1、和解
まるでニクスとリリスを庇うように、バッドエンドプリキュアが放った、バッドエンドバーストの前に立ち塞がったキュアビート、ビートは咄嗟にラブギターロッドを取りだし、ロッドを弾いて正面にバリアを張り、バッドエンドバーストを防ごうとしていた。ニクスとリリスは、そんなビートを見て呆然として居た。
「リリス、あなたあのプリキュアを、チャームで魅了したの?」
「しないわよ、そんな力も残って無いし・・・彼女、どうして私達を庇うのかしら?」
ニクスとリリスには、ビートが自分達を庇う理由が思い浮かばなかった。ビートは、襲い掛かったバッドエンドバーストの威力を直に感じて、その威力に脅威を覚えた。
(これがバッドエンドバースト・・・私の想像以上の威力だわ!?)
ビートの張ったバリアに、呆気なく亀裂が走り、ビートの額から冷汗が流れた。バッドエンドバーストが、今正にビートをも飲み込もうとしたその時、
「あんた達、もういいでしょう?止めてぇぇぇ!!」
ブラックが絶叫し、その声に反応したバッドエンドプリキュア達は、咄嗟にバッドエンドバーストの方向を変え、バッドエンドバーストは徐々に縮小して消え去った。
「ハァハァハァハァ」
荒い呼吸を続けるビートを、バッドエンドプリキュア達は険しい表情で見つめた。バッドエンドビューティは、ビートを詰問するかのように、
「キュアビート、どういうつもり?理由があるなら話しなさい」
「話によっちゃ、あいつら事あんたも敵と見なすよ」
バッドエンドビューティの言葉に同意し、バッドエンドマーチもビートを詰問するも、バッドエンドピースは舌を出し、
「元々敵だけどねぇ」
「あんたは黙っとれ!」
「まあまあ」
二人を茶化すバッドエンドピースを、バッドエンドサニーが一喝し、バッドエンドハッピーが、そんなバッドエンドサニーを宥めた。ビートは荒い呼吸をしながら、
「ハァハァ、もう・・・彼女達に戦う力は残って無いわ。それに、私は彼女達に聞きたい事があるの」
「「「「「聞きたい事!?」」」」」
「どういう事?」
ビートはそう言いながら息を整えると、呆気に取られるバッドエンドプリキュア達とダークドリームを余所に、ゆっくり背後を振り返り、ニクスとリリスに近付いて行った。一同がビートの行動を見守る中、ビートはニクスとリリスの側に寄ると、二人に話し掛けた。
「ねぇ、今あなた達、シーレインの為にも負けられないって言ってたわよね?シーレインの身に、何かあったの?」
「あなたには関係無い事よ」
ニクスは、ビートの問い掛けを冷たくあしらったものの、ビートはそんなニクスを見ながら首を振り、
「ううん、関係あるわ。だって私達は・・・シーレインの友達だから」
「「エッ!?」」
ビートが発した、シーレインと友達だと言う言葉に、ニクスもリリスも驚きを隠せなかった。確かにシーレインは、プリキュアに敵意は無いとは語っていたが、友達になった事までは、ニクスとリリスは聞いては居なかった。カインに操られたアモンの事もあり、シーレインはあの後、直ぐ心を閉ざしてしまって居た。思わず顔を見合わせたニクスとリリスに、ビートは更に話し掛け、
「あなた達も、シーレインが一人でこっちの世界に来た事があるのは、知って居るわよねぇ?私達は、その時シーレインと友達になったの」
ニクスもリリスも、思わずビートの目を見つめた。澄んだ瞳をしていて、ビートが嘘を言っていない事は、二人にも直ぐに理解出来た。
「あなたのその目・・・嘘では無さそうね」
「でも、ダメよ・・・カイン様が見ているかも知れないのに、あなたには話せない」
ブルーは、ニクスとリリスの二人から、プリキュア達に対する敵意が、完全に抜けた事を悟り、自分達の居る周辺を、黄金の結界に包み込んだ。一同は、周辺を覆った黄金の結界を見渡していると、ブルーもニクスとリリスに話し掛け、
「これでそのカインという者は、今の君達を見る事も出来ないし、声を聞く事も出来ない」
「「あなたは一体!?」」
ニクスとリリスは、ブルーの話を聞くも半信半疑だった。カインの実力を知って居る二人に取って、目の前のブルーが、カインを抑える力を持つとは思えなかった。ブルーは、そんな二人に微笑みながら、
「僕は・・・地球の神ブルー」
「「地球の神!?」」
ブルーが自らを地球の神と名乗った事で、リリスは、ブルーにチャームが効かなかった理由がハッキリ分かった。リリスは納得したかのように小さく頷き、
「そう、それなら私のチャームが、あなたに効かなかった理由も分かるわ」
「まさか・・・地球の神自ら現われる何て!?」
ニクスも、目の前に居るブルーが神だと知り、動揺を隠せなかった。ブルーは、ニクスとリリスを澄んだ目で見つめると、思わず二人は魔界の王ルーシェスの顔をダブらせた。ブルーとルーシェスは似ている訳ではなかったが、顔を見ていると、安心感を与えてくれる存在という面では、共通しているように二人には思えた。
「僕も君達の話に興味がある・・・みんなに話してくれないかな?」
「「・・・・・・」」
ブルーにも、話を聞かせて欲しいと言われたニクスとリリスは、地球の神ならば、魔界に居るカインの力を、押さえ込む事も出来るかも知れないと思い、互いに顔を見合わせると、小さく頷きあった。
「ニクス、プリキュア達がシーレイン様の友ならば、私達が拒む理由は無いわね?」
「そうね。分かりました、お話しします・・・」
リリスは話を始める前に、プリキュア達を見つめると、
「その前に、エロチックアイであなた方を辱めた非礼を・・・詫びさせて貰うわ」
「私もそうね・・・特にあなたには酷い事をしてしまったわね」
リリスはプリキュア達に、ニクスはバッドエンドピースに深々と頭を下げ、
「「ゴメンなさい!」」
『もう良いわ・・・』
「でも、もう二度とあの技は私達にしないでよ?」
プリキュア達は、苦笑しながらもニクスとリリスを許し、ピーチは念を押すように、エロチックアイを、二度と自分達にしないようにリリスに話し掛けると、リリスはさっきの事を思い出したのか、少し笑いながら、
「ウフフ、みんな中々良い声で悶えて居たんだけどねぇ?」
「う、うるさいなぁ」
ブラックは、自分の恥ずかしい姿が目に浮かぶと、思わず変顔浮かべながらリリスを恨めしそうに睨んだ。リリスは思わず笑い、
「ウフフフ、残念だけどそうするわ」
「アハハハ、お願いよ?」
ピーチもそんなリリスを見て思わず苦笑した。バッドエンドピースは、少しゲスイ表情でニクスを見ると、
「お仕置きのスペシャルバッドエンドサンダーで許して・・・・イタッ!」
「ピース、また話をややこしくする気かぁ?」
「ハァ・・・全くあなたは・・・」
「だってぇぇぇ・・・」
バッドエンドマーチに頭を叩かれ、バッドエンドビューティに溜息を付かれ、バッドエンドピースが涙目になる。そんな様子を見たリコは、プリキュア達とニクス、リリスが和解したようで、ホッと安堵するのだった。
「今・・・エロチック何たらとか言ってたカゲ?」
ふいに上空から見知った声が聞こえてきて、一同は思わず黄金の結界の上空を見上げると、パタパタ羽を羽ばたかせながら、魔王がゆっくり降りて来た。プリキュア達やアン王女、妖精達は、見る見る微妙な表情を浮かべた。ブラックは変顔浮かべながら、現われた魔王を指差し、
「ゲッ、魔王!?どうしてここに?」
「お前達が俺を呼ぶ声が聞こえて・・・」
『呼んでない!』
『呼んでません!』
困惑した表情のプリキュア達が、一斉に呼んでないと否定するも、魔王は一同を見渡しながら、
「なぁなぁ、今会話に出てたエロチック何とかって・・・何の事カゲ?」
『さあ?』
魔王にエロチックアイの事を知られたく無い一同が惚けるも、事情を知らないリリスは、
「あなたも妖精なの!?エロチックアイは私の技で、受けた者の性的欲求を刺激し・・・」
『ワァァァァ!』
一同は、慌ててリリスの言葉を大声出して打ち消すも、魔王は、目をキラキラ輝かせながら、リリスに詰め寄り、思わずリリスが豊満な胸を強調するかのように仰け反った。
「な、何!?」
「今・・・何て言ったカゲェェェ?」
魔王は、詰め寄ったリリスのスタイルを見て、見る見るスケベ顔を浮かべた。ベリーは、そんな魔王を見て嫌そうな表情を浮かべ、手で魔王を追っ払うようなジェスチャーをしながら、
「何でも無いわよ・・・シッシ」
「そうよ、魔王には関係無いわ」
パッションもベリーに同意するも、魔王は二人を無視し、更にリリスに話し掛け、
「いや、今その乳娘が気になる事を言ってたカゲ」
『乳娘って何!?』
「ち、乳娘!?そんな風に言われたの、初めてだわ・・・」
プリキュア達とリリスは、魔王が乳娘とリリスの事を呼んだのを聞いて、思わず呆気に取られた。思わずニクスはそんなリリスを見て苦笑を浮かべるも、魔王の視線が、今度は自分の身体を嘗めるように感じられ、思わず背筋がゾッとした。リコは隣に居るアン王女に話し掛け、
「ねぇ、あの黒い妖精が、さっきアン王女が言ってた魔王なの?」
「はい・・・出来れば会わせたくはなかったのですが、あの子が魔王ですわ」
アン王女は、言いにくそうにしながら、魔王の事をリコに教えた。リコは改めて魔王の容姿を見ていると、魔王もリコに気付き、見つめ返した。魔王はリコを見ながらどんどんニヤニヤし、
(まだ若すぎるカゲなぁ・・・でも母親は、アコのママみたいな美人かも知れないし、中々将来有望そうカゲ)
「何かイメージと全然違ったわ・・・もっと怖そうな姿をしてるのかと思った」
魔王は、リコを見て少し若すぎるとガッカリしたものの、リコの母を思わずイメージすると、将来有望だと思い込み、一方のリコは、魔王と呼ばれているからには、もっと怪物のような姿を想像していた。
「リコ、魔王の容姿に欺まされちゃダメよ。中身はスケベなおじさんみたいなもんだから」
「ス、スケベなおじさん!?」
ローズに忠告されたリコは、思わず目を点にしながら魔王を見つめ、ニヤニヤ笑みを浮かべる魔王を見てゾッとした。サニーはウンウン頷きながら、
「ホンマ、エロ魔王やからなぁ・・・」
「まあ怒った時は、確かに魔王の雰囲気は持って居るんですけどね」
「魔王が絵本の世界で暴走した時は、私達みんなで戦っても苦戦したよね」
「あの時は大変でしたね。ハッピー、死んじゃったんじゃないかと思ったし・・・」
レモネードが、絵本の世界の事を思い出し、暴走した魔王の事を話すと、ピースとエコーも同意して、苦戦した事を思い出していた。十人の闇のプリキュア達は、皆驚いた表情で魔王を見つめながら、
『エッ!?あなた達総掛かりで苦戦したの!?』
「エロい目に遭わされたからやないの?」
プリキュア達の実力を知って居る闇のプリキュア達は、俄には信じられず、バッドエンドサニーは、エッチな被害を受けたからではと語るも、ブロッサムは首を振り、
「今では信じられないかも知れませんが、その頃の魔王は、エッチじゃ無かったんですよ」
『嘘!?』
「ちょっと信じられないんですけど・・・」
ブロッサムの話は、闇のプリキュア達だけでなく、ソードとアン王女も信じられないといった表情を浮かべ、ソードは、魔王を胡散臭そうな目で見つめながら、思わず本音を呟いた。サンシャインは苦笑しながらハッピーを見つめ、
「絵本の世界で、魔王がお世話になった女の子を、みゆきが悲しませたと勘違いしてね」
「ううん、結果的には、ニコちゃんを悲しませたのは事実だったし・・・でも、魔王に分かって貰えて良かった」
ハッピーはそう言いながら、魔王に微笑んだ。魔王も笑みを返しながらプリキュア達を見つめ、
「お前達の愛を受けて、俺は生まれ変わったカゲ!」
「こんな変態に生まれ変わるとは、誰も思って無いわよ」
ブラックは、悦な表情を浮かべる魔王を見て、変顔浮かべながら指差し、一同から苦笑が漏れた。魔王はハッと我に返ると、リリスに話し掛け、
「なぁなぁ、俺にもそのエロチックアイっていう技を、是非見せて欲しいカゲ」
「見せて上げても良いけど・・・」
『ダメよ!』
慌ててリリスを止めるプリキュア達を見た魔王は、きっとその名の通りエッチな技だろうと想像すると、ニヤニヤしながらプリキュア達を見つめた。魔王の視線がピーチとメロディを捕らえると、
「じゃあ、こいつらで試すカゲ」
魔王がピーチとメロディを指さすと、二人は見る見る表情を強張らせながら、魔王目掛け勢いよく駈けだし、
「「帰れぇぇぇ!!」」
「カゲェェェェェェ!?」
怒ったピーチとメロディが、息を合わせたように上空高く魔王を蹴り飛ばし、魔王は悲鳴を上げながら、星となって消え去った。ピーチとメロディは、頬を膨らませながら、
「全く、私達を何だと思ってるのよ」
「本当・・・もうあの技は懲り懲りだって言うのに」
「全く、懲りないねぇ・・・」
「ピィィ・・・」
ルージュが呆れたように呟き、ピーちゃんは、そんな魔王を見て呆れたように溜息を付いた。リコ、ニクスとリリスは、目を点にしながら上空を見上げると、
「行っちゃった!?」
「「何だったのかしら?」」
『気にしないで!』
一同は、魔王の事は忘れて良いからと、三人に話した。ニクスとリリスは、気を取り直して、プリキュア達とブルー、リコやアン王女に、リコを利用して人間界に来た理由を語り出した・・・
「人間界から戻ったシーレイン様は、あなた達プリキュアには、魔界と戦う意思は無いと、ハッキリ私達に伝えたわ」
「でも、カイン様とアベル様は、ルーシェス様の名を出し聞き入れなかったの」
「お二人は、シーレイン様がルーシェス様の命に背いたとして、処刑するかどうか私達に決を採ったわ・・・でも、私やリリス、ベレル様達反対票が上回り、シーレイン様は、ルーシェス様が住む、黒き塔の最下層に幽閉されたの」
「シーレインが・・・」
ニクスとリリスの言葉は、そこで一旦言葉が途切れ、ビートも沈痛な表情を浮かべた・・・
ニクスとリリスの脳裏に、アモンに裏切られ心を閉ざしたシーレインの痛ましい姿が、思わず目に浮かんだからだった。少しの間を置き、再び二人は話し始め、
「それから暫くして、私とリリスは、カイン様に呼び出されたわ。そこでカイン様の口から、ルーシェス様の命令で、シーレイン様の処刑が決った事を告げられたの」
『エッ!?』
思わずプリキュア達は驚いた。今二人は反対票が上回って、シーレインは幽閉されたと言っていたのだから・・・
「私達も驚いたわ・・・処刑は多数決で否決されたのに、カイン様から、急にルーシェス様の命令で、処刑が決ったと告げられたのだから」
「そこで私とリリスは、シーレイン様の処刑だけは、何とか免除して欲しいとカイン様に訴えたの」
「カイン様は、シーレイン様を処刑しない代りに・・・あなた達プリキュアを倒し、何人かを魔界に連れ帰る事を、私達に条件として出されたわ」
「でも私とリリスは、プリキュアが何所に居るか何て分からなかった・・・そこでカイン様は、嘗て魔法界にもプリキュアが居た事を突き止め、魔法界の人間を利用すれば、プリキュアと出会えるかも知れないと私達に告げたの」
「そこで私達は魔法界に向かい、リコ・・・あなたと出会い、利用させて貰った。今では申し訳無いと思っているわ」
「「ゴメンね・・・リコ」」
「ううん、謝ってくれたら、もういいの」
リコはそう二人に告げると、ニッコリ二人に微笑んだ。一時はどうなるかと思ったものの、ニクスとリリスは、プリキュア達と和解した事で、リコの心は晴れやかだった。
「ありがとう・・・リコ。でも結果的には、カイン様の言う通り、リコはプリキュア達と出会った・・・それが何を意味するのかは、私にもリリスにも分からないけど・・・」
「そうね」
そう言うと、ニクスとリリスは、リコの顔を見ながら、リコとプリキュアが出会った事は偶然だったのか、何かの意味があったのか思案すると、突然ブルーが話し出した。
「それはおそらく・・・マザーラパーパの導きかも知れないね」
『マザーラパーパ!?』
その場に居た一同は、初めて聞く名前に全員首を傾げた。ブルーは一同の顔を見渡し、
「ここに居るみんなは、知らなくても当然かも知れないね・・・君達二人の話の腰を折るようだけど、折角の機会だし、ここに居るみんなにマザーラパーパの事を話そう。ここにプリキュア、魔法界と魔界の関係者、そして妖精達が居るのも、何か大いなる意味があるように、僕には思えてならない」
「妖精さんは、一人帰っちゃいましたけど・・・」
「あれは忘れて良いから」
リコが空を指差しながら、魔王が強制的にこの場から帰った事をブルーに告げると、ブラックは背後からリコの右肩に手を置き、首を左右に振りながら、魔王の事は忘れて良いからと告げた。ブルーは更に一同に語り掛け、
「これから話す事は、プリキュアのみんなの中でも、特にムーンライト達や、ブルーム達には、関係ある話何だ」
『エッ!?』
「どういう事でしょう?」
ブルーム達とブロッサム達が驚きの声を発し、ムーンライトにも全く想像出来ず、思わずブルーに問うも、ブルーは口元に笑みを浮かべながら、マザーラパーパについての昔話を始めた・・・
2、ブルーの昔話
ブルーは黄金の結界の中で、光と闇のプリキュア達、妖精達、リコとアン王女、そしてニクスとリリスをゆっくり見渡し、
「君達の中で、何人かには、一万年前の話をした事があると思うけど、今から話す事は、更に昔の話何だ・・・」
ブルーが話し始めた昔話・・・
地球という星が誕生し、やがて生命が産まれた・・・
生命は進化を遂げ、やがて知能を得た・・・
だが、知能を得た事で、生命は争いを始めた・・・
まるで、闇の記憶を引き継いだかのように・・・
「まだ僕は若く未熟だった。僕は、争い続ける者達に嫌気がさしてしまった。そこで僕は、そんな荒れた心に憩いを与えようと、一粒の愛の種をこの星に植えた。そして僕は、直接この星に干渉する事を止め、この星に生きる者達を陰ながら見守る事にしたんだ。やがて僕が植えた愛の種は芽を出し、まるでこの星の生命を見守ろうとするかのように、成層圏をも越える大樹となったんだ」
「せ、成層圏を越える大樹!?」
「木ってそんなに大きくなるものなのかしら?」
ブルームとベリーが思わず驚きながら言葉を発し、ブルーは小さく頷くと話を続け、
「そんな大樹に、沢山の花が咲き、地上に沢山の花の種を運んだ。やがてそれらが芽を出し、花を咲かせ、地上に花が覆いしげる光景は、花の海のようだった。この星に住む者は心を惹かれ、大樹の側で暮らし始めた。まるで花の海のようなその場所にね」
「花の海ですか?一度見て見たいですぅ」
ブロッサムは、瞼にそんな場面を浮かべ、目をキラキラ輝かせた。ブルーは目を閉じ、花の海に覆われた地球を思い浮かべた。
「僕は、大樹にも生命が宿った事を知った。それが後に、あまねく生命の母と呼ばれる事になるマザーラパーパ」
『マザーラパーパ・・・』
一同は、思わずオウム返しのように、先程聞いたマザーラパーパの名を呟いていた。光と闇のプリキュア達も、リコやアン王女も、妖精達も、そして、ニクスとリリスさへも思わず呟いていた。
「そう・・・地球の民にとっては、彼女の方こそ神と呼ぶのに相応しいかも知れない」
ブルーはそう言うと、静かに目を閉じて、当時の光景を瞼に思い描いていた。マザーラパーパの容姿は、白緑色をした長い髪をしていて、赤いバラと緑色の葉っぱを飾った、神々しい白のワンピースを着て居た。両肩にはピンクのバラのような花が、頭部の両側には、白い花の髪飾りを付けていた。その巨大な姿は、正に大樹に咲く花の化身のようだった。
「マザーラパーパ・・・地球の神も認める女神のような存在」
「どんな人だったんだろうねぇ?」
ウィンディがポツリと呟き、パインもブルーが認めるマザーラパーパの存在が気になっていた。
「彼女は、この星に住む者達に取って、正に母のような存在だった。地球の民達は、彼女の事をこうも呼んで居た・・・母なる樹とね」
『母なる樹・・・』
マザーラパーパの魂が宿る巨大な大樹、その周辺を花の海が覆い尽くし、そこには、人も、動物も、昆虫も、妖精も、精霊も、幻獣も、魔族さへも、マザーラパーパに導かれるように、平和に暮らしていた。そんな地球に住む民達を、マザーラパーパは慈愛を込めて見守って居た・・・
「だが・・・そんな平和を脅かす存在が、この星に迫っていたんだ」
ブルーはそう言うと、どんどん表情を強張らせた。ドリームも瞬時に表情を険しくしながら、
「平和を脅かす存在!?」
「大いなる闇の事ですか?」
ルミナスの脳裏には、嘗てブルーに聞いた、大いなる闇の事が直ぐに頭に過ぎった。ルミナスが確認するようにブルーに問うと、ブルーはゆっくり首を振った。
「いや、大いなる闇が現われる遙か昔の事、その者の名は・・・デウスマスト!」
『デウスマスト!?』
一同は、驚いたようにブルーの言葉をオウム返ししていた。ブルーは小さく頷き、
「そう・・・ある星はデウスマストに飲み込まれ、ある星は軌道を変えられた。この地球と兄弟星であった惑星レッドもその一つ・・・」
「惑星レッド!?」
「地球と兄弟星ってどういう事!?」
ホワイトは、初めて聞く星の名に首を傾げ、ブライトは興味深げにブルーに聞いた。ブルーは、一瞬悲しげな表情を浮かべ、
「地球は・・・惑星レッドと共に生まれた二重惑星だったんだ」
『エェェェ!?』
「地球は昔、二重惑星だった!?・・・凄いわぁ」
地球が、惑星レッドと共に生まれた二重惑星だったと聞き、一同は驚きを隠せなかった。学校の授業では決して教わらない、地球誕生に関係した話を、今ブルーはさらっと一同に伝えたのを聞いた中、ミントは小説のヒントを得たのか、どこか嬉しそうにも見えた。
「惑星レッドは・・・僕の兄レッドが神として見守って居た。デウスマストの影響で、惑星レッドの軌道が狂わされ、暴走した惑星レッドは、地球から離れて行った。僕は、兄に協力する為惑星レッドに行き、兄と共に軌道を安定させている時、地球はデウスマストに飲み込まれようとしていたんだ」
ブルーは、当時の事を思い出したのか、悔しそうに拳を握り締めた。一同は、そんなブルーをただ黙って見つめ、ブルーが再び話し始めるのを待った。ブルーは、気を落ち着かせると再び話し始め、
「そんなデウスマストを止めるべく、マザーラパーパは、地球に住むあらゆる命を守る為、デウスマストに立ち向かった。だが、デウスマストの力は強く、兄と共に、惑星レッドの軌道を安定させた僕は、兄に別れを告げて急ぎ地球に戻ると、マザーラパーパは無残な姿になって居たんだ。巨大な大樹には、無数の傷が付き、今にも何カ所か折れそうな程だった。それでもマザーラパーパは、デウスマストに向かって行った・・・」
ブルーの脳裏に、圧倒的力でマザーラパーパ事地球を飲み込もうとする、デウスマストの不気味な姿が思い出されていた。巨大なブラックホールの中から、人型のような上半身だけを出すも、顔らしき物から血管のような管が、両腕まで伸びた容姿は、生命を感じさせなかった。その頭部の左右には、まるで目のような四つの球体が浮かんで居た。
「デウスマストはおぞましき姿をしていた・・・デウスマストが意思を持って居たのかも、僕には未だに分からない。ただ、全てを無に返す為にだけ存在している。そう、全てを無にするまで動き続ける終わりなき混沌・・・そんな感じにすら僕には見えたんだ。マザーラパーパが、最後の力を振り絞ろうとしているのを感じた僕は、彼女が愛した民達を守るだけで精一杯だった。デウスマストの影響で、地球に吹き荒れる暴風に耐えていたマザーラパーパの大樹が、根元から倒れようとした時、僕はこの目で見た!まるで両脇から彼女を支えるように、光と闇の巨大な人のようなシルエットが姿を現わしたんだ」
ブルーはそう言うと、ブラックとホワイトをチラリと見た。当時の光景と今二人を見た光景が、ブルーには重なって見えた。
(そう・・・ブラック、ホワイト、今の君達の姿に似て居たような気がする)
「僕は、それが闇の神ブラックと、光の神ホワイトだったのではないかと、今でも思っているんだ」
「エッ!?闇の神ブラック?」
「光の神ホワイト!?」
ブラックとホワイトは思わず呟いた。二人の脳裏に、時の狭間での出来事がうっすら甦って来る。
((まさか、あの時見たのは!?))
動揺するブラックとホワイトを余所に、ブルーは話を続け、
「そう、僕も直接には会った事は無いけど、あれは光と闇の神だったと思う。光と闇の神の力を借りたマザーラパーパは、ブラック達のルミナリオに似た虹色の光を、デウスマストに浴びせて吹き飛ばし、太陽に封印したんだ。太陽にある黒点・・・あれこそが封印されたデウスマスト!」
「た、太陽の黒点が!?」
「う、嘘!?」
「驚きました・・・」
学校の授業で習った事が、ブルーによって事実とは違う事を教えられ、アクアとリズム、そしてビューティが困惑の表情を浮かべた。ハッピーは、困惑顔でドリームに話し掛け、
「太陽の黒点って何でしたっけ?」
「う~~~ん・・・・」
腕組みしたドリームが首を傾げながら唸ると、ミューズは呆れたように、
「太陽の中にある黒い点の事でしょう」
「「オォォォ!」」
思わずミューズに拍手するドリームとハッピーだったが、ホワイトも会話に加わり、
「付け加えるのなら、太陽黒点とは、太陽の表面に存在する黒い斑点として観測される部分の事よ。太陽の表面の温度は、およそ 5400 ℃ 何だけど、黒点はそれより 1000 ℃ から 1500 ℃ くらい低いの、それが黒く見える理由と言われて居るわ。ちなみに・・・」
ホワイトのうんちく講座が始まり、見る見るドリームとハッピーの目が点になっていった。更には二人の背後で、ブラック、ピーチ、メロディ、サニー、ピース、マーチ、バッドエンドハッピー、バッドエンドサニー、バッドエンドピース、バッドエンドマーチも加わり、ムーンライトは、口から魂が抜け出そうな表情をした、12人を見て溜息を付き、
「ハァ・・・あなた達、もうちょっと勉強なさい」
「「・・・・・・トホホ」」
ムーンライトに忠告され、ドリームとハッピーはトホホ顔を浮かべ、ブラック達も困惑の表情を浮かべた。アン王女はブルーを見つめると、
「では、光と闇の神の力を借りて、デウスマストを封印したマザーラパーパが勝ったのですね?」
「そうだよね、神様は今封印したって言ってたし・・・」
アン王女に同意したメロディだったが、ブルーは悲しげな表情で首を振り、
「いや・・・マザーラパーパは、確かにデウスマストを封印する事は出来た・・・でもマザーラパーパは力尽き、母なる樹は、無残にも根元から抉り取られたかのように吹き飛び、その衝撃で、幾つにも大樹はへし折られた。地球の民達は、悲しみの声を上げながら、その衝撃で吹き飛ばされた。最悪な事に、その衝撃波で時空に亀裂が生じ、大樹の残骸の一部と共に、人や動物、昆虫の一部、妖精、精霊、幻獣、魔族達は、時空の穴へと飲み込まれてしまった。その時の絶望の声を、僕は今でもハッキリと覚えて居る」
ブルーの話を聞いていた一同は、思わず黙り込んだ。今ブルーから聞いた話は、一同に取ってはショックな事でもあった。
「時空の穴に飲み込まれた一同がどうなったか、僕には分からない。でも僕は、地球に残った民を、マザーラパーパの意思を継ぎ、僕がこの星に住む者達を守ろうと誓ったのはこの時だった・・・だが、マザーラパーパは完全に消えた訳じゃなかったんだ」
ブルーはそう言うと、ブルーム達を見つめた。
「ブルーム、イーグレット、ブライト、ウィンディ、君達は世界樹と大空の樹を知って居るね?」
「う、うん・・・」
「世界樹と大空の樹がどうかしたんですか?」
ブルーに話を振られ、ブルームとイーグレットは困惑気味にブルーに問い、ブライトとウィンディは、ブルーからの返答を待った。ブルーは小さく頷き、
「その二つの樹は、マザーラパーパの意思が宿りし大樹」
「「「「エェェ!?」」」」
「泉の郷にある世界樹が、マザーラパーパの意思を宿してるラピ!?」
「もしかして・・・泉の郷に住むチョッピ達の先人達は、緑の郷から来たチョピ?」
ブルーム達だけじゃなく、話を聞いていたフラッピとチョッピも驚きの声を上げていた。ブルーは小さく頷き、
「そう・・・そして、ムーンライト、ブロッサム、マリン、サンシャイン、君達をプリキュアにしてくれたこころの大樹も・・・マザーラパーパの意思が宿りし大樹何だ」
「「「エッ!?」」」
「何ですとぉぉ!?」
ムーンライト、ブロッサム、サンシャインが驚き、マリンは変顔浮かべながら思わず仰け反った。ムーンライトは、何かを思い出したかのようにブルーに話し掛け、
「神様、ひょっとしてこころの大樹が、砂漠の使徒からの脅威に対抗する為に、私達を始めとしたプリキュアを誕生させたのは、デウスマストの記憶があったからなのでは?」
「おそらくそうだと思う・・・ブルーム達精霊の力を借りたプリキュアも、デウスマストのような脅威から守る為、産み出されたと僕は思う」
ブルームは腕組みしながら考え、イーグレットを見つめると、
「そう言えばあたし達は、フラッピやチョッピ達の故郷、泉の郷の聖なる泉を汚す者達と戦う為に、プリキュアになったんだもんね」
「そうね」
「私とブライトの場合は、ちょっと意味合いが違うけど」
「でもあの時、ブルームとイーグレットを救う為に、ムープとフープの力を借りて、私達はプリキュアになったから、意味合いは同じじゃないかしら?」
「私達も、地球を砂漠化しようと企む、砂漠の使徒と戦う為にプリキュアになった」
「「「ハイ」」」
ブルーム達も、ムーンライト達も、ブルーの話に納得出来るようだった。更にブルーは、リコ、ニクスとリリスを見つめ、
「君達の住む世界にも、マザーラパーパの加護はあるんだよ?」
「「「エッ!?」」」
「僕もこれから話す事は、キュアマジシャンやメランに聞くまで知らなかった事だけど、魔法界には、杖の樹と呼ばれる大樹があるそうだね?」
「ハイ!私が通う妖精学校は、杖の樹の上にあります」
ブルーに聞かれたリコは、頷きながら杖の樹が魔法界にある事を認めた。ブルーは頷き、ニクスとリリスに視線を向けると、
「そして、君達が住む魔界にも、傷ついた者達を癒す泉があるそうだね?」
「良くご存じね?確かに魔界には、傷ついた者を癒す泉はあるわよ」
地球の神が、魔界について詳しい事に少し驚きながらも、リリスはブルーの問い掛けを認めた。更にブルーは話を続け、
「その泉の中心に、大樹があるそうだね?」
「エエ、戦いに明け暮れる魔界の者達にとって、その場所は・・・まさか!?癒しの大樹が、あなたが言うマザーラパーパの?」
ニクスは、魔界にある癒しの大樹が、さっき話に聞いたマザーラパーパの加護からきているのか、身を乗り出すようにブルーに確認すると、ブルーは小さく頷いた。
「キュアマジシャンが、嘗て竜王バハムートから聞いた話と言っていたから、おそらく間違い無いだろうね・・・そして、魔法界と魔界は、元々一つだったと聞く。いや、魔法界の何処かにあると言われる妖精の里も入れれば、嘗て時空の穴に飲み込まれた者達を心配したマザーラパーパは、大樹の破片を通して、君達を見守る存在として側に居たという事だろうね・・・」
ブルーの話を聞いた一同は、マザーラパーパの慈愛の心を感じるのだった・・・
3、ビートの決意
ブルーから聞いたマザーラパーパの伝説を聞き、一同が感触深げな表情を浮かべていると、ルミナスは、表情を曇らせながらブルーに質問を始めた。
「神様、一つ聞いてもよろしいでしょうか?」
「何だい!?」
「デウスマストは、マザーラパーパによって太陽に封印されたと聞きましたが、デウスマストは・・・まだ生きているという事でしょうか?」
ルミナスの問いに、一同は思わずハッとした。封印されたデウスマストが、まだ健在ならば、封印が解けて大いなる闇のように、再び星々を破壊するのではないかという疑念が沸き上がってきた。ブルーは沈痛な表情を浮かべながら、
「これは僕の推測だけど、デウスマストは・・・生きている!太陽の中で、封印を解こうと今でも藻掻き続けて居る・・・そんな気がする」
ブルーの推測を聞いたアクアは、表情を険しくし、
「それが本当だとしたら・・・もしも封印が解けたら大変な事になるわね?」
「大いなる闇という者も気になるけど、そんな封印されて居た者が再び現われたらと考えると、恐ろしいわね?」
「あたし達、しばらくこっちに居た方が良いんじゃない?」
「ですね・・・何か遭ってからじゃ遅いし」
「用心に越した事は無いわね」
ダークアクア、ダークルージュ、ダークレモネード、ダークミントも、デウスマストを警戒し、もう少し地球に残る事を提案すると、ダークドリームは大きく頷き、
「その方が良いわね・・・」
「みんなが居てくれたら心強いよ」
「エエ、私達も肝に銘じておきましょう」
ドリームとホワイトもダークプリキュア達に同意し、小さく頷きながら、一同にデウスマストを警戒するように促した。ブルーもホワイトに小さく頷き返すも、直ぐにニクスとリリスに話し掛け、
「君達の話の腰を折ってすまなかったね」
「いえ、私とリリスも、貴重な話を聞かせて頂きました」
「そうね、魔界の誕生にマザーラパーパが影響している何て・・・」
「もっとも、元々時空の狭間には、悪しき心を持った意思が漂っていたとも聞くけどね」
ブルーはそう言うと、ニクスとリリスに先程の話しの続きを、一同に聞かせてくれるように頼み沈黙した・・・
「話の続きと言っても、後はさっきあなた達と出会った通り・・・」
「私とリリスも、もうあなた達と戦う気は無いし・・・魔界に戻ってベレル様に相談してみます」
リリスとニクスは、和解したプリキュア達を魔界に連れ帰る訳にも行かず、魔界に戻って、今後の対策をベレルに相談しようと考えた。だが、カインがシーレインの処刑を待ってくれるとは思えず、困惑の表情をしている事に、ビートは気付いて居た。
「待って!ニクス、リリス・・・私を捕らえた事にして、私を一緒に魔界に連れて行って」
「「エッ!?」」
『ビート、何を!?』
ビートの突然の提案を受け、その場に居た一同の視線がビートへと注がれた。
「私を連れ帰れば、あなた達はカインって奴の命令を実行した事になるし、シーレインの処刑は行えない」
「そ、それはそうかも知れないけど・・・」
「あなたを魔界に連れて行けば、あなたがどんな目に遭うか・・・私とリリスにも分からないのよ?」
ビートの突然の提案に、ニクスもリリスも困惑した。本心から言っているのか探るように話を振るも、ビートは真剣な表情で二人を見つめ、
「そうだとしても・・・シーレインをこのままに何て出来ない!」
ビートはそう断言した・・・
一瞬の沈黙の後、慌ててメロディ達が会話に加わり、
「待ってビート、それなら私達も・・・」
「そうよ、私達は四人でスイートプリキュアなのよ?」
「ビートが行くなら、私達も行くわ」
「みんなで行きましょう」
メロディが、リズムが、ミューズが、更にはパッションがみんなで行こうと提案するも、ビートは首を振り、
「ダメよ・・・魔界に行っている間に、こっちに何かあったらどうするの?それに、みんなで行けば、カインって奴に警戒されるのは間違い無いわ。私一人だけなら、向こうも油断する筈だし、何かの行動を起こす気もする」
『だからって、あなた一人だけ・・・』
ビート一人だけ行かせる訳には行かない・・・
プリキュア達の思いは一つであったが、ビートの意思は硬かった。ニクスとリリスは、その場で片膝付いて座り、ビートに頭を下げると、
「最初から・・・あなた方プリキュアを信頼し、協力を仰ぐべきでした」
「ベレル様には聞いていたのに・・・改めて非礼をお詫びします」
「マーメイドのニクス!」
「サキュバスのリリス!」
「「この命に代えて、あなたの命を守る事を、此処に誓います!!」」
ビートの言葉は、ニクスとリリスの心を打った。自ら魔界に向かえば、どんな危険がビートに待ち受けているか分からなかったが、ビートはシーレインを助ける為に、自ら志願した。ニクスとリリスは、そんなビートを尊敬に値する人物と思い、自分達の命に代えても、ビートを守ろうとこの時決意した。更にはハミィがビートに飛びつき、ピーちゃんがビートの右肩に止まった。
「ハミィ!?ピーちゃん!?」
「セイレーンが行くなら、ハミィも一緒ニャ!ピーちゃんも、一緒に行くって言ってくれてるニャ。だからみんな、安心して欲しいニャ」
「ピィィィ!」
ピーちゃんは、パインを見ながら何か一声掛けると、パインはキルンを使って通訳し、
「何かあれば、連絡入れるって言ってるわ」
「ピーちゃんが一緒なら・・・だけど、やっぱり行かせられないよ」
メロディがそう言った時、ピーちゃんの目が妖しく輝いた。その時、まるで時間が止まったかのように、プリキュア達、妖精達、リコとアン王女の動きが止まった。だが、ブルーには効かなかったようで、
「ビート、決意は固いのかい?僕もあまり良い考えとは思えない・・・でも、確かに君の言う通り、カインという者が、プリキュアを手中にした事で、何か行動に出る事は間違い無いと思う」
「はい・・・みんなには悪いと思ったけど、シーレインの身が心配だし・・・」
「「本当に良いのですね?」」
「エエ・・・行きましょう、魔界に!」
「待って、ビート・・・これを持っていくと良い」
ブルーはそう言うと、何かのペンダントのような水晶をビートに手渡した。ビートは、ブルーに言われるまま身に付けると、
「魔界から繋がるかどうかは、僕も試した事は無いから未知数だが、それを通じて、僕と連絡が取れるアイテムを手渡しておくよ」
「ありがとう、神様・・・ハミィ、ピーちゃん、ソリー、ラリー、行くわよ!」
「「では、魔界への扉を開きます・・・」」
ビートの合図に頷き、ニクスとリリスは魔界へと繋がる穴を出現させた。最初にリリスが、次にニクスが、ビートはもう一度プリキュア達を見渡すと、ブルーに笑顔を向けて、
「行ってきます!」
「ビート、必ず無事で帰って来るんだよ?」
「ハイ!」
ビートは、ブルーに手を振りながら穴に入ると、穴は徐々に消え失せた。それと同時に、時が動き出したかのように、プリキュア達が動き出すも、目の前に居た筈のビート、ハミィ、ピーちゃん、ニクスとリリスの姿が消えていた。メロディは大慌てで辺りを見渡し、
「ビート、何所!?ビートォォォォ!!」
メロディの叫びにビートからの声は返らなかった。ピーチは慌ててパッションを見つめ、
「パッション、魔界に行けない?」
「無理よ、悪しき力が強すぎて、アカルンでも・・・」
『そんなぁ・・・』
パッションに、悪しき力が覆う魔界には、アカルンでも近付く事は出来ないと言われ、一同は為す術無く途方に暮れた。
(ビート、必ず私達も行くから・・・無事で居てよ)
メロディの思いは、他の一同も一緒だった。一同は沈痛な表情を浮かべながら、ビートの無事をただ祈るしか出来なかった・・・
第百二十二話:マザーラパーパ
完
第百二十二話投稿致しました。
タイトルだけ見ると驚くかも知れませんが、前回の続きになってます。
今回は、ニクスとリリスと和解し、魔法つかいプリキュアの設定を加えてみました。