オレを踏み台にしたぁ!?   作:(╹◡╹)

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(もしいたら)続きをお待ち頂いている方には、大変長らくお待たせしました。
今回は原作であったとあるエピソードが跡形もなく消え失せる話となっております。

各人でご注意の上、お進みください。


少年とキャッチボール

 みなさん、おはようございます。ゴールデンウィーク真っ只中ですね。此方はまだ先ですが。

 オレはと言うと、今、荒縄が縛られた丸太を抱えて飛んでおります。この広く青い大空を。

 別に桃○白ごっこに目覚めた訳ではありません。むしろティ○レンタオツーの方が好きです。

 

 コレには友情を目指したオレの悲しい事情があったのです。……あぁ、地面が近付いてきた。

 って、少年がこっちに背を向けて立ってらっしゃる? ちょ、待て、落下直撃コースやん!

 あばばばばばばば… こんなコトで怪我なんてさせるわけにはいかん! 死ぬ気で逸らすッ!

 

「其処の少年、避けろ! うぉおおおおおおおおおおおおおッ!!」

「え? うわぁ!?」

 

 さて、コトの結末について語るのは後回しにして、何故こうなったかを説明させて頂きたい。

 

 ………

 ……

 …

 

「さて、八神の誕生日プレゼントか… どうしたものかな」

 

 アレから日を跨いで、候補は幾つかに絞られた。まだ先のコトとはいえ準備は大切だろう。

 シ○ンジュはカッコいいのだが、ここは原典に忠実にサ○ビーやナイ○ンゲールもどうか?

 特にナイ○ンゲールの優美さは女性受けをし易いのではないか? キュ○レイも鉄板だろう。

 

 いやいや、ビ○ドファイターとしてはフェ○ーチェも捨て難い。あの気品は素晴らしいよね。

 まぁ、そもそも原型であるウィ○グガン○ムのカッコ良さが異常なのだ。異論は認めるが。

 みんなはノーマルのゼ□派? それともゼ□カス派? オレは断然ノーマルだなぁ。好みで。

 

 いっそガン○ラに縛られずにス○ープドッグなんてどうだろうか。炎のにおいが染み付くぜ!

 ……いやいや、やめておこう。別にトラウマになったワケじゃないが火事はもう勘弁だぜ。

 火事を連想させるものは遠ざけるべきか。あ、でもブルー○ィッシュドッグならアリじゃね?

 

 或いは戦艦でリーン○ースJr? ……発売されてねぇよ。アークエン○ェルで我慢しろよ。

 

「……む?」

 

 そんなコトを考えながら歩いていると、河川敷にいるゴリくんと眼鏡くんの二人を発見した。

 荒縄を巻きつけた丸太に複数のボールを投げる眼鏡くん。それぞれ緩急をつけ同時に命中。

 かと思えば、角度や回転を調整していたのか、一歩も動かない眼鏡くんの手元に帰ってくる。

 

 なんか分からないけれど凄いことやってる気がする! キミはどこのNARUT○なのか!

 

 奥のほうではサッカーもやってるみたいだし、海鳴市はスポーツが盛んなんだなぁ。きっと。

 ややあって眼鏡くんの投球練習(?)が終わり、ゴリくんとのキャッチボールを開始した。

 満更知らない仲でもない。スルーするのもどうかと思い、オレは河川敷に降りて挨拶をする。

 

「おはよう、二人とも。……朝から精が出るな」

「あ、桜庭様じゃねぇですか!」

「おはようございます、桜庭さん」

 

 二人はオレの姿を認めると元気に挨拶を交わしてくれる。なんかイイよね、こういうのって。

 やっぱり友達ってのは量じゃなくて質だよ! ……まぁ、まだ友達じゃないんですけどね。

 いっけね、オレのせいで二人の友情のキャッチボールを潰してしまったか。すまぬ、すまぬ。

 

「あぁ、そのままオレを気にせず続けてくれ」

「はい。それじゃ失礼して…」

 

 キャッチボールを再開する二人。ソレを眺めるオレ。さて、さっきの思考を続きをするかね。

 ……ふむ。いっそこの二人に、八神の誕生日プレゼントの件を相談するのはどうだろうか?

 意外と悪くないかもしれない。プラモはとかく好みが分かれる。第三者の意見も重要だろう。

 

「そのまま聞いて欲しいのだが… 良かったら相談に乗って貰えないだろうか」

「へぇ… 相談、ですかい?」

 

「あぁ。一ヶ月半ほど先に、ある知り合いに誕生日の祝いを送ることになったのだが」

「なるほど… プレゼント選びについて、ですかね?」

 

「うむ、そういうことだ」

 

 相談から発生した悩みの共有は、お互いの仲をより親密な関係に導いてくれるとも言うしね!

 まぁ、そういうのがなかったとしてもこの相談に乗って貰うことにマイナスはないだろう。

 プラモってコトは決まってるんだけどねぇ… どうにもそっから先が迷いに迷ってしまって。

 

「ちなみにその相手は? あぁ、性別とかプロフィール的な意味でですが」

「知り合いの女性だ。学校外での関係なので詳しくは知らないが、年は同年代くらいかな」

 

「へぇ… 彼女ですかい?」

「そういう関係ではないと断言しよう」

 

 ないわー。まったくもってないわー。まぁ、そうやってすぐくっつけたがるのは年相応かね。

 コレが修学旅行とかだったら、槍玉に挙げられてネタを提供するのも(やぶさ)かではなかったが。

 色恋沙汰とかそういうのを意識しだすのはもうちょい後からでも充分っしょ。プークスクス。

 

「あぁ、そういえばゴリラ。キミの趣味なんかはどうだい?」

「おぉ、そういえばアレだったらいいかもな。嬉しいぜ、桜庭様のお役に立てるんならな!」

 

「ほう…」

 

 ゴリくん、キミもビ○ドファイターだったのか。良かろう、ならば語り明かそうではないか!

 さぁ、好きなプラモを選べ! オレはソレを参考にして、プレゼントにしようではないか。

 ゲル○ゲーか? ザム○ザーか? どっちも出てねぇよ! 種ってプラモの出来はいいのに!

 

「桜庭様、だったら“編みぐるみ”なんてどうですかね?」

「………」

 

 編みぐるみぃ? ……ゴリくんが? ちょ、ちょっと待ってくれ。表情筋が全力稼働中だよ。

 ……まぁ、その、気持ちはありがたいんだけどちょっとね? オレも男の子だしさ(笑)。

 折角の提案に対して悪いが、お断りを入れてプラモの中から選んで貰うとしようじゃないか。

 

「ゴリくん、悪いが」

「しかしゴリラ、随分とイメージと違う趣味だが相変わらず堂々としているね?」

 

「おうよ! この趣味は俺の誇りよ。笑ったりバカにしたりするヤツぁボコボコだぜッ!」

「………」

 

 オレの表情が消える。あかん(白目)。笑ったら生命はねぇ… それだけは分かってしまった。

 

「ははっ、な~んてな! ……おっと、桜庭様。何か言いましたかい?」

「いや何。素晴らしい提案をありがとう、悪いね… と言ったのさ」

 

「気にせんでくださいよ! 一ヶ月半もあるなら時間は充分でさぁ。みっちり教えますよ!」

「おいおい、ゴリラ。桜庭さんが寛大だからって、あまり調子に乗るなよ? ははは」

 

 しかもオレがやるコトは決定かよ! 和気(わき)藹々(あいあい)と笑い出す二人の空気に、取り残されるオレ。

 決して納得したわけではないが今断ったら死んでしまう。コレは受けるしかない(震え声)。

 しかし、八神に編みぐるみを渡して大丈夫か? 上手に調理して食べてしまわないだろうか?

 

 まぁ、「食べられないからな。絶対に食べるなよ。絶対だからな」って注意すれば大丈夫か。

 

「ん、ありがとう。……よろしく指導を頼むよ、先生」

「へへっ、任せてくだせぇ!」

 

「おや、責任重大だな? 先生」

「おいコラ眼鏡、からかうんじゃねぇ!」

 

 友達になる前に弟子になってしまった。何言ってるか分からねーと思うがオレも分からねぇ。

 まぁ、なんだかんだ相手してくれるのは嬉しいな。先日の神社でもだいぶ無理を言ったし。

 オレの想定とは違う結果になってしまったが、善意に対してはお礼を言っておくべきだろう。

 

「先日の神社での一件でも無理をさせたな… そのコトについても、今、改めて礼を言おう」

 

「当然のコトをしたまででさぁ! したいようにやっただけなのに礼なんてむず痒いっすよ」

「えぇ、ゴリラの言うとおり。けど、あの“犬”の相手は大変でした。暴れませんでしたか?」

 

 あぁ、ダニー(仮)のコトか。良き相棒になる予定だったが後から持って行かれた… あの。

 

「ふむ… 特段何も。こちらが何かをするまでもなく… 後から持って行かれたからな」

「あ… それは余計なコトをしてしまったかもしれません」

 

「というと?」

「いえ、あの女性に神社のコトを教えたのは僕だったので。まさかそんなコトになるなんて」

 

 なんと… あの飼い主の女性にダニー(仮)のコトを教えてあげたのは眼鏡くんだったのか。

 ということは、ゴリくんと眼鏡くんは飼い主が来るまでの間、その足止めをしていたのか!

 彼女はその連絡を受けて急ぎ駆けつけて、自分のペットと再会し連れ帰るコトができた、と。

 

 そう、オレが早とちりしてテイクアウトしちゃう前にね。だから彼らは良いことをしたんだ。

 

 むしろ事情も知らずに、「ココはオレが預かる(キリッ)」なんて言ったオレが恥ずかしい。

 飼い主の人が何故本殿から出てきたかは謎だが、盛大な方向音痴の可能性が微レ存だろう。

 公園で出会った金髪の少女がCGを使いこなす昨今。些細なコトを気にしてはいかんのだよ。

 

「フッ、考え過ぎだ。キミの判断は間違ってないさ」

「そう言って頂けると… っと」

 

 こちらへの対応に注力してくれるあまり、キャッチボールへの注意が散漫になったのだろう。

 眼鏡くんは放られたボールを弾いてしまった。オレの言葉が妨げになったなら申し訳ない。

 足元にボールが転がってくる… オレはソレを拾い上げつつ、考えていた言葉を彼らに放つ。

 

「キミたち… 一つ、オレともやってみないか?」

「「!?」」

 

 そう、キャッチボールを! 友情構築の第一歩だ。叶うことならばオレも是非混ぜて欲しい。

 だが場が静まり返ってしもうた。や、やべぇ… 何かやっちゃったかオレ。間違えたか!?

 縋るように二人を見ても… 分からん。オレは心で対話できるイノベイターじゃなかったか。

 

「貴方と… ですか?」

 

 おっと、反応があったぜ。キチンと会話のキャッチボールをしてくれる眼鏡くんは優しいな。

 あとはオレたち3人でリアルなキャッチボールをするだけだ! ヘイカモン、イエーッス!

 

「わざわざ聞き返すほどのことかね? 何… そう難しいことを聞いた訳じゃあない」

「………」 ゴクッ…

 

 あ、原因はオレだったりするのか? 貧弱ボディな悠人少年を心配し躊躇(ためら)ったのかもしれん。

 だとしたら“え? いきなりコイツ何言ってるの?”ってなっちゃっても仕方ないだろう。

 割りと唐突な頼み方だったコトもあるし。別にそんなに難しく考えなくても構わないのだが。

 

 とはいえ、まずは落ち着かなくちゃあ返事も出せないよな。KOOLになるんだ、二人とも。

 待て待て、KOOLだったら雛○沢症候群の末期症状だろ。むしろオレがCOOLになれよ。

 オレが落ち着かないと彼らも落ち着けない。ココは例え話を交えてリラックスして貰うに限る。

 

「“シャーペンの芯を1本、ポキっと折るような楽な気持ちで”答えてくれ」

「ハァー… ハァー…!」

 

 う~ん、緊張するなぁ。なんか眼鏡くんは真剣に見詰めてくるし。そんなに不躾だったかな?

 あ、ゴリくん息が上がってるじゃないか! ひょっとして疲れて休憩が欲しかったのかも。

 彼らは優しいから断り難い質問をしちゃったのかもしれない。気が急いてたなぁ、反省しよう。

 

「受けても構わないなら『YES』、気が進まないならば『NO』と… ほんの一言返すだけだ」

「「………」」

「……どうか、答えては貰えないだろうか?」

 

 そう言って待つ。時間にして数分? 数十秒? 或いはほんの一瞬の隙間だったかもしれない。

 

「……僕の答えは、『YES』です。お受けしましょう」

「め、眼鏡!?」

「いいんだ、ゴリラ。ちょうど良い機会だ… せめて“その背中”だけでも見ておきたい」

 

 うん… うん? なんかおかしな雰囲気になっているような? 受けてはくれるみたいだが。

 “背中を見る”ってコトは、ひとまず、眼鏡くんは最初のうちは見学に回るってコトかな?

 つまり、トップバッターはゴリくんか。ゴリくんにボールを放り投げ、丸太の前に移動する。

 

「……さぁ、来い」

 

 おっしゃー! ばっちこーい! ……あ、でもグローブは持ってきてないから手加減してね?

 

「分かりやした。桜庭様、俺も覚悟を決めましたぜ」

 

 お、おう… 覚悟ってキャッチボールに必要な物だっただろうか? あ、休憩欲しかったの?

 “もしそうならば…”と声をかけようとしたオレは、眼前のありえない光景に硬直してしまう。

 目を閉じ深呼吸中の彼の周囲の空間が、少し歪んでいるように見えるのは気のせいですよね?

 

 おい誰だ、キャッチボールは友情構築の第一歩なんて抜かしたヤツ。死ぬだろ、主にオレが。

 ボコボコに… は出来ないから、ボコボコに論破するよ? つい最近、八神に負けたけど。

 アレはオレの本当の実力ではない。……そう、オレは後2回くらい変身を残している気がする。

 

「コォォォ…」

 

 ……ちょっと待って。下らないコト考えてる隙に、ゴリくんが世紀末っぽい呼吸し始めたよ。

 こういうのはコマンド『説得』で全力回避。……最近のスパ□ボってフラグ管理複雑よね?

 出撃数とか撃墜数とかさ… 好きなヤツを好きなように動かせてたのがいいんじゃないのか?

 

 あ、でも複雑極まりないフラグ管理を乗り越えたIFルートは感動しました。無印も二次も。

 三次Zとかもう出てるかな? まだキ○コ強い? ル○ーシュはどうですか?(現実逃避)

 さて、気分もだいぶ落ち着いてきた。そろそろ厳しくて辛い現実に立ち向かおうじゃないか。

 

 覚悟しろ。八神に敗れたとはいえオレの得意分野は依然、屁理屈。ふわっと誤魔化してくれる!

 

「ゴリくん」

「お待たせしやした。大丈夫です。もう、止まりません。もう… 止まれません」

 

 はい、死んだ! 今死んだよ、オレ! 既にゴリくんは殺る気満々で覚悟完了でしたとさぁ!

 下らないコト考えて現実逃避してた隙に、ゴリくん止まれなくなってるYO!(※二度目)

 こうなったら眼鏡くんに頼るしかねぇ! オレの中で穏健派にイメージされてる彼ならばッ!

 

「眼鏡くん」

「ご安心ください、無粋な横槍は入れさせません。どうぞご存分に…」

 

 ダメだ! この眼鏡ダメだ! 前門の虎、後門の狼。……もう、覚悟を決めるしかないのか?

 

「……では、行きやす」

「………」

 

 “100%中の100%”と言わんばかりに膨れ上がったゴリくんの筋肉を見て… 理解した。

 オレは、ココで死ぬのだと。かくなる上は、ジタバタ見苦しく足掻くのはやめて心静かに…

 いや、待て待て。百兆歩譲ってオレが死ぬのはいいとしよう。だが、悠人少年を巻き込むな。

 

 そうとも、ここで諦めてたまるか! 負けられないんだ… オレはやればできる子だった筈!

 たかだかボール一つ… 悠人少年で押し返してみせる! 悠人少年は伊達じゃないはずだ。

 タイムセールの主婦にも押し負ける貧弱なボディだが、所詮はキャッチボール。多分大丈夫!

 

「うぉおおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 やっぱ無理ぃ! 思わず投球モーションの段階で背後の丸太の影に隠れる。がっちりガードだ。

 考えてみればマトモに付き合う必要などなかったのだ。こうしてガードでまずはやり過ごす。

 しかる後に、ちょっと体調崩したとかなんとか言って帰ればいいんだ。流石オレ、小賢しいぜ!

 

 ――ゴッ… パァンッ!

 

 よし、荒縄丸太くん一号はボールを見事受け止めてくれた。何処も痛くないぞ、素晴らしい。

 身体が軽い… こんな気持ちで戦うの初めて。もう何も怖くない。天にも昇る気持ちだよ。

 あれ? なんかマジで天に昇ってね? おかしくない? なんで重力から解放されてるのよ?

 

「ッ! モーションから軌道を予測し、丸太を盾に使いつつ自ら後方に跳躍し衝撃を殺すとは…」

「なんてこった。流石は桜庭様だぜ…」

 

 いや、違うからね? 単にボールがホップして、オレごと丸太を吹き飛ばしただけだからね?

 重力に反逆しまくるゴリくんの投球がおかしいだけだからね? オレ逃げただけだからね?

 あっはははははははは… うん、視界がグルグル回ってるね。うふふ、アイキャンフラ~イ!

 

 ………

 ……

 …

 

 って、アホなコト考えている場合じゃないな。流石にこの状況で三度目の失敗は犯さないぜ。

 少年はこちらに気付き振り返るも、硬直しているようだ。そりゃそうだよね。仕方ないね!

 だったらオレが何とかするしかない。この少年を守るために! 悠人=R=桜庭、介入する!

 

「うぉおおおおおおおおおおおおお! トランザムッ!!」

 

 オレはトランザムを発動し、少年に突撃… 彼を突き飛ばすコトで丸太の破片から守り抜く。

 いや、丸太蹴ってその反動で突き飛ばしただけですけどね。トランザム(笑)ですけどね。

 目論見は辛くも成功し、蹴り飛ばすことでバラバラになった丸太の破片が後方に飛び散った。

 

 いたた… 何とか受け身は取れたが。少年は見たところ無事なようだった。不幸中の幸いか。

 

「だ、大丈夫か!」

「一体何が起こったんだ?」

 

 うむ… どうやらさっき遠目に見えていたサッカーの試合に乱入する形になってしまったか。

 試合は中断となり、人が集まってくる。オレ、すげぇ迷惑な存在だな。消えてしまいたい。

 一方のチームの監督らしき人には見覚えがあった。確か翠屋のウェイターさんだ。てコトは…

 

「「「………」」」

「オマエ、桜庭。今、空を飛んで…」

 

 ……うん、いました。オレをじっと見詰める三人娘にユニフォーム姿の名無しの少年たちが。

 なんかすっげぇ睨まれてますね。仕方ないね。今日はホントに全面的にオレが悪いのだし。

 膝立ちの姿勢だったオレは、そのままDO☆GE☆ZAをする。伏してお詫び申し上げます。

 

「この度は自分のせいでご迷惑をお掛けして、誠に申し訳ありませんでした」

「えっ、オイ… やめろ、オマエのそんな姿は…」

 

 名無し少年がなんか言ってるが誰が悪いと言えばオレが悪い。それはもう言い訳無用な程に。

 そんなオレが見せられる誠意、それは土下座以外にあるだろうか? いや、ない(反語)。

 だからオレに出来るコトはお詫びをし続けるコトだけなのだ。すまぬ、すまぬぅ… ってな!

 

「今後はもっと周囲に気を付けてキャッチボールをしたく存じます」

「いや、なんでキャッチボールしてて丸太と一緒に空から降ってくるのよ…」

 

 クロハラ(仮)さんが的確なツッコミを入れてくる。それはむしろオレの方が知りたいです。

 オレもまさかこんなコトになるとは思わなかったよ。多分海のリハクだって見抜けないよ。

 ていうかオレの中で貴女とゴリくんは人類の例外です。色んな意味で物理法則超越してるよ。

 

「すみません! ですが、この人は僕達の挑戦に付き合ってくれただけで…」

「ボールを投げたのは俺なんでさぁ! だから、悪いのは俺なんでさぁ!」

 

 おや、いつの間にかゴリくんと眼鏡くんたちが駆けつけてくれたらしい。待たせちゃったか。

 だがしかし、彼らが悪いという言葉に頷くことは出来んな。其処はキッチリ訂正しなければ。

 

「ふざけるな! 悪いのはオレ一人だ。……オマエたちには関係のないコトだ」

 

 そも、ゴリくんと眼鏡くんはオレの我儘に付き合ってくれただけだ。彼らは何一つ悪くない。

 

「し、しかし…」

「け、けどよ…」

 

「まぁまぁ… 少しはしゃぎ過ぎるなど若い時分にはよくあること。余り気にしないことだよ」

 

 尚も言い募ろうとするゴリくんと眼鏡くんを抑えて、少しご年配の男性が仲裁をしてくれる。

 もう一方のチームの監督だろうか? 出来た人や。すんませんすんません、オレのせいで。

 ココの小学生が色々と進み過ぎてるのは、こうした指導者の方が立派だからなのだろうなぁ。

 

「うん。僕もGK(ゴールキーパー)なのに飛んでくるモノに反応が遅れちゃったし… むしろ助けられたよ」

 

 さっきオレが突き飛ばしてしまった少年が、片膝立ちの格好のまま笑顔を見せる。ええ子や。

 

「本当にすまなかった。……立てるか?」

 

 オレは土下座を一時解除し、少年の元に駆け寄って手を差し出した。許してくれるだろうか?

 いや、赦免を期待しちゃイカンよね。罵倒の一つや二つくらいは覚悟しておこうじゃないか!

 

「ありがとう。こっちこそ騒ぎにしちゃったみたいでゴメンよ」

 

 だが、少年は笑顔でオレの手を掴むと立ち上がって礼を言ってきた。なんて出来た子なんだ!

 

「うん、お互いに怪我はないみたいで良かった。けれど、はしゃぎ過ぎるのは程々にね?」

「……はい、申し訳ない」

 

 ウェイターの人が柔らかい表情でこちらに注意してくる。この人、こういう顔もできたのね。

 

「それでは高町さん、今日のところは柔軟をして解散しましょうか?」

「そうですね、少し残念ですが決着はまたの機会ということで…」

 

 監督さん同士で話し合っている。オゥフ… オレのせいで解散の流れか。罪悪感が凄まじい。

 

「じゃあ今日はここまで。身体冷やさないように柔軟をして帰るぞー!」

「「「はーい!」」」

 

 パンパンと手を叩いてウェイターの人が解散を宣言する。う~む… 今日のことは反省だな。

 “キャッチボールをすれば最悪死に至るケースもある”と、心のメモ帳に赤ペンで記入だ。

 さて、オレは彼らが帰った後に河川敷の掃除でもするか。破片で怪我しちゃったら悪いしね。

 

 なんかゴリくんと眼鏡くんも手伝ってくれた。彼らには借りばかりが増えてる気がするなぁ。

 

 掃除中に「なんで自分のせいにして謝ったの?」的なコトを聞かれた。だってオレが悪いし。

 ト○ーズ閣下の言葉を借りて、勝利よりも戦う姿が尊いとか誇りある敗者になりたいとか、

 物事の結果には原因があって今回オレが原因だからしょうがないね、的な回答をしておいた。

 

 彼らは感心したように頷いてくれた。名言は、その価値がある人に触れてはじめて輝くのだ。

 ゴリくんに眼鏡くん、キミたちならばその資格は充分に備わっているはずだ。精々励めよ?

 などと調子に乗った上から目線の戯言を心に秘め掃除を続けていると、あるモノを発見した。

 

「コレは… CG発生装置」

 

 ……間違いない。あの時、金髪の少女がダニー(仮)から回収したCG発生装置ではないか。

 う~ん、失くして困っているだろうがオレはあの金髪の少女の名前も住所すらも知らない。

 あの時出会った公園にいるかな? いるといいな。そんなコトを考えながらポッケにしまう。

 

 しまう時にこの青い石にしか見えないCG発生装置がほんのり光っていたが、何故だろうか?

 変なボタンでも押してしまったか? こんな高そうなモノ、弁償でもさせられたら大事(おおごと)だ。

 片付けを手早く済ませ、ゴリくんと眼鏡くんによく礼を言い、オレは急いで公園に向かった。

 

 ………

 ……

 …

 

 よし、いた! ベンチに腰掛けてる! 今日は犬いないのか… 軽く手を上げ、声をかける。

 

「こんにちは」

「あっ! こ、こんにちは。その、先日はお世話になりました!」

 

 少女は立ち上がりペコリとお辞儀してくる。世慣れてない雰囲気はあるが、やはりいい子だ。

 “何故か急にこの公園に来なくちゃいけない気がして”今やってきたところだったらしい。

 奇妙な偶然だが、今回その偶然に助けられたとも言える。オレはCG発生装置を取り出した。

 

「あっ! それは…」

 

 やはりコレはこの少女のモノだったらしい。こんな高そうなモノ、そうそうないだろうしな。

 目にした瞬間は凄く驚いた様子だったが、差し出すと何度も礼を言って受け取ってくれた。

 うんうん、今度は失くさぬよう気を付けるのだよ? 届けてくれる人ばかりじゃないからね。

 

 軽く手を振って少女と別れると、オレは家路へとつく。良いコトをした後は気持ちが良いな。

 

 

 

 

 

 

 

「……ブラック珈琲の処分、忘れてた」

 

 今日だけで結構しょぶ、配る機会があったのに。……この桜庭悠人、戦いの中で戦いを忘れた。




なのはさんの自覚と成長を促す話が台無しになりました… 申し訳ありません。
今回の一件で高町士郎さんや三人娘、オリ主くんの中で中の人への感情の変化が生まれます。

ご意見ご感想にお叱り、誤字脱字のご指摘はお気軽に感想欄までどうぞ。


↓以下戯言↓
難産だった理由:
1.ジュエルシードは強い想いを持った人の手に渡った時、最も強い力を発揮するんだ。
2.じゃあゴリくんと眼鏡くんに持たせてみるか。ソレを解決する流れで。
3.アレ… 勝てない、だと…?
4.プロット全破棄。書き直し。

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