オレを踏み台にしたぁ!?   作:(╹◡╹)

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少年と管理局と豆狸のすき焼き

「えっ? 私もすき焼きパーティにお呼ばれしていいん?」

「ああ… しっかり食え。缶コーヒーも付けるよ」

 

「……缶コーヒーはいらん」

 

 あれからスーパーにやってきた八神を見事捕獲したオレは、重要ミッションを与えていた。

 そう… “すき焼き一食分奢るからウチでご飯を作ってください”という悪魔の取引だ。

 流石に唐揚げで火災を発生させたオレでは、ハリウッド・スターにご飯を提供するに心許ない。

 

 そして八神の指導の下、食材を買い集めて帰路へとついた。中々に新しい発見が多かった。

 豆腐だったら何でも一緒だろうと絹ごし豆腐を手に取ったら叩かれたりした。…豆狸め。

 あとモロヘイヤを入れるのは少し違うらしい。残念だ。エスニックな名前に心惹かれたのだが。

 

「八神さんはしっかりしているね。あ、いや、悠人がそうじゃないって意味じゃなくて…」

「あはは! おおきに、クロノさん。せやけどゆーとんも良いところはぎょーさんあんねんで?」

 

 あれあれ? なんだかオレの扱いが悪い気がするよ。気のせいだよね。多分きっとメイビー。

 というか八神さん、それフォローしてるつもりかもしれないけど否定してないですよね?

 オレ、公式に「しっかりしてない子」扱いなんですか? どうなってるんですか。……解せぬ。

 

 ………

 ……

 …

 

「お帰りなさーい。……あらあら、こんな可愛い子を連れて。桜庭くんも隅に置けないわねぇ」

「あ… ど、ども。私、八神はやて言います」

 

 自宅に帰ったら、エプロン姿のリンディさん(心の中で勝手に名前呼び)が出迎えてくれた。

 なんでも調査のついでにお掃除までしてくれてたらしい。イヤッホぉおおおおおおおう!

 流石です、リンディさん! 可愛くて美しいだけでなく、優しくて女子力まで高かったなんて!

 

 フハハハ! 流石の凶暴な豆狸こと八神もその輝かんばかりの美貌に呑まれておるに違いない。

 

「こちらはハリウッド・スターのリンディ=ハラオウンさん。撮影のために来日されている」

「どうも~、リンディ=ハラオウンです。よろしくね? 八神さん」

「あ、はい。こちらこそ、よろしゅうに」

 

「先程お互い自己紹介は済ませていたようだが改めて… こちらがクロノ=ハラオウンさん」

「改めて、クロノ=ハラオウンです。……仕事で母に同行しています」

「こちらこそ改めてよろしゅうに。クロノさん」

 

 うん、恙無(つつがな)く自己紹介も完了したな。失礼のないよう頼むぞ? 特に八神とか八神とか八神。

 

「ところで、ゆーとん。なんでハリウッド・スターの人たちと知り合いに…」

「聞くな」

 

「え? でも…」

「聞かないでください。お願いします」

 

 手際よくすき焼きの準備をしながら、八神が余計なことを聞いてきた。

 オレが撮影現場に乱入したことをお二人が思い出したら賠償請求とかされるかもしれないだろ!

 やはりコイツはただの天敵だ。オレはそう再認識することにした。

 

 そんな天敵の豆狸だが腕は確かだ。オレを使いつつあっという間に準備を完了させてしまった。

 

「やっぱりバリアフリーじゃないとちょいと手間取るな~。手伝ってくれておおきにな?」

「気にするな」

 

 マジで気にしないでください。多分オレだったら、すき焼き鍋探すだけで1時間かかってたし。

 

 

 

 

「いただきまーす」

 

 手を合わせ四名の唱和のもと食事をはじめる。……リンディさんたち箸の使い方達者だなぁ。

 そういえば、通された部屋も和風庭園をモチーフにしたと思しき情緒溢れる佇まいだった。

 リンディさんを始めとする、スタッフの皆さん方の日本通は伊達じゃないのが伝わってくるね!

 

 全員過不足なく行き渡ってるようなので、オレも箸を進める。……おお、めっちゃ旨い。

 こう、なんていうか… 出汁が染み込む肉の蕩けるような柔らかさとジュシーさが卵に絡んで。

 

 ……うん、自分のボキャブラリーの貧困さに泣けてくるから食うのに専念しよう。八神GJ(グッジョブ)

 

 ガツガツ食べながら親指を立てて隣を見れば、その八神のお椀が空になっていた。

 

「………」

 

 ボーッとした表情のまま、所在なさげに鍋を見詰めている。

 気付くのが遅れてすまなかった。立つのは面倒だろうから、このオレが菜箸でよそってやろう。

 今回のすき焼き成功の功労者を無碍にしてしまっては各所からクレームが届いてしまう故な。

 

「おかわりもいいぞ!」

「あ… うん」

 

「遠慮するな。今までの分、食え…」

「……ありがとな、ゆーとん」

 

 なんか八神がしんみりしながら食べている。そうか、八神もあの鬱い作品を知ってたんだな。

 今度語り合おうな? 分からない人は『狂四郎2030』でグーグル先生に聞いてみよう。

 

 食事を終え、暫しの歓談のあと八神を家まで送ることにした。流石に夜道に放置はできない。

 帰り道一人になるのは危険だと、クロノさんも同行してくれることになった。ありがたい。

 食事の後片付けも手伝ってくれたし、ハラオウン親子への好感度上昇が留まることを知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで八神の自宅へと向かう道… 当の八神はかなりご機嫌な様子であった。

 いや、理由は推測できる。きっとすき焼きのタダ飯が嬉しかったのだろう。

 そんな幸運に見舞われればオレだってご機嫌になる。だが、それは八神の腕あってのこと。

 

 オレ一人だった場合は八神ほどの成功を収められなかった可能性に目を向けねばなるまい。

 ならばこれは正当な報酬だ。

 

 ……ひょっとして、まさかとは思うがオレは調理スキルが残念なのだろうか?

 いやでもそんなことは… 身近な比較対象の八神がおかしいだけでオレ自身は普通のはず。

 御飯と味噌汁くらいは作れる。サラダも作れる。だから普通。きっと、多分、メイビー。

 

「っと、ついたみたいやな…」

 

 八神の話に生返事を返しつつそんなことを考えていたら、いつの間にか目的地に到着していた。

 

「おおきに、二人とも。今日はホンマに楽しかったで。リンディさんにもよろしゅうな?」

「いや、お礼は悠人にだけで充分だ。……けれど、その気持ちは母に伝えておくよ」

 

 おお… クロノさんかっけぇ。イケメンは心までイケメンで言うこともイケメンだというのか。

 

「こちらこそ世話になった。ありがとう、八神。……又の機会があればよろしく頼む」

「な、なんや照れるな… でも、ええん?」

 

「オレが頼んだことだ。気にするな、オレは気にしない。それに…」

「それに?」

 

「オレたち、友達だろ?」

「……うん、せやな!」

 

 それに引き換え、一食分の値段で凄腕調理師を雇おうとする打算に塗れたオレの卑しいこと!

 身も心も発言すらもイケメンのクロノさんとは比べるほうが失礼ってもんだ。嫉妬すら起きん。

 

 ――バタム

 

 八神の無事の帰宅を見届けると、オレとクロノさんは並んで帰路へと歩みを進める。

 ……暫くして、沈黙に耐え切れなくなったオレが口を開く。

 

「なんか… 申し訳ない。わざわざ気を遣わせて同行までして頂いて」

「気にしないでくれ。一般人を守るのは管理局員として当然のことだよ」

 

 あ、その設定まだ生きてたんですね。

 

「キミは一貫して我々に協力的だ。これに蔑ろにするようでは罰が当たる。母も同意見だろう」

「そう言ってもらえると、こちらとしても気が楽になります」

 

「それに僕はこう見えても執務官だ。腕には多少なりとも覚えがある。安心して頼って欲しい」

 

 流石です、クロノさん! 身も心も発言すらもイケメンなだけでなく腕まで立つなんて!

 ……ん? 待てよ?

 

「……クロノさん、ひょっとして武道にも興味がおありで?」

「仕事柄、どうしても求められるからね。やはり疎かには出来ない分野と言えるかな」

 

 なるほどなるほど… フッフッフッ、これは良いことを聞いたぞ。

 え? 何を考えてるんだって? よくぞ聞いてくれました! つまりこういうことだ!

 

 クロノさんを道場に紹介する

 → 日本贔屓なクロノさんが日本の剣術に興味を持つ

 → 真面目でイケメンなクロノさんなのでみんな熱心に指導をし始める

 → キョーちゃん兄妹はハリウッド・スターからの受講料でウハウハ

 → 同年代のライバル出現で名無しの少年も大喜び ついでに缶コーヒーを貰ってくれる

 

 そして忘れ去られたオレはサボれる。オレはサボれる。大事なことなので二回言いました。

 みんなが幸せになれる理想的なプランじゃないか! これは早速実行に移さないと!

 

「実はオレ、剣術道場に通っているのですが…」

「剣術か… 確か日本という国は古来よりサムライの血を引いていると母さんに教わったな」

 

「えぇ、仰るとおりです。……そこで良かったらクロノさん、一度見物でも如何でしょうか?」

「僕が? しかし、仕事が…」

 

 ぐぬぬぬ… 仕事の壁が立ちはだかるか。いや、待てよ? 仕事、仕事か… よし!

 

「はい、勿論仕事優先で。ただ、クロノさんのお仕事上で武術は大きな割合を占めますよね?」

「それは… 確かに」

 

「新たな空気に触れて視野を広げることで、お仕事の今後にも活かせるのではないでしょうか」

「ふむ…」

 

 スター・ウォーズのジェダイの騎士の動きの数々は、剣道の動きを取り入れてることで有名だ。

 彼にとっても仕事のプラスになる可能性はある筈だ。伝えることは伝えた。さて、どう出る?

 

「確かにあの魔導師の少女二人や、剣を出してた少年のスペックは中々のものだったか…」

 

 考えこんでるようなので此処はそっとしておこう。

 

「日本の文化に触れることで彼女たちへの理解を深められるかもしれない、か。……よし!」

 

 おっ、決まったかな?

 

「キミからの折角の薦めだしこういう機会も稀だろう。艦長に聞くだけ聞いてみるとするよ」

「おお…」

 

「ただ、飽くまで仕事第一だ。期待に添えない可能性もあるので、その場合は容赦して欲しい」

「当然の話です。いきなり無茶を言い出したのはこちらなんですから」

 

 受けてくれたらラッキー程度のものだし、クロノさんの意に沿わない押し付けも本意ではない。

 合わなそうだったら責任にかけてクロノさんだけでも逃がさないと(使命感)。

 例え、キョーちゃんと組手をする羽目になり妹さんの手料理を食べる羽目になっても(絶望)。

 

 ……あ、あれ? ひょっとして薦めないほうが良かったか? い、いや。きっと大丈夫さ!

 常識的に考えれば母でもあり艦長でもあるリンディさんが許可をするわけがないじゃないか。

 

 

 

 

 

「あらあら、クロノにも柔軟性が出てきたのかしら? 親としても艦長としても嬉しいわ」

「まるで僕が柔軟性の欠片もない融通の効かない人間みたいに…」

 

 あ、あれ? 思った以上に好感触っぽいだと? いや、さすがに許可は…

 

「そこまでは言わないけどね。……あ、勿論許可するわ。でも怪我はしないようにね」

「いいんですか? 自分で申し出ておいてなんですが、僕が抜けるとアースラの戦力が…」

 

 って、いいんかい!? いかん! 頑張れ、クロノさん! その設定で押し切るんだ!!

 

「さっき高町さんたちから連絡があってね。協力してくれることになったの」

「そう、ですか。確かに彼女たちの才能なら、アースラのバックアップも含めれば或いは…」

 

 おい、どうしたクロノさん! ハリウッドのイケメンパワーで振り切ってくれ!

 リンディさんも同じハリウッド・スターだから効果が薄いのか!?

 

「但し、万一のためこちらの事情を知っている桜庭くんと一緒に通うこと。これが条件よ」

「分かりました。そういうことなのでよろしく頼むよ、悠人」

 

「アッハイ」

 

 しかもサボれなくなった。しかもサボれなくなった。……大事なことなので二回言いました。

 どうしてこうなった。どうしてこうなった。ウェーイ、ミトメタクナーイ。

 

 こうしてオレは若干真っ白な灰になりながら、状況に流されることになってしまった。

 一体どうしてこうなってしまったんだ。何が悪かったと言うんだ。ぼんやり思考を巡らせる。

 その時、脳内でソウルフレンド(だといいなと思ってる)ユーノ君の言葉が再生された。

 

『今この街で起こっている異変は全部ロストロギアの仕業なんです』

 

 なんだって! ソレは本当かい!?

 

 オレは理解する。いや、理解してしまう。

 そうか… なにもかもロストロギアのせいだったんだな。

 くっ、なんてことだ。絶対に許さねぇ。

 

 オレに対して理不尽を強いるロストロギアへの怒りを募らせるとともに、もし見つけた時のためにリンディさんとクロノさんと連絡先を交換することにした。

 

「あ… それとサインに関してだけど明日には話を通しておくので、良かったらアースラへ」

「行きます」(即答)

 

「え、えぇ… それでは迎えをよこしますね」

 

 行く行く絶対に行きますとも。

 イヤッホぉおおおおう! 管理局最高ぉおおおおおおう!!

 リンディさんとクロノさんも最高ぉおおおおおおう!!!

 

 

 

 

 

 

 ロストロギア? なにそれ? 刹那で忘れた。




 クロノさん覚醒フラグか?(覚醒するとは言ってない)

 リンディさんは中の人への監視と護衛のためにクロノさんを付けました。
 様々な要因から好感は持っているものの疑念は抱かれたままです。
 本来ならば任務中の執務官にこのようなことは許可しないはずです(多分)。

 次回はこれらについて詳しく描写した管理局視点での話になると思います。

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