オレを踏み台にしたぁ!?   作:(╹◡╹)

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満を持して(?)オリ主くんの登場です。


少年の出会い

「かけなさい、少年」

「………」

 

 桜庭家の応接室… テーブルを挟んで向かい合うオレと少年。

 座っているオレを、少年は立ったまま見下ろしている。

 少年は黒髪黒目に年相応の幼さを宿す、THE☆平凡とも言うべき外見。正直羨ましい。

 

 真意を探るような不躾な視線を受け止めながら、オレは敢えて笑みを見せる。

 彼が緊張するのも無理はない。

 夕暮れ時に余所様の家… それもそこそこ金持ちっぽい家に招かれたのだ。

 両親不在というのも緊張に拍車をかけるだろう。決して腐った意味がなかったとしても。

 

 さて、まずは彼の緊張を解してあげたいがそのためにはなんと声をかけるか…

 掛けるべき言葉を胸中で選定しながら、オレはこの少年との出会いを振り返ってみた。

 

 ………

 ……

 …

 

 ……卵や牛乳、カット野菜、お米に水出しのお茶パック。それから簡単な調味料の類。

 買い過ぎたか? と後悔しても後の祭り。英語で言うとアフター・ザ・フェスティバル。

 貧弱の一言に尽きる悠人少年の小学生ボディに多大な負荷をかけることになった。

 特にタイムセールとバッティングしてしまったのが痛かった。主婦の怖さは何処も共通。

 

「フッ、ここも地獄か…」

 

 戦利品を抱えて愚にもつかぬことを呟きつつ帰宅したオレの家の前に、その少年はいた。

 やべっ、恥ずかしい呟きを聞かれちゃったかな? いや、まだそうとは決まってない。

 軽く会釈し、帰ろうと踵を返しかけていた少年の横を通り過ぎる。

 きっと回覧板か何かを届けに来てくれたご近所さんだろう。うん、そう思うことにした。

 

「待てオマエ… いや、桜庭。何故外に出ている?」

「………」

 

 ……まさかの知り合いだったでゴザル。

 やべぇ、やべぇよ… 向こうはこっちのこと知ってそうなのに、こっちは全然知らないよ。

 向こうが一方的にこちらを知っているだけの熱心なストーカーである可能性… ないな。

 

「オイ、聞いてるのかッ!?」

「……怒鳴るな。聞こえている」

 

 あぁ、はいはい。聞こえていますとも。だから怒鳴らないでくださいな。

 ちょっとキミという予想外の緊急事態に遭遇してフリーズしちゃってただけですとも。

 ふむふむ、なんで外に出ているのかって? そりゃ勿論決まってますがな。

 

「だったら…ッ!」

「見ての通りだ。……他に説明が必要か?」

 

 最後の力を振り絞り、スーパーのレジ袋を持ち上げてみせる。説明するのも億劫だ。

 無口でクールな悠人少年が買い物なんてする筈がない! なんて流石に思われないだろう。

 誰だって生きるためには買い物をするのだ。完全自給自足する推定小学生とか怖いぞ。

 

 腕がちょっぴりプルプルしてる。がんばれ、悠人少年の貧弱ボディ。気合いだ! 根性だ!

 ひっひっふー… ひっひっふー… ってラマーズ呼吸法になってるじゃねぇか!?

 

「……ッ! 何が可笑しいんだ!?」

「いや… それよりオマエの用件は?」

 

 ハイになって吹き出しそうになるのを無理やり堪えたモノの口角が上がるのは隠せない。

 だから怒鳴らないで欲しいが… まぁ、諦めるしかないようだ。

 

 決して悪気があったわけじゃないが、真面目な話の時にいきなり笑ったら怒るよね。

 コレはオレが悪かっただろう。すまない少年。反省します。だが、今は謝る余裕はない。

 だからさっさと用件を告げてお帰りくださると嬉しい。回覧板のハンコか? サインか?

 

「……オマエが今日、無断で欠席したからな。学校のプリントを届けに来た」

「ほう? ……わざわざご苦労なことだ」

 

 なるほどねー。学校のプリントねー。ったく、レジ袋抱えながらだと鍵開けにくいな。

 ん? 『学校の』プリント… だと…? び、ビンゴォオオオオオオオオオッ!!!

 いやぁ、悠人少年が何処の学校に通ってるか分からなくて非常に不安だったが、手掛かりが向こうから来てくれるとは。ありがとう、見知らぬ少年よ! お前はオレにとっての新たな光だ!!

 

「なんだと…?」

 

 ハッ!?

 いかんいかん… “ご苦労”って目下の人間に使う言葉だよな。少年も気分を害している。

 だが、オレとしてはこの手掛かりを逃すつもりなどサラサラない。

 へっへっへっ、覚悟するんだな少年。オマエには明日、オレを学校まで送ってもらおうか!

 

 しかし(推定)無口でクールで厭世系男子の悠人少年が「学校がどこにあるのか分からないの… 送ってってくれる?」なんて上目遣いでお願いしてギャップ萌えをかますわけにはいかない。

 そういうのは映画『ロード・オブ・ザ・リング』の萌えドワーフ・ギムリさんだけで充分だ。

 よし、ようやく玄関の鍵が開いたぞ。何故か身構えている少年に笑みを浮かべて手招きする。

 

「気分を害したならば詫びよう。……上がっていくといい。珈琲でも出そうじゃないか」

「………」

 

 不良在庫の処分は忘れないオレ。“淹れる”じゃなくて“出す”と言うのがポイントだ。

 さて、ここからが正念場だ。

 “悠人少年のイメージは壊さない”、“話を合わせつつ明日学校に連れてってもらう”…

 両方やらなくっちゃいけないのが中の人の辛いところだな。覚悟はいいか? オレはできてる。




さて、次はどうしましょうかね…
このまま主人公サイドでいくか、あるいはオリ主サイドに視点変更をするか。
投稿も一段落といったところなので少し考えてみることにします。

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