オレを踏み台にしたぁ!?   作:(╹◡╹)

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八神はやてさんのメイン回です。


少年と車椅子と少女

「お~! やっぱ誰かに押してもらうんは楽チンやなぁ。そのまま真っすぐ頼むで、車掌さん」

「……了解した」

 

 車椅子の上ではしゃぐ少女と、大量の荷物を抱えながらそれを押すオレの姿がそこにはあった。

 

 安西先生、もう諦めてるんで早めにゲームセットにしましょう。めっちゃしんどいです。

 まだお互いの名前も知らないというのに、少女は随分と好き放題してくれる。鬼だ、悪魔だ。

 悠人少年… オレはもうダメかもしれない。万が一の時は、キミが後を継いでくれ。

 

 あ、もともと悠人少年のボディでしたね。コレ。ひっひっふー… ひっひっふー…。

 少しでも疲労がマシになるようにとラマーズ呼吸法を試す。余計疲れた気がする。

 ……さて、どうしてこうなったのかを説明しよう。いや、聞いて欲しい。聞いてください。

 

 オレは放課後になると同時に学校を飛び出した。ヒャッハー!

 悠人少年は部活動などしてないだろう… という一種奇妙な確信がそこにはあったのだ。

 てか小学二年生って部活ないっけ? 記憶が曖昧で覚えてないぜ。

 

 え? こんなに急いで何処に向かっているのかって? やれやれ… 朝も言ってただろう。

 “それで何を目指す!!”と言われたらこう答えねばなるまい。“スーパー…!!”と。

 今やスーパーを目指すオレのダッシュ… とくと見せてやるわ! あ、横腹痛い。少し休憩。

 

 ふぅ… オレとしたことが慌ててしまったぜ。だが、それも無理はないだろう。

 前方視界がゴリくんの頼れる背中で埋め尽くされ、全く黒板が見えない教室での授業。

 やることもないオレはと言うと、朝から追い回された疲れもあって午睡に身を委ねていた。

 

 そんな時、オレの夢の中に電波が降ってきたのだ。

 “中の人さん、食パンは冷凍保存しておいて、食べるときにトースターで焼くといいですよ”

 マジでか!? 思わず席を立ってしまい、クラスの注目を浴びてしまったが些細な問題だ。

 

 ありがとう、心優しき電波の人。オレ… 明日の朝、早速試してみるよ…ッ!

 

 そんなわけで、オレはホイホイと欲望に誘われるままにスーパーへとやってきたのであった。

 時刻はまだ夕暮れ前。昨日と同じようにタイムセールに巻き込まれるような愚は犯さない。

 さぁ、出撃だ。スーパーに向かって駆け込んだオレは… 森崎くんばりに吹っ飛んでいった。

 

 ――ゴスッ

 

「へなっぷ」

「きゃっ!?」

 

 ……お分かりいただけただろうか? スーパーで走り回るとこういう事故に繋がりかねない。

 愚かなオレの犠牲を教訓として、どうか諸兄らには今一度前方注意の鉄則を思い出して欲しい。

 だが一体相手は誰だったのか? なんか金属っぽいモノにオレは轢かれてしまったような…

 

 悠人少年の貧弱ボディに容赦なく降り注ぐ痛みを堪え、巻き込んでしまっただろう人を探す。

 全面的にこちらに非があるのだ。しかも声の様子からして若い女性。これはアカン…。

 周囲の(心が)イケメンの誰かが既に助けているかもしれない。説教なのか? 正座なのか?

 

 だが、予想に反して周囲の人々は好奇の視線を送りこそすれど近寄ってくる様子はない。

 いや… この視線、哀れみか? そして視線を真正面に送って、オレは漸く理解した。

 この間の車椅子の少女ではないか… クッ、確かに障碍者の方には無知識では対応し難い。

 

 お客様の中にお医者様はいませんか!? と叫びたいが、モタモタしている場合ではない。

 此処は巧遅(こうち)より拙速(せっそく)が尊ばれるべき場面だろう。

 オレは転がっている車椅子を立て直すと、急ぎ倒れている少女に駆け寄る。荷物は後回しだ!

 

「すまない。こちらの前方不注意だった… 腕を借りるぞ」

「あいたたた…。いや、こっちこそ… って、ひゃあっ!?」

 

 向かい合う形になるように、脇の下に手を回し、掴むようにして若干勢いをつけて持ち上げる。

 そのまま車椅子まで移動。彼女が座れるようにゆっくりと下ろしていく。やべぇ、しんどい。

 ある程度で「手を離すぞ」と一言注意してから手を離す。座る位置の微調整は本人に任せよう。

 

 ふぅ… 図書館で読んでいた『避難訓練実施マニュアル』。まさか、こうも早く役立つとは。

 え? こういう場面のお約束、お姫様抱っこはしないのかって?

 悠人少年の貧弱ボディを何だと思ってるの? 現時点で一杯一杯だよ! かなり無理したよ!

 

「あ、アンタは…」

 

 少女がオレに気が付く。あの時、会ったきりだというのに覚えていてくれたのか。

 ……よく考えれば昨日会ったばかりとも言う。そりゃ記憶曖昧なオレも覚えてるわけだ。

 何故だかもう9話くらい昔のコトのように思えていた。アニメで言えば63日前だ。

 

 二ヶ月以上前になるのかよ…。

 

 でも今は、そんな事はどうでもいいんだ。重要な事じゃない。

 なんだっていい! 荷物を拾い集め(つつブラック珈琲を潜り込ませ)るチャンスだ!!

 ヒョイヒョイと荷物を集め始めるオレを見詰める少女。くっ… 並みの警戒網ではないな!?

 

「まぁ… 一応、詫びと礼は言っとくわ。ゴメンな、それと… おおきにな」

「気にするな、オレは気にしない。……そもそもこの一件、オレに非がある」

 

 どう見たってオレの方が悪いしな。多分クロハラ(仮)さんがいたら血の制裁を受けていた。

 某アニメキャラになりきってクールに応えるが、そもそも今オレはそれどころじゃない。

 自分の背中で視線を隠しつつ、首尾よくブラック珈琲を入れる高度な潜入ミッション中なのだ。

 

 こちらスネーク。大佐、『オペレーション:ブラック』について説明してくれ。

 了解した、スネーク。クロハラ(仮)には近付くな。アレは人類の手には余る存在だ。

 分かっているさ、大佐。明日は絶対に彼女に近付かない。約束しよう(フラグ)。

 

 そんなこんなで脳内で一人スネーク劇場で盛り上がっていたおかげか、ミッションは終了。

 無事に彼女のレジ袋の中にブラック珈琲を混ぜることに成功した。本日のノルマ、完了。

 

「では、そういうことで」

 

 片手を上げて爽やかに立ち去ろう。此処から先(スーパー内)は持たざる者が進むべき世界。

 既に溢れんばかりの荷物(きぼう)を抱えた彼女には不似合いな場所だ。じゃあな、車椅子の少女よ。

 

「ちょい待ち」

 

 だが、オレの背に彼女は無粋な言葉を投げかける。最低と罵られようが、返事は決まっている。

 

「断る。コレからオレは(電波さんの生活の知恵を確かめるという)大事な用がある」

「あいたたた… さっきの衝突で身体が痛いわぁ…」

「何でも言ってくれ。オレに出来得る最善を尽くそう」

 

 よわっ!? オレ、よわっ!? ……でもしょうがないじゃないか。

 考えてもみて欲しい。

 ただでさえこちらに非がある状況に加え、彼女の移動手段である車椅子に着目してみよう。

 

 重厚感溢れるメタリックなボディ。あの衝突でもフレーム一つ歪んでいないその強度。

 古来、『戦車一台は騎馬兵十騎、歩兵八十人に相当する』と言われていた。

 間違いなくその流れを汲んでいるだろう彼女の車椅子は、そのまま兵器として転用可能なのだ。

 

 更にはそれを日頃より生活に密接しながら使いこなすことで技量は磨かれ筋力は鍛えられる。

 つまり… 彼女の言うことに逆らおうものならば、「グシャッ」ってことになりかねないのだ。

 こうしてオレは彼女の下僕となり荷物持ち兼車椅子車掌として彼女を家まで送ることになった。

 

 世界は、いつだって… こんなはずじゃないことばっかりだよ!!

 

 ………

 ……

 …

 

 よ、漸く… 彼女の家とやらに到着した。

 安西先生、仕事しろよ… なんで試合終了(ゲームセット)させてくれねぇんだよ。死ぬじゃん、オレが。

 あ、ごめんなさい。調子に乗ってました、ホワイトヘアードデビルは勘弁してください。

 

 彼女の家の玄関奥に、荷物を置く。……オレの買い物(たたかい)はコレからだ。急ぎ戻らねば、戦場(スーパー)に。

 しかし、彼女はとんでもないことを口に出してきた。

 

「ええやん。ご飯くらい私が作ったげるから寄ってき」

 

 年頃の女の子として限りなくNGな発言だ。

 確かに彼女は美少女だが… たったそれだけで頷くほど悠人少年は安い人間ではない!

 ……あ、オレはとにかく食パンのことで頭が一杯です。粗塩鮭や海苔も気になる。

 

 それから“両親もおれへんから大丈夫”とかほざきだした彼女をなんとか説得した。

 ご両親不在で寂しい気持ちは理解したが、そういう言い方もアウトだからね?

 男は狼だからね? 昨今ロリコン多いし悠人少年じゃないと人生終わってたかもしれんからね?

 

 確かにご両親がおらずに、ウチに負けず劣らず大きなこの家に独りぼっちは寂しかろう。

 後ろ髪を引かれる思いはオレとてある。だが、彼女に対しオレはご両親の代わりにはなれない。

 それに、彼女はただ守られるだけの弱い存在では決してない。

 

 彼女がご両親のことを乗り越え、それでもなお悠人少年を必要とするのならば…

 そうだな、“友達”にくらいはなってもいいだろうさ。……アドレス帳の空白も寂しいしね。

 

「一度目はただの出会い。二度目の今日はただの偶然。三度続けて初めて必然となる」

 

 だから今日のところは帰らせてください。早く、早くしないとタイムセールが始まってしまう!

 

「……前に()うた時のこと、覚えてへんの?」

 

 あばばばばばば…! この子もひょっとして顔見知りだったんか!?

 だだだだだだだ大丈夫だ! まだ慌てる時間じゃねぇ! ここは誤魔化そう、そうしよう!!

 

「そんな昔のことは忘れたさ」

「……まぁ、ええわ。次に()うたら招待は受けるんやな?」

「そんな先のことは分からないさ」

「ちょ! ()うてることがさっきとちゃうやん!?」

 

 わはは! 何この子、面白い。クロハラ(仮)さんとは違った独特のテンポでノッてくれる。

 

「会えるさ」

「へっ?」

「互いに縁があったらな」

 

 そう言って外に出てから、玄関を閉める。面白い子だったので思わず言っちゃったぜ。

 招待云々に関しては最後まで言質を取らせないことに成功した。

 コレはオレの問題じゃない。彼女自身の問題なのだから。そう思い、オレは歩いて行った。

 

 ……スーパーではタイムセールが始まっていた。

 今日も悠人少年の貧弱ボディは主婦という名の地獄の悪鬼たちに蹂躙されるのであった。

 

 オレの身体はボドボドだぁ!!




次回はこの二つの出会いにおけるはやてさん視点からの話を予定しております。

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