オレを踏み台にしたぁ!?   作:(╹◡╹)

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オリ主くん、なんだかんだと面倒見がいいですね。
それと原作キャラ三人娘の登場です。


少年の登校

 気付けば知らない天井を… いや、待て。落ち着けオレ。知ってるだろ。つい昨日から。

 

 どうやらまだ悠人少年は自分の身体に戻ってきてないらしい。ならば、仕方あるまい。

 また今日も、桜庭(さくらば)悠人(ゆうと)としての一日が始まる… ということだ。

 枕元のアラームに目をやれば時刻は午前6時半。うむ、悪くない目覚めだ。むしろ良い。

 

 昨晩消し忘れていたパソコンを落とそうとして、有り得ない数の未開封メールに軽く引いて。

 そして朝のシャワーを浴びてから昨日の残りのご飯に味噌汁を作り、目玉焼きを作る。

 中の人って料理が得意なんだ? そう思った貴方、騙されているぞ。別に得意な訳ではない。

 

 ご飯は電気炊飯器で昨日食べた残り。味噌汁はお湯注いで溶かすだけの即席みそ汁。

 目玉焼きは卵落として焼くだけ。あ、オレは塩と胡椒と醤油のローテーション派です。

 今日は塩の気分。ズボラなオレでもモノの5分で準備完了。後は食べるだけ。ウメーウメー。

 

 うん、次はハムやレタスがあるといいな。今日の学校の帰りにまた買い物にでも行こう。

 それに毎日卵じゃ飽きが来る。粗塩鮭とか海苔とかも買っておこうかな。

 トーストの気分のために食パンもあるといいんだが、食パンって日持ちしないからなぁ…。

 

 そんなことを考えてるウチに完食しましたよ、と。どうやら昨日の彼はまだのようだ。

 さもありなん。食器をシンクに付けて時計を確認すれば、まだ7時を過ぎたばかりだ。

 少し早く動き過ぎたか… まぁ、いい。昨日借りてきた本でも読みながら待つとしよう。

 

 え? 普通は昨日散々貧弱ボディに泣かされたから、鍛えたりするんじゃないかって?

 フフフ、そこが素人の浅はかさってヤツですな。

 オレは考えた。悠人少年はきっとこの貧弱ボディをそれはそれは大事にしてきたのだろうと。

 

 そんな貧弱ボディをオレの身勝手な想いで、ムキムキマッチョにしちゃっていいのだろうか?

 いや、いいはずがない(反語)。……まぁ、ぶっちゃけ面倒なだけなんですけれどね。

 陽の光を浴びるのが嫌いとは言わないし適度な散歩も悪くない。休日出歩くのとか好きだしね。

 

 でもそれだけだ。漫画やアニメの世界ってわけじゃないんだから、悠人少年であるオレに出来ることは無口でクールな厭世系少年たる平凡な学生として日々を過ごすことのみ。

 ……うん、何故か知らないけれど今とっても憂鬱になったぞ。なんでだろうな(すっとぼけ)。

 

 そんなこんなで図書館で借りてきた『はてしない物語』を読み耽るオレ。

 映画『ネバーエンディングストーリー』とは違う点が幾つもあって、中々新鮮な気分だな。

 

 ――ピンポーン!

 

 さて、どうやら例の少年がやってきたようだ。今日は朝の会前に読書の時間もあることだ。

 続きは学校で読むことにしよう。いそいそと鞄に仕舞い、立ち上がる。

 おっと、玄関に出る前に軽く身だしなみのチェックはしておこう。……うん、似合ってない!

 

 銀髪オッドアイに、白のセーラー上服と同じく白のハーフパンツが絶望的に似合わないなぁ!

 

 ――ピンポーン!

 

 急かされた。さっさと出ることにしよう。出かける準備を整え、玄関扉を開け放つ。

 

 ――ガチャ…

 

「挨拶は不要。……例のものは持ってきたか?」

「お、おう…」

 

 本当は「芝村に挨拶はない(キリッ」って決めたかったんだがな。十中八九通じないだろう。

 

「結構。ならば向かうぞ」

「あ、あぁ… ってどうするんだよ! プリントは!」

「どの道今から読んでいる暇はない。教室で渡せ」

「クッ、まさかオマエと一緒に通うことになるなんて…」

 

 鞄に手を入れようとしている少年の脇を通りぬけ、さっさと進む… ポーズを見せる。

 慌てて追ってくる。よしよし、計算通りだ。そして教室についても否定しない。

 昨日プリントを持ってきたことからも、彼とは同じクラスということでほぼ間違いない。

 

「……学校に到着するという結果が一致しているならば、過程など枝葉末節。拘るな」

「過程もバス通学で一致してるっつーの!!」

 

 ほうほう、バス通学だったのか。なるほどな。小学校低学年っぽいし安全面を考慮してかな?

 あるいはよっぽどの広範囲をカバーするマンモス校なのかもしれん。

 まぁ、いずれにせよバス停に到着するまでとバスを待つ時間の間、情報収集させていただこう。

 

 ふむふむ、オレたちの通う学校はあの私立聖祥大学付属小学校だったのか。

 大学まで一貫のエスカレーター校。しかも偏差値は高く、ステータスとして十分通用し得る。

 なんてこった、悠人少年はホントに勝ち組だったんだな。あと目の前の名も知らぬ少年も。

 

 はてさて、こんなエリート学校での授業に記憶が曖昧なオレがついていけるだろうか?

 しかも見ろ。バスを待っている間、他の生徒たちも私語を全くしないで静かなものときた。

 躾の行き届きが必ずしも学習レベルを示すわけではないが、一種の指標にはなるだろう。

 

 到着したバスの中も静まり返っている。……あ、いや、これは違うか。分かっちゃったよ。

 みんなオレに顔を合わせようとしてくれない。今も露骨に顔を逸らされて、確信したよ。

 この悠人少年の異様な容貌が、彼らにとって禁忌(タブー)そのものになっている、ということをな。

 

 一発芸でもかましてみんなの心を解きほぐすことができれば、あるいは… いや、無理だな。

 もし万が一滑ってしまったら、オレは悠人少年にとてつもない負の遺産を残すことになる。

 というか、考えたくもないが悠人少年の滑った結果があの妄想ノートの可能性だってあるのだ。

 

 ……うん、大人しく隅っこのほうで静かにしてよう。

 わーい、みんな場所を空けてくれて優しいなぁ(棒)。

 

「……プリントをくれないか?」

「え? 今か? 教室で渡すって話は…」

「構わん。時間は有効に使うべきだ」

「わ、わかったよ… ホラよ」

 

 なんだかんだと話し相手にはなってくれるし、こちらの提案も聞いてくれる。

 ひょっとして彼は素晴らしいソウルフレンドなのではないだろうか? 名前も知らないけど。

 

 ありがとう、仮称・名無しの少年よ!

 いつかさり気なく名前を聞き取れたらその時は呼ばせてもらう! ……まずは苗字からで。

 

 ……くしゃくしゃになった紙束が渡される。何これ、イジメ? イジメか? 泣くぞ。

 しかもすげー量だよ。なんだよ、休んだの昨日だけじゃなかったの?

 一日の遅れがどれだけ響いてくるって言うんだよ。コレじゃオチオチ風邪も引けないだろ。

 

「………」

「あ、スマンスマン。くしゃくしゃになっちまった」

 

 すげー殴りたい。だけどこの貧弱ボディじゃ目の前の野蛮人に傷一つ付けられはしないだろう。

 悪気はないのは分かるんだけどさ… もっとこう、クリアファイル使うとかしようよ!

 ああもう、オマエなんか名無しで充分だ! この名無し野郎! 苛立ちながらプリントを捲る。

 

 ………

 ……

 …

 

 酔いました。すげー気持ち悪いです。

 どうしてオレはバスの中で活字なんて読んでしまったんだ。なんもかんも政治が悪い。

 安西先生、諦めるからもうゲームセット(という名のリバース)をしましょう。

 

 だがオレは、それでも我慢をする。

 

 考えてもみて欲しい。

 無口クールの厭世系男子。更には銀髪オッドアイ。この時点で近寄り難さダブル役満だ。

 今ココでリバースなどしようものなら、めでたくトリプル役満に昇格決定だ。

 

 コレでは悠人少年の帰ってくる場所がなくなってしまう。

 アムロ=レイが「こんなに嬉しいことはない」って言えなくなってしまう。

 人類の革新が夢物語で終わってしまう。……うん、途中から関係ないね。

 

 とにかく彼のためにも、オレがリバースする訳にはいかないんだ。……そう、絶対にだ!

 あ、ちょっとゴメン。揺らさないで運転手さん。今とってもやばいの。

 プリントを仕舞い、腕を組み、目を閉じたまま大きく深呼吸。吐き気を抑えるんだ、オレ。

 

 心頭滅却すれば火自ずから涼し… そう言って火に飛び込んだ快川和尚の心意気を思い出せ。

 焼け死んだけど。

 

 よし、治まってきたぞ。集中、集中だ… オレはやれば出来る子だ。多分、きっと、メイビー。

 

 ――プシュー…

 

 だが、そんなオレの必死の抵抗を嘲笑うかのように…

 

「あ~! 刀真、こんなところに! ったく、なんで今日は待ち合わせに来なかったのよ!」

「あ、あぁ… バニングスか。その、すまなかったな。高町に月村も」

「おはよー、刀真くん! あれ? なんか今日はバスの中が静かだね。すずかちゃん」

「あはは… うん、そうだね。なのはちゃん。その、おはよ… 刀真くん」

 

 少女特有の甲高い声の数々が、オレの脳を刺激してくる。しかも段々と近付いてきやがる。

 名無し! オメェか! オメェのせいなのか!? クソッ、とんだ疫病神だぜコイツは!!

 

 なにが「とうま~」だ。上条さんばりに“そげぶ”でもするってのか!

 だったらオレの吐き気を今すぐぶち壊してください。

 ……ホントマジ、お願いします。今だったら土下座しちゃってもいいかもしれないんで、はい。

 

「あ、アンタ… なんでこんなトコにいるのよ…」

 

 しまった。いつの間にか間合いに入り込まれていた。

 まぁ、オレ動けないんで当然なんですが。

 

 少女の震える声にターゲットロックオンされていた。なんでオレなんか構うんですか。

 スルー推奨。さっさと(無視)しろー! (オレが)間に合わなくなっても知らんぞー!!

 

「………」

「へぇ… 今日に限って無視、ってワケ? 何様のつもりかしら」

 

 敵意に満ちた声だ。こえぇ、こえぇよ… 吐き気の件がなくても目を開けられねぇよ。

 てか… ホント、無理なんで。今はちょっと勘弁して下さい。

 

『諦めたら?』

 

 安西先生の暖かい声が聞こえた気がした。




中の人「え? オレ、なんでこんな扱いなの? 仮にも主役だよね… ね?」
作者「いつからオマエが主役だと錯覚していた?」
中の人「なん… だと…」

次回はアリサさん視点になるかと思います。

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