オレを踏み台にしたぁ!?   作:(╹◡╹)

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すみません。まだ原作キャラは出てきません。


少年の徘徊

 調査も一段落つき思考を中断すれば、時計の時刻は昼前を示している。

 もうこんな時間か。

 身体は正直なもので、自覚した瞬間に腹に入るものを寄越せと急かしてくる。

 

 まずは冷蔵庫を開けて中身をチェックしよう。

 適当な材料があればありあわせのもので調理してもよいだろう。

 

 ――ガラッ

 

 ギッシリと詰まったブラック珈琲の缶の大軍がオレを出迎えてくれた。

 溢れんばかりの黒の衝撃は、他の一切が入り込む余地がないことを如実に伝えてくる。

 

 ――バタン…

 

 冷蔵庫のドアを閉める。

 

 悠人少年ェ… 一体彼の心の闇とはどれほどのものだったのだろうか。

 コレはちょっと偏食とかそういう次元を通り越してるよな。

 両親いないにしてもコレは不摂生が過ぎんよ…。

 なんだコレ、なんなの? 某コンビニ店がまたぞろアニメとタイアップでもしたの?

 

 そこまで考えて、オレはさっき処分した黒歴史ノートのことを思い出す。

 これは… 悠人少年のキャラ付けのヒントとなるのではないだろうか?

 誰かを真似るのならばその生活習慣からプロファイリングするのは基本中の基本だ。

 

 きっと彼は、無口でクールでブラック珈琲のよく似合う厭世的な少年だったのだろう。

 中二病とか言わないであげて! 男の子だったら誰しもが通る道なんだよ、多分!!

 オレもかめ○め波の練習とかしたことがあるし、これくらいは許容範囲だよ。……うん。

 

 ……冷静に考えれば推定小学生が中二病患ってても別におかしくないよな。

 むしろ微笑ましいと言われる類だろう。この容貌でやられると不気味なだけだが。

 

「……悲しいことだな」

 

 彼を演じることにそこはかとない憂鬱さを覚えながら、今後の予定を考える。

 

 取り敢えず家で調理するのはNGになった。

 申し訳ないがここは彼の財布を借りて昼は外食、夜は調理という形でいこう。

 あとブラック珈琲は早めに処分しよう。そうしよう。

 

 すまない、悠人少年。使ったお金はメモっておくからキミが戻った時にちゃんと返すよ。

 ……あんまり使い過ぎると返済がしんどくなるから、基本、節約モードでいこう。

 やれやれ、早く戻れるといいなぁ。

 

 ノートと筆記用具にブラック珈琲2本を鞄に入れ、外套を羽織って外に出る。

 玄関を開けて感じる、この暖かさが同居した奇妙な肌寒さ… 春先といったところかな?

 

 そうとも、前向きに考えよう。この地の情報収集が自然に行える良い機会だ。

 その時に記憶が刺激されれば、名前や住所を思い出して戻る一助になるかもしれない。

 

 オレってば外出に抵抗はないけど、出る必要がなかったら何日でもこもってられるしな。

 適当にぶらついて喫茶店かファーストフード店にでも入って噂話に耳を傾けるもよし。

 スーパーで惣菜を買って公園のベンチで春の木漏れ日に身を委ねながら食べるもよし、だ。

 

 なんだか楽しくなってきたな。

 右も左も分からぬ状況だが悪いことばかりじゃないだろう。

 オレは足取りも軽く、見知らぬ場所から更に見知らぬ場所へと歩き出すのであった。

 

 ………

 ……

 …

 

 初めて見る景色の数々に目を奪われながらあちこちをぶらついていると、いつしか図書館のような建物前まで辿り着いていた。

 ふむふむ… 館名は『風芽丘図書館』と。やっぱり図書館だったか。

 一階部分には喫茶店もあるようだ。ふむ、お昼を食べてから図書館で調べ物もいいかもな。

 現在の状況についてやこの街のこと、あとなんか面白い本… 調べたいことは幾らでもある。

 

 店に入ると店員さんにギョッとされた。まぁ、この容貌じゃ仕方ないだろうが傷付くな。

 とはいえ、憎しみの連鎖が争いを生むのだ。ここは大人になって流そうじゃないか。

 そんな下らないことを考えているなんておくびにも見せず、クールに用件だけを伝えてみる。

 

「一名、禁煙で。……空いてますか?」

 

 フフフ、店員さん驚いてるぞ。「いらっしゃいませ、一名様ですか?」なんて定型台詞を言わせる隙も与えなかったからな。

 自分の失態に気付いたのか露骨に舌打ちされる。おや、客商売でそれはいただけませんな。

 案内の途中ですれ違った店長らしき人が「あの問題児が… 何のつもりだ」とか呟いていた。

 

 ふむふむ… 察するに応対した店員の彼はまだまだ研修中で問題もある性格なのだろう。

 だとすればこっちが敢えて指摘することもないな。店長さんの今後の指導に期待しよう。

 そうこうしてるうちに仕切りのついた最奥の席へと案内された。

 角でかつ4人用の席。オマケに仕切りのせいで入口からは見えない。おいおい、良いのか?

 

 確かに対応はちょっと拙かったかもしれないが、こんな露骨な贔屓はいいのだろうか?

 

「……いいんですか?」

「な、何か問題でもありましたでしょうか」

 

 こちらが目を見ながら確認すると、研修中の店員さんはどもりながらもそう返してきた。

 ……あ、うん。ごめんね。折角の気遣いに野暮なこと言っちゃったね。

 コレでさっきの件はチャラ。そういうことだな? オーケーオーケー、忘れようじゃないか。

 よく見たら汗もかいているし、彼なりに失敗を挽回しようと必死に知恵を絞ったんだな。

 

「いや、()()()()()()()。……そうでしょう?」

「し、失礼します!」

 

 あ、行っちゃった。含みを持たせるように言ってみたが、露骨過ぎて気不味くなったかな?

 まぁ、いっか。メニューを見よう。お、ナポリタンセットが美味しそうだな。コレにしよう。

 

 出てきた料理に舌鼓を打ちながら周囲のオバサマたちの噂話に耳を傾ける。

 主人の稼ぎが少ないとか、翠屋という喫茶店が美味しくてお勧めらしいとか色んな話が耳に入ってくる。喫茶店内で別の喫茶店の話するなよ。可哀想だろ。思ってても言えないオレチキン。

 ここ(ウミナリ市という場所らしい)には総合病院もあるらしいな。散歩してる時も思ったが、やっぱり都会だよな。

 

 つつがなく腹を満たし、会計を済ませると店員と店長は揃って安堵の表情を見せた。

 ……あぁ、クレームでも入れられるのかと思ったのか。それはドキドキするよね。

 なんせ周囲には有閑マダムの群れ。些細な悪評だろうと大袈裟に広範囲に拡散されかねない。

 

「ご馳走様でした。……また来ますよ」

 

 笑顔を見せつつ社交辞令。

 仕事でもない限り必要以上に笑ったり喋ったりするのは面倒な性分だが、これくらいは構うまい。無言となった彼らに会釈を一つし、オレは書架に向かうことにした。

 

 何か収穫があるといいな。




※冷蔵庫の中の缶コーヒーの群れについて
・悠人少年が一方通行を真似てやりました。
・1本飲んでまずかったので後は放置し、食事は専ら出前です。

次回は店員サイドで視点を進めたいと思います。

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