オレを踏み台にしたぁ!?   作:(╹◡╹)

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アリサさんの主人公補正が天元突破ですね。
中の人がついにその(いい加減な)本性を露わにします。


ツンツン少女の理由

「へぇ… 今日に限って無視、ってワケ? 何様のつもりかしら」

「………」

 

 “ヤツ”は、こちらのそんな嫌味など何処吹く風といった様子に受け流している。

 腕を組み、目を閉じ、口を一文字に結んで… 相手をする価値などないというふうに。

 全身で私を… いや、自分自身を除いた全ての存在すらも否定しているかのように。

 

 ……怪しい。

 

 証拠はないが私の勘が告げている。絶対にまた何かを企んでいるに決まっているのだ。

 大体以前から目が合った瞬間に嫁だなんだとベタベタされてきたのだ。

 隠れていても探し出されたことだってある。本気で嫌がっても照れ隠しだと言われて。

 

 コイツはとんでもない“力”を持っているから、誰も面と向かっては逆らえなかった。

 そのコト自体で誰かを恨むつもりなんてサラサラない。しょうがないことはあるのだから。

 けど、もし私と…

 なのはやすずかを含めた私たちと同じ境遇の子が生まれそうなら、黙って見過ごせない!

 

「耳すら聞こえなくなったの? もし、そうなら…」

「……少し、静かにしてくれないか」

 

 一刀両断。そして大きくため息をつき、ゆっくりと瞼を開き… 私を見据える。

 座っているのはアイツの方なのにまるで見下されるような威圧感… それに…

 アイツのあの眼を見て、ゾッとした。コレまで直接暴力を振るわれることはなかった。

 

 だから心の何処かで油断をしていたのかもしれない。

 バカな話だ。アイツのせいで酷い目に遭った人間なんて幾らだっているのに。

 自分だけは特別だって、そう思い込もうとしていたんだ。

 そうでないとちっぽけな正義感が無力感に押し潰されてしまうから。

 

 だが、アイツのあの眼はなんだ。私を完全に「邪魔者」と見るような冷たい、あの眼は。

 

「挨拶は不要。用があるなら聞いてやる。……語れ」

「……っ!」

 

 一つ一つ言葉を区切り、私の反応など見るまでもないといった様子で窓の外に顔を向ける。

 

「おい! 幾らなんでも…」

「誰がオマエの発言を許可した? 順番は守れ」

「……クッ!」

 

 私を庇おうとした刀真の言葉すらもまるで意に介さない。……それはそうだろう。

 関わろうとしなかったアイツに、しつこく声をかけてしまったのは私なのだ。

 文字通り“眠れる獅子”を起こしてしまったのだ。

 薄々感じていたヤツの企みとは、ひょっとしたらコレのことだったのかもしれない。

 

 嗚呼… だとしたら、私はなんて無様な…

 

「アリサちゃん…」

「うぅ、アリサちゃん…」

 

 ! ……屈してしまおうと思っていた数秒前の自分をぶん殴ってやりたい。

 私の後ろにはなのはやすずかがいるのだ。ここで退く? ここで屈する? 冗談でしょう?

 

 ――パァン!

 

 両頬を叩いて気合いを入れる。もう大丈夫だ。もう迷わない。もう… 屈しない。

 笑みを浮かべて真っ直ぐにアイツを見据えて言ってやる。私の思いの丈を。

 

「言わなきゃ分からない? アンタが目障りなの。それに其処は私の席。どいてくださる?」

 

 言い切った。言ってやった。そう… 刀真の隣は私の指定席。

 本来ならなのはやすずかにも同等の権利はあるけれど、今日くらいは役得と譲ってもらおう。

 しかし…

 

「断る」

「なぁっ!?」

 

 またも一刀両断。窓の外を眺めたまま… こっちに視線すら向けないで。

 

「今日この席にはオレが先に座った。今この場でオマエに譲る理由がない」

「なっ! り、理由が無いですって…」

 

 今、私が語って聞かせたじゃない。……一体、どういうつもりなの? コイツ。

 

「だが代案を出すことは出来る。聞け」

「代案ですって? ……いいわ、言ってみなさい」

 

 なるほど… そういうことね。ここからが交渉の本番ということか。

 数日見ない間に余計な知恵をつけてくれちゃったじゃない。

 けど、慣れない武器を扱うのは怪我のもとってアリサ様が教えてやるわ!

 

「まずここは最奥の席だ。故に、このままでもあと2人は座れる。ここまでは良いか?」

「えぇ」

 

 まずは簡単な確認。前提条件のお互いの認識ね。

 固唾を呑んで見守るなのはやすずか。そして他の生徒たちに向け、私は親指を立てる。

 大丈夫! こんなヤツなんかに負けたりしない!

 

「まずオマエたち3人のうち2人が横の座席に座る」

「……それで?」

 

 フン、陳腐なトラップね。

 誰かを犠牲にさせて私たち3人の友情を引き裂く狙いの初歩的な罠だ。

 この程度だったとしたら拍子抜けね。さっさと片付けて…

 

「しかる後に、残った一人がコイツの膝の上に座る」

「え? な… ちょ、俺ぇ!?」

 

 何故かアイツは刀真を指さしていた。いきなり話題を振られて狼狽える刀真。

 周囲のざわめきとともに好奇の視線に晒され、完全に冷静さを失っている。

 

 ったく、もっとシャキッとしなさいよ! だから私がついてないと…

 って待て待て。落ち着いて。落ち着くのよ、アリサ・バニングス。コレはアイツの罠よ。

 

 私の後ろには守るべき友達が…

 

「アリサちゃん、仕方ないよ。ここは桜庭くんの代案に乗ろう?」

「そうだよ、アリサちゃん。アリサちゃんは頑張ったよ? 誰にも恥じることはないんだよ」

 

 いきなり後ろから撃たれた!? あ、あれ!? 友情… 友情パワーはぁ!?

 と、とにかく気を取り直して。

 

「ざ、残念だけどその代案は呑めないわね…」

「ふむ、そうか… やはり女子の膝の上でないと嫌なのか」

 

 ちょ、なんでそうなるの!? なのは、すずか! なんで微妙に距離をとってるのよ!?

 

「あ、うん。アリサちゃんは大事な友達だよ? 大事な、友達、なんだけどね…」

「う、うん。その、ここにキマシタワーを建てるわけには。……ホラ! バスの中だからね?」

「ちょ、ちーがーうー! 違うから! 誤解、誤解よ! 変なコト言ってるとはっ倒すわよ!」

 

 真っ赤になりながら事態を収拾する。

 あれ? コレって必死になって否定したみたいでますます怪しまれるんじゃないかしら?

 う、うぅ… 周囲の視線が痛い。だけど、ここで退くわけにはっ!

 

「ほう… 違うか。ならば何故だ?」

「私や私の友達にためにも! その友情にかけて! 退くことはできないからよっ!!」

 

 アイツの言葉に乗っかる形なのが癪だが、胸に闘志を(ムリヤリ)燃やして言ってのける。

 さぁ、どうだ!?

 

「えー! ぶーぶー」

「ぶーぶーだよー」

 

 なのは、すずか…。

 

「……ゆう、じょう?」

「そ、そうよ!」

 

 首を傾げるアイツに向かって、半ば以上自棄になって言い放つ!

 なのは、すずか。後で覚えておきなさいよ…。

 

「じゃあアリサちゃん反対みたいだし、どっちが膝かジャンケンしよう」

「うん… 勝った方がその権利を、だね? 恨みっこ無しだよ、なのはちゃん」

 

 なのはぁああああああああああ! すずかぁあああああああああああ!

 

「その、なんだ… 本音を言い合える素晴らしい友達だ。と、思う」

「……ぐすっ」

 

 ついにフォローされた。こんなヤツにぃ。

 

「ちょっと待ってくれ!」

「発言を許可する」

 

 刀真! やっぱりいざという時に頼れるのは刀真なのね!

 

「俺の権利は!?」

「それは一旦置いとこう。な?」

「一旦ってなんだよ!?」

「……少年、タイムカプセルというものを知っているか?」

「十年単位で寝かされるじゃねぇか!?」

 

 ……ダメだ、コイツ。あっさり翻弄されてるじゃない。くっ、どうしてこうなったのよ。

 

「……結局のところ、代案は呑めないということか?」

「そ、そうよ! アンタがどかない限りね!!」

 

 刀真で遊ぶのに飽きたのか、私に向かって最終確認をしてくる。

 後ろの友達(ウラギリモノ)2人のブーイングは聞こえない。聞こえないったら聞こえない。

 

「オマエの代案はあるのか? それもなしに否定するだけでは何も掴めないぞ」

「それは…っ!」

 

 痛いところを突かれた。咄嗟に口篭る私に対して、織り込み済みという風に頷く。

 

「オレは代案を示した。オマエにそれがないというのならば、せめて“理由”を示せ」

「……理由? それならさっきから」

 

 そう、さっきから何度も示しているはずだ。「アンタがいるのが我慢できない」って。

 

「否… それは“信念”だ。それそのものに一定の価値は認めるが、決して理由足り得ない」

「だったら、なんなのよ… アンタの言う、理由って」

「分からないか? ならば、そう… “道理”と言い換えてもいい」

 

 そう、それは確かにそうだ。私は“信念”のために戦っていた。けれど、“道理”って?

 

「道理とは、誰もが納得する公明かつ正大な指針のことだ。そのものが理由と言ってもいい」

「道理… 即ち、理由ってことね。なるほど、それを示せばアンタは席を譲るのね?」

「フッ、言うまでもない。そもオマエたちは道理を曲げる輩を許せるのか?」

「それこそ言うまでもないわね。だったら、アンタに示してやるわ… “道理”ってヤツを!」

 

 ていうか、アンタこそ道理曲げの代名詞なんだけどね。

 ……でも、なんだか不思議な気分。あんなに嫌ってたコイツとこんな話をするなんて。

 

 周囲を見渡す。

 

 なのはやすずかは私に対して笑顔で頷いてくれる。

 刀真もそうだ。何よ、柄にもなくカッコつけちゃって。

 そして他のみんなも… 全員が全員、私にこの場を預けてくれるみたい。

 

 フフッ、そこまでされちゃ燃えない訳にはいかないわね!

 バニングス家の帝王学を甘く見ないでよね! 今迄学んできた全てを乗せて論破してやるわ!

 

 そっと目を閉じ、思考をクリアにする。

 未だかつてここまで集中力を高めたことがあったかしら?

 だからこそ、確信する。私は負けない。

 

 本当に“信念”と“理由”を背負うものは、戦う前に既に勝利しているのだから!

 思考を纏め、目を見開き、標的を…

 

 ――プシュー…

 

『えー… 私立聖祥大学付属小学校でーす。忘れ物のないように気を付けてお降り下さーい』

「あ、おりまーす」

 

 ヤツは片手をあげ、無駄に洗練された無駄のない無駄な動きでバスを降りていった。

 

「って、待てやこるぁああああああああああああああああああああああッ!!!!」

 

 やり場のない怒りの発散場所を求めて、始業時間ギリギリまでヤツを追いかけ回してやった。

 

 ついカッとなってやったけど、私はちっとも悪くないと思うわね。

 あぁ、むしろ始末し損なったのが心底申し訳ないわね。反省してます。……なにか文句でも?




作者「誤字とか脱字とかそんなレベルじゃない失敗をしてしまった…」
中の人「今は修正済み(だと思う)ので気にしないでおk。多分、きっと、メイビー」

ご意見ご感想、誤字脱字の指摘等がありましたらお気軽にお願いします。

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