フルメタルWパニック!!   作:K-15

33 / 51
ラムダドライバを便利に使い過ぎた感があり、設定に順守してないようで少し不安です。


第33話 戻って来た日常

両手に握る40ミリライフルのトリガーをフルオートで引いた。

照準も定まってないデタラメな射撃だが、相手を動かす為の牽制射撃。

ガンダムを取り囲んでたコダールが一斉に跳躍し弾を避ける。

 

「聞こえるなヒイロ・ユイ。動けるなら撤退しろ」

 

「お前の指図は受けない。そんな重すぎる装備で何が出来る」

 

「重すぎる装備と言うのは同感だ。だが目の前の敵を倒す事くらいは出来る」

 

「ならやってみせろ」

 

「言われるまでもない!!」

 

宗介は後退したコダールの1機に狙いを定める。

左腕に抱えたライフルをマガジンの残弾を一切気にせず撃ちまくった。

アスファルトにばら撒かれる薬莢。

コダールはステップを踏み、ビルへ身を隠した。

弾丸はビルに阻まれ、コンクリート片は弾け飛び煙が舞う。

 

(相手が動く先、突き抜けろ!!)

 

次は右腕のライフル。

アーバレストの駆動系の補助に使って居たラムダドライバの力場を攻撃に転換。

頭の中でスイッチを切り替える為に左右で分けてライフルを使う。

右腕のライフルは1発づつ。

ラムダドライバの力が加わった弾は空間を歪ませ、ビルをすり抜けて行く。

まるで遮蔽物などないように。

突き抜けた弾丸はコダールの右脚部に直撃した。

 

『こ、こんな!?』

 

更に続けて2発、トリガーを2回引く。

コンクリート片は発生せず、ビルをすり抜けて行く。

パイロットは急いでラムダドライバの防壁を生成しアーバレストからの攻撃を防ごうとした。

弾丸が防壁にぶつかり閃光がほとばしる。

でも止まらない。

弾丸は防壁を貫きコダールの右肘の関節を吹き飛ばす。

最後の1発。

防ぐことはもう出来ない。

胸部に直撃し、装甲を意図も容易く貫通し背部へ抜ける。

パイロットが居なくなったコダールは機能が停止し、力なく背後から倒れてしまう。

 

「まず1機」

 

『後ろです』

 

「対空ランチャー、当たらなくても良い。全弾発射だ!!』

 

背部へ背負った対空ミサイルランチャーから一斉にミサイルが発射されて行く。

何十発もの小型ミサイルが背後から迫るコダールへ襲い掛かる。

周囲のアスファルトごと爆撃に巻き込み敵の姿が目視出来なくなったが、レーダーには確かな反応があった。

ラムダドライバの防壁で防ぎ、一時的に動きを止めてしまって居る。

 

『命中させました、軍曹』

 

「うるさい。邪魔になる、すぐにパージしろ」

 

『肯定』

 

ミサイルのなくなったミサイルランチャーなどただのデッドウェイト。

アルは機体から切り離し機体重量が少し軽くなる。

右腕のライフルの照準を定め、トリガーを1回だけ引く。

 

「貫く!!」

 

ラムダドライバの力場がまた見えない防壁にぶつかるが、コダールが生成するラムダドライバではアーバレストの攻撃は防げない。

衝撃と崩壊。

弾丸を媒体としてラムダドライバの力場を生成してるだけなので爆発は起きない。

コダールの機体は上半身と下半身が分離され、また1機戦闘不能になる。

 

『どう言う事だ!! ミスリルのラムダドライバは欠陥品じゃなかったのか!?』

 

ゲイツは本来の力を発揮するアーバレストの前に顔を歪めた。

それでもまだ数の上では有利。

 

『あの欠陥品を取り囲め!!』

 

ゲイツの赤いコダールが正面、残り2機が背後から迫る。

宗介は脚部に取り付けられたミサイルランチャーを余すことなく赤いコダールに向かって発射した。

 

『全弾発射、パージ』

 

「そうだ、まずは後ろを片付ける!!」

 

要らなくなったパーツは破棄。

爆風でアスファルトが砕け散り炎が上がる。

数秒でも目眩ましになれば背を向けて戦闘が行える。

跳躍するアーバレスト。

サイドスカートのハンドグレネードを2機のコダールへ射出。

弾速は早くない。

見てから簡単に避けられるグレネードは地上で2回爆発し、2機のコダールは更に散開した。

 

「1機ずつ確実にだ」

 

『ラージャ』

 

着地体制に入りつつ敵をロック。

サスペンションが衝撃を吸収。

すぐに疾走。

敵の攻撃が放たれる前に動く。

ラムダドライバの力場を発生させてトリガーを引いた。

正確な射撃、1発、2発。

 

『ラムダドライバでも防げない攻撃だと!? くっ!!』

 

だが敵も気が付いて居る。

アーバレストの攻撃は防ぐことが出来ない。

そこからの動きは早かった。

回避行動を取りつつライフルで牽制射撃。

弾の1発が肩の装甲を掠めた。

アーバレストはまだ装備のせいでラムダドライバを駆動系に使わなくてはならず、同じ様に防ぐ事は出来ない。

 

「合流される前に落とす」

 

『肯定、グレネードランチャーを使用しますか?』

 

「そうだ」

 

宗介は両腕のライフルを捨て、肩に担いだグレネードランチャーを両腕に持つ。

照準を付けトリガーを引く。

重たい銃声が響き衝撃が機体にまで伝わろうとするが、ラムダドライバがそれを吸収してくれて居る。

コダールは横へ飛び爆発を難なく避けライフルで反撃。

 

『そんな装備で!!』

 

「ラムダドライバを使ってるな。当たれるか!!」

 

機体を反転、もう1機に向かってもう2発。

回避行動を取られる。

アスファルトが爆発、次はビルが爆発し根本から折れ曲がった。

崩壊するビルにパイロットは反射的に目を移してしまう。

それは行動にも見て取れた。

頭部の1つ目がビルへ僅かに傾く瞬間を宗介は見逃さない。

 

「その隙が命取りだ」

 

グレネードランチャーの弾が発射される。

弾はコダールを通り過ぎ、すぐ背後で爆発。

衝撃をもろに受け止めた機体は前のめりになり姿勢を制御出来ない。

 

『しまっ!?』

 

「コレで終わりだぁ!!」

 

グレネードランチャーも、もう使わない。

腰部にマウントされた愛銃、57ミリ散弾砲を掴み至近距離から頭部へ放つ。

強力なラムダドライバはコクピットがある胸部ごと頭部を吹き飛ばし、残りの敵は2機にまで減る。

 

『ラムダドライバが通用しない!? 話が違うぞ!!』

 

瞬く間にやられた行く味方にパイロットは錯乱する。

撤退を視野に入れながら近づかれないようにラムダドライバを使用したライフル射撃。

逃げようとする敵、でもそんな事はさせない。

 

「逃げられるなどと思うな!!」

 

フルウェポンを使い切り本来の姿に戻ったアーバレスト。

機体重量の保持にラムダドライバを使う必要もなくなり、アーバレストは一気に距離を詰めようとする。

 

『それはこっちのセリフだぁ!!』

 

「っ!!」

 

ゲイツのコダールがクリムゾンエッジ単分子カッターでアーバレストへ接近して来た。

振り被り袈裟斬り。

咄嗟に右腕でボディーを守り、頭の中でイメージを固める。

ラムダドライバの矛と盾がぶつかり合い、激しい衝撃と光が両者を襲う。

 

『欠陥品の筈のテメェが、生意気なんだよぉ!!』

 

「貴様の相手は最後だ!!」

 

完全に起動したアーバレストのラムダドライバ。

その性能はコダールのラムダドライバの性能を遥かに凌駕する。

腕を掲げただけ。

それだけの動作でコダールは一方的にアーバレストから引き剥がされる。

両脚部を地面に擦り付け減速、すぐには速度は落ちずズルズルを引きずられて居るとアスファルトが耐え切れずにめくれ上がった。

距離が離れたのを確認した宗介はアーバレストに跳躍させる。

同系統のM9とは比べ物にならない。

ラムダドライバで更に高く、早く。

 

(当たる、当たる――)

 

コダールの位置は57ミリ散弾砲の射程距離よりも遠い。

 

「あたれぇぇぇ!!」

 

光弾となり発射される。

弾速はASの速度よりも格段に早い。

次々に通り過ぎる建造物。

弾は一直線にコダールへと向かう。

だが光弾は照準からズレて居た。

機体の頭上、回避行動など取らなくとも弾がコダールに着弾する事はない。

 

『これだけの距離で!!』

 

「いいや、まだだ!!」

 

光弾はまるでフォークボールのように急降下した。

速度が低下して重力に引かれるのではない。

コダール目掛けて弾が動く。

敵パイロットは初めての光景に一瞬反応が遅れ、それが命取りになる。

 

『弾が曲がった!?』

 

速度は落ちない、それどころか僅かながら早くなった。

機体を左へステップさせるがもう遅い。

誘導する光弾はコダールへ直撃した。

部品が吹き飛び、胴体が分断される。

モノアイから光は消え4機目を撃破。

 

『はは……ハハハは!! アレだけの数が全滅? 冗談は止めろっての』

 

「残りはお前だけだ」

 

『ぐぐっ!? こうなったらぁぁ……逃げるっちゃ』

 

「させるか!!」

 

恥も外聞もなくアーバレストから背を向けて逃げるゲイツ。

無論宗介はそれを追い掛ける。

散弾砲の銃口を向けトリガーを引くも、通常攻撃では背中への攻撃でも弾かれてしまう。

 

「ならもう1度、アレを使う」

 

(何処だ、何処にある……アレだ!!)

 

ゲイツはただ闇雲に逃げて居た訳ではない。

あるモノを発見するとアーバレストと同じ様にラムダドライバの力を駆動力へ変換させ跳躍させる。

その先には宗介が撃破した1機目のコダールが横たわって居た。

 

「何をするつもりだ!!」

 

『コイツのエンジンはまだ生きてる!! パイロットは死んだ? 死んだか、そうかそうか。パラジウムリアクターは核だ!! ラムダドライバを使えば安全装置を排除して爆破出来る』

 

「小賢しい手を」

 

『おぉっと!! わざわざ親切に教えてあげた理由をお分かり? ここら一体を核の火に染める気か?

お優しいミスリルにはそんな事出来ない。だったら、やる事はわかってるだろ?』

 

宗介は目の前の敵を逃がすつもりなどない。

けれどもゲイツの赤いコダールは撃破されたコダールを抱き抱えるとマニピュレーターを胸部に指差す。

 

(パラジウムリアクターを核爆発、本当にそんな事が出来るのか? いいや、その事を考えるのは後だ。この状況では出来ると仮定して動くしかない。もし核爆発が起こったとしてラムダドライバで防ぎきれるか。それに、他の機体が退避する時間はもうない。どうする?)

 

悩む宗介は迂闊には動けない。

ソレに対してゲイツも内心では冷や汗を流して居た。

 

(よぅし、そのまま大人しくしてろよぉ。どうやったってパラジウムリアクターを核爆発なんて出来やしない。俺さえ逃げられればそれで良いんだからな)

 

ジリジリ距離を離すゲイツのコダール。

一定距離さえ離れてしまえば駆動系をラムダドライバで補助すれば通常よりも早く撤退出来る。

だがその事に気が付いて居る男が1人。

 

『レーダーに反応、真上だとぉ!?』

 

コダールの地表に巨大な影が覆う。

見上げる先にはビームサーベルを握ったガンダムが。

ヒイロはゲイツの脅しに躊躇する事なく、ビームサーベルを振り下ろした。

コダールは右手を掲げ、ラムダドライバの見えない防壁を生成し、強力な閃光がほとばしる。

 

『このクソッタレがぁぁ!! この状況が見えてないのか!! あぁぁん!!』

 

「そんな脅しは無意味だ。行けるな、宗介」

 

「肯定だ。こんなヤツに手間取ってる暇などない。俺には――」

 

愛銃の57ミリ散弾砲をしっかりと構える。

照準は済ませた。

狙うのは敵の土手っ腹。

 

(任務もミスリルも、ヒイロ・ユイも関係ない。俺は自分の意思で決めたんだ)

 

アーバレストのツインアイが鋭く光る。

散弾砲のトリガーが引かれ、宗介の思いが力となって発射された。

 

「俺にはまだ、期末テストが残って居る!!」

 

『テストだぁ!?』

 

光は閃光となり、可視化出来る程の太いエネルギーとなりコダールへ向かって発射された。

眩い虹の光。

それはコダールだけを的確に撃ち抜き、機体を消滅させて行く。

 

『あ~ぁ、折角もみ上げ伸ばしたのになぁ』

 

光は次第に弱まる。

その先に見えるのはガンダムの姿だけで、コダールは何処にも見えなくなって居た。

部品1つ残さず、目の前から消え去る。

それを見て宗介はレーダーに反応がない事を確かめた。

 

『コダール5機撃破。やりましたね、軍曹』

 

「そうだな。全く、動いたり動かなかったり面倒な装置だ」

 

『しかし今回の戦闘で完璧に仕上がりました』

 

「俺がダメだとでも言いたいのか?」

 

『肯定』

 

「減らず口は相変わらずだな」

 

『次もこの調子で行きましょう』

 

「そうだな。次も頼むぞ相棒」

 

『軍曹、相棒とは何でしょう?』

 

「お前の事だ。信頼して居る」

 

『信頼……理解しました。私と軍曹が入ればどの様な任務でも可能です』

 

「期待してるぞ」

 

『肯定』

 

軽口を言うAIのアルに宗介も少しずつ慣れて来た。

戦闘が終了したのを確認した宗介は今までの手順で通信回線に繋げる。

 

「ウルズ7より全ユニットへ。戦闘終了、ベノムタイプを全て撃破した。コレより次の任務へ向かう。クルツ、機体の回収を頼む」

 

『あいよ、任されて。なるべく早く行ってやれよ』

 

「肯定だ」

 

言うと宗介はアーバレストに膝を付かせ、コクピットハッチを開放する。

外から見える景色には朝日が登りつつある。

温かい日差しが冷えきった空気を温めてくれる。

 

『こちらウルズ1。ウルズ7、次の任務とはどう言う事だ? ウルズ7聞こえるか? 応答しろウルズ7!!』

 

通信機から聞こえて来るクルーゾーの声に宗介は耳を傾けない。

コクピットから這い出た宗介は地面に足を付け、彼女が待って居る所にまで走った。

 

「千鳥、今行く」

 

遠ざかって行く宗介の背中をヒイロはガンダムのカメラが映し出す映像としてコクピットの戦闘画面で覗いて居た。

言葉を掛ける訳でもなく、宗介がかなめの元へ向かうのを見届けるとメインスラスターのペダルを踏み込む。

青白い炎を両翼から噴射してガンダムはゆっくりと地上から飛び立つ。

 

「任務完了。帰投する」

 

バスターライフルをシールドへマウントさせバード形態へ変形させる。

機体の損傷状況が更に悪化し、メインスラスターの出力も大幅に落ちた。

もう今までの様には行かず、操縦技術でカバーしなくては機体が言う事を聞かない。

 

「通信……テレサ・テスタロッサか」

 

傍受した通信。

今のヒイロに通信を送れるのはドクターJだけだ。

だがドクターJはもうヒイロに何か指示を送ったりはしなくなった。

故に考えられるのはトゥアハー・デ・ダナンのテッサだけ。

話を聞く気はないと通信をカットしようとするヒイロだが、コンソールパネルに指を伸ばした所で不意に止めた。

鳴り続ける通信音。

数秒だけ思考するとそれを繋げてみた。

 

『お久しぶりです、ヒイロさん。繋げてくれないモノだと思いました』

 

「何の用だ?」

 

『先程の戦闘、どう言うつもりで介入したのですか?』

 

「お前に言うつもりはない」

 

『そうですか。てっきり味方になってくれるモノだと』

 

「勘違いするな。邪魔をするならお前達が所属するミスリルでも関係ない。障害は排除する」

 

『うふふ、何かありましたら連絡して下さい。相良さんとかなめさんに協力してくれると嬉しいです。またの機会にお会いしましょう』

 

一方的な事を告げるとまた一方的に通信は切られた。

ゆっくりと手をコンソールパネルから操縦桿へ運び握り締める。

ヒイロもまた、今の自分の居るべき場所へと戻った。

 

///

 

再び戻って来た日常。

宗介はいつもの時間に目覚め、いつもの時間に家を出て、いつもの時間に電車へ乗り、いつもの時間に学校へ付いた。

何も変わらないいつもの光景。

そして隣にはいつもの様に彼女が居てくれた。

 

「この前の期末テスト、古典が返って来るから。その時にちゃんと先生に謝りなさいよ」

 

「肯定だ。追試を受けさせて貰わなければ進級出来ない」

 

「追試受けるのもそうだけどちゃんと勉強してよね? またテスト来るんだから」

 

「古典は苦手なんだ」

 

「古典も、苦手なんでしょ」

 

「ぐっ!? 肯定だ」

 

苦虫を噛み潰した様な表情をする宗介にかなめは笑う。

 

「大丈夫大丈夫、案外何とかなるもんよ」

 

「そう言うものか」

 

2人は横並びで教室へと足を踏み入れた。

何度も通って来た道なのに、今の宗介には新鮮に見える。

扉を開けたその先には馬鹿騒ぎして居る男子と、うわさ話に花を咲かせる女子。

その中のどれにも混じらず、ヒイロはポツンと1人肘杖を付いて椅子に座って居る。

 

「おはよー、ヒイロ君。宿題もう出来た?」

 

「昨日はやる事があった。まだ終わって居ない」

 

「まぁ、明日までだしヒイロ君なら大丈夫よね?」

 

「余裕で出来る」

 

事もなく言い切るヒイロにかなめは笑みを浮かべる。

宗介は因縁浅からぬ相手と対面し鋭い目線を向けた。

ヒイロは何も言わない。

ただ同じ様に目線を返すだけ。

気まずい雰囲気が流れる中で初めに口を開けたのは宗介だ。

 

「あの時の借りは返して貰うぞ」

 

「お前が香港に行っている間に機体が更に損傷した。その分はどうする?」

 

「事情は把握して居る。お前は4機、俺は5機、足りない分、覚えて居るぞ。それと――」

 

言葉を区切ると宗介はヒイロに向かって右手を差し出した。

 

「ありがとう」

 

ヒイロはチラリと手を見るだけ。

 

「似合わない事をするな。あと2分で呼び鈴が鳴る。黙って座ってろ」

 

「ぐぅっ!! 貴様は――」

 

相見えない相手に感謝の言葉を述べたのにこの様な態度を取られて怒りを覚える宗介。

だがその瞬間に教室の扉が開かれる。

見ると古典の担当教師が呼び鈴が鳴るよりも早くにやって来た。

宗介は仕方がなく自分の席へと戻る。

 

「うるさいぞ~。ちょっと早いけど授業を始める。まずこの前のテスト返すぞ~」

 

テストの話題で教室はもちきりになる。

ざわつく生徒をもう止めようとはせず、教師は出席番号順にテストを返して行った。

 

「えんど~、おおにし――」

 

次々呼ばれてく中で反応は様々だ。

赤点を回避しただけで喜ぶモノ、その逆もしかり。

点数自慢をするモノなど。

そうした中で宗介はどの様に謝罪の言葉を伝えれば良いのかを考えて居た。

 

「千鳥、本当に何とかなるモノなのか?」

 

「そんなに心配ならアタシも行ってあげようか?」

 

「いや、自分の事だ。自分でする」

 

「そんなに怖い先生でもないしさ。大丈夫だって、追試で点数取れば古典は行ける筈よ」

 

「そうか、少し気分が楽になった気がする」

 

やがてかなめの名前が呼ばれ、彼女も席を立ちテストを返して貰いに行く。

手渡された答案用紙の右上には赤ペンで84点と書かれて居た。

 

「こんなモンかぁ」

 

クラス内では上位に位置する点数に納得しながら自分の席に戻る。

そして宗介の番が来た。

 

「さがら~」

 

「はい。先生、この度は――」

 

「お前にしては凄い点数を取ったなぁ。いつもこのくらいなら文句ないんだがな。今回はこの点数に免じて古典の単位は付けてやる」

 

言われて差し出された答案用紙には96点と書かれて居た。

宗介は古典で未だかつてこれだけの高得点を取った事はない。

それ以前にテスト当日、宗介は学校に来る事が出来ずテストを受けなかった。

 

「どう言う事だ? だがこの字は確かに俺だ。一体誰が……」

 

「最後はユイだな。クラスでトップだぞ~」

 

宗介の横を通り過ぎヒイロも答案用紙を受け取る。

点数は98点。

横目で見るヒイロと立ち尽くす宗介の視線が交わる。

 

(借りは返したぞ)

 

ヒイロは何も言わずに淡々と自分の席へ戻って行く。

 

「授業始めるぞぉ。さがら~、さっさと戻れ」

 

「は、はい。すみません」

 

小走りに宗介も自分の場所へと戻って行く。

陣代高校にまた刺激的な日常が戻って来た。




この話でTSR編は終了です。
次回からアニメ化されてない部分に突入します。
そしてネコ型ロボットのサムも活躍させて行きます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。