オレを踏み台にしたぁ!? 作:(╹◡╹)
私はリンディ=ハラオウン。
時空管理局提督にして次元空間航行艦船アースラの艦長でもある。
今回の任務は、ロストロギア【ジュエルシード】の捜索及び回収。
そのため人員を整えて、第97管理外世界【地球】へと降り立った。
そこで現地で活動をしている数名と遭遇… 現在へと至っている。
一人は今回の事件の引き金となったスクライア一族の少年。
名前をユーノ=スクライア(以下、スクライアさんとする)。年齢9歳の少年だ。
発掘作業の現場指揮を任されるなど優秀ではあるものの、やや責任感が強すぎる傾向がある。
捕縛、治癒、結界魔法に適正がある支援型の魔導師。魔導師としてはAランク相当か。
一人はスクライアさんに協力を要請された現地人。
名前を高町なのは(以下、高町さんとする)。こちらも年齢9歳の少女だ。
Aランクに相当するジュエルシードの暴走体を撃退し、封印処理をもこなすなど極めて優秀。
圧倒的な魔力出力を軸に戦う砲撃主体の万能型。魔導師としてはAAAランク相当か。
一人は高町さん同様、スクライアさんに協力を要請された現地人。
名前を
魔力を打ち消すレアスキルと無数に剣を出すレアスキルを保有していると思われる。詳細不明。
空戦を行う魔力はないが場慣れした動きで支える攻守の要。魔導師としてはCランク相当か。
そして最後の一人は…
「……ふぅ」
大きく溜め息を吐きタイピングを中断し、モニターから目を離す。
後日提出する報告書の草案代わりに日誌を打ち込んでいたが、さて、どう記入したものか…
「悩ましいわね」
彼らとの… 正確には、最後の一人である“彼”との距離感を測りあぐねていた。
黒い魔導師の少女… 高町さんは“フェイちゃん”と言っていたかしら?
彼女の逃亡を幇助したことはまだ理解は出来る。構図的にこちらが襲撃者に見えても仕方ない。
彼からも謝罪を受けたし、何より彼は事情も知らない現地人。互いのすれ違いの結果だろう。
……そう思っていた。
この地球に来てからの出来事を振り返ってみる。
…
……
………
アースラに案内されても動揺した気配を見せず、また、その機能を正確に解説してみせた。
そして、私とクロノの関係に驚くなど若干の勘違いはあれど基本的に穏やかで理知的な物腰。
開口一番に招待へのお礼と、仕事の邪魔をしてしまったことへの謝罪も口にできる。
少々腰が低すぎるきらいはあるものの、好印象を抱くには充分な少年。そう思っていた。
高町さんたちにより、どうも“彼”がこの事件の影で動いている気配を見せていること。
また、現在は収まっているものの、かつては傍若無人を絵に描いたような性格であったこと。
……これらの話を聞くまでは。
その間、“彼”はというと我関せずと羊羹を口にしたりスクライアさんと話をしたりしていた。
……まるで他人ごとのように。ならばと“彼”の家の調査を要望して、反応の喚起を試みる。
むしろクロノと二人して、手を握られてまで感謝されてしまった。……わけがわからないわ。
あなたを露骨に疑っていますよ、という意味で言ったつもりだったのに。
とはいえ“彼”本人から承認が出たのも事実。お言葉に甘えてしっかり調べてみようと思う。
罠の可能性もあり、他の局員には任せられないため、私とクロノの二人で出向くことになるが。
出掛けにエイミィに測定された魔力量について報告を受けることにした。
アースラの転送ポータルには、対象の魔力値を測定する機能も内蔵されているのだ。
好意的な人々には甚だ失礼な話だが、全て鵜呑みに信じ込んでいては管理局勤務は務まらない。
そして私は、缶コーヒーを(嫌々)受け取ったエイミィの報告を聞いて… 絶句した。
「……なんですって?」
思わず聞き返してしまう。
「信じられませんか? 私もです。……アースラの計測器が故障してない限り事実ですが」
缶コーヒーを手元でいじりながら、エイミィが残酷な言葉を告げてくる。
「家屋で例えるなら… 剣を出してた男の子、御剣君ですか? 彼の魔力が賃貸マンション」
「え、えぇ…」
「スクライア一族の子がローンの残った一軒家… といったところですかね」
家屋に例えて各々の魔力量を解説していくエイミィ。……分かり易いかどうかはさておいて。
魔力の絶対量とは本来、覆らない才能の格差だと言える。
努力を重ねることで後天的に魔力量を増やすことも可能だが、それすら下地あってこその話だ。
どんなに魔法適正が低く行使に非効率的でも、魔力を注ぎ込めばカバーできるケースは多い。
逆に魔力の絶対量が乏しければ、如何に魔法適正があろうとも、息切れしやすくなってしまう。
そうなってしまえばオールラウンドに戦うのは難しくなり、一発屋に扱いが近くなるのだ。
「で、えーと… フェイちゃん? それにクロノ君も纏めて土地付き一軒家としましょうか」
「やや乱暴なまとめ方だけど… そうね、妥当だと思うわ」
管理局が魔力ランクの高い者ばかりを優遇するのは、宣伝効果のみを見越してのことではない。
投資に見合うだけの成長を期待するには、魔力値こそが最も信頼できる指標となるからだ。
確かに士官教導センターなどでは、魔力値のみが全てではないと教えている。私も同意したい。
同意したいが… それを『ただの建前だ』と言える程に、魔力の絶対量は重視されているのだ。
「高町さんは豪邸って感じですかね。いやぁ、才能って羨ましい。現時点でAAAランクとは」
「………」
エイミィの言葉に無言で首肯する。確かに彼女の輝かんばかりの才能は魅力的だ。
集束と放射に高い適性を持ち、今現在で既に砲撃型の魔術として管理局でも上位レベルだろう。
これで魔法に関わって一ヶ月未満というのだから、天賦の才に恵まれた天才児という他ない。
彼女ばかりではない、スクライアさんも御剣さんも同様に素晴らしく魅力的だ。
高町さんの魔力の高さに霞みそうになるものの、スクライアさんも充分に魔力値は高い。
そればかりか、あらゆるサポート系に高い適性を示し充分に使いこなしているのだ。
荒事がどうしても多くなってしまう管理局としては喉から手が出るほど欲しい人材だろう。
御剣さんは魔力ランクこそCと平均値なものの、年齢を考えれば充分に伸び代はある。
いずれはAにも届き得るかもしれない。何より困難に対して常に前向きな姿勢が素晴らしい。
そして一撃の破壊力では高町さんにも引けを取らない。サポート次第では化けるだろう。
三人が三人共に魅力的な人材で、本来ならばすぐにでも勧誘をしたいところなのだが…
「で、最後の彼… 桜庭くんですが、島一つってとこですね。……下手すれば大陸?」
「既に家屋ですらないのだけど。……ふぅ、さっきの計測値は聞き間違いではなかったのね」
……最後の一人が規格外すぎた。優秀を通り越してもはや怪物、いや災害レベルですらある。
そういえば歴戦の勇士、ギル=グレアム提督もこの第97管理外世界が出身であったと思い出す。
氏とは幾度か交流する機会に恵まれたが、叶うならばその時に是非忠告を頂きたかったです。
……『第97管理外世界では魔力オバケに遭遇してしまうことは稀によくあることである』とか。
いや、流石の氏もこういった事態は想定の外だったであろう。……そうであったと思いたい。
「それじゃエイミィ、行ってくるわ。……私とクロノが戻らなかった時は後のことはお願い」
「……聞きたくありませんが、承知しました。ですが、必ず戻ってきてくださいね?」
彼女の言葉に苦笑いを返して、転送ポータルに身を委ねる。……さて、鬼が出るか蛇が出るか。
結果は驚くほどの歓待ぶりであった。社交辞令かと思っていた食事の招待を本気で行う。
そればかりか、天涯孤独の身の上だというのに他人を家に上げたまま買い物に出ようとする。
指摘すれば、さも、それが当然かのようにスペアの鍵をこちらに預けようとしてきた。
その距離感にこちらが戸惑い、慌ててしまったほどだ。
“彼”の一瞬見せた影のある表情から、両親と暮らしていないという話に嘘はないのだろう。
なのに、あろうことか「あなた方が管理局だから信じます」と笑顔で言ってきたのだ。
勿論そうあろうと常日頃心掛けているが、管理局の強すぎる権力は嫌われることも少なくない。
そんな私たち管理局に対して、開けっぴろげな無償の信頼など寄せられてはたまらない。
事実クロノは念話で“彼”の買い物への同行と護衛を志願するほどに、すっかり参ってしまった。
監視もすることを条件に許可したが、これが狙ってのことならば侮れない
――悪のカリスマ… 高町さんから聞いた“彼”の異名が真実味を帯びてくる。
“彼”がその気になれば恐るべき魔法を使えることは、高町さんや御剣さんから聞いている。
翻れば、それはその気になれば私たちなど簡単に始末できるということに他ならない。
それを忘れず気を引き締めて、“彼”の威に呑まれないようにしっかりと調査を始めようと思う。
使われなくなって久しいのか、ご両親の寝室には埃が積もっていた。なのに部屋はそのままで。
“あの事件”でクライドを失った時の自室の有り様に似ている気がして、少し気が重くなった。
両親のうち恐らく母親が残したと思われる直筆の書き置きが、“彼”の自室枕元に置かれていた。
“彼”の“今は亡き両親への想い”に土足で踏み入った気がしてしまい、少し心が苦しくなった。
起動せず使えないパソコン。これが何故自室に置かれているか、その意味は想像しかできない。
台所に残った焦げ跡が生々しい。ここで… この家で、どんな惨劇が起こったのだろうか。
引きこまれそうになる思考を
……結局、ロストロギアは見つからなかった。
探すだけ探して放置というのもなんなので、そのまま家の掃除をさせてもらうことにした。
こうしていると、クライドと一緒に暮らしていた時のことを思い出す。
お互い忙しく休みは少なかったが、それでもたまの休日にはこうして掃除をして、それで…
そんなことを考えている時に、“彼”らが戻ってきた。……新しいお客さんを連れて。
「お帰りなさーい。……あらあら、こんな可愛い子を連れて。桜庭くんも隅に置けないわねぇ」
「あ… ど、ども。私、八神はやて言います」
“彼”はというと、少し驚いた表情を見せてから本当に嬉しそうな表情で私にお礼を言ってきた。
そしてそのまま、私たちを『ハリウッド・スター』として女の子… 八神さんに紹介した。
ハリウッド… 第97管理外世界での映画の本場だったかしら? 粋なはからいもあったものだ。
これでは仕事の話をするわけにはいかなくなった。管理局の提督から離れるのはいつ振りか。
八神さんからの追求をかわすのには、苦労していたみたいだったけど。……フフッ、ご愁傷様。
「いただきまーす」
助っ人の八神さんが“彼”に指示を出しながら手際よく調理を行い、準備を整える。
あっという間に食事の時間となり、四人揃って手を合わせてから“すき焼き”を食べ始める。
とても、暖かくて美味しかった。……そう、まるで家族が揃って食事をするみたいに。
こんな時間に一人で来るということは、八神さんのご家庭も何かワケありなのかもしれない。
“彼”におかわりを勧められていた時、少し涙ぐんでいたから。けれど“彼”は何も言わない。
ならば私たちも何も言うべきではないだろう。
「艦長… いや、母さん」
不意にクロノから声をかけられる。この場では艦長という呼び方は確かに憚られる。
けれど、それが普段の任務中にない距離の近さを感じさせてくれた。
「ん… 何かしら、クロノ」
「その… 暖かくて、美味しいね」
その笑顔の中にほんの一瞬、クライドの面影が見えた気がした。そう… そうだったのね。
クライドは… あの人は、ずっと、一緒にいたのね。私たちを見守って。
「……えぇ、本当に」
思えば、こうしてプライベートでクロノと食事を摂るのは久し振りだ。
互いに忙しい、というのは言い訳だ。クロノの中に宿るあの人の面影すら忘れていたのだから。
いや、なんのために管理局にいるのか、その理由を今一度思い返せば言い訳にすらならない。
食後に何気ない会話を交わしながら後片付けをして、そして笑い合う。
けれど楽しい時間は早く終わるもの。やがて夜も更け、“彼”が八神さんを送ると席を立った。
すかさず同行を申し出るクロノ。すっかり心を許したその姿に苦笑いしか浮かべられない。
手を振り、見送るとこの家には私一人になった。
先程までの心地良い賑やかさがまるで嘘のような静寂… 孤独感。
これを、彼は毎日抱えているのだろう。……誰の理解も求めず、ただ己が道を進むためだけに。
そんなことを考えていると、高町さんのデバイスを通じて私の直通回線に通信が入った。
高町さん、スクライアさん、そして御剣さんたち三人からの協力の申し出であった。
それを受け入れる旨を伝えて、彼らには丁重にお礼を言う。彼らの戦力はとてもありがたい。
けれど三人共まだ幼い少年少女だ。怪我をさせないよう、こちらも気を引き締めなければ。
受け入れに関する諸注意事項を伝達し、回線を閉じる。と同時に“彼ら”が戻ってきたようだ。
驚いたことに、クロノが“彼”と一緒に道場に通いたいと申し出てきた。
あの何事も任務第一で他の要素は極力排除しようとするクロノが。
自分でも自覚はあったようで、そのことについて触れると罰が悪そうな表情で拗ねてしまった。
今まで任務中には滅多に見せなかった歳相応の表情を微笑ましく思いつつ、許可を出す。
本来ならば、任務中に不確定な意図のもと別行動を取るのは好ましくはない。
ただ、“彼”は放置するには余りにも危険要素が大き過ぎることもある。
誰かは監視を付けたいと思っていたところだったので、この結果は望ましい形でもあるのだ。
少々浮かれ気味のクロノを尻目に、“彼”と翌日の約束をしてお暇することにした。
そして翌日、執拗に缶コーヒーを勧められるなどのトラブルに見舞われつつも協力を要請。
それを“彼”は意外そうな表情で受け止めていた。
“彼”の思惑としては、この一件からは適度に距離を取るというものがあったのかもしれない。
しかし、その脅威を知れば知るほど野放しにするわけにはいかない存在だ。
どう出る? という緊張も束の間、“彼”はあっさりと協力を受諾する。
肩透かしを食らったと思う暇もあればこそ、“彼”は様々な条件を出して接触を最小限に抑える。
「(やられた…!)」
他三名を民間協力者として扱うという姿勢を取る以上、その生活は尊重しなければならない。
ならば“彼”が今までどおり学校に通うことも、道場に通うことも止めることは出来ない。
こちらに抱え込み完全な監視下に置く道は、いとも容易く塞がれてしまった。やはり侮れない。
恐らくこちらの思惑を理解しているのだろう。クロノについては、特に言及はされなかった。
顔を立てて貰った形になるが、最低限の監視ができるなら問題はない。この辺りが落とし所か。
水を向けられたクロノが同行を申し出て、私もそれに頷く形で“彼ら”を見送ることになった。
………
……
…
そして今日、先程までクロノが興奮気味に語っていた。
「だから艦長。つまりリンカーコアを
「えぇ、凄いわね。……つまり、ベルカ式の流れを汲んだということかしら?」
「いや、似てるようで違う。アレは魔力を込めて破壊力を増したり防御力を増すのだけど…」
「えぇ、凄いわね」
「こちらは感覚のギアを上げるというか… あらゆる攻撃に対し、後の先を取れる極意というか」
「えぇ、凄いわね」
結局、息子が何を言っているかサッパリ分からなかった。けど何かに開眼したのは事実らしい。
そして重要なのは、それを導いたのは“彼”のたった一言の助言だったということだ。
つまり“彼”はクロノを道場に連れて行き、鍛えるだけの理由があったということになる。
それは一体何故? そこで、あの応接室での御剣さんの“彼”についての話を思い出す。
御剣さんは、“彼”に一度は勝ったと言っていた。彼には悪いが常識的に考えればありえない。
“彼”は年齢に似合わぬ機転と視野を持ち合わせている。幾ら慢心したといえども限度がある。
そもそも“彼”は弁舌を好む。『力に訴えるという行為そのものが“彼”らしくはない』のだ。
ならばどうなる? そう… 『わざと挑発し、そして敗北した』と見るのが妥当になってくる。
なんのために? それはクロノへの対応を見る限り、成長を促すためと見るのが自然だろう。
思考のピースが繋がっていく。あるいは私がここまで辿り着くことすら想定通りなのだろうか?
“彼”が無意味な手で時間を浪費するとは思えない。ならば、それは“彼”なりに意味がある行為。
戦力の増強を施す必要があると仮定した場合、想定される真実とはなんだろうか?
そう… 現有戦力では足りないほどの脅威が迫っている。ソレを知っていることに他ならない。
それがこの一件に関係するのか、あるいは別の何かによるものかまでは今は分からない。
そう… “今は”だ。
これでも時空管理局の提督として、今日までやってきた矜持というものがある。
いつまでも自分の息子よりも小さな子に翻弄され続けるのも、本意ではない。
“彼”が何を見据え、何を考えているのか… 警戒は怠らずじっくりと観察していく必要がある。
「全く… 悩ましいわね。“彼”… 桜庭くんとの距離感は」
コンソール脇に置かれた缶コーヒーを指で弾きながら、ふっと溜め息混じりの笑みを浮かべる。
“今は”まだ考えても仕方ないと気を取り直して、私は日誌の続きを書き始めるのであった。
最近、他視点の勘違い要素が少ないのではというもっともな指摘をいただいております。
出番が増えるとつまらなくなったと言われる主人公ェ…。
そのことも鑑みて今回はリンディさんよりの盛大な勘違いをお送りしました。
賢い人は色々と考え過ぎてしまうようです。
面白いかはともかく。面白いかはともかく。……はい、大事なことなので二回言いました。
ご意見ご感想にお叱り、誤字脱字等のご指摘はお気軽に感想欄までどうぞ。