オレを踏み台にしたぁ!?   作:(╹◡╹)

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まだ家の中です。原作キャラやオリ主が出てくるのは次話以降となります。


少年の決意

 あれから家の中を探し回ったが、他に住人はいないようだった。

 “ようだった”というのは仮にオレが誘拐されたとして、秘密の地下室なんかがあって、其処から観察でもされていたら気付きようがないからだ。

 だが、十中八九それはないだろう。

 何処も内側から鍵が開けられるようになっていて出入り自由だったのもそうだが、どうにもこの家全体が生活感に乏しいというのがその根拠だ。

 

 先ほど目覚めた部屋以外は部屋としての体裁を最低限保つ程度に留まり、ガランとしている。

 この身体の持ち主たる少年がマメで清潔好きだったのか他の理由でかは知らないが、どの部屋も掃除が行き渡っており綺麗ではあるのだがそれだけだ。

 まぁ、これらもオレの推測にすぎない。

 住人については今はたまたま外出しているだけでいずれ戻ってくるかもしれないし、生活感云々についてもオレの思い込みという可能性は否定出来ない。

 

 結局のところ調査の成果はここが『桜庭(さくらば)さん』の家だということ。そして住人はこの少年(=オレ)以外は出払ってるっぽいこと。

 オレがこの少年になっている理由は不明であること。ハンガーに掛かっている上着を調べたら分厚い財布が出来て諭吉さんが大行列だったこと。

 

 あぁ、なんか両親がどこぞにいない辺りはローゼンな人形たちに囲まれた桜田さんちのJUMくんを思い出す設定ですな。苗字の響き似てるし。

 人形たちのバトルに巻き込まれるのはゴメンだけど、自分のことを気に掛けてくれる可愛い姉や同級生がいたらさぞかし人生が楽しそうだ。

 いや、JUMくんもJUMくんで大変なんだろうけれどね。……脱線したな。財布の中にも手掛かりになるものなし、と。では学習机に視線を移そうか。

 

「さて…」

 

 悪いとは思ったがノートパソコンに接続されていたスマートフォン(指紋認証式だった)のロックを解除し、中のデータを閲覧する。

 ……うん、やっぱりこの身体の持ち主のモノなんだな。すまない、桜庭少年(仮)よ。

 住所録には2つしか名前が記されていなかった。即ち、父親と母親だ。名前も何も書いてない。『父親』と『母親』、それだけだ。

 

「………」

 

 ブワッと涙が出そうになるのを堪える。

 そうだよな… こんな異形と言っても差し支えない容貌で生まれたんだもんな。

 きっと両親からは不気味がられて、学校では遠巻きに見られ陰口をたたかれる… いや、もっと直接的な虐待やイジメにもあってきたかもしれない。

 

 しかし桜庭少年(仮)の悲しい過去の一端が明らかになったとしても、手掛かりがつかめたとは言えない状況である。

 ふ~む… やむをえまい。机の上に置かれていた本… 『日記帳』を調べるとしよう。マナー違反だろうが状況把握のために、どうか許して欲しい。

 心中で桜庭少年(仮)に詫びつつ、日記帳を手に取る。

 

「どれ…」

 

 パラリと日記帳をめくって早くも数分後にオレは後悔することになった。いや、倫理的な問題もあるがそれだけでなく。

 曰く「自分は神様転生を果たした最強の存在だ」とか「能力は『王の財宝』『一方通行のベクトル操作』『ニコポナデポ』の3つだ」とか。

 どうやらこれは日記帳じゃなくて、桜庭少年(仮)の妄想ノートだったようだ。

 余りに余りな内容でオレの精神を著しく消耗させる内容だったので、詳細は割愛させていただきざっとだけ流れを記させてもらう。

 

 魔法少女リリカルなのはの世界に転生したユージン=R=桜庭は史上並ぶ者のない美形にしてありとあらゆる魔法の天才。

 

「(ちなみにRはルシファーの略らしい。ルシファーだったらLuciferだからLだと思うが推定小学生の可愛い間違いだ。そっとしておこう…)」

 

 オリジナルデバイス(魔法使いの杖のようなものらしい)のなんちゃらを使って原作キャラをハーレムの一員にしようと日夜努力していたらしい。

 

「(努力の内容とは素直になれない彼女たちをデバイスで探し出して接触し、声をかけてやったり頭を撫でたりしてやることらしい。これはツッコミ待ちだろうか)」

 

 そんな彼の努力と成功の日々にも陰りが見えてくる。新たな転生者である御剣(みつるぎ)刀真(とうま)の登場。コイツにハーレムの女たちは次々洗脳されていったらしい。

 

「(どうやら桜庭少年(仮)にはNTR趣味もあるらしい。推定小学生にしてその業の深さは如何なものだろうか。……いや、将来有望と解釈しておこう)」

 

 御剣少年との直接対決の結果、彼の卑怯な策に惜しくも不覚を取りデバイスを破壊され、それに依存していた能力も喪われたらしい。

 

「(なるほどなー。まぁ、負けて這い上がるのは王道的な醍醐味ではある。がんばれ、桜庭少年(仮)よ…)」

 

 御剣に邪魔をされて全てが台無しになった。こんなクソゲーな世界は要らない。という形で締めくくられていた。スマホで日付を見比べると昨日書かれたものらしい。

 

「って、がんばらんのかい!」

 

 思わず声に出して突っ込んでしまったオレは悪くなかっただろう。そう思いたい。

 ……しかし、これは気不味いなんてもんじゃない。

 考えてみても欲しい。置かれた状況を確認するための情報収集の一環とはいえ、勝手に日記帳を覗いた結果がこの妄想ノートである。

 きっと桜庭少年(仮)にとって現実は余りにも辛く、こうした妄想世界に逃避するしか救いはなかったのだろう。

 

 この容貌に加えて、魔法少女趣味である。学校で他の同級生たちと話が合うはずもない。

 特にこの年代は男子は男子同士、女子は女子同士でグループを作る傾向にある。ぼっちであればコミュニケーション技術が磨かれる筈もない。

 彼はやり場のない怒りや悲しみを外では抑圧し、この妄想ノートに書き殴ることで心の平穏をギリギリの部分で保っていたのだろう。

 

 しかし、オレも詳しくは忘れたが魔法少女リリカルなのはと言えば一大ブームになった(なっている?)魔法少女アニメの金字塔だ。

 多分昨今流行りの女の子同士がキャッキャウフフする、百合っぽいゆるゆるな日常系の物語だったんだろうな。小学生が見てるくらいだし。

 曖昧になっている記憶をもとにそう結論づけて、そっと妄想ノートを閉じる。さて、どうしようか… コレ。

 

 もし桜庭少年(仮)… あ、本名は桜庭(さくらば)悠人(ゆうと)って言うらしいです。日記に書いてました。意外と普通ですね。

 話を戻そう。悠人少年がこの身体に戻った時… オレが消えなかったと仮定して、その存在に感付かれたらどうなるか。

 きっとこの日記帳(という名の妄想ノート)を見てしまったのではないかと早晩気付くことだろう。オレ自身も隠し通せる自信がない。

 

 逆に悠人少年が戻った時にオレが入れ替わりに消えたとしても、やはり「誰かに見られた」という事実は感じ取るだろう。家の中荒らしたし。

 その時、彼はどうするか? ……オレだったら自殺する。自殺は言い過ぎにしても黒歴史を暴かれるに等しい行為だろう。

 となると… うん、この妄想ノートは存在そのものを消し去るのが安全だな。大人になった時にあのノートを見れば地獄の苦しみを味わうだろうからな。

 聞かれても「あ、ゴメン。整理した時に知らずに捨てちゃったかも。何? 大事なもんだった?」とでも言えば彼も無理には追及してこないはずだ。多分。

 

 こうして負の遺産とも言える彼の心の闇を処分したオレは今後のことを考える。

 当面は戻る方法もわからないし、そもそも闇雲に元いた場所を探してみてもムリだろう。なんせ元の名前、住所、電話番号、一切が思い出せないのだ。

 こんな事例、聞いたこともないし人に相談したところで頭の心配をされるだけだろう。というより、悠人少年には相談できる友達もいないっぽいし。

 

 であれば、いつ悠人少年が戻ってきても良いように彼らしく振る舞うことにしよう。

 もし彼が戻ってくることでオレの人格が消滅するというのであれば、そこは譲るべきだろう。

 もともと彼の身体であるし、子供から物を取り上げて喜んでいるようじゃ流石に元・大人としてどうかと思うしな。

 色々と問題は山積みだが、今あれこれ悩んでも解決するとは思えない事柄ばかり。

 だったら流れに身を任せてなるようになるとしよう。




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