わず首を傾げた。

 

「先程のプリキュアの姿が見えぬようだが?」

 

 ベレルは二人にビートの事を問うと、二人は背後の薄暗い闇を見つめた。ベレルも二人に釣られるように闇を凝視すると、ニクスとリリスがベレルに説明を始めた。

 

「ビートは、シーレイン様の心に直接シンクロし・・・」

 

「シーレイン様の心を連れ戻すと言って、向こうで・・・」

 

「何!?」

 

 ニクスとリリスに促され、ベレルはシーレインが捕らわれて居た檻へと近づいた。ニクスとリリスが言う様に、そこには精気を感じさせず憔悴しきったシーレインが、檻にもたれ掛る様にグッタリし、その傍でビートとハミィも眠って居るかのようにシーレインにもたれ掛かって居た。ピーちゃんは、そんな三人を心配そうに見つめて居た。ベレルは思わず唸り、

 

「ウゥゥゥム、あのシーレイン殿がこれ程憔悴しておったとは・・・」

 

「はい・・・お労しい事です」

 

 ニクスは改めて沈痛な表情を浮かべながら俯いた・・・

 

 

 シーレインの心は、深い闇に堕ちて居た・・・

 

 精神体の彼女は、その美しき身体に一切の衣装も身に着けず、ただその心には虚無感があった。考える事も放棄した彼女だったが、そんな彼女の心に歌が聞こえて来た。

 

(・・・・・歌!?)

 

 シーレインは、歌声に導かれるように思考が再び動き出した。それは何時以来なのか彼女にも分からないが、シーレインの思考は確かに働いていた。

 

(・・・この歌声は、何処かで聞いた事があるわ・・・)

 

 シーレインの心に直接響いて来るような歌声に、シーレインはこの歌を歌う人物の記憶がハッキリと浮かんで来た。

 

(この歌声は・・・セイレーン!?)

 

 ビートの顔が浮かんだ瞬間、シーレインの心によりハッキリとビートの歌声が聞こえた。だが、疑問も浮かんで来た。何故人間界に居る筈のビートの歌声が聞こえて来たのか、

 

(これは、私の幻聴なの!?)

 

「シーレイン、聞こえる!?私よ、キュアビートよ!」

 

(いえ、違うわ!やはりセイレーン)

 

 なぜ人間界に居る筈のビートの声が、自分に聞こえて来たのかシーレインは疑問を持った。だが、直ぐに人間界で親交があったプリキュア達の中でも、特に名前の似て居るビートに親近感が沸いていたシーレインは、ビートに一目会いたいと思った自分が、無意識に作り出した幻聴ではないかと思うと、自らの行為を自嘲するかのように笑みを浮かべた。

 

(ルーシェス様に選ばれた十二の魔神、その中でも四神に選ばれた私に、こんな女々しい所があった何てね・・・)

 

 シーレインは自分の愚かさに嫌になろうとしたその時、

 

((ラララ、ラララララァ~))

 

(エッ!?ち、違うわ!確かにセイレーンの歌声が・・・ウウン、セイレーンだけじゃない、あの時の猫ちゃんの歌声もするわ)

 

 シーレインは思わず目を開くと、暗闇の中をビートが、衣服を身に付けぬ健康的な裸体のビートが、ハミィを肩に乗せてゆっくりとシーレインの下に降りて来た。

 

「シーレイン・・・やっとあなたの心に届いたわ。ニクスやリリス、それにベレルも心配して居るよ、私達と一緒にみんなの下に戻ろう」

 

 ビートはそうシーレインに話し掛けると、ハミィと共に微笑みながら、ゆっくりシーレインに右手を差し出した。シーレインは呆然とビートの顔を見つめながら、

 

「ニクスだけじゃなくベレルやリリスも?」

 

「ウン!それに、アモンって人がおかしくなったのは、カインの怪しげな技に掛かったからなの」

 

「エッ!?アモンがおかしくなったのはカインのせい?」

 

 シーレインは、ハッとした表情でビートを見つめた。あの時のシーレインは、アモンがシーレインを処刑する事に賛成した事で、普段の冷静な判断が出来なかったが、思い返してみれば、あの時のアモンはシーレインの心の呼び掛けにも応じて居なかった事を見ても、どこかおかしいと思い返された。ビートは更に言葉を続け、

 

「ウン、私とニクスとリリスも、カインの怪しげな術に掛かりそうだったんだけど、一度はピーちゃんに、二度目はモグロスって言う人とベレルに救われたの」

 

「モグロス卿があなた達に!?」

 

 シーレインは、ベレルは兎も角、モグロスまでがビートに力を貸してくれるとは思っても見なかった。魔王ルーシェスにも、竜王バハムートにも与さず、我が道を歩むモグロスが動いた事は、事態は急速に動き始めた事を知った。シーレインは、ビートの右手を握り返し、ビートとハミィを見て微笑むと、

 

「セイレーン、それに猫ちゃん、ありがとう・・・あなた達のお陰で、私は再びカインとアベルに立ち向かう勇気を貰ったわ。行きましょう!」

 

「ウン!戻ろう」

 

 ビートはシーレインに力強く頷き返し、ビートとハミィ、そしてシーレインの精神体は、ゆっくり闇の中を上って行った。

 

 そんな三人の肉体の周りを、ニクスとリリス、そしてベレルとピーちゃんは、心配そうに三人を見守って居た。ピーちゃんは何かに気付くと、三人に知らせるように一鳴きした。先ずビートとハミィの身体がピクピク動き、そのすぐ後にシーレインの目がゆっくり開かれた。

 

「「シーレイン様!」」

 

「シーレイン殿!」

 

 三人は、目を覚ましたシーレインを見て嬉しそうに顔を近づけた。シーレインはニッコリ三人に微笑むと、

 

「ニクス、リリス、そしてベレル・・・心配をさせましたね。私はもう大丈夫」

 

「「シーレイン様!」」

 

 ニクスとリリスは嬉しそうにシーレインの身体を抱き起した。ベレルはそんな三人を見て何度も頷いた。

 

「ウ、ウ~ン」

 

 ビートとハミィもようやく目を覚ますと、ピーちゃんは嬉しそうに一声鳴き、気付いたハミィは、ピーちゃんの両羽を掴んで一緒に踊り合った。ベレルはビートに声を掛け、

 

「おお、気付いたか」

 

「キャァァァァァァ!」

 

 ビートは、目を開けた瞬間に飛び込んで来たベレルを見て悲鳴を上げ、そのまままた気を失った。ベレルは呆れたように唸り、

 

「ウ~ム・・・このプリキュアは、相変わらず怖がりなようだわい」

 

 ベレルの脳裏に、プリキュア合宿での出来事が思い出されて居た。自分の姿を見て逃げ回るプリキュア達の中に、ビートが居たのを思い出して居た。シーレイン、そしてニクスとリリスは、そんなベレルを見てクスリと微笑んだ。

 

 

2、サイアークの謎

 

 ブルーが暮らす鏡に覆われた部屋の中に、人間界に現れた魔界の者達を撃退したプリキュア達が次々と戻って来た。ブラックとホワイトを除いた一同が戻り終えると、ブルーは一同に深々と頭を下げた。

 

「皆、ご苦労様。君達の活躍で、各地に現れた魔物達は撃退されたよ」

 

 ブルーの報告を聞き、プリキュア達は顔を見合わせてホッと安堵した表情を浮かべた。大貝町、ぴかりが丘、いちご山、夢ヶ浜、川越町、津成木町、それぞれに現れた魔物達を撃退出来た事を喜び合った。戦いが終われば、彼女達も年頃の少女達で、直ぐにガールズトークへとなっていった。ドリームは、相田マナに貰ったももまんが入った袋を取り出すと、

 

「ねぇ、世界絵本博覧会で会ったマナちゃんって覚えてる?」

 

「ああ、響と奏に説教してた子だよねぇ?」

 

 マリンはメロディとリズムをからかうように、ニヤニヤして二人を見ながら話すと、メロディとリズムは困惑顔を浮かべた。ドリームはマリンに頷くと、

 

「そうそう、そのマナちゃんから、私達ももまんって言うの貰ったんだけど食べる人居る?」

 

「「ハイハイ!食べるぅぅぅ!!」」

 

 そう言って真っ先に右手を上げたのはメロディとマーチだった。リズムとビューティは苦笑し、他のメンバーはクスリと笑った。マーチは左手を開くと、そこにはゆうこに貰ったハ二ーキャンディがあった。

 

「あたし達はぴかりが丘に行ったんだけど、そこであった女の子にハ二ーキャンディっていうのを貰ったんだけど・・・一個だけだったよ」

 

 マーチはそう言うと、恨めしそうにムーンライトを見つめ、ムーンライトは思わず溜息を付き、ビューティは思わず自分の事のようにムーンライトに頭を下げ、ムーンライトは思わず苦笑した。メロディは何かを思い出したようにハシャギ、

 

「アア!そのキャンディ、世界絵本博覧会で私とリズムが女の子に貰ったやつだ。あのキャンディ美味しかったよねぇ?」

 

「確かに美味しかったわね」

 

 リズムもそれは認めてメロディに同意して頷いた。メロディが羨まし気な視線を、マーチの掌に乗ったハ二―キャンディにしていると、リズムは呆れたように、

 

「メロディは、いちご山で出会った妖精達と、私達が作ったケーキ食べたでしょう?」

 

「エェェ!?あれだけじゃ足りないよ~」

 

 メロディがお腹を押さえながら腹ペコをアピールすると、

 

「「「「メロディの食いしん坊!」」」」

 

「アハハハハ」

 

 ブルーム、ルージュ、ピーチ、マリンの四人が、そんなメロディをからかい、メロディは右手で髪の毛をかきながら照れ笑いを浮かべた。そんな和やかな雰囲気とは違い、ベリーは一人真顔だった。パインはそんなベリーに気付き、

 

「ベリー、浮かない顔してどうかしたの?」

 

「エエ。ちょっと気になる事があって・・・神様、あたしとマリンは、神様に言われた通りブルースカイ王国に行ったんですけど、そこであたし達は、サイアークと叫ぶ魔物とは明らかに違う者と戦ったんですけど、何か心当たりはありますか?」

 

「そうそう、危うくヒメが大怪我するとこだったよ」

 

 ベリーがブルーに問うと、マリンも頷きながらヒメルダも大怪我をするところだったと伝えると、和やかな雰囲気も一変し、プリキュア達が険しい表情を浮かべた。一同の視線がブルーへと注がれる中、ブルーの顔色は、まるでサイアークの事を知って居ると表すかのように変わっていった。

 

「サイアークだって!?まさか、千年前の・・・・・」

 

「神様!?」

 

「どうかなされたんですか?」

 

 ブルーの顔色が変わった事で、表情を強張らせたルミナスとムーンライトは、訝みながら問うと、ブルーはプリキュア達を一人づつ見渡し、ベリーで視線を止めると、

 

「ベリー、マリン、君達がサイアークと呼んだ者と、僕とミラージュは戦った事がある」

 

「「神様と千年前のプリキュアが!?」」

 

 ベリーとマリンは、自分達が戦ったサイアークと千年前にもブルーと当時のプリキュア、キュアミラージュが戦った事があると聞き、驚きの声を上げた。サイアークがブルースカイ王国に現れた事で、ベリーはブルーに何か知って居るか尋ねただけだったが、千年前にも表れて戦った事があるとは思っても見なかった。ブルーの話を聞き、一同の脳裏にある者の名が浮かんだ。

 

『まさか・・・大いなる闇!?』

 

 プリキュア達がそう思うのも当然かもしれなかった。ブルーは千年前、キュアミラージュと共に大いなる闇と戦って居たのだから・・・

 

「そうかも知れないし、違うのかもしれない・・・」

 

『エッ!?』

 

 ブルーからの答えは曖昧なもので、プリキュア達は思わず困惑の声を発した。ブルーは一同を見て申し訳なさそうにしながら、

 

「すまない・・・確かに僕とミラージュは、千年前に大いなる闇と戦って居た。でも、それに呼応するかのように、サイアークと声を発する怪物が現れたんだ。ただ、大いなる闇の軍勢とサイアークとでは何かが違っていた・・・」

 

 ブルーは千年前の記憶を思い出そうとするも、何が違っていたのかまでは分からなかった。ただサイアークは、人々を鏡の中に閉じ込め生み出されたようだった。

 

(サイアークの出現は、何かの前触れなのだろうか?)

 

 ブルーの心の中に、新たなる不安が沸き起こった・・・

 

 メロディは、そんなブルーを元気付けるかのように、

 

「まあ、ここであれこれ考えてもしょうがないよ」

 

「そうそう、もしもの時は私達プリキュアが居るしね」

 

「そうね・・・でも一応、新たなる敵かも知れないって事は、みんなも頭の中に入れて置いて」

 

 メロディの言葉にドリームも同意し、ベリーも少し不安な気持ちが晴れた気がしたが、一同にも警戒するように伝え、一同も頷いた。ムーンライトは一同を見渡し、

 

「後は、シロップに乗って魔法界に向かったブラックとホワイト、アン王女が戻って来れば・・・」

 

 そうムーンライトが話していた時、再びブルーの顔色が変わり、ムーンライトは思わず話を止めた。ブルーは険しい表情でプリキュア達を見つめると、

 

「みんな、また魔界の者達が現れたようだ。しかも。一つの町にかなりの数が集まって居る」

 

『エェェ!?』

 

 プリキュア達は、一つの町にかなりの数の魔物が集まって居ると聞き、思わず驚きの声を発した。ブルーは、ピーチ、ベリー、パイン、パッションを順番に見つめると、

 

「魔界の者達が現れたのは、ピーチ、ベリー、パイン、パッション・・・君達が住む四つ葉町、クローバータウンストリートだ」

 

「「「「エッ!?クローバータウンストリート?」」」」

 

 ブルーの話を聞き、ピーチ、ベリー、パイン、パッションの顔が凍り付いた。自分達が住む四つ葉町クローバータウンストリートに、あろう事か魔物の軍勢が現れたのだから、ムーンライトは、素早くパッションに指示を出し、

 

「パッション、私達を四つ葉町に送って頂戴。みんな、良いわね?」

 

『ハイ!』

 

 ムーンライトの言葉に、他のプリキュア達は迷う事無く同意した。ピーチは、仲間達の思いやりに目に涙を浮かべ、

 

「みんな・・・ありがとう!」

 

 ピーチは涙を拭って一同に感謝を述べ、ベリー、パイン、パッションがピーチの後ろで頭を下げた。一同も無言で頷き返した。ブルーはプリキュア達に声を掛けると、

 

「みんな、魔物はかなりの数だ、気を付けて!ブラックとホワイトが戻って来たら、直ぐに僕から二人に知らせて置くよ」

 

「お願いします」

 

 ブルーの言葉にルミナスが返事を返し、一同が頷いた。一同はパッションの側に移動し、パッションはアカルンを呼び出した。ムーンライトが代表してブルーに声を掛け、

 

「神様、では行って来ます」

 

「ウン、みんな疲れているのにすまない」

 

 ブルーは、今の非力な自分の力では、大勢の魔界の者を止めるのは不可能で、プリキュアに頼る事しか出来ない自分を恥じながら、プリキュア達に頭を下げた。

 

「みんな居ますし、お茶の子さいさいです」

 

「そう言う事、そんじゃあ神様、ちょっくら行って来るから」

 

 ブロッサムとマリンは、右手の親指を上げて同じような表情でドヤ顔を浮かべ、ポプリを抱いたサンシャインが苦笑した。パッションは、アカルンの力を使い、プリキュア達と、シフォン、タルト、シプレ、コフレ、ポプリ、フェアリートーン達、キャンディ、グレルとエンエンの身体が赤く発光し、この場から消え去った。ブルーは愁いの表情を崩さず、

 

(何か嫌な予感がする・・・みんな、どうか無事で居てくれ)

 

 ブルーは、プリキュア達の無事を祈るしかなかった・・・

 

 

3、四つ葉町を守れ

 

 四つ葉町、クローバータウンストリート・・・

 

 ピーチ、ベリー、パイン、パッションが住むクローバータウンストリートは今、ブラッド率いる、動物、植物、昆虫、アンデット、闇に堕ちた精霊達が襲っていた。ほとんどの人々は魔物を恐れ、家の中でこの恐怖が去るのを祈るしかなかった。警察も、魔物相手では歯が立たず、魔物の群れが我が物顔でクローバータウンストリートを恐怖の渦に沈めていった。その光景を、知念大輔は軒先の影から隠れ見て、拳を震わせながら見ていた。

 

「畜生、あいつら好き勝手しやがって」

 

「大輔、見つかるわよ、ちゃんと隠れてなさい。仕方が無いわ、ラブちゃん達は、他の町に現れた魔物達を退治に向かって留守のようだし・・・」

 

 そう言って大輔を窘めたのは、大輔の姉ミユキだった。ミユキは、ラブ、美希、祈里、せつなにダンスを教え、ダンスの楽しさを彼女達に教えた恩人でもあった。現在、彼女がナナ、レイカと組んでいた三人組のダンスユニットトリニティは、メンバーだったレイカが家庭の事情で脱退した影響もあり、ミユキは充電期間として仕事を休業していた。

 

「けどよ、姉ちゃん・・・アッ!?」

 

 大輔が姉に反論しようとしたその時、大輔とミユキの視界に、一匹の魔物が泣き喚く小さな子供に気付くと、まるで獲物を見付けて喜ぶかのように這いずり出した。その頭部は猫、身体は植物という不気味さに、幼子は益々恐怖で泣き続けた。幼子の母親は、慌てて子供を抱きかかえたものの、不気味な魔物のおぞましき姿が、自分達に迫りくる恐怖で足が震えてその場に固まってしまった。大輔とミユキは思わず顔色を変え、

 

「不味いぞ、何とかしなきゃ・・・」

 

 大輔はそう言いながら素早く周囲を見渡した。そんな大輔の視界に掃除で使うモップが立てかけてあるのに気づいた。大輔は素早くモップが立てかけてある場所に移動するとモップを手に掴むや、怪物目掛け駆け出した。

 

「大輔、止しなさい!ラブちゃん達が戻ってくるまで・・・」

 

「待ってられるかよぉぉぉ!」

 

 ミユキが大輔の身を案じて叫ぶ中、大輔は魔物目掛け一心不乱に近づき、猫と植物が合わさった魔物目掛け思いっきりモップを叩きつけた。

 

「この化け物!俺が相手になってやる・・・来い!」

 

 大輔も魔物が怖くない筈は無かった。だが、母子を何としても守りたいという大輔の正義感がそんな恐れを吹き飛ばしていた。大輔はモップをがむしゃらに振り回して魔物の注意を引き付けると、魔物は邪魔をするなとばかり、その意識を大輔に集中させた。大輔はジリジリ魔物を引き寄せるように後ずさりし、魔物は大輔目掛けにじり寄り、母子から距離が離れた。大輔は目でミユキに目で合図を送ると、ミユキはハッとして大輔の真意に気付き、直ぐ母子に駆け寄った。

 

「大丈夫ですか!?今の内に早く」

 

「は、はい」

 

 我に返った母親は、子供を愛しそうに抱きながら慌てて駆け去った。ミユキは大輔に知らせるように、

 

「大輔、あなたも早く逃げなさい!」

 

「分かってる!こいつはオマケだ!!」

 

 大輔は、力を込めてモップを魔物に叩き付けると、モップは真っ二つに折れた。大輔は、残ったモップの端を魔物に投げつけて逃げようと試みるも、魔物は蔦を伸ばして大輔の足を絡め取った。

 

「ウワァァ!し、しまった!?」

 

 大輔は何とか逃れようと試みるも、足に絡まった蔦を取る事は出来なかった。

 

「ち、畜生、この化け物、放しやがれ!」

 

 大輔は更に暴れて逃れようとするも、魔物は大輔を捕らえた蔦を引き寄せ、勝ち誇ったかのように蔦を頭上に持ち上げて、大輔の身体を逆さ吊りにした。

 

「大輔ぇぇぇ!」

 

 ミユキは大輔の身を案じて叫んだその時、クローバーストリートの一画が赤く発光した。

 

「着いた!」

 

 ピーチは、素早く周囲を見渡すと、ピーチの視界に逆さ吊りにされる大輔の姿が飛び込んで来た。ピーチは顔を顰め、

 

「あれは、大輔!」

 

 大輔の危機を知ったピーチは、大輔目掛け走り出した。だが、プリキュアが現れた事を知った大蝙蝠の魔物のブラッドは、上空から急降下してピーチの前に立ち塞がった。リーダーであるブラッドの後を追って来たように魔物達が集結し、ピーチの行く手を塞いだ。

 

「ケケケケ、来たなぁプリキュア」

 

「退いて!そこを退いて」

 

 ピーチは、険しい表情でジェスチャー交じりにブラッドに退くように告げるも、それは返って頭の回転が速いブラッドに、捕らえた大輔がピーチの知り合いだと気づかせるだけだった。ブラッドは不気味な笑みを浮かべると、

 

「ケケケケ、どうやらキャットリーフが捕らえたあいつは、プリキュア!お前の知り合いのようだなぁ?先ずあいつから血祭りにあげてやる」

 

「そ、そんな事させない」

 

「ケケケケ、なら止めてみろ!キャットリーフ、捕らえたそいつを血祭りにしろ!!」

 

 ブラッドは、動揺するピーチを嘲笑う様に非情なる命令をキャットリーフに告げた。更に邪魔をさせないとばかり、魔物の群れがピーチを包囲しようと動き出したその時、

 

『ハァァァァァ!』

 

 雄叫びを上げながら、ピーチに群がろうとする魔物の群れを、プリキュア達が迎え撃った。

 

「ピーチの知り合いに手を出す何て・・・あたし達がゆるさない!イーグレット、ブライト、ウィンディ、行くよ!!」

 

「「「エエ」」」

 

 ブルーム、イーグレット、ブライト、ウィンディが・・・

 

「みんな、ピーチの援護をするよ!」

 

「「「「「YES!」」」」」

 

 ドリーム達プリキュア5とローズが・・・

 

「私達も行こう」

 

「「「「YES!」」」」

 

 ダークプリキュア5が・・・

 

「ピーチ、ベリー、パイン、パッション、あなた達は彼を助け出す事に集中なさい。魔物は私達が・・・ブロッサム、マリン、サンシャイン、行くわよ!」

 

「「「ハイ!」」」

 

 ムーンライト、ブロッサム、マリン、サンシャインが・・・

 

「リズム、ミューズ、ビートは居ないけど、私達もピーチの援護をするよ!」

 

「「OK、メロディ!」」

 

 メロディ、リズム、ミューズが・・・

 

「私達プリキュアが来た以上、これ以上勝手な真似はさせないわ」

 

 凛々しい表情をしたソードが・・・

 

「ピーチ、ベリー、パイン、パッション、あなた達の邪魔はさせません。サ二ー、ピース、マーチ、ビューティ、エコー、キャンディ、一気に行くよ!」

 

「「「「「うん!」」」」」

 

「分かったクル」

 

 スマイルプリキュアの六人は、プリンセスキャンドルを召還すると、プリンセスフォームへと変化した。

 

「みんなの力を合わせるクルゥゥ!」

 

 キャンディがロイヤルクロックの上に付いているボタンをカチリと押した。針は動き、数字の8に合わさると、ロイヤルクロックからフェニックスが舞い上がり、エコーの身体を包み込み上昇させた。エコーはプリンセスキャンドルをスマイルプリキュアに向けて構えると、エコーの背後に、巨大なフェニックスのシルエットが浮かんだ。

 

「集え!五つの希望の光!!」

 

「「「「「羽ばたけ、光輝く未来へ!」」」」」

 

「「「「「「プリキュア!ロイヤルレインボー・バ~~スト!!!!!!」」」」」」

 

 フェニックスの口から、強烈な虹のエネルギー波が、ピーチ達の行く手を塞ぐ魔物の群れ目掛け放たれた。フェニックスの咆哮と共に、魔物の群れが虹の光に飲み込まれて行った。ブラッドは慌てて空中に逃れ、魔物達の陣形が崩れた。

 

「ピーチ、ベリー、パイン、パッション、今です!」

 

「ハッピー、みんな、ありがとう!行くよ、ベリー、パイン、パッション」

 

「「「OK!」」」

 

 ハッピーの合図と共に、フレッシュプリキュアの四人が駆け出した。ピーチは、途中でミユキと視線が合うと、ミユキは声を張り上げ、

 

「ラブちゃん、大輔をお願い!」

 

「ハイ!必ず大輔を助けます。ルミナス!ミユキさんを守って上げて」

 

 ピーチはミユキに力強く頷き、ミユキの事をルミナスに託した。ルミナスは頷いてミユキの側にやって来ると、

 

「分かりました。心配でしょうが、ここはピーチ達に任せて下さい」

 

「ハ、ハイ」

 

 ミユキは、クローバーストリートの危機に駆け付けてくれたプリキュア達の数に驚いていた。

 

(ラブちゃん達・・・今はあの時以上に頼もしい仲間達が出来たのね)

 

 ミユキの脳裏に、ラビリンスと戦って居た頃のピーチ達の姿が、走馬灯のように頭の中で流れた。ルミナスは四方を見張り、

 

「私の側から離れないで下さい」

 

「ハ、ハイ」

 

 ルミナスに話し掛けられた事で、ミユキはハッと我に返った。

 

(このままじゃ不味いわね)

 

 パッションは、大輔を捕らえたキャットリーフが、大輔を振り回している姿を見て、何時建物にぶつかるか、地面に叩き付けられるか分からぬ現状に、険しい表情を浮かべた。

 

「大輔、今助けに行くから、もうちょっと我慢してぇ!」

 

 ピーチが全速力で駆けながら大輔に声を掛けると、パッションはピーチの名を呼んだ。

 

「ピーチ!」

 

「パッション!?」

 

 ピーチは、パッションの顔を見ると直ぐにパッションの考えが伝わり頷いた。パッションはアカルンを呼び出すと同時に、ピーチの身体が赤く発光して消えたかと思うと、瞬時に大輔の側の空中に現れ、大輔を捕らえた蔦の上に飛び降りた。

 

「コノォォォ!大輔を放せぇぇぇ!!」

 

 ピーチは、大輔を捕らえた蔦に何度もパンチとチョップを繰り出し、最後に渾身の力を込めた拳を振り下ろした。キャットリーフはその痛みに堪らず大輔を放り投げた。

 

「大輔ぇぇぇ!」

 

 ピーチはその場で大ジャンプすると、大輔を受け止めた。大輔は辛そうな表情をしながらも、ピーチを見て憎まれ口を叩き、

 

「たく・・・遅ぇんだよ」

 

「ウン・・・ゴメン」

 

「ありがとな・・・ラブ」

 

「ウン!」

 

 大輔は、照れくさそうにしながらピーチに礼を述べると、ピーチは満面の笑みで頷き、大輔はピーチの美しさに思わず見とれて、慌てて視線を外した。ベリー、パイン、パッションの三人は、キャットリーフが大輔を抱いた無防備なピーチを攻撃しない様に、連携攻撃でキャットリーフの注意を自分達に向けさせた。ピーチは、ルミナスとミユキの側に降り立つと、

 

「ルミナス、大輔の事もお願い。隙を見て二人を安全な所に避難させてあげて」

 

「分かりました。さあ、こちらに」

 

 ルミナスが大輔とミユキを避難させようと誘導しようとすると、大輔はピーチの名を呼び、

 

「ラブ!」

 

 大輔は右手の親指を上げると、ピーチも無言で同じポーズを取り、大輔はミユキと共にその場を離れた。ピーチはそれを見届けると、キャットリーフと戦うベリー、パイン、パッションに合流した。ベリーはピーチをからかう様に、

 

「王子様との感動の再会は終わったかしら?」

 

「お、王子様!?ちっが~う!そん何じゃな~い!!」

 

 ピーチは、ベリーにからかわれて頬を大きく膨らませると、パインとパッションが両側からピーチの頬を人差し指で押し、

 

「せっかくの美人が台無しだよ?」

 

「大輔くんに笑われるわよ?」

 

「もう!そん何じゃ無いってばぁ・・・いいから行くよ!」

 

 ピーチはそう言うと、素早くピーチロッドを取り出した。ベリーはべリーソード、パインはパインフルート、パッションはパッションハープを直ぐに取り出す辺り、四人の意思疎通の凄さが表れていた。キャットリーフの正面に立った四人は、

 

「「「悪いの、悪いの、飛んでいけ!」」」

 

「プリキュア!ラブサンシャイン・・・」

 

「プリキュア!エスポワールシャワー・・・」

 

「プリキュア!ヒーリングプレアー・・・」

 

「「「フレ~~ッシュ!!!」」」

 

「吹き荒れよ!幸せの嵐!プリキュア!ハピネス・ハリケーン!!」

 

「「「「ハァァァァァァ!!」」」」

 

 ピーチ、ベリー、パイン、パッション四人は、ロッド、ソード、フルート、ハープをクルクル回転させ、技の威力を上げると、四人の合体技を受けたキャットリーフは、為すすべなく浄化された。他のプリキュア達も、ブルームとイーグレットがスパイラルハートを、ブライトウィンディがスパイラルスターを、プリキュア5がそれぞれの技を合わせ、ローズがミルキィローズブリザードを、ブロッサムとマリン、サンシャインとムーンライトのフォルテッシモが、メロディ、リズム、ミューズのパッショナートハーモニーが、ソードのホーリーソードが、それぞれ魔物達を浄化して行った。

 

「バ、バカな!?あれほどの数を半数以上も倒されただとぉ?」

 

 ブラッドは、信じられない目の前の光景に呆然とした。プリキュアの実力は聞いては居たが、まさかこれ程とは思ってもみなかった。動揺するブラッドだったが、その時、ブラッドがカインから授けられたアイテムが光り輝いた。

 

 

 4、 エーテルダークネス

 

 魔界・・・

 

 シーレインも復活し、カインとアベルへの反撃の狼煙は上がった。キュアビートは、シーレイン、ニクスとリリス、そしてベレルと共に、黒き塔を出て再び双児宮に居るだろうカインとアベルの下へと向かおうとして居た。そのビートの両肩には、ハミィとピーちゃんが乗って居た。シーレインは、双児宮に向かう前に確認するかのように、

 

「あなた達の話を聞く限り、アモン、オロン、アロンの三人は、完全にカインの術中に嵌ったと考えて良いわね」

 

「はい・・・残念ながら」

 

「でも、アロンやオロンだけなら私とリリスで食い止められるけど、アモン様までとなると正直厳しいわね」

 

 ニクスの話を引き継ぎ、リリスはアモンとも戦う事になるかも知れない事に一抹の不安を感じて居た。ニクスも頷き、

 

「そうね・・・」

 

「それに、ミノタウロスやバルバスがどう動くかも気になるわね」

 

 リリスの言葉に、腕組みしていたベレルも頷いた。

 

「ウム、戦う事が生き甲斐のバルバスの事だ、嬉々として拙者達に戦いを仕掛けてくるであろう・・・だが、分からぬのはミノタウロスだ。奴も強者と戦う事は昔から好きではあったが、正直この数十年、拙者はミノタウロスに違和感を覚えて居った」

 

 ベレルの話を聞いて居たシーレインは表情を曇らせた。自分が知る限り、ミノタウロスに特に違和感を感じた事は無かった。

 

「ベレル、ミノタウロスに違和感があるとはどういう事でしょう?」

 

「ハイ、奴もアロンと同じ半獣人ではありますが、以前の奴は、奴なりの誇りを持って居りました。昔の話ですが、拙者はミノタウロスと手合わせした事がござった。拙者との試合中、ミノタウロスの奴は、突然戦いを放棄した事がござってなぁ・・・無言でその場を去るミノタウロスの後姿を、拙者は呆然と眺めて居ると、奴が居た場所の近くの草むらの中に、一人の小さき精霊が気を失ってござった。拙者達との戦いに巻き込まれたのでござろう」

 

 ベレルはそう言うと、一旦話すのを止めた。その時の事を思い出そうとするかのように、少ししてベレルは再び話し始め、

 

「拙者が精霊を保護しようとしたその時、ミノタウロスは戻って来るや、ミノタウロスが大事にして居る金棒を置き、拙者に背を向けて気を失って居る精霊を、無言のまま大きな手に乗せ、何かの雫を精霊に飲ませたのでござった。すると精霊は直ぐに意識を取り戻し、ミノタウロスに礼を述べ何処かに立ち去りました。それを見つめるミノタウロスの優しい視線を、拙者の心眼は確かに捕らえて居りました。ミノタウロスは、この勝負は何れまたと拙者に告げると立ち去って行きましたが、拙者にはあの時のミノタウロスの姿が、アモン殿と重なって見えたのを覚えて居ります」

 

 ベレルは腕組みを取ると首を傾げだし、

 

「ですが、そのミノタウロスが、数十年前からまるでバルバスのように変わり、拙者は困惑しておったのでござる」

 

「それは初耳でした。ミノタウロスにそんな一面が・・・では、ミノタウロスもカインに?」

 

 シーレインは、数十年前からのミノタウロスの変貌も、カインのせいではないかと疑惑を持ちベレルに問うも、ベレルも首を傾げ、

 

「それは拙者にも何とも、時が経てば性格が変わる事も多々ある故・・・」

 

「そうですね・・・では、それも踏まえて今から双児宮に・・・」

 

 シーレインがそう話している途中、一同の背後にそびえる黒き塔が、まるでおぞましき咆哮を上げたかのように、突然振動を始めた。

 

「「「これは何!?」」」

 

 ビート、ニクスとリリスは、慌てて背後を振り返った。振動を続ける黒き塔の異変に、状況が分からない三人は呆然として居たが、シーレインとベレルは険しい表情を浮かべた。シーレインは黒き塔を鋭い視線で凝視し、

 

「こ、これはエーテルダークネス」

 

「シーレイン殿、ルーシェス様は居城には居られぬのでは無いのですか?」

 

「その筈です。おそらく、カインとアベルが勝手に起動させたのでしょう」

 

 ベレルに問われたシーレインは、カインとアベルの独断で使用しようとしていると告げた。魔界の事を知らないビートがエーテルダークネスの事を知らないのは当然ながら、十二の魔神であるニクスとリリスも、エーテルダークネスについては知らなかった。

 

「エーテルダークネス!?私は初めて聞いた名だわ、リリス、知ってる?」

 

「ウウン、私もそう、今初めて聞いた名よ」

 

 ニクスとリリスは思わず顔を見合わせ、互いに知って居るか問うも、お互い知らないと分かり、ニクスはシーレインに問いかけた。

 

「シーレイン様、ベレル様、エーテルダークネスとは何ですか?」

 

 ニクスに聞かれたものの、シーレインとベレルは険しい表情を崩さなかった。シーレインはゆっくり口を開き二人に話し始めた。

 

「ニクス、リリス、あなた達二人がエーテルダークネスを知らないのも無理はありませんね」

 

「ウム、本来は十二の魔神の中でも、四神と呼ばれる方々のみに、ルーシェス様は知らせて居ったからなぁ・・・拙者が何故知って居るかと言えば、ルーシェス様に直に話を聞いて居ったからだ」

 

「あなた達二人も、ベレルは本来私やアモンと同等の地位を与えられる立場だったという事は聞いた事があるわよね?」

 

「「ハイ」」

 

 シーレインに問われると、ニクスとリリスはコクリと頷いた。ベレルは元々魔界の勇者と呼ばれ、その武勇は二人もよく知って居た。シーレインは頷き返し、

 

「本来ルーシェス様は、ベレルを加えた五神を頂点に、十二の魔宮を管理なされようと考えられていたの」

 

「ハハハハ、肉体を失った拙者にはその資格は無く、身に余る栄誉であった為固辞しただけでござるよ」

 

「それは謙遜というものです。ルーシェス様はあなたを信頼しておられましたし、あのカインとアベルですら認めて居たのですから、ですからルーシェス様はあなたにも知らせて居たのでしょう・・・」

 

 シーレインはそこで言葉をとぎると、再びエーテルダークネスについて語り出した。エーテルダークネスとは、魔界に仇なす古の脅威を黒き塔の地中深く封印し、一定の期間溜まった負のエネルギーを、黒き塔の最先端部に溜めて上空に放出し、魔王ルーシェスの力で相殺して居た。カインはそれを利用しようとしているのだろうと語った。ベレルは頷き、

 

「シーレイン殿の仰られる通りでござろう・・・が、塔の先端に集めたあのエネルギーを、カインめ、一体何に使おうとしておるのか?」

 

 カインの真意が読めず一同が沈黙すると、リリスはクスリと笑い、

 

「ウフフ、そう言う事なら、カインを探ってみますわ」

 

 リリスはそう言うと、サキュバスアイでカインの居場所を先ず探った。当然双児宮に居るものだとばかり思って居たが、カインは巨蟹宮に居た。これにはリリスも驚き、

 

「エッ!?カインは巨蟹宮に居るわ」

 

「「「「エッ!?」」」」

 

 双児宮に向かおうとして居た一同は驚くも、リリスは次に耳を動かし、

 

「場所さへ分かればこっちのものよ・・・サキュバスイヤー」

 

 リリスは、巨大な耳を巨蟹宮の上空に召還すると、巨蟹宮の内部に聞き耳を立てた。ニクスは呆気にとられ、

 

「ねぇリリス、あなた、目だけじゃなくて耳も使えたの?」

 

「エエ、ニクスの事も時々覗たり、盗み聞きして居たわよ」

 

「エェェ!?全く、あなたは・・・」

 

 ニクスはリリスに呆れかえって居ると、突然リリスの表情が険しくなった。リリスは、ニクスの鼻に右手の人差し指を乗せると、

 

「シッ!カインが何か喋ってる」

 

 リリスの忠告を受け一同は静まり返り、リリスの言葉を待った・・・

 

 

 クローバータウンストリート・・・

 

 ブラッドは、カインの言葉を聞いて思わず呆然として我が耳を疑った。自分自身に聞き間違いだと暗示を掛けると、

 

「カ、カイン様、もう一度、もう一度仰って頂けますか?」

 

「フッ、良いぞ・・・ブラッドよ、良くぞプリキュア共を四つ葉町に集め足止めしてくれた。礼を言おう・・・だが、貴様の役目は終わった!プリキュア共々、その町ごとエーテルダークネスを受けて消え去るがいい!!」

 

 カインの非情なる言葉がブラッドに告げられ、ブラッドは呆然とした。カインはあろう事かブラッド率いる魔物達を、プリキュアを誘き寄せる餌として利用して、エーテルダークネスで四つ葉町事消し去ろうとしているのだから、ブラッドはこれまでのカインの為に働いて来た日々が走馬灯のように過ぎると、カインへの怒りが爆発した。

 

「カイン!貴様俺を、この俺を騙して居たのかぁぁ?今まで散々お前の為に働いて来た俺を、お前は、お前はぁぁぁ!!」

 

「クククク、安心しろ・・・貴様はプリキュアと共に死ねるのだ。無駄死にではないぞ?おっと、逃げようと思ってももう無駄だぞ。その町は既に結解に封じ込めた。入る事は出来ても、逃げ出す事は出来んよ・・・ククク、ハァハハハハハハ!」

 

「カイィィィィン!貴様ぁぁぁぁぁ!!」

 

 突然カインを罵り絶叫を始めるブラッドの姿に、プリキュア達も、魔物達も困惑して居た。魔物達は、このままプリキュアと戦えば良いのか、撤退すべきなのかブラッドからの指示を待って居たのだから、ルージュは困惑気味に、

 

「何あいつ、突然叫び出して?」

 

「あたし達の実力目の当たりにしてビビっちゃったんだよ」

 

「いえ、何か様子が変だわ。油断しない方が良い」

 

 マリンはドヤ顔で胸を張るも、ブライトはブラッドを警戒するように直ぐにマリンを窘めた。ブラッドはゆっくりプリキュア達を見ると、思わずプリキュア達はその表情を見てゾッとした。ブラッドは狂ったように笑い始め、

 

「ケェケケケケケ!プリキュアァァ!貴様らはもう終わりだぁぁぁ!!」

 

「ハァ!?何言ってるのよ?それはあんた達の事でしょう?」

 

 メロディは、不愉快そうにブラッドに抗議するも、ブラッドは狂気の笑いを再び発しながら、

 

「ケェケケケケケ!そうさ、俺達はもう終わりさ・・・だが、貴様らも、この町事終わりだぁぁ!!上を見ろぉぉぉ!!!」

 

『エッ!?』

 

 プリキュア達は、ブラッドの言葉を受け、反射的に上空を見上げた。四つ葉町の空に、何かの自然現象でも起こったかのように、歪みが生じて居た。ブラッドは狂気の笑い声を響かせながら絶叫し、

 

「ケェケケケケケ!エーテルダークネス!闇の光がこの空に輝く時、この町に破滅の光が降り注ぎ、全てを消滅させるのさぁ・・・ケェケケケケケ!!」

 

『何ですってぇ!?』

 

 ブラッドの絶叫に、プリキュア達は空を見上げながら大いに動揺して居た・・・

 

            第百二十七話:四つ葉町の危機

                   完

 




 第百二十七話投稿致しました。

 2月15日に左手の麻痺と左口角の麻痺で脳梗塞となり、救急車で病院に運ばれ、そのまま入院となりました。左手の麻痺と左口角の麻痺は入院初日に発症前から4時間半以内なら使える薬のお陰で動くようになってましたが、二週間の点滴生活と残りの一週間の飲み薬での治療で三週間、テレビは見なかったので、ベッドで暇で、音楽プレイヤーでラジオか音楽聞くか、母親に持って来てもらったノートで普段書かないこの小説の下書きや、クロスワードパズルなどで、脳のリハビリとかしてました。ですので、3月8日に退院したものの、割と早く清書が出来ました。
 ただ、下書きした分は割と早く清書出来ると思いますが、その後のは時間掛かると思います。以前通り、月に一度は投稿したいとは思ってますけど、左手でキーボード打つ時に、若干まだ痛みが生じますので、無理しない程度でこの作品を書いていきたいと思ってます。
 入院して居たんで三週間分プリキュアが見られなかったので、昨日三話分一気見しました。エール、アンジュ、エトワール、この三人良いですねぇ・・・

 左手の指の痺れは、脳細胞の一部が死んでるんで、もう治る事は無いようですが、日常生活するぶんには問題ないようで安心しました。楽しみだった甘い物食べるのは出来なくなりましたが・・・皆様も病気にはお気を付けください

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