プリキュアオールスターズif   作:鳳凰009

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第百二十四話:次世代を担う少女達(前編)

1、大貝町の少女達

 

 人間界へとやって来た大蝙蝠の魔物ブラッドは、とある森の中で木にぶら下がり、カインからの指示を待って居た。その下では、動物、昆虫、植物の姿をかろうじてした数十体の魔物達が、気配を消しながら待機して居た。暫くすると、ブラッドにカインからのテレパシーが届いた。

 

(ブラッド、聞こえるか?人間共を襲い、プリキュアを誘き出せ)

 

 カインからの指令を受けたブラッドだったが、ブラッドはカインからの指示を受け、嘗てシャックスが任されていた宝瓶宮を調べ、プリキュアについての情報を得て居た。ブラッドはカインに進言し、

 

(カイン様、襲う場所は私にお任せ頂けませんか?人間の中には、特に光の力が強い者が居るようです。後々奴らがプリキュアになって、我らの邪魔にならない内に・・・)

 

(ほう・・・良いだろう!人間界の方はお前に任せる。だが良いか、その後が重要だ。プリキュア達が人間共を救う為、自分の住む町を離れた隙を狙い、その町を攻撃しろ。慌てて戻って来たプリキュア共を、お前は命に代えてでもその場に止まらせろ)

 

(分かりました!で、どの町を狙うので?)

 

 ブラッドはそう告げたものの、カインの考えが読めなかった。これだけの人数が居れば、人間を利用すれば、自分達だけでもプリキュアは倒せると考えて居たが、カインはまるで、はなから自分達だけでは、プリキュアを倒せないと思って居るように思えた。だが、カインに反論する訳にもいかず、ブラッドは不満を押し殺し、プリキュアが住んで居るどの町を攻撃するのか、カインからの返答を待った。

 

(先程、小賢しくも俺に意見してきた人間が居てなぁ・・・そいつの気配を探った所、どうもフレッシュプリキュアとかいう奴らが住む町の者だと分かった。ターゲットは・・・奴らが住む四つ葉町だ!)

 

(四つ葉町・・・分かりました!私は選抜した者を引き連れ、四つ葉町に向かいます)

 

(ウム、ではそちらの世界は任せたぞ)

 

 カインは、ブラッドへのテレパシーを終えると、大きく息を吐いた。魔法界、人間界、そしてブラッドへとテレパシーを送り続けた事で、流石のカインも些か疲労した。

 

(さて、魔法界には誰を向かわせるか・・・)

 

 カインは目を閉じると、魔法界総攻撃の人員を選び始めた。

 

 

 ブラッドは、木から飛び降りると、数十人にものぼる魔物達を集めた。

 

「カイン様からお許しが出た。これより何小隊かに分かれ、光が強く反応している町を責める。各小隊十人前後も居れば十分だろう。第一小隊は、大貝町とか言う町に迎え!この部隊は・・・キャメラ、お前が率いろ」

 

 ブラッドが大貝町に向かわせる部隊の隊長に命じたのは、筋骨隆々としたナマケモノに似た魔物だった。キャメラはゆっくり前に出ると、ブラッドに畏まり、

 

「わ~か~り~ま~した~」

 

(ウ~ム・・・キャメラは強いのだが、どうも動きと喋り方が鈍くていかん)

 

 ブラッドは少しイライラしたものの、気持ちを切り替えて第二小隊の人選を始めた。

 

「ウ、ウム、任せた・・・次に第二小隊、この部隊は、ぴかりが丘とか言う町を攻略しろ!だがこの町には、千年前にプリキュアが居たと、シャックス様の資料に残されて居た。用心して掛かった方が良いな。この部隊は・・・ネズリオ、お前が率いろ・・・・ネズリオ!?」

 

 ブラッドは、部隊長に命じたネズリオと呼んだ魔物の姿が見えず困惑した。辺りをキョロキョロしてみるも、ネズリオの姿は見当たらなかった。

 

「さっきから目の前に居るっチュゥ」

 

「何!?」

 

 ブラッドは、細い目を更に細めて、声のした辺りを凝視すると、木々に交わり瞬きしている物体を見つけた。

 

「ネズリオ、そこに居たのか?お前の保護色機能は、凄いなぁ!?これならばプリキュア共も・・・ところで、実体を表してくれるか?独り言を言って居るようで、俺が間抜けに見えるんだが?」

 

 ブラッドは、困惑しながらネズリオに言葉を掛けると、ネズリオは言われるままに姿を露にした。頭部は鼠、体はカメレオンのようで、ちょっとグロテクスにも見えた。

 

「次に、第三小隊には夢見ヶ浜を・・・」

 

 ブラッドは、更なる人選を次々に決めて行った・・・

 

 

 大貝町・・・

 

 相田マナは、親友の菱川六花と共に、もう一人の親友である四葉ありすの家に招かれ、お茶会をしていた所、カインの宣戦布告を受けて居た・・・

 

「あたしだけじゃなく、六花にもありすにも聞こえたって言う事は、あたしの空耳じゃなかったんだねぇ・・・」

 

「うん、何かプリキュアを目の敵にしているみたいだったわね?」

 

「気掛かりなのは、無差別に日本を攻撃すると言って居た事ですわ」

 

 マナの言葉に、六花もありすも、少し険しい表情をしながら話した。三人共、世界絵本博覧会では、直にプリキュア達に接した事で、憧れも抱いていた。そのプリキュアを、カインは目の敵にしているようだった。ありすの執事であるセバスチャンは、

 

「お嬢様、念の為室内にお入り下さい。お茶会の続きは、室内で致した方が宜しいかと」

 

「そうですわね・・・マナちゃん、六花ちゃん、室内で・・・」

 

 ありすがそう告げた時だった・・・

 

 ありすは思わず話を中断し、庭先に満ちる邪気を感じて居た。ありすの執事セバスチャンも、異変を察知したようで、三人を庇う様に周囲の気配を探った。マナと六花は何事かと目を見張り、

 

「ありす、どうしたの!?」

 

「脅かさないでよね?」

 

「残念ですが、私達以外の何者かが、この庭先に潜入したようですわ」

 

「「エッ!?」」

 

 マナと六花にも、ありすとセバスチャンの険しい表情を見て、今この場所に何者かが侵入して居る事に気づいた・・・

 

 

 鏡の部屋・・・

 

 ブルーは、日本の各地で邪気が蠢き始めた事を察知し、プリキュア達の周囲に、七枚の姿見鏡を配置した。

 

「みんな、どうやら魔界の者が行動に移ったようだ。近くにある鏡に入って、魔物に襲われている町を救って欲しい」

 

 ブルーが一同に頭を下げるも、ピーチは鏡を指さすと、

 

「神様、この鏡は、何処に繋がって居るんですか?」

 

「七枚の鏡は、今魔界の者が現れた町へと繋がって居るんだ」

 

 ブルーの説明に、一同は小さく頷いた。ブルームは一同を見渡し、

 

「とにかく、行くしかないね!」

 

 ムーンライトも一同を見渡すと、一同に指示を出し、

 

「みんな・・・行くわよ!」

 

『ハイ!』

 

 一同がムーンライトに返事を返し、それぞれ行動に移そうとすると、ブルーは慌ててべリーとマリンに話し掛け、

 

「べリー、マリン、君達二人に頼みたい事があるんだが・・・二人は残ってくれるかい?」

 

「「あたし達に!?」」

 

 ムーンライトの合図と共に、一同は一番近い鏡の中へと飛び込んで行ったが、べリーとマリンの二人は、ブルーに呼び止められ、困惑の表情を浮かべた。

 

 

 ブラッドの命を受けた魔物達が、異空間を使って、同時に光を心の中に宿す少女達に攻撃を開始した・・・

 

 マナ、六花、ありすの前には、ナマケモノのような容姿をした、筋肉質な魔物キャメラが、ゆっくり姿を現し、マナと六花は思わず目を見開いた。

 

「あれは・・・ナマケモノさん?」

 

「まあ、見た目はナマケモノみたいだけど・・・何かムキムキでキモイんですけど?」

 

 六花はその見た目を見て、若干引き気味だったものの、ありすは目を輝かせると、

 

「まあ!楽しそうなナマケモノさんですわぁ」

 

「「エェェ!?」」

 

 ありすがナマケモノの魔物を見て目を輝かし、マナと六花は思わず困惑しながら顔を見合わせた。セバスチャンは軽く咳払いし、

 

「いけません、お嬢様・・・さあ、皆様お屋敷の中に避難を」

 

 そう述べたセバスチャンだったが、まるでマナ達一行を取り囲むように、魔物の群れが次々と姿を現した。キャメラを筆頭に、巨大な大トカゲ、五匹の巨大な蟻、コオロギ、そして向日葵(ひまわり)、それらをモチーフにした九匹の魔物達が、ジリジリ四人を包囲して行った。セバスチャンは、直ぐに無線を手に取り、

 

「お嬢様に手出しはさせん・・・四葉レンジャー部隊!お嬢様達をお守りしろ!!」

 

 セバスチャンの号令の下、突如屋敷の上空に二台のヘリコプターが飛来し、三十名前後の武装した集団が、ロープを伝って降りて来た。マナと六花は、それを見て思わず目を点にした。マナは降りて来た人達を指さし、

 

「あ、ありす、あの人達は何!?」

 

「あの方達は、四葉レンジャー部隊ですわ」

 

「「レンジャー部隊!?」」

 

 ありすの口から飛び出したレンジャー部隊という言葉に、マナと六花が思わず同時に聞き返した。四葉財閥が、色々な事業に手を出して居る事は、二人もありすから聞いていたが、まさか私営でレンジャー部隊まで持って居るとは、マナと六花も思っても見なかった。マナと六花は、降りて来たレンジャー部隊を呆然と見ていると、セバスチャンは右手を胸に当て、マナと六花に説明を始めた。

 

「ハッ、お嬢様の護衛を主に、お嬢様の災いを排除すべく・・・」

 

 セバスチャンの言葉を、慌てて六花が遮り、

 

「イヤイヤイヤ、クーデターでも始める気?」

 

「御心配には及びませんわ。あれはエアガンですから」

 

「「そういう問題!?」」

 

 ありすからエアガンだと聞かされても、マナと六花は、フル装備したレンジャー部隊に驚愕した。キャメラは、突如現れた武装したレンジャー部隊を見るも、さしたる動揺を見せる事は無かった。銃を構えるレンジャー部隊が、ジリジリ魔物の群れに近寄るも、巨大な向日葵の様な魔物から、無数の蔓が伸び、レンジャー部隊の身体を捕らえた。

 

『ウワァァァ!?』

 

 悲鳴を上げたレンジャー部隊は、まるで魂を抜かれたかのようにグッタリし、魔の向日葵は、興味を失ったかのように放り投げた。どうやら、眠り粉でも吸ったかのように、レンジャー部隊は、皆夢の中へと堕ちて行った。セバスチャンは、信じられないといった表情を浮かべた。

 

「バ、バカな!?四葉財閥が誇るスーパーレンジャー部隊が、3分も持たず全滅だと!?」

 

 セバスチャンが驚愕するのも仕方が無かった。彼らは射撃の大会で、過去に好成績を残した程の精鋭だったのだから・・・

 

 マナは、レンジャー部隊が頬り投げられた瞬間、キャメラの傍まで歩き出した。六花とありすは驚愕し、

 

「ダメよ!マナ、戻って!!」

 

「マナちゃん、危険ですわ!」

 

 だが、マナは歩き続けた・・・

 

 その目には、どこか闘志が宿っているようにも思えた。キャメラは、マナを見るとブラッドの言葉を思い出して居た。

 

(な~る~ほ~ど)

 

 ブラッドが言って居たのは、マナのような人間が、後に魔界の脅威になるのではないかと実感した。マナは、キャメラの前で立ち止まると、

 

「ナマケモノさん、どうして此処に来たのかは知らないけど、乱暴な事は止めよう?」

 

「や~め~な~い」

 

 キャメラがそう言うやいなや、キャメラの右腕が伸び、マナの身体を捕らえた。

 

「キャァ!」

 

「マナァァ!」

 

「マナちゃん!」

 

 マナの悲鳴を聞き、六花とありすが思わず叫ぶも、油断した二人の隙を付き、向日葵の魔物が、再び蔓を伸ばして六花とありすを捕らえた。

 

「「キャァァ!」」

 

「おのれぇ、この化け物共!お嬢様達を放せ!!」

 

 セバスチャンは、ありすと六花を捕らえた植物に対し、執事拳法を駆使し立ち向かおうとするも、相手が人間ならば兎も角、魔物相手では相手にならず、蔓に跳ね飛ばされて壁に激突して呻いた。

 

「グゥゥゥ、お、お嬢様、暫しの・・・ウッ」

 

 セバスチャンは、何とか立ち上がろうとするも、思わず目が眩み膝を付いた。

 

(ヌゥゥ、こ、この程度で!)

 

「ヌゥオォォォ!」

 

 セバスチャンは、気合を込めて何とか立ち上がるも、マナを捕まえたキャメラの右手が、六花とありすを捕らえた植物の魔の蔓が、三人の身体を益々締め付けていった・・・

 

 その時、突然現れた姿見鏡の中から、ピンクの衣装を着た二人のプリキュアが飛び出して来た。一人はキュアピーチ、もう一人はキュアドリーム、ピーチは、マナを捕らえていたキャメラ目掛け走り、助走を付けて大きくジャンプすると、

 

「タァァァァ!」

 

 ピーチは、全体重を右拳に込め、雄叫びながら急降下パンチをキャメラに浴びせた。ピーチの奇襲を受けたキャメラは、思わず捕らえていたマナを放り投げて尻もちを付いた。その勢いで宙に飛ばされたマナを、ピーチがジャンプして受け止めた。

 

「大丈夫!?」

 

「ハイ!あなたには、また助けられちゃった」

 

「そういえばそうだねぇ」

 

 マナに言われたピーチも、世界絵本博覧会の事を思い出し、思わずマナと顔を見合わせて苦笑した。マナはハッと我に返り、心配そうな表情でピーチに話し掛け、

 

「六花やありすが・・・」

 

「大丈夫、もう私の仲間が助けに向かったから」

 

 ピーチの言葉を表すかのように、険しい表情を浮かべたドリームは、六花とありすを捕らえた向日葵の魔物に対し、

 

「プリキュア!シューティングスター!!」

 

 ドリームは、上空に舞い上がり、腕をエックス字にして突進した。向日葵の魔は、現れたドリーム目掛け無数の蔓を伸ばすも、シューティングスターは、その勢いのまま蔓を押し返し、向日葵の魔を突き抜け、蝶の残像が浮かび上がると同時に、植物の魔を打ち破った。ドリームのお陰で解放された六花とありすだったが、今度は大トカゲの魔物が、六花目掛け這い寄って来た。

 

「こ、今度はトカゲのお化け!?」

 

 顔色変えた六花だったが、大トカゲの周囲が凍り付き、まるで金縛りにあったかのように動きが止まった。六花は、氷の結晶を操る青い衣装を見て目を輝かせた。ゆっくり六花を庇うように前に出たのは、キュアビューティだった。

 

「プリキュア!ビューティ・ブリザ~~ド!!」

 

 ビューティは、動きが止まった大トカゲの魔物に対し、右手に冷気を球状に凝縮し、左手で空中に雪の結晶を作った後、雪の結晶と氷の球を合わせ、大トカゲの魔物目掛け冷気の技、ビューティブリザードを放って一蹴した。後ろを振り返ったビューティは、六花を労わる様に声を掛け、

 

「大丈夫ですか?」

 

「は、はい」

 

「まだ危険ですので、少し離れて居てください・・・サンシャイン、四人をお願いします」

 

「ウン、四人は私に任せて!その前に・・・花よ、舞い踊れ!プリキュア!ゴールドフォルテバースト!!」

 

 最後に現れたのはキュアサンシャイン、サンシャインは、動きが鈍ったセバスチャンと、セバスチャンを庇ったありすを狙った、五体の蟻の集団の魔物に対し、ゴールドフォルテバーストを放った。シャイニータンバリンが輝き、ひまわり型のエネルギー光弾が、蟻の魔物目掛け多数飛んで行った。光弾に直撃した魔物は動きを抑えられ宙に浮かび、逃げた蟻の魔物も居たが、サンシャインは軌道を変えて追尾させ、五体の蟻の魔物全てを、宙に浮かび上がらせた。

 

「ハァァァァァ!」

 

 サンシャインがシャイニータンバリンをクルクル回し、五体の蟻の魔物を一気に浄化させた。ありすは目を輝かせると、

 

「一度に五体の蟻さんを・・・凄いですわぁ」

 

「ヒュゥヒュゥ!サンシャイン、ラブリーでしゅ!」

 

 サンシャインのパートナー妖精ポプリが、サンシャインの活躍を見て大声援を送り、ありすは目を輝かせて、ポプリの目の前でしゃがみ込み、

 

「まあ、あなたはあのプリキュアさんの?」

 

「エッヘン!サンシャインのパートナー、ポプリでしゅ!!」

 

 ポプリは思わず自慢げに腰に手を当てて仰け反り、それを見たサンシャインは、思わず苦笑を浮かべた。そこに、マナを抱いたピーチが、サンシャインの傍にマナを下ろし、

 

「サンシャイン、この子もお願い」

 

「ハイ!みんな、私から離れないで」

 

「「「わ、分かりました」」」

 

「ご指示に従います」

 

 マナ、六花、ありす、そしてセバスチャンは、サンシャインの指示に従い、サンシャインの傍で戦いの行方を見守った。

 

「今度は私の番!悪いの、悪いの、飛んでいけ!プリキュア!ラブサンシャイン・フレ~ッシュ!!」

 

 ピーチは、向かってきたコオロギのような魔物に対し、ロッドの先端からハート形の光弾を照射し、コオロギの魔物の動きを封じると、

 

「ハァァァァァ!」

 

 ロッドをクルクル回して、コオロギの魔物を浄化した。ピーチに合流したドリームとビューティが、第一部隊のリーダーであるキャメラと睨み合った。

 

「お~ま~え~た~ち~が・・・」

 

 キャメラのゆったりした喋り方を、当初は聞いていた三人だったが、次第にドリームとピーチが痺れを切らした。

 

「「遅い!もうちょっと早く喋って」」

 

「む~り~」

 

 キャメラにあっさり拒否されて、ドリームとピーチは頬を膨らませた。ビューティは、キャメラに警戒感を持ち、

 

「お二人共、油断為さらないで下さい。まだどんな行動をするか・・・」

 

 ビューティがドリームとピーチに、キャメラの事を油断しないように忠告しようとしたのも束の間、ドリームとピーチは、呼吸を計ったかのように宙に飛び上がり、

 

「プリキュア!シューティングスター!!」

 

「ヤァァァァァ!」

 

 ドリームがシューティングスターで、ピーチは先程キャメラに尻もちを付かせた、全体重を乗せた急降下パンチを浴びせた。だが、キャメラは右手でシューティングスターを、左手でピーチの急降下パンチを完全に受け止めた。

 

「「ドリーム!ピーチ!」」

 

 ビューティとサンシャインが、キャメラに捕まった二人を見て思わず叫び、マナはこの戦いの様子をジィと見守り続けた。

 

 キャメラはその場でゆっくり回り始め、ハンマー投げのようにドリームとピーチを空中目掛け投げ捨てた。ぶつかりそうになったドリームとピーチだったが、互いの右手をクロスさせて衝撃を弱め、そのまま地上に降り立った。ドリームは、直ぐに頭を切り替え、

 

「どうやら、力はありそうだね・・・ピーチ、ビューティ、援護して、私に考えがあるの!サンシャイン、ゴールドフォルテバーストを頭上に」

 

「分かったわ!花よ、舞い踊れ!プリキュア!ゴールドフォルテバースト!!」

 

 サンシャインは、ドリームの指示を受け、ゴールドフォルテバーストの力で、太陽のような光のゲートを空中に作り出した。

 

「今だ!プリキュア!シューティングスター!!」

 

 ドリームは、サンシャインが作り出したゴールドフォルテバースト目掛け、シューティングスターで突入した。時間を稼ぐかのように、ピーチとビューティが、キャメラと小競り合いを続けた。ドリームの全身が黄金に輝くと、キャメラ目掛け急降下を始めた。

 

「プリキュア!シャイニング・スタ~~!!」

 

 嘗て、闇の救世主を名乗るバロムの力で、復活したサーキュラスに苦戦するム-ンライトとダークプリキュアを援護した、ドリームとサンシャインの合体技であるシャイニングスターが、今再びキャメラ相手に炸裂した。キャメラは両手で堪えようとしたものの、シャイニングスターの勢いを止める事は出来ず、呆気なく両手を弾かれ、キャメラの身体をシャイニングスターが光の残像と共に貫いた。マナと六花は目を輝かせ、

 

「「凄い!?」」

 

 二人とは逆に、ありすは少し残念そうな表情で首を傾げ、

 

「あのナマケモノさん・・・飼ってみたかったんですが・・・」

 

『エェェェ!?』

 

 アリスの発言を聞き、マナと六花、ドリーム、ピーチ、サンシャイン、ビューティが、思わず同時に驚きの声を発した。セバスチャンは再び咳払いをすると、

 

「いけません、お嬢様・・・プリキュアの皆さん、お嬢様達をお助け下さり、誠にありがとうございます。よろしければ、こちらで細やかな御持て成しを致したいのですが?」

 

「お誘いありがとうございます。ですが、直ぐに戻って他に襲われている町が無いか、確認をしなければなりませんので・・・」

 

 ビューティが一同を代表して、セバスチャンの申し出を辞退すると、四人はマナ達に手を振りながら、姿見鏡にゆっくり歩き出した。マナは残念そうに、

 

「アァア、差し入れに持って来た家のお店の桃まん、一杯持って来たから、プリキュアのみんなにも食べて貰いたかったなぁ・・・」

 

 マナがそう呟いた瞬間、歩いて居たドリームの足が止まると、そのまま後ろ歩きでマナ達の方に戻って来た。

 

「「「エッ!?」」」

 

 突然ドリームが後ろ歩きで戻って行った為、ピーチ、サンシャイン、ビューティは、思わず後ろを振り返って呆然とすると、ドリームは頭を掻きながら、

 

「エェェと・・・お土産に貰って帰っても良いかなぁ?」

 

「「「ドリーム!」」」

 

 ピーチ、サンシャイン、ビューティは、思わずドリームを困惑気味に窘めるも、マナは大喜びで桃まんを差しだし、

 

「全然大丈夫です!ハイ!!」

 

「ウワァ・・・美味しそう!ありがとう!!」

 

「「「フフフフ」」」

 

 マナは嬉しそうに、ドリームに差し出し、ドリームも嬉しそうに差し入れの桃まんをマナから貰った。それを見たピーチ、サンシャイン、ビューティは、思わず笑みを浮かべた。

 

 こうしてマナ達は、四人のプリキュアの活躍で救われた・・・

 

 

2、ぴかりが丘の少女達

 

 ぴかりが丘神社・・・

 

 千年前、キュアミラージュがまだプリキュアになる前、巫女としてこの神社に仕え、この地でブルーと出会った。今この場所では、ミラージュの妹の血筋を組む、二人の姉妹が空手の組手を行っていた。姉妹の名前は氷川まりあとその妹氷川いおな、その可愛らしい容姿とは裏腹に、彼女達は実家が営む空手道場の後継者として、日々切磋琢磨していた。

 

「エイッ!ハッ!・・・どうしたの、いおな!?型に気合が籠って無いわよ?」

 

「だってお姉ちゃん、さっきの不気味な声・・・」

 

「そうね、確かに気にはなるけど・・・」

 

 いおなに聞かれたまりあも、思わず顔色を変えた。突如二人の心にも聞こえて来たカインの声、自分一人ならば幻聴だと思えたかも知れないが、いおなにも聞こえて居たとなれば、まりあも真実だったと認める以外無かった。

 

「今日は早めに切り上げて、道場に戻りましょう」

 

「ウン、お姉ちゃん」

 

 二人は再び型の稽古を始めた時、思わず二人の顔色が変わった。何かの気配が、この神社周辺から感じられた。

 

「お姉ちゃん!」

 

「ええ、誰か居るわね・・・しかも、明らかに私達に敵意を向けてるわ」

 

 まりあは、道場の師範代である祖父から、師範代代行を命じられる程の実力者だった。そんなまりあでも、思わず怯む様な邪気が、明らかに自分達姉妹に向けられている事に、まりあに緊張感が走った。

 

「いおな、油断しないで」

 

「う、うん」

 

 二人は周囲を警戒しながら、ゆっくり階段目掛け歩を進めると、木々が物音立てて大きく揺らぎ、邪気はゆっくり姿を現した。上空に舞った蛾のような巨大な魔物が、鋭利な鎌のような両手を持った、カマキリのような魔物が、不気味にウネウネ身体を動かし、無数の手を持ったムカデのような魔物が、まりあといおなの前に現れた。いおなは思わず目を見張り、

 

「か、怪物だわ!?」

 

「いおな、逃げるのよ!」

 

 まりあは、瞬時に逃げる判断を下した。まりあといおなに対し、己の性的欲求を満たそうとするような輩ならば、懲らしめてやろうと考えて居たまりあだったが、相手が怪物では、先ず妹いおなの身を案じ、逃げる事を優先した。いおなの手を取り、駆け上って来た階段目掛け走り出したものの、カマキリの魔物が背中の羽を振動させると、一気にジャンプし、二人の行く手を遮り、蛾の魔物がまりあといおなの上空を旋回した。

 

「オォォと、逃がしやしないぜ?」

 

「キュキュキュキュ、人間を食えるとは久方ぶりだぁ」

 

「「しゃ、喋った!?」」

 

 巨大な昆虫のような生き物が、あろう事か人語を発し、思わずまりあといおなは驚愕した。いおなは思わず怯み、まりあの胴着を力強く握った。

 

「お、おねえちゃん」

 

「大丈夫よ!あなたは、私が守る!!」

 

 まりあはそう言うと、怪物の群れに対し、空手の構えを取った。

 

「「「キシャシャシャシャシャ」」」

 

 魔物達は、自分達と戦おうとするまりあを見て嘲笑を発し、先ず蛾の魔物が二人を上空から攻撃しようとしたその時だった。

 

「花よ、輝け!プリキュア!シルバーフォルテウェイブ!!」

 

「「エッ!?」」

 

 まりあといおなは、突然聞こえた声に反応し、思わず声が聞こえた方向を見ると、神社の屋根の上に、銀色の衣装を靡かせながら、ムーンタクトの先端から、花の形をした光弾を、蛾の魔物目掛け放ったキュアムーンライトの姿を見た。

 

「ハァァァァァ!」

 

 ムーンライトは、シルバーフォルテウェイブで捕らえた蛾の魔物を、タクトをクルクル回して浄化するやいなや、神社の屋根からジャンプして、まりあといおなを庇う様に、カマキリの魔物とムカデの魔物に向き合った。まりあといおなは目を輝かせながら、

 

「あなたは、世界絵本博覧会で見た・・・銀のプリキュア」

 

「エッ、あの時のプリキュアが、また助けてくれたの?」

 

 いおなは、キラキラ目を輝かせながら、ムーンライトの後姿を眩しそうに見た。ムーンライトは、チラッと背後を振り向くと、

 

「今の内に離れて居て、あなた達二人は・・・私が守る!」

 

 ムーンライトは、そう言うと、タクトを二体の魔物に向けて身構えた。カマキリとムカデの魔物は、プリキュアという名前を聞くと、ムーンライトに対し敵意を向けた。

 

「こいつがプリキュアか・・・よし、俺が行く!」

 

 カマキリの魔物は、鎌のような両手の腕をカチカチ鳴らしながら、ムーンライト目掛け攻撃して来た。ムーンライトは、その攻撃を躱し、避けきれない攻撃には、ムーンタクトを巧みに利用して攻撃を防ぎながら、魔物の隙を付くと一気に反撃を試みた。ムーンライトのパンチが、キックが、容赦なくカマキリの魔物に浴びせられ、最後に回し蹴りで吹き飛ばされ、ムカデの魔物に激突して二体がもがいた。それを見たムーンライトは、一気に勝負を決めるべく行動に出た。

 

「プリキュア!フローラルパワー・フォルテッシモ!!」

 

 ムーンライトが、赤紫の光を帯びながら上昇し、一気に二体の魔物目掛け急降下した。態勢を整えようとした二体の魔物であったが、フォルテッシモの光が二体を貫き、爆風を受けた。

 

「ハァァァァァ!」

 

 ムーンライトがタクトをクルクル回転させると、二体の魔物は心地良い表情で宙に浮かび上がり、浄化されていった。まりあといおなは、三体の魔物を無傷で倒したムーンライトの強さに驚いていた。ムーンライトは、ゆっくりまりあといおなに近づくと、

 

「怪我はないかしら?」

 

「ハイ!あなたのお陰で、私も妹も無事です」

 

「あ、あのぅ・・・ありがとうございました!」

 

 いおなは、姉まりあと同じように、ムーンライトを尊敬の眼差しで見た。三対一という不利な状況下でも、逃げる事無く自分達姉妹を助ける為、魔物に立ち向かうその姿に憧れを抱いた。

 

(私も、この人のような強い信念を持ちたい)

 

 いおなが後に、プリキュアとなって戦う姿勢は、この時のムーンライトを意識しての事だった・・・

 

「どう致しまして・・・でも、この街には他にも魔界の魔物が蠢いている。家まで送るわ」

 

 ムーンライトは、ようやく二人に笑みを浮かべ、まりあといおなは、ムーンライトに救われ、共にぴかりが丘神社を後にした・・・

 

 

 愛乃めぐみは、親友の大森ゆうこの実家で、お弁当屋を営むおおもりご飯にやって来て居た。

 

 めぐみの母かおりは病弱で、病院に行く時と体調が良い時以外は、ほとんど家で過ごし、めぐみが母の代わりに買い出し担当を行って居て、この日はおおもりご飯で、から揚げとコロッケなどの総菜を買いに来ていた。既にコロッケは売り切れていたが、ゆうこの母ようこや、父たけおから、揚げたてのコロッケがもう直ぐ揚がるから、少し待ってればと言われ、おおもりご飯の店前で、コロッケが出来上がる間、外にあるテーブル席に腰掛け、ゆうこと雑談に興じていた・・・

 

「ねえ、ゆうゆう、さっきの声って本当かなぁ?」

 

「う~ん、どう何だろうね?でも、プリキュアって言ってたし、本当かも知れないよね」

 

「このぴかりが丘に、こんな怪物来たらどうしよう?・・・ガオォォ!」

 

 めぐみはそう言うと、両手の人差し指を口の中に入れ、左右に引っ張って変顔で怪物の鳴き真似をした。ゆうこは思わず苦笑し、

 

「アハハ、もう止めてよ、めぐみちゃん」

 

 この時までは、まさかめぐみとゆうこも、本当にこの場所に怪物が居るとは知る由も無かった。

 

(な、何!?同化してる俺に気づいたチューの!?)

 

 ネズリオは、めぐみとゆうこが自分の存在に気づいて居ると勘違いし、二人が只者ではないと判断した。

 

(第二部隊、全員集合!この危険人物達を排除するチューの)

 

 ネズリオのテレパシーを受けた第二部隊が、おおもりご飯目掛け続々と集結しようとしていた。

 

「ウワァァ!怪物だぁ!!本当に怪物がぴかりが丘に攻めて来たぞぉぉ!!」

 

「キャァァァァ」

 

 逃げ惑う人々の悲鳴が、ぴかりが丘に響き渡る中、動く大木の魔物が、ピョンピョン跳ねた巨大カエルの魔物が、長い首をしたキリンのような魔物が、異形な容姿をした半魚人のような怪物が、おおもりご飯を包囲するかのように集まって来た。

 

「「ほ、本当に出たぁぁ!?」」

 

 めぐみとゆうこは困惑した・・・

 

 本当にこのぴかりが丘に、怪物がやって来るとは思っても見なかった。ゆうこの父も母も、そして姉も、そんな騒動に気付かないのか、おおもりご飯から出て来る気配が無かった。

 

「お父さん、お母さん、お姉ちゃん」

 

 ゆうこは、両親と姉に知らせに向かおうとするも、その行く手を遮るかのように、飛び跳ねたカエルが立ち塞がった。

 

「ゆうゆう!」

 

 めぐみがゆうこを心配し、ゆうこの側に近づくと、怪物達はまるで二人を狙うかのように、めぐみとゆうこを包囲した。

 

「な、何!?まるで私達を狙ってるみたい?」

 

「う、うん・・・どうしよう?」

 

 めぐみとゆうこは、前に進む事も、後ろに進む事も出来ず、どうする事も出来ずに困惑した。

 

「よし、その危険人物達をパクっと食っちまえ!」

 

「「エェェ!?」」

 

 ネズリオの命を受けた魔物達が、大きく口を開けたその時、ダークドリームが駆け付け、宙に飛び上がると、

 

「プリキュア!ダークネス・スター!!」

 

 ダークドリームは、ドリームのシューティングスターに似た必殺技、黒き流星と化すダークネススターを放って、大木の魔物を打ち破り、めぐみとゆうこの側に着地した。

 

「どうにか間に合ったようね」

 

 ダークドリームに話し掛けられ、めぐみとゆうこは目を輝かせた。

 

「あ、あなたは・・・もしかしてプリキュア?」

 

「助けに来てくれたんですか?」

 

「エエ、私はダークドリーム・・・そして」

 

 ダークドリームの話の続きを現すかのように、三人のプリキュアが新たに駆け付けた。

 

「ダークネス・ウィップ!」

 

「閃け!ホーリーソ~ド!!」

 

「プリキュア!マーチ・・・シュートォォォ!!」

 

 一人はダークレモネード、もう一人はキュアソード、そしてキュアマーチ、ダークネスウィップでキリンのような魔物の動きを封じ、ソードがその隙にキリンの魔物にホーリーソードを放って浄化し、マーチは半魚人のような魔物をマーチシュートで浄化した。

 

「「ウワァァ!またプリキュアだぁぁ!!」」

 

 めぐみとゆうこは、ぴかりが丘を助けに来てくれた四人のプリキュアに大声援を送った。残ったカエルの魔物に、四人の意識が集中した時、ネズリオの舌が伸び、ダークドリーム、ダークレモネード、ソードとマーチのうなじを舐めた。

 

「「「「キャァ!?」」」」

 

 四人は、その気色の悪い舌触りに、全身が金縛りにあったかのように麻痺をした。ネズリオは、カエルの魔物に指示を出し、

 

「今の内に、そいつらの目の前で、その二人を食ってやれっチューの」

 

 ネズリオの指示を受け、カエルの魔物が舌なめずりしながら、めぐみとゆうこに近づくと、思わず二人は後退った。

 

「「エェェ!?こ、来ないでぇ!」」

 

 何とか身体を動かして救出に向かいたい四人だったが、身体がいう事を聞かなかった。ダークドリーム、ダークレモネード、ソードとマーチは顔色を変え、

 

「や、止めなさい!」

 

「ふ、二人共、逃げてぇ!」

 

「か、身体が動きません!?」

 

「さっき舐められたからなの?」

 

 身体が動けない四人は、目の前で窮地に陥るめぐみとゆうこを、救う事が出来なかった。カエルの魔物が、めぐみとゆうこに舌を伸ばしたその時、

 

「ハァァァ!」

 

 上空からムーンライトが急降下キックを放ち、カエルの魔物はその衝撃で倒れ込んだ。

 

「「「「ムーンライト!」」」」

 

「「た、助かったぁぁ」」

 

 めぐみとゆうこは、思わず抱き合いながらホッと安堵した表情を浮かべると、いおなとまりあが慌てて二人に駆け寄り、

 

「めぐみ、ゆうこ、無事?」

 

「二人共、怪我は無い?」

 

「いおなちゃん!まりあさん!」

 

「ハイ、プリキュアのお陰で」

 

 互いに無事な姿を確認し、四人はホッと安堵した。まりあは三人に話し掛け、

 

「さあ、プリキュアの邪魔にならないように、私達は少し離れて居ましょう」

 

「「「はい!」」」

 

 まりあにそう進言され、三人は少し離れた場所からプリキュアの戦いを見守った。ムーンライトは、四人を振り返り、

 

「四人共、油断したわね?」

 

 ムーンライトに注意された四人は、申し訳なさそうな表情を浮かべるも、ダークドリームは周囲を見渡し、

 

「ゴメン・・・でも気を付けて!姿は見えないけど、もう一体この近くに居るわ」

 

「姿が見えない!?それは厄介ね・・・」

 

 ムーンライトの脳裏に、嘗て加音町でマジョリーナのアイテム、ミエナクナールによって透明化したアカンベエ相手に、苦戦した経緯を思い出して居た。ダークドリームは、ダークレモネードにアイコンタクトすると、

 

「カエルの魔物は、私達が引き受けるわ」

 

「あなた達は、見えない魔物を探して」

 

「「「分かったわ」」」

 

 ムーンライト、マーチ、ソードの三人は、ダークドリームとダークレモネードの進言を受け入れ、近くに居るであろうネズリオを探すべく周囲を警戒した。ダークドリームとダークレモネードは、巨体ながら身軽に跳ね回り、舌で攻撃してくる巨大なカエルの魔物に苦戦しながらも、次第にカエルの動きを見切って行った。

 

「レモネード、カエルの舌を封じて!その隙に私が仕掛ける」

 

「了解!じゃあ、先ずは・・・ラァァァァ!」

 

 ダークレモネードは、歌を利用しカエルの動きを制限すると、

 

「今だ!ダークネス・ウィップ!」

 

 ダークレモネードは、カエルの舌を華麗な鞭捌きで捕らえた。それを見たダークドリームは、

 

「プリキュア!ダークネス・スター!!」

 

 黒き流星と化したダークドリームが、カエルの魔物を闇に返した。離れて見ていためぐみ、ゆうこ、いおなは目を輝かせ、

 

「格好良い!」

 

「あの黒い衣装の二人のプリキュアは、世界絵本博覧会じゃ見なかったよね?」

 

「ウン、あっちの紫のプリキュアも居なかったと思うわ。でもプリキュアって、黒い衣装も似合うわね」

 

 思わずはしゃぐ三人に、まりあは思わず苦笑を浮かべるも、

 

(まだ終わってないわ!姿が見えない魔物何て、どうやって・・・)

 

 まりあの不安は的中し、ムーンライト達は、ネズリオを見つけ出す事が出来なかった。ムーンライトに焦りが浮かんだ。

 

「クッ、迂闊に攻撃を仕掛ける訳には・・・」

 

(チュチュチュ、そうやすやす見つかるかチューの)

 

 ネズリオは、見付けられる筈が無いと嘲笑を浮かべるも、そんなネズリオの油断を、ゆうこが見逃さなかった。ゆうこは、生まれ育ったこの場所を熟知していた事を、ネズリオは知らなかった。ゆうこは、傍に居たマーチを手招きすると、マーチは首を傾げながらゆうこに近づいた。

 

「どうしたの?」

 

「エェェと、あのテーブルの椅子を良く見て貰えますか?」

 

「エッ!?何処?」

 

「あそこです・・・あそこの椅子って、私が小さい時、めぐみちゃんや相良くんと一緒にお絵かきしちゃって、今でもその時の絵が微かに残っているんですけど、あの椅子にはその絵が描かれて無いんです」

 

 ゆうこはそう言うと、お店の人気のオマケ、ハ二ーキャンディの包みを取り、指摘した椅子目掛け頬り投げた。すると、何かが一瞬でハ二ーキャンディを奪い去った。その行為を、プリキュア達も見逃さなかった。ムーンライトの口元がニヤリと笑み、

 

「どうやら、向こうから居場所を知らせてくれたようね」

 

「私に任せて下さい!閃け!ホーリーソ~ド!!」

 

 ソードは、右手から無数の剣形のエネルギー弾を、ネズリオ目掛け飛ばした。ネズリオは、堪らず実態を表すと、既にマーチがマーチシュートの体勢に入って居た。

 

「姿が見えればこっちのもん・・・行くよ!プリキュア!マーチ・・・シュートォォォ!!」

 

「バ、バカなぁぁぁ!?」

 

 緑の光弾がネズリオに命中し、思わずネズリオが悲鳴を上げながら浄化された。マーチはゆうこに微笑みかけ、

 

「あの魔物を倒せたのは、あなたのお陰だよ・・・ありがとう」

 

「エへへ、お役に立てて良かった」

 

「ゆうゆう・・・」

 

「ゆうこ・・・」

 

「「羨ましい!」」

 

 ゆうこがマーチに感謝された事で、めぐみといおなは、そんなゆうこを羨ましそうな視線を浴びせた。それを見ていたムーンライト達はクスリと微笑んだ。ムーンライト、ダークドリーム、ダークレモネード、ソード、マーチは、順番にまりあ達に声を掛け、

 

「もうこの街に魔物は居ないようね」

 

「それじゃあ、私達は帰るわね」

 

「バイバイ!」

 

「失礼するわ」

 

「間に合って良かった・・・じゃあ!」

 

 五人が手を上げながらぴかりが丘を去ろうとすると、ゆうこは慌てて呼び止め、

 

「待ってください!助けて頂いたお礼に、おおもりご飯特製のお弁当を食べて行って下さい」

 

 ゆうこに呼び止められ、歩みを止めたムーンライト達、困惑気味に振り返ったムーンライト達に反し、マーチは目をキラキラ輝かせると、

 

「特製のお弁当!?ち、ちなみに、どんなお弁当なの?」

 

「「「「マーチ!?」」」」

 

 マーチは、戦闘を終えた事でちょうどお腹が空いて居たのか、ゆうこの話に興味津々で聞き返した。ムーンライト達は、呆れたようにマーチを窘めるも、マーチはまだ名残惜しそうに、

 

「き、聞くだけだから良いでしょう?」

 

「マーチ、遊びに来たんじゃないわよ!折角の申し出だけど、気持ちだけ頂くわ」

 

 ムーンライトに、少し強い口調で窘められ、ムーンライトがゆうこにお弁当を辞退すると、マーチはガックリと肩を落とした。

 

「・・・ハァ・・・」

 

 ゆうこは、溜息つくマーチを少し憐み、ポケットからハ二ーキャンディを取り出した。

 

「じゃあせめて、ハ二ーキャンディだけでも持って行って下さい」

 

 ゆうこがマーチにハ二ーキャンディを手渡そうとすると、マーチは恨めしそうな視線をムーンライトに向けた。ムーンライトは思わず苦笑し、

 

「そうね、キャンディなら頂くわ。せっかくのご厚意ですものね」

 

 ムーンライトに許可をされ、マーチは嬉しそうにハ二ーキャンディをゆうこから受け取り、早速包みを開けて口の中に放り込んだ。見る見るマーチの表情が緩んだ。マーチは、今まで色々なキャンディを舐めてきたが、ハ二ーキャンディの美味しさは格別だったようで、

 

「お、美味しいぃぃぃぃ!」

 

「良かった」

 

 マーチは目じりを垂れ下げ、幸せそうな表情を浮かべ、ゆうこも思わず嬉しそうに目を細めた。ムーンライトは、気持ちを切り替えると四人を見つめ、

 

「さあ、戻るわよ」

 

「「「「ハイ」」」」

 

 去って行く五人のプリキュアに、まりあは手を振りながら、

 

「プリキュア、ありがとう!」

 

 めぐみ、ゆうこ、いおなも、まりあに続くかのようにプリキュア達に手を振り、

 

「「「バイバイ!」」」

 

 五人のプリキュアの姿が消え去るまで、四人の少女達は手を振り続けた・・・

 

 

3、キラキラル

 

 苺坂町にやって来たのは、ルミナス、ブライト、ウィンディ、ローズ、そしてメロディとリズムの六人だった。だが、六人の予想に反し、苺坂町は何事も無いように平和だった・・・

 

 メロディは辺りを見渡すも、魔物が出た様な騒ぎにはなって居なかった。メロディは首を傾げ、

 

「アレェ!?神様の話じゃ、あの鏡は魔界の魔物が居る所に繋がってるって、神様は言ってたよねぇ?」

 

「エエ、見落として居るかも知れないから、二人ずつ分かれてこの町を調べてみましょう」

 

 メロディの問いに、ローズが頷き、二人ずつ分かれてこの町を捜索しようと話した時、コミューン姿のポルンが、誰に話すともなく、独り言を言い始めた。

 

「一杯、妖精が居るポポ・・・悪い、悪い狼が狙ってるポポ・・・怖いポポ」

 

「ポルン、どうしたの?何か感じ・・・・・これは!?」

 

 ポルンに問おうとしたルミナスだったが、ルミナスにも、背後の山の上から、嫌な気配が漂って居る事を感じた。ルミナスは、慌てて探索に向かおうとしていた一同を止め、

 

「待って下さい!あの山の上の方に、何か嫌な気配が沢山します」

 

「「「「「エッ!?」」」」」

 

 ルミナスの忠告を受け、一同が思わず背後の山を見上げた。その山は、どこか苺のような形に似て居た。ブライトは山を見上げながら、

 

「ルミナス、あの山に何かが居るのね?」

 

「ハイ!ポルンは言ってました。あの山には沢山の妖精が居て、悪い狼が狙ってるって」

 

 リズムは少し首を傾げながら、

 

「悪い狼!?それが魔界の者って事かしら?」

 

「だとすれば・・・あの山に行ってみましょう」

 

「「「「「エエ」」」」」

 

 ウィンディの言葉に同意し、一同は悪しき気配漂う山へと向かって走り出した。

 

 

 いちご山・・・

 

 百年前、大いなる闇に呼応したかのように、この街に災いをもたらしたノワールという者を、たった一人で食い止めたプリキュアが、山の麓に住んで居たと言われる山、そこには大勢の妖精達が、密かに暮らして居た・・・

 

『キラキラキラルン、キラキラルン、美味しく、美味しく、美味しくなぁれ!』

 

 呪文のように唱えながら、妖精達は大好きなデザートを作って居た。歪な出来であったが、妖精達は互いに作ったデザートを試食しあい、意見を述べ合った。その中の一人、ぺコリンという妖精は、頑張り屋ではあったが、上手く調理する事が出来ず、何時も失敗を繰り返して居た。ぺコリンの容姿は、少しぽっちゃりしたピンク色の身体に、頭頂部にチョコンとある髪と、ふわふわした耳、そのふわふわした耳は、その時の気分によって色が変化するようだった。

 

「また失敗ペコォ・・・」

 

「ぺコリン、気にする事無いキラ」

 

「そうピカ」

 

 そんなぺコリンを、キラリンとピカリオの姉弟が励ました。キラリンは、ピンク色の耳と髪をしていて、耳元にはヒイラギと赤色の実があしらわれて居て、赤いスカーフを首に巻いてい居た。弟のピカリオは、キラリンと双子の妖精という事もあり、ほぼ同じ姿をしていた。違っているのは、耳が左向きで、体も水色を基調として、薄紫のスカーフをして居た。ぺコリンは、そんなキラリンとピカリオに励まされ、元気を取り戻してまたスイーツ作りを始めた。妖精達の長老は、そんな一同を温かい目で見つめた。長老の容姿は、長老という名前らしく、妖精が年老いたような姿をしていて、身体はペコリンや他の妖精達よりも二回り以上は大きかった。モコモコした白い毛が、頭部のほとんどを覆って居て、普段は見えづらいが、つぶらな瞳を見せながら妖精達を見守った。

 

 だが、そんな妖精達の身に、危険が迫って居た事に気づく者は居なかった・・・

 

 

 ブラッドから第七部隊を率いるように任命されたのは、凶悪な瞳をした狼男だった。狼男の名前はガイ!だが、ガイはプライド高い野心家で、ブラッドの命令など更々聞く気が無く、ブラッドに命じられた人が住む苺坂町を襲うのを後回しにし、部隊の者を引き連れ、いちご山で獲物を求めて彷徨っていた。

 

「チッ、プリキュアを誘き寄せろだぁ?蝙蝠野郎め、この俺様がそんなくだらねぇ真似出来るかってんだ!」

 

 ガイの部隊は好戦的な者が多く、主に動物系が主体だった。二つの頭と鋭い爪を持った怪鳥の魔物ガルーン、額に巨大な角を生やした兎の魔物アルミラージ、頭部は蛇で足は蛸の魔物蛇蛸、女好きな馬男スタルヒーン、翼の生えた猫のような魔物フライングキャット、そんな魔物達が、ガイに従い行動していた。フライングキャットは、上空からこの山を偵察して戻って来ると、

 

「ガイ、この先に沢山の妖精が居るぜ」

 

 フライングキャットからの報告を聞き、ガイの大きな口が耳まで避けた。

 

「ほう、妖精か・・・人間狩りの前に、妖精でも食らって英気を養うか?」

 

 蛇蛸は、長い舌と八本の足を不気味に動かしながら、

 

「ケケケケ、流石はガイだぜ、話が分かる」

 

 妖精達を食えると聞き、一同が舌なめずりする中、スタルヒーンだけは浮かない表情をしていた。

 

「ヒヒヒィィン!俺は妖精何かより、早く人間の女を俺の自慢の物で・・・」

 

「お前は黙ってろ、種馬!しかし、お前はオークのようだな?」

 

 スタルヒーンが腰を振るジェスチャーをすると、直ぐに不快そうにガイに遮られた。スタルヒーンは少し不満そうに、

 

「失敬な、あんな豚ゴリラ野郎共と一緒にするな」

 

「やってる事は同じだろう?」

 

「オークの森から出られない奴らより、お前の方がよっぽど危険じゃニャーか?」

 

 アルミラージとフライングキャットは、そんなスタルヒーンをからかうかい、ガルーンも双頭の頭を動かしながら、

 

「お前、前にシーレイン様や二クス様、リリス様にもチョッカイ出して、ボコボコにされたって本当か?」

 

 ガルーンに聞かれたスタルヒーンは、図星だったのか頭を激しく左右に振り、

 

「ブルブルブル、嫌な事思い出させるなぁ!全くうるさい奴らだ・・・そう言えば、プリキュアって奴らは、全員女だそうじゃねか?変身する時、真っ裸になるんだってなぁ?早く会いたいぜぇ!」

 

 スタルヒーンの勘違いを真に受けた蛇蛸は、ガイに思わず問いかけ、

 

「おい、ガイ・・・そうなのか?」

 

「知らん・・・アホの相手は疲れる。さっさと妖精共の所に行くぞ」

 

 ガイは、一人場違いなノリを見せるスタルヒーンを無視し、妖精達の下へと向かった。妖精達の傍まで来ると、美味しそうな匂いが漂い、思わず魔物達は匂いを嗅いだ。

 

「何の匂いだ!?甘ったるいが、食欲を誘う良い匂いだぜ」

 

 ガイは、口から流れてくる涎を啜り、草むらを掻き分け様子を伺った。そこには妖精達が楽しそうに歌いながら、デザートを作り続けて居た。

 

『キラキラキラルン、キラキラルン、美味しく、美味しく、美味しくなぁれ!』

 

 先程と同じように、呪文のように唱えながら、妖精達はお菓子作りに集中していた。魔物達の目は、獲物を見つけた怪しい輝きを放った。長老は、そんな怪しい気配を敏感に察知し、

 

「何の気配ジャバ!?」

 

 長老が怪しい気配がする方向に注意を向けると、行き成り草むらの中からガイ達が姿を現し、妖精達はパニックになった。

 

『ワァァァ!?』

 

 逃げ惑う妖精達を、ガイ達は包囲し、妖精達は身を擦り合わせて震えて居た。長老は、魔物達を見つめると、

 

「お前達は何ジャバ!?」

 

「ククク、俺達か!?俺達は・・・お前らを食う為にここに来た魔界の者さ」

 

『ヒィィィィィ!』

 

「ま、魔界とな!?」

 

 長老は困惑した・・・

 

 人知れず、この山でおとなしくしている自分達を狙って、魔界の者がやって来るとは思っても見なかった事だった。長老は、何とか妖精達の命を助けたいと、ガイに交渉を持ちかけた。

 

「スイーツはお主達にやるから、皆の命だけは助けてくれないジャバか?」

 

「ダメだなぁ・・・」

 

 ガイは長老の頼みを即座に却下し、魔物達がジリジリ妖精達を包囲しながら近づいて来た。今まさにガイ達が妖精達に襲い掛かろうとしたその時、ルミナスは駆けながらハーティエルバトンを取り出した。ルミナスは、ハーティエルバトンをクルクル回すと、

 

「ルミナス!ハーティエルシャワー!!」

 

 ルミナスが上空高くハーティエルバトンを飛ばすと、クルクル回転しながら山の頂上で一周し、光のシャワーが山全体に降り注いだ。

 

「な、何だ!?急に身体が動かなくなって・・・」

 

 ガイ達は、急に身体が動かなくなった事で困惑し、妖精達は何が起こったのかと皆驚いた様子をしていた。長老は、突然現れた六人のプリキュアの姿に驚き、

 

「これは一体!?そなた達は一体?」

 

「私達は、プリキュアです。皆、今の内に私の側に避難して!」

 

「プリキュアジャバ!?」

 

 長老は思わず隠れた目を見せながら驚いた表情を見せた。長老は、プリキュアという言葉を知って居た。百年前、このいちご山周辺を闇が覆った時、闇を打ち払ったのが、伝説のパティシエと呼ばれたプリキュアだったのだから・・・

 

「分かったジャバ!皆の者、あのプリキュア達の側に避難するジャバ!!」

 

『ハイ!』

 

 妖精達は、ガイ達がハーティエルシャワーで行動不能になっている間に、ルミナス達の側に避難した。ルミナスは、他の五人に話し掛け、

 

「ブライト、ウィンディ、ローズ、メロディ、リズム、妖精達は私が、後をお願いします」

 

「「「「「OK」」」」」

 

 ルミナスは妖精達を後ろに庇い、ブライト達はガイ達に対して身構えた。ようやく動けるようになったガイ達は、獲物を取られた事で敵意を向ける中、馬の魔物スタルヒーンだけは鼻息荒く興奮し、

 

「ヒヒヒ~ン!お、お前達がプリキュアかぁ・・・どいつも俺好みで目移りしちまうぜ」

 

 再び腰を振る動作をしたスタルヒーンに、プリキュア達は不快な表情を浮かべた。ガイはスタルヒーンを無視し、

 

「ケッ、俺様達の邪魔をするとは・・・覚悟しやがれ!」

 

 プリキュア達を指さすガイに対し、ローズも魔物達を指さし、

 

「それはこっちのセリフよ、妖精達を襲うだ何て・・・」

 

「「「「「絶対に許さない!」」」」」

 

 ローズ、ブライト、ウィンディ、メロディ、リズムが、魔物達に身構えた。先制攻撃を仕掛けたのはミルキィローズで、ローズはミルキィパレットをフル稼働させ、

 

「邪悪な力を包み込む、バラの吹雪を咲かせましょう!ミルキィローズ・ブリザード!!」

 

 青い薔薇吹雪が魔物の群れ目掛け吹き荒れた。魔物達は咄嗟に躱したものの、陸上では素早く動く事の出来ない蛇蛸が、ミルキィローズブリザードの直撃を受けて倒された。

 

「野郎、やりやがったなぁ!ウゥゥオォォォォ!!」

 

 ガイは激高して咆哮し、それを合図に、五人が睨み合いになった・・・

 

 ローズとガイが、ウィンディとガルーンが、ブライトとアルミラ-ジュが、リズムとフライングキャットが、そしてメロディとスタルヒーンが睨み合った。最も、リズムはフライングキャットを見て、猫フェチの血が騒いだのか、フライングキャットの肉球を触りたくなり、スタルヒーンはメロディを見て興奮し、腰を何度も振り続けてメロディを困惑させた。一同が四方に散り戦闘が開始された。

 

「ヒヒヒ~ン!俺様の物で、お前を痺れさせてやるぜぇ!!」

 

 再び腰を振りまくるスタルヒーンに、ドン引きしたメロディは、過去の戦いを振り返った・・・

 

(そう言えば私って、前にドロドロンとかいう変態とも戦った事あったよねぇ?何でこのての系統は、私が受け持つの?)

 

 メロディは困惑し、思わず視線に映ったリズムの側に近寄った。

 

「ねえリズム、相手を代わって」

 

「エェェ!?嫌よ」

 

「良いじゃん、リズムだって、猫と戦うよりマシでしょう?」

 

「これから良い所何だから邪魔しないで」

 

 口喧嘩の様相を呈したメロディとリズムに、妖精達は不安そうに口を開き、

 

「何か喧嘩してるキラ」

 

「あの二人、仲が悪いピカ?」

 

「喧嘩はダメペコォォ!」

 

 キラリン、ピカリオ、ぺコリンが、困惑しながら話すと、ルミナスは苦笑を浮かべながら、

 

「大丈夫です。あの二人の場合、喧嘩する程仲が良いと言うか・・・」

 

 ルミナスの言葉を表すかのように、興奮して襲い掛かって来たスタルヒーンを、メロディとリズムは息を合わせたかのように、絶妙なタイミングで蹴り飛ばし、上空から襲ってきたフライングキャットを、邪魔だとばかり払い除けた。互いに並び合ったメロディとリズムは、互いに息を合わせて手を繋ぎ、

 

「「プリキュア!ハーモニーショット!!」」

 

 蝶のような形をした閃光弾が、スタルヒーンとフライングキャット目掛け飛び、二人に当たって怯ませた。メロディとリズムは、舞いながら両手の指をパチンと鳴らすと、

 

「奏でましょう、奇跡のメロディ!ミラクルベルディエ!!」

「刻みましょう、大いなるリズム!ファンタスティックベルティエ!!」

 

 二人が同時に叫ぶと、二人の手にミラクルベルティエとファンタスティックベルティエが現れた。メロディとリズムは、ベルティエを分離させると、片方ずつお互いに交換し、再びベルティエにセットした。メロディとリズムは、息を合わせたかのように、

 

「「二つのトーンを、一つの力に!」」

 

「奏でましょう、奇跡のメロディ!ミラクルベルティエ・クロスロッド!!」

 

 メロディが叫べば、

 

「刻みましょう、大いなるリズム!ファンタスティックベルティエ・クロスロッド!!」

 

 メロディの言葉に応える様にリズムが叫んだ。再び二人は息を合わせたかのように、

 

「「翔けめぐれ、トーンのリング!プリキュア!ミュージックロンド・スーパーカルテット!!」」

 

 メロディとリズムは手を繋ぐと、空色、薄橙色、桃色、桜色、レモン色の5本のエネルギーリングが現れ、ハートの光と共に螺旋を描きながら、ベルティエの先から強力なエネルギーを、同時にスタルヒーンとフライングキャット目掛け放った。命中した五色のエネルギーリングに捕らわれた二人は、身動きが出来なかった。

 

「ち、畜生、動けないニャー!」

 

「ヒヒヒヒーン!も、最早これまでかぁ・・・せめて、せめてお前達に頼みがある」

 

「「エッ!?何?」」

 

 スタルヒーンは覚悟を決めたのか、目から大粒の涙を流しながら、メロディとリズムに訴え、少し同情したメロディとリズムが聞く耳を向けると、スタルヒーンは股間を大きくし、

 

「せめて、せめて俺の子種を、お前達の体内に残して・・・」

 

「「せぇ~の!フィナーレ!!」」

 

「最後まで聞けよぉぉぉぉ!」

 

 スタルヒーンのしょうもない最期の願いを無視し、メロディとリズムの掛け声を合図に、命中したエネルギーリングが爆発して、スタルヒーンとフライングキャットを浄化した。

 

 

 ウィンディは、大空を自在に飛び回るガルーンに苦戦していた・・・

 

(空中戦じゃ、自在に動けないこちらが不利ね)

 

 ウィンディは、風の力を利用して空中戦を繰り広げるも、空を飛び回るガルーン相手では分が悪かった。ウィンディは、眼下をチラリと見ると、

 

「ブライト!」

 

 ウィンディはブライトの名を叫ぶと、アルミラージと戦って居たブライトは、まるでウィンディの考えが分かったかのように一旦距離を取ると、

 

「光よ!」

 

 ブライトは上空に両腕を上げて気合を込めると、ブライトの頭上に巨大な光球が浮かび上がった。ブライトは上空目掛け放つと、ガルーンはその眩い光に目を眩まされて思わず怯んだ。その隙を、ウィンディは逃さなかった。

 

「風よ、吹き荒れよ!」

 

 ウィンディが両腕を交互に振ると突風が放たれ、ガルーンは翼を上手く扱えず、地上に落下しだした。ウィンディはその後を追い蹴り上げると、ガルーンは更に勢いを付けてアルミラージの側に墜落した。

 

「おいガルーン、しっかりしろ!」

 

「グゥゥゥ、翼を傷めちまった・・・」

 

 ヨロヨロ立ち上がったガルーン、上空からウィンディも降りて来てブライトの隣に並ぶと、二人はアイコンタクトした。

 

「精霊の光よ!命の輝きよ!」

 

「希望へ導け!二つの心!」

 

「「プリキュア!スパイラル・スター・・・」」

 

「「スプラ~~ッシュ!!」」

 

 ブライトとウィンディのスパイラルスタースプラッシュが、ガルーンとアルミラージ目掛け飛んでいた。二体は、その威力の前に為すすべなく倒された。

 

 

 ローズが戦うのは、第七部隊のリーダーである狼男のガイ、ローズとガイは、激しい攻防を繰り広げながら、肉弾戦を続けた。パワーはローズが優るものの、スピードではガイがローズを上回って居た。

 

(こいつ、思ったより素早いわねぇ・・・)

 

 ローズのパンチが、キックが空しく空を切っていく。ガイは調子に乗り、

 

「どうした!?当たらなければ意味は無いぞ?俺の配下を倒した報い・・・先ずお前が思い知れぇ!!」

 

 ガイは両手に意識を集中すると、ガイの両手の爪が鋭く伸びた。ローズは腕をクロスして顔を庇いながら、ガイの攻撃を受け防戦一方だった。

 

「「「「「ローズ!」」」」」

 

 ルミナス、ブライト、ウィンディ、メロディ、リズムが、ローズの身を案じて叫ぶも、ローズにはまだ余裕があるのか、

 

「心配には及ばないわ・・・直ぐにケリを付けるから」

 

「アァァン!?防戦一方のくせして何言ってやがる?」

 

 ガイはローズの強がりだと思い、更に攻撃を険しくするも、ローズはただ防戦一方で居た訳では無かった。ローズは、ガイの攻撃の間合いを、攻撃を受けながらも計り、徐々にそのタイミングをつかんで居た。

 

(3、2、1・・・今だ!)

 

 ローズは、右肘を思いっきり真横に放つと、確かな手応えがあった。

 

「ウゥゥオォォォ!?バ、バカな?」

 

「この私が、オメオメやられてるだけだと思ったの?さあ、今度はこっちの番よ!」

 

 ローズの肘撃ちを受けたガイの動きは、完全に止まった。ローズは、今までの借りを返すかのように、パンチやキックをガイに放った。吹き飛ばされたガイに、ローズは再びミルキィパレットをフル稼働させた。

 

「邪悪な力を包み込む、バラの吹雪を咲かせましょう!ミルキィローズ・ブリザード!!」

 

 青い薔薇吹雪が、ヨロヨロ立ち上がったガイ目掛け吹き荒れた。

 

「畜生ぉぉぉ!」

 

 ガイは悔しそうに吠えながら、ミルキィローズブリザードの直撃を受けて倒された。

 

『ヤッター!』

 

 ルミナスに守られていた妖精達は、皆大喜びで飛び回り、プリキュア達は目を細めた。キラリンとピカリオは、思わず眩しそうに六人のプリキュアを見上げ、

 

「あれがプリキュアキラ!?」

 

「凄いピカ」

 

「ウム、プリキュアとは伝説のパティシエの事だと思って居たジャバが、他にも居たんジャバなぁ・・・」

 

 長老は愛用の黄色い傘を広げ、プリキュア達と伝説のパティシエを思わず比べた。六人は、妖精達に近づき、ルミナスは妖精達一同を見渡すと、

 

「皆さん、怪我はありませんか?」

 

『ハ~イ!』

 

「所で、ここで何してたの?」

 

 メロディに問われた妖精達、長老が代表してプリキュアに話し出した。

 

「わしらは、此処でスイーツを作って居ったジャバ」

 

「「「「「「エッ!?スイーツ?」」」」」」

 

「そうジャバ!さあ皆の者、プリキュア達のお陰でまたスイーツを作れるジャバ」

 

 妖精達は、嬉しそうに舞い踊り、プリキュア達にお礼を言いながら、またスイーツ作りを始めた・・・

 

『キラキラキラルン、キラキラルン、美味しく、美味しく、美味しくなぁれ!』

 

 プリキュア達は、目を細めながら妖精達のスイーツ作りを見て居ると、妖精達が作ったスイーツから、沢山のキラキラ輝く宝石のようなものが溢れ出して居るのを見た。

 

「エッ!?デザートから色とりどりの宝石みたいな何かが溢れ出してるわ?」

 

「何なのこれ!?」

 

 リズムとメロディは、困惑しながらスイーツを指さすと、長老がプリキュア達に対して再び説明を始めた・・・

 

 キラキラルとは、想いが込められたスイーツに宿るエネルギーの事で、人々を始めとした生き物や、世界を元気にする力があり、嘗てこの町を守ったプリキュアの力の源でもあることを語った。ローズは感心しながら、

 

「へえ、キラキラルかぁ・・・そんな風に思いながら作った事何て無いわね?」

 

 ブライトも感心したように、スイーツを作り続ける妖精達を、目を細めながら見守った。

 

「そうね、美味しく出来る様にとは確かに思ったけど、キラキラルかぁ・・・」

 

 ルミナスは、目を細めながら仲間達に話し掛け、

 

「せっかくだし、私達も混ぜて貰いませんか?」

 

「賛成!少しなら大丈夫でしょう」

 

 ルミナスの提案に、ローズが真っ先に賛成した。メロディも右手を上げると、

 

「私も手伝うよ!」

 

 メロディも手伝うと進言するも、リズムはゆっくり首を左右に振り、

 

「メロディはダメよ」

 

「何でよ?」

 

「どうせ、摘まみ食いするだけでしょう?」

 

「ギクッ!?バレたかぁ」

 

「やれやれ、メロディもたまには、食べる専門じゃなくて、スイーツを作りなさいよね?」

 

「「「「フフフフフ」」」」

 

 メロディとリズムのやり取りを見て、ルミナス達は思わず笑みを浮かべた。

 

 プリキュア達は、妖精達に交じりスイーツ作りを勤しんだ。元々スイーツを作って居るルミナス、ブライト、ローズ、リズムは、慣れた手付きでスイーツを作り、妖精達を驚かせた。キラリンは、一同に話し掛けると、

 

「上手キラ・・・プリキュア、キラリン達を弟子にしてほしいキラ!」

 

『エッ!?』

 

「俺からも頼む」

 

 ピカリオもキラリンの隣で頭を下げ、思わず一同は困惑した。プロのパティシエでもない自分達が弟子を取るなど烏滸(おこ)がましい事だと考えた。リズムは申し訳なさそうな表情を浮かべると、

 

「ゴメンなさい、私達プロのパティシエでも何でもないし、弟子入りするなら、やはり本物のパティシエの下に行かないと・・・」

 

「スイーツってどこに行けば一番うまくなれるピカ?」

 

 ピカリオに聞かれたリズムは、少し首を傾げて考えると、

 

「そうねぇ・・・一流を目指すなら、やはりフランスのパリよね」

 

「「パリ!?」」

 

 キラリンとピカリオは、思わずまだ見ぬパリの地に思いを寄せた。キラリンは、ピカリオに小声で話し掛け、

 

「ピカリオ、キラリンはパリで修業してみたいキラ」

 

「ウン、俺もそう考えてたピカ」

 

「長老、キラリン達も、伝説のパティシエであり、プリキュアである古のプリキュアみたいになりたいキラ」

 

 二人のパリへの思いは益々強まり、長老に許可を頼んだ。長老は、最初こそ渋い表情を見せたが、二人の成長になるならと考え、二人の申し出を受諾した。

 

「その代わり、勉強頑張るジャバよ?」

 

「「ハイ!」」

 

 キラリンとピカリオは、希望に満ちた表情を浮かべながら、まだ見ぬパリの地を想像して居た。二人の決断に、ぺコリンも嬉しそうに祝福し、

 

「キラリン、ピカリオ凄いペコォ・・・ところで、どうやってパリに行くペコ?」

 

「「アッ!?」」

 

 キラリンとピカリオは肝心な事を忘れていた・・・

 

 いちご山から出た事が無い二人からしたら、パリに二人だけで行くのは夢のまた夢だった。ガックリ項垂れたキラリンとピカリオを見たローズは、ふと妖精姿に戻ると、妖精達は皆驚いた表情を浮かべた。キラリンは思わず目を見開き、

 

「エェェ!?妖精だったキラ?」

 

「そうミル!ミルクは、パルミエ王国からこっちの世界にやって来た妖精ミル」

 

 ミルクは、今までの出来事を語って聞かせた・・・

 

 ナイトメアによってパルミエ王国が一度は滅ばされた事、のぞみ達プリキュア5によって、ナイトメアの暗躍を阻止した事、新たに現れたエターナルとの戦いの中、キュアローズガーデンの管理者、フローラから託された青いバラの力で、ミルキィローズになった事、そして、この世界で闇と戦う大勢のプリキュア達と出会い、今でも闇の勢力と戦い続けて居る事を語って聞かせた。

 

「キラリン達も、ミルクみたいに人間の姿になれるキラ?」

 

「夢を諦めちゃダメミル!思い続ければ、きっと夢は叶うミル!ミルクの仲間に、シロップって言う運び屋が居るミル。シロップならキラリンとピカリオを、パリまで送り届けてくれるミル」

 

「「ほ、本当!?」」

 

 ミルクは微笑みながら頷き、シロップに頼んで二人を迎えに来る事を約束した。そんなやり取りを、一同は目を細めながら見守った。

 

 妖精も、人間の姿になる事は出来る!

 

 ミルクの言葉は、キラリンとピカリオの胸を打った。

 

 キラリンは、一流のパティシエになる事はもちろん、ミルキィローズのようなプリキュアになりたいと思ったのは、この時からだった・・・

 

 

          第百二十四話:次世代を担う少女達(前編)

                   完




遅くなりましたが、第百二十四話投稿致しました。
今回と次回は、次世代の少女達のお話ですが、キラリン達は急遽追加しました。まあ、いちか達が今作に登場しない代わりみたいなもんですけどね

キラプリ劇場版、初日に見て来ました。ギャグ多めで楽しかったです。魔法組も出てましたが、キラプリのキャラを喰う事も無く、良い客演だったと思います。TV本編の方も漂白ジュリオが次回出そうで盛り上がりそうです。新プリの題名もバレで出て来て、もうそんな季節何ですねぇ・・・

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