オレを踏み台にしたぁ!?   作:(╹◡╹)

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少年と厨二病

「なんかもう、色々とすみませんでした。……ホレ、おまえも」

「なんでアタイまで… すーいーまーせーんーでーしーたー」

 

 目が覚めたオレは正座のまま頭を下げていた。

 俗にいう土下座スタイルである。

 

 隣には、オレを気絶するまで激しく暴行した自称アルフな美女ことメルマック星人。

 不本意そうな表情ではあるが、手をついて頭を下げることに抵抗はない様子だ。

 

 きっと心が広いのだろう。和を重んじるスタイル。リンディさんに通じるものがある。

 決して、四つん這いのほうが楽なスタイルであるとかではないだろう。決してだ。

 

「ふわぁ~…」

 

 あ、後足であざとい獣耳の後ろ掻いてる。……見なかったことにしよう、うん。

 そんなオレたちを見詰めているのは一組の男女。

 

 一人は今すぐにでも辞表を提出したい道場でよく合わせる顔、キョーちゃん氏である。

 もう一人は十代後半頃の美少女。月、月… 月島さんによく似ている。血縁者か?

 

 そんなこちらの様子に、困ったような微笑を浮かべつつキョーちゃん氏が口を開く。

 

「いや、驚きこそしたが謝られるようなことは何もないさ。気にしないでくれ」

「いえいえ、そこの凶暴なメルマック星人を止めてくれたみたいですし」

 

「だから、アタイは宇宙人なんかじゃ… ん? 宇宙人なのかな?」

「やっぱりメルマック星人なんじゃないか! この屋敷に猫目的で乗り込んだんだな!」

 

「ちーがーうーっての! 大体、アタイは無理矢理連れて来られたようなモンだよ!」

 

 やはり可愛い猫ちゃんと書いて食材と読むそれらを調達しにこの屋敷を襲ったのか!

 そして現場にオレを残しておけば完全犯罪成立だよ、畜生!

 

 猫を貪り喰らうばかりか、その犯人としてオレを仕立てあげる… なんて恐ろしい!

 その事態を止めてくれたキョーちゃん氏には頭が上がらない。でも道場は辞めたいです。

 

 再び睨み合いを始めたオレと自称アルフの耳に、涼やかな耳に心地よい声が届いた。

 

「まさか、人狼とも交わりがあったなんて…」

 

 ポツリと漏れてしまったという感じのその声の主は、月島さん似の美少女。

 思わず見詰めれば、彼女の方もその視線に気付き咳払いとともに居住まいを正した。

 

「あ、ごめんなさい。その人狼さんの言うとおり、連れてきたのは私たちです」

「ほれ見ろ、ほれ見ろ。やーいやーい、悠人の早とちりー!」

 

「ぐぬぬ…」

「ま、まぁまぁ… 悪いのは私たちなんだから、その、あまり喧嘩しないでね?」

 

「……はい」

「どうぞ、お掛けになって? ケーキも紅茶も用意させるわ」

 

「どうもすみません…」

 

 月島さん似の美少女にやんわりと窘められれ、渋々引き下がる。

 

 調子に乗ってアッカンベーまでしてくる自称アルフが非常にウザいがここは我慢だ。

 深呼吸を一つして、口を開く。

 

「しかし、どうしてオレを?」

「それは… その、あなたが行き倒れていたからだけど覚えてないの?」

 

「行き倒れていた?」

「えぇ」

 

「………」

 

 えっ、なにそれ怖い。

 

 思わず自称アルフを見詰めると、ツイッと視線を逸らされてしまった。

 おい、何だその態度。ちょっとこっち向こうか? おい。

 

 ……チッ、答える気がないならば仕方ない。

 さっきぶん殴られてビビッたわけじゃないぞ。うん、ビビッてないですよ?

 

 ひとまず目の前の女性が助けてくれたことになるわけだ。

 何が何だか分からない以上、詳細は説明できないがせめてお礼くらい言わなくては。

 

 多分プレシアさん怒らせちゃったから屋敷の外に放り出されたんだろうが。

 

「申し訳ない。事情は説明出来ないのですが、改めてお礼を言わせてください」

「いえ、構わないわ。……なにか困ったことに巻き込まれているようね」

 

「……フッ」

 

 美少女の的を射た指摘に、オレは曖昧に微笑むことしか出来ない。

 

 うん、悠人少年のボディに取り憑いちゃってて現在進行形でね! 言えないけどね!

 言ったら頭おかしくなったと思われて黄色い救急車を呼ばれちゃうだろうからね!

 

「ごめんなさい。……少し、不躾(ぶしつけ)だったみたいね」

「お気になさらず。お世話になっている身でそこまで気を遣われてはかえって恐縮です」

 

「………」

 

 いや、詳細を説明できないのは飽くまでこちらの事情だしなぁ…。

 

 むしろ謝られてしまうとかえってむず痒いし。

 十中八九、そこの自称アルフのせいだろうし。

 この人たち善意で助けてくれただけっぽいし。

 

 追い出すにしても、もうちょっとやり方ってのがあると思うよ? うん。

 

「本当に、変わっているのね… 恭也の言うとおり」

「だから言っただろう?」

 

「………」

 

 変わっている? はて、なんのことだろうか? あ、見た目のことかな?

 確かに銀髪オッドアイとか変わり過ぎてる。オレなら関わり合いになりたくないな。

 

 一人納得して頷くオレ。というより、キョーちゃん氏はキョーヤさんと言うのか。

 今後の道場生活を充実したものに変えるため、覚えておこう。すぐ辞めるけど。

 

 しかし眼鏡の美少女といい、モテる人はモテるんだなー。いや、あれは殺し愛なのか?

 考えこんで無言になってしまったオレを気遣うように、美少女さんは言葉を紡ぐ。

 

「……実は、折り入って相談したいことがあるの。この家のことで」

「………」

 

 オレの聞き間違いだろうか? 今、突拍子もないことを言われた気がするが。

 

 いや、うん。そりゃまぁ、相談されたら自分に出来る範囲で真摯に話を聞きますよ?

 でもね? そういうこといきなり言われてもちょっと困ってしまうんですよね。

 

 悠人少年はただの見た目痛々しいブラック缶珈琲中毒の厨二病患者。

 そしてオレはそんな彼に取り憑いてしまった状況に振り回されるただの小市民。

 

 対して見ただけで分かる豪邸と、そこのお嬢様っぽい美少女。

 それがいきなり深刻そうな表情をして相談とか言われても、多分お役に立てないだろう。

 

 なんか重そうな話だし、一晩泊めて貰って申し訳ないが期待させてしまうのもアレだ。

 ひとまず、ここはしっかりとお断りしよう!

 

 神龍(シェンロン)も己の力を超えた願いは叶えられないのだ。オレ、神龍(シェンロン)じゃないけど。

 

「なるほど、お話はわかりました。ですが…」

「フッ… 悠人に目を付けるとは中々分かってるじゃないか、アンタ」

 

「おい」

 

 そこに不敵な笑みを浮かべた自称アルフさんが割り込んできて、寝言をほざいたのだ。

 差し出されたロールケーキの2つ目を手掴みで食べつつ。

 

 ……うん。オレのだよね、それ。ほっぺにクリームついててあざといけどオレのだよね?

 

「何より、アタイを人狼だと言ってのけるその目は大したもんさ」

「あら? 否定はしないのね」

 

「当たらずとも遠からずってトコさ。訂正するほど間違っちゃいないからね」

「そこまでにしておけよ、赤モップ」

 

「誰が赤モップだ」

 

 前が見えねぇ…。

 

 拳を顔面にめり込まされつつ、オレは思わず突っ込んでしまった自身の迂闊さを呪った。

 今度は気絶しなかったのが不幸中の幸いだろうか?

 

 ……いや、めちゃくちゃ痛いから幸いじゃないよね。辛いだよね。

 そんなオレたちのやり取りが滑稽だったのだろう。美少女はクスリと微笑んだ。

 

 そして続けて口を開いた。

 

「……あなたは、すずかと仲良くしてくれているのかしら?」

「え? えーと…」

 

「フフッ、意地悪な質問だったかしら? ごめんなさい」

「いえ…」

 

 思わず「誰でしたっけ、それ?」と言いそうになったが言い淀んで正解だった。

 確か… えーと、そう! 月島さんの下の名前だったはず!

 

 冷静に記憶を探って無事思い出したオレは、自らの成果に満足気に頷く。

 こう、なんというか長いこと喉に詰まっていた魚の骨が取れたかのような爽快感だ。

 

 実に結構! 満足気に頷いていると、そこで自称アルフさんが口を開いた。

 

「察するに… その『スズカ』って妹に関する話かい?」

「………」

 

「そんなに警戒しなくてもいいって。アタイにとっちゃ所詮他所の家の話さ」

「……それも、そうね」

 

「それにさ」

 

 何故かこちらを見てニヤリと笑う自称アルフ。猛烈に嫌な予感がする。

 他所の家の重そうな話など、関わったところで百害あって一利無しだろう。

 

 なんとしても止めなくては… そう思いつつ、会話に割り込もうとする。

 

「おい、アルフさんや。余計なことは…」

「なんてったって、家族間の悩み事なら悠人の得意分野! スペシャリストさ!」

 

「おい」

 

 あまりに突拍子のない言葉に、思わずツッコミを入れてしまう。

 ほれ見ろ、美少女さんも目を丸くしているじゃないか。

 

 一体いつそんな面倒くさそうなものを、得意分野にしたというのだろうか。

 悠人少年か? オレの知らない悠人少年のもう一つの素顔なのか?

 

 ……と、混乱している場合じゃない。早く誤解を解かないと。

 

「みなさん、そこの赤モップに騙されては…」

「あぁ、そうだな。彼女の言うとおりだ… なんだったら俺も太鼓判を押すぞ?」

 

「ちょ、ま… おい」

 

 自称アルフさんの根拠レスな発言に対し、自信満々に語るキョーヤ氏。

 

 太鼓判とはそんな簡単に押していいものではありませんよ?

 曖昧な発言に惑わされては真実を見極める目が腐ってしまいます。ご再考を。

 

 思わず抗議の視線を送ると、キョーヤ氏はそれに気付いて力強く頷いてくれた。

 ……ふぅ、分かってくれたか。

 

 そう思ったのも束の間。

 

「コイツはな… 美由希の料理を残さず食べた」

「!?」

 

 うん、何も知らなかったせいで食う羽目になっただけだからね?

 知ってたら絶対にご馳走にならなかったからね?

 

 眼鏡さん泣きそうだったから死ぬ気で完食したけど、もう二度とごめんですからね?

 あの件に関してだけはオレ、純然たる被害者ですからね?

 

「それだけでも凄いのに… その後、怒りもせず正しい道を諭してくれたんだ」

「まぁ…」

 

「いやいや、怒るとかそんなことできませんから」

 

 機嫌を損ねてしまったら即座に捻り潰されてしまうほどの実力差があるのだ。

 あの時は一刻も早く家に戻りたかったし、文句を言ってる暇などありはしない。

 

 事実、病院で『なんで生きてるの、おまえ?(意訳)』的なこと言われたし。

 巨大なお世話である。泣きたい。

 

「おかげで美由希はアレからレシピ通りに調理をしているよ」

「あ、それはグッドニュースですね。凄く嬉しいです、被験者的に考えて」

 

「なるほどね… 人狼さんと恭也、二人の話はよく分かったわ」

 

 和やかなニュースに、オレが思わず気を緩めてしまった刹那の間隙を過たず。

 

「私も、あなたのことを信じます。……どうか、話を聞いてくれませんか?」

 

 丁寧な言葉づかいで頭を下げる美少女さんの姿があった。

 そして期待の眼差しでオレをじっと見詰める自称アルフさんとキョーヤ氏。

 

 そんな彼女らを前にオレにできる返事は…

 

「……はい。自分で良ければ」

 

 これしかなかった。

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

 門を出て振り返ると、お世話になった気持ちを屋敷に向けたお辞儀で示す。

 隣には自称アルフさんが立っている。なんでコイツ、ニヤニヤしてるんだろ?

 

 思わず尋ねる。

 

「どうしたんだ?」

「いや、やっぱ悠人はすごいなーってね。へへっ! けっこう大変な話だったじゃん?」

 

「……まぁ、大変だったな」

 

 ある意味で、だが。そう… 主に忍さんの話のジャンル的な意味で。

 あ、名前呼びの許可いただいてます。月島さんだと区別つかないしね。

 

 お辞儀の姿勢を解くと、オレは重苦しい溜息とともに言葉を紡いだ。

 

「まさか彼女が、重度の厨二病患者だったとは…」

「チューニビョウって?」

 

「んー… 『自分は夜の一族だよ』とか『メイドさんロボッ娘だよ』ってあたりかな」

「なるほど。つまり、特殊な事情とかワケあり物件ってヤツだね?」

 

「……うん。まぁ、そんなかんじでいいや」

 

 自称アルフさんの言葉を適当に流しつつ、先ほどの会話を振り返る。

 ……忍さんの話は、まさに衝撃的な内容であった。

 

 自分は『夜の一族』という、吸血鬼的なサムシングの血を引いていると宣ったのだ。

 無論、あのツッコミ属性持ちの妹さんも同様にだ。

 

 “吸血鬼狩人なDさん”とか“私を殺した責任とって貰うんだからね”、の世界観である。

 多分思春期にラノベとかゲームにどっぷりハマり込んでしまったのだろう。

 

 なんでまたそれをオレに… あぁ、悠人少年だからか。なんか納得してしまった。

 多分、同じ病に罹った者として何らかのシンパシーを感じちゃったんだろう。

 

 厨二病同士は惹かれ合う… みたいな何かがあるんだろう。きっと、多分、メイビー。

 フェイトも初対面の時は大分アレだったしね。うん。

 

 まぁ、悠人少年が戻ってきたらすごく話が合いそうな御仁である。

 

「なんにしても少しばかり疲れたなぁ…」

 

 妹さんの悩みの原因は判明した。ほぼ100%姉の厨二病が原因と断言できる。

 オレの目は節穴ではない。……確かに基本的に可愛いは正義だろう。

 

 オレ個人としての意見ならば、そこらの美少女が厨二病でも萌え要素だと思う。

 むしろ、そこにはあざとさすら覚えるであろう。

 

 だが、それが身内… それもこんなでかい屋敷で次期当主だとしたらどうだろうか。

 更には、あの打てば響くようなツッコミ属性持ちの妹さんである。

 

 きっと生真面目な彼女は悩んでしまったのだろう。

 

「へぇ… アタイにはよく分からないけど、そんな疲れるような話だったんだ?」

「そらそうよ。厨二病との会話は設定を破綻させないように気を付けて会話しないとだし」

 

「ふーん… の割りには、スラスラ会話してたようだけど?」

「まぁ、オレもかつては発症した痛みだからな。波長を合わせるくらいは出来るさ」

 

「流石だねぇ」

「といってもそれはそれで疲れるんだが… あ、そういえばよくもケーキを」

 

「あ、あはは… 悪かったよ。そ… それより、あの子たちは今後は大丈夫なのかい?」

 

 引きつった笑いを浮かべながら露骨に話題を逸らしてくる。

 

 ……まぁ返せ戻せと言ったところで出来るものでもないだろうし、諦めるしかないか。

 再び溜息を吐きつつ話に乗ってみる。

 

「ま、大丈夫だろ… 多分だけどな」

「へぇ?」

 

「そもそも論からして、全く悩みのない家族の方が異常なんじゃないか?」

「なんでさ?」

 

「そういったもんを乗り越えてお互い成長する。って思ってた方が失敗に怯えないだろ」

「そういうもんなのかねぇ」

 

「そういうもんなんだよ。オレにとってはな」

 

 話した内容もごくごく簡単なもの。

 

 家族のことを忘れないようにってことと、特別な存在なんていないってこと。

 それらを厨二病風にふわっと曖昧に語っただけである。

 

 後者については、まぁ、いるにはいるんだろうがいないと思ってた方が健全だと思う。

 飽くまでオレの考えなんで、そこは強調しておいた。

 

 無理に他人に合わせる必要はないってね。

 

 恐らく適当かつ曖昧なオレの話なんて参考にすらならないと理解したのだろう。

 忍さんとキョーヤ氏は微笑んで頷いてくれた。大人の対応である。

 

 そんなこんなで、今はお屋敷の正門前。大きく伸びをしてからオレは口を開いた。

 

「ひとまず家に戻って用意したら学校に行くか」

「あいよー」

 

「え? ついてくんの?」

 

 そう言って、歩き出したオレの後についてくる赤毛の女性… 自称アルフさん。

 思わず怪訝な表情を浮かべて尋ねてしまったが、逆に自慢気な表情を浮かべられた。

 

「そりゃそうだよ。フェイトに頼まれたもん」

「ふーん。流石に学校の中までは入れないと思うけど…」

 

「なら表で待っとくさ」

「放課後まで時間かかるぞ」

 

「んじゃ時間まで適当に散歩してるよ」

 

 ……まぁ、いいか。

 

 首を傾げつつもオレは準備を整え、自称アルフさんとともに学校に向かうのであった。

 

 

 ………

 ……

 …

 

 

 HRにはなんとか間に合った。

 何故か扉の前で待機していた、ゴリ君と眼鏡君の二人の挨拶に手を上げて応える。

 

 汗を拭いつつ教室の扉を開けると、深刻そうな表情で話し合ってる者達がいた。

 

 なんだろうと思いつつ近付いてみれば、そこには見知った二人…

 即ち名無しの少年とツインテールっぽい髪型の少女だったので気軽に挨拶をした。

 

 オレのイメージする悠人少年っぽくクールかつキラっとした感じで。

 

「フッ、おはよう」

 

 二人はそんなオレの姿を見るなりに固まってしまった。

 あれ? ……外してしまっただろうか?

 

「なんでどうやって助けるか考えてたのにいるんだよ!?」

「へなっぷ!?」

 

「ちょっ、刀真くん!?」

 

 ……何故かいきなり殴られてしまった。解せぬ。

 ひょっとして、いては悪かったのだろうか?

 

 纏まらぬ思考に囚われつつも、オレは意識を手放した。

 果たして我が残機は大丈夫なのだろうか? そんな懸念を抱きつつ。




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