フルメタルWパニック!!   作:K-15

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次でつどうオン・マイ・オウン編も最後です。


第37話 イミネント2

両手の操縦桿を握り直し黒い装甲のASを見据える。

超大型の単分子カッターを構える相手はアーバレスト相手でも余裕が感じられた。

 

「まずは正面から叩くぞ」

 

『肯定』

 

左腕のライフルのトリガーをフルオートで連射する。

吐き出される薬莢。

強烈なマズルフラッシュ。

弾丸はラムダドライバの力場を乗せて敵を蜂の巣にしようと襲い掛かる。

 

『ふん、ラムダドライバの使い方をわかってないようだな』

 

黒い機体を半身に反らし着弾面積を減らす。

構えて居た超大型単分子カッターのグリップを逆手に持ち直し前方へ掲げるだけ。

刀身にだけ力場が発生し蜃気楼の様に空気が歪む。

発射された弾は、掲げられた刀身に触れる寸前で軌道が逸れる。

右へ、左へ。

弾は装甲にかすめる事すらなく周囲の建造物へ流れて行く。

 

「やはり向こうもラムダドライバか」

 

『わたしの名はリー・ファウラー。冥土のみやげに教えてやる。この機体、エリゴールはコダールの発展型だ』

 

「エリゴール……他の2機もか」

 

『機体性能は向上されてるがラムダドライバの性能そのモノは変わらない。だが!! わたしは他の兵士とは違う!! この機体の使い方もだ。オーバーヒートさせる事なく、ラムダドライバの性能を最大限に引き出す』

 

「単分子カッターにだけ部分的に力場を発生させたのか」

 

流された弾丸がビルへ着弾した。

窓ガラスがアスファルトへ雨の様に降り注ぎ砕かれたコンクリート片が飛び散る。

砂埃が舞い上がった。

 

『ラムダドライバの性能は確かに貴様の機体が上の様だ。しかし、貴様はここで死ぬ!!』

 

「やられるかぁぁぁ!!」

 

膝を曲げ、黒いエリゴールが地面を蹴る。

一瞬で距離を詰め超大型単分子カッターで一閃。

アーバレストもすかさず右手の単分子カッターを前面へ突き出した。

力場がぶつかり合いまばゆい光が両者を照らす。

 

『反応は良し。だが、装備が重た過ぎる』

 

「ぐっ!! こいつは……強い!!」

 

感じ取った殺気が宗介に伝えて来る。

相手は強いと。

戦場で1体1で戦う事はあまりない。

先陣が駆け抜けた後だったり、後方からも援護が構えて居る。

小隊で行動していれば隣には必ず味方が居るし、相手だってそう動くのが普通だ。

しかしリーは違った。

 

(こいつは兵士ではない。むき出しの闘争本能で敵を倒す、まるで椿一成の様。こいつは戦士だ)

 

力場が互いの機体をはじき飛ばす。

着地して姿勢を保つ宗介だがリーの方が動きが断然早い。

 

『遅い』

 

「っ!!」

 

息をする暇すら与えて貰えない。

意識を前に向けた時には既にエリゴールは超大型単分子カッターを振り上げて居た。

腕を盾にして防ぐ事すら間に合わない。

空間が歪んだ。

 

『ほう』

 

「邪魔だ、どけぇぇぇ!!」

 

不可視の壁が切っ先を空で受け止めた。

突風が吹き荒れエリゴールの装甲を強く叩く。

言ってた様にラムダドライバの性能では薬物投与など擬似的に発動させてないアーバレストの方が上だ。

それでもリーの操るエリゴールから伸びる切っ先は不可視の壁をジワジワと貫く。

 

「何!?」

 

『ラムダドライバの力場を一点集中させればこう言う事も出来る。いかに強力であろうとも力場が広範囲なら力も拡散される』

 

切っ先は不可視の壁を貫いた。

胸部へ目掛けて突き出されるが、装甲が僅かにキズ付いた所で後方へジャンプして難を逃れる。

1秒もない、コンマ何秒の差が生死を分けた。

肝を冷やす宗介は額から汗を流す。

けれども敵を息付く暇など与えてくれない。

いち早く反応したアルが宗介に呼び掛ける。

 

『軍曹、上へ』

 

「長距離射撃か!!」

 

アーバレストはラムダドライバの力場で運動性能を補助し、宗介の反応と機体の動きのタイムラグを失くし助走もなしに高度まで跳躍した。

空気を斬り裂きながら高速で飛んで来た1発の弾丸。

それはアーバレストのつま先をかすめて火花を散らす。

弾は地面へ直撃するとアスファルトを粉砕して地面を抉り出した。

轟音と振動が響き渡る。

ビルの屋上へ着地したアーバレスト。

狙撃ポイントを見つけようとメインカメラを動かし周囲を見渡すが、レーダーの範囲外からの狙撃故にモニターには影も形も映らない。

 

「くっ!? 遠すぎる」

 

アーバレストから遥か遠く、2キロ以上離れた高層ビルの屋上から赤いエリゴールがスコープを覗いて居た。

ECSのカムフラージュで周囲の景色に溶け込み、トリガーを引く一瞬だけ解除させる。

弾はラムダドライバの力場を乗せて、空気抵抗を受け付けずに目標へ向かって発射した。

着弾するまで数秒しか掛からない。

しかし宗介のアーバレストは寸前でそれを回避した。

まだアーバレストが健在なのを確認して、パイロットであるヴィルヘルム・カスパーは口元をにやけさせる。

 

「俺の狙撃に反応して、あまつさえ避けるとはな。そんなヤツはテメェが初めてだ。1発で終わらせる筈が、俺の経歴にキズが付いちまう」

 

ECSを起動させ再び景色の中へ消える赤いエリゴール。

カスパーは次の狙撃ポイントを探す為に動く。

戦場に変わる街。

怯え、逃げ惑う人々を前に宗介は数百メートル先で上がる黒煙をようやく目にする。

 

「あの位置は……学校か!? 風間、常磐!!」

 

『方角から見て都立陣代高校でしょう』

 

「千鳥は守る。他のみんなもだ」

 

『逃げられるとでも思って居るのですか?』

 

白いエリゴールのパイロット、サビーナ・レフリオは大型ガトリング砲を向けるとラムダドライバで威力を上げて一斉射撃。

高層ビルの屋上が吹き飛び鉄骨や瓦礫が地面へと落ちて行く。

ビルにもまだ逃げ遅れた人は居るし、地上にも人は大勢居た。

彼女はメガネの奥の瞳で瓦礫の中に消える人を見ても、何1つとして感情は揺るがない。

 

「誰か救急車を呼んでくれ!!」

 

「子供が、子供が居ないの!!」

 

「痛い、いだいぃぃぃ!?」

 

「警察とか自衛隊は来ないの!?」

 

「そんなのアテに出来るか。逃げるぞ!!」

 

「死にたくない!! 助けてぇ、助けてよ!!」

 

戦争など経験した事のない人々は未曾有の危機にどう対処して良いのかわからない。

自衛隊も警察も居らず、誰にも頼る事が出来ず、血を流し泣き叫ぶ。

逃げる事も出来ないモノは数多い。

今の宗介に彼らを助ける事は出来ないしココから動く事で戦火は更に広がる事になるが、迷う暇などある訳がなくアーバレストを動かした。

共に過ごした友達を守る為に。

 

『逃がさないと言いました。リー、カスパー、追いますよ』

 

ビルとビルを飛び移りながら移動するアーバレストに白いエリゴールは付いて来る。

残りの2機もECSで姿を隠し後ろから続く。

エリゴールは大型ガトリング砲を飛び移りながらも器用に発射して来る。

通常では反動で照準が狂うし下手をすれば両腕が折れるのをラムダドライバで制御した。

宗介は飛来する弾を避けながら、時には力場で防ぎながら陣代高校を目指す。

 

「クッ!! 引き離せない」

 

『アナタはここで仕留めます。それがレナード様のご命令』

 

「アル、後ろを頼む」

 

『了解』

 

背部に装備された対空ミサイルランチャーをエリゴールに目掛けて全弾発射させる。

放物線を描きながら迫る大量のミサイル群。

ラムダドライバの防壁に防がれてダメージにはならずとも僅かながら足止めは出来ると踏んだ。

エリゴールは迫るミサイルを視認すると頭部の赤い1つ目を向ける。

 

『無駄なのですよ』

 

ジャミング。

もう少しの所でミサイル群はエリゴールを逸れて在らぬ方向へ飛んで行ってしまう。

ラムダドライバの防壁を発動させる事なくサビーナはアーバレスト・フルウェポンの攻撃を無効化する。

制御の効かなくなったミサイルは、また無関係の人が居る建造物へ直撃した。

また何人かが死んだ。

また何人かが傷付く。

 

「キャァァァ!!」

 

「ASが戦争してるぞ」

 

「誰か手伝ってくれよぉ!! 車の下敷きになってるんだぞ!!」

 

わかって居た筈。

今までにだって何度も見た光景だが宗介は悔しさに顔を歪ませる。

けれども他の事に神経を向けてる暇などない。

すぐに思考を切り替え、さっきエリゴールがやった事を頭の中で分析する。

 

「ラムダドライバで防いだなら爆発する筈だ。それ以外にミサイルの軌道を逸らせる手段はそうない。あの白いヤツはジャミングの類か。それなら自衛隊と警察の動きが遅いのも頷ける」

 

空になった対空ミサイルランチャーをパージして更にビルからビルへ跳躍。

少し軽くなったお陰でスピードが早くなる。

ビルの屋上へ着地、また跳躍。

視線を後ろへ向けるとさっきまで追い掛けて来て居たエリゴールの姿が居ない。

 

「ヤツは何処だ?」

 

『不明。ですがコチラは突き進むしかありません。こちらはECSを使う時間的余裕はありません』

 

「そうだな。学校の校舎が見えた」

 

ツインアイが見つめる先には陣代高校のグラウンド。

無人ASアラストルが小野寺、風間、常磐、稲葉を標的にして迫って居た。

 

「みんな!! アレは……」

 

アラストルが動きを止めた。

感情のない鉄の塊が見た先には銃を構えるヒイロの姿。

 

「そうだ、ヤツが居る」

 

風間達を守るヒイロの姿に宗介はようやく完全に信用する事が出来た。

左手のライフルの銃口をアラストルへ合わせラムダドライバの力場を発生させる。

 

「当てる」

 

1発だけ発射された光の弾は一直線に突き進み目標であるアラストルだけを消滅させる。

校舎の屋上へアーバレストを着地させた宗介は外部音声に切り替え、まだ学校に取り残されて居る4人に向かって声を掛けた。

 

「みんな無事だな?」

 

『今の声……相良なのか!?』

 

『どうして第3世代型ASになんて乗ってるのさ!? アメリカ軍でもようやく実装された所なのに』

 

「すまない、今は話をする時間がない。早く安全な場所まで避難するんだ」

 

『待って!! かなちゃんは? 今日は1度も見てないの!!』

 

「大丈夫だ。千鳥は必ず守る」

 

『逃げるって何処に逃げれば良いのよ!!』

 

「ヒイロ・ユイに付いて行け。俺は敵の侵攻を食い止める」

 

コクピットで宗介が最後に見たのは鋭い視線でアーバレストを睨むヒイロの横顔。

言葉すら交わさず、3機のエリゴールを食い止める為に動く。

 

(ここで敵を倒す。でなければ……)

 

その先に待って居るのは最悪の結末だ。

 

///

 

サムを抱えて走るかなめ。

街中から聞こえてくる悲鳴と泣き声が嫌でも耳に入って来るが、今と言う状況では無視するしか出来ない。

鼻を塞ぎたくなる鉄とガソリンが燃える臭いも我慢するしかなかった。

何処に逃げれば良いのかなんて彼女にはわからない。

それでも宗介との約束を守る為に、彼を信じて走る。

 

(絶対に死んだりなんてしたらダメなんだから。アタシも!!)

 

彼女を突き動かすのは勇気か、死が迫る恐怖か。

震える体を抑えこみながら前に向かって走るが、その背後からは空を自在に飛ぶベリアルの姿。

 

『逃げれる訳がないのに、まだ抵抗するんだね』

 

余裕の現れか、レナードが外部音声でかなめに話し掛けて来る。

後ろを振り向く暇などない。

信号が機能せず道路状況が無茶苦茶になる交差点を右へと曲がった。

 

(何とかしないとすぐに捕まる。何とかしないと、何とか)

 

考えてもベリアルから逃げ切れる方法など思い付かない。

コクピットシートに座るレナードは口元を緩ませながら必死に逃げるかなめの後ろ姿を眺めて居る。

それはかなめにも伝わり背中に嫌な汗が流れた。

 

(あまり距離が縮まらない。遊んでるの?)

 

付かず離れずで追い掛けるベリアル。

アーバレストの相手を部下に任せたレナードに邪魔するモノは居らずかなめを捕まえるくらいいつでも出来る。

銀色に鈍く光る装甲。

それをジッと見つめるモノが1匹。

かなめの両腕の中でサムの目でもあるゴーグルは赤外線カメラでベリアルを観察してた。

 

(次の交差点を左)

 

頭の中で必死に考えを巡らすかなめ。

だがそれを否定するかの様に、サムは彼女の両腕から飛び出した。

 

「サム!?」

 

かなめが行こうとした所とは別の場所に走って行ってしまうサム。

放って行く訳にも行かず考えたルートとは違う、サムが向かった先へ走った。

ガードレールを潜り抜けるサム。

かなめもガードレールをジャンプで飛び越えて細い道へ入って行く。

 

「こんな所に行ったら逃げ道が」

 

心配するかなめだがサムは止まってくれない。

空を飛べるベリアルはこのくらいでは引き剥がせず、まだ後ろから追い掛けて来る。

 

『ASが通れない所へ逃げ込むつもりかい?』

 

レナードはまだ笑みを浮かべて居る。

右へ左へ進むサムとかなめ。

道幅は徐々に狭くなりエッジの効いた両肩がガリガリと両側の建造物を削って行く。

だが装甲には一切のダメージはなく、そのまま邪魔なモノをなし崩しながら進む。

遂には人1人がようやく通れるくらいの狭い路地裏へと進んで行く。見下ろすかなめの小さな背中が見えなくなるが、ベリアルの高度を上げて出口に先回りすれば良いだけ。

 

『どれだけ頑張っても無意味だよ』

 

迷路のように入り組む路地裏。

かなめはサムを追い掛けるようにして逃げて居るが銀色の猫は止まってくれない。

 

(どうしよ、こんな所にまで来て。逃げる場所が失くなってく)

 

追い付かれる不安にかられるかなめ。

そんな事を知らずに進むサムは不意に立ち止まり、民家に入ろうと裏門を前足でガリガリと掻いた。

 

「どうしたの?」

 

『ニャア、ニャア!!』

 

「ここに行けって言うの」

 

サムを抱え上げたかなめはその民家へと入った。

広い敷地、周囲は塀で囲まれており瓦屋根が見える。

 

(この家って……)

 

土足で家内へ入り込むかなめは畳や廊下を土で汚しながらも前に進んだ。

ASでは入り込めないのでベリアルは上空で止まり、レナードは外に巡回させたアラストルを中に向かわせる。

 

『逃げ道のない所へ入ったらもう終わりだよ。チェックメイトってやつさ』

 

呼び寄せられたアラストルが3機、かなめが逃げ込んだ民家へ入って行ってしまう。

重たい重量のせいて木製の床がギシギシ悲鳴を上げた。

扉は問答無用でぶち破られ奥へ奥へ詰め寄って行く。

かなめを囲い込もうとバラバラに別れた。

1機のアラストルが襖を破る。

瞬間。

 

『zqwぇcrtvびゅgyh』

 

巨大な爆発。

アラストルの胴体に風穴が開きその機能を完全に停止した。

体内に仕込んだ自爆装置とベアリングも吹き飛ばされて、2メートルを超える巨体は静かに倒れる。

ガラクタとなったアラストルの前に居るのは灰色のネズミ。

 

『ふも!?』

 

(や……やれたの?)

 

両手でグレネードランチャーを構えるのは宗介が開発した量産型ボン太くん。

その中にはかなめが入って居た。

同級生とする喧嘩などとは違う殺し合いの戦闘。

体が震え、口から息を大きく吸う。

額がら滲み出る汗。

狭いキグルミの中でサムはかなめの後頭部へ抱き付いて居た。

 

『ふもっふ』

 

(これなら少しは逃げれるかも)

 

ボン太くんを装備したかなめは生き延びる為に走った。

残りは2機。

消えたアラストルの反応を辿ってかなめの元へ別れた2機が集まって来る。

高性能のパワードスーツを装備してるとは言え戦闘経験皆無の彼女が勝てる相手ではない。

弾数の少ないグレネードランチャーを抱えて走る先からアラストルの影が見える。

銃口を向けてトリガーを引こうとするが敵の方が攻撃が早い。

腕の機関銃が強烈な閃光を吐き出し襖が吹き飛ぶ。

捕らえるように登録されたかなめではなく量産型ボン太くんとして認識するアラストルは容赦なく殺しに行く。

 

『ふもももも!?』

 

(キャァァァ!!)

 

恐怖するかなめは固くまぶたを閉じて縮こまってしまう。

弾丸が自分の背中のすぐ上を通過して行く。

家財道具が滅茶苦茶に壊される。

桐のタンスがなぎ倒され飾られて居た鎧も跡形も無い。

機関銃から発生する甲高い爆発音。

空になった薬莢が大量に畳へ落ちる。

かなめはよつん這いになりながらも前に向かって進む。

流れ弾が飛来し左耳がちぎれ飛ぶ。

 

『ふも!?』

 

(うぅっ、逃げないと……)

 

グレネードランチャーを抱えながら前進すると畳ごと床が抜けた。

 

『ふも~』

 

(痛っ~!! え……何?)

 

埃と土に塗れるボン太くん。

体に走る痛みに涙を滲ませるかなめだが、不意に頭の中がクリアになる。

次に取るべき行動。

瞳の奥から見える光は自分が何をすれば良いのかを教えてくれる。

息を殺し歩伏前進のまま床下に潜り込んだ。

アラストルとの距離はそこまで離れてない。

足元にまで潜り込み仰向けになると右手で床板を突き破りグレネードランチャーの銃口を向ける。

戸惑いはない。

間髪入れずにトリガーを引く。

股ぐらに直撃。

至近距離で爆発が起こりボン太くんの胴体が焼け焦げる。

 

『敵発見、敵発見、敵発見』

 

両足を分断させられたアラストルは両手をバタバタと動かすだけでもはや戦闘能力はない。

残りの1機が反応し爆破地点に駆け付けて来る。

ボン太くんはグレネードランチャーの爆発で広がった穴から顔を出し、残りのアラストルに向かって銃口を向けた。

相手はもう腕に搭載された機関銃の発射体制に入って居る。

炸裂、閃光。

防弾機能も付いて居るボン太くんの装甲がへこむ。

目玉が潰れ内部部品が火花を散らす。

左腕の装甲が破かれた。

中に入って居るかなめの白い制服も裂かれ一筋の赤い線が浮かぶ。

呼吸するのも忘れて最後のトリガーを引く。

真っ直ぐに進む弾が行く先はアラストルではない。

それは家の柱へと向かい、直撃。

家全体が爆発で大きく揺れ天井から埃が降る。

 

(アタシは……)

 

生気のない瞳で敵を見据えるかなめ。

床下から飛び上がり、機関銃の弾丸を直撃するのも恐れずに走る。

すぐ目の前。

両腕をクロスさせての全力タックル。

姿勢を崩したアラストルは床に倒れ込み、尚も発射される機関銃の弾は天井を撃ち抜く。

かなめの頭の中に、次に起こり得るであろう未来が見える。

 

(屋根が落ちる。身動きが取れなくなった所を狙い、落ちてる日本刀で首の配線を切断……3秒後にアラストルが自爆。足場の悪い状況下で脱出は不可能。装甲も爆発に耐え切れない。アタシは死ぬ……)

 

数秒後、数々の攻撃に耐え切れなくなった屋根は予測通りに瓦ごと天井が落ちて来た。

メキメキと太い柱等が音を立ててへし折れる。

倒れたアラストルに逃げる時間はなく、大量の木材の下敷きになった。

視界を覆い尽くす土煙。

満足に前も見れない状況でかなめは落ちて居る日本刀を拾い、瓦を踏み潰しながら瓦礫の底に横たわるアラストルを見る。

ゴーグルの赤外線が目印になり首元の位置がわかった。

小型ASと呼ばれて居てもサイズは人並み、何トンもの重量を持ち上げる事は出来ない。

脱出しようと試みて居るが指先や首が僅かに動くだけ。

狙いを定めたボン太くんは日本刀の鞘を投げ捨て、刀を逆手に持ち大きく振り上げる。

 

(アタシは……アタシは……)

 

垣間見る未来。

そこには自分以外にもう2人。

 

(ヒイ……ロ……君……)

 

ぼんやりとした意識の中で男は叫ぶ。

力の限り、全力で。

 

(千鳥、俺は必ずキミを守る!! だから――)

 

(そうすけ……宗介!!)

 

振り下ろされる日本刀。

だが同時にボン太くんの中から雄叫びが響く。

 

「死んでたまるもんかァァァ!!」

 

切っ先は胴体と右肩とを繋ぐ関節部分へと突き刺さり、配線が何本がダメになる。

かなめに迫る3機のアラストルは全て戦闘不能になった。

意識を覚醒させたかなめは周りの惨劇を目の当たりにして体を震わせる。

 

「これ……アタシがやったの?」

 

ほぼ全壊した家、もはや原型はない。

そして運動能力は平均以上あるが、戦闘経験は皆無の彼女がアラストルを撃破して見せた事。

自分がやった事が未だに信じられない。

ボロボロになったボン太くんの頭を脱ぎ捨てると、外からレナードの声が聞こえて来た。

 

『アラストルが3機……もしかしてキミがやったのか?』

 

「知らない……知らないわよ、こんなの!!」

 

『予想よりも早く覚醒しつつあると言う事か。何が合ってもキミを連れて行く』

 

サムはかなめの後頭部からスルリと、捨てられたボン太君くんの頭の中に逃げ込む。

高度を下げてマニピュレーターを伸ばすベリアルにかなめは逃げようと動くが、レナードは優しい声で終わりを告げる。

 

『まだ逃げるのかい? もう終わりにしよう』

 

「冗談、アンタみたいなヤツに誰が付いてくもんですか!!」

 

『なら……相良宗介を殺す事になるよ?』

 

ピタリと動きを止める。

ゆっくりと首を曲げベリアルの姿を見つめながら、恐る恐る口を開けた。

 

「宗介が……死ぬ?」

 

『そうだよ。もうすぐ戦闘も終わる頃さ。キミが付いて来ると言うのであれば、彼を殺さないで上げるよ』

 

「ウソよ!! だって……だってそんな……」

 

『信じられないかい? なら直接自分で見ると良い』

 

「うぅっ!?」

 

言い終えるとかなめは頭痛に襲われる。

意識が混ざり合う感覚。

ウィズパード同士の共振。

そしてレナードの感覚を通してTAROSが見せる未来。




視点が移り変わりしてしまいすみません。
かなめがアラストルを撃破出来たのかはおおよそ察しが付くと思います。
ネコの名前を募集してサムと名付けたのですが、不意に案が思い浮かんだのでこの様にさせて頂きました。
それでもかなめが勝つのは強引過ぎたかなぁ、と悩んで居ます。
この要素は最終話まで使いますので、サムはストーリーの重要なキーです。
次にいつ活躍させられるのかはわかりませんが、期待してくれると嬉しいです。

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