オレを踏み台にしたぁ!?   作:(╹◡╹)

33 / 48
 長くなりましたのでまた上下にわかれます。申し訳ありません。




少年と管理局・上

 やあ… みなさん、こんにちは。それとも、こんばんは? もしかしたら、おはようだろうか?

 いずれにしても、清々しい時を過ごせていたなら喜ばしい。え? オレは何をしてるかって?

 フフフ、よくぞ聞いてくれました。オレは今なんと… 黒っぽい格好をした少年に土下座中さ!

 

 全くなんでこんなことになったのやら… オレはこうなった経緯について振り返るのであった。

 土下座しながら。土下座しながら。大事なことなので二回言いました。

 

 ………

 ……

 …

 

 ――チュンチュン… ガバッ!

 

 小鳥の(さえず)りをBGMにベッドから起き上がる。今日も、青空が澄み渡った気持ちの良い朝だ。

 

「よし、良い目覚めだ」

 

 今日は“みどりの日”。つまり祝日だ。昨日休んだことにより奇しくも2連休となってしまった。

 そして土日も続いて4連休となる。月曜日は祝日ではないものの、その後更に3連休となる。

 ビーフ・ストロガノフ(滅)で崩れた体調も概ね回復しており、この連休をフルに活用できる。

 

 つまり、何が言いたいのか? そう… GW(ゴールデンウィーク)万歳ということだ。者共、宴の準備じゃ!

 そしてオレは以前借りてた本を返しに昼頃図書館に向かうと、夕方になるまでそこに篭もり…

 新たに2冊ほど借りたその足でスーパーですき焼きの材料を買い込み、帰途についたのである。

 

 借りてきた2冊は“虎よ! 虎よ!”と“星を継ぐもの”。たまには古典SFにどっぷり浸かろう。

 そう、こういうムーブこそがオレ。何が悲しくて汗臭く毎日素振りをしないといけないのか。

 でもチキンだから素振りは午前中のうちに終わらせてきました。図書館というご褒美のために。

 

 なんかウェイターさんが山に一緒に行かないかとか誘ってきたけど、丁重にお断りしておいた。

 やはりホモなのか? 勘弁して下さい。桃子さんがいますよね? 彼女一筋でお願いします。

 ホントにコレさえなければいい人なのに… 凄くいい人なのに。残念過ぎて逃げ出したくなる。

 

 そんなこんなで、オレは解き放たれた気分でスキップ混じりに歩いていた。夕焼けが心地よい。

 こんな日は臨海公園を通って景色を楽しみながら帰ろうかな? そう回り道って訳でもなし。

 この決断をオレは死ぬほど後悔することになるのだが、その時のオレは勿論知る由もなかった…

 

「……?」

 

 最初に感じたのは違和感。まるで薄膜一つ突き破って、別の世界に紛れ込んでしまったような…

 まさか!? 今の時刻を確認する。クッ、なんてことだ… まさしく“逢魔が時”じゃないか。

 日暮れ時のこれから夜の帳が下りる時間帯… 古来より、“魔に出逢う刻”と恐れられた時間帯。

 

 妖怪が現れて人を喰ったり神隠しや人攫いが出てくるのだ、と恐れられた、それが“逢魔が時”。

 

「フッ、バカバカしい…」

 

 ……なんてな。そんなの迷信だ。ある筈がない。一笑に付して気にせず進もうとしたところで。

 

 ――ドォンッ!

 

「うわおぅ!?」

 

 地面が揺れるような爆発音が聞こえてきた。てか揺れた。今地面が揺れた。最近地震多いな!?

 やっぱり引き返そう。ビビッたわけじゃないぞ。よく分からん爆発音に近づくのは危険だし…

 論理的かつ理性的に撤退を決めたオレだが、パンパンに詰まっていたスーパーの袋が反逆した。

 

 具体的には揺れのせいで玉ねぎがこぼれ落ちた。……ポロッと。

 

「……あ」

 

 ――ポトッ、コロコロコロコロ…

 

 奥に向かってすごい勢いで転がっていく。って待てぃ! 玉ねぎ抜きのすき焼きなんて嫌だぞ!

 一瞬呆然として見送ってしまったオレではあったが、我に返ると慌てて玉ねぎを追いかける。

 地面を転がった玉ねぎを食べる気かって? 剥けばなんとかなるさ! まてぇ~い、ル○~ン!

 

 奥に向かって大丈夫か? 帰ろうとしていたような… 知るか、そんなことより今は玉ねぎだ!

 

 その後… オレと玉ねぎのレースは暫く続いたが、なんとかヤツを追い詰めることに成功した。

 多分普段の素振りとかがなければもっと早く体力ゲージがゼロになり、力尽きていただろう。

 てか、スーパーの袋置いてくれば良かった。持ったまま走るの滅茶苦茶しんどいです。泣ける。

 

「ぜぇ、ぜぇ… よし、ようやく…」

 

 並走し、空いている方の手で玉ねぎに手を伸ばそうとした時…

 

 ――ドォンッ!!

 

 再び、より大きな爆発音があたりに響き渡り… ぎゃあああ! 玉ねぎが進路変更したぁあ!?

 しかも確かこの先は海に続いていたはず! 早く追いつかないと海ぽちゃされてしまうやん!

 流石のオレも海ぽちゃした玉ねぎを食べる気はしない。なんとしてもここで追いつかなければ。

 

 だけど、たかが56円の食材に何をムキになってるんだろう。いや、もういい。もはや意地だ。

 

「アーマージャケットパージ!」

 

 アーマージャケットもといスーパーの袋を投げ出し、玉ねぎを… ただヤツのみを追い求める。

 道無き道を進み、時には茂みをも突き破る。そして、オレたちが向かうその先には光が…!?

 いかん、この先はもう海に続いていたはず。やらせるものか! このまま海ぽちゃ玉ねぎなど…

 

「させるかぁ!」

 

 オレは光へと向かって手を伸ばし…

 

 ――ゴスッ

 

 その勢いのまま“誰か”と激突し、もつれ合い、激しく転倒するのであった。前方不注意ですね。

 どうやらオレは“不運(ハードラック)”と“(ダンス)”っちまったらしい。ぶつかった誰かさん、マジすんません。

 ところで玉ねぎは… ヤツはどうした? せめてヤツさえ無事なら… だが現実は非情である。

 

 周囲を見渡すオレの目に映ったのは、スローモーションで海に身投げするヤツの最期であった。

 

 ――ぽちゃん…

 

「……落ちた」

 

 衝撃が突き抜けて、他人事のように呟いた。あぁ、オレは一体なんのためにこんなところまで…

 

 こんなところ? そういえば… と、ここでオレは“周囲の状況”とやらを改めて確認してみる。

 例のCG発生装置に手を伸ばす金髪の少女。そしてそのペット。さらに他2名も見知った顔。

 名無しの少年とちゃっかり系少女だ。最近道場で見ないと思ったらこんなところでサボりか…!

 

 羨ましい! 是非オレも一緒にサボらせて下さい! ウェイターさんたち怖いから無理だけど!

 

「………」

 

 何故かみなさん沈黙してらっしゃる。そしてみなさん揃いも揃ってオレを注視してらっしゃる。

 無言のまま。無言のまま。大事なことなので二回言いました。……気のせいだと思いたいネ。

 だが現実から逃げるわけにはいかない。この場の状況を理解して、最適な回答を導き出さねば!

 

 さぁ、キリキリ働け。オレの灰色っぽい脳細胞。

 

 1.全員日常生活にそぐわぬであろう派手めな衣装を身に纏っている。

 2.CG発生装置に手を伸ばしてる金髪少女。

 3.辺りに不自然に残っている破壊やら爆発やらの痕跡っぽい穴とかそんなの。

 

 なるほど、謎は全て解けた。じっちゃんの名にかけて。そう… これは撮影現場だったんだよ!

 つまりオレは、奇声を上げながらこの撮影現場に乱入してきた不審人物ということになるな。

 ……アカン(白目)。うん、そりゃみんな注目しますよね。この不審者一体何者なんだよって。

 

 あばばばばばばばばばばばばばばば! どうしてこうなった! どうしてこうなってしまった!

 

 ……弁償か? 弁償なのか? いや、多少はお金を持たされてるけど無理。損害賠償とか無理!

 ご両親に迷惑をかけるしかないのか? 嗚呼… 自分で責任を取れぬ子供ボディが恨めしい。

 待てよ? ここには金髪少女がいるじゃないか。そう、公園でちょっと会話もした程度の仲だ。

 

 缶コーヒーやボン太くんを(一方的に)プレゼントした間柄じゃないか! これはもはや絆だ!

 

「あっ…」

 

 よし、多分覚えていてくれてたっぽい。……目が合うと棒に結んだボン太くん撫でてくれたし。

 あとは子役女優っぽいこの子に縋って監督さんへの口利き・取り成しをお願いするしかない。

 頼む、名も知らぬ金髪の少女よ。ヘルプミー。映像化されたらDVDとかBD10枚買うから。

 

「………」

 

 オレは“助けてください”という想いを瞳に込め、金髪少女を見つめる。やがてハッとする彼女。

 伝わったようで何よりだ。流石に「弁償したくないので弁護して下さい」と言えないからな。

 即座に首を横に振ろうとする彼女に対し、笑顔で微笑み… 頷いた。精一杯の営業スマイルだ。

 

 頼む、頷け。頷いてくれ。頷いて下さい! でないと悠人少年が借金で社会的に死んでしまう!

 酷く長く感じる刹那の時は、その小さな首肯によって締め括られた。ありがとう、金髪少女!

 さぁ、早く取り成しを… あれ? あれれれ~? 金髪少女、帰っていっちゃったんですけど…

 

「………」

 

 ペコリとお辞儀をしてから、例の赤い大型犬と一緒にどっかに飛んで行っちゃったんですけど。

 これはアレか? “ごめんなさい、無理です”ってことなのか? “サヨナラ”ってことなのか?

 どないしょう… 唯一の頼みの綱に見捨てられてしまったでガンス。やっぱ無茶だったのか!?

 

 いや、諦めるのは早い! こういう時こそ冷静に頭を仕切り直せば、活路は見出だせるはずだ!

 まずは落ち着くのだ。周囲の流れに反発するのは下策。周囲を利用し流れを呼びこむが上策。

 “ピンチの時はまず落ち着いて、その後によくものを考えるコト”ってどっかの先生も言ってた!

 

 そう、落ち着いて… 周囲を…

 

「………」

「………」

 

 そこで、オレが押し倒してる形になってた少年と目が合った。わぁい、すっかり忘れてたZE!

 

「……とりあえず、どいてくれないか?」

「あ、はい」

 

 オレはその少年の上からどくと、即座に土下座をした。

 

 ………

 ……

 …

 

 それから程なく、オレたちは立体ホログラムの多分偉い人の指示により変な場所を移動してた。

 ……うん、我ながらふわっとした説明ですまぬ。近未来的な設備ってことしか分からんのよ。

 そしてこの一件で、オレはこれがハリウッドばりに予算がかかった撮影だったことを確信した。

 

 ていうか、まんまハリウッドだろうね。わーい… ハリウッドスターと知り合えたぞー(棒)。

 

「………」

「これも魔法… なのか?」

 

「ユーノくん、ユーノくん… ここって一体?」

「時空管理局の次元航行船の中だね」

 

 ノロイ様(仮)が喋っている。だがハリウッドではよくあることだ。なんら驚くに値しないな!

 というか、役者のみなさんが演技を続行しているこの場にオレなんかがいていいのだろうか?

 監督採用しちゃったの? さっきのシーン採用しちゃったの? オレ、エキストラになったの?

 

「簡単に言うと幾つもある次元世界を自由に移動する… そのための船だよ」

「あ、あんま簡単じゃないかも…」

 

 うーん… それじゃ伝わりにくいだろうね。ノロイ様(仮)の説明も間違っていないんだが…。

 SF好きとしてソレらしい説明をしたくなってくる。いいかな? いいよね? よしいこう。

 オタクってのは、自分の分野になると語りはじめる生物なんだよ。我ながらめっちゃうざいね。

 

「海で隔てられたり、陸で隔てられたり、そういった断絶された場所というものがあるだろう?」

「あ… うん、流石にソレはな」

 

「次元も同様だ。海以上に断絶された、本来決して超えられない断崖のようなものだな」

「へぇ、そう考えると分かるかも」

 

 黒っぽい格好をした少年を横目で確認するが、特に訂正する気配はない。よし、このままGO!

 

「だが絶対ではない。何かの拍子に交わってしまうこともあるだろう」

「ふんふん。交わったらどうなるんだ?」

 

「例えば桃源郷伝説、例えば神隠し伝承… それらもそういったモノが生んだ伝説かもしれない」

「なるほど…」

 

「つまり次元航行船というのは」

 

 名無しの少年と白っぽい格好をしたちゃっかり系少女たちに視線をやる。さぁ、答えをどうぞ。

 

「そういった次元同士を行き来できる船… ってことだよね?」

「なかなか りかいが はやい」

 

 ブラボー! オー! ブラボー! オレ、(当てずっぽうだけど)オタク知識を語れて大満足。

 そんなオレを観察していたっぽい、黒っぽい格好をした少年が話しかけてくる。

 

「随分と詳しいみたいだな。えっと…」

「……失礼、名乗りがおくれました。桜庭悠人です」

 

「いや、こちらこそ。時空管理局執務官クロノ・ハラオウンだ」

 

 おお、なんか凄そうな肩書きの人だ。……そんな人にタックルかましたんだな、さっきのオレ。

 取り敢えずもう一回謝っておこう。エキストラかどうか知らんけど、謝って損はないはずだ。

 全方位土下座外交を展開して、少しでも弁償をする可能性の潰していくのだ。がんばれ、オレ。

 

「改めて、先程はご迷惑をお掛けして申し訳ありませんでした」

「……その件も含めて話が聞きたい。どうかこのまま抵抗せずに同行をして欲しい」

 

「……はい、本当にすみませんでした」

「だが、僕個人としてはその謝罪を受け取っておこう。なに、決して悪いようにはしないさ」

 

 やはりそう上手くは行かないかと落ち込んだオレに対し、彼は微笑んでフォローをしてくれる。

 ……なんていい人なんだ。後光が差して見えるようだ。執務官さん最高! 素敵! 抱いて!

 いや落ち着け。確かにこの人はいい人だが抱いてはないだろ、抱いては。ホモは帰ってどうぞ。

 

 それから衣装チェンジをしたり、ノロイ様(仮)が人間になったりと色々とあったが省略する。

 動物が人間に変身した? ハリウッドではよくあること。この言葉で全てが解決されるのだ。

 ただのエキストラのオレが、大きなリアクションを取って他の連中より目立つわけにはいかん。

 

 無心、無心… 心を無にするのだ。……そうこうしているうちに、目的地へと到着したようだ。

 

「艦長、来てもらいました」

 

 ハラオウン執務官がそう言って近未来風の扉を開けると…

 

 ――カポーン…

 

 そこは鹿威(ししおど)しが鳴り、盆栽が立ち並ぶ和風テイストな場所であった。これは、いい仕事だ。

 

「お疲れ様。さ、4人共どうぞどうぞ… 楽にして」

 

 優しそうな人だ。オマケに美人だ。ハラオウン執務官の言葉から推測するに、この人が艦長か。

 ならば、オレのするべきことは一つ。

 

「はじめまして、艦長殿。丁寧なお招き恐縮です。自分は聖祥大附属小学校三年、桜庭悠人です」

 

 そう、保身のみ。楽にしろと言われて楽にしているようでは二流! 少しでも印象を操作せよ!

 直立不動のまま、45度のお辞儀をする。他の3名もそれに続いた形で自己紹介を済ませた。

 流石にお辞儀まではしなかったけど。彼らはする理由がないしね。オレは土下座も厭わないが。

 

「あら、ご丁寧に。私はリンディ・ハラオウン。この次元航行艦船アースラの艦長をしています」

「ハラオウン? ということは…」

 

 ハラオウン艦長の傍らに立っているハラオウン執務官に視線を移す。……ややこしいな、これ。

 すると、彼も頷く。やはり、か… 自分の仮説が確信に至る。そしてオレは口を開く。

 

「なるほど、ハラオウン執務官の姉君でしたか。ご姉弟揃って優秀なのでしょうね」

 

 もしくは、この二人の家系によっぽど大きなコネクションがあるか。まぁ、どっちでもいいか。

 ……? なんだろ。なんかハラオウン艦長がニコニコしだして、うん、それはいいのだが…。

 ハラオウン執務官が複雑そうな表情をしている。なんかオレ、失礼をしてしまったのだろうか?

 

「……母だ」

「はい? ……あ、後妻さんとかそういう」

 

「血の繋がった実の母でございます。フフッ、クロノは私がお腹を痛めて産んだ子でしてよ?」

「わーお…」

 

 いいのかこれ。監督、いいのかこれ。ハラオウン艦長、どう見ても二十代前半にしか見えんぞ。

 髪の色とか全然違うし。いやまぁ、他の誰が言っても悠人少年だけは髪の色指摘できんけど。

 とはいえ、二人で説明されてはそういうものだと割り切るしかない。何故か艦長、上機嫌だし。

 

「コホン… 納得してもらったところで、そろそろ事情を聞かせてもらってもいいだろうか?」

「あ、はい。どうぞ」

 

 優しい人だなぁ… 尋問という形ではなく、飽くまで聞き取り調査という形にしてくれる模様。

 よし、なんでも聞いてくださいよ! 執務官さんのために、ゲロっちまう準備は万端でさぁ!

 オレは気合を入れて聞き取り調査に備える。機嫌を損ねたら、尋問が拷問に変わっちゃうしね!

 

「まず、あの黒い魔導師の少女との関係は? 彼女は何者なんだ?」

「え? ……あの、知りません」

 

「……あの黒い魔導師の少女の所属は?」

「……存じません」

 

「……あの黒い魔導師の少女の名前は?」

「……分かりません」

 

 何故か金髪少女について執拗に聞かれた。うん、ごめんなさい。あの子のこと何も知りません。

 大きくため息を吐かれる。あかん… 執務官さんの好意を踏み(にじ)る腐れ外道になってますやん。

 

「ねぇねぇ桜庭くん。あの子の名前はフェイちゃんって言うんだよ?」

「あ、そうなんだ」

 

「えっへん! フェイちゃんから教えてもらったんだよ」

「そっかー。えらいなー。すごいなー」

 

 ちょっぴりドヤ顔可愛らしいけど、そういう助け舟はお兄さんもう少し早く欲しかったかなー。

 とりあえず新事実が判明した。可及的速やかに、ハラオウン執務官へと報告せねばなるまい。

 こういう地道なポイント稼ぎがオレの疑惑を薄める一歩に繋がっていくのだ。がんばれ、オレ。

 

「ハラオウン執務官、あの黒い魔導師の少女はフェイちゃんというらしいです」

「いや、うん。聞こえてたから。目と鼻の先の距離でのやり取りは流石に聞こえるから」

 

 ですよねー! ……ぐぬぬ、汚名返上ならずか。

 

「まぁ、その言葉を信じるとして… だったら、なんであの場に割り込んできたんだ?」

「その、玉ねぎを追っていて…」

 

「……君は僕を馬鹿にしているのか?」

 

 絶望した! 時に想いが擦れ違い、真実が人を傷つけてしまう… そんな現代社会に絶望した!

 なんだよ、何もかも全部オレが悪いってのかよ? ……オレは悪くねぇ! オレは悪くぬぇ!

 いかん、生まれた意味を知るRPGになるところだった。そもそもオレが悪いしね、この状況。

 

 嘘は何一つ言ってないのに疑惑が深まってしまう。少年たち、助けて! あ、目ぇ逸らすなよ!

 

「まぁまぁ、クロノ… この子は嘘を言っているとは思えないわ。一旦ここまでにしましょう?」

「しかし、艦長」

 

「それに他に3人もお客さんがいるでしょう? あまり一人に時間をかけるものではないわ」

「はぁ… 仕方ない。君の疑いが晴れたわけじゃないから、そこのところは理解するようにね?」

 

「ははぁ~… 肝に銘じます」

 

 ありがてぇ、ありがてぇ… 美人艦長さんにフォローしてもらった。素敵! 結婚して下さい!

 ……うん、素敵な旦那さんがいるでしょうから無理ですよね。調子に乗ってマジすんません。

 とはいえ、オレの尋問はこれで一段落か。良かった良かった、安心したら腹が減っちゃったよ。

 

 お、目の前にお茶と羊羹があるじゃん。

 

「では、キミたちの事情も聞かせてもらおうか」

「あ、はい。えっと…」

 

 ノロイ様(仮)な少年が周囲をキョロキョロと見渡している。まるで、何かを警戒するように。

 

「言い難いことか? 確かに証言の記録は取らせてもらうが…」

「あ、いえ、そうではなく…」

 

「ならば盗聴を心配しているのか。そういった心配もないよ。……ですよね? 艦長」

「えぇ、あなたたちの到着前にひと通りチェック済みよ」

 

 流石ハラオウン親子だ。出来る人は気遣いも超一流。いよっ! 憎いね、ハリウッド・スター!

 だがノロイ様(仮)な少年の顔色は冴えないままだ。一体何が彼をそこまで苛んでいるのか?

 傍らの少年少女に視線を移せば、彼らもなんとなく察したような苦笑いの表情を浮かべている。

 

 はて、一体何なのだろう?

 

「えと、会話に割り込まれないかと心配で…」

「少年、流石に会話を始めようという時に叩き潰すような失礼な人はいないと思うぞ」

 

 羊羹を食べながら思わず突っ込んでしまったオレは悪くないと思う。あ、お行儀は悪いですね。

 思うにこのノロイ様(仮)な少年は自分に自信が持てないタイプなのだろう。だが案ずるな。

 世間ってのは思ったより優しいもんなんだぞ? オレはサムズアップをしながら頷いてみせる。

 

 ノロイ様(仮)な少年の緊張が、笑顔とともに解れていくのが伝わった。うむ、善き哉善き哉。

 

「……何故だろう。何故か“オマエが言うな”って心の底から思ってしまうぞ。桜庭」

「……右に同じくなの」

 

 だが世間の風はオレには冷たかった。名無しの少年と白っぽい少女がオレの言葉に異を唱える。

 まるでオレが、ノロイ様(仮)な少年の説明をこれでもかと邪魔してきてかのような口ぶり。

 なんという風評被害。所詮エキストラに、口を挟む権利はないというのか! うん、知ってた。

 

「解せぬ」

 

 反省の意を込めつつ、オレは羊羹を頬張りながらエキストラらしく気配を隠すことに専念した。

 話長くなるかな~。今晩何にしようかな~。とか思いながらオレは話を聞き流すのであった。

 てか羊羹うめぇ。あ、そっちも食べていいんですかハラオウン艦長。やったー! 管理局万歳!




 悲しいかな、リンディさんは中の人の言葉を丸ごと信用するほどお人好しでもありません。
 なお、買い物袋さんは野獣に襲われつつも主人の帰りを待っている模様。

 ご意見ご感想にお叱り、誤字脱字のご指摘はお気軽に感想欄までどうぞ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。