フルメタルWパニック!!   作:K-15

48 / 51
第2∋ 縺J枚蟄6′豁」ぬ励¥陦ィ

両腕にバラの花束を抱えた少年は陣代高校の敷地内へと侵入する。

今は昼休みも終わって午後の授業が始まったばかり。

何気なしに窓の外を見たかなめにもその姿がポツンと見える。

 

(誰だろ。バラ……?)

 

少年はそのまま真っ直ぐ校舎へと進み、生徒達が使う玄関口から中へと入る。

下駄箱を通り過ぎ靴を履いた土足のままで廊下の上を数歩進むと、職員室から美術教師の水星がやって来た。

所々に絵の具が付いた白衣を纏い、ウェーブの掛かったボザボサのセミロングの髪の毛、教職員や生徒からはエキセントリックな教師と呼ばれてる。

彼はバラの花束を持つ少年に目をつけると止まるように声を掛けた。

 

「ちょっとキミ。用事があるなら窓口から軽く書類を書いて貰わないとダメなんだ。それとぉ~」

 

水星は足元を見て人差し指を突き出す。

 

「ココは土足厳禁だ。それくらいは言われなくてもわかって欲しいモノだ。ゆとり教育が導入され10年あまり。生徒達の学力、知識力は果たして上がったのか? 上を目指す生徒は予備校や塾通いで学校での授業を休憩時間のように扱う。そうでない生徒は休みが増えたとばかりに遊び呆ける!! これで政府の政策は上手く行ったと言えるのか? 我々教師は上からはゆとりを与えよ、保護者からは効率、能率の良い勉強、生徒は未来に夢も希望もないと言う。これで――」

 

既に少年の事など視界に入って居らず、早口で持論をまくし立てる水星。

少年はそんな彼を置いて土足のまま校舎内を歩いて行く。

ゆっくりと、確実に目標へ迫る。

遠くから教師のくぐもった声が聞こえて来る以外は廊下に音は一切ない。

2階へ続く階段を登り微かな足音が静まり返る校舎内に響く。

一定のテンポで、階段を登り終え2階へ到着した彼は、また廊下をゆっくり歩き始め目的の場所に向かう。

 

「よぉし、問5の答えがコレだな。αとβを2解とする2次方程式は――」

 

数学教師の声が廊下にまで聞こえる。

でも全く視線を向ける事もなく無視して、少年は更に奥へ進む。

その途中で気が付いた生徒はチラリと彼の方を見るがそれだけで終わってしまう。

向かう先は2年4組の教室。

中では担任の神楽坂が英語の授業をやって居る。

殆どの生徒は真面目に話を聞きながら黒板に書かれた文字をノートへ書き写す。

 

(受験英語って本当に面倒なのよね~。ニューヨークに住んでる人にこの問題解かせてもわかるかどうか。お父さんの仕事の関係で何年かアメリカに居たお陰で英語は喋れるから、他の人と比べたらアドバンテージはあるんだけど。如何せん暫く英語なんて使ってないからあやふやな部分が。あぁ~、センター試験が終わるまでと思えば頑張らなきゃいけないけど、肩が凝って来るわ)

 

授業を受けながらも心の中で愚痴をこぼすかなめ。

けれどもそこへ、微かだが足音が聞こえた。

教室に居る生徒は皆、その音に聞き耳を立てる。

 

「足音……近づいて来る」

 

足音は扉の前で止まる。

そして全員が見守る中で扉は開かれた。

かなめの視界に映るのは両腕にバラの花束を抱えた背の低い少年。

年齢は自分と同じように見えるが、鋭い眼光からはその雰囲気を感じさせない。

 

「ちょっと誰ですか!! 授業中ですよ。部外者の人は――」

 

白いチョークを黒板へ置いた神楽坂は突然現れた彼に向かって注意を促す。

だが全く言葉は届いて居らず、少年は教室の中を見渡した。

瞬間、かなめの心臓が激しく高鳴る。

 

(な……何!? この人は……誰?)

 

互いの視線が交差する。

かなめは目を反らす事も出来ず、固くなる体は次第に震えて来た。

握るシャープペンシルもガタガタと震え、白いノートにデタラメな線を書く。

少年はバラを抱えたままかなめの元へ歩く。

もの凄くゆっくりと動いてるように脳が錯覚する。

体中の神経が研ぎ澄まされ、彼の行動ひとつひとつがハッキリと見えた。

近づいて来る、確実に。

 

(何なの……この人……)

 

抱えたバラを無造作に床へ撒き散らしながら歩く少年。

そして全てが捨てられると、中から見えて来るのは無骨な鉄の塊。

彼は慣れた手付きでショットガンを手に取るとポンプアクションを作動させいつでも撃てる状態にセットする。

黒光りするソレはかなめを照準に収めると頭部に向けられた。

 

「千鳥かなめ。お前を殺す」

 

「え……」

 

トリガーに掛けられる指。

ほんの少し力を入れるだけ、次の瞬間にはかなめの頭部は圧倒的な暴力の前に吹き飛ばされてしまう。

けれども人間、想像もしてない出来事に素早く反応は出来ず呆然と目の前の少年の事を見るしか出来ない。

 

「逃げろっ!!」

 

トリガーは引かれた。

甲高い銃声に目を塞がせるマズルフラッシュ。

体を動かす事が出来ないかなめの頭上を弾丸が通り過ぎて行く。

 

「さ……相楽君?」

 

気が付いた時にはかなめを守るように覆い被さる宗助と、振り返った先には銃弾により負傷した同級生が脚から血を流しながら床に這いつくばる。

 

「に、逃げるんだ。千鳥さん」

 

「う……うん。でも菊池君が……」

 

「良いから走るんだ!!」

 

ショットガンのポンピングアクションの音が鳴ると空になった薬莢が乾いた音を立てて床へ落ちる。

第2射も数秒後。

宗助に抱えられながら立ち上がり、フラフラと力のない足取りで教室の中から出ようとする。

でもそれは他の生徒も同じだ。

割れんばかりの絶叫が鳴り響き生徒達は我先にと教室の中から逃げ出して行く。

椅子や机をなぎ倒し全速力で走る。

 

「キャァァァッ!!」

 

「何やってんだ!! さっさと逃げろ!!」

 

「急いで警察に!? 他の先生にも言わないと!!」

 

「痛いっ!! あぁァァァっ!! 痛いイタイイタイッ!!」

 

混沌は瞬く間に学校中に広がり隣に教室に居る生徒達も一緒になって外へ逃げ出す。

狙われたかなめとソレを助けた宗助も立ち上がりこの場から去ろうとする。

だがショットガンのポンピングアクションの音が聞こえると空になった薬莢が床へ落ちた。

乾いた音が響く。

ショットガンを握る少年はかなめを逃がすつもりはない。

宗助に抱えられながら移動するかなめに容赦なく銃口を向ける。

正確な照準は彼女の頭部に定められ、トリガーに掛けられた人差し指はためらいなく引かれた。

甲高い銃声とマズルフラッシュ。

 

「キャアッ!!」

 

「ぐぅっ!?」

 

かなめは満足に動かせない体でつまずいてしまい宗助も一緒になって前のめりになりながら倒れてしまう。

そのお陰で銃弾は2人の頭上を通り過ぎ廊下側の窓ガラスが音を立てて割れる。

 

「立って。千鳥さん、立って!!」

 

(死ぬ……殺される!! 本気で殺しに来る!? 映画とかじゃない、夢でもない。このままだと本当に……)

 

また空になった薬莢が床へ落とされる。

銃を握る少年は冷酷な視線を向けながら独り言のように呟いた。

 

「俺が望む未来はココにはない……」

 

宗助に無理やり起こされたかなめは少年の殺意から逃れるべく走った。

どうしてこの様な状況になってるのかなど気にする暇はない。

雑念を捨て、兎に角生き延びる為に逃げなくては彼に殺される。

だから前に向かって走った。

後ろを振り向く余裕などない。

走らなくては、進まなくては生きる事が出来ないから。

 

「はぁ、はぁ、はぁっ!!」

 

「あの男は何なんだ? また撃ってくる!!」

 

隣で走る宗助に手を引かれ階段を下る為に曲がる。

銃声が響く。

弾丸は突き当りの化学室の扉をズタボロに破壊する。

またも間一髪で難を逃れるかなめ。

階段を2段飛ばしで下りると外へ続く玄関に向かってまた走る。

 

(アイツ、こんな事するなんてテロリスト? 普通じゃない!! 折角お父さんの出張から日本に帰って来た所なのに!! こんな事ならまだニューヨークに居た方がマシだった)

 

現実逃避する事で何とか少しでも冷静さを取り戻す。

廊下を走り抜けた先、開放された玄関口から光が差し込む。

 

「もうすぐ出口よ!! さがら――」

 

ようやく生き延びる為の希望の光が見えたと思った矢先、かなめの手を引く宗助の体が崩れ落ちた。

口から辛うじて酸素を取り込み、激痛が走る体の痛みを何とかして堪える。

額からは脂汗が無数に浮き上がり、力なく廊下に横たわる宗助。

 

「え……」

 

その左肩と脇腹からは大量の血が滲み出し、黒い学ランを濡らすと共に白い廊下のタイルを真っ赤に染める。

流れだす血は止まる事なく確実に宗助の体力を奪う。

このまま治療するのが遅れてしまえば出血多量で死ぬ可能性も充分にある。

けれども彼女にはどうする事も出来ない。

何をすれば良いのかも頭が回らず、声を掛ける事すら忘れてしまい、それでも生きようとする生存本能は自分を殺そうと追って来る少年の足音を確かに拾った。

 

(っ!! 来る……もうダメなの? どうしてこんな事に? イヤ……嫌!!)

 

目を閉じ、耳を塞ぎ、心を閉ざす。

世界は変わる、彼女が望むままに。

 

『世界は元へ戻る。本来の在るべき世界へ。アナタが望む世界へ。想像して、イメージして。理想の世界を。アナタの思いが新たな世界を構築させる』

 

頭の中から聞こえる声の通りに想像する。

心が安らぎ恐怖も消えて行く。

かなめが想像する世界へとオムニスフィアはそのエネルギーを集結させる。

 

『ニャァ~』

 

「サムの鳴き声?」

 

ふと、家に居る筈のサムの鳴き声が聞こえた。

そして思わずかなめは目を開けてしまう。

歪んだ景色の向こうに居るのはペットとして家で飼ってる『サム』ではなく、鉄の部品で構成されたネコ型ロボット。

サムは音も立てずに血を流す宗助の元へ歩み寄ると頭の上に飛び乗った。

 

「サム……?」

 

『Zoning and Emotional Range Omitted System』

 

機械音声が流れる。

それと同時に宗介の意識も覚醒した。

 

///

 

立ち尽くすベリアルと横たわるレーバテイン。

どちらも動く気配はなく、変わり始めた世界の歪みに飲み込まれつつあった。

その中でレーバテインのコクピットに忍び込んでたサムは意識を失った宗介の膝の上に座る。

AIのアルだけはまだ動く事が出来るがそれも風前の灯。

砂嵐の交じる音声で何とかサムと交信する。

 

『ぐん――をた――』

 

サムは意図を理解したのかヘッドレストを装着した宗介の頭部へ飛び乗る。

ゴーグルから出る赤い光は不気味な輝きを放つ。

 

///

 

傷を負いながらも宗介は力強い視線で隣に立つかなめを見る。

目に映る彼女は確かに千鳥かなめだが中身は違う。

 

「千鳥……俺はまだ現実を生きるぞ」

 

「相楽……くん?」

 

「違う。お前は千鳥ではない!! 彼女はこんな弱い人間ではない!!」

 

「何言ってるの? あたしはあたしよ。千鳥かなめ、アナタだってよく知ってるでしょ。このままだと出血多量で死ぬわよ。死にたくないでしょ? だったら――」

 

「黙れっ!!」

 

「っ!?」

 

全力で、腹の底から出した怒声。

余りの迫力に一瞬だけたじろぐかなめ。

宗介が見てるのはもう、かなめの姿ではない。

 

「お前はソフィアだ。彼女の体に取り付いただけに過ぎない。本物の千鳥はもっと強い女だ!!」

 

「ソフィア? あたしは――」

 

「貴様と話すつもりはない!! 俺は彼女を、千鳥かなめを助ける為にここまで来た。貴様のようなアバズレは邪魔だ!! お前もお前だ、千鳥!! 恋愛映画みたいに男に助けを乞うつもりか? お前はそんな情けない女か? 俺はそんな女に引かれたりなどしない!!」

 

「そう……すけ……」

 

「1年掛かってようやく自分の気持ちがわかったんだ。キミをそんな女に渡しはしない。ヒイロ・ユイにもだ。もうミスリルもアマルガムも関係ない。俺は俺自身の意思でキミを選んだ。例えこの世界が失くなろうともこれだけは言うぞ」

 

空間が歪む、世界が改変される。

血を流し動けない宗介をかなめは只見つめるしか出来ない。

そして彼女を殺そうとしたヒイロも今は銃口を下げて2人の行方を見た。

 

「宗介、やるのなら早くやれ」

 

「わ、わかっては居るが準備と言うモノが。任務とはどうも勝手が違う」

 

「良いからさっさと終わらせろ。時間がない」

 

「わかっている!! お前に言われるまでもない!!」

 

「わかっているのならやれ。ゼロシステムもこれ以上は保たない」

 

「ヒイロ・ユイ、この機会に言っておく。確かにお前のお陰で幻覚から抜け出す事が出来たが千鳥を殺すと言う選択肢は納得出来ん」

 

「それが1番確実な方法だっただけだ」

 

「貴様は――」

 

似合わずに表情を赤面させる宗介とそれを急かすヒイロ。

だと思ったら向かい合って喧嘩に発展してしまう。

その風景を見て居て足りないモノ、足りない人。

深層意識の中でフツフツ湧き上がる感情は彼女の精神を押し退ける。

理想的な世界、辛い現実。

けれども彼女の心は挫ける事なく辛い現実を選んだ。

 

「待って!!」

 

「千鳥……」

 

「ようやく会えた。だから……少し勇気が出た。その言葉は後にして。決着は自分で付ける」

 

「わかった。先に戻って待ってるぞ」

 

言うとかなめの目の前から宗介の姿が少しずつ消えてしまう。

隣に立つヒイロもまた、姿が段々を消えて行く。

 

「かなめ。失敗は許されない」

 

「わかってる。ビシッと決めて来るから。だから……生きてまた会おう。約束よ」

 

「あぁ、お前なら出来る筈だ」

 

言うとヒイロの姿も歪が広がる空間の中へ消えて行く。

1人取り残されたかなめだがやる事はわかってる。

そしてそれは自分にしか出来ない。

振り向いた先にはもう1人の自分。

 

「アナタともようやく会えたわね。ソフィア」

 

『どうして……どうして!! 現実の世界なんで醜いだけなのに!!』

 

「それでもアタシはあの世界に居たい。レナードやアンタからみたらグチャグチャな世界かもしれないけど、アタシはあの世界が……あの世界の宗介でないとダメなの。不器用で、ぶっきらぼうで、常識もわからない戦争馬鹿だけど、それでもアイツが良いの。そう決めたから」

 

『あたしとアナタの力を使えば世界は自由に構築出来る。あの男だってアナタの理想通りに変える事が出来るのに!! 何が不満なの!!』

 

「不満だらけよ。あんな世界、アタシは絶対に望まない。死んだお母さんはもう2度と戻って来ない。寂しくないって言ったら嘘になるけど、今のアタシには他にも大勢待っててくれる人達が居る」

 

『だから諦めろって? だから我慢しろって? あんな下衆どもに体をいじられて苦しみながら死んだあたしはどうなるのよ!! アンタが良くても……いいえ、世界の改変を望む人は他にも居る。たった1人のせいでそれが出来なくなる!! 理想の世界、本来の世界、未来!! それをアンタは捨てるって言うの? だったらアタシ1人でもやるから。この段階にまで来ればオムニスフィアの充填率も充分。また世界を構築し直せば良いだけ』

 

「それは出来ない。だって――」

 

飲み込まれた精神を取り戻した彼女も自らの本当の体を使って生き延びる為に戦う。

それが相良宗介と1年間一緒に居てわかった事だ。

 

(アタシ達が絶対に止めるから。ヒイロ君、宗介!!)

 

///

 

改変された世界とゼロシステムのフィードバックから意識を戻したヒイロ。

操縦桿を握り締めゆっくりとまぶたを開ける。

戦闘画面に映るのは光の届かぬ深海の闇。

 

「機体損傷率は致命的だ。恐らく次の戦闘が最後になる」

 

操縦桿を動かしペダルを踏み込む。

再びツインアイに光を取り戻したガンダムはゆっくりと立ち上がり、ボロボロになった翼を広げる。

メインスラスターから炎が噴出され蒸発した海水から大量の酸素が湧き上がった。

残された武器は右手に握るバスターライフルのみ。

初めは9発あったカートリッジも残り3発。

 

「残弾は残り3つ。最後のカートリッジの使い道が決まった」

 

ヒイロはそれだけ確認するとペダルを更に強く踏み込んだ。

満身創痍のガンダムは深い水底から空に目掛けて飛び立つ。




ご意見、ご感想お待ちしております。
次回6月3日

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。