フルメタルWパニック!!   作:K-15

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第45話 コードZ.E.R.O

白いエリゴールの両肩と両足には追加装備がなされており、強力なスラスターが空中での身動きを取りやすくしてくれた。

両手で抱える大口径ガトリング砲でレーバテインと迎え撃つ。

 

『ここから先へは行かせない!!』

 

「力で押し通るぞ!!」

 

レーバテインもサイドスカートにマウントされた2門のガトリング砲を向ける。

激しく撃ち出される弾丸だが白いエリゴールはスラスターを全開にさせると青白い炎を上げて機体を強引に制御させた。

弾丸は白い影が通り過ぎた後を追う事しか出来ずダメージを通せない。

それでも流れ弾の1発が滞空するコダールの左太腿を吹き飛ばし、機体は制御出来ぬまま錐揉みしながら落下して行く。

 

『貴様は空を飛べない。このまま海へと落ちろ!!』

 

「くっ!!」

 

『残弾0、パージします』

 

レーバテインの射角から外れほぼ真横からガトリング砲の弾丸を浴びせるサビーナ。

左手の散弾砲を伸ばすが翼が邪魔になって使う事が出来ない。

宗介は意識を集中させ防壁を形成し、コダールからの攻撃を何とかして防ぐ。

 

「もう少し、あと少しなんだ!!」

 

『それはこちらも同じ。レナード様の計画は最終段階に入った。貴様らミスリルの残党が手出し出来る段階ではない』

 

「雑魚に構う暇はない!! 俺は千鳥に――」

 

『ご安心を、軍曹。彼が来ました』

 

突然のアルの一声、瞬間。

巨大な水しぶきが海面から上がると灼熱の剣がエリゴールを下方から襲う。

激しい閃光。

 

「何だ!?」

 

『この機体は!?』

 

ガンダムはビームサーベルでエリゴールに斬り掛かる。

防御する事で手一杯になるサビーナはレーバテインの侵攻を阻止出来ず、目の前の敵に注意を向けるしかない。

 

「ヒイロ!!」

 

『先に行け。コイツの相手は俺がする』

 

「頼む!!」

 

宗介はエリゴールの相手をガンダムに任せてメリダ島への上陸態勢に入る。

サビーナはスラスターを駆使してビームサーベルを防壁から引き剥がすと急いでレーバテインの後を追う。

だが空中での動きでガンダムに勝つ事は出来ない。

両翼を広げさせペダルを踏み込むヒイロ。

瞬時に加速するガンダムはエリゴールと横並びになり、左側面からビームサーベルで翼に目掛けて一閃する。

 

『ぐぅっ!!』

 

『この前の借りは返させて貰うぞ』

 

『羽根付き!!』

 

サビーナは歯を食いしばりラムダドライバの防壁でガンダムの攻撃を受け止める。

宗介は2人の戦いを背にして、目前に迫るメリダ島を見据えた。

上陸ポイントにもラムダドライバを展開したコダールが待ち構えて居る。

ライフルと散弾砲の4門で迎撃に当たるが地の利を得て居るコダールはソレを簡単に避けてしまう。

地面をえぐり出し、樹木をへし折りなぎ倒す弾丸。

けれども自由に動く事の出来る相手を捉える事は出来ない。

そうしてる間にもサブアームが抱える2丁のライフルのマガジンから弾が尽きた。

アルは指示されずとも武器を手放し、アームを胴体へと戻す。

上陸まで残り300メートル、ブースターの出力を低下させ機体の高度を下げる。

時間にして残り5秒。

だがレーバテイン目掛けて飛んで来る攻撃の雨は止まない。

 

「くっ!! しつこいんだよぉ!!」

 

緊急展開ブースターを背面から切り離す。

機体は地面に向かって自由落下する中、ブースターだけは残された推進剤で加速を掛けてコダールへ直進した。

それは翼を着けたミサイル。

装備したライフルで攻撃するも狙いは定まらず、ブースターはそのまま機体へ直撃した。

 

「着地態勢!!」

 

慣性が残るレーバテインは脚部を無理やり地面に擦り付ける事で機体を減速させる。

えぐれる地面。

姿勢はなるべく低くして勢いでよろけないように、そのままサブアームの40ミリライフルを目の前のコダールに発射。

排出される薬莢。

発射された弾丸は力場を乗せて敵のラムダドライバを物ともせずに胸部を貫く。

連続で発射される攻撃にバラバラに破壊されるコダール。

レーダーには自分を中心に防衛部隊が集まって来る。

後頭部から冷却材を噴射しながら両手に握った散弾砲も駆使して全弾撃ち尽くす。

 

『防御が手薄です。軍曹』

 

「攻撃が最大の防御だ!! 撃ち続けろ!!」

 

激しいマズルフラッシュと力場による幻影。

ラムダドライバは空気さえも歪ませながら目の前に現れる敵機を粉砕して行く。

レーバテインの性能なら一撃で充分。

弾け飛ぶ装甲。

風穴の開く機体。

吹き飛ばされる腕や脚。

もはや量産機のコダールにレーバテインを止める術はない。

 

『40ミリライフル残弾0。ですが4機撃破しました』

 

「アル、デモリッションガンを使うぞ。もう1機のベヘモスを撃つ」

 

『ラージャ、ガン・ハウザーモードで展開』

 

サブアームのライフルを捨て左手に握る散弾砲も投げ捨てた。

残された散弾砲は腰部へマウントし、背面に抱える巨大な砲身を掴む。

マニピュレーターに回されたデモリッションガンを掴み上げ折りたたみ式の砲身を展開させるその様は機体よりもサイズが大きかった。

大きさと見合って威力も相当なモノだが、並のASでは使う事は不可能。

強烈な反動と衝撃波に両腕が吹き飛ばされてしまう。

だがレーバテインはラムダドライバを全開で稼働させると自身が受ける衝撃を緩和させようとする。

巨体であるベヘモスに繊細な照準合わせは必要ない。

後頭部から冷却材が吹き出ると宗介はトリガーを引いた。

 

「ぶち抜け!!」

 

強烈な振動と衝撃は海と大地を揺らす。

ラムダドライバで緩和させたと言えども脚部は土へ食い込み後ろへ少し流されてしまう。

 

「ぐぅっ!! どうだ?」

 

発射された弾丸は凄まじい速度でベヘモスに迫る。

撃った本人ですら視覚する事は出来ず、正面の戦闘画面を見た時にはベヘモスの頭部は吹き飛ばされて失くなってた。

パイロットが居なくなった機体は力を失い、自身の重量にも耐え切れずに崩れ落ち崩壊する。

 

『成功です、軍曹。このまま突入しましょう』

 

「当たり前だ。行くぞ』

 

///

 

空で戦うヒイロは限界ギリギリのガンダムを駆使してサビーネのエリゴールと対峙する。

ビームサーベル1本でラムダドライバを使う相手に向かって果敢に攻撃を仕掛けた。

しかし、ラムダドライバの防壁を貫けない。

それでもサビーナは左からの攻撃に対して防ぐしか手立てがなかった。

 

『どこまでも私達の邪魔を!!』

 

「お前達の思い通りに出来ると思うな」

 

『ここまで来ておきながら……どうしてこの場所がわかった? レナード様の計画は完璧だった筈』

 

「甘いな。お前は俺を過小評価しすぎた。それが敗因だ」

 

『何を!!』

 

ヒイロは右足でペダルを踏み込んだ。

損傷して居ても縦横無尽に飛ぶ事の出来るガンダムは防壁で耐える事しか出来ないエリゴールに攻撃の手を更に激しくする。

一閃。

防壁とぶつかり合い閃光が走る。

ガンダムは高度を上げ緊急展開ブースターを狙う。

鋭い突き。

だが白いエリゴールは耐える。

 

『調子に乗るな!!』

 

両肩と脚部のスラスターを吹かし機体を旋回させる。

ガンダムの追随を振り切ろうとするも、元々が陸戦用のASに空中でも活動が出来るガンダムには勝つ事はない。

青白い線は離れる事なく交差し、時折激しい閃光。

大口径ガトリング砲を向けてトリガーを引くも光の弾は白い装甲に直撃せず闇へ消える。

ガンダムは右腕を振り上げビームサーベルを振るい攻撃の手を緩めない。

上方から袈裟斬りで右翼を襲う。

 

『ぐぅっ!? 負けられない。負ける訳にはいかない。レナード様の理想の為に!!』

 

ラムダドライバを展開させたままサビーナはコンソールパネルを叩く。

エリゴールに搭載されたジャミング装置が稼働しガンダムの電気系統へ介入する。

 

「これは……」

 

操縦桿を握るヒイロが機体出力が下がってくのを感じ取る。

ビームサーベルが消え、ペダルをどれだけ踏み込んでもメインスラスターの出力が上がらない。

ガンダムは高度を下げ満足に動けなくなる。

旋回するエリゴールはガンダムを射程圏内に収めガトリング砲のトリガーを引く。

ラムダドライバの力場を乗せた砲撃は損傷したガンダニュウム合金では耐え切れない。

ツインアイから輝きが消え、装甲が剥がれ落ちフレームがあらわになる。

 

『忌まわしい存在め!! 新たな世界にアナタは必要ない!!』

 

「ぐっ!! アレを使う」

 

機体が落下する中でヒイロは冷静に右手を操縦桿から離しコンソールパネルへ伸ばす。

トゥアハー・デ・ダナンでレイスに渡されたチップ。

それはガンダムに投入されており、起動させるには解除コードを撃ち込むだけ。

戦闘画面からの景色が消え、緑色の文字が浮かび上がる。

 

『Z E R O System』

 

「コードゼロ、ゼロシステム発動」

 

海へ落下しかけたガンダムのツインアイに再び光が灯る。

両翼から推進剤を吹き出し寸前の所で停止した。

マニピュレーターのビームサーベルを握り直し緑色のビームで形成された剣を発生させ、ヒイロはペダルを踏み込み頭上を飛ぶエリゴールへガンダムを飛ばす。

再び息を吹き返したガンダムにサビーナは驚きを隠せない。

 

『そんな馬鹿な!! ラムダドライバもジャミングも正常に作動してるのに』

 

「一気に叩く!!」

 

『何をしたんだ? ガンダム!!』

 

上昇するガンダムは正面からビームサーベルを振り下ろした。

防壁とぶつかり合い激しい閃光が両者を照らす。

サビーナは攻撃を防ぎながらガトリング砲のトリガーを引く。

激しいマズルフラッシュ。

けれどもガンダムは姿勢を僅かに横へ反らすだけで弾を避けてしまう。

そのまま更に上昇し発射角度から外れると左翼に目掛けて右腕を振り下ろす。

何度でも防壁は攻撃を防ぐが機体の冷却装置が悲鳴を上げる。

立て続けにビームサーベルを防ぐ行為はコダールよりも強化されたエリゴールと言えども限界がある。

戦闘画面に表示される冷却装置の異常にサビーナは冷や汗を流す。

 

『このままでは!? 地上部隊は何を!!』

 

「ラムダドライバにも限界はある。空中戦を仕掛けたのがお前のミスだ」

 

メリダ島の地上部隊は上陸されてしまったレーバテインの対処に忙しくサビーナの援護は出来ない。

緊急展開ブースターを装備したコダールは2機の戦場から離れてしまってる。

ブースターを切り離し、海中を泳いでメリダ島に上陸しなければ戦力として使えない。

それでも多少なりとも援護の砲撃は飛んで来るが味方に誤射にないよう慎重になるし、ガンダムの装甲には殆ど効果がない。

損傷したガンダニュウム合金でも軽く火花を飛ばす程度で内部にダメージはなかった。

ヒイロはトドメを刺すべくビームサーベルを投げ捨て腰部にマウントされたバスターライフルを手に取る。

トリガーに指を掛け、エリゴールの背後からその銃口を向けた。

 

『アレは!? スラスターを!!』

 

「ターゲット、ロックオン」

 

サビーナもバスターライフルの威力を知って居る。

冷却装置が不調な今、アレを直撃すればラムダドライバでも防ぎきる事は出来ない。

緊急展開ブースターと両肩、両脚部のスラスターも全開にしてガンダムから何とか距離を離そうとするが、既にヒイロはターゲットサイトにエリゴールを捉えた。

だがその時、ヒイロに異変が襲う。

内蔵されたチップ、ゼロシステムが搭乗者に勝利する為の未来を見せる。

 

(これは……)

 

『レナード様ぁぁぁっ!!』

 

バスターライフルから放たれる最大出力のビーム。

空気すら焼き払いながら進むビームは一直線に進み白いエリゴールを容易く飲み込んでしまう。

一瞬はラムダドライバの防壁で耐えるが、力場の作用が薄い所からビームが侵入し機体を溶かして行く。

防壁の範囲は見る見る内に狭まり、数秒後に機体はエネルギーの渦へ吸い込まれる。

装甲は真っ赤に焼け爛れ、そして推進剤が爆発しネジ1本と残さずこの世から消えた。

だがビームはエリゴールを破壊するだけでは止まらない。

メリダ島まで突き進むビーム。

それを止められるモノなど居らず、高エネルギービームは島へ直撃する。

メリダ島に残るモノ達を巻き込んで。

 

『千鳥ィィィ!!』

 

『そうすけぇぇぇ!!』

 

大爆発を起こすメリダ島。

その瞬間、ヒイロは目を見開き息を呑んだ。

 

「今のは何だ……俺は……」

 

『羽根付きが動かない? だがそれなら!!』

 

方向転換するエリゴールは銃口を再びガンダムへ向ける。

ヒイロは直ぐ様反応し回避運動を取りながらバスターライフルの照準を再びエリゴールに向けた。

だがゼロシステムが見せる未来にヒイロは困惑する。

目を見開き操縦桿を強く握り締めるがどれだけ頑張っても発動させたゼロシステムから逃れる事は出来ない。

完全に動きが止まってしまうガンダム。

サビーナはガトリング砲の砲撃をガンダムへ浴びせる。

機体は大きく揺れ動き爆発の衝撃がパイロットを襲う。

攻撃を受け続けながらヒイロはゼロシステムが見せる結果を脳にフィードバックされる。

 

(俺の……俺の敵は誰だ? この女なのか? いいや、違う。敵はメリダ島に居る。レナード・テスタロッサ……)

 

虚ろになる瞳にレナードの影が映る。

 

(相良宗介……お前が俺の敵? この先に居る本当の敵は……)

 

サビーナでも、レナードでもない。

本当に倒すべき敵。

ゼロシステムはそのビジョンをヒイロへ見せる。

 

(千鳥かなめ……お前を殺す)

 

システムが見せる未来が示したのはかなめを殺す事。

ヒイロはペダルを踏み込みガンダムを上昇させ攻撃を振り切ると、バスターライフルの銃口をメリダ島へ向けた。

ターゲットサイトを島中央部へ合わせ、カートリッジ内のエネルギーを最大出力で発射させる。

 

「ターゲット、ロックオン」

 

『アイツ、まさか!?』

 

島ごと吹き飛ばす気だと気が付くサビーナ。

ガトリング砲を向けるがガンダムの攻撃を阻止する事は難しい。

ラムダドライバの力場を乗せた砲撃を直撃させるが、バスターライフルの照準に狂いはなかった。

トリガーに指を掛け、今正に発射しようとしたその時。

一瞬の閃光。

そして爆発。

サビーナの眼前からガンダムは力を失くして海へ落下して行く。

 

『一体、何が……』

 

『まだ生きてるな?』

 

『カスパーですか』

 

『もう残り何分とない。これで完了する』

 

『わかってます。レナード様の理想がようやく実現する』

 

カスパーの狙撃によりガンダムの左肘は吹き飛ばされた。

左腕から先に海の中へ落ち、細かなパーツを散らしながら人型の巨体が落下する。

大きな水しぶきが上がりガンダムが完全に沈黙した事を意味した。

サビーナは暫くは海面をジッと見張ったが、波打つ海からガンダムが浮上する気配はない。

ライフルを構えるカスパーもガンダムが落下するのを確認する。

コクピットの中で肺に溜まる息を吐き、鋭い目線で夜の闇を睨み付けた。

 

(俺の狙いは完璧だ。ライフルの銃口を狙い、寸分の誤差もなくトリガーを引いた。だがアイツは、見える筈のない攻撃を寸前に避けやがった。一体どんな反射神経してやがる)

 

ギリギリと歯を噛み締めながら赤いエリゴールは移動を開始する。

 

 

///

トゥアハー・デ・ダナンは一直線にメリダ島へ突入する。

防衛部隊はレーバテインに釘付けになってる事もあるが、シートの上に座るテッサは違和感を覚えた。

 

(あまりにも防御が手薄。油断してるの? いいえ、あり得ない。ならどうして……)

 

「目標まで距離500、艦長!!」

 

マデューカスの号令にテッサは意識を目の前の事の集中し素早く指示を飛ばす。

目の前には断崖絶壁の岩壁。

それでもトゥアハー・デ・ダナンは速度を落とさない。

 

「魚雷発射管、全砲門開放!!」

 

「アイ、マム!! 魚雷発射管、全砲門開放!!」

 

マデューカスの復唱に従いトゥアハー・デ・ダナンの魚雷発射管が全砲門開放される。

そして搭載された魚雷を全てここで撃ち尽くす。

魚雷のスクリューが音もなく水中を掻き分け岸壁へと突き進む。

12発の魚雷が立て続けに直撃し巨大な爆発が起こる。

岸壁は破壊され、基地内の巨大な鉄板すらも壊して行く。

大量の海水が流れ込み、そこへ追い打ちを掛けるように加速するトゥアハー・デ・ダナンが突っ込む。

かつてトゥアハー・デ・ダナンの格納庫として使用してた場所へ無理やりに侵入した。

ダナンは海水と一緒にコンクリートブロックへ流れ込むと直ぐ様待機させてたマオとクルツを出撃させる。

 

「損害報告は後回し!! 2人を出して下さい!!」

 

「イエス、マム!!」

 

とてつもない衝撃が内部にまで襲い掛かりシートから振り落とされるテッサ。

それでも何とか肘掛けを抱き締める形で壁へは激突せずに済んだ。

マデューカスも他の乗組員達も皆、立つ事もままならない状態でM9に発進指令を飛ばす。

悲惨な状態なのは格納庫も同じでワイヤーで固定された筈のコンテナが耐え切れずに倒れてしまう。

中の荷物はグチャグチャで足の踏み場もない。

マオとクルツは衝撃で倒れてしまったM9に片膝を付かせて立ち上がるとそれぞれの状況を確かめた。

 

「クルツ、何ともないね?」

 

「取り敢えずはな。全く無茶してくれるぜ」

 

「そうでもしないと無理って事よ。装備チェック、機体損害異常なし。これよりメリダ島内部のTAROS破壊作戦を実行する。行くよ!!」

 

「了解!!」

 

マオはM9の両手に40ミリライフルを、クルツは腰部にスナイパーライフルと両手でグレネードランチャーを抱えてトゥアハー・デ・ダナンから出撃する。

艦を出た先には流れこんで来る大量の海水のせいで数分もすればここは飲み込まれてしまう。

 

「ヒューッ!! コイツはヤベェ」

 

「無駄口を叩く暇はない!!」

 

ジャンプする2機はコンクリート部へ着地し奥へと続く通路を目指して走る。

背後からは海水の流れる濁流音がいつまでも聞こえて来た。

第1関門は突破したが死線を潜り抜けて来た2人は違和感を覚える。

 

「どうにも変ね。呆気なさすぎる」

 

「あぁ、同感だ。前にココを襲撃しに来た時とほぼ同じくらいしかASが配備されてない。アレだけの時間があればもっと防御網を固める事なんて簡単だ。なのにしなかった」

 

「だとすると敵の目的が見えて来ない。アイツラの目的は何なの? ここのTAROSを使って何をするつもり?」

 

「考えても始まらねぇや。兎に角突っ込むしかない!!」

 

クルツは目の前の壁に向かってグレネードランチャーのトリガーを引く。

発射された1発の弾丸が直撃すると巨大な爆発と衝撃波を生み鉄の壁を粉砕する。

舞い上がる砂塵と煙を無視してその先の通路へ侵入する2機。

最短ルートで進む為に邪魔になるモノを排除して行く。

壁を抜けた先にもまた鉄で囲われた通路が広がる。

 

「今更だけどこの島はどうなってんだ?」

 

「無駄口を叩くなって言ったよ」

 

「ヘイヘイ」

 

「ったく……待って」

 

「敵か?」

 

神経を集中させるマオは周囲から響き渡る音を注意深く紐解く。

機体に搭載されたソナーがキャッチする音の違和感。

それは真上から真っ直ぐに、確実にこちらへ向かってる。

汗が一滴額から流れ落ちると同時。

マオは操縦桿を握り締めM9を動かす。

 

「退避!! 上から来る!!」

 

「マジかよ!?」

 

次の瞬間、天井の外壁が突き破られた。

大量のコンクリートを撒き散らし土埃を舞い上げ、ヤツは2人の前に現れる。

赤い装甲を纏った1つ目のAS、エリゴール。

パイロットのカスパーは外部音声で自らの声を聞かせる。

 

『ヤレヤレ、この歳でこんな無茶はしたくないな』

 

「この声は……」

 

『狙撃を専門にする俺がわざわざお前らの前に出向いてやった。この理由がわかるか?』

 

「ヴィルヘルム・カスパー!!」

 

クルツは叫んだ。

目の前に現れた敵はかつての自分の上官でもある男。

カスパー部隊と呼ばれる狙撃集団を率いてた実績もあり、彼を知るモノからは一目置かれる存在。

そんな相手が目の前に現れただけでなく、悠長に話し掛けて来る事自体が異常だった。

グレネードランチャーの銃口を向けるクルツ。

攻撃態勢に入ったにも関わらずエリゴールは無防備に隙を晒すだけ。

狙撃に使用するスナイパーライフルも折り畳んで腰部へマウントされて居る。

 

『俺を撃つつもりか? 殺したいのならそうすれば良いが、死ぬ前に言って置きたい事があってな』

 

「言って置きたい事だと?」

 

『あぁ、この計画の先にある未来。いいや、過去か。この戦いはもはやアマルガムとミスリルなんて小さい戦いではない。レナードとその妹の兄妹喧嘩でもない。世界の命運が掛かった戦いだ』

 

「現実主義者のアンタが何を言い出す?」

 

『聞く気はないか……ならば俺を撃ち殺せ』

 

言うとカスパーが搭乗するエリゴールは両腕を広げて来る。

あまりにも予想外の行動にクルツもマオもすぐに判断が付かず攻撃を躊躇してしまう。

 

「どう言うつもりなんだ、コイツは!? 本気で、ただ死にに来ただけなのか?」

 

「でもここでやらないと、どの道邪魔な相手になる。意図は掴めないけどやるしかない」

 

決断したマオは装備した40ミリライフルのトリガーを引いた。

狭い通路で攻撃を避けるだけのスペースはない。

発射された弾丸は赤い装甲目掛けて突き進み、そして消滅した。

 

「なっ!? ラムダドライバ!! わからない、この野郎は何がしたいのよ!!」

 

「カスパー、テメェは!!」

 

『勘違いするな、攻撃はしない。でもここを通りたいなら俺を殺して見せろ』

 

「コイツ、ふざけやがって!! だったら望み通りぶち抜いてやるよ!!」

 

頭に血が上るクルツ、コンソールパネルを叩くとM9に内蔵された新しいシステムを起動させる。

妖精の羽根。

アマルガムが使用するラムダドライバは完璧ではない。

生成する防御壁も箇所によっては全ての攻撃を防ぐ事は出来ず通してしまう。

妖精の羽根はその薄く生成された防御壁を見抜く事が出来る。

M9はグレネードランチャーを投げ捨て背中をマウントさせたスナイパーライフルを手に取ると、至近距離にも関わらずその銃口を敵に向けた。

鋭い目付きでスコープを覗く。

そこから見えるのはコクピットを守る為の胸部装甲だけが薄い防御壁で、尚更クルツの頭を沸騰させる。

 

「なめやがって!!」

 

(お前には永遠にわからないだろう。俺はこの計画の先にある世界を実感したい。それが本当なら例えこの場で死のうとも俺は蘇る。いいや、死んだと言う結果が消えてなくなる)

 

力強く引かれたトリガー。

強烈なマズルフラッシュと銃声を響かせ、空気を切り裂きながら突き進む弾丸はラムダドライバの防壁を貫き胸部装甲へ直撃する。

風穴が開くエリゴールは力を失くしそのまま仰向けに倒れてしまう。

本当に反撃をしなかったカスパーに対してクルツは呆然と動かなくなった機体を見るしか出来ない。

 

「マジで何だったんだ。自殺願望があるようなヤツじゃない。訳がわからねぇ」

 

「兎に角邪魔はなくなった。このまま最深部まで一気に進むよ」

 

「了解。すぐに――」

 

前に進もうとするクルツとマオを不意に襲う目眩。

体が硬直し意思通りに動かなくなる。

背中を伝う冷たい汗。

幻覚と虚無感が錯綜し機体をまともに動かす事も出来ない。

何とか右足でペダルを踏み込むが繊細な操作は無理でクルツのM9は前のめりになりながら数歩進むと倒れ込んでしまう。

 

「ク……クルツ。ぐぅっ!? 一体何が……」

 

遂にはマオも耐え切れなくなり意識を手放してしまう。

2機のM9はメリダ島の最深部に到達する事もなく倒れ込んで動きを止めた。




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次回5月28日

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