オレを踏み台にしたぁ!?   作:(╹◡╹)

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八神さんヒロイン回となっております。多分。私の現時点での精一杯ですかね。


少年と誕生日

 ――カリカリ…

 

 う~ん、やはり図書館での勉強は捗るな。休日故、人が若干多いのが難点だが些細な問題だ。

 悠人少年がご両親と暮らしていればゼミをお願いすることも考えていたが、大丈夫そうだ。

 個人的に「あ! これゼミでやったトコロだ!」というのは是非やりたかった。少し残念だ。

 

 え? ゼミって何のゼミかって? そりゃおめぇ、アブラゼミじゃね? ミンミンゼミかも。

 

 まぁ、何にせよ良かった。コレでゴリくんの背後の席でも授業になんとかついてけそうだぜ。

 流石にクロハラ(仮)さんら三人娘に囲まれた席はアウトだったが、無法は本意じゃない。

 オレ一人の我儘で“席を交換させる”など本来あってはならんコトなのだ。注意しなければな。

 

 そもそもゴリくんと眼鏡くんらには先日の神社のコトと言い、何かと世話になっているのだ。

 コレ以上オレの我儘に付き合わせるのも申し訳ない。対等な関係こそ友情構築の第一歩だ。

 だが、さっさと席替えはして欲しい。割と切実に。ホント頼みます、結構美人な担任の先生。

 

「………」

 

 ふーむ… 朝食も取らずに開館前に詰めかけてたのだが、もう10時か。なんか食べるかな?

 司書さんはブラック珈琲渡せば8時に一緒に入れてくれる。これぞ賄賂の成果ってヤツだ。

 どうせお昼時に喫茶店に入っても混んでるだろう。ココは少し時間をずらすのが賢い行動か。

 

 筆記用具と教科書類を纏め、オレは席を立つ。既に『冒険者たち』は貸出手続き完了済みだ。

 先に誰かに借りられたりしたらガッカリ感が半端ないもんな。手早く済ませておくに限る。

 あぁ、そうそう。喫茶店も最近新人さんの緊張が取れてきた。店長さんが頑張ったのだろう。

 

 周りの人たちも徐々に変わっていってる気がする。オレもきっと何か変わっているのだろう。

 だけど、このままでいいのだろうか? 悠人少年のボディを間借りしてるに過ぎないのに。

 ……いかんいかん、どうしようもないコトを考えても仕方ないな。前向きに頑張っていこう。

 

「きゃっ!?」

「おっと、失礼」

 

 考え事をしながら歩いていると、ちょうど図書館に向かっていた誰かとぶつかりそうになる。

 この特徴的なメタリックのボディ… 即座に兵器に転用可能な危険な車椅子を操る少女は…

 我々はこの少女を知っている! いや! この眼差しとこの車椅子の操縦テクを知っている!

 

「キミは、八神はやてだね?」

「おう、アンタか。ちょおツラ貸せや」

 

 あ、あれ? ココは「そういうキミは、桜庭悠人」って返す場面でないの? ……八神さん?

 あの、貴女はもっとマイルドな京都弁が似合う柔らかい雰囲気の女の子だったはずですよ。

 そんなドギツい河内弁で人を殺せそうな視線で威嚇してくる子じゃなかった! 何があった!

 

「落ち着け。何があった」

「あぁん? 分からんか?」

「うむ、とんと」

「……アドレス交換してから連絡一つ寄越さん上に、連絡しても繋がらん。大概にしぃや?」

 

 ………。あぁ、なるほど(ぽむ)。って、悪いのオレじゃん。やっべ、すっかり忘れてたわ。

 スマホがお釈迦になった時に、想定より被害が少なくて良かったなぁと安心しきってたぜ。

 まぁまぁ… たかだか一週間くらい音信不通だっただけじゃないか。あんまカッカするなよ?

 

「あ゛?」

「いや、なにも」

 

 ……こえぇ。めっちゃこえぇ。小粋なジョークなんか言える雰囲気じゃねぇ。死んでしまう。

 常日頃からクロハラ(仮)さんに追い回されてるオレをして思わずビビってしまう威圧感。

 今、コイツを刺激することはオレに生命に関わる問題だ。何とか穏便な解決を試みないとな。

 

「ソレについては悪かった。止むに止まれぬ事情があったのだ」

「……なんやねん、その事情って」

「無論その説明もしよう… だが、ココで立ち話もなんだ。場所を移そう」

 

 そのまま目線で、オレの進行方向の喫茶店を示す。……八神も視線を追って理解したようだ。

 

「喫茶店? せやけど… ちょ、勝手に動かすなぁ!?」

「安心しろ、オレの奢りだ」

 

 ……はぁ、奢るしかないよな。あんまり無駄遣いしたくないがスイーツくらいは献上せんと。

 まだゴネようとする八神の車椅子の持ち手を取って、さっさと喫茶店に向かうことにした。

 甘いモノでご機嫌取って誤魔化すしかないか。ったく… コイツはハードなミッションだぜ!

 

「いらっしゃいませ。お席のご案内をさせていただきます」

「はい、よろしくお願いします」

「……むぅ」

 

 なんか半分オレ専用になっているいつものテーブル席に案内される。今はコレが都合が良い。

 奥のほうで隔離されてるので、万が一にも八神が暴れだしても多少は隠蔽が効くのだから。

 翠屋もいいんだが、あそこは客の入りが多過ぎて座っても中々落ち着けない欠点もあるしな。

 

「本日はブレンド珈琲がサービスとなって…」

「いや結構。アップルシナモンティー2つと、彼女にオススメのパフェ1つで」

 

 何が悲しくてプライベートでまで珈琲を飲まんとあかんのや! 答えは“絶対にノゥ!”だ。

 

「かしこまりました。アップルシナモンティー2つ、季節のフルーツパフェ1つ承りました」

「はい、お願いします」

「ちょ、えぇ!?」

 

 わたわたメニューを取ろうとしている八神を尻目にさっさと注文をすませた。悪いな、八神。

 オマエが万が一にも珈琲を注文しようモノなら、オレも吐き気を我慢する自信がなかった。

 どうせオレが(悠人少年の残してくれた金で)奢るコトになったのだし、多少のことは許せ。

 

「でも、流石にパフェなんて悪いわ」

「嫌いだったか?」

「ううん、嫌いやないけど…」

「ならば気にするな。オレも気にしない。ドンドン食え」

「もう、流石にドンドンは食べへんよ~」

 

 クックックッ、八神め。甘いモノをたらふく食べて怒りの原因など全て忘れてしまうが良い。

 互いに笑顔を見せて和やかな空気が流れる。よしよし、ミッションはいい感じに遂行中だ。

 オレは現時点での仕上がりに満足し、鞄から『冒険者たち』を取り出す。あとは読んで待つ。

 

 オレは楽しく読書タイム。八神は楽しくおやつタイム。これぞ互いにWin-Winの関係!

 フハハハハ! 圧倒的じゃないか、我が軍は! イケる、イケるぞ… このまま押しきれ!

 

「で、さっきの事情の件なんやけど」

「おい、ふざけるなよ。豆狸」

「あん?」

 

 し、しまった! 勝利を確信したトコロで水を差されてしまい思わず本音が漏れてしまった。

 空気の読めない八神のせいで素晴らしい時間が崩れたというのに何故かオレが睨まれてる。

 こ、これは… “夢”だ。このオレが追い詰められてしまうなんて、きっと、これは“夢”なんだ。

 

「気のせいかなぁ? 今、とっても愉快な戯言が聞こえた気がしたんやけど」

「喫茶店での込み入った話は注文した物が運ばれてきてからがマナーだ。常識だぞ、八神」

 

「……む。ホンマなん?」

「無論だ。そもそも“一息つかないと落ち着いた話も出来やしない”… 違うか?」

「……まぁ、ええわ。騙されといたる」

 

 せ~~~~~~~~~~~~~~~っふ! ふぅ、アブねぇアブねぇ… 死ぬかと思ったぜ。

 え? マナー云々は本当なのかって? 知らん。適当にそれっぽいことを並べただけだよ!

 大体だな、コイツに“唐揚げを作ろうとして火災発生”なんて知られてみろ。大笑い確定だぞ?

 

 なんとか時間は稼いだ。此処から作戦を練って上手くコヤツの目を誤魔化さないと!(キリッ)

 

「ご注文のアップルシナモンティーと季節のフルーツパフェでございます」

 

 ス○ッガーさんかよ! 早い! 早過ぎるよ、畜生! もうちょっとだけ考える時間くれよ!?

 

「お、きたできたで~。ん~、美味しそうやなぁ♪」

「ドンドン食って大きくなれよ」

 

「おう、ちゃっちゃと話せや」

「アッハイ」

 

 仕方あるまい… プランBに移行する! 婉曲的に伝えることで煙に巻いて誤魔化すのだッ!

 

「盗まれた過去を探してたんだ」

「うん… うん?」

 

 まぁ、ホントはただの記憶喪失だが。盗まれた可能性もほんの少しあると思う。1%くらい。

 

「オレは彷徨ったんだ。見知らぬ街を」

「おい」

 

 まぁ、今は海鳴市って知ってるんだけどね。望めば大抵のモノが手に入る都会っていいよね。

 

「炎のにおいが染み付いて、むせて… こうなった」 コトッ…

「なんやコレ」

 

 オマエさぁ、“なんやコレ”とはなんだ。“なんやコレ”とは。オレの『スマホくん・壊』だよ。

 ちょっとフレームがひしゃげてアレな風体を晒してるけれど、どっからどう見てもスマホ…

 に見えなくもないだろうが、オイ。こういうのも味があっていいんだよ。存在忘れてたけど。

 

「スマホ… だったモノだ」

「要するに火事に巻き込まれてぶっ壊れたんか」

「……うむ」

 

 正直オレ自身にとっても意味不明なさっきの戯言で理解するとは、コイツ… やはり天才か。

 って、あかんやん。煙に巻けてないやん。なんで正確に真実を掴みとるんだよ、コイツは。

 だが最後の砦… 火事の原因についてだけは、断固としてコイツに悟らせるわけにはいかん!

 

「まぁ、火事やったらしゃあないか。でも、せやったら原因はなんやったん?」

「さぁな。そんな昔のことは忘れたさ」

「あ、ひょっとして私に言われたこと気にして料理で失敗した… とか」

「ゴフッ!?」

 

 ……もうやだ、コイツ。エスパーなの? 人類の革新なの? ソンナノ、ミトメタクナーイ!

 NT(ニュータイプ)って言うかNDK(ねぇどんな気持ち?)だよ。酷い死体蹴りだよ。

 思わず机に突っ伏すオレを誰が責められるだろうか? パトラッシュ、ボクはもう疲れたよ。

 

「あ、いや、その… あんな! だ、誰だって失敗はあると思うんよ!?」

「………」

 

 なんで小学校低学年のおにゃのこにオレは今、必死にフォローされてんだよ。痛い、痛いよ。

 心が痛すぎるよ。可能なら今すぐ悠人少年にバトンタッチしたいよ。さっさと降臨しろよ。

 ……うん、流石にこの状況でバトンタッチは酷すぎるよな。辛くても戦わなくちゃな、現実と。

 

「私かて料理覚えたての頃は色々と失敗もしたし… ちっとも気にすることやないで。な?」

「火事も?」

 

「いや、流石に火事はないわぁ… あっ」

「………」

 

 やっぱり現実ってクソゲーだよね? オレも心からそう思う。神にいさまの言葉は至言だね。

 あとさっきから八神が的確に急所を狙ってる気がして仕方ない。ヒットマンかよ、コイツ。

 オレに死ぬ気弾を使うつもりか? いいのか、そんなことして。死ぬよ? 死ぬ気で死ぬよ?

 

「はぁ… 気遣いは無用だ。言い訳のしようもなくオレの失態だ。……笑いたければ笑え」

「いや、さすがに笑えんて…」

 

 あんまり深刻そうな顔されるより、ここまで来ればいっそ笑われる方が気が楽なんだがな。

 まぁ、コイツもご両親がいないし学校行ってないしでコミュニケーションは不足がちだろう。

 気遣いが不器用になってしまうのもしょうがない。不器用さではオレも人のこと言えんし。

 

「ま、そういう事情で連絡ができなかった。……すまなかったな」

「あ、うん」

 

「ソレよりさっさとパフェを食え。溶けてるぞ? 勿体無い」

「わ! っとと。はよ食べんと…」

 

「急ぎ過ぎても頭痛になる。パフェも逃げやしないから、ゆっくり食え」

「……ん」

 

 モキュモキュ食い始めたコイツを眺め、ふと考える。奢った側のオレが何を得ただろうかと。

 スマホくんの遺体は晒され、火事の原因も特定された。……何一つオレの得たものがねぇ!

 熱くなる目頭をそっと抑えながら、オレは冷め始めたアップルシナモンティーに口を付けた。

 

 ………

 ……

 …

 

 アレから八神に案内されて(車椅子押したのオレだけど)、街の携帯ショップへと向かった。

 なんか新しいスマホを手に入れるために街に出る流れになってしまったのだ。何故だろう。

 開店までの時間潰しとして朝の図書館で適当な本を見繕っていた… という話になっていた。

 

 面倒なので八神の話に合わせてたのだが、それが原因か。まぁ、あって困るもんでもないし。

 

「お~! 暫く見ないうちに色々出来てるやん♪」

「………」

 

 女の子ってガラケー好きだなぁ。オレは家のパソコン使えないから必然的にスマホ一択だが。

 

「へぇ… バースデー割引ってのもあるんかぁ」

「ほう」

 

 まぁ、悠人少年の誕生日すら知らんオレにとっては心底どうでもいい情報だ。無関係無関係。

 

「私の誕生日はなぁ、6月の4日やねん」

「そうか」

 

「にひひ… プレゼント、期待してるで?」

「え? なんで?」

 

「あん?」

「任せろ。楽しみにしているといい」

 

 脅しに屈した弱いオレを叱ってくれ… ナタク。でもなんか八神さん怖いし、仕方ないよね?

 小学校低学年の女の子の誕生日プレゼントねぇ… 何を上げれば喜ぶんだろう。花束とか?

 う~ん… コイツの場合そのまま調理して上手に食べちゃいそうな気がするが。別にいいけど。

 

「そういえばアンタの誕生日って?」

「オレ? オレの誕生日か…」

 

 先程も言ったとおりオレは悠人少年の誕生日を知らない。故にコレについて答えようがない。

 屋敷の捜索ではその情報は見付からなかったしな。ココはオレの誕生日で誤魔化そうかね。

 オレの誕生日… まぁ、普通に考えてオレが悠人少年になった日でいいだろう。適当だけど。

 

「……3月16日?」

「なんで疑問形なん?」

 

「いや、なんとなく」

「ま、ええか。しかし残念やなぁ… もう過ぎてるやん。祝えるんは、ほとんど一年先かぁ」

 

「ん? オレの誕生日祝いは別に要らないぞ」

「ちょ、しらけること言わんといてぇな。それとも… その、迷惑やった?」

 

「別に迷惑ではないが…」

「ほんならええやん。決まり! な?」

 

 強引に押し切られてしまう。多分その頃には悠人少年もこのボディに戻ってると思うんだが。

 まぁ、いいか。コイツ地味にスペック高いし、その頃には沢山の友達に囲まれてるだろう。

 こんな携帯ショップで世間話混じりに聞いたオレの誕生日なんぞ、一年先まで覚えていまい。

 

 つーか万が一、億が一、悠人少年が戻れなかったとしてもむしろオレの方が忘れてそうだし。

 

「ありがとうございましたー」

 

 結局スマホは、修理交換の範囲で新品の別物を金額一部負担での提供という形で落ち着いた。

 未成年だから契約とか難しいかと考えていたが保証期間内ということで融通が効いたのだ。

 あと八神が関西弁で逞しく交渉していた。頼もしいヤツだ。パフェを奢った甲斐があったぜ。

 

 アドレスを交換してお互いに別れる。八神はというと今日は午後から病院で診察の日らしい。

 一応、仮にも女の子だし送って行こうかと尋ねたのだが一人で行けるから大丈夫とのこと。

 送るぐらいだったら構わんが、まぁ、病人としての自分を見せたくない気持ちもあるかもな。

 

「……お」

 

 帰り途中のショーウィンドウにて、オレは赤く輝くヤツ… シ○ンジュとの邂逅を果たした。

 誕生日プレゼント… ガン○ラでいいんじゃね? この造形美、八神も大興奮間違いなしだぜ!




行きつけの場所で出会い、喫茶店で一緒に食事を取り、街を散策して一緒に買物…
コレで私もラブコメ作者ですね(チラッ)

『おめでとう! やがみは “てんてき”に しんかした!』

!?

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