プリキュアオールスターズif   作:鳳凰009

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第百二十二話:マザーラパーパ

1、和解

 

 まるでニクスとリリスを庇うように、バッドエンドプリキュアが放った、バッドエンドバーストの前に立ち塞がったキュアビート、ビートは咄嗟にラブギターロッドを取りだし、ロッドを弾いて正面にバリアを張り、バッドエンドバーストを防ごうとしていた。ニクスとリリスは、そんなビートを見て呆然として居た。

 

「リリス、あなたあのプリキュアを、チャームで魅了したの?」

 

「しないわよ、そんな力も残って無いし・・・彼女、どうして私達を庇うのかしら?」

 

 ニクスとリリスには、ビートが自分達を庇う理由が思い浮かばなかった。ビートは、襲い掛かったバッドエンドバーストの威力を直に感じて、その威力に脅威を覚えた。

 

(これがバッドエンドバースト・・・私の想像以上の威力だわ!?)

 

 ビートの張ったバリアに、呆気なく亀裂が走り、ビートの額から冷汗が流れた。バッドエンドバーストが、今正にビートをも飲み込もうとしたその時、

 

「あんた達、もういいでしょう?止めてぇぇぇ!!」

 

 ブラックが絶叫し、その声に反応したバッドエンドプリキュア達は、咄嗟にバッドエンドバーストの方向を変え、バッドエンドバーストは徐々に縮小して消え去った。

 

「ハァハァハァハァ」

 

 荒い呼吸を続けるビートを、バッドエンドプリキュア達は険しい表情で見つめた。バッドエンドビューティは、ビートを詰問するかのように、

 

「キュアビート、どういうつもり?理由があるなら話しなさい」

 

「話によっちゃ、あいつら事あんたも敵と見なすよ」

 

 バッドエンドビューティの言葉に同意し、バッドエンドマーチもビートを詰問するも、バッドエンドピースは舌を出し、

 

「元々敵だけどねぇ」

 

「あんたは黙っとれ!」

 

「まあまあ」

 

 二人を茶化すバッドエンドピースを、バッドエンドサニーが一喝し、バッドエンドハッピーが、そんなバッドエンドサニーを宥めた。ビートは荒い呼吸をしながら、

 

「ハァハァ、もう・・・彼女達に戦う力は残って無いわ。それに、私は彼女達に聞きたい事があるの」

 

「「「「「聞きたい事!?」」」」」

 

「どういう事?」

 

 ビートはそう言いながら息を整えると、呆気に取られるバッドエンドプリキュア達とダークドリームを余所に、ゆっくり背後を振り返り、ニクスとリリスに近付いて行った。一同がビートの行動を見守る中、ビートはニクスとリリスの側に寄ると、二人に話し掛けた。

 

「ねぇ、今あなた達、シーレインの為にも負けられないって言ってたわよね?シーレインの身に、何かあったの?」

 

「あなたには関係無い事よ」

 

 ニクスは、ビートの問い掛けを冷たくあしらったものの、ビートはそんなニクスを見ながら首を振り、

 

「ううん、関係あるわ。だって私達は・・・シーレインの友達だから」

 

「「エッ!?」」

 

 ビートが発した、シーレインと友達だと言う言葉に、ニクスもリリスも驚きを隠せなかった。確かにシーレインは、プリキュアに敵意は無いとは語っていたが、友達になった事までは、ニクスとリリスは聞いては居なかった。カインに操られたアモンの事もあり、シーレインはあの後、直ぐ心を閉ざしてしまって居た。思わず顔を見合わせたニクスとリリスに、ビートは更に話し掛け、

 

「あなた達も、シーレインが一人でこっちの世界に来た事があるのは、知って居るわよねぇ?私達は、その時シーレインと友達になったの」

 

 ニクスもリリスも、思わずビートの目を見つめた。澄んだ瞳をしていて、ビートが嘘を言っていない事は、二人にも直ぐに理解出来た。

 

「あなたのその目・・・嘘では無さそうね」

 

「でも、ダメよ・・・カイン様が見ているかも知れないのに、あなたには話せない」

 

 ブルーは、ニクスとリリスの二人から、プリキュア達に対する敵意が、完全に抜けた事を悟り、自分達の居る周辺を、黄金の結界に包み込んだ。一同は、周辺を覆った黄金の結界を見渡していると、ブルーもニクスとリリスに話し掛け、

 

「これでそのカインという者は、今の君達を見る事も出来ないし、声を聞く事も出来ない」

 

「「あなたは一体!?」」

 

 ニクスとリリスは、ブルーの話を聞くも半信半疑だった。カインの実力を知って居る二人に取って、目の前のブルーが、カインを抑える力を持つとは思えなかった。ブルーは、そんな二人に微笑みながら、

 

「僕は・・・地球の神ブルー」

 

「「地球の神!?」」

 

 ブルーが自らを地球の神と名乗った事で、リリスは、ブルーにチャームが効かなかった理由がハッキリ分かった。リリスは納得したかのように小さく頷き、

 

「そう、それなら私のチャームが、あなたに効かなかった理由も分かるわ」

 

「まさか・・・地球の神自ら現われる何て!?」

 

 ニクスも、目の前に居るブルーが神だと知り、動揺を隠せなかった。ブルーは、ニクスとリリスを澄んだ目で見つめると、思わず二人は魔界の王ルーシェスの顔をダブらせた。ブルーとルーシェスは似ている訳ではなかったが、顔を見ていると、安心感を与えてくれる存在という面では、共通しているように二人には思えた。

 

「僕も君達の話に興味がある・・・みんなに話してくれないかな?」

 

「「・・・・・・」」

 

 ブルーにも、話を聞かせて欲しいと言われたニクスとリリスは、地球の神ならば、魔界に居るカインの力を、押さえ込む事も出来るかも知れないと思い、互いに顔を見合わせると、小さく頷きあった。

 

「ニクス、プリキュア達がシーレイン様の友ならば、私達が拒む理由は無いわね?」

 

「そうね。分かりました、お話しします・・・」

 

 リリスは話を始める前に、プリキュア達を見つめると、

 

「その前に、エロチックアイであなた方を辱めた非礼を・・・詫びさせて貰うわ」

 

「私もそうね・・・特にあなたには酷い事をしてしまったわね」

 

 リリスはプリキュア達に、ニクスはバッドエンドピースに深々と頭を下げ、

 

「「ゴメンなさい!」」

 

『もう良いわ・・・』

 

「でも、もう二度とあの技は私達にしないでよ?」

 

 プリキュア達は、苦笑しながらもニクスとリリスを許し、ピーチは念を押すように、エロチックアイを、二度と自分達にしないようにリリスに話し掛けると、リリスはさっきの事を思い出したのか、少し笑いながら、

 

「ウフフ、みんな中々良い声で悶えて居たんだけどねぇ?」

 

「う、うるさいなぁ」

 

 ブラックは、自分の恥ずかしい姿が目に浮かぶと、思わず変顔浮かべながらリリスを恨めしそうに睨んだ。リリスは思わず笑い、

 

「ウフフフ、残念だけどそうするわ」

 

「アハハハ、お願いよ?」

 

 ピーチもそんなリリスを見て思わず苦笑した。バッドエンドピースは、少しゲスイ表情でニクスを見ると、

 

「お仕置きのスペシャルバッドエンドサンダーで許して・・・・イタッ!」

 

「ピース、また話をややこしくする気かぁ?」

 

「ハァ・・・全くあなたは・・・」

 

「だってぇぇぇ・・・」

 

 バッドエンドマーチに頭を叩かれ、バッドエンドビューティに溜息を付かれ、バッドエンドピースが涙目になる。そんな様子を見たリコは、プリキュア達とニクス、リリスが和解したようで、ホッと安堵するのだった。

 

「今・・・エロチック何たらとか言ってたカゲ?」

 

 ふいに上空から見知った声が聞こえてきて、一同は思わず黄金の結界の上空を見上げると、パタパタ羽を羽ばたかせながら、魔王がゆっくり降りて来た。プリキュア達やアン王女、妖精達は、見る見る微妙な表情を浮かべた。ブラックは変顔浮かべながら、現われた魔王を指差し、

 

「ゲッ、魔王!?どうしてここに?」

 

「お前達が俺を呼ぶ声が聞こえて・・・」

 

『呼んでない!』

 

『呼んでません!』

 

 困惑した表情のプリキュア達が、一斉に呼んでないと否定するも、魔王は一同を見渡しながら、

 

「なぁなぁ、今会話に出てたエロチック何とかって・・・何の事カゲ?」

 

『さあ?』

 

 魔王にエロチックアイの事を知られたく無い一同が惚けるも、事情を知らないリリスは、

 

「あなたも妖精なの!?エロチックアイは私の技で、受けた者の性的欲求を刺激し・・・」

 

『ワァァァァ!』

 

 一同は、慌ててリリスの言葉を大声出して打ち消すも、魔王は、目をキラキラ輝かせながら、リリスに詰め寄り、思わずリリスが豊満な胸を強調するかのように仰け反った。

 

「な、何!?」

 

「今・・・何て言ったカゲェェェ?」

 

 魔王は、詰め寄ったリリスのスタイルを見て、見る見るスケベ顔を浮かべた。ベリーは、そんな魔王を見て嫌そうな表情を浮かべ、手で魔王を追っ払うようなジェスチャーをしながら、

 

「何でも無いわよ・・・シッシ」

 

「そうよ、魔王には関係無いわ」

 

 パッションもベリーに同意するも、魔王は二人を無視し、更にリリスに話し掛け、

 

「いや、今その乳娘が気になる事を言ってたカゲ」

 

『乳娘って何!?』

 

「ち、乳娘!?そんな風に言われたの、初めてだわ・・・」

 

 プリキュア達とリリスは、魔王が乳娘とリリスの事を呼んだのを聞いて、思わず呆気に取られた。思わずニクスはそんなリリスを見て苦笑を浮かべるも、魔王の視線が、今度は自分の身体を嘗めるように感じられ、思わず背筋がゾッとした。リコは隣に居るアン王女に話し掛け、

 

「ねぇ、あの黒い妖精が、さっきアン王女が言ってた魔王なの?」

 

「はい・・・出来れば会わせたくはなかったのですが、あの子が魔王ですわ」

 

 アン王女は、言いにくそうにしながら、魔王の事をリコに教えた。リコは改めて魔王の容姿を見ていると、魔王もリコに気付き、見つめ返した。魔王はリコを見ながらどんどんニヤニヤし、

 

(まだ若すぎるカゲなぁ・・・でも母親は、アコのママみたいな美人かも知れないし、中々将来有望そうカゲ)

 

「何かイメージと全然違ったわ・・・もっと怖そうな姿をしてるのかと思った」

 

 魔王は、リコを見て少し若すぎるとガッカリしたものの、リコの母を思わずイメージすると、将来有望だと思い込み、一方のリコは、魔王と呼ばれているからには、もっと怪物のような姿を想像していた。

 

「リコ、魔王の容姿に欺まされちゃダメよ。中身はスケベなおじさんみたいなもんだから」

 

「ス、スケベなおじさん!?」

 

 ローズに忠告されたリコは、思わず目を点にしながら魔王を見つめ、ニヤニヤ笑みを浮かべる魔王を見てゾッとした。サニーはウンウン頷きながら、

 

「ホンマ、エロ魔王やからなぁ・・・」

 

「まあ怒った時は、確かに魔王の雰囲気は持って居るんですけどね」

 

「魔王が絵本の世界で暴走した時は、私達みんなで戦っても苦戦したよね」

 

「あの時は大変でしたね。ハッピー、死んじゃったんじゃないかと思ったし・・・」

 

 レモネードが、絵本の世界の事を思い出し、暴走した魔王の事を話すと、ピースとエコーも同意して、苦戦した事を思い出していた。十人の闇のプリキュア達は、皆驚いた表情で魔王を見つめながら、

 

『エッ!?あなた達総掛かりで苦戦したの!?』

 

「エロい目に遭わされたからやないの?」

 

 プリキュア達の実力を知って居る闇のプリキュア達は、俄には信じられず、バッドエンドサニーは、エッチな被害を受けたからではと語るも、ブロッサムは首を振り、

 

「今では信じられないかも知れませんが、その頃の魔王は、エッチじゃ無かったんですよ」

 

『嘘!?』

 

「ちょっと信じられないんですけど・・・」

 

 ブロッサムの話は、闇のプリキュア達だけでなく、ソードとアン王女も信じられないといった表情を浮かべ、ソードは、魔王を胡散臭そうな目で見つめながら、思わず本音を呟いた。サンシャインは苦笑しながらハッピーを見つめ、

 

「絵本の世界で、魔王がお世話になった女の子を、みゆきが悲しませたと勘違いしてね」

 

「ううん、結果的には、ニコちゃんを悲しませたのは事実だったし・・・でも、魔王に分かって貰えて良かった」

 

 ハッピーはそう言いながら、魔王に微笑んだ。魔王も笑みを返しながらプリキュア達を見つめ、

 

「お前達の愛を受けて、俺は生まれ変わったカゲ!」

 

「こんな変態に生まれ変わるとは、誰も思って無いわよ」

 

 ブラックは、悦な表情を浮かべる魔王を見て、変顔浮かべながら指差し、一同から苦笑が漏れた。魔王はハッと我に返ると、リリスに話し掛け、

 

「なぁなぁ、俺にもそのエロチックアイっていう技を、是非見せて欲しいカゲ」

 

「見せて上げても良いけど・・・」

 

『ダメよ!』

 

 慌ててリリスを止めるプリキュア達を見た魔王は、きっとその名の通りエッチな技だろうと想像すると、ニヤニヤしながらプリキュア達を見つめた。魔王の視線がピーチとメロディを捕らえると、

 

「じゃあ、こいつらで試すカゲ」

 

 魔王がピーチとメロディを指さすと、二人は見る見る表情を強張らせながら、魔王目掛け勢いよく駈けだし、

 

「「帰れぇぇぇ!!」」

 

「カゲェェェェェェ!?」

 

 怒ったピーチとメロディが、息を合わせたように上空高く魔王を蹴り飛ばし、魔王は悲鳴を上げながら、星となって消え去った。ピーチとメロディは、頬を膨らませながら、

 

「全く、私達を何だと思ってるのよ」

 

「本当・・・もうあの技は懲り懲りだって言うのに」

 

「全く、懲りないねぇ・・・」

 

「ピィィ・・・」

 

 ルージュが呆れたように呟き、ピーちゃんは、そんな魔王を見て呆れたように溜息を付いた。リコ、ニクスとリリスは、目を点にしながら上空を見上げると、

 

「行っちゃった!?」

 

「「何だったのかしら?」」

 

『気にしないで!』

 

 一同は、魔王の事は忘れて良いからと、三人に話した。ニクスとリリスは、気を取り直して、プリキュア達とブルー、リコやアン王女に、リコを利用して人間界に来た理由を語り出した・・・

 

「人間界から戻ったシーレイン様は、あなた達プリキュアには、魔界と戦う意思は無いと、ハッキリ私達に伝えたわ」

 

「でも、カイン様とアベル様は、ルーシェス様の名を出し聞き入れなかったの」

 

「お二人は、シーレイン様がルーシェス様の命に背いたとして、処刑するかどうか私達に決を採ったわ・・・でも、私やリリス、ベレル様達反対票が上回り、シーレイン様は、ルーシェス様が住む、黒き塔の最下層に幽閉されたの」

 

「シーレインが・・・」

 

 ニクスとリリスの言葉は、そこで一旦言葉が途切れ、ビートも沈痛な表情を浮かべた・・・

 

 ニクスとリリスの脳裏に、アモンに裏切られ心を閉ざしたシーレインの痛ましい姿が、思わず目に浮かんだからだった。少しの間を置き、再び二人は話し始め、

 

「それから暫くして、私とリリスは、カイン様に呼び出されたわ。そこでカイン様の口から、ルーシェス様の命令で、シーレイン様の処刑が決った事を告げられたの」

 

『エッ!?』

 

 思わずプリキュア達は驚いた。今二人は反対票が上回って、シーレインは幽閉されたと言っていたのだから・・・

 

「私達も驚いたわ・・・処刑は多数決で否決されたのに、カイン様から、急にルーシェス様の命令で、処刑が決ったと告げられたのだから」

 

「そこで私とリリスは、シーレイン様の処刑だけは、何とか免除して欲しいとカイン様に訴えたの」

 

「カイン様は、シーレイン様を処刑しない代りに・・・あなた達プリキュアを倒し、何人かを魔界に連れ帰る事を、私達に条件として出されたわ」

 

「でも私とリリスは、プリキュアが何所に居るか何て分からなかった・・・そこでカイン様は、嘗て魔法界にもプリキュアが居た事を突き止め、魔法界の人間を利用すれば、プリキュアと出会えるかも知れないと私達に告げたの」

 

「そこで私達は魔法界に向かい、リコ・・・あなたと出会い、利用させて貰った。今では申し訳無いと思っているわ」

 

「「ゴメンね・・・リコ」」

 

「ううん、謝ってくれたら、もういいの」

 

 リコはそう二人に告げると、ニッコリ二人に微笑んだ。一時はどうなるかと思ったものの、ニクスとリリスは、プリキュア達と和解した事で、リコの心は晴れやかだった。

 

「ありがとう・・・リコ。でも結果的には、カイン様の言う通り、リコはプリキュア達と出会った・・・それが何を意味するのかは、私にもリリスにも分からないけど・・・」

 

「そうね」

 

 そう言うと、ニクスとリリスは、リコの顔を見ながら、リコとプリキュアが出会った事は偶然だったのか、何かの意味があったのか思案すると、突然ブルーが話し出した。

 

「それはおそらく・・・マザーラパーパの導きかも知れないね」

 

『マザーラパーパ!?』

 

 その場に居た一同は、初めて聞く名前に全員首を傾げた。ブルーは一同の顔を見渡し、

 

「ここに居るみんなは、知らなくても当然かも知れないね・・・君達二人の話の腰を折るようだけど、折角の機会だし、ここに居るみんなにマザーラパーパの事を話そう。ここにプリキュア、魔法界と魔界の関係者、そして妖精達が居るのも、何か大いなる意味があるように、僕には思えてならない」

 

「妖精さんは、一人帰っちゃいましたけど・・・」

 

「あれは忘れて良いから」

 

 リコが空を指差しながら、魔王が強制的にこの場から帰った事をブルーに告げると、ブラックは背後からリコの右肩に手を置き、首を左右に振りながら、魔王の事は忘れて良いからと告げた。ブルーは更に一同に語り掛け、

 

「これから話す事は、プリキュアのみんなの中でも、特にムーンライト達や、ブルーム達には、関係ある話何だ」

 

『エッ!?』

 

「どういう事でしょう?」

 

 ブルーム達とブロッサム達が驚きの声を発し、ムーンライトにも全く想像出来ず、思わずブルーに問うも、ブルーは口元に笑みを浮かべながら、マザーラパーパについての昔話を始めた・・・

 

 

2、ブルーの昔話

 

 ブルーは黄金の結界の中で、光と闇のプリキュア達、妖精達、リコとアン王女、そしてニクスとリリスをゆっくり見渡し、

 

「君達の中で、何人かには、一万年前の話をした事があると思うけど、今から話す事は、更に昔の話何だ・・・」

 

 ブルーが話し始めた昔話・・・

 

 地球という星が誕生し、やがて生命が産まれた・・・

 

 生命は進化を遂げ、やがて知能を得た・・・

 

 だが、知能を得た事で、生命は争いを始めた・・・

 

 まるで、闇の記憶を引き継いだかのように・・・

 

「まだ僕は若く未熟だった。僕は、争い続ける者達に嫌気がさしてしまった。そこで僕は、そんな荒れた心に憩いを与えようと、一粒の愛の種をこの星に植えた。そして僕は、直接この星に干渉する事を止め、この星に生きる者達を陰ながら見守る事にしたんだ。やがて僕が植えた愛の種は芽を出し、まるでこの星の生命を見守ろうとするかのように、成層圏をも越える大樹となったんだ」

 

「せ、成層圏を越える大樹!?」

 

「木ってそんなに大きくなるものなのかしら?」

 

 ブルームとベリーが思わず驚きながら言葉を発し、ブルーは小さく頷くと話を続け、

 

「そんな大樹に、沢山の花が咲き、地上に沢山の花の種を運んだ。やがてそれらが芽を出し、花を咲かせ、地上に花が覆いしげる光景は、花の海のようだった。この星に住む者は心を惹かれ、大樹の側で暮らし始めた。まるで花の海のようなその場所にね」

 

「花の海ですか?一度見て見たいですぅ」

 

 ブロッサムは、瞼にそんな場面を浮かべ、目をキラキラ輝かせた。ブルーは目を閉じ、花の海に覆われた地球を思い浮かべた。

 

「僕は、大樹にも生命が宿った事を知った。それが後に、あまねく生命の母と呼ばれる事になるマザーラパーパ」

 

『マザーラパーパ・・・』

 

 一同は、思わずオウム返しのように、先程聞いたマザーラパーパの名を呟いていた。光と闇のプリキュア達も、リコやアン王女も、妖精達も、そして、ニクスとリリスさへも思わず呟いていた。

 

「そう・・・地球の民にとっては、彼女の方こそ神と呼ぶのに相応しいかも知れない」

 

 ブルーはそう言うと、静かに目を閉じて、当時の光景を瞼に思い描いていた。マザーラパーパの容姿は、白緑色をした長い髪をしていて、赤いバラと緑色の葉っぱを飾った、神々しい白のワンピースを着て居た。両肩にはピンクのバラのような花が、頭部の両側には、白い花の髪飾りを付けていた。その巨大な姿は、正に大樹に咲く花の化身のようだった。

 

「マザーラパーパ・・・地球の神も認める女神のような存在」

 

「どんな人だったんだろうねぇ?」

 

 ウィンディがポツリと呟き、パインもブルーが認めるマザーラパーパの存在が気になっていた。

 

「彼女は、この星に住む者達に取って、正に母のような存在だった。地球の民達は、彼女の事をこうも呼んで居た・・・母なる樹とね」

 

『母なる樹・・・』

 

 マザーラパーパの魂が宿る巨大な大樹、その周辺を花の海が覆い尽くし、そこには、人も、動物も、昆虫も、妖精も、精霊も、幻獣も、魔族さへも、マザーラパーパに導かれるように、平和に暮らしていた。そんな地球に住む民達を、マザーラパーパは慈愛を込めて見守って居た・・・

 

「だが・・・そんな平和を脅かす存在が、この星に迫っていたんだ」

 

 ブルーはそう言うと、どんどん表情を強張らせた。ドリームも瞬時に表情を険しくしながら、

 

「平和を脅かす存在!?」

 

「大いなる闇の事ですか?」

 

 ルミナスの脳裏には、嘗てブルーに聞いた、大いなる闇の事が直ぐに頭に過ぎった。ルミナスが確認するようにブルーに問うと、ブルーはゆっくり首を振った。

 

「いや、大いなる闇が現われる遙か昔の事、その者の名は・・・デウスマスト!」

 

『デウスマスト!?』

 

 一同は、驚いたようにブルーの言葉をオウム返ししていた。ブルーは小さく頷き、

 

「そう・・・ある星はデウスマストに飲み込まれ、ある星は軌道を変えられた。この地球と兄弟星であった惑星レッドもその一つ・・・」

 

「惑星レッド!?」

 

「地球と兄弟星ってどういう事!?」

 

 ホワイトは、初めて聞く星の名に首を傾げ、ブライトは興味深げにブルーに聞いた。ブルーは、一瞬悲しげな表情を浮かべ、

 

「地球は・・・惑星レッドと共に生まれた二重惑星だったんだ」

 

『エェェェ!?』

 

「地球は昔、二重惑星だった!?・・・凄いわぁ」

 

 地球が、惑星レッドと共に生まれた二重惑星だったと聞き、一同は驚きを隠せなかった。学校の授業では決して教わらない、地球誕生に関係した話を、今ブルーはさらっと一同に伝えたのを聞いた中、ミントは小説のヒントを得たのか、どこか嬉しそうにも見えた。

 

「惑星レッドは・・・僕の兄レッドが神として見守って居た。デウスマストの影響で、惑星レッドの軌道が狂わされ、暴走した惑星レッドは、地球から離れて行った。僕は、兄に協力する為惑星レッドに行き、兄と共に軌道を安定させている時、地球はデウスマストに飲み込まれようとしていたんだ」

 

 ブルーは、当時の事を思い出したのか、悔しそうに拳を握り締めた。一同は、そんなブルーをただ黙って見つめ、ブルーが再び話し始めるのを待った。ブルーは、気を落ち着かせると再び話し始め、

 

「そんなデウスマストを止めるべく、マザーラパーパは、地球に住むあらゆる命を守る為、デウスマストに立ち向かった。だが、デウスマストの力は強く、兄と共に、惑星レッドの軌道を安定させた僕は、兄に別れを告げて急ぎ地球に戻ると、マザーラパーパは無残な姿になって居たんだ。巨大な大樹には、無数の傷が付き、今にも何カ所か折れそうな程だった。それでもマザーラパーパは、デウスマストに向かって行った・・・」

 

 ブルーの脳裏に、圧倒的力でマザーラパーパ事地球を飲み込もうとする、デウスマストの不気味な姿が思い出されていた。巨大なブラックホールの中から、人型のような上半身だけを出すも、顔らしき物から血管のような管が、両腕まで伸びた容姿は、生命を感じさせなかった。その頭部の左右には、まるで目のような四つの球体が浮かんで居た。

 

「デウスマストはおぞましき姿をしていた・・・デウスマストが意思を持って居たのかも、僕には未だに分からない。ただ、全てを無に返す為にだけ存在している。そう、全てを無にするまで動き続ける終わりなき混沌・・・そんな感じにすら僕には見えたんだ。マザーラパーパが、最後の力を振り絞ろうとしているのを感じた僕は、彼女が愛した民達を守るだけで精一杯だった。デウスマストの影響で、地球に吹き荒れる暴風に耐えていたマザーラパーパの大樹が、根元から倒れようとした時、僕はこの目で見た!まるで両脇から彼女を支えるように、光と闇の巨大な人のようなシルエットが姿を現わしたんだ」

 

 ブルーはそう言うと、ブラックとホワイトをチラリと見た。当時の光景と今二人を見た光景が、ブルーには重なって見えた。

 

(そう・・・ブラック、ホワイト、今の君達の姿に似て居たような気がする)

 

「僕は、それが闇の神ブラックと、光の神ホワイトだったのではないかと、今でも思っているんだ」

 

「エッ!?闇の神ブラック?」

 

「光の神ホワイト!?」

 

 ブラックとホワイトは思わず呟いた。二人の脳裏に、時の狭間での出来事がうっすら甦って来る。

 

((まさか、あの時見たのは!?))

 

 動揺するブラックとホワイトを余所に、ブルーは話を続け、

 

「そう、僕も直接には会った事は無いけど、あれは光と闇の神だったと思う。光と闇の神の力を借りたマザーラパーパは、ブラック達のルミナリオに似た虹色の光を、デウスマストに浴びせて吹き飛ばし、太陽に封印したんだ。太陽にある黒点・・・あれこそが封印されたデウスマスト!」

 

「た、太陽の黒点が!?」

 

「う、嘘!?」

 

「驚きました・・・」

 

 学校の授業で習った事が、ブルーによって事実とは違う事を教えられ、アクアとリズム、そしてビューティが困惑の表情を浮かべた。ハッピーは、困惑顔でドリームに話し掛け、

 

「太陽の黒点って何でしたっけ?」

 

「う~~~ん・・・・」

 

 腕組みしたドリームが首を傾げながら唸ると、ミューズは呆れたように、

 

「太陽の中にある黒い点の事でしょう」

 

「「オォォォ!」」

 

 思わずミューズに拍手するドリームとハッピーだったが、ホワイトも会話に加わり、

 

「付け加えるのなら、太陽黒点とは、太陽の表面に存在する黒い斑点として観測される部分の事よ。太陽の表面の温度は、およそ 5400 ℃ 何だけど、黒点はそれより 1000 ℃ から 1500 ℃ くらい低いの、それが黒く見える理由と言われて居るわ。ちなみに・・・」

 

 ホワイトのうんちく講座が始まり、見る見るドリームとハッピーの目が点になっていった。更には二人の背後で、ブラック、ピーチ、メロディ、サニー、ピース、マーチ、バッドエンドハッピー、バッドエンドサニー、バッドエンドピース、バッドエンドマーチも加わり、ムーンライトは、口から魂が抜け出そうな表情をした、12人を見て溜息を付き、

 

「ハァ・・・あなた達、もうちょっと勉強なさい」

 

「「・・・・・・トホホ」」

 

 ムーンライトに忠告され、ドリームとハッピーはトホホ顔を浮かべ、ブラック達も困惑の表情を浮かべた。アン王女はブルーを見つめると、

 

「では、光と闇の神の力を借りて、デウスマストを封印したマザーラパーパが勝ったのですね?」

 

「そうだよね、神様は今封印したって言ってたし・・・」

 

 アン王女に同意したメロディだったが、ブルーは悲しげな表情で首を振り、

 

「いや・・・マザーラパーパは、確かにデウスマストを封印する事は出来た・・・でもマザーラパーパは力尽き、母なる樹は、無残にも根元から抉り取られたかのように吹き飛び、その衝撃で、幾つにも大樹はへし折られた。地球の民達は、悲しみの声を上げながら、その衝撃で吹き飛ばされた。最悪な事に、その衝撃波で時空に亀裂が生じ、大樹の残骸の一部と共に、人や動物、昆虫の一部、妖精、精霊、幻獣、魔族達は、時空の穴へと飲み込まれてしまった。その時の絶望の声を、僕は今でもハッキリと覚えて居る」

 

 ブルーの話を聞いていた一同は、思わず黙り込んだ。今ブルーから聞いた話は、一同に取ってはショックな事でもあった。

 

「時空の穴に飲み込まれた一同がどうなったか、僕には分からない。でも僕は、地球に残った民を、マザーラパーパの意思を継ぎ、僕がこの星に住む者達を守ろうと誓ったのはこの時だった・・・だが、マザーラパーパは完全に消えた訳じゃなかったんだ」

 

 ブルーはそう言うと、ブルーム達を見つめた。

 

「ブルーム、イーグレット、ブライト、ウィンディ、君達は世界樹と大空の樹を知って居るね?」

 

「う、うん・・・」

 

「世界樹と大空の樹がどうかしたんですか?」

 

 ブルーに話を振られ、ブルームとイーグレットは困惑気味にブルーに問い、ブライトとウィンディは、ブルーからの返答を待った。ブルーは小さく頷き、

 

「その二つの樹は、マザーラパーパの意思が宿りし大樹」

 

「「「「エェェ!?」」」」

 

「泉の郷にある世界樹が、マザーラパーパの意思を宿してるラピ!?」

 

「もしかして・・・泉の郷に住むチョッピ達の先人達は、緑の郷から来たチョピ?」

 

 ブルーム達だけじゃなく、話を聞いていたフラッピとチョッピも驚きの声を上げていた。ブルーは小さく頷き、

 

「そう・・・そして、ムーンライト、ブロッサム、マリン、サンシャイン、君達をプリキュアにしてくれたこころの大樹も・・・マザーラパーパの意思が宿りし大樹何だ」

 

「「「エッ!?」」」

 

「何ですとぉぉ!?」

 

 ムーンライト、ブロッサム、サンシャインが驚き、マリンは変顔浮かべながら思わず仰け反った。ムーンライトは、何かを思い出したかのようにブルーに話し掛け、

 

「神様、ひょっとしてこころの大樹が、砂漠の使徒からの脅威に対抗する為に、私達を始めとしたプリキュアを誕生させたのは、デウスマストの記憶があったからなのでは?」

 

「おそらくそうだと思う・・・ブルーム達精霊の力を借りたプリキュアも、デウスマストのような脅威から守る為、産み出されたと僕は思う」

 

 ブルームは腕組みしながら考え、イーグレットを見つめると、

 

「そう言えばあたし達は、フラッピやチョッピ達の故郷、泉の郷の聖なる泉を汚す者達と戦う為に、プリキュアになったんだもんね」

 

「そうね」

 

「私とブライトの場合は、ちょっと意味合いが違うけど」

 

「でもあの時、ブルームとイーグレットを救う為に、ムープとフープの力を借りて、私達はプリキュアになったから、意味合いは同じじゃないかしら?」

 

「私達も、地球を砂漠化しようと企む、砂漠の使徒と戦う為にプリキュアになった」

 

「「「ハイ」」」

 

 ブルーム達も、ムーンライト達も、ブルーの話に納得出来るようだった。更にブルーは、リコ、ニクスとリリスを見つめ、

 

「君達の住む世界にも、マザーラパーパの加護はあるんだよ?」

 

「「「エッ!?」」」

 

「僕もこれから話す事は、キュアマジシャンやメランに聞くまで知らなかった事だけど、魔法界には、杖の樹と呼ばれる大樹があるそうだね?」

 

「ハイ!私が通う妖精学校は、杖の樹の上にあります」

 

 ブルーに聞かれたリコは、頷きながら杖の樹が魔法界にある事を認めた。ブルーは頷き、ニクスとリリスに視線を向けると、

 

「そして、君達が住む魔界にも、傷ついた者達を癒す泉があるそうだね?」

 

「良くご存じね?確かに魔界には、傷ついた者を癒す泉はあるわよ」

 

 地球の神が、魔界について詳しい事に少し驚きながらも、リリスはブルーの問い掛けを認めた。更にブルーは話を続け、

 

「その泉の中心に、大樹があるそうだね?」

 

「エエ、戦いに明け暮れる魔界の者達にとって、その場所は・・・まさか!?癒しの大樹が、あなたが言うマザーラパーパの?」

 

 ニクスは、魔界にある癒しの大樹が、さっき話に聞いたマザーラパーパの加護からきているのか、身を乗り出すようにブルーに確認すると、ブルーは小さく頷いた。

 

「キュアマジシャンが、嘗て竜王バハムートから聞いた話と言っていたから、おそらく間違い無いだろうね・・・そして、魔法界と魔界は、元々一つだったと聞く。いや、魔法界の何処かにあると言われる妖精の里も入れれば、嘗て時空の穴に飲み込まれた者達を心配したマザーラパーパは、大樹の破片を通して、君達を見守る存在として側に居たという事だろうね・・・」

 

 ブルーの話を聞いた一同は、マザーラパーパの慈愛の心を感じるのだった・・・

 

 

3、ビートの決意

 

 ブルーから聞いたマザーラパーパの伝説を聞き、一同が感触深げな表情を浮かべていると、ルミナスは、表情を曇らせながらブルーに質問を始めた。

 

「神様、一つ聞いてもよろしいでしょうか?」

 

「何だい!?」

 

「デウスマストは、マザーラパーパによって太陽に封印されたと聞きましたが、デウスマストは・・・まだ生きているという事でしょうか?」

 

 ルミナスの問いに、一同は思わずハッとした。封印されたデウスマストが、まだ健在ならば、封印が解けて大いなる闇のように、再び星々を破壊するのではないかという疑念が沸き上がってきた。ブルーは沈痛な表情を浮かべながら、

 

「これは僕の推測だけど、デウスマストは・・・生きている!太陽の中で、封印を解こうと今でも藻掻き続けて居る・・・そんな気がする」

 

 ブルーの推測を聞いたアクアは、表情を険しくし、

 

「それが本当だとしたら・・・もしも封印が解けたら大変な事になるわね?」

 

「大いなる闇という者も気になるけど、そんな封印されて居た者が再び現われたらと考えると、恐ろしいわね?」

 

「あたし達、しばらくこっちに居た方が良いんじゃない?」

 

「ですね・・・何か遭ってからじゃ遅いし」

 

「用心に越した事は無いわね」

 

 ダークアクア、ダークルージュ、ダークレモネード、ダークミントも、デウスマストを警戒し、もう少し地球に残る事を提案すると、ダークドリームは大きく頷き、

 

「その方が良いわね・・・」

 

「みんなが居てくれたら心強いよ」

 

「エエ、私達も肝に銘じておきましょう」

 

 ドリームとホワイトもダークプリキュア達に同意し、小さく頷きながら、一同にデウスマストを警戒するように促した。ブルーもホワイトに小さく頷き返すも、直ぐにニクスとリリスに話し掛け、

 

「君達の話の腰を折ってすまなかったね」

 

「いえ、私とリリスも、貴重な話を聞かせて頂きました」

 

「そうね、魔界の誕生にマザーラパーパが影響している何て・・・」

 

「もっとも、元々時空の狭間には、悪しき心を持った意思が漂っていたとも聞くけどね」

 

 ブルーはそう言うと、ニクスとリリスに先程の話しの続きを、一同に聞かせてくれるように頼み沈黙した・・・

 

「話の続きと言っても、後はさっきあなた達と出会った通り・・・」

 

「私とリリスも、もうあなた達と戦う気は無いし・・・魔界に戻ってベレル様に相談してみます」

 

 リリスとニクスは、和解したプリキュア達を魔界に連れ帰る訳にも行かず、魔界に戻って、今後の対策をベレルに相談しようと考えた。だが、カインがシーレインの処刑を待ってくれるとは思えず、困惑の表情をしている事に、ビートは気付いて居た。

 

「待って!ニクス、リリス・・・私を捕らえた事にして、私を一緒に魔界に連れて行って」

 

「「エッ!?」」

 

『ビート、何を!?』

 

 ビートの突然の提案を受け、その場に居た一同の視線がビートへと注がれた。

 

「私を連れ帰れば、あなた達はカインって奴の命令を実行した事になるし、シーレインの処刑は行えない」

 

「そ、それはそうかも知れないけど・・・」

 

「あなたを魔界に連れて行けば、あなたがどんな目に遭うか・・・私とリリスにも分からないのよ?」

 

 ビートの突然の提案に、ニクスもリリスも困惑した。本心から言っているのか探るように話を振るも、ビートは真剣な表情で二人を見つめ、

 

「そうだとしても・・・シーレインをこのままに何て出来ない!」

 

 ビートはそう断言した・・・

 

 一瞬の沈黙の後、慌ててメロディ達が会話に加わり、

 

「待ってビート、それなら私達も・・・」

 

「そうよ、私達は四人でスイートプリキュアなのよ?」

 

「ビートが行くなら、私達も行くわ」

 

「みんなで行きましょう」

 

 メロディが、リズムが、ミューズが、更にはパッションがみんなで行こうと提案するも、ビートは首を振り、

 

「ダメよ・・・魔界に行っている間に、こっちに何かあったらどうするの?それに、みんなで行けば、カインって奴に警戒されるのは間違い無いわ。私一人だけなら、向こうも油断する筈だし、何かの行動を起こす気もする」

 

『だからって、あなた一人だけ・・・』

 

 ビート一人だけ行かせる訳には行かない・・・

 

 プリキュア達の思いは一つであったが、ビートの意思は硬かった。ニクスとリリスは、その場で片膝付いて座り、ビートに頭を下げると、

 

「最初から・・・あなた方プリキュアを信頼し、協力を仰ぐべきでした」

 

「ベレル様には聞いていたのに・・・改めて非礼をお詫びします」

 

「マーメイドのニクス!」

 

「サキュバスのリリス!」

 

「「この命に代えて、あなたの命を守る事を、此処に誓います!!」」

 

 ビートの言葉は、ニクスとリリスの心を打った。自ら魔界に向かえば、どんな危険がビートに待ち受けているか分からなかったが、ビートはシーレインを助ける為に、自ら志願した。ニクスとリリスは、そんなビートを尊敬に値する人物と思い、自分達の命に代えても、ビートを守ろうとこの時決意した。更にはハミィがビートに飛びつき、ピーちゃんがビートの右肩に止まった。

 

「ハミィ!?ピーちゃん!?」

 

「セイレーンが行くなら、ハミィも一緒ニャ!ピーちゃんも、一緒に行くって言ってくれてるニャ。だからみんな、安心して欲しいニャ」

 

「ピィィィ!」

 

 ピーちゃんは、パインを見ながら何か一声掛けると、パインはキルンを使って通訳し、

 

「何かあれば、連絡入れるって言ってるわ」

 

「ピーちゃんが一緒なら・・・だけど、やっぱり行かせられないよ」

 

 メロディがそう言った時、ピーちゃんの目が妖しく輝いた。その時、まるで時間が止まったかのように、プリキュア達、妖精達、リコとアン王女の動きが止まった。だが、ブルーには効かなかったようで、

 

「ビート、決意は固いのかい?僕もあまり良い考えとは思えない・・・でも、確かに君の言う通り、カインという者が、プリキュアを手中にした事で、何か行動に出る事は間違い無いと思う」

 

「はい・・・みんなには悪いと思ったけど、シーレインの身が心配だし・・・」

 

「「本当に良いのですね?」」

 

「エエ・・・行きましょう、魔界に!」

 

「待って、ビート・・・これを持っていくと良い」

 

 ブルーはそう言うと、何かのペンダントのような水晶をビートに手渡した。ビートは、ブルーに言われるまま身に付けると、

 

「魔界から繋がるかどうかは、僕も試した事は無いから未知数だが、それを通じて、僕と連絡が取れるアイテムを手渡しておくよ」

 

「ありがとう、神様・・・ハミィ、ピーちゃん、ソリー、ラリー、行くわよ!」

 

「「では、魔界への扉を開きます・・・」」

 

 ビートの合図に頷き、ニクスとリリスは魔界へと繋がる穴を出現させた。最初にリリスが、次にニクスが、ビートはもう一度プリキュア達を見渡すと、ブルーに笑顔を向けて、

 

「行ってきます!」

 

「ビート、必ず無事で帰って来るんだよ?」

 

「ハイ!」

 

 ビートは、ブルーに手を振りながら穴に入ると、穴は徐々に消え失せた。それと同時に、時が動き出したかのように、プリキュア達が動き出すも、目の前に居た筈のビート、ハミィ、ピーちゃん、ニクスとリリスの姿が消えていた。メロディは大慌てで辺りを見渡し、

 

「ビート、何所!?ビートォォォォ!!」

 

 メロディの叫びにビートからの声は返らなかった。ピーチは慌ててパッションを見つめ、

 

「パッション、魔界に行けない?」

 

「無理よ、悪しき力が強すぎて、アカルンでも・・・」

 

『そんなぁ・・・』

 

 パッションに、悪しき力が覆う魔界には、アカルンでも近付く事は出来ないと言われ、一同は為す術無く途方に暮れた。

 

(ビート、必ず私達も行くから・・・無事で居てよ)

 

 メロディの思いは、他の一同も一緒だった。一同は沈痛な表情を浮かべながら、ビートの無事をただ祈るしか出来なかった・・・

 

 

             第百二十二話:マザーラパーパ

                   完




第百二十二話投稿致しました。
タイトルだけ見ると驚くかも知れませんが、前回の続きになってます。
今回は、ニクスとリリスと和解し、魔法つかいプリキュアの設定を加えてみました。

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