オレを踏み台にしたぁ!?   作:(╹◡╹)

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昼に11話が出てたな… ありゃ嘘だ。

というくらいに全面改稿しました。申し訳ありません。


少年とゴリと眼鏡

 ――ガチャッ

 

 扉を開け、慎重に左右を確認する。ヤツの姿は見えない。

 

「……いない、か」

 

 どうやら漸く振り切ったようだ。……長く苦しい戦いであった。

 

 気分悪いのにしつこく話しかけられ、声を絞り出してなんとか用件を聞き出せば席を譲れ。

 どこのジャイアニズム宣言かと思ったね。これが学級崩壊というヤツなのだろうか。

 

 あと名無し少年、自然に混ざろうとしてくんな。二対一とか泣いちゃうだろ。主にオレが。

 あかん。窓の外の景色でも眺めて気を落ち着けよう。答えはNOです。今日は無理なんです。

 

 だが少女は納得しない。当然だろう。男のオレが断固として席を譲らない構えを見せたのだ。

 勿論オレも席を譲れない。リバースの危機だ、徹底抗戦の構えをとるしかない。腕力以外で。

 

 あの少女はおそらく頭の回転が早く、責任感が強い。高い能力に裏打ちされた自信も覗える。

 まぁ、真正面から戦えばオレに勝てる要素なんて皆無。で、彼女は正攻法が大好きと見た。

 戦えば負けるなら、逃げ回るしかないじゃない! 貴方も… 私も! ……貴方って誰だろ。

 

 なんだっていいか。そう… オレが狙うのは、時間切れ(タイムアップ)唯一つ。

 勝利条件なんて決まりきってる。「学校に到着するまで席に座り続けること」なのだから。

 

 結論から言うと、彼女… いや彼女たちとの会話は想像以上に楽しかった。

 彼女の連れ合いの少女2人組も、緊急エキストラに任命した名無し少年もノリが抜群。

 最終的にはバスの生徒全員を巻き込んで大いに盛り上がったね。

 

 彼女はオレの想像以上の頭の良さを発揮した。いや、ホント頭の良い子との会話って楽だわ。

 こっちが適当に喋ったことを勝手に察してくれて、オレ以上の回答を導き出してくれるし。

 そして天性の華があるのか周囲の人間を引き込んでくれる。オレ? オレはゆっくり休んだ。

 

 そんな彼女の輝きが最高潮に達した時、無残に試合終了のホイッスルが鳴った。

 

 すまない、少女よ。もうちょっと話していたいと思ったのは内緒だ。

 それに少しだけ安心もした。

 もしかしたら何があっても悠人少年は無視されるのかもしれない… オレはそう思っていた。

 

 しかし彼女が動いてくれたからこそ、最終的に皆と一緒のこの時間を過ごすことができた。

 

 いや、あの頭の良い少女のこと… きっとこの結果すらも計算通りだったのだろう。

 このオレとしたことが、どうやらまんまと踊らされちまったようだ。

 試合に勝って勝負に負ける… というヤツか。だが、こんな清々しい敗北ならば大歓迎だ。

 

 そう思いながらクールに去ると、あらゆる障害物を蹴散らし、猛スピードで追走してきた。

 しかも悪鬼のような表情で。今後、彼女のことは脳内でクロハラハムスターと呼ぼうと思う。

 くそぅ… ちょっとばかり鍛錬の件を考え直そうかな? って思ってしまったじゃないか。

 

 え? クロハラハムスターとやらが何か教えて欲しいって? 仕方ない仔猫ちゃんだぜ。

 だが今オレはちょっと忙しい。だからオレのベストフレンドのGoogleに聞いてやってくれ!

 ヤツならキミに手取り足取り優しく耳元で囁きかけるように全てを教えてくれるはずだ。

 

 あ、その結果なんらかの夢が壊されてもオレは一切関知しませんので。真実は時に残酷なのだ。

 

 改めて周囲の様子を確認しよう。澄み渡る青空。少し肌寒いが仄かな暖かさも感じる風。

 お分かりいただけただろうか? 即ちここは学校の中で最も天に近い場所、屋上だ。

 迷ったんじゃないぞ。コレは、そう… 見慣れぬ場所の安全性を確かめるための探索行為さ。

 

「舐めたこと言ってんじゃねぇぞ、オラァ!」

 

 ひっ! す、すんませんでしたぁ!(土下座)

 こんなところで野生のさとりんにエンカウントするなんて思わなかったんですぅ!

 無口クールな厭世系男子を演じてても心だけは、心だけは自由だと思い上がってましたぁ!

 

――ドガァッ!

 

「うぐっ…」

 

 あれ? このうめき声オレのじゃないし、そもそも殴られた形跡だってないぞ?

 いや、なんか少し離れた場所から聞こえてきたような… あっ、あそこか!

 

 見ると、何故かオレと同じ小学校の制服を着た180cmくらいの巨漢が、オレと同じくらいの体格の少年を殴りつけていた。……え? 何アレ、怖い。なんで大人が小学生の服を着てるの?

 

 げ、しかも目が合った。眼鏡の少年が絶望的な表情をする。見捨てられると思ったのだろう。

 まぁ、その認識は限りなく正しい。オレだって目が合わなければ正直退散したかった。

 だがこの身は、世界に裏切られながらも愛を断ち切れなかった不器用な悠人少年のモノなのだ。

 

 非常に遺憾だが、逃げるという選択肢はないだろう。

 最悪、こっちが殴られてる隙に眼鏡の少年だけでも逃げられるように持って行こうか。

 貧弱な少年・悠人=R=桜庭… 口先介入するッ!!

 

 ………

 ……

 …

 

 なんか話せば分かってくれました。180cm超のゴリくんはなんと同級生だったのだ。

 彼は悠人少年のコトを非常に尊敬している様子だった。……それも頷ける話だ。

 無口クールな厭世系男子に銀髪オッドアイというハンディを背負いつつ日々を生きている。

 

 そんな悠人少年は、同じく小学生離れしたゴリくんにとって憧れの存在だったのだろうな。

 うん。「で… 俺小学生だけどどうする?」って出来るイケメンじゃないもんな、ゴリくん。

 脛毛溢れてるし、少女漫画とは違う現実の非情さを教えてくれる。アニメじゃない(確信)。

 

 手は壊すだけじゃなくて色んなコトに使えるよ、とか、作るために使うのは壊すよりも優れているけれど、最も大事なのは自分だけができることを探すことだぜベイベ、とか色々語っちゃった。

 少し調子に乗っちゃったかな。恥ずかしいぜ。

 

 そんなオレに対し元いじめられっ子にしてゴリくんと和解を果たした眼鏡くんが尋ねてくる。

 

「あなたは… 一体何者なんです? 今まで僕が知っていた桜庭さんとは全く違って見える」

 

 あばばばばばばばばばばば…! ナンテコッタイ! 調子に乗った結果がコレだよ!

 おおおおおおおおおおおお落ち着け。まだ慌てるような時間じゃないですよね? 仙道さん。

 あっ、ちょっと顔を背けないで! お願い、プリーズ! 時間は待ってくれないのよ!?

 

「答えてください… 桜庭さん」

 

 くっ、逃げ道は… あかん。ゴリくんが期待に満ちた眼差しでこっちを見詰めている。

 答え方間違えたらミンチになってしまう。諦めて本当のことを告げよう。

 但し、内緒にしてもらうのを忘れずに。そっと人差し指を唇に当て、掠れた声で真実を告げる。

 

「確かに別人とも言えるかもしれん。……オレは、あくまで仮住まいだが」

 

 本当の家主は悠人少年だからね! そこんところ忘れないようにね!

 オレはそう… 一時ここに止まっただけの渡り鳥のような存在。

 だからオレを殴れば悠人少年も無事じゃすまないからな! ほ、本気だからな!

 

 反応を確かめる勇気などあるわけがない。そのまま踵を返し、屋上を後にする。

 さっさと悠人少年の教室を探さないと(使命感)。




作者「さて、次回のタイトルは“ゴリと眼鏡と悪のカリスマ”! 中の人は一体どんな勘違いをし、されたのか!?」
中の人「うわーい、さっぱり分かんねー(棒)」


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