オレを踏み台にしたぁ!?   作:(╹◡╹)

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作者の精一杯のバトルシーンです。
文才の無さ、構築力の無さは自覚しておりますのでご容赦のほど願います。

またこの先には重度の動物虐待と受け取れるシーンがございます。
各人でご判断の上、お進みくださいますようにお願い申し上げます。

※作中の“指弾”とは、小石などを指で弾いて敵にぶつけて攻撃する戦い方を指します。


ゴリと眼鏡の一流半

「キャアアアアアアアッ!」

 

 今日も“あの方”のおっしゃる“一流”を目指すため、ゴリラと二人で神社の裏手で特訓をしよう。

 そう思っていたのだが… やれやれ、そんなコトを言っている場合ではなくなったようだ。

 合図の目線すらかけることなく同時に駆け出す… 悲鳴は境内の方から聞こえてきたようだ。

 

 辿り着けば、黒く巨大な獣が気を失った女性にゆっくり近付こうとしている様子が目に入る。

 

 所々に禍々しい鋭利な突起物を生やした凶悪なフォルム。不気味に赤く灯る瞳は四つもある。

 そして注目すべきは牛ほどもある巨躯。何の生物に一番似ているかと問われれば犬だろう。

 だが、こんな異形を犬と思い込むような者は、余程の花畑脳か異端的思考の持ち主くらいだ。

 

「グルルルルル…」

 

 その“犬”(便宜上敢えてそう呼ぼう)は僕たちの存在に気付き、威嚇の唸り声をあげてきた。

 漲る殺気と剣呑な雰囲気を漂わせる巨大な“犬”。その姿はまるで地獄の番犬を連想させる。

 きっと、ほんの少し前の僕だったらみっともなく逃げ惑い、必死に命乞いをしていただろう。

 

「へへっ… (やっこ)さん、逃がしてくれるつもりはないようだぜ」

「みたいだね。さて、どうしようか?」

 

 だが、全くもって問題にならない。そんなモノは今や選択肢にあげるコトにすら値しない。

 何故か? それは今、僕の隣には若干血の気が多いものの非常に頼りになる相棒がおり。

 何より、既に『絶対者』というモノの存在を知ってしまったからだ。頭ではなく、その魂で。

 

「どうするってほどのモンなのか? えぇ、眼鏡」

「フッ、違いない。僕たちにとっては、なんら問題ない『日常』に過ぎないか」

 

 笑みすら浮かべ、二人で軽口を叩く。そのとおり、“いつもどおり”の延長に過ぎなかった。

 全く怯える様子のない僕たちに対し、“犬”の方は不快そうにより大きな唸り声を上げる。

 余裕のないことだ。それでは、あの女性を救出しつつこなせる勝ち筋を“創る”としようか。

 

「頼むぞ、ゴリラ。僕は…」

「皆まで言うんじゃねぇ。“オレの(モノ)はオレのモノ。オマエの(モノ)もオレのモノ”… だ」

「フッ… そうだったな。破壊の拳、いつもどおりあらゆる困難を打ち砕いてくれ」

「そっちこそ! オレの活路を創造するのを忘れんじゃねぇぞ、創造の御手よォ!?」

 

 僕たちは小さく、弱い。一人一人では、そこらにいる小学三年生と何ら変わりない存在だ。

 かたや壊すしか能のない三流、かたやよちよち歩き程度の二流見習いといった有り様だ。

 そう、二人で力を合わせてやっと一流半の背中が見える程度の矮小な存在だ。けれどね…

 

「「覚悟しろ、駄犬! 僕(俺)たちの()()()は、ちょっとばかり痛い(イテェ)ぞッ!!」」

 

 目指す(いただき)に挑むためにこんなところで立ち止まってなどいられない。踏み台になって貰う!

 

 まずは二手に別れるコトで狙いを分散させる。牽制用の指弾を撃っておくことは忘れない。

 ハハッ、まさか全弾顔に命中するとはね… コチラを舐めてるのか戦い慣れてないのか。

 いい感じにカッカしてくれたようだ。どうやら僕に狙いを定めてくれたようだね。ならば…

 

「ガァアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 唸り声とともにコチラへと飛び掛かってくる“犬”に向かって、()()()()()()()()()()()()

 

 ――ドゴォッ!

 

 鈍い音と共に“犬”の巨躯が更なる宙に舞う。狙い通り、ゴリラの横殴りが炸裂したようだ。

 一方僕は地面に手をつき、勢いを利用して前転することで両者の激突をやり過ごしていた。

 しかしなんだ、今の際どいタイミングは。なんだか僕の服にも掠っていたみたいなんだけど。

 

「ノロノロしてんなよ。たるんでんじゃねぇか?」

「そっちこそ。僕抜きだからってアッサリ負けるなよ?」

 

 互いに背中合わせのまま、短い言葉を交わす。このまま一時期僕たちは別行動を取るのだ。

 僕は女性を回収して安全な場所に運ぶ。ゴリラはそのサポートとして“犬”の足止めと牽制。

 言葉にすることなく瞬時に組み立てた作戦であり、互いが逆の役割を担うコトもありえた。

 

 近付き、女性の様子を確認。目立った外傷もなく、脈拍も正常。コレなら移動も可能だろう。

 腕を肩に回し抱きかかえる… む、若干重い。っと、女性に対して失礼な感想だったかな。

 急ぎ神社の本殿へと駆け出す。あそこに寝かせておけば女性の身もひとまずは安全なはずだ。

 

 戻ってみれば惨憺たる有り様、という具合だった。神社のあちこちが崩れ、穴ぼこだらけだ。

 

 ゴリラは幾分怪我を増やしているものの、動けぬほどではないし、よく対処してくれている。

 “犬”は全くの無傷と言って差し支えなかったが、コチラのサポートを重視してくれたか。

 内心「頭が上がらないな」と苦笑しつつ、そのままゴリラを援護する最大の好機を模索する。

 

 真っ当な生物かは怪しいものの、一応アレも生物は生物。攻撃には独特の呼吸があるはずだ。

 読みは当たり、息を吸い込むと同時に筋肉を硬直させる様子が伺えた。何らかの動きの予兆か。

 当然そのまま好きにさせるつもりはない。指弾を注ぎ動きを止め、ゴリラの攻撃を援護する。

 

 ――ゴッ! ……ブシャッ!

 

「……ッ!」

 

 殴りつける鈍い音とともに鮮血が飛び散る。……ゴリラの左手から。チッ、抜かったか!?

 心中で舌打ちをしつつ、状況の把握と分析に務める。思考を止めるな、悔やむのは後にしろ。

 “犬”は数々の突起物がついた硬質の鎧に身を包んでいた。……先ほどの“溜め”はこのためか。

 

 ゴリラの攻撃を易々と弾いたことから、その防御力は推して知るべし… といったところか。

 戦闘中に独自の理論に基づき形態を変化… いや進化させる。だが決して自動的ではない。

 恐らく何らかのプロセスが必要なはず。トリガーは“思考”… もしくは“願い”というヤツか。

 

 ならば…

 

「ゴリラ、ここは僕が引き受ける。今のキミの攻撃では通用しない… 分かるね?」

「ッ! ……クククッ、分かったよ。精々しくじるんじゃねぇぞ? このモヤシ眼鏡が」

 

 そんな僕の言い様に反論せんと、怒りに顔を紅潮させるも一瞬のこと…

 すぐにコチラの作戦を理解したゴリラは不敵な笑みを浮かべる。阿吽の呼吸とは良いものだ。

 

「任せろ、相棒」

「死ぬなよ、相棒」

 

 交差の瞬間に交わす言葉はそれこそ一言。それに万感を乗せ、前衛と後衛を入れ替わった。

 指弾に大したダメージは期待できないが、眼や口を狙ってばら撒けばそれなりの牽制になる。

 “犬”よ… オマエは所詮ただの獣だ。“人間”の恐ろしさ、この僕たちが教育してやるッ!!

 

「グァアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 ……とは息巻いたものの、中々に骨が折れるものだね。コレは。

 相手の攻撃の気配を見てかわせば決定的なダメージは避けられるのだが、細かい傷は増える。

 それに獣なりに知恵を回したのか、僕の機動力や足場を奪う戦い方にシフトしつつある。

 

 さて、ゴリラは上手く動いてくれているだろうか?

 確認したいが、視線を動かし声をかけることで万が一にも“犬”に悟られる訳にはいかない。

 作戦を第二段階に移そう。僕は敢えて抑えていたギアを一つ上げ、“犬”の懐に飛び込む。

 

「……ッ!?」

 

 想定外の動きだったのか、“犬”は口を開けたまま硬直している。……やれやれ、甘すぎる。

 

「ゼロ距離、とったぞ。全弾くれてやる… 遠慮せずに貰っていけ」

 

 ――ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガ…ッ!!!

 

「グギャアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」

 

 無様に開け放った口の中にありったけの指弾(つぶて)を叩き込んでいく。……出し惜しみはしない!

 その口の端から溢れる血を零し、“犬”は怒り狂う。いいぞ。怒れ、怒れ… もっと怒れ。

 思ったより効いているようだが、礫が尽き果て、指弾も撃てなくなった僕には決定打がない。

 

 だから…

 

「コイツはサービスだ… とっておけ、駄犬ッ!!」

 

 拳を握り締め、そのままヤツの口の中に叩きこむ! ダメージなんか最初から期待してない。

 そもそも今の未熟な僕に“破壊の拳”の真似事など分不相応だ。そう… 狙いはただ一つ。

 ヤツを逃さぬ杭とするため… たったそれだけのために、敢えてヤツの口中に手を差し出す!

 

 当然というべきか、虚を突けたのは一瞬のこと。

 

 “犬”はすぐに僕の腕を食い千切らんと、その牙に力を込めてくる。服が破れ、肉が裂ける。

 血が溢れ出ている気もするし、ひょっとしたら既に骨まで(かじ)られているのかもしれないな。

 無論、このまま腕をくれてやるつもりはない。コチラに近付く影に気付き、笑みを浮かべる。

 

 ――ドゴォオオオオオオオンッ!!!

 

 神社の本殿の屋根から飛んできたゴリラが、全ての質量を右手に込めて“犬”を殴り付ける。

 そう、あの装甲を見た時に固まっていた。ゴリラと僕が狙っていたのは最初からこの一瞬。

 “認識外の死角から大質量攻撃を叩き込む”… という一点のみ。それだけに全てを賭けた。

 

「グギャ…ッ!?」

 

 その衝撃に耐え切れず“犬”はグルンッと白目を剥き、僕の腕にかかっていた圧力が消える。

 あぁ、やはり素人だ。救えない。“犬”よ、オマエは決して顎を緩めるべきではなかった。

 例え、『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』のだ。だから…

 

「ガハハハハハハハハハハッ!」

 

 ――ドンッ! ドンッ! ゴンッ!!

 

 決してキミを逃さない破壊の化身によって、蹂躙される。終わるまで解放されることはない。

 堅牢を誇った城壁は(ヒビ)だらけになり、地面と板挟みの衝撃を殺しきれずに負荷を与える。

 一撃毎に地面が凹んでいく。やがて“犬”は抵抗できなくなり、僕たちは勝つべくして勝った。

 

 だがどちらも満身創痍。全てを出し切った上で辛い勝利を掴み取ることが出来たに過ぎない。

 

 ハハッ… だけど、まだまだ紛い物の僕たちにとってはこんな勝利であっても上出来かな?

 そう思い顔を上げると、いつの間に来たのか… 当たり前のように“あの方”が佇んでいた。

 思わず呆然としている僕たちに向かって、それぞれ一本ずつブラック珈琲が放られてくる。

 

「ご苦労だった。……後はオレに任せ、オマエたちはすぐにこの場を去れ」

 

 ……やれやれ、なにもかもお見通しだったというわけか。ここまで来るともう笑うしか無い。

 一流と… その先にある“悪のカリスマ”の背中は、まだまだ遠い那由多(なゆた)の彼方か。

 だけど諦めない。いつか辿り着いて、“この方”と同じ景色を見てみせる。それが今の僕の夢だ。

 

 でも… 今日の授業で“全てを望む”と語ったこの人に、少しは認められたのかもしれないな。

 手の中にある重みに少し嬉しくなった僕は、ゴリラと一つ頷き合い、長い石段を降りていった。

 

 ………

 ……

 …

 

「あ、あの… すみませんっ!」

「……ん?」

 

 石段を降りて少し歩いていると、見知らぬ少女に声をかけられた。金髪の可愛らしい子だ。

 

「変なことを聞いてごめんなさい。その怪我… 何か恐ろしいモノに襲われたんですか?」

「………」

 

 さて、どう答えたものか。その瞳は真剣だ。

 半ば以上確信を持った問いかけ… 間違いなく“先程の件”の関係者ということになるだろう。

 

「あの…?」

「大丈夫だ、桜庭様に任せて来たからな。それにこれくらいの怪我、なんてコトねぇよ」

 

 ゴリラ、キミってヤツはなんでそう… 全く、たまにキミが羨ましくなるよ。

 間違ってもキミになりたいとは思わないけれどね。

 

「え? サクラバって… あの、銀の髪に赤と青の瞳を持った男の子のこと… ですか?」

 

 む? この少女、あの方の知り合いだったのか… その表情には誰かを心配する色が浮かぶ。

 その“誰か”が、この世で最も心配という行為が似つかわしくない存在なのはご愛嬌だが。

 とはいえ、害意を持っていないというのならば話しても構うまい。結果的にゴリラに感謝か。

 

「彼ならこの先の神社にいるよ。……気になるというのなら、行ってみたらどうだい?」

「……っ!」

 

 元来喋るのが余り得意ではなさそうな彼女は、言葉を発する時間ももどかしかったのだろう。

 ペコリと一礼すると、神社に向かって駆け出して行ってしまった。……すごいスピードだ。

 まぁ、仮に何かが起こったとしても、“あの方”なら歯牙にもかけずに全てを解決される筈だ。

 

 途中立ち寄った公園で、ベンチに座って小休止をする。

 

 どちらからともなく、ブラック珈琲に目を移す。安っぽい印字から味は期待できないだろう。

 だけど、僕たちは迷うことなくプルタブを起こして缶コーヒーの蓋を開ける。

 

「ぷはっ! ……っはは。なんだよ、コレ。苦くて、ひどい味だ」

 

 まず口をつけたのはゴリラだ。苦味に顔をしかめ、そしてどこか嬉しそうに悪態をついた。

 続いて僕も口をつける。……うっ! 突き刺すような苦味が、僕の脳を一瞬で突き抜けていく。

 

「うん… たしかに… コイツは苦いな」

 

 でも… 今は、この味が最高だな。ゴリラと二人、僕たちはただの小学生らしく笑い合った。




なのはさん:9歳、アリサさん:9歳、すずかさん:9歳
フェイトさん:9歳、はやてさん:9歳

海鳴市における一般的な小学生(9歳)のバトルシーンではないかと思います(震え声)。

ご意見ご感想、誤字脱字の指摘等がありましたらお気軽にお願いします。

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