プリキュアオールスターズif   作:鳳凰009

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第百二十六話:魔法界を救え

1、サイアーク

 

 ブルースカイ王国・・・

 

 一万年前、大いなる闇から世界を救った三人のプリキュアの一人、キュアプリーステスの子孫達が代々治めて来た国、この国には千年前、復活した大いなる闇との戦いで、その身事大いなる闇と共に封じられたキュアミラージュが、アクシアと呼ばれる箱の中に封じられ、代々の女王が管理して居た。王国の姿見鏡に、ブルーに似たシルエットが浮かび上がると、

 

(何やら地上が騒がしいようだな・・・この時代のプリキュアの力を試すには、良い機会かも知れん)

 

 シルエットは消え去り、再び王国内は静まり返った・・・

 

 

 その頃、ブルースカイ王国の姫君ヒメルダは、城を抜け出して王国の子供達に、プリキュアの事を語って聞かせて居た・・・

 

「で、私は何と・・・二人のプリキュアと姉妹同然の間柄になったんだよぉ。凄いでしょう?」

 

 ヒメルダは、得意気に子供達に自慢して踏ん反り返りながらプリキュアについて熱く語って居た。普段人見知りするヒメルダだが、自分より年下の子供達相手ならば、ヒメルダは極度の人見知りになる事はなく、子供達も姫なのに気さくに自分達に接してくれるヒメルダに懐いて居た。だが、ヒメルダのお世話役であるリボンは、時々城を抜け出して子供達と戯れるヒメルダに頭を抱えた。

 

「ヒメェ!お城を抜け出したかと思えば、子供達に何自慢してるんですのぉ?」

 

「だってぇ・・・折角えりかお姉ちゃんや美希お姉ちゃん、プリキュアのみんなと仲良くなったんだよ」

 

「だからって・・・」

 

 リボンは、困惑顔でヒメルダを更に窘めようとするも、ヒメルダからプリキュアの話を聞いた子供達は興味津々だった。

 

「私、姫様のお話もっと聞きたい!」

 

「僕もぉぉ!」

 

 子供達がプリキュアに興味を持ってくれたようで、ヒメルダは目をキラキラ輝かせると、

 

「オォォォ!?良いよ、もっと、もっと、プリキュアの事、みんなに教えちゃう!フッフッフ、実は私がちょっと頼むと、プリキュア達は直ぐ駆け付けてくれるんだよぉ・・・凄いでしょう?」

 

『凄ぉぉぉい!』

 

「ハァァァァ」

 

 ヒメルダは、思わず調子に乗り、益々得意気にするヒメルダを見て、リボンは深い溜息を付いた。そんな中、一人の緑髪した少年が、仲間の輪に入れず、遠巻きに一同の様子を見守って居た。少年の名はマルクと言い、人見知りが激しかった。自分も人見知りが激しいヒメルダだったが、自分より年下の子とは直ぐ打ち解け、自分と似たようなマルクの事も気に掛けていたが、この日はプリキュアの話題に盛り上がり、マルクの事を思いやる事が出来なかった。

 

(ぼ、僕もヒメルダお姉ちゃんのお話聞きたいなぁ・・・)

 

 そう思ったマルクだったが、足が動かずただ眺めているだけしか出来なかった。その様子を、森の中から輝く姿見鏡が見つめて居た。

 

(あの子供は使えそうだな・・・)

 

 姿見鏡が輝くと、マルクの身体を光が覆った!

 

「ヒ、ヒメルダお姉ちゃぁぁぁん!」

 

 それが、マルクが辛うじて発せた言葉だった。ヒメルダは思わず声をした方向を振り向くと、そこには封印された姿見鏡の中で、両手を胸の前で交差させたマルクが、眠って居るかのように佇んでいた。

 

「マルク!?どうしたの?」

 

 ヒメルダは、顔色変えてマルクに近付くと、ロボットのような腕と足をして、赤い尖ったサングラス、赤いマフラーとベルト、そして全身が赤く染まって居る怪物が姿を現した。

 

「フフフフ、先ずは目障りなこの王国を攻撃し、プリキュア達を誘き出すか・・・サイアーク、やれ」

 

「サイア~ク!」

 

 地響き立てて近付いて来る怪物の出現に、子供達はパニックになり、ヒメルダとリボンも思わず恐怖の表情で後退った。

 

「な、何なの、アレ!?」

 

「わたくしにも分かりませんわ」

 

『キャァァァァ』

 

 ヒメルダと子供達は、お城とは反対の方向に逃げ出すと、サイアークは、逃げるヒメルダ達に反応し、追いかけ始めた。姿見鏡に浮かんだシルエットは軽く舌打ちし、

 

「チッ、まだ完全に力が戻ってないか・・・まあいい、サイアーク、子供は殺すな!怖がらせるだけで良い」

 

 姿見鏡のシルエットは、そう言い残しその姿を消した・・・

 

 

「な、何か私達を追って来るんですけどぉぉぉぉ!?」

 

『キャァァァァ』

 

 ヒメルダは、リボンと共に変顔浮かべながら、子供達と一緒に逃げ続けるも、サイアークはそんな一同を執拗に追い駆けまわした。一人の少女が、泣きながらヒメルダに訴え、

 

「姫様ぁぁ!姫様は、プリキュアと友達何でしょう?」

 

 その少女の言葉を聞くと、子供達が同意したように、次々にヒメルダにプリキュアに助けて貰って欲しいと訴えた。

 

「そ、それは・・・」

 

 ヒメルダは、思わず涙目になりながら言葉に詰まった。つい調子に乗ってしまい、自分が呼べば、プリキュアは直ぐ駆け付けると言ってしまったが、実際にはブルーを通さなければ、プリキュアと連絡を取る事も出来なかった。サイアークは、そんな一同を次第に追い詰め、一人の少年の足が縺れて転倒した。少年は泣きじゃくり、顔色変えたヒメルダが少年を助け起こすも、少年の膝からは血が滲んでいた。

 

「痛いよぉぉぉ!」

 

「大丈夫!?走れる?」

 

「痛くて走れないよぉぉぉ」

 

 ヒメルダは、泣きじゃくる少年を背負う事も考えたが、すぐ間近に迫って来るサイアーク相手に、背負って逃げ切れるのは不可能に思えた。

 

『プリキュアァァ、助けてぇぇ!』

 

 子供達の口から、プリキュアに助けを求める声が木霊のように辺りに響くも、プリキュアが現れる事は無かった。

 

「姫様ぁぁぁ!どうしてプリキュアは来てくれないの?」

 

「姫様は、プリキュアの友達何でしょう?」

 

「・・・・・」

 

 ヒメルダは子供達の目に、現れないプリキュアに、そしてプリキュアの事を話したヒメルダに、失望の表情が浮かんで居る事に気付き、思わず沈黙した。その間にも、サイアークは直ぐ傍まで近づき、ヒメルダは意を決し、サイアークの前に駆け出すと、両腕を広げて足止めしようと試みた。

 

(私のせいだ・・・・私が調子に乗ってあんな事話しちゃったから)

 

「これ以上、あの子達に近付かないで!」

 

 だが、無情にもサイアークは右腕を振りかぶり、ヒメルダ目掛け右拳が振り下ろされた。その瞬間、ヒメルダは目を瞑った。だがその時、

 

「サイアーク、子供は殺すなと命じた筈だぞ!」

 

 突然辺りに声が響き渡り、サイアークの動きが止まった。ヒメルダは、恐る恐る目を開けると、自分のすぐ目の前にサイアークの拳があり、ヒメルダは思わず尻もち付いた。

 

「い、今の声って・・・何!?」

 

 ヒメルダは、周囲をキョロキョロ見渡すも、人影は見当たらなかった。サイアークは困惑の表情を浮かべるも、ヒメルダを摘まみ上げると、邪魔だとばかり大きな木目掛け頬り投げた。

 

「キャァァァ」

 

「ヒメェェェェ!」

 

 ヒメルダの悲鳴が、リボンの絶叫が響いたその時、突然現れた姿見鏡の中から、二つの人影が飛び出して来た。

 

「あたし達の妹分に何するのよぉ!マリィィン・・・シュート!」

 

 サイアーク目掛け、マリンは右手を回転させ、手から水の塊を無数に放つ、マリンシュートを放ち、べリーは、放り投げられたヒメルダを空中でキャッチした。べリーは、優しくヒメルダに声を掛け、

 

「ヒメ、大丈夫!?」

 

「ウッ・・・ウッ・・・べリーお姉ちゃん、マリンお姉ちゃん・・・怖かったよぉぉぉ」

 

「よしよし、あたし達が来たからは、もうお任せだよ」

 

「ウン・・・来てくれてありがとう」

 

 べリーに合流したマリンは、泣きじゃくるヒメルダの頭を撫でて上げると、ヒメルダは涙を拭い、べリーとマリンに感謝の言葉を述べた。べリーは、ヒメルダを子供達の側に下ろすと、リボンは慌てて近付き、

 

「ヒメェェ、大丈夫ですのぉ!?べリー様、マリン様、ヒメをお助け下さり、感謝の言葉もありませんわ」

 

 リボンは、べリーとマリンに何度も頭を下げ、感謝をし続けると、マリンは口元をニヤリとさせ、

 

「間に合って良かったっしゅ」

 

 それを見たべリーは、マリンの頭を軽くポンポン叩き、

 

「マリン、調子に乗らない・・・ヒメは、リボンや子供達と一緒に少し離れてて」

 

「ウン!」

 

『ウワァァ!プリキュアだぁぁ!!本当にプリキュアが来たぁぁ!!!』

 

 子供達は、目をキラキラ輝かせながら、助けに来てくれたべリーとマリンを見つめた。そんな子供達とは逆に、サイアークを見たべリーの表情は曇っていた。

 

(おかしいわねぇ!?カインは、日本を総攻撃するって言っていたと思うけど、ブルースカイ王国にまで攻撃の手を広げたとでも言うの?)

 

 べリーは訝り、サイアークをよく観察するも、自分達が今まで戦った魔界の者達とは、何処か違っていた。姿見鏡の中のシルエットは、プリキュアが現れたのを知ると、

 

(ほう、こうも早くプリキュアが現れるとはなぁ・・・ブルーの差し金か?それとも偶然か?まあいい、この時代のプリキュアの実力を試すには好都合・・・)

 

「サイアーク、プリキュアを狙え!」

 

「サイア~ク!」

 

「誰!?」

 

「姿が見えないよ?」

 

 何者かの命令を受け、サイアークのサングラスがキラリと光った。べリーとマリンは、周囲を見渡すも、サイアークに指示を出した者を見付ける事は出来ず、サイアークは、べリーとマリン目掛け行動を開始した。べリーはマリンに話し掛け、

 

「マリン、気づいてる?あのサイアークって、魔界の者にしては何処か変じゃない?」

 

「ウン、それに神様があたし達をブルースカイ王国に寄こしたのは、調子に乗ってるヒメを、諫めて欲しいって事だったよねぇ?なのに、魔界の者が居るのはおかしいっしょ?」

 

「ええ、それにどちらかと言うと、あたし達が今まで戦って来た、ナキワメーケやソレワターセ・・・」

 

「デザトリアンやネガトーン、アカンベエっぽいよね?」

 

「そうね、まさかとは思うけど・・・新たなる敵って事も考えられるわね」

 

「エェェ!?マジっすかぁ?」

 

「かも知れないって事よ・・・来るわよ!」

 

 べリーはマリンを促し、襲い掛かって来たサイアークのパンチを、べリーは右側に、マリンは左側に飛んで躱した。マリンは躱しながら、再びマリンシュートをサイアークに放ち、バランスを崩した所をべリーが見逃さず、右足目掛け全体重を乗せた飛び蹴りを放ってサイアークを転倒させた。姿見鏡のシルエットは、べリーとマリンの戦いを見ると少し動揺して居た。

 

(こいつら、戦い慣れてる!?)

 

『ウワァァァ!』

 

 プリキュアが攻勢なのを受け、ヒメルダを始めとした子供達から歓声が沸き上がった。だが、サイアークはさしたるダメージを受けなかったのか、平然と立ち上がった。長期戦になれば、この場に二人しか居ないべリーとマリンが不利になりそうな展開に、べリーはべリーソードを取り出すと、

 

「マリン、二人でバラバラに戦っていても意味が無いわ。あたしとタイミングを合わせて」

 

「合点承知の助!」

 

 マリンもまたマリンタクトを取り出し、二人はアイコンタクトすると、先ずべリーがサイアークに仕掛けた。

 

「悪いの、悪いの、飛んでいけ!プリキュア!エスポワールシャワー・・・フレ~~ッシュ!!!」

 

 ベリーソードの先端から、青いスペード型光弾がサイアーク目掛け放たれた。そのすぐ後に、今度はマリンが仕掛けた。

 

「花よ、煌け!プリキュア!ブルーフォルテウェ~イブ!!」

 

 マリンタクトから放たれた、水色の花の形をしたエネルギー弾が、エスポワールシャワーと合わさり、サイアークに命中した。サイアークの巨体が宙に浮かび、サイアークは何とか逃れようとするも、べリーとマリンは、べリーソードとマリンタクトをクルクル回した。

 

「「ハァァァァァァァ!」」

 

 べリーとマリン、二人の絶妙なコンビネーションで、二人の合わさった技の威力が上がり、サイアークは幸せそうな表情を浮かべ、

 

「ゴ、ゴクラ~ク」

 

 サイアークが浄化されると、姿見鏡に捕らわれていたマルクが解放され、その場に倒れ込んだ。ヒメルダは、慌ててマルクに近付き抱き起すと、

 

「ヒメルダお姉ちゃん!?アレェ?何か変な夢を見てたような?」

 

「ウン、ウン、マルク、無事で良かったよぉぉ」

 

『プリキュアァァァァ!』

 

 マルクも無事解放され、子供達に囲まれたべリーとマリンは、ホッと安堵した表情を浮かべたものの、べリーは、今浄化したサイアークの事が頭を過ぎった。

 

(サイアークか・・・戻ったら、みんなにも話した方が良さそうね)

 

 べリーは新たなる敵ならば、他の仲間達にも知らせるべきだと考えて居た。そんなべリーの両腕を、子供達が親しみを込めて引っ張り、べリーは目を細めた。その様子を見ていた姿見鏡の中のシルエットは、

 

(この時代のプリキュア・・・侮れんな!今はもう少し静観した方が良さそうだ)

 

 姿見鏡は、忽然と森の中から何処かに消え去り、ブルースカイ王国に子供達の嬉しそうな声が響き渡った。

 

「ワァァ!ヒメ様の言う通りだぁぁ」

 

「本当にヒメ様は、プリキュアと友達だったんだねぇ?」

 

 子供達は、皆目を輝かせながらヒメルダを見た。先程反省して居たのもどこ吹く風とばかり、ヒメルダは再び調子に乗り始めた。

 

「フフン、当然!私のお姉ちゃん達は凄いでしょう?」

 

『ウン!』

 

 ヒメルダは思わず踏ん反り返り、自分事のようにベリーとマリンをお姉ちゃんと呼び、子供達に自慢を始めた。ベリーは呆れ顔を浮かべ、マリンはそんなヒメルダを苦笑交じりに見つめ、

 

「アリャリャ、ヒメったら踏ん反り返っちゃったよ」

 

「ヒメ、あたし達が来たから良かったけど、これに懲りて、あまり自慢するのを止めなさい」

 

「そうそう、神様にも言われたけど、ヒメとあたし達で姉妹同然の約束したけど・・・止めちゃおうかなぁ?」

 

 ベリーとマリンに駄目だしされ、姉妹の約束を無かった事にしようと言われ、見る見るヒメルダは泣きそうな表情を浮かべながら二人に縋りつき、

 

「そ、そんなぁぁぁぁ!もう自慢しないから・・・許してぇぇぇぇ!!」

 

 そんなヒメルダを見て、ベリーとマリンは思わず顔を見合わせて笑い合った。

 

 

2、怪物よ、あっちに行きなさい

 

 ブラックとホワイトは、リコの故郷魔法界を救う為、シロップの背に乗り、アン王女とリコを連れ、一路魔法界へと向かった。その魔法界には、カインの命を受け、獅子宮を守護する十二の魔神の一人バルバスが、全身を禍々しい鎧で包み、配下の魔物達を引き連れ、魔法学校を包囲していた。

 

(バルバスと言えば、ベレルと同等の地位を持つ者とか・・・カインめ、本気で魔法界を潰しにきおったか)

 

 魔法学校の校長は、教頭に指示を出し、外には出ないように告げるも、生徒達は何が起こったのかと、皆気が気ではなかった。リコの姉リズも、心配そうに外の様子を覗き見ていた。

 

(あれは、噂に聞く魔界の・・・校長先生、大丈夫かしら!?)

 

 リズの視線が、外でバルバスと配下の者達と向き合う校長に釘付けされた。校長は、バルバス達を険しい表情を浮かべながら見つめ、

 

「お主らは、此処に何しに来おったのじゃ!?」

 

「フン、貴様が魔法学校の校長か?カイン、魔法学校の校長が出て来たぞ」

 

 バルバスは、右手に嵌めた時計のような形をした水晶に話し掛けると、水晶が輝き、その中からカインの声が聞こえて来た。

 

「聞こえるか?では先程の返答を聞こう」

 

「何度も同じ事を言わせるな!」

 

「そうか・・・交渉は決裂だ!バルバス、好きなように暴れるが良い」

 

 カインはそう言い残すと、水晶の輝きは消え失せた。バルバスは指を鳴らしながら、何処か楽しそうな表情を浮かべた。

 

「了解だ!では、我ら魔界の言葉に従わぬ愚か者達を・・・皆殺しだ!」

 

 バルバスはそう言うと、右手を振り、その衝撃波でリズが覗き見ていた校舎が直撃を受けた。その衝撃で、リズを含めた何人の生徒達が外に吹き飛ばされた。リズは瞬時に木々に魔法を唱え、吹き飛ばされた自分達の下に、木の葉が柔らかいクッションのようになり、生徒達をゆっくり地上に下ろした。校長は、リズの咄嗟の機転を見てホッとするも、心配そうにリズに声を掛け、

 

「何て事をするんじゃ!リズ君、無事か?」

 

「ハ、ハイ、何とか」

 

「早く他の者達と一緒に逃げるんじゃ!」

 

 校長は瞬時にリズに指示を出すも、バルバスは配下の獣の魔物達に命じると、狼や豹に似た四足歩行をする魔物の群れが、あろう事かリズ達目掛け駆け出した。リズは魔法の杖を振ると、

 

「キュアップ・ラパパ!ほうきよ、私達を守りなさい!!」

 

 リズはほうきを意のように操り、近付いて来る魔物をほうきで掃くようにして、自分達に近づけない様に試みた。ほうきは魔物群れを掃き、その隙にリズは生徒達を校舎内に避難させた。だが、最初こそ上手く行っていたものの、素早い獣の群れが相手では、次第に対応しきれなくなってきた。校長は慌ててリズの前に駆け寄り、杖でバリアを張った。

 

「大丈夫か、リズ君?」

 

「ハイ!私は平気です」

 

「スマンのう・・・君まで巻き込んでしまった」

 

 校長は、教え子であるリズを危険に巻き込んだ事を詫びるも、バルバスは更に他の魔物達に指示を出した。

 

「お前達は、他の場所に行け!皆殺しにしても構わん・・・魔法界を壊滅させろ!!」

 

「な、何じゃと!?」

 

「そんな!?」

 

 校長とリズが驚愕する中、バルバスの命を受けた魔獣達は、

 

『ウォォォォォ!』

 

 魔獣の群れが雄叫びを上げ、魔法学校から近い魔法商店街目掛け進軍を開始した。

 

 

 シロップは、全速力で魔法界目掛け飛び続けた!

 

 リコはシロップの背の中で、両手を組んで魔法界の無事を祈り続けて居た。

 

(お願い、私達が付くまで無事で居て)

 

 シロップは、人間界と魔法界を繋ぐ異空間を抜けると、魔法界へとやって来た。シロップは一同に知らせるように、

 

「着いたロプ!リコ、何処に向かうロプ?」

 

「魔法学校に向かって!あの時、カインって人は、校長先生に無理難題を押し付けようとしてたし」

 

「分かったロプ」

 

 シロップは、リコの言葉に頷き、もうスピードで魔法学校目掛け飛び続けた。ブラックとホワイト、そして、祖先であるキュアマジシャンの故郷、魔法界を訪れたアン王女の三人は、眼下を見下ろし、魔法界の様子を眺め見た。空から見下ろしてみれば、人間界同様広大な海が広がり、ポツポツと小さな島が見えた。

 

「へぇ、こうして空から見てみると、私達が住む世界と同じに見えるよね?」

 

「そうね・・・綺麗な海が広がってるわね」

 

「エエ、このような綺麗な世界が広がる魔法界を襲うだ何て、カイン・・・許せませんわ」

 

「「ウン」」

 

 アン王女の言葉に、ブラックとホワイトも同意したかのように小さく頷いた。疾風のように飛び続けるシロップは、やがて陸地に到達するも、陸地から獣の咆哮のような声が聞こえて来た。

 

「シロップ、あの声が気になるから、もっと低く飛んでみて」

 

 ブラックに頼まれたシロップは急降下した。見る見る地上が近付いて来ると、リコは眼下を指さし、

 

「ここは魔法商店街よ。猫の像が持つランプの中に炎が見えるでしょう?あれは情熱の炎と言われ・・・」

 

 リコがそう説明しようとした矢先、魔法商店街から人々の悲鳴が聞こえて来た。シロップが更に下降すると、シロップは地上に着地した。一同はシロップから降りると、リコは周囲を見渡した。魔法商店街の人々は、今リコが指さした情熱の炎が祭られている猫の像に慌てて避難しているようだった。リコは顔馴染みのフランソワとグスタフを見付けると、

 

「フランソワさん、グスタフさん、一体どうしたの?」

 

「まぁ、リコちゃん!?あなたもこっちにいらっしゃい!急に獣のような魔物の群れが、魔法商店街に現れて暴れて居るのよ」

 

「どうもあいつら、魔法学校の方から来てるようだぜ」

 

「エェェェ!?」

 

 フランソワとグスタフの話を聞き、リコは見る見る顔を青くした。リコの脳裏に、姉リズの姿が思い浮かぶと、リコは慌てて一同に話し掛け、

 

「わ、私、魔法学校に行ってみる!キュアップ・ラパパ・・・ほうきよ、飛びなさぁぁい!!」

 

 リコは素早く魔法を唱えると、一度目は失敗する事が多いリコの魔法だったが、魔法学校や姉の身を案じて集中していた事が幸いし、リコはほうきに跨り宙に舞い上がった。

 

「リコちゃん、戻りなさい!危険よぉぉぉ!!」

 

 フランソワはリコの身を案じ、戻る様に伝えるも、リコはほうきに跨りその姿を見る見る消した。ブラックは表情を曇らせ、

 

「魔法学校も気になるけど、こっちに現れたって言う魔物も気になるよね?」

 

「ええ、行ってみましょう・・・シロップ、アン王女を連れて先に魔法学校に向かって」

 

「私達も、こっちを片付け次第直ぐ魔法学校の場所を聞いて向かうから」

 

 ブラックとホワイトはそう言うと、人々が逃げて来るのとは逆に、魔法商店街へと駆け出して行った。フランソワとグスタフは、ブラックとホワイトを見て呆然とし、

 

「あの子達、魔法商店街に行ったけど大丈夫かしら?」

 

「あの子達、リコちゃんと一緒に来てたよな・・・リコちゃんの知り合いか?」

 

 フランソワとグスタフの会話を耳にしたアン王女は、二人に自分達の事を話し始めた。

 

「ハイ!わたくし達は、あなた方の言葉でいうナシマホウ界から来ました。あの二人は、伝説の戦士と呼ばれるプリキュアの、キュアブラックとキュアホワイトですわ」

 

 アン王女から、二人がプリキュアだと教えられたフランソワとグスタフは、大いに動揺した。フランソワは、ブラックとホワイトの駆け去った場所を思わず見つめ、

 

「エェェ!?プリキュア?もしかして、伝説の魔法つかいプリキュアの事ぉぉ!?」

 

 フランソワも、伝説の魔法つかいプリキュアの事は子供の頃に読んだ本で知って居た。闇に覆われた魔法界を、たった一人で救った伝説の魔法つかいキュアマジシャンの事を・・・

 

「それはおそらく、わたくしの先祖であるキュアマジシャンの事だと思いますが、あの二人も、同じプリキュアと思って頂いて構いませんわ。あの二人なら大丈夫、きっと魔法商店街に現れた魔物を、退治してくれる筈です。あの二人に、後で魔法学校の場所を教えて差し上げて貰えますか?わたくしは、リコさんが心配ですので、このまま魔法学校に向かいます」

 

 アン王女は、二人にお辞儀すると、シロップの背に再び乗り込み、シロップは魔法学校目掛け飛び去った。顔を見合わせたフランソワとグスタフは、互いに頷き合うと、引き返すように魔法商店街に歩き出した。アン王女に頼まれた事もあるが、二人は、ブラックとホワイトが伝説の魔法つかいと呼ばれたプリキュアの再来ならば、直にこの目で二人の姿を目に焼き付けようと思ったからだった。

 

 そのブラックとホワイトは、魔法商店街で暴れまわる数十匹の豹や狼に似た魔物の群れと遭遇した。魔物の群れは、光の戦士である二人の気配を感じ、威嚇するように唸り声を上げ、ブラックとホワイトを包囲して来た。二人の目付きは険しくなり、まるで息を合わせたかのように、二人は魔物の群れ目掛け駆け出した。魔物達も一斉にブラックとホワイト目掛け飛び掛かるも、

 

「ダダダダダダダダ」

 

 ブラックは、飛び掛かって来る魔物達を、パンチの連打で吹き飛ばし、ホワイトは、一匹の魔物の両足を掴むと、

 

「ヤァァァァァ!」

 

 ホワイトはその場で勢いよく回転し、捕らえた魔物を振り回して同士討ちさせ、捕らえた魔物を投げ飛ばした。勢いが弱まった魔物達に対し、

 

「ホワイト、魔法学校に向かったリコちゃんが気になるから、一気にいこう」

 

「分かったわ」

 

 ブラックの提案にホワイトも同意し、二人は魔物の群れをキッと睨み付けると、手を握りあい叫ぶ!

 

「ブラック、サンダー!」

 

 黒い稲妻がブラック目掛け降り注ぎ、

 

「ホワイトサンダー!」

 

 白い稲妻がホワイト目掛け降り注いだ。二人の身体が虹色に輝くと、先ずホワイトが言葉を発し、

 

「プリキュアの、美しき魂が!」

 

「邪悪な心を打ち砕く!」

 

 ホワイトの言葉にブラックが答えた。

 

「「プリキュア!マーブルスクリュー・・・」」

 

 ブラックが右手に、ホワイトが左手に力を込めて前に突き出すと、

 

「「マックス~~!!」」

 

 二人の掛け声と共に、必殺技プリキュア・マーブルスクリューマックスが、魔物達目掛け放たれた。凄まじいエネルギーが、魔物達を一気に飲み込み、魔物達が闇に返った。

 

「す、凄いわぁぁ」

 

「あ、ああ、あれが伝説の魔法つかい・・・プリキュア?」

 

 やって来たフランソワとグスタフは、ブラックとホワイトの戦い方を見て驚き、呆気にとられたものの、直ぐに我に返り二人に話し掛けた。

 

「ねぇ、あなた達、あなた達のお仲間に頼まれたわ」

 

「魔法学校に行きたいんだろう?」

 

「「エッ!?」」

 

 フランソワとグスタフに話し掛けられたブラックとホワイトは、こうして二人から魔法学校に案内して貰える事となった。

 

 

 その魔法学校は、バルバスの猛威に晒されて居た・・・

 

 バルバスの発する衝撃波により、校舎が傷付いていった。

 

 校長は、バリアを張り続けるも、疲労は隠す事も出来ず、片膝付いて荒い呼吸を繰り返して居た。

 

「ハァハァハァ・・・な、何て奴じゃ」

 

「グゥゥゥゥ・・・しぶとい奴め、ならこれはどうだ!?」

 

「エッ!?キャァァァァァァ!」

 

「リ、リズくぅぅぅん!」

 

 バルバスは、口元の口角を上げると、リズに対し不意打ちの衝撃波を発した。リズは直撃こそ免れたものの、地面を転がり倒れ込んだ。リズを心配した校長の集中が途切れた瞬間を狙い、バルバスは再びその場で衝撃波を発し、校長もまた吹き飛ばされた。

 

「ち、力が・・・・」

 

 校長は、何とか立ち上がろうとするも、足がいう事を聞かなかった。バルバスは勝ち誇り、

 

「グオォォォォ!魔界に歯向かう愚か者め、少しは身の程を知ったか?まだまだ後悔するのは早いぞ・・・先ずは、貴様の目の前であの娘を・・・殺す!!」

 

「や、止めろぉぉぉ!」

 

 バルバスの目が殺気を宿し、倒れ込むリズに向けられた。校長は、辛うじて顔を上げるも、リズを救いに向かう事が出来なかった。バルバスは、鋭い爪を光らせ、リズ目掛け駆け出そうとしたその時、

 

「お姉ちゃぁぁぁぁん!ど、退いてぇぇぇ!!」

 

「何ぃ!?グゥゥゥゥゥゥ」

 

 突如上空から急降下したリコが、今リズを殺そうとしたバルバスの後頭部にほうき事ぶつかり、その衝撃でバルバスが被って居た兜は吹き飛び、バルバスは、兜が取れた事で茶色いたてがみを靡かせながら、後頭部を抑えてその場に蹲(うずくま)った。リコは地面を転がりながらも、何とかリズの側に駆け寄り、何度もリズの身体を揺すった。

 

「お姉ちゃん!お姉ちゃん!!」

 

 リコが必死にリズを揺すった甲斐もあり、リズはゆっくり目を開いた。そのリズの視線には、ナシマホウ界に行ったリコの姿が映った。

 

「ウッ・・・エッ!?リ、リコ?」

 

「ウン、お姉ちゃん、大丈夫?」

 

「この子は・・・心配させてぇぇぇ」

 

「ゴメンなさい・・・」

 

 リコは素直にリズに謝り、リズは愛しそうに右手でリコを引き寄せ抱きしめた。後頭部を抑えて居たバルバスは、咆哮を上げながら立ち上がると、

 

「グゥゥオォォォォォ!こ、この野郎、不意打ちするとは良い度胸だぁ!!」

 

「け、計算通りだし」

 

 リコは、獅子の怪物ともいえるバルバスを見て怯えながらも、計算通りだと強がった。バルバスは苛立ち、

 

「計算通りだぁ!?ふざけやがって、貴様もその女と一緒に始末してやる・・・ウォォォォォ!!」

 

 バルバスは怒りの咆哮を上げると、バルバスのたてがみは怒りを表すように揺らめき、バルバスは、リコとリズ目掛け衝撃波を放った。その時、

 

「ロプゥゥゥゥゥ」

 

「リコさん、お姉様とこちらに!」

 

 シロップの背から、アン王女が必死に手をリコとリズに差し出した。

 

「アン王女!お姉ちゃん、アン王女に捕まって!!」

 

「エエ」

 

 リコとリズは、アン王女が差し出す手を掴み、アン王女は二人の身体を持ち上げた。上昇するシロップを見たバルバスは、忌々しそうに舌打ちし、

 

「チッ、それで逃げたつもりか?」

 

 バルバスは勢いよく駆けだすと、大きく上空目掛け飛び上がった。上空まで逃げれば大丈夫だと油断していたシロップは、大ジャンプで目の前に飛び上がって来たバルバスの出現に驚いた。バルバスは、両腕をクロスさせると、

 

「逃がすかよ!シャドウナイツ・・・クロウ!!」

 

「ロプゥゥゥゥゥゥ!?」

 

 バルバスは、交差させた両腕を前に突き出すと、両手の鋭い爪を伸ばし、シロップの翼を傷めつけた。堪らずシロップが錐揉み上に急降下して行った。

 

「「「キャァァァァァァ!」」」

 

 アン王女、リコ、リズは、落下しながら悲鳴を上げ、校長は魔法の杖を振ると、辛うじて噴水の水を利用してスポンジのような状態に変え、四人のダメージを軽減した。アン王女は、足を少し擦り剝きながらも、妖精姿に戻って気を失うシロップを、膝の上に置いて介抱した。リコは、リズを庇う様にバルバスを睨んだ。

 

「逃げられやしねぇよ!さあ、覚悟しな!!」

 

 バルバスは、狙った獲物は逃がさないとばかり、リコとリズ目掛け歩を進めた。リコはリズを庇う様に、魔法の杖を懸命に振りまくった。

 

「キュアップ・ラパパ!怪物よ、あっちに行きなさい!!」

 

 だが、リコの呪文は何の効果も示さず、バルバスの口角が再び上がった。

 

「グルルルル・・・何だ、そりゃ!?痛くも痒くもねぇぞ?」

 

「キュアップ・ラパパ!怪物よ、あっちに行きなさい!!」

 

 リコは、バルバスに嘲笑されながらも、必死に魔法の杖を振り続けたが、リコの魔法は一切効果を示さず、バルバスはリコとリズ目掛け、更にゆっくり歩を進めた。校長は這いながら、

 

「よさぬかぁぁ!リズ君、リコ君、逃げるんじゃぁぁぁ!!」

 

「リコさん!クッ、エースになれれば・・・」

 

 校長は叫ぶも、リコとリズはバルバスの気に当てられたかのように、足が竦み逃げ出す事は出来なかった。アン王女は、エースへの変身アイテムであるラブアイズパレットを、悔しそうに手で握りしめた。リコはそれでも諦めず、何度も魔法の杖を振り続けた。

 

「キュアップ・ラパパ!怪物よ、あっちに行きなさい!!キュアップ・ラパパ!怪物よ、あっちに行きなさい!!キュアップ・ラパパ!怪物よ、あっちに・・・」

 

「「行きなさぁぁぁい!!」」

 

 まるでリコの呪文に合わせるように、グスタフが運転する魔法の絨毯で、グスタフとフランソワに送って貰ったブラックとホワイトが、リコの危機を見るや、魔法の絨毯から飛び降り、不意打ちの急降下蹴りでバルバスを蹴り飛ばした。

 

「グゥゥオォォォ!?な、何だ?」

 

 吹き飛ばされたバルバスは直ぐに起き上がり、険しい表情でブラックとホワイトを睨み、二人も睨み返した。

 

「「ブラック!ホワイト!」」

 

 リコとアン王女は、その頼もしい二人の姿に、見る見る表情が明るくなった。フランソワは、魔法の絨毯からリコに手を振り、

 

「リコちゃん、大丈夫!?プリキュアを連れて来たわよ」

 

「フランソワさん、グスタフさん、ありがとう!」

 

 リコは、上空の魔法の絨毯に居るフランソワとグスタフに両手を振ってお礼を言った。校長は不思議そうに、

 

「リコ君、彼女達は・・・一体何者何じゃ!?」

 

「校長先生、彼女達はキュアブラックとキュアホワイト・・・プリキュアよ」

 

 リコは、表情を明るくしながら校長に説明した。すると、校長と話を聞いたリズの表情が変わった。

 

「な、何じゃとぉぉ!?」

 

「プリキュアですって?」

 

 校長とリズの脳裏に、魔法界に伝わる伝説が頭を過ぎった。嘗て闇に覆われた魔法界を救った、伝説の魔法つかいプリキュアの事を・・・

 

「あの者達が・・・伝説の魔法つかいじゃとぉ!?」

 

 校長は、眩しそうにブラックとホワイトを見た。ブラックとホワイトは、唸るバルバスを指さし、

 

「魔法界を滅茶滅茶にしようだ何て・・・許せない!」

 

「私達が相手よ」

 

 ブラックとホワイトは、重心を落としてバルバスに身構えた。バルバスにも、リコが発した二人がプリキュアだという声を聞き口角を上げた。

 

「貴様らがプリキュアかぁ!?シーレインや二クスとリリスを退けた実力、この俺が確かめてやる!」

 

 バルバスは、着こんでいた禍々しい鎧を脱ぎ始めた。鎧はかなりの重さだったようで、その場に投げると地響きが起こり、鎧は地面に減り込んだ。バルバスは、首を左右に振ると、

 

「さて、久々に本気を出してみるか」

 

 バルバスはそう言うと、先程とは打って変わり、素早い動きで駆け出した。バルバスの動きは素早く、残像が残った。

 

((速い!?))

 

 反応が遅れたブラックとホワイトに、バルバスの衝撃波が繰り出された。二人は風圧で飛ばされるも、辛うじて態勢を整えながら着地した。更にバルバスは、その勢いのまま両手でブラックとホワイトの顔を鷲掴みにして、二人を引き吊り回した。

 

「「キャァァァァ!」」

 

「「ブラック!ホワイト!」」

 

 二人の身を案じ、アン王女とリコが同時に叫び、ブラックとホワイトは何とか両足をバルバスの腕に絡め、バルバスの手から逃れた。バルバスは両腕を交差させると、

 

「まだまだ行くぞ!シャドウナイツ・・・クロウ!!」

 

 バルバスが両腕を前に突き出すと、バルバスの両手の爪が伸び、ブラックとホワイトを襲った。二人は素早く、バク転しながら攻撃を躱し、バルバスと距離を取ると、アイコンタクトで頷き合った。黒と白の稲妻が二人に落ち、虹色の輝きと共にマーブルスクリューマックスを放つも、バルバスは再び両腕をクロスして、マーブルスクリューマックスを防ぎきった。

 

「そんなもんかぁ、プリキュアァァ?ウォォォォォ!!」

 

 ブラックとホワイトを挑発するように、バルバスが吠えた。

 

「そ、そんなぁ!?ブラックとホワイトの技が?」

 

「堪えたというのですか?」

 

 リコとアン王女は、マーブルスクリューを堪えたバルバスに驚愕した。だが、ブラックとホワイトは冷静だった。嘗て、メランとの勝負で、マーブルスクリューを破られ動揺した二人は、メランによって大ダメージを受けた事があった。その時の教訓もあり、ブラックとホワイトは冷静に状況を見つめ、ブラックはホワイトに話し掛けた。

 

「ホワイト、あいつ、流石に魔界の魔神だね?」

 

「エエ、ルミナスが居ないとなると・・・でも、魔法界にもプリキュアが居たなら、あるいはスパークルブレスが使えるかも?」

 

 ブラックとホワイトは頷き合うと、二人は手を繋ぎ、目を瞑った・・・

 

「私達の目の前に、希望を!」

 

「私達の手の中に、希望の力を!」

 

 ホワイト、ブラックの言葉を聞き入れたように、金色の光が、ブラックとホワイトの下に集まってくる。ブラックの右手に、ホワイトの左手に、スパークルブレスが装着された。漲ってくる力を現わすように、腕を回しながら構えた、ブラックとホワイトの姿を見たバルバスの表情が変わった。

 

(な、何だ!?さっきまでとは別人のような力を、あの二人から感じるだと?)

 

 動揺するバルバスに、先ずブラックが攻撃を仕掛けた。ブラックは、バルバス目掛け勢いよく駆けだすと、バルバスはその速さに思わず目を見張った。

 

「バ、バカな!?俺が目で追えんだと?」

 

 一気に飛び出したブラックの速さに反応出来ず、バルバスはブラックの連続パンチの猛攻を受けた。本気を出したバルバスのスピードに対応したのは、まだルーシェスが光臨する前に戦った事があるベレルやケンタウロスのアロン以来だった。

 

「こ、こいつ、ベレルやアロン並みのスピードを!?」

 

「ダダダダダダダダ」

 

「グゥゥゥゥゥゥ!?」

 

 ブラックの容赦のないパンチの連打が、バルバスに浴びせられる。バルバスの身体がどんどん後方に追いやられて行った。

 

(こ、この俺が押されてるだとぉ!?)

 

「コノォォォォ!」

 

 バルバスは強引に右パンチを放つも、ブラックは素早く上半身を下げて躱して足払いを行い、入れ違いにホワイトが体勢を崩したバルバスの右腕を掴み、

 

「ヤァァァァァァ!」

 

 ホワイトは、激しくバルバスを投げ飛ばした。バルバスは地面に激突しながらも受け身を取って体勢を整える。だが、ブラックとホワイトは追い打ちをかけるように宙に飛び、

 

「「ヤァァァァァァァ!!」」

 

 ブラックとホワイトの呼吸の合った飛び蹴りを受け、バルバスが大きく後方に吹き飛んだ。意識が飛ぶ程の威力を持ったブラックとホワイトの蹴りに、ハッと我に返ったバルバスは、二人が只者ではないと認めるしかなかった。

 

「ガハァァァ!つ、強ぇぇ・・・だがなぁぁぁ!!」

 

 バルバスはその場で唾を吐き、気を高めようとしたその時だった。

 

「バルバス、もういい引け」

 

 突然バルバスが右腕に巻いていた時計のような水晶が輝き、カインの声が聞こえて来た。バルバスは舌打ちし、

 

「チッ、撤退だぁ!?カイン、冗談言うんじゃねぇ!これからが本番だぁ!!」

 

「バルバスよ、これは、ルーシェス様の命令だ!その者達との決着は、何れ魔界で付けさせてやる」

 

「魔界でだと!?どういう意味だ?」

 

「何れ分かる・・・今は引け!」

 

「クッ・・・プリキュアァァ!貴様らの面覚えたぞぉぉぉ!!必ず魔界に来やがれ、次に戦う時は・・・必ず貴様らを引き裂いてやる!!!」

 

 バルバスはそう言い残し、脱ぎ捨てた鎧と兜を拾って、魔法界を後にした。その瞬間、魔法学校から大歓声が沸き上がった。ブラックとホワイトは大きく息を吐き、リコは大喜びして二人に抱き付いた。

 

「ブラックゥゥ!ホワイトォォ!ありがとう!!」

 

「「どう致しまして」」

 

 抱き付いたリコに、ブラックとホワイトは目を細めた。リズも二人に近付くと、妹であるリコを保護してくれた事と、魔法学校を救ってくれた事を感謝した。

 

(あの二人が、伝説の魔法つかいプリキュアの再来!?キャシーの占いは、彼女達の事じゃったか)

 

 校長は、眩しそうに伝説の再来であるブラックとホワイトを見つめた

 

 

3、魔法つかいアンジュ

 

 戦闘が終わり、教頭は慌てて校舎から飛び出し、校長の側に駆け寄ると、校長は手で教頭を制した。

 

「わしは大丈夫じゃ。それより、リズ君を手当てしてやってくれ」

 

「ハ、ハイ・・・リズさん、こちらに」

 

「ハイ!」

 

 教頭に言われ、リズはリコの頭を軽く撫でると、教頭の側に歩いて行った。教頭は、ジロリとリコを見つめると、思わずリコはドキリとし、緊張した面持ちになった。校長から許可を得た事になったものの、リコが勝手にナシマホウ界に行った事実は変わらないのだから・・・

 

「リコさん、あなたもいらっしゃい・・・あなたには後でお話があります!」

 

「ウッ!?ハ、ハイ・・・」

 

 リコは、二クスとリリスに誘われるまま、勝手に魔法学校を抜け出した事を怒られると思うと、どうしようといった表情でオドオドした。ブラックは、そんなリコを見て苦笑しながら、

 

「リコちゃん、後で私とホワイトも経緯を話して上げるからさ」

 

「本当!?」

 

「ウン」

 

 ブラックが頷き、リコはホッと胸を撫で下ろした。リコは、三人に手を振り、

 

「じゃあ、また後でね」

 

 リコが慌てて教頭とリズの後を追って校舎内に入ると、校長は、ブラックとホワイトの側に近寄り、

 

「リコ君から聞かせて貰った。そなたらが伝説の魔法つかいプリキュアの後継者だったとは・・・魔法学校を救って貰い、感謝する」

 

 校長は、その場で頭を下げると、ブラックは両手を振って困惑した。キュアマジシャンと同じプリキュアではあるものの、自分達は魔法つかいでは無いのだから・・・

 

「い、いえ・・・私達、別に魔法つかいって訳じゃ無いんですけど」

 

「何と!?違うと申すか?」

 

 驚く校長にホワイトは小さく頷き、

 

「ハイ、プリキュアには違いないんですけど、私達、魔法は使えませんし・・・」

 

「それに、キュアマジシャンの後継者なら・・・」

 

 ブラックは、そう言うとアン王女を校長に引き合わせた。アン王女はその場で頭を下げ、

 

「お初にお目にかかりますわ。わたくしは、トランプ王国王女、マリー・アンジュと申します。魔法界の方には、キュアマジシャンの子孫と言った方が分かりやすいでしょうか?」

 

「な、何じゃと!?そなたは、あの伝説の魔法つかいプリキュア、キュアマジシャンの子孫じゃと?」

 

「ハイ!よろしければ、キュアマジシャンの事を教えて頂ければと・・・」

 

 アン王女に頼まれた校長は、これも伝説の魔法つかいプリキュアの導きのように感じられて居た。

 

「折角じゃ、三人に魔法界について話すと致そう」

 

 校長は自ら先頭を歩き、ブラック、ホワイト、アン王女を、校長室へと招き入れた。そこで校長は、魔法界の事を三人に伝えた。三人もリコから話を聞いて居たので、改めて驚くような事実は無かったが、それでも魔法界の実力者である校長の話は興味深かった。校長は、一万年前の魔法界の伝承を語り終えると、

 

「・・・と言い伝わって居る。わしも一万年前の事を見た訳では無いからのぅ・・・じゃが、現実にわしの目の前に、キュアマジシャンの子孫のアン君が居るという事は、伝承も事実じゃったという事か」

 

「わたくし達が、地球の神様から聞いた話とも一致しますし、伝承は事実であったとわたくしも思います」

 

「なるほど、大いなる闇・・・その者が一万年前に魔法界をも巻き込んで、暗躍しておったという訳か・・・益々興味が湧いてきおったわい」

 

 校長は、目を輝かせると、一万年前の事をもっと良く知りたいと思う様になっていた。ブラックとホワイト、アン王女の視線が自分に向けられているのに気づき、校長は慌てて咳払いすると、

 

「では折角じゃし、魔法樹である杖の木を案内するかのぅ」

 

「「「お願いします」」」

 

 校長に誘われたブラックとホワイト、そしてアン王女は、校長室を出て外に出ると、大きな枝の上を歩きながら上に上って行き、沢山の木々が生い茂る森の中を歩いた。

 

「魔法樹から枝木された杖の木は、魔法界の至る所に生えておる。この地に生まれた赤ちゃんが生まれると同時に、杖が実り赤子に魔法の杖が授けられるんじゃ」

 

「「へぇぇぇ」」

 

「神秘的ですわねぇ?」

 

「これも、マザーラパーパの導きなのかなぁ?」

 

「かも知れないわね」

 

 アン王女、そしてブラックとホワイトの会話を聞いて居た校長は、聞きなれないマザーラパーパという言葉に敏感に反応した。

 

「マザーラパーパ!?」

 

「「「い、いえ、何でもありません」」」

 

「???」

 

 校長の説明を聞き、魔法樹に宿るマザーラパーパの神秘な力を改めて実感しながら、三人は歩を進めた。そんな四人の目の前に、一際大きな木が映り、一軒の建物が見えて来た。校長は建物の上を見上げ、

 

「この木は、杖の木の中でも最も古いんじゃが、最後に杖を実らせたのは、数百年前じゃとも言われておる。もう枯れ果てたのかも知れぬのぅ・・・」

 

 校長はそう言うと、眩しそうに杖の木を見上げた。釣られるようにブラックとホワイト、そしてアン王女も見上げた。アン王女は、まるで杖の木に導かれたかのように、ゆっくり歩を進めると、まるで杖の木は、アン王女に反応したかのように、ゆっくり光り輝き始めた。これには校長も、ブラックとホワイトも驚き、

 

「何と!?杖の木が?」

 

「何か光り出したよ?」

 

「アン王女に反応したとでも言うの?」

 

(わたくしに!?)

 

 アン王女は、思わず右手を杖の木に近づけると、まるで杖の木は、アン王女が来る事を待ち侘びて居たかのように、杖の木は実り始めた。校長は思わず唸り、

 

「ウゥゥム、どうやら杖の木は、アン君を選んだようじゃのぅ」

 

「「アン王女を!?」」

 

(ウゥゥム・・・これには何か意味があるのじゃろうか?)

 

 校長は、杖の木から新たに生まれた魔法の杖が、アン王女の右手に握られた姿を見て、思わず唸った。アン王女は、右手に持った魔法の杖をマジマジと見つめた。先端にはハートマークで中にはアルファベットのAと読めるようなマークが付いて居た。

 

「リコさんのとは、また形が違っているのですねぇ?」

 

「ウム、魔法の杖は、一人一人形が違うからのぅ・・・では、校長室に戻ろう」

 

「「「ハイ!」」」

 

 校長室への戻り道、校長は頭の中で有る事を考えて居た。キュアマジシャンの子孫であるアン王女や、伝説の魔法つかいの後継者のブラックとホワイトが、魔法界を訪れた事、アン王女が杖の木から魔法の杖を授かった事、それら一つ一つに何か意味があるのではないかと思って居た。

 

(ならば、今のわしに出来る事は・・・)

 

 校長は、密かに心の中である事を決めて居た・・・

 

 校長室に戻る途中、教頭に注意されているリコを見掛けたブラックは、慌てて中に入ると、リコはホッとしたような表情を浮かべた。ブラックは困惑気味に教頭に話し掛け、

 

「あのぅ、リコちゃんをあまり怒らないで上げて下さい」

 

「ブラック!」

 

 リコの表情が明るくなるも、教頭にジロリと見つめられると、見る見る顔を俯いた。教頭はブラックに視線を向けると首を振り、

 

「いえ、そうは参りません!リコさんは、我々を散々心配させて・・・」

 

 秩序を重んじる教頭は、リコを憎んで憎まれ口を叩いて居る訳では無い事は、一同にも理解出来た。校長は教頭を宥めるように、

 

「教頭、その事はわしも許可して居ったと前に伝えておいたじゃろう?もうその辺で良いじゃろう」

 

「それはそうですが、他の生徒達に示しが・・・」

 

「まあ良いではないか、リコ君がプリキュア達を連れて戻って来てくれたから、今こうしてわしらは無事にして居られるんじゃしのぉ」

 

「それはそうですけど・・・」

 

「リコ君、君も一緒に来ると良い」

 

「ハイ!」

 

 教頭の小言から解放されると知り、リコはホッと胸を撫で下ろした。リコは、アン王女の右手に杖が握られているのに気づいた。

 

「アン王女、その右手の杖は!?」

 

「ええ、今校長先生に案内された杖の木で、偶然わたくし用の魔法の杖が生まれたとかで」

 

「エェェ!?アン王女の?」

 

「ウム!アン君、それなのじゃが、君さへ良ければどうじゃろう・・・魔法学校で魔法を習って見る気はないかのぅ?」

 

「エッ!?わ、わたくしが魔法を?」

 

「ウム。杖の木がアン君を選んだ事に、何か意味がある気がわしにはするんじゃ。もちろん、アン君が望むならばじゃが・・・どうかのぅ?」

 

 校長に誘われたアン王女は、内心激しく動揺していた。先祖であるキュアマジシャンと同じように、魔法を扱えるのならば、扱ってみたいというのは、アン王女の嘘偽りない気持ちだった。

 

(エースに自在になれない今、魔法で皆様方をサポート出来るのなら、それはわたくしに取ってもプラスになる筈)

 

 アン王女は心の中で、魔法を本格的に覚える事を決断した。

 

「それは、わたくしの方からお願いを致したいぐらいですわ」

 

「そうか、君ならば基礎を覚えれば、直ぐにでも魔法を覚える事が出来るじゃろう」

 

「よろしくお願い致しますわ」

 

 アン王女は、その場で校長に深々と頭を下げた。ブラックとホワイトも、リコも、急な成り行きに大いに驚いたものの、三人共アン王女の決断を尊重し、祝福しようと思って居た。

 

「何か凄いねぇ」

 

「エエ、アン王女に魔法の才能が有った何てね」

 

「私も負けてられないなぁ」

 

 リコは、魔法の杖をギュッと力強く握った。アン王女は、ブラックとホワイトに右手を差し出すと、

 

「ブラック、ホワイト、ソードや他の皆様に、よろしくお伝えください」

 

「エエ、みんなには私達から伝えます」

 

「魔法の修行、頑張ってくださいね」

 

「ハイ!」

 

 互いに笑みを浮かべた三人、ブラックとホワイトは、外で休息して居たシロップの背に乗り込むと、

 

「それじゃあ、アン王女、リコちゃん、またね!」

 

「リコちゃん、また機会があったら遊びに来てね」

 

「ハイ!エレンさんや、他のプリキュアのみんなにもよろしく伝えて下さい」

 

 魔法学校を飛び去って行くシロップの背を、アン王女とリコは見えなくなるまで手を振り続けた。校長も、その姿を校長室の窓から無言で見送り、ブラックとホワイトは、シロップの背に乗って人間界を目指した。だがその人間界では、ラブ達が住む四つ葉町に、危機が迫ろうとして居た・・・

 

 

              第百二十六話:魔法界を救え

                    完

 




第百二十六話投稿致しました。
今回はブルースカイ王国と魔法界での話になっております。
インフルエンザになり体調は最悪でした・・・まだインフル流行ってますので、皆さんもお気を付けください。

HUGっと!プリキュア始まりましたね。
まだ始まったばかりですが、中々好感持った新プリでした。キラプリの最終回でも思いましたが、はぐたん可愛いなぁ・・・敵組織も企業のようで5を思い出しました。オシマイダーが浄化されて辞めさせて頂きますとか思わず吹きましたw
ネット上では早くも追加戦士の話題出てて驚きます。解析するの早いなぁw

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