オレを踏み台にしたぁ!?   作:(╹◡╹)

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終業式で少年がコレまでをダイジェスト風味に振り返る。
それだけの話です。コレで小学二年生編は終わり… 一体何の意味があったんだ(震え声)。


少年と終業式

 オレは今、私立聖祥大学付属小学校の終業式に参加している。コレで小学二年生も終わりだ。

 歌詞が全然頭に入ってないので主に口パクになることを許して欲しい。大人の事情なのだ。

 あ、前のゴリくんは… その… もうちょいボリューム下げて? オイ、熱唱すんじゃねぇ。

 

 教室の席だけでなく行事においてもゴリくんはオレの前だった。コレじゃ何も見えねぇよ!

 アレか! 桜庭の「さ」の前はゴリくんの「ゴ」だからなんか!? ……本名知らんけど。

 本名知らんといえば結局名無し少年や三人娘の本名も分からずじまいだったな。ま、いいか。

 

 必要なのは前を向くこと、未来を見据えることなんですよ! だからオレの照準は新学期だ!

 新学期の自己紹介の時間でクラス全員分をキチンとメモすれば、今度こそコミュれる筈だ!

 自分を信じて努力すれば夢はいつか必ずかなう! と某悪役も言ってた。叶わなかったけど。

 

 しかし、オレが“オレ”になってから一週間とちょっと… あっという間の終業式だったな。

 その間に色んなコトが起こったようで、その実、大したことは起きなかった気もする。

 オレはそっと目を閉じ、終業式までの数日間を振り返る。

 

 大きく3つくらいの事件が起きた。

 

 まず『翠屋のアドレスを登録した』こと。イヤッホぉおおおおおおおおう! 勿論トップだ。

 味も良かったし対応も丁寧。レジ打ち担当の女性は軽く笑顔を見せてくれるようになった。

 ウェイターの男性はまだ堅いが些細な問題だ。客商売はそれくらいがちょうどいいかもしれん。

 

 一つ難点を上げるとすれば、何故か翠屋での名無し少年と三人娘との遭遇率が高いことか。

 オレは別にどうでもいいのだが、クロハラ(仮)さんがしばしば興奮するのだ。怖いお。

 ま、相性の問題ってあるしね。全員と仲良くならなアカンわけでもなし。こういうのもアリだ。

 

 しかし、アレから2回ほど足を運んだけれど未だに店長さんを見たことがないな。

 ……大丈夫なんだろうか? あの店。

 まぁ、味は良いし店員さんの気遣いが素晴らしいし潰れまい。ていうか、オレが潰させない。

 

 2回目の訪問時は連休ということもあってか、16歳位の少年少女も店の手伝いをしてたな。

 なんかオレを見たら固まってたが、まぁ、こんな容貌じゃ仕方あるまいね。許そうじゃないか。

 ドヤ顔をしてるオレと決して目を合わそうとしなかったのが印象的だった。シャイなんだな。

 

 次に『八神のアドレスを登録させられた』こと。かなり強引に。日向くんのドリブルばりに。

 アレから幾度と知れぬ駆け引き・戦いがあった。オレも、ヤツも決して譲らなかった。

 遭遇の度にヤツは練度を増しオレは逃げ足を磨いていった。互いを高め合うミックスアップだ。

 

「あ、アンタ…」

「………」

 

 まずは気付かぬふりをして逃げた。早歩きで逃げ、ある程度から駆け出した。

 許せ。キミがご両親のコトを真に乗り越えたらまた会おう。……いつになるか分からんけど。

 そして翌日、またバッタリと出会う羽目になった。なんというエンカウント率だ。

 

「おい、こないだは」

「………」

「おっと、逃さへんで?」

 

 ゆうと は にげだした! ▽

 しかし まわりこまれた! ▽

 なん… だと…。まさか前回の1回で早くも対応してくるとは… だが、甘い!

 

「あ、空飛ぶクロハラハムスター」

「え!? どこや… って!!」

「………」

 

 あばよ、とっつぁ~ん!

 それからもオレと彼女の熾烈なバトルは続いた。どちらも半ば以上意地になっていた。

 互いが互いを強敵と認め、乗り越えんと死力を尽くした。

 

「一緒に帰って、友達に噂とかされると恥ずかしいし…」

「おるんか? 友達… って、逃げんなやぁ!!」

「……ッ!」

 

 泣きながら逃げる振りをして離脱。コレは戦術だ。だから目から溢れる液体は汗なのだよ。

 

「ようやく捕まえたで!」

「いつからソレがオレだと錯覚していた?」

「なん… やて…?」

 

 まぁ、捕まってるんですけどね。上着脱いで逃げました。何がオレをここまでさせるのか。

 それはオレにも分からない。

 

「げぇっ、関羽!?」

「誰が三国時代の猛将やねん。私は八神や… って、やから逃げんなやぁ!!」

 

 ――ゴスッ… ゴンッ!

 

 車椅子に吹っ飛ばされた後の鈍い衝撃とともにオレの意識がブラックアウトしていく。

 

「あ、あかん… ついやり過ぎてもうたかな。おーい、大丈夫か? 平気か? 平気やな?」

 

 ………

 ……

 …

 

 気付けば知らない天井を見詰めていた。額には濡れタオルが乗っている。……何これ怖い。

 

「お、気付いたようやな。状況は分かるか?」

「大変だ。オマエの名前も思い出せん」

「そら重症や… って、互いに自己紹介一つしてへんから当然やろ!」

 

 小気味良いツッコミを入れてくれる。わはは! いいねいいね、やっぱこの子おもしれーわ。

 

「そうか、オレは桜庭悠人だ」

「おう、私は八神はやてや。よろしゅうな、悠人」

「あぁ… よろしく、八神」

「………」

「………」

 

 沈黙が場を支配する。車椅子の少女は不満そうだ。

 だってオマエ、女の子をいきなり名前呼びとかありえなくね? 悠人少年もそう言ってるさ。

 まぁ、オレが下の名前で呼ばれる分には一向に構わん! ってトコだけどね。

 

「世話になったな。……後日礼は改めて」

 

 ソファから身を起こす。いつまでも女の子一人の家にお邪魔するわけにはいかん。

 倒れる直前のコトが思い出せないが、思い出せないということは大したこと無いんだろうな。

 

「あ… その、ゴメンな。怒って、へんの?」

「怒るも何もない。オマエには感謝こそすれど、其れ以外にはないさ」

 

 倒れてるのを放置されてたらどんな二次災害を引き起こしてたか… 財布紛失は覚悟せんと。

 安全な場所まで運んでくれて適切な処置をしてくれた彼女には感謝しかない。コレは本当。

 それでも申し訳無さそうな顔をしている。医者でもないんだからその場で対応なんて出来んよ。

 

 だが、彼女の顔は晴れない。ふむ、女の子を悲しませるのは趣味じゃない… ならば。

 

「……そうだな。もし気に病むというのならば料理の一つでも御馳走してくれ」

「へ?」

「但し、オレは好みにうるさい。散々注文をつけるし面倒な人間だ。それでも我慢しろ」

「う… うん」

「それでチャラだ。いいな?」

 

 このあたりが落としどころだな。オレも一食分の食費が浮くし。オレも一食分の食費が浮くし。

 大事なことなんで… そもそもなんでオレ、彼女の家に招かれるのを執拗に避けてたんだっけ?

 う~ん… 思い出せん。まぁ、思い出せないってことは大したことが無いんだろうな(確信)。

 

 それから車椅子の少女改め八神と食卓を囲み、彼女の手料理を召し上がることになった。

 彼女の出してきた料理の数々は小学生離れしたチート染みた出来栄えだった。

 クロハラ(仮)さんやゴリくん、眼鏡くんと言い最近の小学生は小学生離れしてるなぁ(棒)。

 

 こ、これくらいなんてことないし… 電波さんの知識使えばオレにもできるし…(震え声)。

 え? 注文? 「うめ、うめ、うめ」って食っちゃったよ? お代わりも頂いちゃったよ?

 その流れでアドレスを差し出す羽目になったけれど、悪用されても許しちゃうぜ。この味なら。

 

 今、八神の家は町中でクロハラ(仮)さんに追い回された時の緊急避難先として活用されてる。

 

 最後に『名無しの少年が珈琲貴族に覚醒した』のだ。え? コレ、オレのせいじゃないよね?

 な… なんか三人娘に睨まれたけれど、別にオレは何もやってなくね?

 カモにし易いから1日1本(時に2本)は上手く丸め込んで飲ませてただけで… あ、それか。

 

「珈琲も最近では、糖尿病予防や抗ガン作用に一定の効果があることが認められているんだ」

「そうか…」

 

 へぇ、そうなんだ。知らなかったよ。で、なんでソレをオレに語るんだよ。オマエは。

 三人娘は? え? 聞いてくれないって? そうか、オマエも辛いんだな… 聞いてやるよ。

 

「特に生活習慣病に結びつく糖尿病に大きな効果があるのは立証済みだ」

「ふむ…」

「アルツハイマーやパーキンソン病などの認知症全般にも大きな抑制効果があるんだぜ?」

「ほう…」

 

 だ、誰か助けて…(震え声)。オイ、目ぇ逸らすな! 三人娘ども!?

 

「珈琲にはカロリーが無い割にビタミンやミネラル等の栄養も豊富なのでダイエットにも最適だ」

 

 “ダイエット”というキーワードを聞いて三人娘が瞬時の変わり身をやってのけた。

 名無し少年から詳しく聞き出そうとしてる。オマエらホントにイイ性格してるなぁ?(迫真)

 彼も日頃、苦労しているのだろう。ひょっとしたらオレたちは分かり合えるのかもしれん。

 

「オマエの意気込みの程は伝わった。ならば駆けつけ一杯… 今日も1本くれてやろう」

「いや、結構だ。……“本物”を知ってしまうと、缶コーヒーはそう頻繁に口にしたくない」

 

 やはりコイツとは分かり合えないようだ。間違いないな。コイツは敵だ。たった今、確信した。

 

 ………

 ……

 …

 

 校歌をBGMにコレまでを振り返り、改めて思う。

 中にはほんのり良いこともあったかもしれないけれど、コレ、大抵ろくでも無い思い出よね!?

 目頭が熱くなるのを止められない。三年生に進級したら、もっと良いことがありますように。




次から希望に満ちたリリカルマジカルな無印編がはじまる! ……といいなぁ。

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