オレを踏み台にしたぁ!?   作:(╹◡╹)

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前の席の人が視界を塞いでいると授業って困りますよね。


少年の席替え

 ――ガラッ

 

 休み時間にざわめく教室のドアを開き、中の様子を確認する。……いた。ここが目的地だ。

 名無しの少年やクロハラ(仮)さんを始めとする三人娘の姿を確認し、安堵する。

 

 ふぅ、漸く目的地に到着したぜ。到着と同時にざわめきが消えるのは織り込み済みさ!

 此処に辿り着くまでに突入し、ざわめきを消してしまった他のクラスの皆さん、ゴメンね。

 オレは悠人少年本人じゃないから、休み時間を狙って確認するしか出来なかったんだ。

 

 さて、オレの… もとい悠人少年の席は何処かなぁ?

 グルリと教室を見渡すと、気付きたくなかったとんでもないモノが視界に収まる。

 むしろ収まりきれなかった。

 

 ……なんで聖帝十字陵(っぽいもの)が教室に鎮座してるの?

 え? 何アレ? 何かのオブジェ? ……だよね? 上にある玉座っぽいのは飾りだよね?

 

 救いを求めるために教室を見渡す。アレは悠人少年の席なんかじゃない筈だ。

 名無しの少年はこちらの様子をうかがったまま、黙って見返してくるだけ。

 

 クロハラ(仮)さんはなんかガルル… って唸っている。流石世界一凶暴なハムスター。

 目が合うだけで流血の危機ってことか。他の2人の少女は名無し少年の後ろに隠れている。

 

 教室入口で腕を組み、途方に暮れる。

 通行の邪魔かもしれないが、下手に動くとあの座席が悠人少年のモノと決定しそうで怖い。

 さて、どうしたものか… そんなコトを考えていたオレに声がかけられる。

 

「どうかなさいましたか?」

 

 っと、この声は先ほど屋上で聞いたような。おお… 眼鏡くん! 眼鏡くんじゃないか!

 心の友となったゴリくん程じゃないにしても、オレともそこそこ会話はしてくれた。

 コレはもはや知り合いと言って差し支えないレベルなのではないだろうか?

 

 彼は色々と物知りっぽいし、聞いてみよう。さっきもゴリくんのコトを教えてくれたしね。

 だが「アレはオレの席ですか?」と聞くのも怖い。悠人少年の心の闇がまた一つ明かされそうで。チキンと言われようが、受け入れたくない現実というものがある。当たり障りなく訊ねよう。

 

「“アレ”についてだが…」

「桜庭様の席がどうかしましたかい?」

「………」

 

 指差し尋ねれば、眼鏡くんより早くゴリくんが答えてくれる。

 天然、いや野生の為せる技か。……さて、認めたくない現実と戦う時間がやって来たようだ。

 やはり悠人少年はイジメられていたのだろう。あのように晒し者になる席を用意されて。

 

 その昔、王がまだ神々の代理人であった頃… 彼らは死後、天へと捧げられたという。

 その祭壇こそがピラミッドであり、王を神の供物として完成させるための儀式だったとか。

 そんな学説を何処かで読んだことがある。

 

 つまり悠人少年は生徒として扱われず、無視され、そして晒し者となっていた恐れがある。

 なんということだ。クッ、児童社会の闇を垣間見た気分になったぜ。

 いや… 諦めるのはまだ早い。あの通学バスの中でもオレたちの心は一つになったじゃないか。

 

 人は変わっていけるのだ。ゴリくんと眼鏡くんがそうであったように。

 オレもみんなも… そして悠人少年だって。

 

 そのためにも、まずは…

 私立聖祥大学付属小学校二年生・悠人=R=桜庭… 世界の歪み(聖帝十字陵)を狙い撃つぜ!

 

「最早アレは不要… 片付けるぞ」

「へへっ、任せて下さいよ!」

 

 正直、手伝って欲しいなって下心もあって声をかけました。

 ゴリくん、ちょっと乱暴だけど体育会系の爽やかさと面倒見の良さを感じさせる人柄だしね。

 ……まぁ、なんちゃってインドア派のオレには合わない部分もあると思うけど。

 

 だけど驚いた。いや、ゴリくんマジで凄いわ。まさかモノの数分で片付けちゃうなんて。

 オレが呆然と見守っている間に、眼鏡くんが用具室から余った机と椅子を運んできてくれた。

 え? 何この阿吽の呼吸。ひょっとしてキミら、生まれた時から親友やってたんじゃね?

 

 ………

 ……

 …

 

 だがしかし、オレは新たな危機に直面している。それは悠人少年の席周辺の配置による。

 教室のほぼ中央に陣取り、前方をクロハラ(仮)さん、左横をキマシタワーの少女。

 そして右横を真っ先にクロハラ(仮)さんを裏切ったちゃっかり系少女に固められていた。

 

 なんてことだ… こんなのあんまりだ。……悠人少年が一体何をしたって言うんだ。

 敵意剥き出しの流血系ハムスター少女と、彼女に負けず劣らずイイ性格してる親友2人。

 この完璧な包囲網は、悠人少年の学校生活に安息の場はなかったことを証明している。

 

 言いたいことも言えないこんな世の中じゃ…

 家に帰ってあんな妄想ノートを書くのも無理はない! あ、いや、やっぱりアレはないわ。

 

 とはいえ、コレでは彼が中々帰ってきたがらないのも無理はない。

 ここは彼の身体を一時とはいえ間借りしている中の人として、行動を起こすべき時だろう。

 グルリと教室を見渡し、目的の人物を探す… いた!

 

 あの名無し少年め… 窓際最後尾なんていう主人公席をちゃっかり占領しやがって!

 なんとか彼と交渉して席を交換してもらうのだ。

 お世話になったゴリくんと眼鏡くんには流石にコレ以上迷惑はかけられん。

 

 そもそも名無し少年はバスでもクロハラ(仮)さんらとそれなりに親交がある様子だった。

 手に持った交渉アイテムは… オレの頼もしい相棒・ブラック珈琲。心の底から手放したい。

 コレを渡す代わりに席を交換してもらうようにお願いするのだ! 最悪土下座してでも!

 

 ――カツカツカツ…

 

 上履きを鳴らして近付くオレに気付いた名無し少年が、不審げに見詰めてくる。だが遅い。

 

 ――トンッ

 

 彼の机の上に、ブラック珈琲を置く。

 必要ならば相手より先にジョーカーを切ってでも話を進める… それがオレなりの交渉術だ。

 うん、ジョーカーでもなんでもないけどね。ただの不良在庫だけどね。

 

「……何だ、コレは?」

「見て分からないか? 缶珈琲というモノだ。種類はブラック。銘柄も説明した方がいいかな?」

 

 大袈裟に肩を竦め、分かり切ったことを説明する。

 大丈夫だ。彼はまだ動かない。時に腕力を振るうことも辞さぬ構えを見せるクロハラ(仮)さんとは違い、彼は言葉の応酬には可能な限り言葉で応えようとする。元来の性格が素直なのだろう。

 

「そんなコトは分かってる! どういうつもりだって聞いているんだッ!」

「“コレ”で席を交換してもらう」

「はぁ!?」

 

 すまないな… 名無しの少年。その素直さを突かせてもらう。悪い(元)大人に捕まったな。

 

「手早く移動を始めろ。席ごと移動でも、荷物だけの移動でも… その辺は任せよう」

「ちょ、ちょっと待て! 勝手に話を進めるんじゃねぇ!!」

 

 チッ、話を進めて既成事実化したかったというのに。ゴリくんと眼鏡くんの手際を見習えよ!

 だからオマエはいつまで経ってもオレの中で名無しの少年なんだ。この名無し野郎!

 嘘です、ごめんなさい。だから拳を握りしめて睨みつけてこないで。謝りますから、心の中で!

 

「では、嫌だというのか?」

「……あぁ、何を企んでいるのか知らないがオマエの指図には従えない」

 

 強い意志で睨みつけてくる。っ! そうか… そういうことだったのか。

 まさかこの少年も… クロハラ(仮)さんの被害者だったとは。

 彼女の恐ろしさを知るがゆえにこの取引に応じられない。そういうことだったんだな?

 

 そうとも知らずにオレは、なんてことを… だが、それでもオレは譲れんのだ。

 オレだけじゃない… いつか悠人少年が戻ってきた時のためを思い、心を鬼にする。

 そう… オレは今、自分以外の者の(胃壁的なサムシングの)命を背負っているのだから!

 

 目的成就のためならば、例え卑怯と誹られようともッ!!

 

「そうか、残念だ。……だが、一つだけ確認しておきたい」

「………」

「なに、簡単な質問だ。“温かい家庭でホットミルクでも飲むように落ち着いて”聞いてくれ」

「……なんだよ」

 

 オレは今から残酷なことをする。

 そう… この教室内、“彼女たち”も間違いなく聞き耳を立てている。

 だからこそ、口にする。

 

「ソコまで嫌なのか? ――彼女たちの席と隣り合うコトが」

「なっ! テメェ…」

「座れ… 警告は一度だ。次立てば、席を放棄したと見做す。オマエの言い分に関係なく、な」

 

 すまない… すまない、名無し少年。

 彼女たちにも聞かれている現状でキミも本音を言うことなど出来ないだろう。

 自分が最低のコトをしているというのは自覚している。

 

 だが、それでも止まることはできんのだッ!!

 

「ぐっ… それでも、だ。そもそもオマエの提案に乗る“理由”なんてない」

「ほう… “理由”と(さえず)るか」

「そうだ。オマエ自身もバスの中で言っていたよな? “道理”がなければ従えないって」

「自分の言葉だ。無論、覚えている」

「だったら…ッ!」

 

 ソコまで口に出して、彼は言葉を飲み込む。だが、もう遅い。コレこそがオレが望んだ状況!

 

「……“ある”と言ったら?」

「なん… だと…」

「“理由ならある”と言ったのだ。……それも、3つもな」

「な… 3つッ!?」

 

 思わず口を開ける彼に構わず一気に畳み込む。ここが勝負どころだ!

 

「まず1つ… オマエはオレに借りがある」

「借り、だと?」

「……この紙束を覚えているな?」

 

 プリント類を鞄から取り出し見せつける。地味に重いぞ。腕がしんどいわ、畜生!

 

「あ、あぁ… だがソレを届けたのは俺で」

「……最初からこの紙束はここまで皺だらけだったのだろうかな?」

「ぐっ!?」

「付け加えれば、オレはこれを“誰かの不手際で昨日貰えなかった”と記憶しているが?」

「ぐぬっ!?」

「あぁ、そうそう… 何故か“昨日より以前に発行された紙も混ざっていた”が…」

「ぐぬぬぬ…」

「まぁ、コレは些細な問題だろう。続いて二つ目の理由だ」

 

 紙束を鞄にしまう。ふー… 重くてかさばって邪魔くさかった。

 さて、二つ目はもっと簡単だ。

 悠人少年の容貌をあげつらうことになるため、余り利用はしたくないが… 状況が状況だ。

 

「彼女たちにとっては、オレよりもオマエが隣だった方がマシだろう」

「……なに?」

「いや、むしろ喜ぶのではないかな?」

 

 チラッと3人の方を見るが、否定する様子はない。

 ……なんか、顔赤らめてモジモジしてるけど。なんだろ? 花粉症かな? この季節だし。

 まぁ、通ったと考えて先に進めよう。こういうのは勢いが大事だ!

 

「三つ目… 取引に応じれば、このブラック珈琲が貰えるぞ?」

「いや、要らないけど」

 

 一刀両断に切り伏せられた。

 ……うん、そりゃそうだよね。オレも要らないよ。こんな不良在庫。だが受け取って貰おう!

 

「なるほど… やはり“お子様”だ」

「なにッ!?」

 

 嘲るように笑みを浮かべれば簡単に乗ってくれる。ここからはイチャモンと屁理屈の世界だ。

 それが正しいかどうかなど関係ない。ただ、“正しい”と信じこませてやれば良いのだ。

 

「珈琲の一つも飲めない子供だからこそ、すぐに冷静さを見失う」

「そんなの… 関係ないだろ」

「どうかな? 少なくとも根拠はあるぞ。カフェインには覚醒効果がある」

「覚醒効果だって?」

「集中力を高め、視野を広げる効果だ。……それが足りず苦杯を舐めた経験があるのでは?」

 

 思うところがあるのか、押し黙る。あとは勢いで押し切るのみ。

 ブラック珈琲を押し付け、オレは宣言する。

 

「話は以上だ。……まさか4つ目の理由を寄越せ、などとは言うまいな?」

「………」

 

 無言で項垂れる名無しの少年。すまない、本当にすまない。

 キミに恨みは… まぁ、程々にしかなかったが。キミの座っている席が良すぎたのだよ。

 さて、引っ越しの準備をするか。そう思っていたところ、いきなり声がかけられる。

 

「桜庭さん、既に準備は整っております」

 

 うわ、ビックリした。さっきといい背中からいきなり声をかけてこないでよ、眼鏡くん。

 って、なに? もう引っ越し終わっちゃったの? わぉ、眼鏡くんマジ優秀。

 

 三人娘もガッツポーズしてるし… ちょっとは隠そうよ。傷付いちまうぜ、主にこのオレが。

 でも、彼女たちが参戦したら不味かっただろうな~。ま、結果オーライってヤツだな。

 ハッハッハッ、では名無しの少年よ。すまないが、悠人少年とオレのために犠牲になってくれ!

 

 内心でスキップしながら席につき、授業が開始されて思った。

 ……あれ? 三人娘と名無し少年、席が近すぎね? てか、くっついてね?

 クロハラ(仮)さん、それって黒板に背中向けてませんかね?

 

 後ろに目がついてる系女子なの? ゴルゴなの?

 

 あ、ちなみにオレの前の席はゴリくんでした。

 ……頼りがいのある(おとこ)の背中以外に何も見えねぇよ。

 誰だよ、此処のことを主人公席とか言ったヤツ。

 

 もし見つけたら小一時間くらい説教してやる。




割りと難産な回でした。
やりたいことが纏まってない状況にありがちな光景に思えてきます。
文字数ばかりがダラダラと増えていったかもしれません。

自分なりの速度とクオリティ、どちらかを択一する時が迫ってきたのかもしれませんね。

ご意見ご感想、誤字脱字の指摘等がありましたらお気軽にお願いします。

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