狂いのストラトス Everlasting Infinite Stratos   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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推奨BGM: 祭祀一切夜叉羅刹食血肉者


第拾弐話

「――首、置いていけ」

 

 オータムの背後より放たれた断頭の一閃。ただの抜刀術。無空抜刀。鞘から抜き、刃を振る。ただそれだけの動き。だがそれは織斑一夏自身の魂と歪みにより、一種の芸術にまで高められた動作。

 彼が幼少の頃より、ひたすらに高められた一閃。

 ただそれだけを己の本懐としてきたからこそ至れる境地。

 彼だからこそ届き、彼にしか届けない極点。

 かつて神格に至った時のソレには遥か劣るとはいえ、人の領域で出来る動きとしてはこれ以上はない。

 オータムの首に引かれた白の閃。

 

 そしてそれだけではなく。

 

 クィントゥムとクァルトゥムに放たれた鈴とシャルロットの一撃もまた必殺だ。

 一夏と同じ無空拳。そしてシャルロットのは彼女の歪みにて存在感を消されたものだ。無論威力や殺傷性自体は二人には劣るとしても、絶命に至らせるのは十分だ。

 

 そしてまだそれだけでもない。

 

 破魔の大斬撃、無価値の炎、暴食の雨、堕天の魔爪、血痕の爪牙。

 箒、ラウラ、セシリア、本音、蘭から放たれた援護攻撃。いや、もはや援護などというレベルではなく、一夏達も巻き込む事もよしとした攻撃だ。

 

 過剰攻撃。そう取られてもおかしくないが、しかし、彼女たちはそうは思わない。

 かつての暴風竜との相対においての敗北は彼女たちの魂に染みついている。あの時、一夏と鈴が■からのブーストを受け、大極位階に至ったからこそ、打倒しえたが、彼女たちだけでは決して倒すことはできなかった。

 

 だからこそ。

 

 一夏たちは刺し違える覚悟をも持ってしてでも、決殺の一撃を放っていた。

 そして、それらがオータムたちの身体に届く、その瞬間。

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「超過駆動、“淫蕩の御身(ステイソス・ポルネイア)”」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 発生した新たなる神威。

 それにより起きた現象はわかりやすすぎるほどに単純だった。

 

「――は?」

 

 例えば一夏。彼の場合は――刀が手からすっぽ抜けたのだ。光速の速度を宿していたはずの一閃が、しかしオータムの首に叩きこまれる直前に手から抜けたのだ。

 白刃が、宙を舞い、日光に煌めく。

 ありえない、と彼は一瞬目前の現象を理解できなかった。

 自分が、織斑一夏が、剣鬼たる己が斬撃途中に刀から手を離すなどあり得ない。

 あっては、ならない。

 織斑一夏の魂にとってあってはならない事象なのだ。

 にも関わらず、その現象は発生した。

 それゆえに一夏の全身が硬直し、中空から落ちる。そしてそれは、視線の片隅の鈴やシャルロットも同じだった。いや、それだけでなく。

 発生しかけていた無価値の炎も集束していたプラズマも断ち切られようとされていた空間も瞬発しかけていた風牙もなにもかも。

 その一瞬に骨抜き《・・・》にされた。

 

「これ、は……、ッ!」

 

 宙を投げだされたことを認識したのと同時。オータムたちよりもさらに十空から。尋常でない神気と殺意を感じた。

 落ちてくる。

 人影だ。

 超高速で落ちてくるソレは空中で一夏の刀を掴み、

 

「フッ……!」

 

 投げる。

 一瞬で音速の数十倍まで越え、水蒸気爆発すら棄てて落下する。

 届くまで、一秒もない。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」

 

 落ちる。防御も回避もままならずにに、そのまま大地へと一夏諸共落下していく。

 

「一夏ァ!!」

 

 鈴が叫んだ時にはすでに遅い。すでに地面と激突していた。

 鈴の視力をでも、土煙りで一夏がどうなったかはわからない。

 だからそのまま、

 

「っざけんぁああああ!!」

 

 大気が震えるほどの叫びを放ち、

 

「うるさいわよ小娘」

 

「があッ……!?」

 

 巨大な鉄槌が彼女の小さな体を打撃した。鈴の咆哮を優に上回る轟音が響いた。

 それを為したのは女だ。

 金の豊かな髪と長身のモデルのような体型の女。

 地面に落ちた一夏と鈴、そして落下していくシャルロットを一瞥したがすぐに視線を上げ、

 

「大丈夫かしら? あなた達?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スコール……」

 

「なんで貴女が!」

 

「しかも余計なのも連れてきやがって」

 

「あらあら酷いわね。助けてあげたっていうのに」 

 

 スコールと呼ばれた女は手にしていた戦鎚を肩に担ぎ、当り前のよう浮遊しながら苦笑する。 

 

「太極開いていなかったんだから、あなた達でも危なかったわよ?」

 

「うるさい……」

 

「余計なお世話です」

 

「あらあら連れないわねぇ」

 

 苦笑を崩さず、しかし彼女たちの主導権はスコールが握っているらしく、彼女を無視し動こうとする様子はない。

 スコールは動こうとはせずに、少し上に浮遊する共に現れたもう一人に問いかけ、

 

「ねぇ、貴方はどうかしら?」

 

「…………」

 

 答えは無く。

 彼は、地面に落下した一夏とは違い、自ら地へと降りていく。

 その様子に肩を竦めながらも、視線を移し、

 

「さぁ、貴方たちはやるべきことをやりなさい」

 

「お前はどうするんだ?」

 

「そうねぇ」

 

 眼下、下降していった青年(・・)に目をやり、

 

「まぁ、あの子心配よね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐ、が、はっ……!」

 

 口の中に溜まっていた血を吐き出す。

 

「くそ、が……ッ!」

 

 己の腹部に突き刺さった刀を、刃を握りしめ無理矢理引き抜いていく。激痛と共に血が吹き出るが構わない。それよりも己の半身である『雪那』 が自分を傷つけていることのほうが許せない。

 高所からの落下により全身の身を砕かれながらも、それでも刃を握る。

 砕けた地面に身を置き、手に刃を喰い込ませながら、力を込める。

 だが、

 

「無様だな。素戔嗚尊」

 

「な、っくぁ……!」

 

 驚愕する。

 それは突如現れた男が『雪那』の柄を踏みつぶし、引き抜きかけていた刀を押し戻したからではない。

 それは、その男の顔立ちが一夏そっくりであり、目元は黒い布で覆われていたからでもない。

 それは、

 

「て、てめぇ、は……!」

 

「久しいな」

 

 その青年の魂の色とでもいうのか。

 彼を見た瞬間に一夏は悟っていた。

 

「“悲嘆(リピ)”。プリームムとでも他の呼び方でも好きに呼べ」

 

 かつて、己と相対した悲嘆の暴風竜と同じだと、一夏は一目見た瞬間に理解させられていた。

 

「な、んで……」

 

「なんで俺が生きているか? ああ、そうだな。お前と帝釈天により俺はやられたが、生憎はこの身はアレの端末に過ぎない。替えなんていくらでも効くんだ」

 

 悲しみが滲んでいたのか、一夏にはわからなかった。そこまでの余裕はなかったのというのもあるし、プリームムの顔があまりにも無表情だったから。

 そしてその無表情のまま、言う。

 

「無様だ」

 

 やはり、感情は見えない。

 

「こんな様の男に俺は負けたのか? こんな男に俺は敗北させられたのか? この程度の男に俺は終焉されたのか? この程度の刀に俺は斬られたのか?」

 

 嘆きは訥々と。一切の感情は無く無機質に語られる。

 

「神威が無ければ、■からの後押しが無ければこれだけか。なんだそれは、木偶じゃあないだろう」

 

「なん、だと、てめぇ……!」

 

 木偶と、そう呼ばれたことに、驚愕により抜けていた力が戻る。

 

「く、お、お」

 

 怒りの声と共に腕に力を入れ、刀を抜いていく。

 少しずつ、少しずつだが、プリームムに押し込まれた刃が抜かれていくのだ。

 その一夏に僅かにだが、プリームムは口の端を歪める。

 そして、

 

「ああああああああああああああああ!」

 

 抜いた。

 瞬間、指の動きで刀身を回し柄を握りしめる。寝転んだ姿勢から足が上がったプリームムへと放つのは刺突。

 余裕はないが、だからこその鋭さを持つ一閃。

 だが、それは、

 

「なにを、遊んでいるのかしら?」

 

 スコールの登場と共に、またもや手の中から滑り落ちる。

 

「くそっ……!」

 

「スコール……なんのようだ」

 

「何の用だ、はないでしょう。貴方はまだ調整したばっかりなんだから無茶するのをやめなさい」

 

「知らないな。俺は俺の好きにする」

 

 言って、落とした刀を握り直そうとする一夏を見る。

 一夏は刀を拾い、距離を取ろうする。その上で刀を構え掛け、

 

「やめなさい」

 

「っ……!」

 

 またもや、力が抜ける。

 明らかになんらかの異能であり、それはこの女を源として放たれている。

 この力は、

 

「骨抜き、か……?」

 

「Jud.鋭いわね坊や。この“淫蕩の御身”の能力は敵対行動を骨抜きにして武装解除させることよ……武装としての効果はこの程度だけど、本来なら全身すら動けないんだから、まだマシでしょう?」

 

「知るか、糞……ッ」

 

「口が悪いわね……っと」

 

 スコールの背後から飛び出してきた影が在る。

 鈴だ。

 陽炎を纏い、振りかぶった拳をスコールへと向けている。

 だが、

 

「ふふ」

 

「っーー!」

 

 スコールに視線を向けられただけで、勢いが緩まる。陽炎は消え去り、速度も落ちた。

 スコールはすずしげな笑みを浮かべ、鈴は顔をしかめたが、しかし怒り破消さずに、

 

「人の男に色目使ってんじゃないわよ!」

 

 殴った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぐっ!」

 

「鈴!」

 

 スコールの頬を殴った鈴は勢いを消せずにそのまま地面を転がり、一夏に抱きとめられる。一夏も致命傷を負っているが、鈴もまた重傷だ。両の義手には亀裂が入っているし、頭からの血もかなり流している。

 

「…………」

 

「ほう」

 

 スコールのは殴られた頬に手を当てて驚き、プリームムは僅かに納得したように頷く。

 

「なるほど、ね。面白いわ、あなた」

 

「うっさわよ、このババア。アンタに面白がられる筋合いはないわ」

 

「そんなの私の勝手よ小娘」

 

 驚きを残したままの呟きに鈴は即座に反応し、スコールもまた即答する。

 

「プリームム」

 

「なんだ」

 

「この小娘は私によこしなさい」

 

「構わん、好きにしろ」

 

「人を物みたいに語ってんじゃないわよ」

 

「勝手現れて好き勝手言ってふざけんなよテメぇら」

 

 一夏も鈴もふら付きながらも立ち上がる。二人とも自分の怪我に頓着などしない。一夏は己を木偶と言われて許せるわけがないし、鈴もまた淫蕩なんて力で自らの男を穢した男を許さない。

 

「残念ながら、今日はもう続けられないのだけれど。そうね、次までには体を癒しておきなさい。負けた言い訳でも付けられたら不愉快だわ。小娘」

 

「ならアンタは負けた時にいいわけでも考えて起きなさいよ。敬老精神よ。有難く思いなさいババア」

 

「木偶、木偶、木偶だと? ふざけるなそんなこと認めるかよ。ああ、いいぜ。何度でも斬ってやるからよぉ。その首置いていけ」

 

「ああ、そうだ見せろ素戔嗚尊。俺を敗北(なっとく)させてみろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――宣戦布告。新たなる戦火の余兆を以って、この戦場の幕は引かれたのであった。

 

 

 

 

 

 

 




学園祭編はこれで終了。
消化不良というかインフレ不足ですけど、まだまだまだまだ。

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