オレを踏み台にしたぁ!? 作:(╹◡╹)
……はい、これっぽっちでごめんなさい。
というわけでやって来ましたよ、図書館。いやまぁさっきからいたけど、アレは喫茶店だしね。
う~ん… しかし広いなぁ。これだけ広いと迷子になってしまいそうだ。
子供だからというのを差し引いても、この規模って国立図書館に匹敵するんじゃね?
まぁ、国立図書館とか行ったことないから想像でしかないけどね。
さて、司書さんに話を聞いて本のジャンルごとの書架の凡その位置は確認した。
最初に事情を説明して適当に見繕って貰おうとしたが、出された2冊を見て考えを改めた。
『はてしない物語』と『精神疾患は脳の病気か?』の2冊だった。
すまし顔で渡してくる司書さんにどういうつもりかと小一時間ほど問い詰めたかった。
やめておいたけど。……まぁ、面白そうだし後で借りるとしよう。
教えて貰った場所は『海鳴市関係』『歴史関係』『医療関係』の3箇所。
今挙げた順に回ればグルッと一周して戻ってくる形になるかな。
優先順位についてもそんなもんだろう。
海鳴市について調べることで大体の位置関係やらスポット、常識を学ぶことができる。
上手く行けば記憶を刺激してオレの元いた場所について何か思い出すかもしれない。
オレとしても一番期待しているのはこれだ。……まぁ、あまり期待しすぎるのもアレだが。
続いて歴史関係。これは新聞などのいわゆるニュース関係の書架とくっついている。
ニュースにざっと目を通せば「この街で生きる常識」をモノにすることができるだろう。
あとはまぁ、限りなく可能性は低いが此処がよく似た別の世界ってこともありうる。
何言ってんだオマエと言われそうだが、既にオレという超現象の実例も存在しているのだ。
今のオレが覚えてることなんて僅かだが、信長とかいなかったら違う世界と見ていいだろう。
……単純に歴史小説とか好きってのもあるが。ま、趣味と実益を兼ねるのは良いことさ。うん。
最後の医療関係がクセモノだ。そもそもオレは理系じゃなくて文系… だった気がする。
ガワである悠人少年が仮に妄想ノートの通り天才だったとしても中の人であるオレは凡人だ。
とはいえ、こういう事例があるかもしれないし藁にもすがる思いというヤツだ。
やるだけやってみようじゃないか。失敗は成功の母さ。当たって砕けろとも言うさ。
……お分かりいただけただろうか? このオレの現代医学への並々ならぬ期待(棒)の程を。
………
……
…
色々と回って時計を見れば今は午後3時過ぎ。
なんだかんだと2時間ほども時間を潰したのか。
充実した2時間を振り返りながら、今オレは医療関係の書架をぶらついている。
この海鳴市は海に面しており、臨海公園は市の名物スポットとなっているそうだ。
桜街道があったり、由緒正しい神社(石段がとてつもなく長いらしい)があったりとか。
毎年夏には海水浴に訪れる観光客もいながら、郊外にハイキングできる山もあるとか。
で、小学校から大学まで一貫教育の私立聖祥大学とか総合大学病院を持つ海鳴大学もあるとか。
そんなご都合主義満載の夢の様なCity… それがオレが今いる海鳴市らしい。
こんな漫画かアニメのような場所、ホントにあったんだなぁ。
で、信長さんも卑弥呼さんも存在すると確認してからは地元ローカルなニュースを摘み食い。
ある程度の常識を得るに至った… というわけだ。
まぁ、2時間程度じゃ流し読みにも程があるが。
え? 読むの遅い? メモしながらだと時間かかるんだよ。コピーより書いた方が覚えるしね。
しかし、この医療関係の書架に至っては最初からメモをする気にもなれない。
そもそも部分部分で読めない字も混じってる気がする。
あと日本の書籍なら日本語で書こうぜ。もしくはカタカナで。心からそう思う。
……適当にグルっと回ったら借りるものだけ借りて帰るとするかな。夕食の買い物とかあるし。
そんなことを考えながらブラブラしていると、車椅子が目に映る。
正確に言えば、車椅子に座ったまま「よっ!」とか「はっ!」とか言いながら虚空に手を伸ばす少女の姿が。そこで問題だ。あの車椅子の少女は一体何をしているのだろう?
1.ちょっぴり斬新な体操
2.誰にも見られない場所で新必殺技の秘密特訓
3.届かない場所にある本を取ろうとしている
個人的に1や2に○を付けるような方とはお近付きになりたくない。常識的に考えて3だよな。
此処は死角になっており他の人の目も届かず、誰かの助けも期待できない。
書架から上半身だけ出し受付に目をやるが、司書さんは席を外しているようだ。チッ、使えん。
まぁ、しょうがない。恩着せがましいのはあまり好きじゃないがサッと手伝うことにしよう。
それにきっと悠人少年も困っている少女を見捨てるような性格じゃないはずだ。何となくそう思う。えーと… 口数少なくクールな感じでイメージ。声も心持ち低めに。……よし、行こうか。
「……どれが欲しいんだ?」
「うひゃあ!?」
おっきな声だなぁ… あぁ、ビックリした。
確かにいきなり声を掛けたら驚くよね。しょうがない。
「驚かせてすまない。……必要な書籍名を言ってくれ」
「あ、ども。……えっと、そこの『自宅療養による難病克服の体験記』を」
お、おう… これは反応に困るな。
どんなに気遣っても健常者が障碍者にすることなんて施しに過ぎないかもしれない。
ここは反応を示さず、そっと本をとってそっと立ち去るのがベターだな。
弱いオレを叱ってくれナタク! なんてことを考えながらも手は淀みなく動き目的を果たす。
「……コレでいいか?」
「あ、うん。……じゃなくて、はい。えらい親切にしてもろておおきにです」
おお、関西弁だ。
キツいイメージがあったけれど、結構柔らかくておっとりしたイメージも与えてくれるな。
それに真っ先にお礼を言うなんて出来た子だ。
別に礼を期待したわけじゃないけれど、そういうのって嬉しくなるよね。
「気にするな、オレは気にしない」
「そういうわけにも… あ、私としたことが目も合わせずに、って」
某アニメキャラクターをイメージしてクールに受け答えする。
いいよいいよ、お礼なんて。このまま静かに立ち去るのがいいんじゃないか。
しかし、この出来た少女は車椅子に座りながらこちらの方を向こうとして… 固まった。
……あ、うん。そうだよね。そういう反応になるよね。
忘れてたよ、自分の容貌。淡い茶色の髪(亜麻色って表現するのがベターかも)の少女の背後に立っていたのは銀髪オッドアイの少年。うん、出来の悪い三文ホラー小説って言っても信じるね。
「ぎょえ! ……もがもがッ!?」
そして絶叫… は、させないように咄嗟に口を塞いだ。勿論手で。
うるさいからって唇で相手の口を塞ぐのって漫画やアニメの世界じゃないと許されないよね。
……噛まれるの怖いし。ていうか手も噛まれるの怖いからすぐに離した。
「落ち着け。図書館では静かにした方がいい」
「……っ! どの面下げてゆうてんねん」
当り障りのない注意をして、冷静になるように促す。こんな感じでいいだろうか?
とか思ってたらいきなり顔のことで否定入りましたー。
さっき柔らかく感じた関西弁は、刺々しくキツいという当初のイメージ通りになってますぜ。
ハッハッハッ、こんな顔してるからって何言われても傷付かないと思ったら大間違いだぞぅ?
だが先程の対応を見る限り、根は優しい少女のはずだ。多分、きっと、メイビー。
それに考えても見て欲しい。
元はといえばいきなり話しかけて驚かせたオレにも非があるのではないだろうか?
その一回は笑顔で水に流してくれたのに、不可抗力とはいえこんな容貌で驚かせてしまった。
2回も不意打ちで驚かされれば年頃の少女のこと、多少は言動が刺々しくなるのも当然だ。
ふむ… ここは一つ、言い訳などせずに誠実に謝罪をするとしよう。
ていうか、女を怒らせるとだいたい結論は「男が悪い」ってところに落ち着くだろうしね。
「……すまない、迷惑をかけた」
腰を曲げて深々とお辞儀をする。なんせ車椅子の少女だからな。
彼女よりも頭が高かったりしようものなら、謝罪と認めてなんぞもらえないだろう。
「な、なんやの? そんな、いきなり謝るなんて…」
「いいんだ、オレが悪かったから。……コレ、詫びの印にもならないが受け取ってくれ」
困ったような表情を浮かべる少女に、鞄から取り出したブラック珈琲を一本握らせる。
不良在庫も処分できて一石二鳥だ。思わず苦い笑みが浮かんでしまう。
おっと、いけないいけない。謝罪の最中に笑顔なんて見せたら怒られてしまうかもしれん。
少女が再度口を開く前にさっさと退散するとしよう。
桜庭悠人はクールに去るぜ!
「図書館は飲食禁止ですよ」
……やっぱりクールには去れなかったよ。脳内でそんな台詞が浮かんでくる。
あ、すんません。司書さんもお一つどうぞ。無言で二本目のブラック珈琲を差し出す。
「今回は許しましょう。……さて、私も少し休憩しましょうか」
露骨に袖の下を要求し、あまつさえそれが通れば笑顔でサボる。
公務員の腐敗はここまできたか!
まぁ、どうでもいいか。さて、貸し出し手続きをしてから夕食の買い物をしないとな。
……ウフフ。司書さん、戻ってこないなぁ。
ご意見ご感想、誤字脱字の指摘等がありましたらお気軽にお願いします。