オレを踏み台にしたぁ!? 作:(╹◡╹)
中の人の視点のため、ちょっとしか出ていませんが。
「桜庭… 俺と戦え」
「断る。今日は予定がある」
放課後になると名無し少年が声をかけてきた。何言ってんだコイツ、嫌に決まってるじゃん。
てか「おい、デュエルしろよ」が通用するのは遊○王の世界だけだっての。スルーだスルー。
筆記具をまとめて席を立つ。ふぅ、今日も充実した一日だった。さて、さっさと帰ろうかな。
「ちょ、ちょっと待て! そ、そうだ。応じてくれたら、俺特製の珈琲をプレゼントしよう」
「たった今、待つ気が完全にゼロになった」
オレに珈琲をプレゼントしようとか喧嘩売ってんの? マジで売ってんの? 挑発なの?
だとしたら大成功だよ。こうかはばつぐんだ。今後オマエの頼み一切聞きたくなくなったよ。
それに今日は予定があるのは本当なのだ。それはズバリ、悠人少年の件に関する神頼みだ。
オレが悠人少年の貧弱ボディに取り憑いてから暫く経つが、事態は改善の兆しを見せない。
人事を尽くして天命を待つ… と言うが、天命が動かぬならばこちらが動かさねばなるまい。
そのためにオレに必要なのは賢明な諸兄なら既にお分かりのことだろう。そう、お参りだ!
すまない、名無しの少年。デュエルだかモン○ンだかにはまた今度付き合ってあげるからさ。
きっといつも三人娘と一緒だから、中々に男の子っぽい趣味とかを発露できないんだろう。
ひとまず、オレのブラック珈琲を2缶引き取ってくれたら応じるってルールでどうだろうか?
「最後にコレだけ聞かせてくれ。……予定って、なんだ?」
「………」
真剣な声音に、はたと足を止めてしまう。無視してもいいんだが、それは流石にアレだよな。
だが「悠人少年が戻ってこれるよう神社にお参りしに行きます」なんて言えないし… ん?
待てよ? 彼も、オレが悠人少年ボディを乗っ取ったコトによる綻びに気付きつつあるのか?
「オマエも気付きつつあるのではないか? 綻びが生まれ、何かが狂いつつあることに」
「ひょっとして、其れは昨晩の…」
うん、そう! まさにそれ! 悠人少年だったら昨晩あんな事故を起こしたりしなかったよ!
しかし、名無しの少年も気付いていたとは… やはりこの少年、思ったより勘がいいな。
あ、それともボヤ騒ぎがちょっとしたご近所の話題になって、たまたま耳に入ったとかかな?
「ほう… 気付いていたか。中々に勘は鋭い… それとも偶然かな」
「オマエは何か知っているのか!?」
「さぁな… 知っていたとして、ソレを今、ココでオマエに語って聞かせる“理由”があるのか?」
「クッ…」
悔しそうに顔を歪める。そんなに二次災害を不安に思ってたのか… 悪いことしちゃったな。
でもゴメンな、少年。悠人少年の名誉のためにも昨晩の事件の秘密は墓まで持って行くぜ。
う~ん… そんなに悔しそうな顔されると悪いコトした気になっちゃうなぁ。しょうがない。
「なに、オレがするのはほんの儀式のようなモノだ。……上手く行けば全てが元通りだ」
「儀式? 元通り? なんでオマエがそんなコトを…」
「それこそ愚問だな。……オレが語る夢の実現のために、其れらは欠かせぬ要素だからだ」
「……っ!」
ちょっとサービスし過ぎたかな? まぁ、いいか。大人ってのは子供に優しいもんなんだよ。
名無しの少年の反応を確かめることなく、オレは三人娘の横を通り抜けて教室を後にする。
まぁ、昨晩はオレの方が電波さんたちに世話になったしな。情けは人の為ならずってヤツさ。
さぁ、未来ある子供のため、元・大人としてキッチリ成仏という夢を実現しようじゃないか!
………
……
…
オレは諦めない。
誤解とすれ違いばかりを繰り返すこの救いようのない世界の中で、
悠人少年とご両親が再び暖かい笑顔で巡り合えることを夢みて。
そんなコトを考えながらブラついていたオレの視界に、とんでもない光景が飛び込んできた。
なんと人気の少ない公園の中とはいえ、金髪の少女が大型犬を放し飼いにしていたのだ。
見たところリードも持ってない… クッ! あの少女は海鳴市ペット条例を知らないのか!?
恐らく彼女は海外では条例の緩い地域に住んでいたのだろうが… 此処は独立国・日本だ。
このままでは少女は補導され、あの大型犬は保健所行き… ご家族も大層悲しむことだろう。
ちぃ… (保健所に見つかるまでに)間に合うかッ!? 悠人=R=桜庭、介入するッ!!
クロハラ(仮)さん… この一瞬だけでいい、キミの異常にアレな健脚をオレに貸してくれ!
ノリの良い脳内のクロハラ(仮)さんが「悠人、トランザムは使うなよ」と振ってくれる。
「了解! トランザムッ!!」
掛け声とともに、奇跡の加速度を体現したオレは、一気に金髪少女の間合いへと飛び込む。
完全に不意を突かれた形になった少女は、慌ててベンチから腰を浮かせ身構えようとするが…
させん! 逃すわけにはいかない! コレはもう、この少女だけの問題じゃないんだッ!!
このワンコやこの少女のご家族のためにも… 誰かが心を鬼にしてやらねばならんのだッ!
その点、世界から異端視されながらも不器用な愛を持ち続けるこの悠人少年はうってつけだ。
嫌われ役は任せろー(バリバリ)。さて、少女とワンコが対応を示す前にまずは一喝する!
「オマエはッ! 自分がどれだけ危ない橋を渡っているのか、分かっているのかッ!?」
両者は愕然とした表情を浮かべる。……すっげぇ、犬ってあんなに表情変わるんだ。
ていうか、言ってること分かるのかな?
んなわけ無いか。ご主人様が怒鳴られたんでちょっと驚いてしまったんだろう。すまん、犬。
「そんなっ! まさかもう管理局が来るなんて…」
少女は深刻な表情を浮かべて三角形のアクセサリを取り出すと、そんなことを呟いてきた。
はて、カンリキョク? 漢字に直すと“管理局”だろうか? ……ははぁん、読めたぞ。
この少女も実は悠人少年と顔馴染みだったのか。互いにディープな設定を語り合うほどの。
“管理局”… ブギー○ップの“統和機構”と並ぶ良い厨二ワードではないだろうか。
この年齢にしてココまでの資質を開花させているとは… コレは将来が楽しみな逸材だろう。
でも今は、そんなコトはどうでもいいんだ。重要なコトじゃない。
「警戒する必要はない、少女よ。今のオレは機関の人間ではない… ただの一人の桜庭悠人だ」
なんだっていい! この金髪の少女を説得するチャンスだ!!
………
……
…
ふむ… 残念ながら少女を説得することは叶わなかった。強い意志を秘めた少女であった。
ご家族を悲しませることになっても、この道を止まるわけにはいかないと言っていた。
其処までの覚悟を持って愛犬にリードを付けることを拒絶するとは… 生きるんて辛いなぁ。
オレに出来たことなんて、せめて彼女が保健所に見付からずに移動できるように祈ること。
そして「常に周囲の目を気にすることだ」との心得を説き、ブラック珈琲をあげたくらいだ。
彼女たちがせめてこの治安の良い海鳴市で、少しでも長い間、幸せでいられますように…
そんなコトを考えながら長い石段を登り切ったオレの目の前には… 半壊した神社があった。
周囲は瓦礫や穴ぼこだらけ… その中央に無駄に巨大な黒い犬(?)がぶっ倒れている。
ゴリくんと眼鏡くんが傷だらけになりながら、その犬を見下ろしている。え? 何コレ怖い。
……な、なんかアクションを起こさんと。とりあえずゴリくんと眼鏡くんは怪我の治療やな。
「ご苦労だったな。……後はオレに任せ、オマエたちはすぐにこの場を去れ」
とりあえずココは預かり、怪我をしてるゴリくんと眼鏡くんはココを立ち去るように勧める。
勿論、頑張ったであろう2人にそれぞれ1本ずつブラック珈琲を渡すことは忘れないオレ。
こんな時にも不良在庫の処分を忘れないばかりか、怪我人に荷物増やさせてマジすんません。
でもなんか嬉しそうに受け取ってくれた。なんて出来た人たちだ。いつか友達になりたいぜ。
「さて…」
問題はこのデカい犬なんだよな。つーか… その、なんだ… 端的に言ってデカ過ぎるぜ。
それは、犬というにはあまりにも大き過ぎた。大きく、分厚く、重く、そして大雑把過ぎた。
……つい、そんなイメージを抱いてしまうような犬である。コレ、何犬だろ? 雑種かね?
ふむ… ゴリくんと眼鏡くん襲っちゃったし、この犬、保健所で処分されちゃうのかな?
流石にそれは可哀想だ。何とかならないものか… しかし、こんな犬に対応できる人物など。
……いた、一人だけ。先程お会いした金髪の少女だ。大型犬に優しい彼女ならば大丈夫だ。
しかし、どうやって彼女を探そうか。なんせ彼女の連絡先どころか、名前すら知らないのだ。
う~ん… とりあえずダメ元でさっきの公園に行ってみようかな?
この犬を放置していくのも可哀想だが、背負っての移動などこの貧弱ボディでは自殺行為だ。
「………」
「………」
途方に暮れて空を見上げれば… いつの間にやってきたのか先程の金髪の少女と目が合った。
空を飛んでいる。……そうか、コレがCGってヤツか。中々に本格的じゃないか。
最近の小学生は進んでいると思ったが、まさかCGまで使いこなすとは。時代の流れは早い。
「ちょうど良かった。コレを任せられるか?」
顎であの巨大な犬を示す。オレじゃこんな犬をどうこうできん。噛まれると死んでしまう。
自分と同じくらいの年齢の少女に丸投げは気が引けるが… しょうがないことってある。
そ、それにいざとなったら手を引いて逃げるくらいはオレにだって出来るさ。多分(震え声)。
「でも、私で… いいんですか? だって、それは貴方が」
「いいんだ」
長き戦いの果てにイノベイターに進化した某ガンダムマイスターの如き笑顔を彼女に向ける。
だって、こんな巨大なワンコとのコミュニケーションってどう取ればいいか分かんないし。
なんか目が4つあるし、色んな突起物が身体に生えてるし… 凄く高い品種かもしれんしな。
「でも…」
「大丈夫だ、問題ない」
「……どう、して」
少女は気乗りしないようだ。たしかに、大型犬を二匹目はしんどかろうな。だが、逃さんッ!
「オレが、オマエならば任せられると… そう判断した」
「私、なら…?」
「オマエがオマエを信じられないならそれで良い。ならば、オレが信じるオマエを信じろ」
兄貴ばりの笑顔を見せる。そう、オレは彼女の大型犬への愛と確かな腕前を信じているのだ!
「私が信じる私じゃなくて… 貴方が信じる私、を…?」
「あぁ、まずはそこからでいいさ」
「……は、はいッ!」
納得してくれたようだ。こうして彼女の手により犬は小型犬に戻った。……CGだったのか。
副産物として出てきた小さな宝石が彼女に回収されることに。CGを発生させる装置かな?
そして彼女は何度も頭を下げて帰っていった。……あ、あれ? 犬は放置なの? ちょっと?
「くぅん…」
「………」
仕方ないな… 小型犬になったことだしウチで引き取ることにするか。……帰るぞ、ダニー。
おかしな気分だな。このオレにも漸く共にあの大きな家で過ごす家族が出来たというのか。
フフッ… こんなオレにも帰る場所が出来たということだな。末永く仲良くやっていこうな。
その後、本堂で目覚めた飼い主の女性によってダニーは回収されていった。さらば、ダニー。
べ、別に寂しくなんてないし。もともとココにはお参りでやってきただけだし…(涙声)。
………
……
…
当初の目的通り半壊した神社の賽銭箱に奮発して壱百円玉を放り投げ、しっかりと祈念する。
すまないな、神社の人。ゴリくんたちとダニーが荒らした神社の修繕費用に使って欲しい。
悠人少年の心の闇が晴れてキチンと社会復帰できますように。あれ? 微妙にニートっぽい?
さぁて、お参りも無事(?)に終わったことだし帰るとするか。タイムセールが始まるしな。
……唐揚げの作り方、八神に教わるかな? でもアイツ、土下座くらい普通に要求しそう。
却下だ、却下だ。とりあえず電波さんの助言に従い、本屋さんで料理本を入手。そこからだ。
「え? なんで、ココに…」
「桜庭…」
石段に向かって歩いていたオレの前に、名無しの少年とちゃっかり系少女の2人が現れる。
ちゃっかり系少女は肩にイタチっぽい何かを乗せている… えーと、アレ、なんてったっけ?
確か… ペレットだっけ? うん、なんか違う気がするな。ドッグフードっぽい響きだし。
「そのイタチらしきモノは… いや、なんでもない」
まぁ、イタチの名前がどうだろうと関係ないよな! オレにはダニーが(脳内に)いるしな!
とりあえずノロイ(仮)ってコトにしとこうか。キミの名前は(勝手に)ノロイ(仮)だ!
あんなにイタチ無双なアニメは知らない。そうだ、今度図書館で『冒険者たち』を借りよう。
「待て! オマエ、ココで何を…」
「……今日は予定があると言った筈だ。徹頭徹尾、その為にしか動いていない」
お参りに行くって言ったじゃん。ココが何処だと思ってるんだよ。神社でしょ? 神社だよ。
あ… この瓦礫とクレーターのせいか。うん、それはオレのせいじゃないよ(震え声)。
ゴリくんや眼鏡くん、ダニーのコトについて知られるワケにはいかぬ。逃げないと(使命感)。
「現住生物と融合したジュエルシードの暴走体を無傷で、それも魔力の痕跡すら感じさせずに…」
オレの背中に声がかけられる。コレ、誰が喋ってるんだ? なんか聞き覚えのある声だけど。
まぁ、多分ちゃっかり系少女が喋ってるんだろう。あんまり彼女の声聞いたことないしな。
あとジュエルペット? なんだっけ、女児向けアニメだっけ? そんなんオレに振られても…
「何の話だかサッパリだな… じゃあな」
すまないな、少女。そういう話はオレじゃなくて元々の悠人少年として欲しいと切に願う。
彼ならば大丈夫だ。妄想ノートに魔法少女アニメに関する設定を書き連ねてたくらいだしな。
そんなわけで、桜庭悠人はクールに去るぜ。
……オレは悠人少年になってから何度目かとなるタイムセールの圧殺を経験した。
最近、コレがないと少し物足りなくなりつつあるのが悩みの種だ。
今日の成果は冷凍春巻きと冷凍オムレツ… 来週もオレと地獄に付き合ってもらう!
原作の流れ→小学生が現住生物と融合したジュエルシードの暴走体を倒す 封印する
本作の流れ→小学生が現住生物と融合したジュエルシードの暴走体を倒す (別の人が)封印する
……全く問題ないな(確信)。
次は要望にもありました眼鏡くん視点。その次にフェイトさん視点を予定しております。
三者の視点が絡みあう勘違いを試験的に導入してみます。
何分、慣れぬことですので読み難ければ申し訳ありません。
ご意見ご感想、誤字脱字の指摘等がありましたらお気軽にお願いします。