オレを踏み台にしたぁ!?   作:(╹◡╹)

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はやてさんメイン回は続きます。


車椅子の少女と缶コーヒーと

 一度目はただの出会い。

 二度目の今日はただの偶然。

 三度続けて初めて必然となる。

 

 ……アイツは確かにそう言った。

 やったら、次にアイツに()うた時… 私の中の気持ちは何か“変わって”いるんやろか?

 アイツの出て行った玄関の扉を暫し眺めてから、ため息一つ。私は荷物を運ぶことにした。

 

 アイツとの出会いは最悪やった。今でも、少し思い出したらむかっ腹が立ってくるほどや。

 

 はじまりは図書館やった。

 足がこうなってから少しでもマシに生活できるようにと医療関係の書架を巡るんが日課やった。

 掛り付けの石田先生はいい先生やけど、自分でも出来る範囲でって思ぅたんがきっかけやな。

 

「本当ならさぁ。原作順に攻略するのが醍醐味だと思うわけよ? まずなのはたちからってね」

 

 開口一番にそんなコトを言われて、私は当然戸惑った。なんかのゲームの話やろか? って。

 いきなり前置きもなくゲームの話をされても… とは思ったが、ソコまで嫌でもなかった。

 私みたいなちょっと特殊な境遇でもなければ、ありがちな歳相応の身勝手さかもしれんしな。

 

「はぁ… そうですやろか」

「でもまぁ、御剣のヤツが嫉妬して必死に邪魔してくるわけだし気分転換も必要かな? って」

「……はぁ」

 

 生返事な私の相槌に更に機嫌を良くしてベラベラと喋ってきよる。

 私が嫌やな最初に思うたのは、その目。ゲーム(?)の話をするのと、私を見るん目が同じ。

 事情があってこんな身体しとるさかい、好奇の目や哀れみの目で見られるんは慣れとる。

 

 勿論、その二つだって決していい気分になる視線やない。けど、この目ほどやない。

 顔立ちは芸能人みたいに整ってるし、宝石細工のような髪や瞳も持ってはる。

 けどなんちゅうんかな? それでも臭ってくるモンが気持ち悪いねん。私もスレたもんやな。

 

 そう… 私は、今、確信している。『()()()()()()()()()()()()』ってな。

 

「だからキミを攻略してやろうって思ったわけさ。僕の嫁にしてやるよ。……嬉しいだろう?」

「光栄ですわ。でも折角ですけど、今は私、ちょぉ急いでるんで今回は遠慮しと…っ!?」

 

 はぁ、話にならへん。

 愛想程度に会釈して、横を通り過ぎようと思ったら車椅子の持ち手を掴んで静止させられる。

 どういうつもりやねん。無言で睨み付けるとニヤニヤ笑ってるアイツの顔があった。

 

「そう照れるなって。原作キャラってのはどいつもこいつも謙虚だなぁ… まぁ、いいけどね」

「照れてへんわ… はよ離さんと大声出すで?」

 

 自分の訛りを最大限利用して、どすの利いた声で脅してみる。無論、意に介されないが。

 だったらと息を大きく吸ぅた時…

 

「どうせキミも僕に夢中になるんだからさ…」

「……えっ?」

 

 そこでアイツは私の目を真っ直ぐ見て微笑んできた。

 !? ……あ、あかん。何や、コレ。

 頭がクラッとして、気が遠くなって… まるで私が私でなくなるみたいに…。こ、れ… は…

 

「ソコで何やってるんだッ!?」

「……っ!」

「ちっ… 御剣か。相変わらず目障りなヤツだなぁ」

 

 誰かの声のお陰で(もや)がかかっていた視界が晴れていく。

 ……なんや知らんけど、『とても危なかった』。それだけはハッキリと分かる。コイツはッ!

 精一杯の抵抗として、まだクラクラする頭を起こしてキッとアイツを睨み付ける。

 

「オマエ、まだこんなコトを続けているのか?」

「うるさいなぁ… 僕の勝手だろう? 僕の“力”をどう使おうがさぁ!」

 

 けど、もう私のコトなんか眼中にない様子で二人は言い争いをしてる。

 後からやってきた方の黒髪の男の子が、そっと立ち去るように私に向かって手で合図してきた。

 ……大丈夫やろか? そう思ったけど頭痛がひどく、好意に甘えることにした。

 

「そんな身勝手をしたら誰かが泣いてしまうんだ… その痛みや悲しみが分からないのか!?」

「分かるワケないだろう? 僕は選ばれた存在。僕に比べりゃ能力はカスでもキミだってそうだ。むしろ理解に苦しむのはこっちの方だね。何が楽しくてモブたちなんかを守ろうとしてるのか」

「俺は… 俺は、オマエなんかとは違う!」

「当然だ。僕は、オマエなんかとは違う。一緒にするなよ雑魚が。次、邪魔したら覚悟しろよ」

 

 あの二人の言い争いに背を向けて見付からんように静かに立ち去る。

 言ってるコトの意味はサッパリ分からんかったけど、私なんかがどうこうできるモンやない。

 ……それだけは漠然とだが伝わってきた。

 

 結局アイツが私に絡んできたのはあの日くらいで、それから後は暫く平和が続いていた。

 後から知ったことやけど、一階の喫茶店は特に酷い目に()うてたみたいやな。

 このまま何事も無く、それぞれの平和な生活に戻れる… そう思っていた矢先のことやった。

 

 私はその時も図書館におって、ちょっと高いトコロにある本に必死に手を伸ばしていた。

 手を伸ばし続ければ、こんくらいは自分でも取れる。そうすれば今だって変えられる。

 そんな想いで半ば意地になって挑んでいたけど、どうしても取れず無理なモンは無理やった。

 

 やっぱ、戻って司書さんに頼むしかないか。

 

「……どれが欲しいんだ?」

 

 そう思って落ち込んでたちょうどその時、背後から声がかけられた。

 誰かが来るなんて思ってもいなかったので、思わずおっきな声を上げてもうた。

 けどソレに対して不快を示すこともなく、逆に驚かせたことを詫びつつ再度尋ねてくれる。

 

 少し低く、落ち着いた声。まるで、そうするのが当たり前のように本を取ってくれた。

 こんなに真っ当に親切にしてもらったんは、いつ以来やろか。

 こないだのことは例外にしても、大抵の人は腫れ物を触るかのように私を“伺って”くる。

 

 いろんな人に親切にしてもらうんはありがたいけれど、ちょっぴり寂しいんは事実やった。

 そう思っていると、とんでもないことに気付いてもうた。私、お礼一つ言うてへんやん!

 慌てて声の人にお礼を述べても、まるでなんてことないコトのようにアッサリと流される。

 

「気にするな、オレは気にしない」

 

 この声の人は、例えば友達のせいで自分もどこぞにぶちこまれることになったとして…

 それでもそんな台詞一つでアッサリと許してやれるんとちゃうやろか? そんな気がした。

 あぁもう! 何かしたいワケでもないんやけど、せめて目ぇ見てお礼せな気がすまんわ。

 

 そして声の人の方を振り向いた時、私は愕然とした。……あの時の“アイツ”だったから。

 

 思わず上げてしまいそうになる悲鳴をそっと手のひらで塞がれ、噛もうと思えば逃げられる。

 図書館で騒ぐな、なんて至極真っ当な言葉にも皮肉で返すしかない。其れが精一杯の抵抗。

 一体、何をするつもりや? 一体、何を企んどるんや? ……私は警戒し、心持ち距離を置く。

 

 けど次の瞬間、アイツは信じられんことをしてきた。深々と腰を曲げ、頭を下げてきたんや。

 そして、一言。

 

「……すまない、迷惑をかけた」

 

 居心地の悪さになおもゴネようとする私に、赤子に言って聞かせるように諭した後…

 アイツは缶コーヒーを私に手渡してきた。全てを噛み締めたような苦み走った笑顔とともに。

 二の句が継げないでいる私を尻目に、其れ以上何をするでもなく、アイツは立ち去った。

 

 ……なんやの、もう。

 

 そして三回目の出会い。いや、アイツの言葉を受けるなら『二度目の偶然』かな。

 其れは、スーパーでの買い物を終えて帰宅しようと思うた時に起こった。

 衝撃とともに宙に浮く。荷物がバラバラに零れ落ちる気配。そして、私は地面に投げ出された。

 

「すまない。こちらの前方不注意だった… 腕を借りるぞ」

 

 痛みに顔をしかめていると、両腕を取られ身体ごと軽々と持ち上げられた。

 あ、コレ… 『たかいたかい』っちゅーやつかな。

 今となっちゃ全然覚えてへんけど、私もおとんやおかんにされてたコトあったんかなぁ?

 

 そしてゆっくりと車椅子に降ろされた。普通の人たちでは知らんやろう完璧な対応やった。

 わざわざその知識を取り入れるか… 相手の立場に立って考えれる人しか出来んような。

 確認のため相手の顔を見れば、やっぱりアイツやった。声から既に予感めいたモノがあった。

 

「あ、アンタは…」

 

 やっぱり第一印象のこともある。悪態の一つでもついたろう思うたけど、出来んかった。

 アイツが… まるでなんかの痛みを堪えるような辛い表情をしとったから。

 だが、アイツはそんな自分のことを差し置いて荷物を拾い始める。私は見ることしかできん。

 

 こちらに無防備に晒した背中を見てると、なんやアホらしくなってきよる。

 私の対応にも問題はあったかもしれん。今までの詫びと、今回と前回の礼を改めてしよう。

 そう思って声をかけてもやっぱり「気にするな」と流された。悪いのは全て自分だ、と。

 

 ……お気に入りなんか? その言葉。

 

 無事に荷物を拾い終わったアイツは何かをやり遂げた達成感に満ちていた。ドヤ顔ウザイで?

 そしてアイツは拾い集めた荷物を私に押し付けると、前回同様そそくさと立ち去ろうとした。

 

 呼び止めるも応じない。……なんや腹が立つな。しゃあない、美少女の怪我の責任を取らすわ。

 そこからの変わり身は早かった。明らかに嫌そうな顔をしてるのだが、一切逆らおうとせん。

 私も調子に乗って、悪いと思うたけど遠回りさせたり色々したけれど不満一つ口にせんかった。

 

 流石にそのまま家まで通すのはまだ怖い。けど、見極めるため接するくらいはしてもええやろ。

 ……多少変わったゆうても変わりすぎやしな。油断はできひん。スマホの録音をONにする。

 ボロを出すかもしれんし、内心隠して表向きは友好を装っておこか。……私もスレたもんやな。

 

 到着してから渋るアイツを荷物を運ぶためと称して、半ば以上無理矢理に玄関内に押し込む。

 てか、車椅子で物理的に押し込んだ。大袈裟に吹っ飛んでたけどアイツなりの冗談やろな。

 さっきも倒れている私を軽々と救助してたし、荷物いっぱい持たせても不満一つなかったしな。

 

 さて人目のない場面ではどう出る? と身構えるモノの、何かと理由をつけて帰ろうとする。

 

「ええやん。ご飯くらい私が作ったげるから寄ってき」

「断る」

 

 まさか即答されるとは。……流石にイラッとするわ。この私の手料理が不満なんか?

 

「なんでや。私、こう見えても料理に自信あるんやで? 料理は全部私が作っとるし」

「ホンマか、工藤」

「誰がクドーやねん。私は八神や」

「せやかて、工藤」

「だからクドーちゃう言うてんやろがっ! 次同じネタ言うたらしばくで、ホンマ!?」

 

 下手糞な関西弁に思わず怒鳴ってしまう。……アカン、先にボロを出したのは私の方やったか?

 恐る恐るアイツに視線を移せば、気にしてない様子で… しかし虚空に視線を彷徨わせていた。

 

「……この世界で、ただ一人のオレに。オレだけのために知識をくれた人がいる」

「え?」

 

 なんや語りだした。どういうことなん?

 

「分からなくていい。オレも本当のコトなんて分からない。事実、人であるかすら分からない」

「……え?」

「オレは未だ自分という存在が分からない。だからこそ…」

「………」

 

 思わず聞き入ってしまった私に向かって、真っ直ぐに言ってのける。

 

「こんなオレのためだけに向けられた言葉を、オレは、全力で信じたい。試したいんだ」

「なんやの、それ… なんのためなん?」

「愚問だ。オマエも既に、その答えは知っているはずだ」

「……なんやねん、その答えって」

 

 私のために向けられた、私が信じるに値する答えなんて… そんなん、何処にも。

 ううん… 一つだけ思いつくものがある。おとんの友達の、グレアムおじさん。

 私のコトを気遣ってくれて… 忙しい中でもキチンとメールには答えてくれる人や。

 

「自分が生きるため… 自分が存在するため、だ」

「……せや、な」

 

 言うことは分かる… 分かるけど、だからって簡単にそうですかって受け入れられんやん!

 私だって“変わりたい”よ… でも、だからって。この生き方、簡単に曲げられん。

 

「あ、ホラ… 私な、事情があって両親がおらへんのよ。だから寂しいねん? な?」

「断る」

 

 媚びるような笑顔を見せても、アイツは聞こうとしない。媚びが足りんかったかな?

 

「なんでぇな? 私、寂しいねん。兎は寂しいと死んでまうんよ~?」

「それは都市伝説だ。そして、オマエのような子供が言うべきことではない。人は、裏切る」

「……っ! 何様のつもりやねん」

「言葉にするだけで其れが分かるオマエは、決して弱くない。……ならば弱さを装うな」

 

 一瞬で自分の中にある欺瞞を切り伏せられた気がした。そして淡々とご高説をのたまうてきた。

 ……私は、コイツが気に入らん。まったくもって気に入らんわ。一体何様のつもりやねん!?

 

「今も両親と触れ合ってて、幸せそうに暮らしているアンタに何が分かんねんっ!!」

「……ふむ」

「もう薄っすらとしか思い出せないのに、毎日少しずつ消えていくのに! それなのにッ!!」

 

 激情は止まらんかった。しかし、其れに対してアイツはとんでもない返答を返してきた。

 

「羨ましいことだ」

「……は?」

「両親の記憶があるのが、だ。例え少しずつ喪われていくとしても、確実にオマエの中に残る」

「え? アンタの両親って、どういう…」

「さぁな。オレは顔も知らないんだ… 何処か遠くで元気にやっているみたいだが」

 

 なんでもないことのように肩を竦める。そんな… せやったら、ウチ、最低やん…。

 

「そんな… それって、寂しくはないんか?」

「それこそまさか。充分過ぎるほどの愛は感じている。互いに少しすれ違った結果に過ぎんさ」

「それでも…」

「ただ、そうだな… 一人で暮らしていると掃除が大変だ。処分に困るモノが残されていて」

「……っ!」

 

 あの時、図書館で私に頭を下げてきたんと同じような… 苦み走った笑みを浮かべてきた。

 自分以外の何かによって運命を歪められて… それでも、自分なりに対処をしようとしている。

 止め処なく溢れる諦念と、低空飛行気味の前向きさが同居した… そんな空虚な表情だった。

 

 それから少しの会話を交わして別れることになった。もう、アイツを無理に誘えんかった。

 そんな私の様子を見て取ったのか… アイツはこんなことを去り際に言ってきた。

 

「会えるさ」

「へっ?」

「互いに縁があったらな」

 

 そのままドアを閉められる。……まったく、なんやの? もう。

 

 ………

 ……

 …

 

「ふぅ…」

 

 荷物をテーブルの上に運び終える。そして手にしたのは胸ポケットから取り出したスマホ。

 ……録音はキチンと出来てるみたいやな。

 

「……“縁”、か」

 

 手の上で弄びつつ呟く。コレも、その“縁”になるんかな?

 そんな考えに自嘲気味の笑みしか浮かんでこない。

 アホやろ。こんなんに頼るようじゃ、その程度の“縁”ってコトやん。私には相応(ふさわ)しゅうない。

 

 簡単な操作を終えて、全てのデータを消去する。所詮この程度のモノやったんや。

 そう思いながら、荷物を整理しとると…

 

「なんや、コレ… そういうことかいな? ったく… ぷっ、くくくくく。一本取られたわ」

 

 こぼれ落ちたブラックの缶コーヒーに、思わずさっきとは違う種類の笑みがこぼれていた。

 

「はぁ… 笑った笑った。ったくあんガキ、舐めた真似しくさりよって。次は容赦せんで」

 

 そう呟いて無理矢理に笑いを締め切ると、私は今夜の食事の支度を始めるのであった。




ヒロインが誕生すると思った? 残念! ただの悪友でした!
まぁ、今後の将来においては未確認で進行形ですが。
次回はまた中の人に戻りましょう。あと2回位で無印編に入りたい今日このごろ。

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