オレを踏み台にしたぁ!?   作:(╹◡╹)

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今回はギャグ成分少なめになっております。
そちら方面を期待されている方がいらっしゃるならば申し訳ありません。


リリカル少女の悩み

「うにゃあああああああああああ!?」

「クッ… 狙いが定められない」

 

 私、高町なのはは聖祥大附属小学校に通う小学3年生。何のとりえもない女の子だったけど…

 ある日突然手に入れた魔法の力で、この街のJS(ジュエルシード)を封印するために頑張ってます。

 そんな中出会ったもう一人の魔法少女フェイちゃん。彼女もまたJS(ジュエルシード)を集めているみたい。

 

「レイジングハート! お願い! 狙いは最小限でいいから!」

『All right...Divine Shooter』

 

「させない… バルディッシュ!」

『Roger...Photon Lancer Multishot』

 

 桜色と金色の光が目映く明滅して周囲を明るく染め上げます。

 そんな通常ならば綺麗と目を奪われるような光景でも、今の私の目にはロクに入ってきません。

 って、わきゃあ!? い、今髪の毛に砲弾が掠った。容赦無い、容赦無いよフェイちゃん!?

 

 今、どういう状況なのかと申しますと…

 

「そこっ!」

「にゃああ!? あ、当たってない…」

 

 私がフェイちゃんをスピードで撹乱しています。はい、逆ではなくて。“私が”なんですよね。

 唯一この状況に問題があるとすれば… 私も全然制御できていない、というところなのです。

 ていうかフェイちゃん慣れるの早ッ! もう狙いが定まってきてるよ。このままじゃ… よし!

 

「レイジングハート! フライアーフィンを6基から8基へ!」

『Well,but...(訳:しかし…)』

 

「お願い!」

『...All right』

 

 一気に加速力が増す。少しでも加減を間違えるとバランスが崩れて、上下左右に振り回される。

 でも、“だからこそ”フェイちゃんの隙を突ける。ちゃんと互いの目を見てお話をするんだ。

 どんなに砲撃魔法を撃ってもかわされるなら、どんなにバインドを放っても避けられるのなら…

 

 ソレが出来ない程の距離まで詰めるしかない! “あの人”が教えてくれた通りに!

 

「いくよ、フラッシュムーブ!」

『All right...Flash Move』

 

 “距離を取る”ために習得していた移動魔法を、“距離を詰める”ために使う。そしてその結果…

 

「「え?」」

 

 奇しくも重なる二人の声。目の前には呆然としたフェイちゃんの顔… 私も同じ顔なのだろう。

 あ、これってもしかしなくてもかなりピンチなのかもしれない。ちょっと無茶し過ぎたかな?

 互いに硬直したまま二人の距離は近づいていって…

 

 ――ゴンッ!

 

 痛い!

 と思う暇もなく、私はここに至るまでの記憶に思いを馳せていた。これって走馬灯、なのかな?

 

 ………

 ……

 …

 

 今回はユーノ君の調査のおかげで、私たちがJS(ジュエルシード)を先に発見することができました。

 回収時に出てきた相手は火の鳥みたいな融合体。……多分、鳥さんと融合しちゃったのかな?

 かなり素早かったけどフェイちゃんほどじゃない。だから、私たちも落ち着いて対処できます。

 

 刀真君、ユーノ君との連携で鳥さんから無事JS(ジュエルシード)を抜き出し、あとは封印するだけ。

 なんだけれど…

 

「どうしたんだ、高町?」

「何か心配事でもあるの? なのは」

 

 動きを止めてしまった私を心配してか、刀真君とユーノ君の二人が揃って様子を尋ねてくる。

 でも、この気持ちは私のきっと我侭。私のせいで二人に迷惑をかけてしまってはいけない。

 彼女が来た時点で無事にジュエルシードを入手できる確率はグンと下がってしまう。だから…

 

「……そのジュエルシード、こちらに渡してもらいます」

 

 自分の内なる葛藤を止めて封印しようとした私の背に、待ち望んだ人からの声がかけられる。

 私たちと同じ位の年齢の、そして何らかの目的でJS(ジュエルシード)を探し求めている魔法少女。

 今まで何度となく戦ったけどロクに相手にされることなく、まともにお話もできなかった少女。

 

「来たんだね、フェイちゃん」

 

 私は… この子と、キチンとお話がしたい。ちゃんと互いの目を見て、名前を呼び合いたい。

 その過程で戦いが避けられないならば、勝つしかない。そんな決意を秘めて振り返ったが…

 フェイちゃんのデバイスに括りつけられた“あるモノ”を見た時、動きを止め固まってしまった。

 

「どうしたんだ、高町!?」

「彼女の前で無防備に動きを止めてると危険だよ! なのは!」

 

 動きを止めてしまった私を心配してか、刀真君とユーノ君の二人が揃って様子を尋ねてくる。

 どういうこと? 二人は気にならないのかな? あの、可愛らしい生き物の編みぐるみが。

 男の子だからね。仕方ないね。でも私は気になって仕方ないよ! 何あれ何処で売ってるの!?

 

「……フェイちゃん」

「何度も言うけど、私はフェイじゃなくて」

 

 訳の分からないことをフェイちゃんが喋り始める。ゴメンね、フェイちゃん。今はそれより…

 

「フ ェ イ ち ゃ ん」

「あ、はい。……その、なにか?」

 

 ……うん、キチンと目を見て話し合えば気持ちは通じるんだよね。嬉しいよ、フェイちゃん。

 何故か震えてる気がするけど。何故か刀真君とユーノ君も互いに抱き合って震えてるけど。

 それはささいな事… だよね? 顔文字の人の話にでてきたミストさんなら分かってくれる筈。

 

「その子… なに?」

「……?」

 

「その、可愛い編みぐるみの子。……何処で売ってるの?」

「ボン太くんのこと?」

 

 ふむふむ… そっか、ボン太くんって言うんだ。心のメモ帳にしっかり記入しておかないと。

 

「コレは売り物じゃない。私の尊敬する人が手ずから作って渡してくれた信頼の証」

「信頼の… 証…!?」

 

 ハンドメイドの“信頼の証”… そんなに重いものだったなんて。オマケに非売品だったなんて。

 ちょっぴり誇らしげなドヤ顔で説明するフェイちゃん可愛い。いや、それは置いておくとして。

 私はフェイちゃんに告げられた余りにショックな現実に、思わずその場に崩れ落ちそうになる。

 

「こんなのってないよ… あんまりだよ」

「いや、そんな大袈裟なものじゃなかったような… 多分適当に渡しただけだと思うけど」

 

「そんな筈ない。……アルフはあの人のことをどう思ってるの?」

「どうって… そりゃただの気のいいやつとか?」

 

 なにか言葉を交わしているフェイちゃんとアルフって人との会話も、もう耳に入ってこない。

 けど、刀真君とユーノ君にとってはそうでもなかったみたいで…

 

「! ユーノの読み通り、やっぱりブレインってのがいたみたいだな…」

「うん… 当たって欲しくはなかったけどね」

 

「聞きたいことがソレで終わりなら、今日もジュエルシードをいただいていきます」

 

 動揺する刀真君とユーノ君の二人を尻目に、そう切って捨てて臨戦態勢を取るフェイちゃん。

 けれど、幾ら欲しいからって力づくっていうのはやっぱり間違ってるよ… フェイちゃん。

 互いの目を見て話し合う… ソレが友達になる第一歩。私、フェイちゃんのために鬼になるよ!

 

「じゃあ私が勝ったらボン太くんを貰うね?」

「え? いや、その… それは、困ります…」

 

「フェイちゃんが言ってるのはそういうことなんだよ」

「うぅ…」

 

「人にされて嫌なことをやっちゃいけないよね?」

「ご、ごめんなさい…」

 

 小さくなってショボンとするフェイちゃん可愛い。……でも、私もボン太くん欲しかったなぁ。

 あ、私が勝ったら作ってくれた人を紹介してもらおうかな? うん、それなら大丈夫だよね!

 よーし、気合が入ってきた! 今日という今日は負けないよ、フェイちゃん! 覚悟してよね!

 

「それじゃいくよ! フェイちゃん!」

「……はい」

 

「そっちは気合十分ってワケだ。それじゃアタシも手加減は抜きで行くよ」

「俺だって、今度こそ負けるつもりはないさ」

「なのは! 刀真! 援護するよ!」

 

 互いに譲れない想いを背負って激突! そして…

 

 

 

 

 

 

 あっさり負けちゃいました。

 まだ刀真くんとユーノくんの二人が粘ってくれているけれど、劣勢なのは火を見るより明らか。

 刀真くんとユーノくんのフォローで直撃は免れたといえ、動けるまで少し時間がかかりそう。

 

『あー… また負けちゃったか。どうして勝てないんだろう…』

 

 舞うように戦うフェイちゃんを羨ましげに見つめてそんなことを考える私に… “声”が応えた。

 

『おっすおっす。どったのー? 今日は元気ないみたいじゃーん 壁|・▽・)ノ オッハロー♪』

『あ、顔文字の人だ。お久しぶり… えへへ、恥ずかしいところを見られちゃったなぁ』

 

『別にちっとも恥ずかしくはないぜ。誰だって落ち込む時はあるしな~ (´・ω・)ノドンマイ』

『……いっつも元気な顔文字の人にもそういう時ってあるの?』

 

『勿論。例えば大事なイマジナリーフレンドが元気ないと心配して落ち込むぜ?il|_| ̄|○ ||l』

『あはは! もう、冗談ばっかり… でも、ありがとね。それじゃ、相談に乗ってくれる?』

 

 顔文字の人はいつも元気で前向きだ。……この人に私たちは何度考えさせられ救われたことか。

 

『おっけー、どんと来いや! でも頼りにならんだろうから過度な期待はNGな? ∑d(・ω・*)』

『ソレは振りだよね? “目一杯頼りにしろ”ってことなんだよね? ありがとう、顔文字の人!』

 

『勘弁して下さい。そうやってハードルあげるのやめてくれませんかねぇ… ヾ(・ω・`;)ノぁゎゎ』

『ごめんごめん。えっとね…』

 

 いつまでも楽しくお話をしたいけれど刀真くんとユーノくんが大変な時だもの。自重しないと。

 だから私は顔文字の人に、要点をかいつまんで説明してみる。可能な限り現状を客観視して。

 魔力量は(ユーノ君曰く)私の方が上なこと。私は砲撃型であること。相手は高機動型なこと。

 

 その他にも、“自身の想い”… 互いにちゃんと顔を見てお話をしたいこととかも“全部”含めて。

 

『なるほどなー。……これはむしろ相手の子を褒めるべき流れだな (。-`ω-)ンー』

『ど、どういうこと!?』

 

『いや、万能リソース扱いの魔力で勝ってて、オマケに人数でも勝ってるんだ (´・ω・`)』

『うん』

 

『本来ゴリ押ししてても、結果は圧勝となって然るべき流れだ… と思う ( ̄ω ̄;)』

『で、でも、実際問題私たち負けっぱなしだよ!?』

 

 顔文字の人が悪いわけではないけど、つい噛み付いてしまう。うぅ… 悪い子になってるよ私。

 

『うん。だから相手の子が巧いんだな~… と素直に認めるしかない。天晴(あっぱれ)! (*^ー゚)b』

『じゃあ、どうやったら勝てるのかな…』

 

『これだけクレバーな立ち回りができるなら勝つのは難しいかもしれない。けど… (・w・)』

『けど?』

 

『“お話”するのならばそう難しくはない。相手の土俵に立って引き摺り出せばいい v( ̄∇ ̄)ニヤッ』

『相手の土俵? でも私は砲撃型の魔導師で… あの子も、凄く速いし…』

 

 フェイちゃんのスピードに追い付ける気がしない。狙っても逃げられるしバインドも通じない。

 

『それは適正の問題だ。最もキミに向いたスタイル、というだけでしかない ヽ(・ω・oヽ)』

『どういう、こと?』

 

『確かに砲撃よりは幾分か効率が落ちるだろう。だが、“できない”わけじゃない (ノo・ω・)ノ』

『……?』

 

魔力(リソース)をブチ込めば、それは可能になるんだ。“できる”と“できない”の違いは大きい (・ω・)』

『……あっ!』

 

 現在、両踵に展開してるフライアーフィン… それを4基にしたら? あるいは6基にしたら?

 砲撃の距離を稼ぐという目的のために開発した移動魔法、フラッシュムーブにしてもそうだ。

 発想を変えれば、幾らでも私が“やれること”はあったはず… そのことに改めて気付かされた。

 

『気付いたようだな。互いに見ることは叶わぬがきっと良い顔をしているのだろう ヾ(´▽`*)』

『……はい!』

 

『これが最後かも知れないが心残りはなくなった。あの二人にもよろしく伝えてくれ (´・ω・)ノ』

『え? さ、最後って… どういう、こと…』

 

『ちょっと物体Xを食して生死の境を… ゲフゲフン、膝に矢を受けてしまってな (´・ω・`)』

『物体X? 膝に矢? そんなに大変な状況なのに、なんで私に…』

 

 それに、この会話が最後かもしれないなんて。そんな… 私、助けられてばっかりだったのに…

 ううん、違う。それが“この人”なんだ。飾らない言葉で私たちを笑わせて、和ませてくれて。

 そっと背中を支えてくれるような、何気ない日常。だったらここで私が取り乱しちゃいけない。

 

『まったく… 危ないことは程々にしないとだよ? 顔文字の人』

『いや、面目ない。冷静に考えたら死ぬことはないと思うんで待っててくだせぇ… (//∇//)ウェヒヒ』

 

『うん、待ってる… いつもの3人で待ってるからね…』

『おう、帰ってきたらまたみんなでバカ話でもやろうZE! ヾ(≧∇≦)ゞヒャッハー!』

 

『もうっ! そんな話をしてるのは顔文字の人だけでーすー!』

『こりゃ一本取られた。はっはっはっ、そんじゃそろそろ… ( ´∀`)ケラケラ』

 

『……あっ』

 

 いつまでも楽しく話をしていたいけれど、何にだって終わりはやってくる。そう、今この時も…

 

『大切なのは… 間合いと、決して挫けない心じゃよ。……なんてな _( ̄▽ ̄)ノ彡☆』

『……ん。ありがとうね、顔文字の人』

 

 私のお礼に言葉を返すことなく、顔文字の人は“いなくなってしまった”。本当に、あっさりと。

 自身が生死の淵にありながら、きっとギリギリまで私のために時間を使ってくれたんだろう。

 ありがとう、そして待っているよ、顔文字の人。あなたが教えてくれたことを心に焼き付けて。

 

 だから私は… ううん、“私たちは”決して諦めない。

 

「そうでしょ? 私の… “挫けぬ心(レイジングハート)”」

『Yes,My master!』

 

 魔力(リソース)は充分! フライアーフィンを多重展開。よし、いける… これならきっと捕まえられる。

 

「私、フェイちゃんと話がしたい。ちゃんと互いを見て名前を呼び合いたい!」

『All right...Flash Move』

 

 ――私は跳んだ。“あの人”が気付かせてくれた私なりのやり方で… あの子と向き合うために。

 

 ………

 ……

 …

 

「いったたたたた…」

「……くっ!」

 

 互いの頭をぶつけてしまい、硬直してしまう。いたたたた… うぅ、失敗したよ~。凄く痛い。

 けど、今この時こそがチャンスでもある。……フェイちゃんが動けないうちに距離を詰める!

 私の気持ちを汲み取ってくれたレイジングハートが瞬時にフラッシュムーブを発動してくれる。

 

「零距離ッ! これで…」

『Divine...』

 

「そう来ると」

 

 ! まずっ…

 

「思っていた」

『--Thunder Rage』

 

「ッ!!」

 

 大魔法を発動中のフェイちゃんのデバイスを、咄嗟にレイジングハートで受け止めてしまう。

 乗せられてしまった。私の(意図したわけじゃないけど)頭突きで痛がってたのは演技?

 って、今はそんなことを考えている場合じゃないよ! うぅ~… どうしよう、このままじゃ…

 

「高町!」

「なのは! 今すぐ援護を!」

 

「おっと… 行かせると思うかい?」

 

 刀真くんとユーノくんも足止めをされている。この場には私しかいない。私が何とかしないと。

 

「ありがとう、アルフ。すぐに終わらせるから…」

「あわわわ…」

 

 ますます圧力がかかってくる。……ううん、覚悟を決めろ! 高町なのは!

 ……もし、ユーノくんの言うとおり私の魔力が桁違いなら。

 ……もし、刀真くんの言うとおり私にしか出来ないことがあるのなら。

 

 ……無理を通すのは、今、この時をおいて他にはない! そうでしょ!? “顔文字の人”ッ!!

 

「ッ! なんで…」

「フェイちゃんがそうであるように、私も、簡単に負けてあげられないの」

 

 ――ピシピシピシ…

 

 押されていた私の魔力をなんとか持ち直す。だけど、フェイちゃんもますます魔力を込める。

 うん、いいよ。そんなに簡単に行くとは思ってない。だったら… ここから先は我慢比べ。

 散々無駄遣いした私の魔力(リソース)がどこまで持つか分からないけど… あと少しなら頑張れるから!

 

 ――ミシミシミシ…

 

「あなた達にとっても、そんなにJS(ジュエルシード)が大事!?」

「確かにユーノくんのためにそれは大事だけど… もっと大事なことがあるよ。私の理由」

 

「……あなたの、理由?」

「うん。それはね…」

 

 ――パリィン…

 

 私の手の中のレイジングハート… そしてフェイちゃんのデバイスが同時に砕け散ってしまう。

 ごめん、ごめんね。レイジングハート。私のせいで無理をさせちゃったね…

 

『All right...My little master』

 

 光に呑まれていく中で、私とフェイちゃんはしっかりとお互いを見つめ合うことが出来ました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空は真っ赤に染まっている。今、私はそんな綺麗な夕焼けを地べたに倒れたまま見上げている。

 

「引き分け… ううん、負けかな。……JS(ジュエルシード)、持って行かれちゃったし」

 

 また勝てなかった。でも今日は互いに目を見て話すことが出来た。これからだよ、高町なのは。

 あ、そういえば…

 

「見つめ合った時、涙目だったなぁ… 頭突き、実は痛かったんだね。ごめんね、フェイちゃん」

 

 心の中で反省。

 

「お~い、高町~!」

「なのは~!」

 

 そんな私のところに刀真くんとユーノくんが駆けつけてくれる。本当に私は恵まれているなぁ。

 フェイちゃんの戦闘センスは素晴らしいと思う。多分私なんかじゃ太刀打ち出来ないほどに。

 だけど、私には大事な“仲間”がいる。そもそも、“お話をする”ためなら勝つ必要だってない。

 

 そういうことだよね? 顔文字の人。……元気に戻ってくるまで、私たち3人で待ってるから。

 

 ………

 ……

 …

 

 家に帰るとお姉ちゃんが泣いていた。それをお兄ちゃんが宥めている。一体どうしたんだろう?

 

「ただいま。……お姉ちゃん、どうしたの?」

「あぁ、おかえり。む… 美由希は桜庭と少し、な」

 

「っ! ひょっとしてお姉ちゃんを苛めたの? 最近変わったと思ってたのに…」

「違う… 違うの、なのは」

 

 また以前のような嫌がらせをしてきてお姉ちゃんを苛めたのかと思ったけど、違うの?

 

「ヤツについてはおまえが一番被害にあったからな… オレの意見は押し付けられない」

「でも…」

 

「何も仲間外れにするつもりはない。会話のやりとりを客観的に聞かせるから判断して欲しい」

「……うん、わかったよ」

 

「まず、ヤツは美由希の差し出した料理を食べた。完食した。……一皿残さずだ」

「あー…」

 

 その… なんといったらいいか。家族贔屓で見ても、お姉ちゃんのお料理は… かなりひどい。

 知らずにアレを食べさせられたなら多少の暴言は仕方ないかな? それでも嫌な気分だけど。

 そう思いながらもとりあえず聞くといった手前、お兄ちゃんの語る内容に耳を傾ける。すると…

 

『不味い。具は生焼け、スープは半固形… そして隠し味が悪い方向に化学反応している』

『うぅ…』

 

『何から何まで、“食べ物”としては最悪中の最悪だ。全く、食えたもんじゃない』

『ご、ごめんなさい…』

 

『けど… “優しい味”でした』

『……え?』

 

『その一点だけで“料理”としては及第点だ』

『あ、ありがとう…?』

 

『妹さん。この料理からは貴女の“誰かに向けた優しさ”がよく伝わってきました』

『う、うん…』

 

『もし貴女が“誰かのための料理人”でいたいなら… 無理に背伸びをする必要はありません』

『でも、がっかりさせちゃ…』

 

『最初は70点… いや、60点50点からで構わない。レシピの通りに作ってみましょう』

『………』

 

『貴女の優しさが加わるならば、それは世界にたった一つの料理になるのだから』

『……ん』

 

「この言葉を最後に逃げるように道場を後にした。ヤツが無事に帰り着けたのかは分からない」

 

 え? どういう、こと? お姉ちゃんの料理を食べて全力でダメ出しをして… ソレは分かる。

 けれど“優しい味”だと褒めて… お姉ちゃんの気持ちをそっと後押しする。それじゃまるで…

 それに今日、“あの人”はなんて言っていた? 膝に矢を… ううん、その前のこと。物体Xを…

 

「ッ!」

「どういう意図で“優しい味”と評したのか分からない。ただの苦し紛れのフォローかもしれない」

 

 一瞬、思い浮かんだ“あの人”のことを頭から追い出そうとする。……でも、それが出来ない。

 一つの思考から追い出しても並列思考(マルチタスク)のままどうしても考えてしまう。今、この瞬間すら。

 

「けれど…」

 

 お兄ちゃんが微笑む。やめて、やめて、やめて… “あの人”は私たちの恩人で。だから!

 

「あぁ… 間違いなく美由希は救われたよ。……無論、この俺もな」

 

 “あの人”とは違うって、そう思いたいのに… でも、泣きながら頷くお姉ちゃんを見て。

 心の何処かで、納得してしまっている自分もいたのです。

 

 ――翌日。

 

 お姉ちゃんがお母さんに頼み込み、四苦八苦しながらもレシピ通りに作ってみたお味噌汁は…

 ちょっと塩辛かったけれど、とても“優しい味”がして… 高町家の笑顔が増えたのでした。

 

「……ねぇ、ユーノくん」

「なんだい? なのは」

 

「“念話”ってある程度以上の魔力がないと、受け取ることも話すこともできないんだよね?」

「うん、そうだね。だから助けを呼ぶために使うことになったんだけど」

 

 私は知っている。私がユーノくんに出会う前からまるで魔法のような力を使ってた人のことを。

 “あの人”は沢山の人を傷付けて… でも“あの人”は恩人で… でも“あの人”は…

 答えの出ない思考の迷路の中で、私はいつまでもグルグルと一つのことを考え続けるのでした。




容易く防御を貫通する砲弾を撃ってくる砲台が不規則な軌道かつ猛スピードで迫ってきます。
そんな立場に立たされたフェイトさんの気持ちを30文字以内で答えよ。

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