オレを踏み台にしたぁ!? 作:(╹◡╹)
今回はなのはさん視点でフェイトさんとの邂逅を描きます。中の人の出番? ありません。
私、高町なのはは私立聖祥大学附属小学校に通う
ある日突然手に入れた魔法の力で、この街のジュエルシードを封印するために頑張っています。
ジュエルシードは“ロストロギア”とも呼ばれる危険な魔法のアイテムなんだって。
放っておくと、暴走したり周囲の生物を取り込んで大きな被害を生むこともあるみたい。
だから私は、ユーノ君から借りた魔法の力でそういった事故を未然に防ごうと動いてるんです。
ユーノ君は“ミッドチルダ”っていう別世界から来た魔法の使えるフェレットさん。
事故に遭って積み荷のジュエルシードが散らばって、その回収のためにこの世界に来たの。
本当はユーノ君のせいじゃないのに、関係ない世界のために必死になれる責任感の強い子です。
困ってるユーノ君のために私にできることがあるなら、力になってあげたい。そう思います。
それに力になるのは私一人じゃありません。もう一人、頼りになる人がいるんです。
その人は
本人は自分に才能がないと思ってるみたいだけど、プールでも学校でも助けられたんだよ。
集めたジュエルシードはコレで4つ! まだ決定的な事件は起きてないけれど頑張らないと!
「どうしたのよ、なのは。いきなり拳を握りしめて」
「あはは… なのはちゃん、なんかとっても燃えてたみたい」
にゃ!? しまった… 今は刀真君と一緒に友達のすずかちゃんにお呼ばれしてたんだった。
もう一人の友達のアリサちゃんが驚いてる。うぅ、恥ずかしいところを見られちゃったよ。
友達とは言っても流石に二人に魔法のことを話すわけにいかない… 何とか誤魔化さないと。
「にゃはは… それは、その…」
「大方、来週の温泉旅行を楽しみにしてるんじゃないか?」
「あ、うん! そうなんだ… えへへ、バレちゃったか」
刀真くんの出してくれた助け舟にすかさず乗って、笑って誤魔化す。……嘘って難しいよ。
「うん、そうだね。私も今からすっごい楽しみなんだ」
「ふ~ん… ま、いいわ。私も楽しみなのは本当だしね」
笑顔でそれに応じてくれるすずかちゃん、不審げだけど追及はしないでくれたアリサちゃん。
二人に対する罪悪感でいっぱいです。……ジュエルシード集めが終わるまでの辛抱だよね。
ジュエルシード集めといえば… 最近めっきり“変わって”しまったある一人が思い浮かぶ。
神社の件でも、あの休日のサッカーの時でも… 私たちに先回りして動いていたあの人が。
サッカーの時は感じたのは私だけだったし、勘違いかもしれない。けれど、神社の時は違う。
なにより、荒れ放題になった境内に一人で佇んでいたコトをただの偶然と片付けられない。
……とすれば間違いない。
あの人はジュエルシードの存在を知り、何らかの目的のために私たちに先んじて動いている。
そういうコトになるんだろう。一体何のために? アレは危険なものでもあるのに…。
「そういえば、桜庭くんのコトなんだけどね…」
「!?」
ある意味でタイミングが良すぎたすずかちゃんの振った話題に、私は過剰に反応してしまう。
「だからどうしたのよ、なのは」
「う、ううん。なんでもないよ… それですずかちゃん、どうしたの?」
「うん… 実はこないだ、教室に忘れ物しちゃって取りに戻ったら桜庭くんがいて」
「ひょっとして何か嫌がらせされたんじゃないでしょうね!?」
興奮して席を立とうとするアリサちゃんを刀真君と二人で落ち着かせる。
うん、ユーノ君も一緒だね。3人だね。それで? と、すずかちゃんに目で先を促してみる。
「えっとね。夕暮れの教室で… 一人で、泣いてたんだ」
「泣いてたぁ!?」
余りな内容に理解が追いつかないのか、素っ頓狂な声をあげるアリサちゃん。
けれど、私だって同じ気持ちだ。……ううん、刀真君も声も出せずに呆然としているみたい。
気持ちを共有できないのは、事情を知らず小首を傾げてるユーノ君だけだ。可愛い。
「桜庭くん、前は使っていた不思議な力… めっきり使わなくなったよね」
「そういえば、そうね… 確か二年生の終わりに何日か休んでから、だったかしら?」
「うん、確かそうだったよね? 刀真くん」
「そうだな…」
私の問いかけに軽く頷く刀真君。彼も彼で、この報告に思うところがあるのかもしれない。
「三年生になってすぐの
「あぁ、あの… “安息に満ちた、恐れるモノのない日々のために戦う”っていう?」
「……うん」
「考え過ぎよ。すずかもその言葉にこだわり過ぎじゃない? 客観的に聞けば戯言の類よ」
すずかちゃんを宥めようとしているアリサちゃんの言葉は多分、正論なんだと思う。
けれど、この間のサッカーの時も真っ先に謝ったし、ぶつかった子のコトも気遣っていた。
そういえば、“あの話”はみんな知らなかったかな… この機会だし話しておこうかな。
「みんな… この間のサッカーでの件、あったでしょ?」
「え? うん」
「あぁ、あったな」
「アイツがいきなり土下座してきた“アレ”ね」
「後からお父さんに聞いた話だと、残って散らばった破片のゴミ拾いもしていたみたい」
「………」
場が沈黙に包まれる。それはそうだと思う。あの土下座だけでもショックな事件なんだもん。
なのに、ゴミ拾いに桜庭君が勤しんでいたなんて、天地がひっくり返るほどの衝撃だよね。
私だってお父さんから聞いた話でなかったら中々信じられなかったんじゃないかな、と思う。
戻ってきたお父さんがソレに気付いて声をかける前に、何処かに駆けてったみたいだけど。
かなり感心していて評価も上方修正したみたい。……お父さんの人を見る目は確かだ。
刀真君がウチの道場で修行するようになったのも、確かお父さんの推薦がきっかけだったし。
「……ひょっとして修行に寄せてもらった時にアイツもいたのは、それが?」
「うん、多分」
「今も続いてるの?」
「用事があって鍛錬はしてないけれど、毎回、道場の掃除はしっかりしてくれるみたい」
「正直、コレまでの桜庭くんからじゃ考えられないね…」
「……うん」
だから、お父さんが認めているとすれば“彼が変わった”のだからと考えるとしっくり来る。
「……あー、それじゃ私の見た“アレ”も見間違いじゃなかったのかもね」
「え? なにかあったの、アリサちゃん」
微妙な表情を浮かべて、遠い目をしながら語るアリサちゃんにすずかちゃんが食いついた。
「うん… 実は昼休みにアイツがコソコソ出て行くから怪しいと思って尾行してみたのよね」
「それで?」
怪しいからって人を躊躇なく尾行するアリサちゃんも結構怪しいと思うよ。言わないけど。
「で、例の残骸置き場に到着して玉座に腰を掛けてたんだけれど…」
「……あれ、まだ撤去してなかったんだ」
すずかちゃんも結構言うね。まぁ、私もアレをずっと残しておくのはどうかと思うけれど。
「そしたら、鞄から何を取り出したと思う?」
「何って… そりゃ、昼飯じゃないのか」
うん… 刀真君のツッコミは尤もだと思うけど、流石にソレじゃ話が広がらないと思うよ。
「……そうよね、そう思うわよね? でも違ったわ」
「もったいぶらないで教えてよ、アリサちゃん」
痺れを切らせて私が促すと、より一層遠い目をしてアリサちゃんはようやく語ってくれた。
「……編み物を、やり始めたの」
「はい?」
「編み物って… 夢でも見たのか? バニングス」
「そう思ってくれて構わないわ。ぶっちゃけ、私自身も今もソレを疑ってるくらいだもの」
「編み物って… なんで?」
「私が知りたいくらいよ。聞いてきてよ、なのは」
「ふえぇ!? わ、私~…!?」
冗談っぽく流されて場が笑いに包まれる。ダシに使われた形の私としては少し複雑だけど。
「あ、そういえば刀真」
「……ん?」
「アイツとの決闘… どうなったの?」
「………」
途端に空気が重くなる。だ、大丈夫かな? 刀真君、すっごく苦い表情をしてるんだけど。
「……ボコボコにされた」
「!?」
ボソッと呟いた言葉の内容に、私たちは思わず絶句してしまう。やっぱり変わってなんか…
「レパルダスの“ねこのて”で“キノコのほうし”を使って問答無用で眠らせてきて…」
「………」
「“みがわり”置いて“たべのこし”で回復しつつ延々と眠り殺されて… クッ!」
「いやゴメン、何の話?」
「わからないなら… いい」
「大丈夫だよ、刀真くん。私のアルセウスあげるから… カイオーガとミュウツーもね」
「……すまない」
よほど悔しかったのか落ち込んでる刀真君を慰めるすずかちゃん。私には分からない世界だ。
「と、とにかく! ゴミ拾いしてて、剣道場に顔出して、編み物して、ゲームしてると」
「アイツも“変わった”… ということだろうか?」
「あはは… “変わった”というか、“変わってる”というか、“ヘン”って言うか…」
『わけがわからないよ』
『ユーノ君、それ以上いけないの。なんだか分からないけれどそれはダメな気がするの』
『え? わ、わかったよ… なのは』
――ッ!
ユーノ君と念話でそんな話をしていると、ジュエルシードの反応を感じた。
刀真君も気付いたみたい。互いに頷き合う。
まだ暴走はしてないみたいだけれどお茶会でお話の最中だし… うぅ、どうしようか?
『だったら… なのは、刀真! 僕を追って!』
『なるほど… 乗らせてもらうぞ、ユーノ。高町もいいな?』
『う、うん!』
「きゅっきゅ~!」
同意を確認すると、ユーノ君は鳴きながら庭の奥の森に向かって駆け出していく。可愛い。
「あ、ユーノくん? 困ったなぁ… 森に行っちゃったみたいだよ~。探してくるね?」
「高町だけでは大変かもしれない。俺も同行しよう」
棒読みになってないか不安だけど、刀真君のサポートもあるし何とか大丈夫… だと思う。
「二人だけで大丈夫? 私もついていこうか」
「あ、だったら私も…」
「ううん、大丈夫。刀真君もいるし、すぐに戻るから」
手伝いを申し出てくれたアリサちゃんとすずかちゃんには悪いけれど、この方が好都合。
「じゃあ、行くぞ。高町」
「うん!」
もう一度、頷きあってから駆け出した。ジュエルシードの暴走から友達の二人を守らないと!
………
……
…
そう、思っていたんだけど。
「ニャ~オ~♪」
大きくなった、すずかちゃんの飼い猫(名前はアインス)が嬉しそうに歩いていた。可愛い。
「なのは、刀真。まずは動きを止めないと」
「お、おう… そうだな!」
「あ、うん… そうだよね!」
封時結界(時間の流れを切り取るらしい)を張ったユーノ君の言葉で我に返る私たち。
……そうだね、まずはアインスからジュエルシードを取って元の大きさに戻してあげないと。
えっと、でも… どうすればいいんだろう? 攻撃、するのは可哀想だし…。
「……危ないッ!!」
私が迷ってると、何かを察知した刀真君は駆け出してアインスの前に立って右手を掲げる。
すると、アインスに向かって降り注ごうとしていた光弾が、その右手で掻き消される。
見上げると、上空には一人の女の子が浮かんでいた。黒い衣装を身に纏った金髪の女の子が。
今は少し驚いた様子。私たちがいたコト、じゃなくて魔法が掻き消されたコトについてかな?
「私のフォトンランサーを… なんにせよ、不確定要素は排除します」
「“はい、そうですか”と引けるかよ! オマエもジュエルシードを集めているのか!?」
「答える必要を感じない。どうせ、言っても分からないから… “あの人”以外は」
「だったら口を割らせるまでだ! 悪く思うなよ、喧嘩を売ってきたのはそっちが先だ!」
二人の緊張感が高まる。このままじゃ喧嘩になるみたい… 私も手伝わないと。
「今行くよ、刀真く… きゃっ!?」
――ブォン…
『Protections』
レイジングハートが咄嗟にプロテクションを張ってくれたお陰で、なんとか間に合った。
けど、今の一撃は…?
「ちっ、私の拳を防いだみたいだね… 悪いけれど、アンタの相手はこの私だ」
いつの間に接近を許したんだろう? 赤毛の女の人が私に向かって拳を振り下ろしていた。
『相手は逃がしてくれないみたいだ… なのは、僕もサポートに回るよ』
『うん、さっきの子もとっても強そうだったし… 一緒に刀真君を助けに行かないと!』
こうして、私たちにとって多分初めてとなる本格的な魔法使い同士の戦闘が始まりました。
ユーノ君によれば魔導師というらしいけれど… そうなるとこの人たちもミッドチルダの人?
この人たちは… そして桜庭君は、一体何の目的でジュエルシードを追っているんだろう?
すごく気になるけれど、今は目の前のことに集中しないと。でないと刀真君を助けられない。
「がんばろう、レイジングハート」
『yes,sir』
私は今や大事な友達であるレイジングハートを握り締めて、赤毛の女の人に向き合いました。
アリサちゃんやすずかちゃん、それに刀真君やユーノ君といった大切な人を守るために。
なのはさんはオリ主君の影響やユーノ君の存在から、誰かを守るために戦うことに前向きです。
目立った事件も起きず安定しているため魔法才能の覚醒が遅れているという欠点もありますが…
今回のフェイトさん襲撃で目覚めてしまうでしょうね… 後の『管理局の魔王』の異名の片鱗が!
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