オレを踏み台にしたぁ!?   作:(╹◡╹)

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彼の決意

 血塗れの“アイツ”が、まるで肉が焦げたみたいな嫌な匂いを出しながら落下していく。

 糸の切れた人形のように意思を感じさせず、されるがままに海面へと落ちていく。

 俺は動けない。俺だけじゃなく、高町も、スクライアも、みんな目の前の光景に固まっている。

 

 いや、この場において一人だけ例外がいた。……“フェイ”と名乗っていた黒い魔法少女だ。

 これまでジュエルシードを巡って、幾度と無く戦いを繰り返してきた宿敵のような存在。

 正直、ジュエルシードのためなら手段を選ばず、感情を捨てられる冷酷な人間だと思っていた。

 

 なのに… その彼女が、敵である筈のアイツを抱きかかえて悲鳴をあげている。

 

「しっかり… しっかりしてください! こんな、こんな… いやぁああああああ!」

 

 ……それに引き換え、俺の体たらくっぷりはなんだ。

 

 敵である人間を支え、想い慟哭する彼女。仮にも味方の危機のはずなのに動けないでいる俺。

 アイツが高町を突き飛ばして代わりにあの落雷を受けたのは明白。身代わりになったのだ。

 まるで現実味というものがなく、目前で起こっているソレが出来の悪い人形劇のように思えて。

 

「あ… あ、桜庭…?」

 

 俺は動けないでいる。理解が追いつけない光景に、ただ呆然とするばかりで。

 考える前に動かなくてはという想いと、動く前に考えなくてはという想いがせめぎ合い…

 体は鉛のように重く動きを堰き止め、口は全ての言葉を忘れたように声が出ない。

 

 結局何も出来ないまま、ただ、漠然と時間を浪費する。

 

 

 

 

 

 なのに、それなのに…

 

「……すま、ない」

 

 絞り出したという表現がピッタリのアイツの声は、別人のようにしゃがれ、ひび割れていて。

 

 そこに、現実感などありはしない。……それはきっと、みんな同じだったのだろう。

 誰も動けなかった。彼女がアイツを抱えたまま、どこかへ姿を消してしまっても。

 彼女の使い魔がジュエルシードを全て回収してしまっても。誰も、動くことなど出来なかった。

 

 最後まで誰一人動くことが出来なかった。……動けばあの光景を現実と認めてしまう気がして。

 

 先程の落雷の衝撃で巻き上げられた海水が水蒸気となって立ち昇り、やがてそれは雨を呼ぶ。

 まず数滴の水飛沫が頬を濡らし、程無く土砂降りとなって全身を容赦なく打ち付けてくる。

 それでも俺たちは動けないままで、リンディさんに促されて漸く帰投するに至ったのであった。

 

 水飛沫を浴びても、雨に打たれても、目の前の現実は変わらない。……否定されることはない。

 

 管理局の静止も聞かずに飛び出したにもかかわらず、油断して敵の攻撃を受けそうになる。

 動けなかった俺たちを身を挺して庇ったのは、よりによって俺たちを諭したアイツで…

 その結果、アイツは瀕死の重傷を負った上で攫われ、ジュエルシードも持ち去られてしまった。

 

 これなら何もしない方が良かった。思い込みで動き、みんなを危険に晒し、そして傷付けた。

 管理局の指示に逆らって好き勝手に戦場にしゃしゃり出てきて、挙句の果てにこれかよ…!

 無様… なんて無様で情けない姿なのか。噛み締めた唇が裂けて、口の中に錆鉄の味が広がる。

 

「クソッ… 何をやっているんだよ、俺は!」

 

 俺の呟きは雨音の中に掻き消えていく。

 どうしてこんなことになってしまったんだろう。……俺は、出撃前の出来事を思い返していた。

 

 

 

 

 

 

 ………

 ……

 …

 

「フェイちゃん!? あのっ、私助けに…」

「俺も出る! いいだろう、クロノ?」

 

「その必要はない」

 

 高町を追ってブリッジに到着した俺たちは、其処にいた桜庭を押し退けて出撃許可を求めた。

 だが、返ってきた返事は否定。……彼女の消耗を待ち、安全に確保することを管理局は選んだ。

 

「私たちは常に最善の選択をしないといけないの。残酷に見えるかもしれないけれど…」

「そんなの、絶対に間違ってる!」

 

 思わず言葉を遮り叫んでしまう。リンディさんには悪いけど、俺はそんなのおかしいと思う。

 確かにあの女の子には今までだって何度も邪魔されてきた。敵ってことで間違いないんだろう。

 けれど、それでも…

 

「最善の選択ってのは彼女も救って、暴走体も封印することだろう?」

「そうあれもこれもと上手くいくものか。現実を見るんだ、刀真」

 

「挑戦もしないでなんでそんなことが言える! 目の前の人間一人救えなくて何が現実だ!」

「空虚な理想論は結構だ。全ての人間が僅か数名の素人の理屈で救えるならば管理局は要らない」

 

「っ! ……でも、それでもっ!」

「刀真くん…」

 

 クロノの言ってることは分かる。俺には高町みたいな魔力もスクライアのような知識もない。

 そもそも俺みたいな未熟者が出て行ったところで、出来ることなんかたかが知れているだろう。

 でもっ!

 

「……行こう、二人とも」

 

 そのタイミングで、これまで沈黙を守ってきたスクライアが口を開く。

 

「ユーノ、君もそうなのか? 君の役目は何だったのか、もう一度だけ思い出してくれ」

「……僕には何が正しいか分からない。でも、アレを見て何もしないままなのは… 僕は、嫌だ」

 

 諭すようなクロノの口調にスクライアは迷いを見せながら、それでもキッパリと言い切った。

 そして三人で目を合わせ、それぞれ頷くと… 不意をついて転送ポータルに向けて駆け出した。

 

「あっ、待て!」

 

 しかし…

 そんな俺たちの行動を読んでいたのか、いつの間にかアイツ… 桜庭がその前に陣取っていた。

 

「っ! ……桜庭くん、お願い。其処を通して!」

「………」

 

 以前ならすぐに応じていたであろう高町の声にも何の反応も見せない。悪感情も見せないが。

 ……改めて考えてみると、ここ最近のコイツの変貌ぶりは以前から考えれば異常の一言だ。

 けど、そんな今だからこそ話が通じるかもしれない。一縷の望みをかけて俺も呼びかけてみる。

 

 流石に協力を求めるのは望み過ぎだろうが、今のコイツならば通してくれるかもしれない。

 しかし、やはり返事はなく無言のままだ。……いや、僅かに思案するような様子を見せたか。

 少なくとも、俺たちの言葉は通じているはずだ。あと少しで分かってくれるかもしれない。

 

「あの子は、目的の障害で敵… なのかもしれない。けど、あんな姿を見たら放っておけないよ」

 

 そこにスクライアが言葉を被せる。常日頃友好的な者の言葉ならコイツに届くかもしれない。

 馬が合ったとか波長が合ったとかと言うべきか、初対面から仲良くしている様子だったし…

 スクライア自身もコイツについて「そう悪い人じゃないと思う」と庇うような姿勢を見せてた。

 

 そのスクライアの言葉ならあるいは…

 

 

 

 

 

 

「あぁ、そうだ。間違っているのは君たちで… この場では、管理局の判断が正しい」

 

 けれどコイツは… 桜庭は冷笑とも受け取れる邪悪な笑みを浮かべつつ、それを否定した。

 人を小馬鹿にするような大仰な仕草を交え、スクライアの友情すらも踏みにじったんだ。

 コイツを少しでも信じようと思った俺がバカだった。やはりコイツは何一つ変わっちゃいない。

 

 感じた気持ちは怒りと失望。最悪のタイミングで嫌がらせをするコイツは、コイツだけは…!

 今にもコイツに飛び掛かりたくなるが、今は一刻を争う。内輪もめをしてる場合じゃない。

 ……そう自分の気持ちを抑えつけ、桜庭を真っ直ぐ睨みつつ怒りに震える声で最後通牒を行う。

 

「これが最後だ。……そこをどけ、桜庭」

「少年」

 

 だが返ってきた声はからかいなど微塵も含まない、真摯な、こちらを(おもんばか)る色に満ちていた。

 真っ直ぐと見返されたその深い瞳に虚を突かれ、怒りの感情が一瞬にして霧散してしまう。

 

「少女も… そしてユーノ君も、どうかよく聞いて欲しい」

「………」

 

 俺たち一人一人をしっかりと見据えてから、静かに、だがよく通る声でアイツは語りだす。

 誰もそれを邪魔できない。

 

「管理局は確かにこの場で待機することを命じた。……それは何故だと思う?」

「そ、それは… フェイちゃんを捕まえるためで!」

 

 問いかけに対して、高町が我を取り戻して食って掛かるも… アイツは、静かに首を横に振る。

 

「その回答では五十点だ。あの黒い少女を捕らえることは十分条件であっても必要条件ではない」

「……必要条件じゃない、って?」

 

「彼女を攻撃することが主眼なら、今この機会を包囲殲滅に使わないのは非効率的だといえる」

「そんな…」

 

「そうだろう? まず黒い少女を確実に排除。後に、ゆっくり封印作業に当たればいいのだから」

「そんなのってないよ! あんまりだよ!」

 

 高町が叫ぶ。俺も同じ気持ちだ。それが正しいことだとしても、到底納得なんて出来やしない。

 

「そうだな。だが、その命令をハラオウン艦長は出さなかった」

「そ、それはそうだけど…」

 

 確かにそうだった。本当にあの黒い少女… “フェイ”のことが邪魔なら攻撃をしていたはずだ。

 ならば、一体どういうことなんだろう?

 

「管理局の目的は一貫している。それは何か… ユーノ君ならば分かるだろう」

「……この第97管理外世界への影響を最小限に抑えた上での、危険なロストロギアの確保」

 

Exactly(そのとおりでございます)

 

 芝居がかった仕草でスクライアの言葉を肯定する。ますます意味が分からなくなってきたぞ。

 管理局の… リンディさんたちの目的がロストロギアの確保なら、何故すぐに出撃しないんだ?

 “フェイ”が首尾よく封印に成功してしまう可能性だってゼロじゃないのに…

 

 けど、俺たちはただの思い込みでクロノやみんなに酷いことを言ってしまったんじゃないか?

 ひょっとしたら俺たちはとんでもない思い違いをしていたのか? そんな気持ちが湧いてくる。

 

「黒い少女は確かに重要参考人だ。だが裏を返せば、現状それ以上の意味は持たないだろう」

「………」

 

 いや、ジュエルシードを持ち去ってたり色々と重要だとは思うが… まぁ黙っておこう。

 

「目の前の、それも6個もあるロストロギアへの対処以上に優先する意味は無い。……本来はな」

「それって… フェイちゃんについての命令を先に出すのはおかしい、ってこと?」

 

 高町の問いかけに対してアイツは無言で頷くと、続いて驚くべきことを口に出してきた。

 

「意味があるとすればただ一つ。管理局もまた、彼女を保護したい… そう考えていたのさ」

「なん… だと…!?」

 

 頭を鈍器で殴られたかのような衝撃に、思わず言葉を漏らしてしまう。

 もしそれが本当だとしたら、そんなことを考えもしなかった俺は道化と呼ぶのも烏滸(おこ)がましい。

 

「幼い少女がロストロギア回収という危険な作業に関わっている。裏を考えるのが当然だろう?」

「それは… うん」

 

 高町も、以前から気にはなっていたのだろう。アイツの言葉に対して、沈んだ面持ちで頷く。

 でも年齢については俺たち全員似たようなもんじゃないかな? ……言うつもりはないけどさ。

 

「任務と人情の両立を現場レベルで折り合い付けたこの命令を… オレは“最善の判断”だと思う」

「っ! でも、それなら… 今フェイちゃんを助けても…!」

 

「なのは…」

「高町…」

 

 それでも高町は諦めない。自分に出来る最善を尽くそうとする。その姿勢は眩しいと思う。

 恐らくコイツにしても同じなんだろう。少しだけ(いた)ましそうな顔をして、ゆっくり首を振った。

 

「どうして!?」

「少女が余力を残した結果、逃げられたらどうする? あるいは抵抗されて負傷者が出たら?」

 

「そ、それは…」

「あの少女はクロノさんに匹敵する力を持つと聞いている。……簡単に対処できる相手なのか?」

 

 出来るわけがない。何故ならあの黒い少女… “フェイ”には、初遭遇時以来勝ててないのだ。

 そも追い詰められた相手が、後生大事に非殺傷設定を続けてくれる保証など何処にもない。

 包囲を突破するための脅しとして、または、動揺を誘うため使ってくる可能性もあるのだから。

 

「確かに少女が傷付き消耗するのを待つこの命令は、人道という観点からは好ましくないだろう」

「………」

 

「しかし、それを嫌った結果、局員が消耗してしまったら誰がロストロギアに対処する?」

「そ、それは…」

 

 誰も言い返せない。言い返せるはずがない。きっと、誰も何も考えてなかった。

 だって、あの子を放っておけないって思ったのは理性じゃなくて感情による動きだったから。

 

「ユーノ君が先ほど言ったとおり、ここが管理“外”世界ならば… 消耗時の補給は? 応援は?」

「………」

 

「容易には届くまい。その間、この世界に生きる無数の人々をロストロギアの脅威に晒すのか?」

「………」

 

 勝手な行動は、事件に関わる多くの人々の気持ちを踏みにじる間違った行為であること。

 それをコイツは激情に任せるでもなく、言って聞かせるように切々と語ってくる。

 コイツは状況を冷静に観察し全てを理解していた。その意図も含めて。だから俺たちを止めた。

 

 ……やっと、そう理解できた。

 

「それらの責任と向き合うこと、それが管理局の仕事だ。彼らはそういう視点のもと動いている」

「あ… うぅ」

 

「だから、君たちは間違っている」

 

 完全に打ちのめされ、ガックリと肩を落とす。浅はかな俺は、物事の表面しか見てなかった。

 友達のアイツにも、正義の反対はもう一つの正義かもしれない… そう教えられてたのに。

 結局俺は何も分かっちゃいかなかった。分かってると思い込んでるだけ、より性質が悪かった。

 

 “目の前の人間一人救えなくて何が現実だ”と、先程吐いていた言葉が自分自身に突き刺さる。

 目の前の仲間たちの真意一つ汲み取ずしくて、どうして敵の少女と分かり合えるのだろう。

 今にも溢れ出そうな涙を、俯きながらグッと堪える。これ以上、無様を晒すわけにはいかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「けれど、その想いはきっと尊い」

 

 紡がれた意外な言葉に、三人揃って顔を上げる。

 高町もスクライアも表情に疑問符が張り付いている。きっと、俺自身の表情も同様なのだろう。

 

「それが正しいことじゃないと理解した今でも、一人の少女が傷付くのが放っておけないか?」

「え… う、うん。一人の寂しさは、よく知ってるから」

 

 アイツはスクライアに問いかける。

 

「それが悪いことかもしれないと理解した今でも、手を差し伸べることは止められないか?」

「う、うん。……やっぱり、放っておけないもの。私は、あの子と分かり合いたい」

 

 アイツは高町に問いかける。

 

「それが無意味に終わり周囲に迷惑をかけるかも知れなくても、足掻き続けるつもりか?」

「あぁ… 間違っているかもしれないけれど。自分の心には、信念には、まっすぐ生きたいんだ」

 

 アイツの問いかけに、俺はまっすぐ瞳を見返してそう答えた。そしてアイツは…

 

 

 

 

「それでこそ、だ」

 

 ぎこちない笑みを浮かべながら、そう言った。

 

「君たちが、心からそう思えるのなら」

 

 乱暴に自らの銀髪を掻きながら言葉を紡ぐ。

 

「正しくなくとも、間違っていても、無意味であろうとも… きっと、その想いは尊いのだろう」

 

 そう言いながら、諦めたように大きく息を吐くと… アイツは一歩横にずれて道を譲った。

 

「……え?」

「イキナサイ」

 

 その我が子を見守る父のような瞳に背を押され、俺たちは転送ポータルにたどり着いた。

 転送の間際、アイツの方へと振り返る。声を掛けたかったが… 言葉にならなかった。

 きっと、みんなも。……孤独なアイツの背中が、俺たちに声をかけさせることを躊躇わせた。

 

 その姿からは、アイツの表情は想像することしかできない。

 正しくなくとも、間違っていても、無意味であろうとも想いを貫くこと。

 きっとあの話に出てきた“ミストさん”とやらも同じ気持ちだったんだろう。

 

 なるほど、それが“悪”で。アレが… “悪のカリスマ”の背中か。

 すべてを認めるつもりはないし、俺自身反省点は多いけれど。

 この戦いが終わって無事に戻ってこれたら、アイツと、少し話をしてみたい。……そう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして今、俺たちは本来ならば脅威のはずの6つの暴走体を相手に優位に戦闘を進めている。

 

「うわっ! とと… この、おとなしくしやがれぇ!!」

 

 俺が出した剣がスクライアとあの赤い犬に縛られた暴走体に突き刺さり、更に動きを抑える。

 物心ついた時から備わっていた、不思議な力… 一時は不気味な力だと嘆いたものだけど。

 この力の抑え方を知ろうと剣術道場に通うことで士郎さんたちと出会い、高町とも知り合えた。

 

「刀真、落ち着いて! 敵は一人じゃない。周囲を見ながら冷静に戦うんだ」

「すまない、スクライア。背中は任せる!」

 

 そしてスクライアとも出会い魔法の存在を知った。この出会いが絆が俺に力を与えてくれる。

 俺は大して役に立てなかったが、スクライアに足場を作ってもらい主に牽制役を担当した。

 バインドを決めて動きを抑えられれば、気力が充実した高町と回復した“フェイ”の敵ではない。

 

「ジュエルシードは3つずつ半分こ。せーので決めるよ、フェイちゃん? せー…」

「全部貰うからお先に… あと、フェイちゃんじゃない」

 

「にゃああああ! なんで無視するの!? ここは友情パワーに目覚めるところじゃないの?!」

「そんなものは、ない」

 

 だ… 大丈夫だよな? あの二人に任せてて。頼むぞ、ほんとに頼むぞ?

 

 “フェイ”が黒いマントをなびかせると、デバイスとともに戦場を縦横無尽に飛び回る。

 暴走体とすれ違う毎に、確実な攻撃によってそれらは削られていき力を失っていく。

 スピードはあの時の高町の方が上かもしれないけれど、高機動戦闘ではさすがに分が悪いか。

 

 そこに躊躇なく高町が二度、三度と砲撃を打ち込む… ってオイ!?

 

「い、今… 私ごと狙った…?」

「それくらいで当たるなら今まで苦労してないよ! 無視するなら勝手に協力するんだから!」

 

 ふんすっ! と鼻息荒く言い切った。流石の“フェイ”も思わず動きを止めてドン引きである。

 高町よ、言っていることは戦友としては理解できるが、人としてはちょっとどうかなと思うぞ。

 あとそれ協力というか脅迫だから…。

 

 だが、それらの動きから脅威を感じたのかジュエルシードが縛られながら互いに合流を試みる。

 

「って、まずい! 暴走体が融合しようとしている! そうなったらバインドも危ういぞ!」

 

「……もういい。たとえ背中から狙われてても落ちる前に落とせばいい」

「私たち二人の協力攻撃だね、フェイちゃん!」

「……絶対に違う。これは、もっとおぞましい何か」

 

 俺の呼びかけに二人は、改めて暴走体に対して向き直る。

 致命的に噛み合わないが目的は一致している、凄腕の二人。それが暴走体鎮圧に動き出す。

 

 すまない、クロノ。どうやら地球人は本当に戦闘民族だったようだ。

 出会った当初の問いかけに、俺はもはや言い訳すらも持ち得なくなってしまった。

 

「……行く」

「うん、フェイちゃん!」

 

 “フェイ”の姿がフッと掻き消えると、今まさに融合を果たそうとする暴走体の懐に入り込む。

 一閃し… 再び掻き消える。そのタイミングで3発のディバインシューターが襲いかかる。

 それを繰り返すこと三度。まるで長年組んできた熟練のコンビのように二人の息は合っている。

 

 そして、ダメージを受けながらもなんとか融合を果たした暴走体のもとに… 二人が迫る!

 

「ゼロ距離…」

「フルパワー…」

 

「ディバイン… バスタァアアアアアアアアアアアアッ!!!」

「サンダー… レイジィイイイイイイイイイイイイッ!!!」

 

 暴走体は塵も残さず消滅した。

 ……うん、知ってた。

 高町よ、頼むからそれを人に向ける時は絶対に非殺傷設定を忘れるなよ? 絶対だからな?

 

 そして、あとに残るのは封印済みの6つのジュエルシード。ソレを挟んで対峙する二人の少女。

 

「じゃあ、フェイちゃん。このジュエルシードを巡って… 恨みっこなしの勝負だよ」

「………」

 

 高町の言葉に対して、無言で構えをとることでその応えとする黒い魔法少女… “フェイ”。

 また戦うことになったけれど、これは今までのソレとは違う。理解するための戦いだ。

 少なくとも俺たち3人にとってはそうだ。そして、二人がぶつかろうとするまさにその時…

 

 

 

「うぉおおおおおおおおおおおおッ!」

「え… きゃっ!」

 

 何処からともなく現れた桜庭が、高町の背中を突き飛ばした。

 

「おい、なにを…」

 

 やっているんだ、と問い掛けようとして… 世界が目映い光りに包まれる。

 これは… 落雷か? 光が収まった時、俺の目に飛び込んできたのは…

 間一髪で難を逃れた高町の姿と、焼け焦げて力を喪い、海面へと落ちていくアイツの姿だった。

 

 

 

 

 

 

 ………

 ……

 …

 

 雨に濡れた状態でブリッジへと戻った俺たちを、リンディさんたちが出迎えてくれた。

 

「その、勝手なことをして… ごめんなさい」

 

 リンディさんと目を合わせることも出来ず、俯いたまま、ただただ謝ることしかできない。

 けど、謝ってもアイツは… 桜庭は帰ってこない。これもただの自己満足に過ぎないのだろう。

 

 そんな俺たち3人が、不意に温かい何かに包まれる。

 

「……え?」

「良かった。あなた達だけでも無事に戻ってきて」

 

 やがて、リンディさんに抱き締められていることに気付く。

 でも、俺たちに… 俺に、そんな価値は。

 

「さっきはキツイことを言ってすまなかった。僕も、君たちの存在に甘えていたんだろう」

「クロノ…」

 

「ここから先は僕達管理局だけでやる。……心配しないでくれ。彼は、僕が必ず助け出すから」

「ま、待ってくれ! 俺たちが悪かったけど、そんな…」

 

 思わずクロノに駆け寄ろうとするが、それをリンディさんに止められる。

 

「違うの… 判断を間違えたのは私。あなたたちを巻き込んだ軽率さが、この事態を招いたの」

「そんなのって… リンディさんは悪くありません!」

 

 高町が叫ぶ。スクライアも悲しそうな表情を浮かべている。俺は… 俺は、どうなのだろう?

 

「責任者はね、責任を取るためにいるの。(ずる)いかもしれないけれど、これが大人の理屈」

「そんな… そんなのって、ないですよ…」

 

「ごめんなさい、許して欲しいとは言わないわ。……けれど、彼の残した言葉を聞いて頂戴?」

 

 そして聞かされた… アイツの真意を。

 アイツは、夢を希望を… 理想を俺たちに託し、その支えとなることを管理局に頼んでいた。

 そして最後に、まるで散歩にでも行くような軽い足取りであの場所に飛び込み…

 

 身を挺して高町を庇い、その身に落雷… 時空跳躍魔法とやらを受けたのだった。

 

「アレが最善だったなんて信じたくはない。けど、彼の行動のお陰で多くが救われたのも事実よ」

 

 それが、真実。知るには遅すぎた、アイツの本音だったのだ。

 

「なんで、桜庭くんは私なんかを… 私は、ただ、勝手な行動をしただけなのに…っ!」

「“なんか”なんて言わないの。彼の言った通り、あなたたちの想いはとても尊いものなのよ?」

 

 雨滴に濡れることなど気にも留めず、リンディさんは高町を優しく抱きしめて頭を撫でた。

 二度、三度… ゆっくりと撫でてから立ち上がる。

 

「そのまま真っ直ぐ成長して誇れる大人になって。……そのための時間は、私たちが作るから」

「あ…」

 

「ま、シャワーでも浴びて休んでから決めてよ。さっきの魔法の影響でこっちも暫く動けないし」

「あぁ、君たちは不甲斐ない僕らの分まで充分に働いてくれた。……今は休息が必要な時だろう」

 

 そのままエイミィとクロノにも促されて、一度、割り当てられた個室へと戻ることになった。

 ……道中、高町とスクライアともども一言も声を発することはなかった。

 

 

 

 

 

 言われたとおりにシャワーを浴びてから、ベッドの縁に腰掛ける。

 

「はは、は…」

 

 なんてことはない。最後にアイツが俺たちに向かって言った“イキナサイ”って言葉…

 “行きなさい”だけじゃなくて、“生きなさい”って意味でもあったんだな。

 ……全てを理解して計算した上で、アイツは俺たちと世界のために捨て駒となることを選んだ。

 

「自分一人を犠牲にすることで全てを救うために、ってか? ……ハハッ、なんだよそれ」

 

 恐らくは、俺たちの道を塞いだ時からなんらかの予兆は感じ取っていたのだろう。

 正確にあの落雷… 時空跳躍魔法の来るタイミングを見切り、高町を庇った手腕から見ても。

 遅すぎても早すぎてもダメというあのタイミングは、本来は狙ってできることじゃない。

 

 だが、アイツの神業的技量がソレを可能にしたのだろう。……可能に、してしまったのだろう。

 

「畜生… 畜生、畜生、畜生、畜生、畜生ッ!」

 

 スクライアも指摘していたはずだ。“フェイ”の背後にいるであろうブレインの存在を。

 俺たちにだって分かる機会はあったんだ。あのタイミングで攻撃が来ることを。

 なのに、俺は何も考えようとせずに目の前のことにばかり心を奪われて… その結果が…ッ!

 

『その結果が…ッ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『おっすおっす! やっはろー! なんか荒れてるねぇ? 大丈夫? ( ̄∇ ̄)v ニュウサンキン トッテルゥ?』

『……え? あ、おう』

 

 そんな時、不意にコイツに… 名前も知らない“もう一人の友達”に声をかけられた。

 

『見たトコいない感じだけど、他のみんなは? てかテンション低いなおい ( ^∇^)σ ツンツン』

『あ、うん… 他のみんなは疲れてるんだと思う。……今日はちょっと、色々あってな』

 

『そうなん? 良かったら友達に【()()()()】にいっちょ語ってみ? ん? ( ・`ω・´) ドヤァ...』

『……じゃあ、少し聞いてもらっていいか? あと、どうでもいいけどちょっとウザいぞおまえ』

 

『来いよダチ公! 羞恥心なんて捨ててかかってこいよ! …って、ウザいかな Σ( ̄□ ̄;)』

『あぁ、ウザいな。……けど、ありがとうな』

 

 コイツとこうして話しているだけで気が楽になってくる。……あぁ、ホントに良い奴だと思う。

 

『なんか礼言われる要素あったっけ? あ、ひょっとしてウザいのがお好み? o(≧▽≦)oゥキゥキ♪』

『いや、違うから』

 

『オレのウザ芸は百八式まであるぞー! ……ダメ? (´・ω・`)...ダメ?』

『ダメ。……さぁて、どこから話したもんかな』

 

 全く、コイツは…。取り敢えず、個人名を出さないように気を付けながら知る限りで語った。

 名前の記憶がないっていうコイツに気を遣わせちゃいけないしな。自己紹介はまた改めて、だ。

 

『というわけで、そいつの犠牲のお陰で全員無事。……俺はこうして生き恥晒してるってわけさ』

『ふーん、オレには絶対にそんな真似できんわー。ま、おまえが無事でよかったよ ( ̄ω ̄) フーン』

 

『……やけに淡白な反応だな? もっと、こう、驚いたり何やってんだって責められるかと』

『なんで? おまえはおまえの最善を尽くしたんだろ? ならソレでいいじゃん ヾ(@°▽°@)ノ』

 

 当たり前のように俺の無事を喜ばれる。俺の過失やなんかもアッサリと流される。

 そりゃ確かにコイツにとっては他人ごとかも知れないけれど、それで納得いくかどうかは別だ。

 

『そういうわけにもいかないだろ。だって、アイツは…』

『んー… あのさ、ちょっといいか? ( ̄ω ̄) ニョローン』

 

『……なんだよ』

 

 言葉の出鼻を遮られて、少しだけ不機嫌になる。

 

『おまえさんはその人のこと英雄かなんかだと思ってるみたいだけど… ^( ̄□ ̄#)^ムカムカ』

『あ、いや… おう』

 

 アイツを英雄視している? ……言われてみればそうだったかもしれない。

 

『オレにとっちゃ違うから! それ、全然! o(`ω´*)o㌦ァ!!』

『はぁ!? なんでだよっ!!』

 

『ダボが! ホントの英雄だったら人に丸投げしてアッサリ消えたりしねぇよ!(ノ゚Д゚)ノムギャオー』

『いや、それは俺たちのせいで…』

 

 な、なんか急に怒りだしたぞ? お、俺のせいなんだろうか…。

 

『よくRPGとかであるよな? 魔王を倒してハッピーエンドっていうアレ ε- ( ̄、 ̄A) フゥー』

『あ、あぁ… あるな』

 

『あれ、終わりじゃなくて始まりだからな? ┐( ̄ヘ ̄)┌ヤレヤレ...』

『ど、どういうことだ?』

 

『戦乱で荒れた国の復興、難民や遺族の保護、食料問題の解決… o( ̄Д ̄o)(o ̄Д ̄)oアレコレ』

『お、おう…』

 

『すっげーつまんなくて地味だけどめっちゃ大変な作業が待ってるの。普通は \(^o^)/オワタ』

『そ、そうだったのか… いや、まぁ、言われてみればそうだよな』

 

『でもそんなのゲームにならないだろ。いや、別の層には受けるかもだけど ⊂⌒~⊃。Д。)⊃ ドテッ』

『ま、まぁ… もはや別のゲームになってしまうな。……ていうか、ほとんど詐欺だよなソレ』

 

『そういう罰ゲームを最後まで生き残ってやり遂げるのがオレにとっての英雄 (・ω・)ダナ』

『………』

 

『友達としては、おまえさんにはそういう英雄を目指して欲しいな (。+・`ω・´)キリッ』

『そう、か… そうだな、うん』

 

『ま、よく言うだろ? 誰かの為に強くなって守り抜ければ英雄だ、ってさ (`・ω´・)+ ドヤッ』

『初めて聞いたよ。……でも、いい言葉だな』

 

 誰かの為に強くなる、か。そうか… そうだよな。俺には、まだ守りたい人々が残っている。

 誰かに背負わせるのではなく、ちゃんと自分で背負って… 最後まで、足掻いていきたい。

 まだ俺は折れちゃいない。こうして生きている。だったら… うん、やってみるしかないよな。

 

『ありがとうな、愚痴聞いてくれて。もっと強くならないとな… 恥ずかしながら、俺、弱いし』

『あー… さっきのアレ? 剣が1本2本じゃ効かないし投げても避けられるって ( ̄ヘ ̄)アー...』

 

『あぁ、最近みんなの足を引っ張ってる感じがしてな…』

『気合だ! 気合を入れて頑張れ! ( *• ̀ω•́ )b グッ☆』

 

『ははっ、まぁそうだな。ここが気合の見せ所…』

『応よ! 1本2本でダメなら何十本と束ねればいい! (๑•̀ㅁ•́ฅ✧ ソウダロ?』

 

『……ん? 束ねる?』

『投げてダメなら手に持って突撃だ! 刺さらないなら穿ち抜くのだ! (o≧ω≦)=○ オルァ!』

 

 ……なるほどな。確かに試してみる価値はあるかも知れない。

 高町もコイツのアドバイスで新たな境地に辿り着いたと言うし、恐らく偶然じゃないんだろう。

 とはいえ、それを指摘してもきっと素直に礼を受け取ってくれないか。……先ほどのように。

 

 不器用な優しさと的確な助言は、どことなくアイツのことを思い出させる。声も似てるからか?

 

『ははっ、何をバカな…』

『ん? どったの? (´・ω・`)What?』

 

『いや、こっちの話だ。それより話しかけてきたそっちからは何か用事はなかったのか?』

『おぉ、それそれ。実は気が付いたら変な場所にいてさー… ( ̄~ ̄;)ココドコ?』

 

『変な場所?』

『でっかい試験管みたいなのに入ってて水の中でプカプカ浮いてんの、オレ ( ̄○ ̄;) ビビッタ』

 

『いや、おい… それってヤバくないか? 息とか大丈夫なのか、オイ?』

『あ、息とか出来るみたいで平気ー。EVAのLCLみたいだよね、これ v(´∀`*v)ピース!』

 

 いや、エヴァってなんだよ。エルシーエルってなにさ。知らんし。なに喜んでんの、コイツ。

 

『それよか無事か? 無事なんだな? 身体はなんともないんだな?』

『や、それがさっきまで身体がめっさ痛くてさー。痛みで気が遠くなって… ( ˘ω˘ ) スヤァ…』

 

『……え、おい?』

『気付いたら通話モードになってました、まる(´・ω・`)ノ ヨウ、ユメデンパ』

 

 無事じゃねぇ! 超大事(おおごと)じゃねぇか! なに他人ごとみたいにのんきに会話してんの!?

 ていうか、なんでそんなことになってんだよ! 色々とツッコミが追いつかねぇよ!?

 

『と、とにかくすぐに助けに行くからそこで…』

『いや、いいよー。何処か分からんし、あの時みたいに火事になったわけでもないし |ω・`)コソ』

 

『……おまえにとって得体の知れない試験官の中で浮いてることより火事のほうが一大事なの?』

『うん (´・ω・`) ゴキンジョサンニ メイワクカケルシネ』

 

 ……キッパリ言われてしまっては返す言葉もない。

 確かにコイツなら、なんとなくどこでも上手くやっていけそうな雰囲気はあるが。

 

『まぁ、そういうことなら気にしないけど。助けが必要だったらいつでも言ってくれよ?』

『オッケー! もしもの時は頼りにしてるぜ、マイフレンド! ( ≧∇≦)b』

 

 全く、コイツは… お調子者でたまにウザいけど。……ま、俺にとって大事な友達なんだよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………

 ……

 …

 

「……くん」

 

 揺さぶられている。誰かの呼ぶ声が聞こえる。

 

「……まくん」

 

 その声をもう少しだけ聞きたくて、俺は耳を澄ましてみる。

 

「……ぅまくん」

 

 あぁ、この声は… そうだ。

 

「とーまくん… 刀真くん!」

「んぁ… 高町、か?」

 

 まだ少し重い頭を振りながら周囲を見渡す。ここは… アースラで割り当てられた個室か。

 

「……俺、寝てたんだな」

「う、うん。ごめんね… リンディさんが呼んでて」

 

「リンディさんが?」

「うん… 転送ポータルだけは急ピッチで修理したからって」

 

 あぁ、そういえば… そういう話になっていたか。

 身体を起こしてベッドの縁に腰掛け、気合を入れるために両頬を思いっ切り張る。

 パァン! と乾いた良い音がした。よし、気合充填。行くとするか。

 

「……刀真、くん?」

「よし、行くか! 起こしてくれてありがとな、高町」

 

「あ… う、うんっ!」

 

 俺が立ち上がって礼を言うと、高町は笑顔を浮かべてくれた。

 アイツもこれくらい素直な反応ならなぁ… と、さっきまで会話していた人物を思い浮かべる。

 ま、アイツはアイツ。高町は高町。そして俺は俺… か。それでいいし、それがいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ブリッジに到着すると、みんなが待っていた。

 俺の顔を見て、何故かスクライアが不思議そうな顔をしている。……何かついてるのか?

 顔をゴシゴシ拭ってみても何も取れないようだが… まぁ、いいか。

 

「……刀真?」

「待たせた、スクライア。それにリンディさんもクロノも、待たせてしまってごめんなさい」

 

 頭を下げる。

 

「気にしないで、御剣君。こちらこそ寝ていたところを起こしてしまったみたいでごめんなさい」

「あっ… これは、その…」

 

 寝癖をリンディさんの手櫛で直される。バツが悪くて、そっぽを向くと高町の笑顔が映った。

 

「起き抜けで悪いけれど転送ポータルが直ったわ。……これからあなたたちを地球に送ります」

 

 その言葉に、高町とスクライアの表情が強張る。

 だけど、俺には動揺はない。何故なら、もう答えは決まっているから。

 

「はい、分かりました。俺は、アースラを降ります」

「……刀真」

「……刀真、くん」

 

 

 

 

 

 

 

 

「そして、強くなって戻ってきます。アイツを助け出すため… この事件を終わらせるために」

「えっ?」

 

 その疑問の声は誰のものだっただろう。いや、誰であっても構わない。俺は、決めたのだから。

 

「刀真… 君は自分の言っていることの意味が理解できているのか?」

「あぁ、この上なく理解しているさ。クロノ」

 

「さっきのことは記憶の彼方か? いいようにしてやられたじゃないか」

「あぁ、そのとおり。()()()()()()()()()()()()()()()()… それだけの話だろう?」

 

「…っ! これはもともと巻き込まれただけの君たちには関係ない話なんだ。だから」

「違うな、クロノ。確かに最初は巻き込まれただけかもしれない… けれど、今は違うんだ」

 

 大きく息を吸って、真っ直ぐ瞳を見返してから言葉を紡ぐ。

 

「これはもう、俺たちの戦いなんだ。ジュエルシードのことも、フェイのことも、桜庭のことも」

「刀真くん…! うん… うんっ!」

 

 クロノはため息をつくと、頭をかきながら俺を横目で睨んでくる。

 

「……中途半端な仕上がりなら叩き返すぞ?」

「おまえを叩きのめせるくらいに強くなればいいんだろう?」

 

「……間に合わなかったら容赦なく置いていくぞ?」

「上等だ。その時は次元の果てまでだって追いかけてみせるさ」

 

 再度大きなため息をつくと、クロノはお手上げといった感じで両手を上げる。

 

「……だったら好きにするがいいさ。決めるのは艦長だ」

「あらあら、クロノったら。私に丸投げするなんて悪い子ね~?」

 

「リンディさん… お願いします!」

 

 俺はリンディさんの前に進み出て、頭を下げた。

 

「ふぅ… 御剣くん、さっきの次元跳躍魔法のことは覚えているわね?」

「はい」

 

「あの魔法を撃てるほどの力量を持った魔導師は推定だけれど、最低でもSランク以上…」

「S… ってことは高町やクロノ以上なのか」

 

「誤解があるようだから説明すると、Sとは【Strategy(ストラテジー)】即ち戦略を示す指標なの」

「戦略?」

 

「単にAランクより魔力があるというわけではなく、個人で戦略級の力を持つ別格の存在」

「………」

 

「それがSランク以上の魔導師というものよ。これまでの作業が遊びに思えるほどの強敵なの」

「今までの封印作業が… 遊び?」

 

 今まで見たこともない厳しい表情で説明するリンディさんの前で、思わずゴクリと喉を鳴らす。

 けれど…

 

「それでも、俺の気持ちは変わりません。……覚悟はできています」

「命を捨てる覚悟かしら?」

 

 冷たい目で見据えられる。だけど怯む必要なんてない。俺は胸を張って言ってやる。

 

「……背負ったものを自分で背負い続ける覚悟。そして、最後の最後まで生き続ける覚悟です!」

 

「僕も、自分の荷物を誰かに預けるのは嫌です。……弱くても、せめて最後まで見届けます!」

 

「私も、二人と一緒に戦います。投げ出したりしたくないんです。お願いです、リンディさん!」

 

 俺に続いて、スクライアが、高町がリンディさんに頭を下げる。

 

「……わかりました。私の負けみたいね、これは」

 

 思わず顔を上げると、そこには苦笑いを浮かべているリンディさんの姿があった。

 

「リンディさん! それじゃ…」

「えぇ、あなたたちの同行を私の名において認めます」

 

 わっ! と、三人で顔を見合わせて歓声が沸き起こる。

 

「ただし! ……全員一度アースラを降りて、もう一度だけゆっくりと考えること」

「………」

 

「もし戻ってこなくても誰も責めないわ。ううん、戦いよりもそれはきっと尊い判断と言える」

「………」

 

「そのことを胸にこれからのことを考えて。これは艦長ではなく、一人の大人としてのお願い」

「はい!」

 

 全員、真っ直ぐリンディさんの目を見て頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして今、俺たちは海鳴市に戻ってきた。ほんの数日なのに、随分久し振りに感じてしまう。

 待っていろよ、桜庭。おまえが自分一人を犠牲にしてみんなを助けようとするなら…

 俺は、おまえも含めて全員を助ける道を探してやる。そのためにもっともっと強くなってやる!

 

 と、そこまで考えてから俺は自分の感情に気づいた。

 今までアイツに、桜庭に抱いてきた複雑な感情。それは友情でも、ましてや憎悪でもなくて…

 

「そうか… 俺は、アイツに勝ちたかったんだな…」

 

 グッと拳を握りしめて、空を見上げる。

 目指す先は遥か彼方かもしれない。けれど、いつかきっと辿り着いてみせる。

 春らしい晴れ上がった空には虹が架かり、先に進んでた高町とスクライアの呼ぶ声が聞こえた。

 




 僕はね、王道主人公モノを書きたかったんだ(書けるとはいってない)。

 近日中? 二週間以内=近日中(強弁)。アッハイ、ごめんなさい(土下座)。

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