オレを踏み台にしたぁ!? 作:(╹◡╹)
「うん、私は大丈夫。だから…」
私は今、ちゃんと笑顔を浮かべられているだろうか?
大切な人を心配させないための笑顔を。
「お願い。あなたにしか頼めないの」
これは一時の別れに過ぎない。
悲しむ理由なんてどこにもないし、いつか必ず再び道は交わる。
だから、その日のために私は一つの約束をすることにした。
……うん、悪くない。こういうのは、悪くないよね。
今までの私じゃ信じられないことだけど、こんな私なら少しは好きになれるかもしれない。
「フフッ…」
私はこの二日間の出来事を振り返っていた。
………
……
…
アルフと協力しての広範囲索敵を行うことにより、ジュエルシードの場所が明らかになった。
その場所は海中。手掛かりが掴めなかったジュエルシードが複数眠っている可能性は高い。
ただ、管理局が本格的に介入してきたせいで時間的余裕は少ない。程無く彼らも気付くだろう。
当初は上手く出し抜けていたが、ここ最近はこちらの動きを制限する方向にシフトしている。
マンパワーを駆使した牽制と索敵。地道ではあるが対処の仕様がない戦法と言えるだろう。
幾らスピードで優っていても厳しいものがある。ましてこちらは一度負ければおしまいなのだ。
「一度、二度ならあの黒いのが出てこない限りあしらえるんだけどねぇ…」
「……油断は禁物だよ、アルフ。あの白い子たちもますます強くなっている」
「確かにね。今回のジュエルシードを確保したら一度、時の庭園に戻るべきかもしれないね」
「……ん」
アルフの提案は一理ある。既に管理局はこちらを完全に敵性勢力として認識しているだろう。
出し抜きジュエルシードを確保するならまだしも、確保されたソレを奪うのは至難の業だ。
母さんと一度対応を相談すべきかも。……いや、久しぶりに母さんの顔を見たいとかではなく。
「顔、ニヤけてるよ?」
「……ニヤけてない」
「あっははは! 全く、おすましさんなフェイトが随分と表情豊かになったもんだよ」
何がおかしいのか、グリグリと頭を撫でられる。むぅ… 今日のアルフはちょっと意地悪だ。
そんなことを話しながら目標地点の海上まで到着。念の為に探知を… うん、間違いない。
飽きもせず私を撫で続けているアルフを身体から引き剥がし、本日の作戦のおさらいを始める。
「眠っているジュエルシードに魔力波を打ち込み、強制的に活性化させる」
「その上で位置を特定し、速やかに封印。管理局が来る前にずらかるって寸法ね」
「うん。介入された場合は、相手戦力にもよるけど撤退も視野にいれること」
私たちが捕まることは母さんに不利益しかもたらさない。そう“あの人”に気付かされたから。
魔力波を打ち込むのはアルフの役割だ。私は直後に控えるだろう暴走体との戦闘に備える。
アルフはそのまま私のサポートと周囲の警戒を行う。そういった作戦の手順の確認を済ませる。
そして準備を整え、作戦を決行… アルフが目標地点の近辺に大規模な魔力波を打ち込む。
「っ! ジュエルシード、複数だとは思っていたけど6つ…」
「少しヤバイ感じだね… どうするの、フェイト?」
「……むしろ好都合」
「けど、管理局に挟み撃ちにされるかもしれない状況じゃ無茶だよ!」
「無茶は承知の上。アルフ、サポートをよろしく… 信じてる」
返事を待たずに荒れ狂う竜巻の中に飛び込む。
「あ… もうっ! わかったよ、やるよ! アタシはフェイトのパートナーなんだから!」
自棄になったような諦めたようなアルフの声に、自然、笑みが浮かぶ。
アルフはさっき私の表情が豊かになったと言っていたけれど、本当にそうなのかも知れない。
ジュエルシードのことが片付いたら、母さんとアルフと3人でゆっくり話をしてみたい。
きっと、それは今までよりももっともっと楽しく感じられる筈だから。
それから、想像以上に厄介な6つの暴走体の攻守を前に私たちは突破口を見出だせずにいた。
……判断を誤ったかもしれない。程無く管理局もこちらに気付き介入を始めることだろう。
いや、既に気付いた上でこちらの消耗を待っているかも。いずれにせよ状況はジリ貧と言える。
「っ!」
思考に没頭しかけた私に向かって伸びた海水の鞭が身体を掠める。辛くも回避に成功した。
「フェイトッ!?」
「大丈夫…!」
落ち着け、落ち着け… 焦っても良いことは一つもない。落ち着いて、戦場を支配するんだ。
「フェイちゃん!」
けど悪い時に悪いことは重なるもので、気合を入れ直そうとした私の背後に“彼女”が現れる。
……ジュエルシードを巡って戦う魔導師の少女が、その仲間である少年と使い魔とともに。
管理局員の姿が見えないのは不幸中の幸いだが… 暴走体の片手間にあしらえる相手ではない。
「………」
暴走体への攻撃を中断して、彼女たちの攻撃に備えて身構える。
先に動くのは彼女か、彼女の仲間たちか… いずれにせよ格上の相手だ。油断も慢心もしない。
先に動いたのは少年と使い魔の二人。
けれど、それは私やアルフを捕獲するためのモノではなく…
未だ猛威を奮っている暴走体へ攻撃を加え、バインドで縛ろうとするものだった。
一体どういうこと?
不可思議な光景を前に、アルフとともについ目で追ってしまう。
だが、この状況でその隙を晒すことは余りに致命的だった。
「フェイちゃん」
「っ!」
慌てて私がバルディッシュを構え直すより早く、彼女のデバイスに制される形で抑えられた。
迂闊… クロスレンジまで接近を許すとは。
そう焦る私の想いと裏腹に、彼女はいつまで経っても攻撃を仕掛けてこない。
どういうことだろう? また分からないことが増えた。
おかげで減衰していた私の魔力は万全な状態へと戻ったが、彼女の意図が読めない。
呆気にとられる私に対して、彼女は笑顔を浮かべながら声をかけてくる。
「ジュエルシードは3つずつ半分こ。せーので決めるよ、フェイちゃん?」
何かと思えば… 魔力を分けてくれたことには感謝するけれどソレはソレだ。
そもそもジュエルシードは母さんのために集めているもの。感謝はするが譲れるものではない。
……ならば、返事は決まっている。
「せー…」
「全部貰うからお先に… あと、フェイちゃんじゃない」
「にゃああああ! なんで無視するの!? ここは友情パワーに目覚めるところじゃないの?!」
「そんなものは、ない」
この場ではこちらからは攻撃しないこと・騙し打ちはしないことがせめてもの誠意だろうか。
なんか友情パワーとか叫んでいたが、今までの戦闘の何処にそんな要素があったのだろう?
彼女には悪いけれど、私にとって彼女はジュエルシードを巡る上での厄介な障害でしかないし。
そのまま勢いに乗り暴走体を攻撃する。二度、三度… 手応えは十分。これなら行けるかも。
……これも彼女の魔力のおかげだろう。
流石にジュエルシードは譲ることは出来ないが、好意に応えて多少の友誼を交わすくらいは…
「!?」
そんな時、ふと悪寒がして慌ててその場から飛び退く。何故だかとても不味い気がしたのだ。
案の定というべきか、先程まで私がいた場所を極太の魔力砲が通過し暴走体へと直撃する。
……ソレが意味するものは一つ。私が恐る恐る件の少女を振り返れば、彼女は笑顔を浮かべる。
え? この状況でなんで笑うの…。
「い、今… 私ごと狙った…?」
「それくらいで当たるなら今まで苦労してないよ! 無視するなら勝手に協力するんだから!」
どうしよう、ちょっと言っている意味がわからない。言葉は通じるけれど気持ちが通じない。
ふと彼女の使い魔と目が合う。目線で助けを求めたものの、静かに頭を下げられてしまう。
……うん、知ってた。使い魔の彼も彼女にはしばしば振り回されている様子だった。諦めよう。
敵とちょっとでも馴れ合おうと思った私が悪かったんだ。……うん、そう思うことにしよう。
「って、まずい! 暴走体が融合しようとしている! そうなったらバインドも危ういぞ!」
遠い目をしていたであろう私の耳に、アルフと連携して暴走体を拘束していた少年の声が届く。
「……もういい。たとえ背中から狙われてても落ちる前に落とせばいい」
色々と思うところはあるけれど、今はジュエルシードへの対処を何よりも優先すべきだろう。
「私たち二人の協力攻撃だね、フェイちゃん!」
「……絶対に違う。これは、もっとおぞましい何か」
彼女の寝言を斬り捨てて暴走体に接近する。前方と後方からの攻撃をかわしながら封印作業。
私にやれるだろうか? ……いや、やってみせるしかない! 来ると分かっているのならっ!!
「ッ!」
融合の兆しを見せる暴走体へと得意のスピードで割り込み、一閃。崩れたところをもう一閃。
更にもう一閃… を加えることなく、距離を取る。直後に暴走体を飲み込む極太の魔力砲。
この連携とも言えぬ動きを二度三度繰り返すことで確信した。彼女は私を目印に狙っていると。
そう… 彼女は、
思い通りにさせるわけにはいかない。私には母さんがいて、帰るべき場所があるのだから。
私を信じてくれたアルフのためにも、何より“あの人”のためにも、私は負けるわけにいかない。
気合負けしないように彼女を睨みつける。
なのに彼女は笑顔で応じてくる。楽しくてたまらないというように。
……どうしよう、怖い。
いや、慌てる必要はない。落ち着いて、的確に、迅速に問題を片付けよう。
それがこの恐怖の時間を少しでも早く終わらせる結果へと繋がる。
そして程無く…
私たちは暴走体を消滅させ、ジュエルシードを封印することに成功した。
今、私たちの目の前には6つのジュエルシードが浮かんでいる。
「じゃあ、フェイちゃん。このジュエルシードを巡って… 恨みっこなしの勝負だよ」
笑顔でそう告げてくる、白い魔導師の少女。
戦うのは何度目になるだろうか?
……彼女は強い。目の前の少女の強さは私が誰よりも知っているつもりだ。
どれだけ叩いても諦めず、そして以前より確実に成長して立ちはだかる。
今やまともに戦ったところで、私の勝ち目は限りなく低いだろう。
けれど、それが私の諦める理由になることはない。
私は大魔導師プレシア=テスタロッサの娘で、
リニスの一番弟子で、
アルフの信頼を背負っていて、
“
そして、“あの人”の教えを胸に抱いているのだ。
だからこそ。
そう… たとえ勝機が那由多の彼方であろうとも、それだけで、私には充分すぎる。
「………」
無言で構えることで彼女への返事とする。
互いの了承を認識し、戦闘行動に移るまでの僅かな静寂。
それは突然、思いもよらぬところから破られることになる。
「うぉおおおおおおおおおおおおッ!」
その場に突如乱入してきた“あの人”の叫び声。
そして直後に耳朶を打った次元跳躍魔法がもたらす雷鳴によって。
頭が真っ白になる。
焼け焦げた“あの人”は力なく落下していき… なんとか捕まえて抱き上げる。
「あ、あぁああああああぁぁぁ…」
冗談だよと言って欲しい。なんともないと笑って欲しい。
なのに、伝わってくるのは残酷な現実ばかりで。
彼は母さんの… 大魔導師プレシア=テスタロッサの魔法を受けてしまった。
その身にバリアジャケットすら纏わず、己の身を投げ出すようにして。
「しっかり… しっかりしてください! こんな、こんな…」
こんな… 血が、こんなに… 意識もない… 呼吸は浅く、脈拍も低下している。
なんとか、私がなんとかしないと… この人をこんなところで死なせるわけにはいかない。
なのに… それなのに!
頭が真っ白になるばかりで動けない。涙が溢れて思考がぐちゃぐちゃになってしまう。
「……すま、ない」
その時、やけにハッキリとした声が届いた。
この人は、こんな時にも… ううん、違う。今考えるべきはそれではない。
しっかりしろ、フェイト=テスタロッサ。
この人を救うために自分の持てる全ての力を使うべき時だろう。
もう大丈夫。迷うことはない。
『アルフ、ジュエルシードを回収して』
『……フェイト?』
念話を送り、アルフに指示を出す。
理解した。認識した。
いや、今それが出来るのはきっと世界で一人だけ。
大魔導師プレシア=テスタロッサ… 私の母さんを置いて他にはない。
『全速力で時の庭園へと帰還する』
今、私に出来ることは… 少しでも早く動くことでこの人の命を繋ぐことだ。
アルフのサポートによる最低限の隠蔽を施し、私たちは時の庭園へと… 跳んだ。
「死なせない… 私たちを救ってくれた、この人を…」
またも上下に別れてしまいました。読み難い場合は申し訳ありません。
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