プリキュアオールスターズif   作:鳳凰009

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第百十八話:落ちてきた魔法つかい

1、キュアップ・ラパパ!

 

 魔法界・・・

 

 嘗て、魔界と繋がって居たこの世界は、多くの魔法つかい達が、様々な種族達と共存しながら暮らして居た。魔法界は、広い海に無数の島があり、魔法界の中心には、魔法樹と呼ばれる巨大な木がそびえ立って居た。この巨大な木の上には、子供達に魔法の指導をする魔法学校と呼ばれる学校があった。生徒達は、魔法学校に入学すると、親元を離れ寮生活を送り、皆それぞれの夢へ向かって魔法を学んで居た。

 

 その中の一人、紫色のロングヘアーで、マゼンタの瞳をし、胸に何所か高価そうなペンダントをした一人の少女が、魔法界の住人達が多く集う、魔法商店街と呼ばれ、魔法関係の商品を取り扱う商店街にやって来た。少女は魔法学校の生徒で、マゼンタ色のとんがり帽子、リボン、ケープ、ジャンパースカート、ローファーを着ており、それに白のブラウスと黒のハイソックスを穿いて居た。少女が魔法のほうきを扱うお店に入ると、

 

「グスタフさん、ほうきを下さいな」

 

「いらっしゃい!ウチは、学生用からレース用まで取り揃えてるよ・・・って、何だリコちゃんかぁ?今日はお姉ちゃんと一緒じゃないのかい?」

 

 ほうき屋を営んでいるのは、リコと呼ばれた少女に、グスタフさんと呼ばれた大柄で金髪の男だった。何所か職人気質があったが、優しくて気が利くおじさんで、リコは、リコの姉リズの付き添いで何度か訪れて居た。

 

「ウン、今日は私一人よ、そろそろほうきを欲しいなぁと思って・・・」

 

「エッ!?リコちゃんは、まだ魔法学校の初等科だろう?初等科は、学科で魔法の知識だけを勉強するから、まだリコちゃんにほうきは早いだろう?」

 

 グスタフが苦笑混じりにリコを宥めると、リコは少し不服そうな表情で、

 

「私だって、来年はもう中等部だし、早めにほうきを持って居ても構わないでしょう?」

 

「まあそりゃそうだが・・・ウ~ン・・・・・リコちゃんには、初心者用のほうきかなぁ?」

 

「エェェ!?せめて学生用が良いなぁ」

 

「まだ早い!慣れてからでも遅くはないさ」

 

 グスタフはそう言うと、リコに笑いながら、初心者用のほうきを気前よくプレゼントしてくれた。リコは嬉しそうにほうきを受け取り、

 

「グスタフさん、ありがとう」

 

「どう致しまして、でも、くれぐれも魔法を覚えない内に、ほうきに乗るんじゃないよ?」

 

「ハ~イ!」

 

 リコは、まるでスキップするかのようにほうき屋を出た。リコは、そのまま魔法商店街を散策していると、

 

「アラァ!?リコちゃんじゃなぁい!今日はお一人?」

 

「フランソワさん!ウン、今日は私一人よ」

 

 リコがフランソワさんと呼んだのは、魔法商店街で洋品店を営み、薄い青紫色の髪で、顔には化粧を付けた、オネエ言葉を使う何所かオカマ風の男性だった。だが腕は確かで、魔法商店街で一番腕が良い服屋と言われる程だった。リコは、姉リズ、更には母リリアにも連れられて、何度も店に通う内に、フランソワに気に入られて居た。

 

「また新しいお洋服が欲しくなったら、何時でもいらっしゃい!この前ナシマホウ界で、新しい生地を仕入れたわよぉ」

 

「エッ!?フランソワさん、ナシマホウ界に行って来たの?良いなぁ・・・」

 

「ウフフフ、気になる?リコちゃんも機会があったら、一度はナシマホウ界に行ってみると良いわよぉ」

 

 フランソワは、リコにウインクし、リコが思わず苦笑する。リコも、フランソワに言われる迄もなく、ナシマホウ界に興味を持って居た。リズと魔法商店街に行った時、ナシマホウ界の旅行ガイドブックに目が行き、リズに買って貰って以来、本を読んではどんな場所なのか想像して居た。リコは、時々寄宿舎を抜け出して、魔法界とナシマホウ界を結ぶ、カタツムリニアと呼ばれる、カタツムリのような機関車も見に行っていた。寄宿舎で生活する学生達が、ナシマホウ界に行く為には、魔法学校の校長先生の許可が必要だった。

 

(良いなぁ・・・何時か私も)

 

 フランソワと別れたリコは、そろそろ魔法学校に戻ろうと、魔法絨毯タクシーで魔法学校へと戻って行った。魔法学校に戻ったリコは、高等部の寄宿舎に来ると、姉であるリズを捜した。キョロキョロ辺りを見渡すと、リコを見知った女生徒が、リズを呼んで来てくれた。

 

「リコ、どうしたの?」

 

 そうリコに声を掛けたリズは、青色のロングヘアーとリコと同じマゼンタの瞳をした美少女で、魔法学校高等部の中でも優秀で、リズは、魔法学校の教師になる事を目指して居た。リコは、リズを見て少しモジモジすると、

 

「お姉ちゃん!あのね・・・ちょっとお願いがあるのぉ」

 

「お願い!?何かしら?」

 

「私に・・・魔法を教えて欲しいの」

 

 リコに魔法を教えて欲しいと頼まれたリズは、思わず驚いた。まだ初等科のリコが、いきなり実技をこなせるとは思えず、

 

「エッ!?リコにはまだ早いわ・・・中等部になったら、嫌でも教わる事になるんだし、それまで我慢しなさい!」

 

「嫌よ!今日、折角魔法のほうきをグスタフさんに貰って来たのに・・・」

 

「エッ!?リコったら、一人で魔法商店街に行ったの?」

 

「エへへへ」

 

 リコが可愛らしい笑みを浮かべながら、ペロッと舌を出すと、リズは思わず溜息を付き、

 

「ハァ・・・困った子ねぇ」

 

「お願い、お姉ちゃん・・・お姉ちゃんも、先生になる練習になると思うの」

 

「リコったら・・・」

 

 リズは、リコが一度言いだしたら聞かない、強情な所があるのを思い出し、リコを寄宿舎の裏へと連れて行った。

 

「本当は、初等科の子に魔法を教えるのは、学校から禁止されているんだけど・・・少しだけよ?」

 

「ウン!ありがとう、お姉ちゃん」

 

 リズは、早速愛用の魔法の杖を取り出した。リズの魔法の杖は、赤い宝石が付いていて、何所か優雅さを醸し出していた。リズは、リコが手に持つ魔法のほうきを見つめると、

 

「キュアップ・ラパパ!ほうきよ、踊りなさい」

 

 キュアップ・ラパパという言葉が、魔法を唱える呪文のようで、リズがほうきに魔法を掛けると、魔法のほうきは、命を宿したかのように踊り出した。リコは思わず目を輝かせると、

 

「凄ぉぉい!?」

 

「リコもやってみる?」

 

「ウン!」

 

 リコは再び目をキラキラ輝かせると、先端に星の宝石を付けた自分の魔法の杖を取り出した。魔法界の住人は、生まれた時に杖の木から魔法の杖を授けられて居たものの、ちゃんとした魔法の知識を得てから使用するように、魔法学校に入学して魔法を習ってからのみ、魔法の仕様を許可されて居た。リコは、ほうきをジィと見つめると、先程リズが唱えたように、自分も呪文を唱え、

 

「キュアップ・ラパパ!ほうきよ、踊りなさい」

 

 しかし、何も起きなかった・・・

 

「キュアップ・ラパパ、キュアップ・ラパパ、キュアップ・ラパパ・・・・・」

 

 リコが何度も呪文を唱えるも、しかし、何も起きなかった・・・

 

「何でよぉぉぉ!?」

 

 リコは思わず変顔浮かべながら、恨めしそうにほうきを睨み、リズが思わず苦笑する。

 

「リコ、やっぱりまだ無理よ!魔法は、ただ呪文を唱えれば必ず成功する訳じゃないのよ?集中力も大事なの」

 

「集中力!?」

 

「そう、集中力・・・頭の中で、成功した時のイメージを浮かべたりね」

 

「なぁんだ、それなら簡単よ」

 

 リコは、ドヤ顔を浮かべながらそう言うと、頭にほうきが踊るイメージを抱いた。

 

「キュアップ・ラパパ!ほうきよ、踊りなさぁい!!」

 

 一瞬の間の後、ほうきが微かに動き出し、成功したと思ったリコが思わず気を緩めると、ほうきは暴走し、リコの身体事宙に浮かび上がり、暴れ馬のように空で動き回った。

 

「キャァァァァァ!」

 

 リコの悲鳴を聞いたリズは、顔色を変えると素早く魔法の杖を構え、

 

「リコォォ!キュアップ・ラパパ!ほうきよ、静かに降りてきなさい!!」

 

 リズが再び呪文を唱えると、悲鳴を上げるリコを乗せたほうきは、静かにリズの前に降りて来た。

 

 リズはホッと安堵するも、内心では魔法を暴走させたリコに驚いて居た。普通は、宙に物を浮かばすだけでも、かなりの気力を必要とする筈で、初めて唱えた魔法で、物を宙に浮かせるのは、そうそう出来る事では無かった。

 

(やはりリコには、秘められた魔法の力が眠って居そうね)

 

 リズは、やはりリコには、魔法学校で正式に魔法を教わってから、魔法を使った方が良いと実感した。リズはリコに声を掛けると、

 

「リコ、大丈夫だった?」

 

「ウ、ウン・・・計算通りだし」

 

「エッ!?」

 

 リコの負け惜しみを聞き、リズは思わず苦笑した・・・

 

 

2、そしてリコは・・・ナシマホウ界へ

 

 翌日・・・

 

 魔法界の上空を、二人の美女が飛んで居た。一人は、スタイルの良い身体を、露出が高い黒い下着姿のような衣服で纏い、背中に生えた小さな黒い翼で飛び、もう一人は、人魚の姿で空を泳いでいるかのように、尾鰭を使って優雅に飛んでいた。二人の名は、サキュバスのリリスとマーメイドのニクス、シーレインの処刑を回避して貰う為、二人はカインの命令通り、ニクスの故郷である魔法界へとやって来た。

 

「ニクス、魔法界に来るのも久しぶりでしょう?懐かしいんじゃない?」

 

 リリスは、魔法界出身であるニクスに話し掛けると、ニクスは確かに懐かしそうな表情を浮かべるも、

 

「まあ、懐かしくないと言えば嘘になるわね。でも、私が居た頃から、魔法界では二百年は経っているし・・・」

 

「エッ!?ニクスって・・・そんなに年寄りだったの?」

 

「うるさいわねぇ・・・たった二百年よ!」

 

「やっぱり年寄りじゃない」

 

「うるさい!大体、あなた私の年知ってるでしょう?リリスは、千年は生きてるんだったわよねぇ?」

 

「失礼ねぇ!私だってまだ二百年よ!!」

 

 ニクスとリリス、どこか啀み合いながらも、二人は本音では互いを認めて居た。そんな他愛もない会話を二人でしながらも、二人は魔法学校の生徒を誘惑し、人間界に連れて行く任務を実行する為、魔法学校へと向かって飛び続けた。暫く飛び続けた二人は、魔法学校のある島に近付くと、ニクスはリリスに警告し、

 

「リリス、島に着いたら、人魚の私はともかく、リリスの格好では、直ぐに魔界の者とバレてしまうかも知れないわ」

 

「お構いなく、ちゃんと露出は控えるわよ」

 

「それもそうだけど、背中の翼も隠しなさいよ?」

 

「ハイハイ・・・島が見えてきたようよ」

 

 リリスは、小姑のようなニクスに呆れた時、ちょうど魔法学校がある島が見えてきた。リリスが島を指差すと、ニクスもコクリと頷きながら、

 

「じゃあ島に着いたら、少し情報を仕入れてから、めぼしい子に声を掛けましょう」

 

「でも、カイン様が言うように、魔法学校の生徒を人間界に連れて行けば、本当にプリキュアは見つかるのかしら?」

 

「さあ!?でも、魔法界に伝わる伝説では、一万年前に闇から魔法界を救った、伝説の魔法つかいと呼ばれるプリキュアが居たそうよ?」

 

 ニクスは、魔法界に居た頃の記憶を思い出していた。人魚の里で暮らしていた頃のニクスは、好奇心旺盛で読書好きだった。その頃読んだ古文書で、一万年前、魔法界を救った伝説の魔法つかいの事を知った。リリスは首を傾げながら、

 

「一万年前って・・・随分胡散臭い話じゃない?」

 

「その頃から魔界に居たアモン様やベレル様なら、何か知って居るのかも知れないけど、私達が生まれる遙か昔の話だしね・・・でも古文書には、伝説の魔法つかいであるプリキュアの名前が、キュアマジシャンって事まで書かれて居たから、事実かも知れないわよ?」

 

「フ~ン・・・」

 

 リリスもそれ以上深く追求せず、二人は島の端に降り立ち、ニクスは尾鰭を足に変化させた。

 

 

 その頃リコは、授業を終えた後、ほうきを持ちながら、人気の無い場所で、魔法の訓練をしていた・・・

 

「キュアップ・ラパパ!・・・ダメだわ、昨日は反応あったのになぁ?お姉ちゃんは、あれから魔法教えてくれないし・・・もう!」

 

 リコはそう言うと、頬を思いっきり膨らませていじけた。少し休憩したリコは、気分を変える為、魔法界と人間界を結ぶ、カタツムリニアを見に行こうと歩いて居ると、

 

「あなた、魔法学校の生徒さんよねぇ?」

 

「私達は、魔法学校の生徒さんを捜していたのよ」

 

「エッ!?」

 

 突然背後から声を掛けられたリコは、思わず驚いて背後を振り向くと、そこには二人の美しい美女が立って居た。リコは、内心綺麗な人達だなぁと思いながら、

 

「そうですけど、あなた方は?」

 

「私達は、魔法学校の校長先生に頼まれて、目星を付けた生徒さんに、ナシマホウ界で見聞を広げて貰うように頼まれた者で、私はニクス」

 

「私はリリスって言うわ、あなたは?」

 

「私は・・・リコって言います」

 

「そう、リコちゃんって言うの?賢そうなお名前ねぇ?」

 

 ニクスにお世辞を言われると、リコは見る見るドヤ顔を浮かべ、

 

「エッ!?そ、それ程でも・・・有るし」

 

((エェェ!?この子、お世辞を真に受けたわ?))

 

 ニクスとリリスは、リコの性格に驚きながらも、煽てれば欺ましやすいと思いつき、目でアイコンタクトすると、ターゲットをリコに決めた。ニクスとリリスは微笑みながら、

 

「どうかしら!?あなたにその気があるなら、ナシマホウ界に一緒に行ってみない?」

 

「あなたは、優秀な魔法つかいになれる素質を持っていそうだし、ナシマホウ界に行けば、きっとあなたの為になる筈よ?」

 

「本当!?あっ、でも・・・ナシマホウ界に行くには、校長先生の許可が必要で・・・」

 

 リコは、ニクスやリリスに言われる迄もなく、ナシマホウ界に行きたい気持ちは当然持って居たものの、校長の許可なしに出かけたら、怒られるんじゃないかと思い、モジモジした。リリスは、そんなリコの心意に気付き、

 

「リコちゃん、安心して。ちゃんと校長先生の許可は得ているから、これからナシマホウ界に一緒に行きましょう」

 

「エッ!?今からですかぁ?どうしよう、お姉ちゃんに言わなくても大丈夫かなぁ?」

 

「戻ったら、お姉様に知らせれば大丈夫よ!さあ、行きましょう」

 

「じゃあ、カタツムリニアに乗れるんですね?ヤッタァー!」

 

「「カタツムリ二ア!?」」

 

 ニクスとリリスは同時に首を傾げた。魔界で暮らしている二人に取って聞き慣れない言葉で、ニクスが居た頃の魔法界には、まだカタツムリ二アは存在して居なかった。二人が首を傾げた事で、リコも不思議そうに首を傾げ、

 

「違うの?」

 

 リコが不審そうにジィと二人を見つめた事で、リリスはニクスを肘で突っつき、小声で話し掛けると、

 

「ニクス、ひょっとして、さっき本屋で見た本に書いてあった、人間界と魔法界を繋ぐ乗り物の事じゃない?」

 

「確か、人間界の津成木駅って所に繋がっているんだったわね?」

 

 ニクスとリリスがこそこそ話し出した為、リコは益々不審そうに交互に二人を見つめると、

 

「何か怪しい!?」

 

「「エッ!?怪しくない!怪しくない!」」

 

 リコに不審がられた事で、ニクスとリリスは同時に右手を振り、愛想笑いを浮かべた。ニクスは手を叩くと、

 

「リコちゃん、そんな物に乗らなくても、ナシマホウ界には行けるのよ?」

 

「エッ!?」

 

 ニクスにそう言われたリコは、以前授業で聞いた内容を思い出していた。高度な技量を持つ魔法つかいならば、カタツムリ二アに乗らなくても、時空を乗り越え、ナシマホウ界に行ける事が出来ると、授業で教わった事を思い出した。

 

「じゃあお二人は、高度な魔法つかい何ですねぇ?凄ぉぉぉい!」

 

 リコは一人で興奮し、尊敬の眼差しでニクスとリリスを見つめると、思わずニクスとリリスは顔を見合わせた。

 

((この子・・・何か勘違いしているわね?))

 

 二人はそう思いながらも、リコを連れて人気の無い場所に移動すると、空間に歪みを生じさせ、ニクスは少し声のトーンを落としながら、

 

「じゃあリコちゃん、目を瞑って、両手で私達の手をしっかり握っていてね」

 

「途中で手を放しちゃうと・・・永遠に帰れなくなっちゃうかも知れないわよぉ?」

 

「ヒィィィィ」

 

 リリスに脅されたリコは、思わず両手をギュッと握りしめ、ニクスは呆れたように、リコをからかったリリスを見つめ、三人は何処かへと去って居た・・・

 

 

3、魔法つかいに憧れる少女

 

 どれくらい経ったのか、リコの耳に賑やかな音が聞こえてくる。一体何の音だろうかとリコが不安そうにしていると、ニクスは思わず笑み、

 

「フフフ、もう目を開けても良いわよ」

 

「リコちゃん、ゆっくり目を開けてみて」

 

 ニクスとリリスから許可を貰ったリコは、言われるままゆっくり目を開いた・・・

 

「ウワァァァァ!此処がナシマホウ界!?」

 

 リコの眼前に広がる光景は、リコが想像して居た以上の衝撃をリコに与えた。ナシマホウ界の雑誌を買って読んで、薄々は分かっては居たが、目の前を勢い良く走る自動車や、歩きながらスマホや携帯ゲームをする人、忙しなく歩く人など、ナシマホウ界では、時間の余裕が無いように感じられた。それは、初めて人間界を訪れたニクスとリリスも同様だったが、リリスは人々から溢れ出る性への欲望を感じ、思わず舌なめずりをした。

 

(ウフフフ、人間界は美味しい御馳走が一杯ありそうねぇ?)

 

「リリス・・・涎が出ているわよ?」

 

「エッ!?」

 

 ニクスに注意され、リリスは慌てて涎を啜った。キョロキョロ辺りを見渡したリコは、少しナシマホウ界を散策したくなって居た。

 

「あのぅ・・・少しこの辺りを歩いても良いですか?」

 

「エエ、良いわよ。でも、あまり遠くに行かないようにしてね?」

 

「迷子になっちゃうわよぉ?」

 

「ハ~イ!」

 

 リコは、ニクスとリリスに返事を返し、ほうきを持ったまま楽しそうに歩き始めた。擦れ違う人々は、ほうきを持ったリコを、稀有な表情で見つめるも、直ぐに興味を無くしたようにそのまま歩き続けた。リリスは、そんなリコの後ろ姿を目で追うのを止めると、

 

「ニクス、人間界に来たものの、これからどうする?」

 

「そうね、あまりあの子をこっちに連れ出してたら、魔法学校でも騒ぎになりそうだし・・・」

 

 ニクスが魔法学校と言ったその時だった。突然二人の背後から声が掛かり、

 

「今、魔法って言いましたぁ?」

 

「「エッ!?」」

 

 ニクスとリリスは驚き、思わず背後を振り向くと、リコとそう年が変わらないくらいの少女が、熊のぬいぐるみを持って立って居た。少女は目をキラキラ輝かせて、ニクスとリリスを見つめると、

 

「お二人は・・・爆裂魔法を使えるんですかぁ?」

 

「「いえ、使えません」」

 

 少女に聞かれたニクスとリリスは、目を点にしながら同時に首を振った。少女は尚も食い下がり、

 

「でも・・・魔法つかいさんですよねぇ?」

 

「「いいえ、違います」」

 

 ニクスとリリスは、再び目を点にしながら首を振り、魔法つかいでは無いと告げるも、少女はジィィと二人を見つめると、リリスは、少女の純粋な視線に耐えられず、思わず顔を背けた。

 

(そ、そんな純粋な目で、私を見ないでぇぇぇ)

 

 不純なリリスにとって、純粋な子供達は苦手だった。少女はニッコリ微笑むと、

 

「アァァ!?目を逸らしたぁ!やっぱり、魔法つかいさんだぁ!!」

 

「だ、だから違うわ」

 

「お嬢ちゃん、こんな所に居ないで、お友達と遊んで来たらどうかしら!?」

 

 話を逸らすように、ニクスは少女に、友達と遊んで来たらと伝えると、少女は再びニッコリ微笑み、

 

「お友達!?居るよ!」

 

「そう、じゃあそのお友達のお家に・・・」

 

「モフルン!」

 

 少女はそう言うと、ニクスとリリスに、モフルンと呼んだ熊のぬいぐるみを紹介するかのように、頭上に持ち上げた。ニクスとリリスは、思わず変顔を浮かべ、

 

「「エッ!?そのぬいぐるみが?」」

 

 魔界に住む二人ではあったが、ぬいぐるみの事は知って居た。そのぬいぐるみを、この子は友達だと言った事で、思わず二人は確認するかのように少女に聞くと、少女は嬉しそうに頷き、

 

「ウン!モフルンは、私の大事な、大事なお友達!!」

 

 少女がそう告げた瞬間、ニクスとリリスは変顔浮かべながら、早足で逃げるように少女から離れるも、少女は楽しそうに二人に付いて来た。

 

「モフルン、魔法つかいさんに会える何て・・・ワクワクもんだぁ!」

 

 少女が嬉しそうに後を付いてくるのを見たリリスは、肘でニクスを突っつき、

 

「ちょっとニクス、あの子付いて来るわよ?」

 

「何か変な子と関わり合っちゃったわねぇ?ぬいぐるみが友達だ何て・・・このまま知らん顔して行きましょう」

 

「そうね、その内諦めるでしょう」

 

 ニクスとリリスは、後ろを気にしながらも、少女から逃れるように早足で歩き続けた。だが少女は、ニコニコしながら相変わらず二人に付いて来た。再び変顔浮かべた二人は、思わず少女から逃げるように駈けだした。ニクスは困惑しながら、

 

「な、何なのよ、あの子はぁぁ!?」

 

「こうなったら、いっそあの子を・・・」

 

 リリスはその場に立ち止まり、後ろを振り返って少女を怪しげな赤い瞳で見つめた。リリスが一瞬殺気立つと、ニクスは慌ててリリスを叱咤し、

 

「バカ!勝手に人間界の人間に手を出したら、私達の身が危うくなるわよ?相手がプリキュアならば、例え殺した所で、取り繕う事は出来るでしょうけど」

 

「じゃあ、どうするのよぉ?」

 

「そういう時は・・・逃るのよぉぉ!」

 

「結局それぇ!?」

 

 リリスも渋々ニクスの提案を受け入れ、二人は慌てて再び逃げ出した。少女は嬉しそうにそんな二人を追いかけ、

 

「魔法つかいさん、待て待てぇ・・・アハハ、楽しいねぇ、モフルン?」

 

 少女は楽しそうに熊のぬいぐるみに話し掛け、ニクスとリリスを追いかけ回した。ニクスとリリスは、魔界で走る事などした事が無かった。普段走らない二人は息切れし、木々が生い茂った公園で立ち止まると、ゼェゼェ荒い呼吸を整えた。そんな二人に少女が嬉しそうな表情で追いつき、

 

「追いついたぁ!」

 

「「また来たぁ!?」」

 

「ねえねえ、魔法つかいさん、追い駈けっこもっとしようよ?」

 

「「だから、魔法つかいじゃないわよ!」」

 

 少女は、ニクスとリリスの腕を引っ張り、もっと追いかけっこをしようと提案するも、バテていた二人は、困惑気味に少女に魔法つかいじゃないと再び告げた。だが、少女はそんな二人の話を信じず、魔法つかいだと信じ切った。ニクスとリリスは、少女の執念深さに根を上げ、

 

「「もう・・・勘弁してぇ!」」

 

「エェェ!?つまらないよね、モフルン?」

 

 少女は少し頬を膨らまし、熊のぬいぐるみに話し掛けると、ニクスとリリスは心の中で同じ事を思い、

 

((つまらないなら・・・どっか行ってぇ))

 

 だが、二人のそんな思いも少女には伝わらず、少女はニクスとリリスに尚も纏わり付き、

 

「ねえねえ、今度は何して遊ぶの?」

 

 少女に聞かれたニクスは、次第にイライラしだした。十二の魔神の一人である自分に対し、魔界で知らぬ者がこのような馴れ馴れしい態度を取れば、命を失っても文句は言えなかった。ニクスの黄緑色した長い髪の色が、見る見る赤くなり、リリスはハッとした。普段は温厚なニクスだが、一度怒ればその美しき髪は真紅に染まり、怒らせた相手は血の海に沈むと言われるのだから・・・

 

「ワァァァ、髪の色が急に赤くなったぁ!これってやっぱり魔法!?ワクワクもんだぁぁぁ!」

 

 少女が興奮するのとは逆に、ニクスは、キッと少女を睨み付けると、

 

「お嬢ちゃん、お姉さん達は今忙しいの!遊ぶなら、他のお友達と遊びなさい!さもないと・・・」

 

「ちょっとニクス!」

 

 ニクスが少し語気を強めると、少女はうっすら涙目になった。リリスに窘められたニクスは、泣きそうな表情を浮かべた少女に気付き、思わず狼狽へながら、髪の色が元の黄緑色に戻った。困惑したニクスは、少女をあやすように、

 

「ちょっと、お姉さんが悪かったわ。だから泣かないで、ねっ?お嬢ちゃんのお名前は?」

 

「みらい・・・朝日奈みらい」

 

 少女は鼻を啜りながら、朝日奈みらいと名乗った。ニクスは引き攣った笑みを浮かべ、みらいの頭を撫でながら、

 

「そう、みらいちゃんって言うの?」

 

「ウン、お姉ちゃん達は?」

 

「私はニクス」

 

「私はリリスよ」

 

「ニクスお姉ちゃんとリリスお姉ちゃん?」

 

 みらいに呼ばれた二人は、引き攣った笑みをしながらコクリと頷いた。ニクスはみらいに話し掛けると、

 

「みらいちゃんは、そんなに魔法つかいが好きなの?」

 

「ウン!お婆ちゃんに教えてもらったの!お婆ちゃんが中学生ぐらいの頃、魔法つかいと出会ったんだって、私それを聞いて、魔法つかいさんに私も会いたいなぁと思って、それに、この前観たテレビでね、爆裂魔法っていう、格好良い魔法観たんだよ」

 

 ニクスに聞かれたみらいは、嬉しそうに魔法つかいについて語りだし、みらいが心から魔法つかいの事が好きだと二人も理解した。ニクスは、みらいが発した爆裂魔法という言葉を、魔法界に居た時、そんな魔法の事は聞いた事も、文献で読んだ事も無かった。ニクスは首を傾げ、

 

「爆裂魔法!?そんな魔法、魔法界に居た時も聞いた事も無いわねぇ?」

 

「エッ!?やっぱりお姉さん達魔法つかい?」

 

 みらいが嬉しそうに目を輝かせると、リリスは困惑した表情で、

 

「ニクスのバカ!」

 

「し、しまった!?」

 

 ニクスはみらいに釣られ、魔法界に居た頃の感覚でつい話してしまい、みらいの目がキラキラ輝きだした。見る見るリリスとニクスは困惑し、ヒソヒソ話を始めると、

 

「ニクス、どうするのよ!?あの子、このままじゃ帰らないわよ?」

 

「リコの事も気掛かりだし、あの子に適当な事教えて、練習させている間にでも逃げましょう」

 

 二人は示し合わせると、みらいに近付くように伝え、みらいは嬉しそうに二人に近付いた。

 

「みらいちゃん、お姉ちゃん達が魔法つかいだって事は・・・内緒にしてくれる?」

 

「ウン!するよ」

 

「じゃあ特別に・・・みらいちゃんに魔法つかいの口上の仕方を教えて上げるわ」

 

「本当!?ワクワクもんだぁぁぁ!」

 

 ニクスは、興奮しながらはしゃぐみらいに対し、デタラメな魔法つかいの口上を教え始めた・・・

 

 

4、そしてリコは・・・途方に暮れる

 

 ニクスとリリスが、みらいによって追い回され、何処かに行ってしまい、戻って来たリコは狼狽えて居た。

 

「アレェ!?ニクスさんとリリスさんが居ない?確か此処だったわよねぇ?どうして二人共・・・居ないのよぉぉ?」

 

 動揺したリコが、少し涙目になると、薄笑いをした小太りの眼鏡を掛けた若い男が、嬉しそうにリコに近付いて来た。リコは困惑した表情で若い男を見て居ると、男は中腰になり、馴れ馴れしくリコの頭を撫で始め、リコが嫌そうな表情になった。男は再び薄ら笑いを浮かべながら、

 

「お嬢ちゃん、迷子かなぁ?お兄ちゃんの家に来ない?」

 

「ヒィィ!?ま、迷子じゃ無いしぃぃ!」

 

「アッ、お嬢ちゃぁぁん!」

 

 リコは慌てて若い男から逃げ出すと、若い男が呼び止めるのも無視して走り続けた。走りながらリコはある事に閃いた。

 

「そ、そうだわ!空から捜せば良いのよ」

 

 リコは、人気の無い裏道に入り込むと、辺りをキョロキョロ見渡した。幸い人影も無く、リコは魔法の杖を取りだし、ほうきに跨がり精神を集中させると、

 

「キュアップ・ラパパ!ほうきよ、飛びなさい!」

 

 しかし、何もおきなかった・・・

 

「フ、フフン、最初から上手くいかないのは、計算通りだし・・・」

 

 リコは負け惜しみを言いながらも、何度か呪文を試した。昨日リズに言われた事が頭を過ぎり、リコの脳内に、ほうきに跨がり飛んでいるイメージが沸き上がった瞬間、

 

「キュアップ・ラパパ!ほうきよ、飛びなさぁい!!」

 

 その瞬間、リコの胸のペンダントが輝き、ほうきが勢い良く空に飛び上がった。リコは嬉しそうに、

 

「せ、成功した!?フフン、流石私!」

 

 リコがドヤ顔を浮かべた瞬間、ほうきはドリルのようにグルグル回転し始め、

 

「と、止めてぇぇぇ!」

 

 リコは、思わず悲鳴を上げた。

 

 

「我が名はみらい!爆裂魔法をこよなく愛する魔法つかい!!これで良いですかぁ?」

 

 みらいが振り向くと、熊のぬいぐるみと共に座っていた筈の、ニクスとリリスの姿が忽然と消えて居た。みらいは辺りをキョロキョロ見渡し、

 

「アレェ!?居なくなっちゃった?」

 

 その時だった!

 

 みらいの上空を、何かの悲鳴が聞こえた気がして、みらいは思わず空を見上げると、

 

「誰か、止めてぇぇぇぇ!」

 

 そう叫びながら、何かがみらいの上空を通過して行った。みらいは見る見る目を輝かせ、熊のぬいぐるみが居るベンチに座ると、

 

「モフルン、見てぇ!また魔法つかいさんだよ!!」

 

 みらいは、熊のぬいぐるみにも見せるように、何処かへと飛び去った何かを、目を輝かせながら見送った。

 

 リコとみらい、この二人が後にプリキュアとなって、生涯の親友になる事になるとは、この時の二人には知る由も無かった・・・

 

 それはまた別のお話・・・

 

 

5、落ちてないし

 

 逃げるように戻って来たニクスとリリスは、まだリコが戻って来て居ない事に焦りを覚えて居た。周囲を探し回るも、リコの姿は忽然と消えて居た。通行人に尋ねて見るも、誰もリコの姿を見た者は居なかった。

 

「私達が離れてる間に・・・リコは一体何処に?」

 

「ニクス、まずいわねぇ!?このままじゃ、魔法学校で騒ぎになるわよ?」

 

「まあ、私達の事に気付く事は無いとは思うけど、人間界に捜索には来そうね」

 

「私達も、このままリコを捜しましょう。このままじゃ、魔界に帰ってもカイン様に会わせる顔が無いわ」

 

「そうね・・・仕方無い、しばらく人間界で様子を見ましょう。何かプリキュアの情報も手に入るかも知れないし」

 

「でもニクス、この街は離れましょう!リコも居そうに無いし、あの魔法つかい好きな女の子に会うのは・・・もう勘弁よ!」

 

「リリス、珍しく意見が合うわねぇ?同感よ!」

 

 ニクスとリリスは、人間界に残る事を決めたものの、みらいとの再会を恐れ、津成木町から逃げるように離れて行った。

 

 

 七色ヶ丘・・・

 

 生徒会選挙も無事に終わり、日常を取り戻したものの、バッドエンドプリキュア達は、ピエーロを完全に復活させる為、この日もバッドエナジーを集めて居た。止めに来たみゆき達は、スマイルプリキュアに変身し、途中で合流したエコーと共に、困惑しながらバッドエンドプリキュアと公園で対峙しようとしていた・・・

 

「みさきちゃん、止めようよ!」

 

「ダメだよ!それに、今の私はバッドエンドハッピーだもん」

 

「ですが、私達はもう、あなた方と戦いたくありません」

 

 ビューティもハッピーの意見に同意し、バッドエンドプリキュア達に戦いたく無いと告げると、バッドエンドプリキュアの五人も、複雑な表情を浮かべた。バッドエンドピースは、スマイルプリキュアの六人に話し掛け、

 

「なら、前みたいに私達の必殺技で勝負しようか?」

 

「一発勝負って事か・・・上等!」

 

 バッドエンドマーチも同意したものの、スマイルプリキュアの六人は困惑した。

 

 その時・・・

 

「誰か、止めてぇぇぇ!」

 

『エッ!?』

 

 突然上空から声が聞こえ、一同が一斉に空を見上げると、ドリルのようにグルグル回転した何かが、高い木に激突した。

 

「キャァァァァァ!」

 

 ガサガサ音を立て、何かが枝を折りながら落ちて来るようだった。十一人の光と闇のプリキュア達は、木の真下に移動すると、そこには、物干し竿に干された洗濯物のように、木の枝に服が引っ掛かり、白い下着を丸見えにしながら、藻搔いて居る少女の姿があった。落ちてきたのはリコで、リコは失敗した姿を大勢に見られて、恥ずかしそうにしていた。エコーは、そんなリコに声を掛け、

 

「ねぇ、大丈夫!?何でそんな所に落ちてきたの?」

 

「お、落ちてないし」

 

 リコは、困惑気味に落ちてないと否定するも、サニーはリコの格好を見て呆れながら、

 

「落ちてない言うても・・・どう見ても落ち取るやん?」

 

「け、計算通りだし」

 

「計算通り!?本当だとしたら、凄いですねぇ?」

 

 ビューティが思わず首を傾げ、バッドエンドビューティは、リコをチラッと見つめると、

 

「どう考えても負け惜しみでしょう?」

 

「負け惜しみじゃないし」

 

 リコは困惑しながらも、負け惜しみじゃないと一同に強がった。バッドエンドサニーは、そんな強がるリコに呆れたかのように、一同に話し掛け、

 

「さよかぁ・・・ほな、さっきの続きしようや!」

 

 リコをこのまま置いて、必殺技勝負の続きをしようと提案し、リコの側を離れようとすると、さすがにリコも狼狽へ、

 

「アッ!?ちょ、ちょっとぉぉぉ!?」

 

「何や!?計算通り何やろう?」

 

「ウゥゥゥ」

 

 今度はサニーが、ちょっとリコをからかうように話し掛けると、リコが言葉に詰まった。ハッピーはサニーを宥め、

 

「サニー、虐めちゃ可哀想だよ」

 

「ウゥゥゥゥ、分かった!分かりました!はいはい、落ちました。これで良いでしょう?」

 

 リコは開き直り、半ばヤケクソ気味に落ちた事を認めた。サニーとバッドエンドプリキュア達は、そんなリコの態度を見て、

 

『可愛くないなぁ』

 

「「「「「まぁまぁ」」」」」

 

 サニーを除いたスマイルプリキュアが、苦笑しながら六人を抑えた。ハッピーは、一歩前に出ると、何かが足に辺り、地面を見てみると箒が落ちていた。ハッピーはリコに話し掛けると、

 

「ねぇ、これはあなたの箒かなぁ?」

 

「アッ!?そ、そうよ・・・ついでに、先が星の形をした杖を見付けてくれると、もっと嬉しいかも・・・」

 

『杖!?』

 

 ハッピーが辺りを見渡すと、確かに先端が星の形をした杖が落ちていた。ハッピーは、リコの持ち物である箒と杖、そして、よくリコの姿を見て見れば、絵本で見た魔法つかいが被っていたような帽子を見て、思わず目を見開き、リコを指さすと、

 

「あなた、ひょっとして・・・魔法つかいさん!?」

 

『エッ!?』

 

 ハッピーが発した魔法つかいと言う言葉を聞き、一同の視線が一斉にリコに向けられた。再びパンツ丸見え状態の姿を見られたリコは、顔を真っ赤にしながら、

 

「エェェェと・・・お話の前に、ここから下ろして貰えると助かるんですけどぉ」

 

 ハッピーはポンと手を叩き、リコの現状に改めて気付くと、側に居たエコーに話し掛け、

 

「アッ、ゴメンゴメン、エコー、手伝って」

 

「分かった」

 

 ハッピーとエコーに救出され、リコは無事に地上に降りた。リコは軽く咳払いし、照れくさそうにしながらも、

 

「あ、ありがとう」

 

「「どう致しまして」」

 

 ハッピーとエコーが、リコに微笑んだ。リコは再び軽く咳払いすると、

 

「コホン!まあ、隠してもしょうがないし、あなた達には正直に言うけど・・・私は魔法学校の生徒で、リコ」

 

『魔法学校!?』

 

 一同は、リコの容姿を上から下、下から上へと見た。確かにそう言われれば、魔法つかいっぽく見えなくも無かった。ハッピーとピースは目をキラキラ輝かせると、リコに近付いていきなり手を握った。

 

「魔法つかいって本当に居たんだねぇ・・・私は、キュアハッピーだよ」

 

「キュア・・・ハッピー!?」

 

「うん、私達プリキュアって言うんだぁ」

 

 ハッピーがプリキュアの名前を出した瞬間、リコは変顔になって驚き、

 

「エェェェ!?あなた達が・・・プリキュアァァァァ?」

 

「エッ!?そうだけど・・・リコちゃん、プリキュアを知ってるの?」

 

「名前だけはね。昔々、魔法界を救った伝説の魔法つかいプリキュアが居たの。確か・・・キュアマジシャンって言ったかしら?」

 

『エェェ!?』

 

 リコの言葉に、今度はスマイルプリキュアの六人が変顔になって驚いた。キュアマジシャンの事は、ブルーやメランに聞いていたのだから・・・

 

「キュアマジシャンって、魔法の国の人だったんやなぁ」

 

「言われてみれば、マジシャンって名前だもんね?」

 

 サニーとピースが、苦笑しながらマジシャンの話題を話して居ると、リコはプリキュア達が、マジシャンの事を知っているかのような口ぶりに驚いた。

 

「エッ!?あなた達、キュアマジシャンの事を知っているの?」

 

「一万年前の方ですし、直接会った事はありませんけど、キュアマジシャンの子孫の方とは、私達は知り合いですよ」

 

「エェェェ!?子孫?じゃあ、キュアマジシャンって実在したの?」

 

「ウン、実際に居たんだよ。キュアマジシャンと一緒に戦った妖精さんとも、私達知り合いで、直接話も聞いたしね」

 

『ヘェ~』

 

 マーチはコクリと頷き、バッドエンドプリキュア達は今初めて聞いた為、納得したかのように頷いた。ピースは、携帯を手に持つと、

 

「魔法つかいさんが本当に居た何て・・・みんなにも知らせなきゃ」

 

 ピースは、ウキウキしながら携帯でメールを打ち始めた。内容は、私達の街に魔法つかいがやって来て仲良くなったから、みんなも来てみない?というメールだった。

 

『魔法つかい!?』

 

 ピースからメールを受けたなぎさ達一同は、最初こそ困惑したものの、妖精や精霊、魔界まであれば、魔法の国があってもおかしくないと思うと、こっちの世界にやって来た魔法つかいに興味を持った。リコも、ハッピー達から他のプリキュアに会わせてあげると聞けば、当然興味が沸いたものの、リコは助けられた事で、ナシマホウ界に来てから何も食べて無い事を思い出した。リコが現われた事で、戦う事を止めたスマイルプリキュアとバッドエンドプリキュアは、みゆき達とみさき達の姿へと戻った。リコは、お腹が空いたのか、お腹を鳴らして恥ずかしそうにしながら、

 

「あのぅ・・・何か美味しい食べ物ってあるかしら?」

 

「ほな、お好み焼きでも食べるぅ?」

 

「お好み焼き・・・ちょっと興味あるかも?」

 

「じゃあ、サービスしたるわ。なお、手伝ってくれるかぁ?」

 

「分かった。じゃあれいか、後をお願い」

 

「分かりました。皆さんがいらしたらそう伝えます」

 

 れいかが頷き、あかねとなおは、あかねの店へと向かい、残った一同が談笑していると、公園の側が赤く発光し、せつながなぎさ達一同を連れて突然現われ、驚いたリコは変顔を浮かべた。なぎさは、キョロキョロ辺りを見渡すと、みゆきに声を掛け、

 

「ねぇ、魔法つかいが現われたって本当!?思わずせつなに頼んじゃった。この場に居るのかなぁ?」

 

「何か空から落ちてきたんでしょう?」

 

 のぞみが空を指さしたその時、リコは変顔浮かべながら、

 

「お、落ちてないしぃぃぃぃ!」

 

 リコが顔を赤くしながら、懸命に否定する様子を見て、なぎさ達はリコが魔法つかいだと分かり、思わず苦笑した。

 

 

 魔界・・・

 

 双児宮でリコと接触したなぎさ達を、水晶に映し出して見て居たカインは、こうも自分の思い描く筋書き通りに事が進んで行くさまに、思わず口元に笑みを浮かべた。

 

(クククク、餌に魚が掛かったようだな!さて、後はニクスとリリスがどう出るか・・・クククク)

 

 カインは水晶を消すと、双児宮から何処かへと消え去った。

 

 

             第百十八話:落ちてきた魔法つかい

                    完




第百十八話投稿致しました。
今回は、ゲストキャラのリコを中心に物語を進め、もう一人のゲストキャラみらいも登場させてみました。
尚、魔法学校の設定を変えてます

プリキュア・・・今月は、プリキュア関係の商品が色々発売されましたねぇ。嬉しいものです。

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