オレを踏み台にしたぁ!?   作:(╹◡╹)

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 読者の皆様には関係ない話題でしょうが、作者は分類上ドラゴンボール世代だと思われます。


執務官のファースト・コンタクト

 僕はクロノ・ハラオウン。時空管理局執務官として次元空間航行艦船アースラに同行している。

 時空管理局執務官とは、事件の捜査や法の執行に介入する権利や現場指揮権を有する役職だ。

 執務官として大きな権限を与えられているものの、当然ながら大きな力には義務と責任が伴う。

 

 一筋縄ではいかないが、この次元世界の秩序と平和を守るコトが出来るやり甲斐のある仕事だ。

 こんなことを話せば、決まって同僚(エイミィ)に茶化されるので口には出さないことにしているけれど。

 若年ということでまだまだ先人の活躍には及ばないが、想いだけなら誰にも負けないつもりだ。

 

 当然、今回の任務に関しても手早く解決することで被害を最小限に抑えてみせるつもりでいる。

 

「確か… 第97管理外世界で発生したと思われる小規模次元震の調査と解決、でしたっけ?」

「そう、上はロストロギアによるものだと睨んでいるわ。だから可能ならその封印と回収もね」

 

 アースラの艦長であり僕の母でもあるリンディ・ハラオウンに確認すると、返事が返ってくる。

 

「スクライア一族が発掘し運んでた例のロストロギアが、あの辺に落ちたんじゃないかって」

「ジュエルシード、か。たった一つ、それも恐らく何万分の1の出力で次元震を起こすとは…」

 

「おやおやぁ~? クロノ・ハラオウン執務官ともあろうお方が弱音ですかな~?」

「……からかうなよ、エイミィ。現状を正確に認識しないと任務に支障をきたす。それだけさ」

 

 同僚のエイミィが話に乗ってくる。腕は確かなのだが、何かにつけ僕をからかうのが玉に瑕だ。

 士官学校からの付き合いとはいえ、これでは艦内の風紀にも関わってくるんじゃなかろうか?

 執務官とオペレータの癒着… 笑えない三流ゴシップ記事だ。……実母が艦長の時点で今更か。

 

「観測結果によると、既に現地では二組の捜索者が小競り合いをしているみたいですよ?」

「そうね。一組はスクライア一族の子たちとしても、もう一組はどういった経緯なのかしら…」

 

「既に現地で活動してる捜索者がいて、所属も目的も不明な組もある。ひと波乱ありそうですね」

「頭が痛い問題ね。友好的であることを祈りたいけれど、互いに小競り合いをしている以上…」

 

 エイミィと母さんが現地の捜索者について思いを馳せて、あれこれと考察を重ねているようだ。

 僕も気にならないといえば嘘になる。けど何より大事なのは任務の達成。まずそれが第一だ。

 議論に没頭しつつある二人に向かって、僕は、半ば自分にも言い聞かせるような形で口を開く。

 

「どちらにしても僕達のやることは変わらない。可能な限り穏便な形での封印と回収に尽力する」

「おっ、相変わらず真面目くんだねぇ~。クロノは」

 

「だから茶化すなって。大丈夫だとは思うが、油断して足元を掬われてもフォローしないからな」

「言ったわねぇ~。いっつも誰のサポートのお陰で現場でやれてると思ってるんだか!」

 

 売り言葉に買い言葉。やいのやいのと僕とエイミィは腐れ縁宜しくお決まりの口喧嘩を始める。

 

「艦長、魔導エンジンの起動準備整いました。よろしければ発進のご命令を」

「はいはい、二人共じゃれ合うのはそこまでにしておきなさい。……いいわね?」

 

「「はい!」」

 

 ブリッジオペレータのアレックスの言葉に居住まいを正した母さんが、僕達をたしなめてくる。

 全く元はといえば誰のせいで… そう思わないでもないけれど、僕にも非があるのは確かだ。

 エイミィと二人で小さくなったまま敬礼。その様子にクスリと微笑むと艦長は発進を命令した。

 

「次元空間航行艦船アースラ、これより発進します。目標、第97管理外世界… “地球”!」

「了解。アースラ、メイン魔導エンジン起動します」

 

 アレックスがエンジンを起動させ、もう一人のブリッジオペレータであるランディが補佐する。

 

 ――ブゥン…

 

 アースラの魔導エンジンが起動する。優秀なクルーたちによって運行し、武装局員も多数配置。

 隙も生じぬ二段構え、と言いたいところだが現地で何が起こるか分からない。慢心は禁物だ。

 これから僕たちが向かう第97管理外世界… “地球”。其処は一体どんなところなのだろうか?

 

 ………

 ……

 …

 

「現地では既に二者による戦闘が開始… あっ、終わった模様です」

「えっ?」

 

 ランディの報告に思わず聞き返してしまう。……ソレはつまり、瞬殺したということだろうか?

 甘く見ていたつもりはなかったけれど、戦力評価を上方修正しないといけないかもしれない。

 それともロストロギアのランクが低めだったということだろうか? それならまだありえるが。

 

「信じられません… 中心となるロストロギアのランクは最低でもA+だったのですが…」

「……一級の武装局員に匹敵するわね。勿論、魔力量だけが実力の全てじゃないけれど」

 

 艦長が感嘆したようにため息をつく。僕だって同じ気持ちだ。ロストロギアはいわば自然災害。

 ただの人間が持つ魔力量とは異なり、自然現象を伴うことでその猛威を最大限に発揮できる。

 往々にしてその逆とはいえ、もしかしたら同ランクの武装局員より強い可能性だってあるのだ。

 

 何にせよ、一瞬で鎮圧できるほど容易な相手ではないのは確かだ。よほどのセンスがあるのか?

 

「あっ… 二組がそのままジュエルシードを巡り、ノータイムで戦闘を開始した模様!」

「なっ!? ……昨日次元震を起こしたばっかりだろうに! 一体何を考えているんだッ!?」

 

 思わず怒鳴ってしまった僕は悪くないと思う。とはいえ、状況に臨み冷静さを喪うのは失策だ。

 

「わお、地球人って好戦的ね。戦闘民族なの? ……私、上手くやれるのか不安になってきた」

「言ってる場合か! 艦長、転移座標の特定はできてます! 命令があればいつでもッ!」

 

 普段は反発することが多いエイミィの軽口に心底同意したくなるとは、いよいよもって重症だ。

 とはいえ仕事は仕事だ。僕はゲートに向かって駆け出しながら、艦長に出撃の許可を求める。

 今この場でやるべきコトは、戦闘に介入して即座に停戦を促し協力の下で事情確認をすること。

 

「クロノ・ハラオウン執務官、やるべきことは分かっていますね?」

「当然です」

 

「ですが充分に注意を。貴方と云えど、油断をしていたら… いきなり墜とされかねません」

「大丈夫。分かってますよ、艦長」

 

 モニターに目を移せば、不規則な高機動戦闘をしながら弾幕をバラ撒く白い魔導師の少女の姿。

 そして、それら全てを躱しながらも果敢に反撃を試みる黒い魔導師の少女の姿が映っている。

 オマケに辺りは援護の魔法や何故か刀剣の類が飛び交い、非常に混沌とした状況となっている。

 

 今から“この中”に飛び込まないといけないのか。いや、危険な任務は何度となくこなしてきた。

 

「それじゃ、気を付けてね~」

「……はい、いってきます」

 

 艦長がハンカチを振って見送ってくれる。……何故だかソレがとても不吉なものに感じられた。

 

 ………

 ……

 …

 

「ストップだ!」

 

 結論を言うと、何とか傷付くことも傷付けられることもなく戦闘行為の停止を呼びかけられた。

 あまりこういう言い方をしたくはないけれど、運が良かったのも大きな要素と言えるだろう。

 勝てないとは決して思わないが、ある意味で暴走体以上に奔放に動き回る極めて厄介な連中だ。

 

「ここでの戦闘行動は危険過ぎる。……僕は、時空管理局執務官クロノ・ハラオウン」

「……ッ!」

 

 まずはジュエルシードのすぐ傍で戦闘行為に及んだ軽率さを注意しつつ、軽く自己紹介を行う。

 二人の少女や剣を投げていた少年、そして使い魔らしき二名が息を呑む様子が伝わってくる。

 取り敢えず、直ぐ様激しい抵抗をするという様子はないようだ。内心安堵しつつ言葉を繋げる。

 

「詳しい事情を聞かせて…」

「そうだよ! 危険すぎるんだよ! ジュエルシードのすぐ傍での戦闘行為は危険なんだよ!」

 

 そのまま事情聴取に移ろうとしたところ、イタチ型の使い魔に遮られ… ん? コレは擬態か。

 あ、いや、それより事情を確認したいんだけど。ま、まぁ言ってることは間違いじゃないが。

 いや、こんなことじゃいけない。時空管理局が低く見られるようではダメだ。ここはビシッと…

 

「そのとおりだ。だからキミたちの事情を…」

「何やってんの! 僕言ったよね? 次元震が起こるとアレだから戦闘は控えるようにって!?」

 

 ビシッと…

 

「う、うん。だから早く終わらせようかなって…」

「なんでそっち方面に行くの!? 刀真も止めてよ! なのはの考えてるコト分かるでしょ!?」

 

「あ、いや… 同じく、さっさと勝っちゃえば解決するかなって。……すまん、ユーノ」

「あ~もう、あ~もう! そこの管理局の人も何か言ってやってください! この脳筋たちに!」

 

 こ、ここで僕に振ってくるのか? 忘れられていると思ってたが… いや、しかしこれは好機。

 

「その… うん、彼の言うとおりだ。ロストロギア付近での戦闘行為は危険だからこそ事情を…」

「そこ! 僕たちが話してる隙にジュエルシード持って行こうとしない! 怒るよ、ホントに!」

 

 黒い魔導師の少女がコッソリとジュエルシードを持ち去ろうとしているのが見つかったようだ。

 ……うん、もはや何も言うまい。

 

「“あ… バレちゃった”みたいな顔してもダメだからね!? ていうか、バレバレだからね!?」

「イタズラ見付かっちゃった子供みたいな表情でしょんぼりしてるフェイちゃん可愛い」

 

 この状況の一因となった白い少女といえば、黒い少女の気まずそうな表情に頬を緩ませている。

 ジュエルシードの封印から、ほぼノータイムで戦闘を開始するような付き合いだったはずだ。

 もっと殺伐とした間柄を予測していたが違うのか? これが管理外世界の異文化というものか。

 

 ひょっとしたら、彼女らにとって挨拶代わりの攻撃はコミュニケーションの一環かもしれない。

 確か… 戦うことでしか分かり合えない人種がいると、以前エイミィから聞いたことがある。

 事情聴取後に艦長に提出するレポートには、その辺りの考察を含める必要があるかもしれない。

 

「なのはも! 自分のしたこと自覚してる? 刀真やそっちの女の子もだよ! 反省してよ!!」

「ご、ごめんね… ユーノくん」

 

「すまん、ユーノ…」

「ご、ごめんなさい…」

 

 その場にいる三人が、イタチに擬態している少年に頭を下げる。……なんなんだ、この光景は。

 なんとも言えない空気が辺り一帯に漂う。一人、擬態している少年がプリプリと怒っている。

 どうやらお説教は長くなりそうだ。少し怒りっぽいものの、感性は僕らに近いようで安心する。

 

 ひょっとしたら、彼こそが艦長の言っていた渦中のスクライア一族の少年なのかもしれないな。

 

「いつもいつも顔文字の人に遮られてる僕の話なんて、みんな真面目に聞くつもりないんだね…」

「そ、そんなことないよ… うん、ごめんなさい。……反省してます」

 

「いや、悪い。その、負けっぱなしで“次こそは”って思ってたからつい…」

「えと、顔文字の人って誰…?」

 

 どうやら彼らの問題も中々に根が深いようだが、いつまでも時間を無為にできない。そろそろ…

 

「……ッ!」

 

 ――ドォンッ!!

 

 攻撃魔法を感知して、咄嗟に障壁を展開する。下手人は… 黒い少女の使い魔である大型犬か。

 

「何やってんの、撤退するよ!」

「あっ… うん!」

 

 それはタイルを(えぐ)り、黒煙を巻き起こして僕たちの視界を阻む。……なるほど、見事な奇襲だ。

 

 だが、無意味だ。僕も随分と舐められたものだ。あの程度の攻撃、目眩ましにもなりはしない。

 どうやら彼女たちに関しては拘束が必要なようだ。事を荒立てたくはなかったが、仕方ない。

 ジュエルシードを確保しようと動く黒い少女に対し、黒煙の中から射撃魔法の照準を合わせる。

 

「そうはさせない…ッ!?」

 

 その時だった。……僕に迫る“何か”の気配を感じたのは。回避のため咄嗟に一歩引いてしまう。

 それは訓練で染み付いた抗いようのない習性のようなもので、事実、その判断は概ね正しい。

 今まで幾度となく命を救ってきてくれたし、今回も、ソレが効果的に発揮されたと思っていた。

 

 ――ブンッ…

 

 目の前をその“何か”が通り過ぎる。何だ、アレは… 果物? いや野菜? そうか、玉ねぎか!

 コレが魔力弾とかあるいはナイフのようものだったらこのような醜態を晒さなかっただろう。

 だが、あまりにもこの場に似付かわしくないソレに、僕は思わずその行方を目で追ってしまう。

 

 ……致命的な隙を見せながら。

 

「させるかぁ!」

 

 ――ドンッ!

 

 そんな声と共に時間差で身体ごとぶつかってきた人物に、僕は反応することすら出来なかった。

 体格的に決して恵まれていない僕はあっさりと姿勢を崩し、もつれ合うように転んでしまう。

 僕の習慣付いてた動きさえも逆手に取った、先ほどのソレとは比べ物にもならない完璧な奇襲。

 

 意地で魔導杖(デバイス)は手放さなかったものの、マウントポジションを取られてしまい状況は絶体絶命。

 

「……落ちた」

 

 夕暮れの残光に照らされた銀髪、まるで獲物を狙うかのように周囲を見渡す鋭い虹彩異色の瞳。

 たったの二手… 魔力すら使わずこの僕を組み伏せてみせたその男は、無感動にそう呟いた。

 雰囲気に呑まれて誰も言葉を発することが出来ない。今、この場は彼に完全に支配されている。

 

 第97管理外世界… 地球。どうやら僕は… いや、僕たちはまだまだ認識が甘かったようだ。




※ユーノくんの心境

「なのは、先日の次元震のこともあるからジュエルシード付近での戦闘は控えてね?」
「了解! トランザム!!」
「なのはぁああああああああああああ!?」

コレは激おこ待ったなしですわ(確信)。


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